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Saiyan killer2


【81話】

「思った以上に長いのだな。そういうことなら、ヤムチャが先に受けてくれるか?わたしはその間一人で修行している。スーパーサイヤ人にもならなければいけないしな…」
マーリンは、ヤムチャに先に受けるように促す。
「ああ、分かった。マーリン、修行頑張れよ…期待しているからな」
「ふふ…こちらもパワーアップした後のヤムチャがどれほど強くなるかが楽しみなものだ」
言葉を交えた後、二人は小さく拳と拳を合わせると、お互い背を向け違う方向に歩み出した。
ヤムチャは大界王神の方向へ、マーリンは界王神の方向へとそれぞれ向かう。
「…それじゃ、大界王神様。…俺からお願いします」
ヤムチャは深く一礼をする。
「ふむ。ヤムチャからか、よかろう。じゃ、そこに座れ」
ヤムチャは言われたままに、その場に座り込む。
「よし、始めるぞい!…フンフンフーン♪フフーンフーン♪フフーンフフフンフン♪ヘイヘイ!」
何を思ったのか、大界王神は唸りながらその場で踊るような動きでヤムチャの周りをクルクルと回り始めた。
「…大界王様……パワーアップの方は一体……?」
「静かにしとれ!もう始まっておるぞ!フフーンフン!」
「あ…は、はい…」
大界王神の不可解な行動に、この人酒でも入ってるんじゃないかとヤムチャは疑ったが、大人しくしていることにした。
いよいよ、大界王神によるヤムチャの修行(?)が始まった。




【82話】

その様子を、遠くでマーリンは界王神たちと見つめていた。
「ヤムチャ様…かわいそう」
「本当にあんなことして強くなるのかな…」
プーアルとシルフから見ても、あの動きは普通ではないらしい。
界王神も恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「……カイオウシンとやら。わたしも、あれと同じのを受けるのか…?」
「…ええ、多分……」
マーリンの問いに界王神が答えると、はぁ、と二人同時にため息が出る。

「それより、わたしから頼みがあるのだが…聞いてくれるだろうか?」
マーリンは界王神の方を見つめ、ヤムチャに聞こえないように静かに話しかける。
「なんでしょう?マーリンさん」
「瞬間移動で、ヤムチャの修行が終わるまでわたしを違う星に移動させて欲しい」
マーリンの突然の頼みに、界王神は少し戸惑う。
「構いませんが…どうしてですか?」
「わたしは今から修行をする予定なのだが、この場でやってはヤムチャの邪魔になってしまうかもしれない。それに、わたし自身も誰も居ない場所で一人で修行した方が集中できる…」
界王神からしたらサバサバした性格のように見えたマーリンだったが、ヤムチャを気遣う意外と優しい一面もあるギャップに驚いていた。
「なるほど…分かりました。移動しましょうか」
笑顔で界王神は答える。




【83話】

「すまない、感謝する…」
マーリンは界王神に礼を言うと、プーアルに近づいていった。
「プーアルとやら。先ほどの重力発生装置を借りてもいいか?」
「あ、はい!どうぞ!マーリンさんも修行の方、頑張ってくださいね!」
マーリンはプーアルからカプセルを受け取ると、コクリと頷いた。
「シルフ。お前はプーアルとここに残っているんだ。くれぐれも、ヤムチャの邪魔をしないようにな…」
「分かってるよ、お母さん。だけど、あんまり無理しないでね?」
シルフは先ほどから苦しそうに修行しているマーリンを心配していた。
「ああ、気をつける」
マーリンは優しく微笑むと、シルフの頭を撫でたあと、再び界王神のもとへと歩み寄っていった。
「準備はできましたか?この辺りで地球に近い環境の星と言えば、惑星クリケットですが……」
「そこでお願いしてもいいだろうか」
「分かりました。それでは行きますよ…!カイカイ!」
二人の体が白く光ったと思うと、次の瞬間にはマーリンと界王神の姿は消えていた。




