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3年間


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第1話 憂鬱の日曜日
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「全く最低だな・・・」
吐き捨てるようにつぶやいた。
俺はいつから、こうなってしまったのだろう?
それとも元々こういう性格だったのか?
自己嫌悪に陥りながらタバコに火をつけた。
「・・・ん」
隣では裸の女が寝ている。
(誰だ?)
一瞬の思考の後、彼女に話しかける・・・。
「おはよう、ランファン」
そして俺は深いため息をついた。


浮気をした後は、虚しさと罪悪感に悩まされる。
その度に『もう二度としない』と心に誓う。
俺はブルマを愛してるのだ…と。
だが、ブルマと喧嘩するたびに俺は家を飛び出し、
こうやってランファンとの浮気を繰り返してしまうのだった。

窓をあけて外を見る。
どんよりとした曇り空だ。
今にも雨が降り出しそうな気配である。
突風が部屋の中に入り込んできた。
都会独特の淀んだ匂いがする。
(嫌な匂いだ…)
俺は慌てて窓を閉めた。
風までもが、俺に冷たく当たってくるように感じる。

「全く最低だな…」
俺は噛み締めるように同じ言葉を繰り返した。


実のところ、次に現れるであろう強敵『人造人間』のことなど、
俺にはどうでも良かった。
ブルマと幸せに暮らせればそれだけで良いと思っていた。
(どうせ俺が修行した所で役に立つはずがない)
そんな考えが俺を支配していたからだ。
そして恐らくそれは事実だろう。
他の仲間とは、すでに雲泥の差が付いてしまっているのだから…
努力などで埋まるはずのない『差』が。

しかし、それは言えない。
今まで共に戦ってきた仲間の手前、、というのもあるが
せめて、ブルマの前では立派な戦士で居たかったのだ。
お互い尊敬しあえるような、そんな関係で居たかった。

好きな女を守れない、なんて弱い男には為りたくない。
その気持ちが俺を支えてきた。
だけど、その気持ちも限界のようだ。
むしろ、そういった自尊心が余計に俺の心を苦しめている。

いくら修行しても一向にレベルが上がらない
きっとこれが自分の限界なのだろう、と薄々気付き始めていた。
だがブルマは俺に対して強くあって欲しいと願っている。
俺が「人造人間との戦いに参加しない」などと言ったら
きっと彼女は幻滅するだろう。
これほど愛してるのに、こんなにも苦しいなんて…
今は顔をあわせるのも苦痛に思う。

ランファンは違った。
自分に対して「死んで欲しくない」と言ってくれた。
危険な戦いなどしなくて良い…と。
「ヤムチャ、、、貴方は何もしなくていいから。
 側に居るだけでいいから…」
その言葉が、俺をどれほど楽にしてくれた事か。

彼女は俺に何も求めない。

俺にとって彼女は所詮遊びだ。俺にはブルマが居る。
彼女はそのことを痛いほど良く判っている。
だから俺に何も求めない。
浮気だからこそ(俺にとっては)理想的な関係だった。
俺はこの関係に依存してしまっている。
どれだけ罪悪感を感じても、
きっと俺はまたこの家に来るのだろう。
いやな『現実』から逃げるために。

俺は心が黒ずんでいくのを感じた。
ふとカレンダーを見る。
未来から来た少年が告げた人造人間が現れる日まで、
もう後2年を切っていた。
俺は1年近くブルマを裏切り続けている。

今日は日曜日。窓の外が、にわかに活気付いてきた。

『Melancholy Sunday』



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第2話 悪夢に導かれた出会い
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『はぁ、はぁ…どうやらお前らが思っているほど
  この化け物は強くないようだな』
??『ふ、今度は甘くみたのはお前たちのようだな』
『なに!?』
??『ギィイーーー!』

「『うわぁーーー!』」

部屋中に叫び声が響き渡る。
(誰だ? 煩くて眠れない…)
そう思うと同時に俺は起き上がっていた。
「夢…・か」
声の主は、俺自身だった。
全身にびっしょりと冷や汗をかいている。


サイヤ人が地球に降り立ったあの日、俺は命を落とした。
奴らが産み出した化け物
『サイバイマン』と呼ばれる緑の生き物によって。

死ぬというのは嫌な気分だ。
その瞬間、とてつもない恐怖に襲われたのを覚えている。
あの世や界王星など、死後の世界を体験したとはいえ
死の恐怖が消えるわけではない。
よく『死ぬような思いをした』というが、
本物の『死ぬ思い』というのは全く想像以上のものだった。

それでも俺は生きている。一度死んだはずの俺が…
つくづくドラゴンボールとは不思議なものだな、と思う。

だが、そのおかげで俺は、生きながらにして死ぬ夢を見る。
いや、正確に言うと"夢"ではない。
あの時の映像、感覚を鮮明に"思い出す"のだ。
すさまじい恐怖…身体中を駆け抜ける激痛と絶望感。
冷や汗がだらだらと流れ落ちている。
「嫌な気分だ…」
そう言いながら、俺はふと思い出した。
あの子と出会った日の夜の事を…

そう、ランファンと出会ったのも"夢"を見た夜の事だった。

それは夏も終わりに近づき幾分過ごしやすくなってきた、ある日のことだった。

俺はいつものようにブルマを抱き、
そして、いつものように眠りについた。
何も変わらない夜だった。

その夜、俺は夢を見た。いつもの夢だ。
化け物が俺に貼り付いてくる。
振りほどく間もなく、激しい爆発が俺を襲う…
「『うわぁーー!!!』」
夢と現実…両方で叫びながら俺は飛び起きた。
「はぁ、はぁ・・」
動悸が激しい。最悪の気分だ。

思えば、以前は眠りにつく時もブルマと一緒だった。
だが、この夢のせいでブルマは度々起こされる事に苛立ち、
いつしか2人別の部屋で寝るようになっていた。
フリーザ親子が地球に降り立った日以来、
"夢"を見る回数も増えていた。
あの凶悪な気を感じたおかげで、せっかく忘れかけていた
俺の中の"恐怖"が呼び起こされたのだろう…

