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〜 3年間 番外編 〜

 『冬虫夏草』

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アタシは今日も街へ出る。

夜の街・・・暗黒の刻に輝く場違いなネオン街。
世界でも有数の大都会、、、西の都『大遊戯場』

そこがアタシの家。
アタシの居場所。

店でのアタシは、夜の女王。
『偽り』という名のドレスを纏って
穢れた欲望を満たしてあげるわ。

今でも、たまに夢を見る。
白馬に乗った、、、とは行かないまでも、
素敵な人がアタシを向かえに来る夢。

でも夢は夢。判っているわ。
アタシのお相手は、性根の腐った親父連中。
薄汚れた瞳に移る、これがアタシの哀しい現実。

10年前のアノ日から、全てが変わった。
夢見る事は許されない。望むことは許されない。
アタシは、この世の中に敗けた人間。
抗うことは出来ないの。

お金も、心も、何も無い。
あるのは、嘘で飾った美貌だけ。
愚かで醜い男たちが寄り集まってくる。
さながら、暗闇で蠢く蟲が光を求めるかのように。
さぁおいで、楽しいでしょう?
見世物の身体を眺めて、果てればいいわ。

アタシは夜の女王。
       
       偽りの天使。

本当のアタシは醜いアヒルの子。
夜の仕事が終われば、アタシはただの汚物へと変わる。

   ―"借金取り"と名付けられた、あの醜悪な生き物たち―

彼らがアタシを食べにくる。
いつ終わるともしれない性遊戯。
アイツらからしたら、アタシはただの性欲処理器。
何もできない。アタシは無力。

その営みが終わる頃・・・
アタシは陽の当たらない鳥籠へと捨てられる。
手に残るのは、今日生きる事が出来るだけの
汚ないお札が、たった一枚。

他に望む事は許されない。

アタシはきっと、この世の端っこでも存在する価値の無い人間。
光に群がる、あの蟲たちの方がよっぽど素敵だわ。

アタシは蟲にさえ成りきれない。
ヤツらに犯され肥糧となって朽ち果てる。

それでも、アノ人と出会えたの。
自分の格好悪いところを隠そうともしない人。
不思議な魅力を持った人。
アタシとおんなじ。
世の中に背を向けている人だった。

アタシに言い寄ってくる男は星の数ほど居たわ。
でも誰もが、アタシの偽りの容姿に騙されてるだけ。
ホントのアタシは、何の魅力もない女。
きっと誰もホントのアタシになんて興味がないわ。
彼らが好きなのは、店でのアタシ。
アタシの顔した、アタシじゃない人・・・

でもアノ人は違ったわ。
ホントのアタシを見てくれた。
アタシと同じ、、世の中に必要とされなかった人だから、
きっと分かり合えたのね。

  10年ぶりにアタシは笑って
  10年ぶりにアタシは泣いた。

そして、初めて『人』に抱かれた。

月がきれいな夜だったわね。
アノ人の顔が良く見えて・・・
初めて月に祈ったわ。

『コノ人ト、ズット一緒ニ居レマスヨウニ』

アノ人と出会ってから、
薄暗い鳥籠のようなアタシの部屋が、
初めて素敵に思えたわ。

アノ人と交われる場所。

 何て素敵な響きでしょう・・・。

あぁでも、何てこと。
アノ人には立派な彼女が居るらしい。
あんなに魅力的なんだもの。
当然だわね。
やっぱりアタシは、何も望んじゃダメなの。
判っていたはずなのに。
アタシは馬鹿な女だわ。

―それでもいいの・・・

貴方にとって、アタシが『何番目』でも構わない。
早く会いにきてほしい。

アタシの心と身体を埋めて欲しいの。
貴方にとって偽りでも構わない。
だってアタシの存在自体が『嘘』なんですもの。
貴方の哀しみに満ちた目が大好きだわ。

   『今夜はきっと来てくれるわね』

嘘で固めた私の人生。
アタシは何も望みはしないわ。

ただ、2人で闇へと堕ちて逝きましょう。


きっといつか、アノ人も居なくなるわね。
アタシは全部判ってる。

我儘言って、アノ人を困らせちゃダメ。
最期の時は、笑って見送るわ。

みんな、アタシの元から去っていく。
ずっと『そういう人生』だったもの。
そういう事には慣れてるの。

誰にとってもアタシは『一番大切な存在』になんて為れやしない。
そんな事アタシが一番良く知っている。

でも胸が苦しいのは何故・・・?

いつか陽の光の下でアノ人と会えるのなら、、、
かわいい格好をして会いたいな。
夜の街での女王としてじゃなく、
借金にまみれた惨めな女としてじゃなく、

一人の可愛い女の子として、貴方の前に立ちたいの。

きっと叶わぬ願いだわ。


「もしも今度の戦いで、
 無事に戻ってきたら、
 高価なネックレスでも頂戴ね♪」

他愛の無い会話の中の、
何でも無い願い事。

「あぁ、分かった!約束だぜ!!」だなんて、
アノ人は覚えてくれているのかしら?
どうせ次の日には忘れてるでしょう?

  きっと願いは届かない。

貴方はアタシに寄り道しただけ。
貴方の居場所は沢山あるわ。
今はちょっと見えないだけよ。

アタシは本当に何にも無いの・・・
アタシは蝶に成れないの。
貴方が蛹の間だけ、共に地獄で抱き合いましょう・・・

せめて、それまでの間だけでも――

     「・・・一緒に暮らさない?」

答えは聞けないままかもね。


傷が癒えたら旅立つのでしょ?
貴方なら、私が飛べない空も飛べるわ。
アタシは地中(ココ)から眺めてあげる。

いつかアタシの身体から、
腐った"ヤツラ"の芽が生えて、
醜い蔦が生えるでしょう。
汚い枝が伸びるでしょう。

そしたらアタシは楽になれる。
草木となって、枯れていくわ。

醜いヤツラに寄生(やど)られた、

きっとアタシは冬虫夏草。


さぁ、そろそろ出かけなきゃ。

醜い夜の蟲たちが、アタシの出番を待ってるの。

アタシはランファン。夜の女王。

今日も偽りの夜を過ごしましょう。

こんなに穢れたアタシの美貌・・・

見世物の身体を嘗めて、果てればいいわ。

アタシの全てが消えるまで、ずっと続く哀しい遊戯。

『冬虫夏草』 完