【84話】

――所変わって、別の星に突然二人の人影…つまり、マーリンと界王神が現れる。
それと同時に、マーリンの体にズンと今まで感じていたものより強い重力が圧し掛かった。
もちろん界王神にも同じように重力が圧し掛かる。
周りを見渡すと、一面の砂漠の地平線が広がり、近くには大きなオアシスがあった。
どことなく、地球でヤムチャと共に修行した場所に環境が似ている。
意識を集中し気を探ると、かなり弱い気ではあるが、この星を支配する民族らしき者たちの気も遠くで感じられた。
この近辺には何も居ないようだ。
「惑星クリケット…と言ったか。なかなか良い星だな。地球より少し重力が高いみたいだが…」
「ええ。ここは地球の5倍ぐらいの重力ですからね。ですが、気中の窒素と酸素の濃度の割合、それから気温は地球とほぼ同じです」
マーリンはこの星の重力を確認するかのように、一歩一歩慎重に歩き始めた。
そしてシュシュシュ、と数十発パンチや蹴りの素振りをして見せる。
「なるほど…修行の環境には問題なさそうだ。ありがとう、カイオウシン」
「いえ、私に出来る手伝いはこのくらいですからね。礼には及びませんよ」
界王神は控えめな態度でマーリンに言った。
「…では、ヤムチャさんのパワーアップが完了したら、またここに迎えに来ます」
「分かった。わたしも、早速スーパーサイヤ人になるための修行に取り掛かる」
マーリンはその場で目を閉じると、静かに意識を集中し始めた。
「はい、素晴らしい戦士の誕生を期待していますよ。それでは……カイカイ!」
界王神はその場から消え去った。
わざわざ『カイカイ』と言わなければ、瞬間移動出来ないものなのだろうか…とマーリンは素朴な疑問を抱いていた。




【85話】

ゴゴゴゴ…

気を集中しているため、体の周囲100メートルほどの範囲で、重力を無視しているかのように、小さな岩の破片などが宙に浮く。
数十秒ほど経つとその岩の破片は、上から吊るされていた糸が切れたかのように無造作に地面へと落ちる…この現象が既に100回近く繰り返されていた。
これは、マーリンが精神を集中していることによって、そのとてつもない気が発生し、大気が不安定になり近くの空間が歪んでいるため起こっている。
マーリンはかつてないほど修行に集中していた。
ヤムチャと地球で買った服は既に脱いであり、自分の戦闘服に着替えている。
やはり、長年着ていた服の方が気持ちの面で落ち着くのだろう。
「……わたしは…勝たなければ……っ…」
苦しそうな声で独り言を漏らすと、彼女の長い髪の毛がゾワッと逆立つ。
「あと少し…!あと少しで……なれるっ…!」
そして、逆立った髪はわずかに金色の光を帯びたかと思えば、元の髪の色に戻ったりと点滅を繰り返していた。
「おそらく、この感じだ……このままの状態を維持をしなければ…!」
しかし、それも意識を長く集中することが出来ず、数十秒ほどでとまってしまう。
「はあ…はあ……あと後一歩が厳しいが、ここまでくれば時間の問題だろうな………」
疲労のせいで立っているのも辛いのだろう。
マーリンは地面に手をつき、四つんばいになると、肌が触れている部分の地面が流れる汗で段々と湿っていく。
そのままの体勢で少し休憩すると、マーリンは地面に置いていたスカウターを手に取る。
そして抜いていたバッテリーをセットし、電源を入れた。
どうやら内蔵されている時計が見たかったらしい。
「あれから…約9時間ほどか。ヤムチャは順調なのだろうか…」