ちっ、と舌打ちをしながら部屋を出た。

シャワーで汗を洗い落とし、夜風を浴びに外へ出た。
月がきれいな夜だった。
ひとしきり散歩をしてから部屋に戻ろう…
そう思っていたのだが、ふと街へ出る事にした。
何気ない思いつきだった。

西の都はかなりの都会なのだが、
最近は街へ出る事もめっきり減っていた。
久しぶりに見る夜の街は華やかだった。
ネオンが眩しい。
「そこのお兄さん♪お安くしとくよー」
「さ、さ、こちらへどうぞ♪ 世界の珍味が盛り抱くさんですぞ!」
「へっへっへっ、兄ちゃん、寄っていきなよ!美男美女選び放題だぜ?」
誘惑と欲望が絡み合う夜の街。
俺は目的もなく、ただひたすら歩いていた。


「きゃーー!」
声が聞こえたのは裏路地のほうからだった。
気が付けば繁華街からは少し離れた所まで来てしまったようだ。
この辺りは明かりも少なく治安も悪い。
見ると女が男2人に迫られている。

「なんだぁ?テメェは!!」
「殺されてぇのか!?」
見るからに悪いヤツ、、といった風貌だ。
手にはナイフを持っている。
とは言え、俺からすればそんなものオモチャにも見えない。
俺は男達を殺さないように気をつけながら気絶させた。

「大丈夫か?」
女は答えない。ま、いいか、、と思い
「さて、警察にでも連れていくか〜」
独り言とも、話しかけてるとも取れるような言い回しだ。
すると、意外な返答が帰ってきた。
「…。警察は止めて下さい!私が、、私が悪いんです」

「え?私が悪いって、、、ん?」
「って、あれ?? お前どっかで見た事あるなぁ?」
そう、俺はその女を知っている。
あれは…天下一武道会の時。
たしか、武術の達人ナムを場外寸前まで追い詰めた女戦士…。
「ランファン!?」
必死に記憶を辿りながら俺はそいつの名を思い出した。
「え・・?アンタ誰?」
残念ながら、向こうは俺のことを覚えていなかったようだが…

『Encounter which occurred by the "Nightmare"』


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第3話 思い出は闇の中に…
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「俺だよ、俺、、、天下一武道会でジャッキー・チェンと戦った」
「え、、いやゴメン。判らないわ…」
「予選勝ち抜いたじゃんー!ほら第21回大会でさー・・」
「…もういいから。」
「あ、いやだから〜俺22回でも予選勝ち抜いてるんだぜ?」
「…」

俺たちは街外れのバーで話し込んだ。
過去、天下一武道会で共に優勝を目指した者同士、
打ち解けるのは早かった。(たぶん…)

俺とランファンが共に出場した天下一武道会の話、
そして俺の事、ランファンの事…

話題が尽きるは事なく、俺たちは語り続けた。
だが過去の話となると、彼女は途端に無口になった。

どうせ、男にフられた過去とかで話したくないのだろう・・・なんて
軽い気持ちで、俺は彼女を追求してみた。

…そして、哀しい現実を聞くハメとなった。

何でも聞きたがるもんじゃないな…
そう思った時にはすでに遅かった。
まったく、、俺のこの軽率さは反省すべきだな・・・

彼女は、幼くして両親を亡くしたそうだ。
交通事故だったという。

そして病弱な弟と共に親戚の家に引き取られていった。
そんな姉弟に対しておばは冷たかった。
満足に学校にも行けず、友達とも遊べず、
ひたすら家事手伝いをする毎日。

そんな中、弟の病状が悪化し、ついには入院を余儀なくされた。
それがきっかけとなって、おばは、
彼女を養護施設に入れる事に決めたのだという。

(俺たちは、似たもの同士かもな…)
俺はふと思った。

俺も物心ついた頃から両親を知らない。
生きるために盗賊となった。
独りで生きるのは辛い。(幸い俺にはプーアルが居たが)
俺はそんな彼女に、自分の過去を重ねて見ていた。

施設では、親の愛こそ無いものの、
それ以外の面では、それなりに満足のいく生活が出来た。
彼女にとって、おそらく最も平穏な時期だったかもしれない…

そして18になった彼女は、施設を出て一人暮らしを始めた。
そこに突然の報せが飛び込んできた。
なんと弟の入院費が、3年以上も支払われていなかったのだ。

「哀しいわね・・・あんなおばでも、ちょっとは信じていたのに」
彼女は自嘲気味に笑って言った。


それから彼女は、必死に働いた。
自分の生活もそこそこに、何とか入院費だけは工面し続けた。

そんな中、街で、ある『噂』を耳にする事になる。
思えば、これが悲劇の始まりだったかもしれない…

『優勝者には、50万ゼニーもの大金が贈られるんだってよ!』

言わずとしれた、天下一武道会のことである。

不幸にも、彼女には格闘技の才能があった。
施設で行われていた空手の大会で、
彼女は3年連続優勝を飾っていたのだ。

そして彼女は決意する。
1年後に行われるという天下一武道会に出場することを。
優勝に、賞金の50万ゼニーに、一縷の望みを賭けたのだった。

「ふふ、私ったら、ホントばかよね。施設で一番強かったくらいで、
 天下一武道会に優勝できるなんて本気で思っていたんだから…」
そう言って、再び笑う彼女。
あるいは、過去のそんな話をするときは、
笑い話にでもしないとやってられないのだろう。

50万ゼニーあれば、この生活の全てを変えられる…
そう信じて、彼女は武道会場へと勇み足で乗り込んだ。

予選は順調だった。
自分の空手や柔道といった"技"が十分に通用する。
彼女はますます期待感を膨らませていた。

そして迎えた武道会第一試合。
序盤は優勢に進める彼女だったが、
レベルの違いには、スグに気付いていた。

相手はナムという武術の達人…
どうあがいても勝てる相手ではない。
だが、自分は負けるわけには行かない。

弟のためにも、自分のためにも、、、優勝しなければならないのだから。

ぶりっ子で、相手の気を逸らして反撃。
泣き叫び、ひるんだ隙に攻撃。

観客から聞こえるブーイング。卑怯だと罵られてもいい。
どんな手段を使ってでも勝たなければ…
そんな想いが彼女を支えていた。

しかし、それでもナムは倒せない。

そして……彼女はとっておきの必殺技を出す・・・
禁断の、"あの技"を……

彼女はおもむろに服を脱ぎ始めた…
そう、施設の男たちを虜にした、『色気作戦』に打ってでたのだ。

観客がザワめき始める。彼女を見る目が、好奇の目へと変わる。
激しい羞恥心が彼女を襲う…

(恥ずかしい……逃げ出したい・・・でも!)

彼女は泣きたい気持ちを堪えて、ついには下着だけの姿となった。

「ぱっふん♪いかが?純情男さん」

そしてナムを追い詰める。

「うりうりうり」

途中、同じ出場者のジャッキーという老人が、
上から下まで嘗め回すようにじっとりと見つめているのに気付いた。
彼女はそれに耐え続けた。

(もう少しの我慢だわ…)

場外はもうすぐそこ……勝てる!!そう思った時だった。
攻撃に移った次の瞬間、彼女の目に映ったのは『地面』だった。

ナムの容赦ない一撃。

動けなくなった自分の身体をもてあそぶ老人の手の感触を感じながら、
彼女は意識を失ってしまったのだった。

結局、彼女は一銭も手にする事は出来なかった。
50万ゼニーも夢へと消える。
それだけではない、出場するためにかかった移動費や、
修行のための費用を思えば、借金が遥かに増えただけだった。

さらに不幸は続く…
彼女が家に着いたとき、
待っていたのは病院で寝ているはずの弟だった。

入院費が未払いとの理由で強制退院させられていたのだ。

『Recollections are in darkness』


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第4話 心に闇がある限り…
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「病院の先生と話した時は、1年は大目に見てくれるって言ってたのに…」
そう、彼女は武道会のために、1年間修行に励んでいた。
その間、生活費くらいはどうにかなっても、
病院の入院費までは稼げなかったのだ。
だから、事前に病院側と話をつけていた……はずだった。
またしても彼女は裏切られたのだ・・・。

それから、彼女は夜の街で働くようになった。
全ては弟のために…お金のために…身と心を犠牲にしながら働いた。
幸いにも、持ち前の美貌と色気で職に困る事はなかった。
弟がようやく入院できた時には、大分容態が悪化していた。

さらに治療費は、どんどんと膨らんでいく…
自分の稼ぎだけでは足りなくなった彼女は、
時折借金をしながら、それでも何とか弟に治療を続けた。

だが……その甲斐むなしく、弟は他界してしまった。

彼女に残されたのは、多額の借金と夜の仕事……そして壊れた心だけだった。
先の男達は借金取りに雇われた取立て屋だったという。


「私の身体は汚れてるの… もうすぐ心まで真っ黒になるわ」
「「いっそ何も感じないで生きれたら、どれほど楽なんだろう…」
「………」

彼女の発言に、俺は何も言えなかった。
ある種、同意する部分も多分にあった。
気軽に『頑張れよ!』とか『どうにかなるさ!』
などと言えるような状況ではないのは容易に想像できる。

俺も同じ感情を持っているからだろう…


今、悟空に『がんばれよ!』などと言われるのは何より辛い。
見下されてるようで、馬鹿にされてるようで・・・

「弟を死なせたのは私の責任だわ…私がもう少ししっかりしていれば!」
悲痛な叫び……頑張ってもどうしようも無い現実もある。

だが、彼女はそれでも弟の死を"自分の罪"として背負っている。
俺は自分の事のように胸が苦しくなった。

形は違えど、俺達は両親を知らず独りで生きてきた。
もがいても、あがいても、この哀しい現実から抜け出せずに居る。
そして段々と投げやりになってしまう。

(コイツも自分心の闇に負け、希望を捨てた人種なんだ)
俺と同じ天涯孤独の身…
俺はランファンを身近に感じ始めていた。
それはランファンも同様であった。

立場や境遇…雲泥の差がある2人だったが、
心の中に抱える暗闇は同じモノだった。

ランファンはいつの間にか泣いていた。
酔うと泣き上戸にでもなるのか、
それとも自分の心情を吐露して感極まったからなのか…

涙の原因など、俺にどうでも良かった。

『彼女が泣いている』

今の俺の"この行為"を正当化する理由は、それだけで十分だった。

俺は彼女を抱きしめた。

彼女は拒むことは無かった。


そして、その夜 俺達は求め合った。
まるで互いの孤独を埋め合うように……

何度も、何度も、愛しあった。

それから俺とランファンの関係が始まった。

あの少年に『死の宣告』とも呼べる『絶望の未来』を聞いてから、
1ヵ月後の出来事だった。

そんなランファンとの日々は2ヶ月ほど続いた。
俺は彼女との関係は、終わりにしようと思っていた。
彼女は思った以上に俺に依存してきている。
だが、俺にはブルマが居る…

俺にとっては、思わず始めてしまった火遊びのようなものだったから、
これ以上続けるのは、お互いにとって良くないだろう。
俺は意を決して、すべてを告白した。

俺にはブルマが居ること。
俺にとって、ランファンとは”遊び”だということ…
そして、いつか現れる『人造人間』に対抗するため
修行をしなければ為らない事。

それだけ告げると俺は部屋を出ていこうとした。
だが、彼女の反応は予想外のものだった。

「薄々気付いてたわ…でもいいの。
時々でいいから、、、また、会いに来て…」

俺にはそれを拒否する事は出来なかった。
欲望に負けた、、と言えるかもしれない。

『お互い合意の上での浮気』

これほど、楽な関係はない。
単に俺はその環境に甘えただけだ。

(やっぱり俺は最低だな)
自分が堕ちていくのが判った。
『これは、ランファンが望んだ事だ…』という言い訳を胸に、
俺は自分の中の暗闇を見ないようにした。

あれから1年近くが経った…

俺は思い出しながら苦笑する。
そして、あの日と同じようにシャワーを浴びて、
夜風を感じながら、彼女の家へと向かうのだった。

『By Darkness in the Mind』



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第5話 気付きたくない想い
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今、俺は大金持ちのブルマの家で安穏と暮らしてる。
昔に比べればどれだけ恵まれた環境だろう?