【86話】

「………あの」
「………」
「……あのー」
「………」
「あの、大界王神様!!」
「…は、な、なんじゃ?そんな大声出して…」
ヤムチャの大声が界王神界に木霊する。
「今…寝てましたよね?」
「ば、バカモン!界王神ともあろうものが居眠りなんぞするわけないじゃろ!」
大界王神は胡坐を組みながら、片方の手の平を開き、その手を真っ直ぐとヤムチャに向けていた。
そしてもう片方の手は、ページをめくるためだろうか、雑誌のような物の上に置いてある。
首は斜めになり、口からは涎が垂れかけていた。
「………………」
疑いの眼差しでヤムチャは大界王神に視線を送る。
「…フン。それよりお主は余計な事を考えず精神を集中せい!その方がパワーアップの効果も高い」
「……わ、分かりました…」
疑いの気持ちは持ちつつも、ヤムチャは静かに目を閉じる。
…数分後、チラッと片目を開けて、大界王神の方を見ると…やはり眠っていた。
「…もういいや」
こんないい加減なことで果たしてパワーアップするのだろうか…ヤムチャの脳裏にそんなことがよぎる。
半ば諦めかけていたヤムチャであったが、大界王神の言葉を信じ精神を集中し続ける。
精神を集中している間に、ヤムチャは色々なことを思い返していた。




【87話】

初めて悟空たちと会った時、盗賊でワルだったヤムチャは、カプセルを奪うために悟空たちと対峙していた。
一度は狼牙風風拳で悟空をぶっ飛ばしたものの、結局とどめはさせずに退却。
今思えば、これ以来悟空とは一度も戦っていない。
ありそうで意外となかった対決と言えるだろう。
そもそも、唯一まともに戦える場である天下一武道会において、初戦敗退しか経験したことがない。
悟空は常に決勝まで残っていた為、もし自分が勝ち進んでいれば、いくらでも戦える機会はあったはず。
その頃はまた次回倒せばいい…また次回頑張ればいい…そんな風に思っていたヤムチャだったが、それ以来悟空を初めとする戦士たちは、天下一武道会に参加しなくなった。
魔人ブゥが現れる直前に、再び天下一武道会が開かれたが、その頃の悟空たちとヤムチャでは、圧倒的過ぎると言っていいぐらいの差が付いてしまっていた。
その為、ヤムチャは参加を断念するしかなかった。
悟空たちと勝負したい気持ちはあった…しかし、実力の差が開きすぎ、これでは勝負にすらなりえないと踏んだのだ。
自分の仲間が参加している中、自分だけ不参加というのは武道家として苦渋の選択ではあったが、あれはあれで正解だったのかもしれない、とヤムチャは思っていた。
無謀な挑戦と、僅かな可能性に賭ける勇気は違う。
どうせやっても今の自分では敵わない…ならやらなければいい…だけどいつかは必ず…。
ヤムチャはそうやって自分の行動を正当化し続けていた。
しかし、ヤムチャは分かっていた。
そんな気持ちのままでは、その“いつか”は永遠にやってこないということに。
そして、マーリンと約束した諦めずに戦うということを守れていなかったことに…。




【88話】

ヤムチャはたまにあることを考える。
悟空はサイヤ人だからずば抜けて強いと言うのもあるが、仮に悟空が地球人だったとしたら…自分は悟空に勝てるだろうか?
おそらく、勝てない。
というか、悟空が純粋な地球人だろうと、ベジータやピッコロはもちろん、現れる強敵全てに負けないのではないだろうかとすら思う。
つまり…自分は全て先入観で『サイヤ人だからあいつは強い』『地球人だから自分は勝てない』という風に決め付けているだけなのかもしれない。
もし悟空が地球人であっても、自分なりに修行や戦闘スタイルを工夫して、今と同じように、常に頂点を目指し続けるはず。
そして、今と同じように、実際頂点に立っているはず。
あくまで仮定の話でしかないが、ヤムチャが導き出した結論として言えることは、“地球人だから勝てない”というのは言い訳にならないということ。
確かにサイヤ人は強い。
体質的にも、地球人より有利であることは変わりない。
だが、自分はそういった問題以前に、気持ちの面で悟空に負けていたのではないか?
それが結果的に、実力の伸び具合の差…そして、今の実力差にそのまま反映しているのではないか?
そう思うと、今の自分と悟空との差の全てが納得行く。
そして、自分の中の自信は確信へと変わる。
今の気持ちは、悟空に負けないだけのものはあるということ。
それはつまり、悟空に勝てる要素は0ではないということに繋がる。
少なくとも…今の自分には、間違いなくそれが言える!