だが、それに反して俺の心は虚しくなる一方だった。
プーアルとの砂漠の生活、悟空たちとの冒険、、、
あの日々が懐かしく思える。

俺は今日カメハウスを訪ねた。

あの少年が来てから約1年。
悟空親子のことも気になるのだが、
それ以上に関心があるのはクリリンのことだ。
あいつは俺たちを生き返らせるためにナメック星に飛んでくれた。
そして自らの命を賭してフリーザ達と戦い、一度は命を落としたクリリン。
そこまでしてくれたクリリンに、俺はまだ礼を言っていなかった。

表の感情では、そのことが気がかりだった。
だから俺はカメハウスへと向かった…つもりだった。
だが、俺はすぐに思い知らされる事となる。
俺は、俺が思っている以上に最低な人間である事に…

「よぉ!元気か?」
「こんにちは。ヤムチャさん!元気そうで〜!!」
「あらあら、お久しぶりですー♪」
「ふぉっふぉっふぉっ」
「きゃっ!!」
「ははは、皆、元気そうだな!」
「武天老師さまも相変わらずで…」

俺が着くなり亀仙人とクリリンとランチさんが温かく向かえてくれた。
悟空やピッコロはどこに居るか判らないという。
もっとも判ったとしても共に修行できるようなレベルでは無いだろう。
クリリンは一人ココに残って修行しているそうだ。

――そして俺は

クリリンを見るなり、自分の本当の気持ちに気付かされた。
クリリンの屈託の無い笑顔…
俺が生き返ったことを心から喜んでくれている・・・
俺は胸が苦しくなった。

ナメック星でクリリンが活躍してる時、
俺は嬉しい反面 激しい嫉妬に襲われていた。
そして彼が死んだ時……

   ――俺は内心 ホっとしてしまったのだ――

『凡人は天才に敵わない』『努力などムダなんだ』
そう思い始めていた俺には、クリリンの活躍が許せなかった。
『頑張ればどうにかなるんだ!』という
強烈な意思を見せ付けられるようで、心が痛かった。

だから、彼が死んだ時、、、
俺は悲しみと同時に、安堵の念が入り混じったのだった。

(全くもって俺という人間は……)

俺は仲間の死を、自分の『マイナス思考の肯定』のために利用したのだ。

そんな後ろめたさが、ココに来る事を拒んでいた理由だったのだ。
俺は独りで納得しながら、夕飯の支度を手伝い始めた。
その日の夜、俺は皆と一緒にランチさんの手料理を食べた。

「これ、おいしいなー!!さすがランチさん」
「まぁーヤムチャさんったら、お上手なんですから♪」
「ふぉっふぉっふぉっ、せっかくヤムチャが来たのなら
 悟空たちもおったら良かったのにのぉ〜」
亀仙人は、悟空たちの不在が残念だったようだ。
だが、それ以上に俺が尋ねてきたことが嬉しそうである。
彼にしてみれば、自分が鍛えた自慢の弟子が顔を見せることは
嬉しいことなのだろう。

仲間に囲まれながら食べる夕食は、少しだけ苦い味がした。
皆に歓迎されれば、されるほど、今の自分がひどく醜く見える。
俺は、歓迎されるに値しない人間だ。
皆、それぞれ必死に生きている。

それにひきかえ、俺は――

いや、もう考えるのは止めよう……
俺は無理やり自分の思考を止めた。、

その日、俺はカメハウスに泊まった。
俺はウワベだけの言葉を並べては、悟空やクリリンを称えた。
そんな事を言いにきたわけでは無いのだが、
ほかに話す言葉が見つからなかったのだ。

クリリンは純粋に、そんな言葉にも喜んでくれていた。
彼は相変わらず、強く、たくましく、、そして優しかった。
俺はそんな彼が大好きで、そして大嫌いだった。
心のどこかでドス黒い感情が蠢いていた。

「ヤムチャよ……何か悩んでる事があるなら相談にのるぞ」
突然の亀仙人の一言が、俺の心の弱い部分を貫く。
彼は薄々気付いていたのだろう。
さすがは仙人と呼ばれるだけのことはある。

「主は一人ではない……これだけ心強い仲間がおるでな」
「わしとて、力は及ばずとも役に立てることもあろうて」
「……」
「言いたくないか…それも良かろう。
 じゃが、本当に困った時には言うんじゃぞ」

「お言葉感謝します。でも俺は大丈夫ですから」
「そろそろ寝ます……でわ―」

「うむ…」

全てを壊したくなるような衝動に駆られる。
この世のもの全てに対して言いようの無い怒りを感じている。
人の優しさが素直に受けられない、、、
(お前らに何がわかる―!)
そんな優しさにすら苛立ちを覚える。

身勝手で理不尽な怒りだ。

どうやら俺の心の中には、悪魔が棲んでるようだ。
一匹の醜い獣がいる…

風は相変わらず俺の周りにだけ強く吹いているようだった。

『Darkness in my Mind not to notice』



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第6話 "嘘"という名の日常
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「ヤムチャー! べジーター! ご飯よぉー!!!
あ、プーアルも呼んできてね〜!!」
カプセルコーポレーショにブルマの叫び声が響く。
(館内マイクが至る所にあるというのに、わざわざ声で呼ぶなんて・・)
ブルマは超がつくほどの天才なのだが、どこか間が抜けてる所がある。
俺はそんな彼女が大好きだった。

ところで、俺がナメック星のDBで生き返ってからは、
敵であったべジータも一緒に暮らしていた。
ブルマは「彼は行くところが無いし、家は広いから大丈夫よ!」と言っていたが、
実際には中々に気まずいものだった。

俺はふてくされながらも、自分も居候の身なので強く言えずにいた。
まぁ言ったところで相手はあのべジータだ。
下手すれば殺されかねない。

家族団らん(?)の昼ご飯。
ブルマとその両親、さらに俺とプーアル、さらにはべジータ。
何度見ても、奇妙な組み合わせだ、と思う。
「ヤムチャさま、しっかり食べないとダメですよ!」
プーアルに言われ気付いた。
最近どうにも食欲がない。だが何も食べないわけにも行かない。
俺は目の前の物を無理やり胃の中に流し込んだ。

べジータは食事を取るなり、無言で部屋を出て行こうとしていた。
「今日も重力室行くのー?」ブルマが問う。
「当たり前だ、人造人間などという
 人形野郎に殺されるなどゴメンだからな!」
べジータはそう言うと俺を一瞥して去っていった。

べジータは200倍の重力でも平気になっている。
ブリーフ博士に300倍まで発生できる重力装置を開発してもらったらしいが
この調子じゃ近い将来改良が必要になるかもしれない。
ベジータという男はまったく凄い男だ。彼は妥協という言葉を知らない。
(軽蔑されてるな、俺は)
ベジータの視線の意味を理解した俺は、昔のことを思い出した。

そもそもこの男とは、最初の出会いからして最悪だった。
何せ自分は、彼ら『サイヤ人』と戦う前に、あの緑の化け物…サイバイマン…に殺されたのだから。
もはやベジータには、その時俺が居たなんて記憶に無いかもしれない。
(自分は見下されて当然の存在だ・・)
そう思いつつも以前ほど悔しいとは思わなくなっている自分に気付いた。
こういった扱いにはすっかり慣れてしまっている。

どうやら俺にはもう奮い立つだけの心は残っていないようだ。

「修行に行ってくる!」
俺はこの場に居るのに耐え切れなくなり席を立った。
「あ、ヤムチャ出かけるのー?ちょっと待ってね〜。
 お弁当包むからさ!」
何気ないブルマの気遣い。それが痛いほど心に刺さる。
彼女はまだ気付いていないのだろう…
「おーサンキュー!人造人間戦では、少しくらい役に立たなきゃな!」

(もっともらしいことを言いやがって)

自分で言っておきながら吐き気がする。
ブルマは、しばらくして弁当を持ってきてくれた。
俺はそれを持って外へ出る。

こんな生活が、俺の毎日だ。

だが、実際には修行など全くしていなかった。
ブルマの前でこそ『人造人間戦に向けて頑張っている!』
という演技を続けていたが、頑張る気力など とっくに尽きていた。

公園で適度に時間を潰し、夕方すぎに帰路に着く。
そんな生活が、もうここ数ヶ月続いている。
「まるで、リストラされたサラリーマンだな…」

まったく欺瞞に満ちた生活だ…


プーアルは、そんな俺を心配しては、
「あそこの土地が修行に良い」だとか、
「あの食べものは身体に良い」とか
「あそこはおすすめのジムだ」とか、
色々な話を持ちかけてくる。
だが、俺にとっては全てが『アリガタメイワク』だった。

「もう、いいんだよ。」
俺は投げやりに答える。
横ではプーアルがまだ騒いでる。
「人造人間とやらが、どんなに危険でも結局戦うのは悟空やベジータさ」
「あいつらが勝てば平和、、もし負けたら…そんな奴らには誰も勝てやしない」
「俺が修行したって、ムダなんだよ」
プーアルは押し黙っていた。軽く肩が震えてる。

俺の心は、ますます廃れていく一方だ。
今の俺に一番似合う言葉は何だ?ふと考える。

『自暴自棄』

うってつけの言葉が見つかった。
ハハハッと俺は自嘲気味に笑う。
時間だけは確実に過ぎていく。
俺は一体何をしてるんだろう?
何がしたいのだろうか?
もう全てがどうでもよくなっていた。

きっと明日も、偽りに満ち溢れた日常が繰り返されるだけだろう…
俺は荷物をまとめ、家路についた。

『Every day named the "lie"』 6th fin.



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第7話 何も聞かない女
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「ブルマ、飯はまだか?」
「はいはい!判ったわよ!」
(この人は遠慮ってものを知らないのかしら?)
そう思いながら、私はいそいそとご飯の支度を始める。

ベジータとヤムチャとの奇妙な同居生活が始まって、
もう大分長い時間が過ぎている。

とは言っても、ベジータも、ヤムチャも昼間は殆ど居ない。
(まったくしょうが無いわねぇ…)
「今、準備してるから、おとなしく待ってなさい!」
悪態をつきながらも、嫌な気分では無かった。

私はベジータという男が嫌いではない。

思ったことはスグに口にする…
だけど、何に対しても嘘は言わない。
もちろん、そのことが災いすることもあったけれど………

それでも、何でも誤魔化す事が多い自分の彼氏…ヤムチャ…と比べると、
何倍も男らしく思える。

「あ、ねぇーヤムチャ知らない?」
「あんなヤツ知らん!それよりも、早く飯をつくれ!」
「はいはい。判ったから、大人しくしてなさいってば!」

最近ヤムチャの帰りが遅い…
たまに帰らない日もある。

修行とは言ってるけれど、彼が何もしていない事くらい素人の私でも判る。
彼は気付かれてないとでも思ってるのかしら。
「はぁ〜」
彼のことを考えると、ため息ばかり出てしまう。

「ただいま〜」
私とベジータが食事を終えた頃、ヤムチャが帰ってきた。

「どこ行ってたのよー!こんな時間まで〜」
私は怒って言う。
だけど、本当は怒る気力もなくなりつつある…

「わりぃー!つい、修行に熱が入っちゃってさー」
「そっかー。お疲れ様♪」
(どうせ誰か違う女と会ってたんでしょ?)
「おぅ、そうだ。風呂は沸いてるか?」
「ん、いつでも入れるけど、、ご飯は?」
(…きっと食べて来てるんでしょうけど、一応聞くわ…)
「ん、食べてきたからいいや。風呂入るぜー」
「はーい♪」
(ふふ…やっぱり、、、ね)

ふと通りがかった人が聞けば、愛し合う恋人同士の他愛の無い会話だろう。
私は見事なまでに可愛らしい彼女を演じきっている。

(不幸な人……)

ふとそう思った。
一体どちらが不幸なんだろう?
浮気されてる私?
それともそれに気付いてないフリをされてるヤムチャの方かしら?