【89話】

仲間たちの中で、ヤムチャは武道家として最も惨めな人生を歩んでいた。
ご存知の通り、天下一武道会では全て初戦敗退。
サイヤ人の来襲に備えて修行したのに、その手下であるサイバイマンに自爆で殺される。
ドラゴンボールで生き返って、3年後に現れる人造人間に備えて必死に修行するも…20号に胸を貫かれ、瀕死の状態となる。
セルジュニアには腕を折られてなすすべすらなかった。
その後はほとんど戦っていない。
ヤムチャは思う。
自分ってなんなんだろう、と。
本来の自分なら、馬鹿馬鹿しくてとっくに修行なんて辞めてしまって、遊び呆けているだろう。
しかし、自分はまだ修行を続けている。
そう、マーリンと出会った事によって、自分の人生は大きく変わったのだ。
一度は悟空たちに追いつくことを諦めかけたが、それでも修行は続けていた。
それが最低限、自分に出来る全てだから。
女を愛しいと思ったことなんて殆どない。
自分にはプーアルがいるし、寂しさもさほどない。
長年付き合っていたブルマは、どういう風の吹き回しか、地球に住むようになったベジータと2年ほどでくっつき、子供まで作る。
普通はショックを受けて良いはずなのに、どういう訳か、不思議と不服はなかった。
むしろ清清しい気分である、といっても過言ではない。
その時はっきりとヤムチャは思った。
自分の中で、マーリンに対する想いはブルマを遥かに越えているということに。
そして再度自分の気持ちに気付く。
自分はマーリンのことを、本当に愛しいと思っているんだということに。




【90話】

――。
「フム…これは中々……」
大界王神が独り言を呟く。
そんなような事を思い返しているうちに、ヤムチャの潜在能力はどんどん解放されていった。
その声が聞こえ、ヤムチャの目がぱっと開く。
「…あ、今何かおっしゃいました?」
「いや、なんでもない」
ヤムチャは眠っていたわけではないのだが、意識が現実に戻ると、かなりの時間が経っていることに気付いた。
「それよりヤムチャよ、あと3時間ほどでパワーアップが完了する。もう少し辛抱せい」
「分かりました」
大界王神の隣には、山積みにされた大人向けの雑誌が何冊も無造作に置いてあったが、ヤムチャは突っ込むことすらしなかった。
(ヤムチャの奴…地球でそうとう修行を積んだのじゃな。修行の際解放されずに体に蓄積されたパワーが、見る見るうちに解放されていくわい…)
大界王神が想定していた以上に、ヤムチャのパワーアップに時間がかかっていた。
本来なら終わって良いはずなのに、ヤムチャからは力が湧き出るように解放され続ける。
「凄いですよ…ヤムチャさんは」
遠くでヤムチャの様子を見守っていた界王神は声を漏らす。
「そりゃそうだよっ!なんたってぼくのお父さんだからね!」
シルフは自慢げに話す。
「潜在能力、って隠されていた力って事ですよね?」
プーアルが界王神に尋ねた。
「ええ…そうです。凄いですよ本当に。あれだけ力を隠していたとは…さすがにご先祖様は見る目が違う…」
界王神は感心の余り、薄っすらと冷や汗すらかいていた。
「ヤムチャ様に、そんな力が…」
皆が見守る中、なおもヤムチャは隠された力を解放し続ける。


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