「おい、ヤムチャ!」
突然、ベジータがヤムチャに話しかけた。
「何だー?ベジータ」
「最近、修行がはかどってないんじゃないか?
 身体がなまってるぞ!」
「いやぁ ハハハ」
「最近どうにも自分の限界が見えてきてさー。
 何とか抜け出そうとはしてるんだけど、、、」
ヤムチャは何やら言い訳をしてる。

(この男はいつもそうだわ…)
浮気した時でも、いつでもそう。
何でも誤魔化して、言い訳して、逃げて、、、そうやって生きてきた男。

「ふん、お前が勝手に死ぬのは構わんが、
 戦場で邪魔になるようでは困るんでな。
 何なら俺が、一から鍛え直してやろうか?」
ベジータの申し出。


この提案を仕向けたのは私。
ヤムチャのサボリなど、私でも気付く位のものだ。
当然ベジータが気付かないはずがなかった…
だから、この提案も不自然ではない・・・

私はヤムチャがどう答えるか見てみたかったのだ…

地球を守る戦士として、自分を強くしたいのなら、
地球でも最強クラスのベジータとともに修行する以上の得策はない。
だが、ベジータは手加減などしそうにないから、
かなり危険な修行になる事は間違いないのだが。

その恐怖を超えて、彼が一回りも、二回りも成長してくれれば……
私はまだ淡い期待を持っていた。
自分の彼を確かめるような目でその場を見つめる。

そして帰ってきた答えは―


「いやいや、まだまだお前のレベルからしたら足元にも及ばないしさ〜
 大体、お前の修行の邪魔になっちまうじゃん?」
「もうちょっと俺独りで頑張ってみるよ。」

ていのいい言い訳……まったくこの男は――。

「ふん!」

ベジータはその答えを予期していたかのように、
即座に踵を返して部屋を出ていってしまった。

「そのうち、お前も悟空も追い抜いてみせるぜ!!」
ヤムチャは必死に演技を続けているようだ。

(哀れな男…全部見透かされてるとも知らずに……)

私は幻滅した……いや、幻滅というほどでもない。

最初から、この男の返事など判りきっていたのだ。
それが判らないほど、短い付き合いではない。
それでも………僅かばかりの期待を持っていた。
だが、その想いも無残に散る。

(この人は、心底ヘタレなんだわ…)

私はそのことを強烈に"再確認"した。

彼はこのところ浮気を繰り返している。

 ……でも、私は何も聞かないの。

彼が、いつか自分から謝りに来るのを待ってるわ。

  そしたら……………

最高の笑顔で抱きしめたあと、最高のセリフを貴方にあげるわ。

 『さようなら、愛しのヤムチャ。貴方とは、もうオシマイよ・・・』ってね。

『The woman who hears nothing』



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第8話 同じ道を歩みし者
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「ふん、お前が勝手に死ぬのは構わんが、
 戦場で邪魔になるようでは困るんでな。
 何なら俺が、一から鍛え直してやろうか?」

突然のベジータの申し出に、俺は正直驚いた。
同じ家に暮らしている以上、ともに『戦士』である以上、
この提案は普通のことだろう。
相手が、あの"ベジータ"でさえ無ければ……

コイツは宇宙一プライドの高い男だ。
そんな男が、自分の足元にも及ばないレベルの俺を
修行に誘うなどありえない。

俺はスグに気が付いた。
(ブルマの差し金だな…)
当たり障りの無い返事を考える。
我ながら、最高の言い訳が見つかった。

「いやいや、まだまだお前のレベルからしたら足元にも及ばないしさ!
 正直言って、お前に付いていけそうにないぜ…。
 お前の修行の邪魔になっちまうのも悪いしな。」
「もうちょっと俺独りで頑張ってみるよ!!」
「ふん!」
ベジータはその答えを予期していたかのように、
即座に踵を返して部屋を出ていってしまった。

実際に彼我の差は、月とすっぽん……
などと比喩できるほど小さくはない。
この答えならば、ブルマも納得するだろう…
「そのうち、お前も悟空も追い抜いてみせるぜ!!」
俺は間髪入れずに重ねて言った。

そして俺はその場の空気を確かめながら、機を見て部屋を出て行く。
言った手前、今日は修行に出掛けよう。
(もちろん"出かける"だけで、修行などするつもりはないが…)

こうやって、前後に事実を重ねていく事で、『嘘』は真実になる。
(我ながら完璧だ……)
俺は、独りで自画自賛しながら胴着へと着替え始めた。

「修行に行ってくるぜ〜!」
「はーい。気をつけてね♪」
「おう!」

修行する気など毛頭ないのだが、ベジータに見栄を切った以上
出かけないわけにはいかない。
(さてどうしようか・・・)
あてもなく歩きながら、俺はふと思い立った。
(そうだ! "アイツ"に会いに行ってみよう……)

と言っても、ランファンの事ではない。
そいつは、自分と同じくかつて悟空と戦い、ともに悟空を追い・・
そして恐らくは、追うことを止めたはずの男。
彼ならば、きっと俺の気持ちを理解してくれるだろう…

そして願わくば…

 ―彼も暗闇の中で、全てを投げ出してくれていれば、
  いくらか俺の心も晴れるだろう………

「よお!元気か?」
彼はスグに見つかった。
これだけの巨大な"気"だ。地球上どこに居てもすぐに判る。
地球の東の端――大きな岩山と草原が広がる大地に彼は居た。
俺は、無粋に声をかけた。

だが返事はない。
「返事くらいしろよー。昔の仲間が尋ねてきたんだぜ?
 で、調子はどうだ?」
だが、やはり彼は答えない。
ただ、がむしゃらに修行を続けている。

イメージトレーニングだろうか?
想像上の敵の攻撃を避けながら、打撃を加える。
その一連の動きは、傍で見ている俺にも
『仮想の敵』の動きが想像できるほど、洗練されている。

横では白肌のチビが、何を考えてるか判らない目で
彼の動きを追っていた。
俺はだんだんムカついてきた。
人がせっかく尋ねてきてやってるのに、この対応は何だ?

「修行の調子はどうですか?って聞いてんだよー。
ちょっとは悟空の影でも見えたのかな〜?あははは。
得意の三つ目は元気ですかぁ??」

俺は、おちょくるように話しかけた。
まるで酔っ払いが絡んでるみたいに……

  ――突如、俺の身体を激痛が走った。

彼は、いつの間にか俺の眼前に居た。
「消えろ。ゴミめ!!そのザマは何だ!?
貴様など、もう仲間ではない!!」
無様に地面に倒れこんだ俺に暴言を投げかける。
彼の顔は怒りに満ちている。

(何を怒ってやがるんだ……)
俺は痛む左頬を抑えながら叫んだ。
「何だと?じゃぁお前は何だ?何故修行する??
どんなに努力したって、どうせアイツ等には敵わねぇ…
足手まといになるだけなんだよ!!
お前だって判ってるだろ!?」

一方的に叫び続ける。ハタから見れば酷く滑稽な姿だろう。
暴言を吐かれてイラついた……というのもあるが、
コイツに言われたからこそ、ここまで感情的になったのだろう。
俺と同じく、不遇の道を歩んできたはずの男……
天津飯にまでののしられ、俺の心は揺れていた。

「お前は、何のために修行をしているんだ!?」
これほど感情的になったのはいつ以来だろうか。
などと考えてる時点で、俺は冷静なんだろう、、等と思う自分が居る。

結局―― 俺が聞きたかった答えは聞けなかった。
彼は無言で去っていった。
俺と同じ"道"を歩いていると思っていた男は、
気付けば遥か彼方にいってしまっている……。

「けっ……」
俺は悪態を付くと、ゴロンと仰向けに寝転がる。
空は嫌味なくらいキレイだった。
雲ひとつ無い青空だ。
太陽がまぶしい。

『Those who walked along the same way』



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第9話 強さの理由
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後には、俺と白色のチビが残された。
「なぁ、白っ、、じゃなかった。なぁチャオズ・・・
 お前は何で修行してるんだ?」

俺は先ほどの疑問を、今度は白チビに投げかけてみた。
こいつも実力的には置いてけぼりをくらってる側だ。
先ほどの様子を見ていると、きっと天津飯にも見放されているのだろう。
「お前、どうせ天津飯のやろうにも見捨てられてんだろ?
 惨めだよなぁ、お前も・・・」
俺は同情を求めるように問いかけた。


「お前・・・ボクより力は強い。でもボクには勝てない」
「な・・にぃ?」
突然口を利いたかと思えば、まったく理解不能な発言。
コイツは何を考えているんだ?
まったくもって意味が判らない。

「俺がお前より強いなら、俺がお前に負けるわけないだろう!?」
俺は当然のことを言っているはずだ。

「お前・・・ボクに勝てない。当然、天さんにも勝てない」
「ボクは、次の戦いに行かない。
 天さんが『来たら邪魔になるだけ』って言ったから…」
「でも、ボクは修行する。ちょっとでも皆に………天さんに追いつきたいから。」
「お前に、その気持ちない。だから、お前、ボクに勝てない。」

俺は心中穏やかでは居られなくなってきている。
コイツの言っている意味が判らない。
いや、、一つだけわかる事がある。
(コイツは、俺に喧嘩を売ってる・・・)
まったく、人をイラつかせるのが上手いヤツらだ。

「ほう、、、よくも言ってくれたな。なら、試してやろうか!!」

そう言うなり、俺は白チビに殴りかかった。
彼からすれば、恐らく見えないほどの超スピードなのだろう。
俺にはコイツの動きが圧倒的に遅くみえた。
(決まったな……口ほどにもない)
俺は余裕を持って攻撃を繰り出した。

だが―――。

俺の一撃は、この白チビを叩き潰すのに、
十分な速度と威力があったはずだった。
しかし、その攻撃は虚しく空を切った。
「避けられた・・だと?ばかな……」
「くらえ。狼牙風風拳!!」

俺の必殺技………
通常時よりも倍以上の速度で繰り出す超高速の連続攻撃。
(まともに喰らえば命に関わるかもしれないな……)
などと思いつつも、俺は手加減するつもりなど全く無い
本気の攻撃を重ねていく。

だが、その全てが当たらない。

(なぜだ!?)
そして、突然の反撃。足元に強烈な痛みが走る。

「くっ……!」
「お前は、ボクに勝てない」
チャオズがその言葉を繰り返す。
俺はますます激高していく。
「生意気・・言いやがって!!」
俺は再度、飛び掛った。

一瞬で白チビの懐までもぐりこむ。
(よし、ヤツは反応できていない!)
確認しながら、足払いを放つ。
しかし、彼はその瞬間、空へ飛んで避けた。
動きは遅い。
だが、こちらの攻撃が全て予想してるかのように避けられてしまう。

俺は、チャオズの動きを確認すると、
続けざまに気功波を上空に向かって放った。
(今度こそ、避けきれまい!!)

だが、ヤツはすでに"どどん波"を放っていた・・・
俺の放ったエネルギー波と空中で激突すると、
2つの光弾は、軌道を変えて後方の山へと命中した。
激しい爆発音が響く。

「ば、、ばかな……」
動きはヤツのほうが圧倒的に遅い。
今のエネルギー波にしてもそう……
俺の全力ではない"ただのエネルギー波"は、
彼の必殺技の一つである"どどん波"をもってしても
軌道を変えるのが精一杯なようだった。

それほど、力の差がある。
実力は確実に俺のほうが上だ。

だが、どう考えても俺より弱いはずのやつに手も足もでない。
俺は頭が混乱しはじめた。

「が・・・はっ!」
その隙を突いて、チャオズの一撃が俺の腹部に決まる。
俺は思わず膝を付いた。

「お前・・・ボクに勝てない。これで判っただろ?」
「背負ってるもの――、"想い"が違う。
 単純な力ではお前の方が上。
 でもボクの攻撃の方が威力がある」
「心の邪念を取り払えたら、、、また来ればいい。
 きっと天さんも許してくれる。まだ見捨ててはいない」

そう言い放つと白チビは空へと消えていった。
彼が去った後、俺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
あんなチビにまで、見透かされ、馬鹿にされ……
当然だろう、、、俺は堕落しきっているのだから。

落ちぶれていく俺を見て、
ヤツらは今頃高笑いでもしてるだろうか?
(まったく無様だな…)
何か大事な物を無くしたような気分だ……。
だが、痛みが引くと同時に心の痛みも消えていく。
どうやら本格的に俺は腐っているらしい。

薄々気付いていた……。
彼らが『強い』のは、それぞれ負けられない
『何か』を背負っているからなのだろう…

"仲間"だったり、"恋人"だったり、"最強への想い"だったり・・・。

俺には何がある?
仲間のためなら、我が身を省みず頑張れるだろうか?
ブルマのためなら、命を賭して戦えるだろうか?
それとも、いざその場に居たら……俺は逃げ出してしまうのだろうか?

「ははっ。仲間なんて…」
「俺には最初から仲間なんていねぇよ!ばぁか!!」

空に向かって吼える。負け犬の遠吠えなのは自分でも判っていた。

(お前は、天さんがライバルと認めた男・・・
 お前には、強くあって欲しい。
 少なくとも、こんなボクなんかより、
 ずっと、ずっと強く居て欲しい・・・・・)

ふいに、おかしな"声"が聞こえた気がした。
チャオズのテレパシーだろうか?
それともただの幻聴だっただろうか?
どちらでも関係ないな・・・

「無駄なんだよ…修行なんて、、、努力なんてよ。」
精一杯の強がりを吐いて、俺はその足でランファンの家へ向かった。

最近はランファンの家に泊まる回数も増えていった。
彼女と居ると落ち着く。
無理に頑張らなくて良いんだ、、、という気にさせてくれる。

「ねぇヤムチャ。一緒に暮らさない?」

そう切り出されたのは、つい先週のことだった。
急なランファンの提案…
俺は彼女には平穏を求めている。
だが、共に暮らすとなれば、それは崩れてしまうだろう。

俺は以前考えた事を思い出した。

(浮気だからこそ、、、、俺にとって理想的な関係だ)

浮気……と簡単に片付けられないほど、
俺にとっても彼女の存在は大きくなり始めていた。
俺は悩んだ。

そして答えを出せぬまま1週間が経ち、その事件は起こった。
俺の人生を変える、、、劇的な事件が。

人造人間戦まで、あと1年半となっていた。

『The reason of strength』



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第10話 破綻
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その日ブルマは特に機嫌が悪かった。
部屋の片付けのこと、洗濯物のこと、
ささいな事で誰かれ構わず当り散らしていた。
ヒステリックになった時のブルマは苦手だ。
俺は相手をするのもそこそこに、早々に家を出た。
もちろん「修行する」と偽って。

適当に街で時間を潰し、頃合いを見て帰る事にした。
俺が家に帰ると、誰も居なかった。
一人で早めの夕飯の準備を始める。
留守電も入っているか?と想い。ふと電話の方を見ると、メモがあった。

走り書きだ。よほど慌てていたのだろうか?
彼女にしては汚い字だった。
見ると「〇×産婦人科 03-xxx-****」と書いてある。

(産婦人科?)

嫌な予感がする。
次の瞬間には、俺はメモに書いてある番号に電話を掛けていた。

「もしもし? 〇×産婦人科ですけどー」
若い受付の子が出た。
「もしもし、カプセルコーポレーションの者ですが、
 今日、うちのブルマがそちらにお伺いしませんでしたか?」
「あ、はい。いらっしゃいましたよ〜。
 気分も良いようでしたし、とても順調ですよ♪」
(気分・・・?順調??何の話だ!?)

俺は、恐らくすでに予想できている"その事"を信じないために、
必死で別の答えを探していた。だが、それも徒労に終わる。。
「おめでとうございます。もうすぐ3ヶ月ですよ。
 食事など気遣ってあげて下さいね」

極めて明るい相手の声。祝福の声。

俺にとっては、絶望の声に聞こえてくる。

    ――ブルマが妊娠?

俺は動揺した。頭が上手く回らない。
何とか必死に冷静を装い、電話を切った。
「3ヶ月……」

そして考える―――。
ブルマと付き合い始めて10年。
だが、ここの所は『付き合ってる』などと言える関係では無かった。

未来から来たと少年の話…
いずれ現れるという人造人間のことを聞いてから、俺は荒れていた。
そのせいもあって、俺とブルマとは喧嘩が絶えない。
また居候のべジータは修行の事しか頭になく、家のことなど何一つしやしない。
それに対してブルマがヒステリーを起こす。
俺が必死でなだめてるうちに、いつの間にか俺とブルマはまた喧嘩になる。
まったく悪循環の繰り返しの毎日だった。。
カプセルコーポレーションの中は常にギスギスした雰囲気があった。

だから俺は外へ出た。
そして浮気を繰り返した。
思い起こせば、ブルマと最後にしたのはいつだっただろうか?
「3ヶ月……」
ここ半年はしていない気がする。計算が合わない。
俺は目の前が真っ暗になった。

次の日、、、そしてその次の日も、何も変わらない日常が続いた。
ブルマの態度も何も変わらない。
今までと同じ、カプセルコーポレーションの『日常』が続く。
いや、、、俺が気付いていないだけで、本当はずっと前から"変わっていた"のだ。

――会話が少ない――

ブルマの妊娠を知ってから3日。
ブルマの様子が気になって、
家に居る時間が長くなっていた。
最近、これほど長く家に居ることはなかった。
だから気付いていなかっただけだった……。

会話が少ないだけではない。
以前ならヒステリックを起こしたであろう俺の態度にも
彼女は怒りを表に出さなくなっていた。
ブルマは、俺の行動に対して何も言わなくなっていたのだ。

(そうか……そういう事か・・・)

そして俺はようやく理解する。
ブルマが、とっくの昔に俺を見限っていた事を。

そして一週間後・・・・・・・俺達は別れた。

ブルマは、俺の浮気の事にも薄々気付いていたのだろう。
別れ話が出るときは、たいてい大喧嘩の時なのだが、、
皮肉にも本当に別れる時は、極めて穏やかだった。
お互い、これ以上は無理だと判っていたのだろう。

別れ話のあとは、昔話に花が咲いた。

悟空との始めての出会いのこと、ドラゴンボール探しの大冒険のこと、
そして天下一武道会、西に都での始めてのデートの事・・・。
こんなに楽しくブルマと話したのは、いつぶりだろうか?

夜更けまで話して笑いあった後、俺達は最後のキスをした。
俺は、抱きしめたい気持ちで一杯だった。
それを察してか、ブルマは じゃあね、とだけ言うと
自分の部屋へと戻っていった。

――俺達は10年の歴史に終止符をうった。

  『Failure』



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番外編 〜 3年間 番外編 〜『冬虫夏草』