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Saiyan killer2



【31話】

「ふっふっふ……あははははっ!」
ヤムチャの説明が終わると、マーリンは甲高い声で笑い出した。
「何がおかしい?俺の考えは間違っていたか?」
「ヤムチャ、お前は本当に凄い男だ…わたしがお前対策に長い時間かかけて編み出したこの技を…たった数秒のこの手合わせで見抜くとはな…」
言葉では自分の技が見抜かれたことを褒めているが、それでもマーリンの表情には再び余裕が戻っていた。
ヤムチャはそのマーリンの表情を見て自分の目を細めると、再び戦闘の構えを取る。
「だがな、ヤムチャ……わたしはお前のことをよく知っている。わたしがこんな小細工をしたところで、一瞬で見抜かれるだろうと思っていた…」
マーリンもヤムチャが構えたのを確認すると、同じく戦闘態勢に入る。
「しかし…この技は“見抜けても避けれない”技なのだよ…ふふ、残念だったな」
「………」
たしかにマーリンが同じような攻撃をしようと、相手を『気』で感じて動いていては、分かっていても今のヤムチャに攻撃をかわすことは難しいだろう。
いわゆる「詰み」の状態にさせたつもりだった…だが。
だが、次に起こった展開は彼女の予想とは違っていた。
ヤムチャの焦ったような表情を見られると思っていたマーリンだったが、ヤムチャはそんな様子もなくただただ自分に向かって真っ直ぐと構えている。
「…もうその攻めは俺には通用しない。やってみれば分かる」
静かにヤムチャが言葉を発する。
今度ははっきりと分かる、余裕の表情を浮かべて。
「…では、そうしてみよう」
予想外の展開にマーリンは面白くなかったが、気を取り直して再びヤムチャに攻撃を繰り出そうとしていた。
ヤムチャに悟られないように、静かに体の奥でエネルギーを溜める。
じわりじわりと体の芯にエネルギーが充満してくるのを感じる。
それと同時にヤムチャを見つめ、彼の気を察知する…全身に気が張り巡らせているようだが、足の方にパワーを集中しているみたいだ。
最初の攻撃をまず避けて、その後自分から一本取ろうというところなのだろうと解釈すると、マーリンは頭の中でどうヤムチャの不意をうとうか作戦を練っていた。




【32話】

だが、ヤムチャへの意識が疎かになったほんの一瞬…目を放した隙に、ヤムチャの気配が自分のすぐ近くにいることを感じた。
「油断したなっ!」
「…っ…!」
ガードしようとするが、気のコントロールが間に合わなかった。

ドス…!

気付けば腹に、ヤムチャの拳がヒットしていた。

「………ッッ!」
胃液が口から出そうになるほどの激痛。
毎日鍛えているとはいえ、久しぶりにまとものパンチをくらったマーリンは苦しそうに顔を歪める。
「誰がこっちから攻撃しないって言った?」
先程とはまるで逆の展開。
自分の頭上からヤムチャの声が聞こえる。
「チィイ!」
腹を殴られたマーリンだったが、苦し紛れにヤムチャに向かって手刀を繰り出した。
だが、いとも簡単に受け止められてしまう。
怯まずに逆の手でアッパーを狙うが、これも紙一重で空を切る。
腹へのダメージが大きく、いつものように技に切れが出ない。

だが、マーリンは接近戦となるのを密かに狙っていたのだ。
「…はぁあっ!!」
ヤムチャとマーリンの間は1メートルもない。
その至近距離でマーリンは先ほどと同じ要領で、溜まっていた内面的エネルギーで、エネルギー波を放つ。
ヤムチャは避けれるはずもない。
そのエネルギー派はヤムチャを吹っ飛ばし、はるか遠くへと飛んでいった…かのように見えた。




【33話】

だがそれは違う。
当たったにしてはまるで手ごたえがない。
「あいにく心理戦は得意でね。あのタイミングでエネルギー波がくるのは分かっていた」
「!!」
今度は左からヤムチャの声が聞こえた。
声が聞こえた方向を向くと、ヤムチャはすぐ隣に腕を組みながら待ち構えていた。
「それにしても残像拳に引っかかるとは、さすがに焦りすぎじゃないか?」
分が悪いと思ったマーリンは、足で地面を蹴り、大きく後ろへとジャンプするように下がり、ヤムチャとの距離をとった。
「何故避けられたのだ……」
マーリンはヤムチャに聞こえないよう、独り言をつぶやく。
そして、そこで腹を押さえながらがっくりと膝をついた。
マーリンは歯を食い縛りながら悔しそうにヤムチャを睨む。
「結構効いたみたいだな。気を全く変化させずに気を溜めるという発想まではよかった…俺には思いつかなかったぜ。
気を察知して戦う俺たちにとっては、目を瞑って戦うよりやりにくいぐらいだ」
ヤムチャはあえて攻撃の手を止めて続ける。
「だがな…この技の弱点は、内面的な気を溜めている間は、外見の気を自由に変化させれないことだ。
つまり、内面の気を溜めている時にピンチの局面が突然訪れたら…頭では分かっていても対処ができない。
さっきみたいにお前が気を下げた状態で、気を入れた状態の俺に殴られたらどうなるかわかるよな。絶対的なパワーの差があってもこの通りだ」
ヤムチャの指摘に対し、びっくりしたような顔でマーリンがヤムチャを見つめる。
「なん…だと?そんなはずは……」
「じゃあなんで、戦闘力がお前より低いはずの俺の攻撃で、そこまでダメージを受けている?」
「……!」
口では強がってみるものの、冷静になって考えてみると確かにそうだった。
ヤムチャの気配を感じてから、防御に移るまでに時間がかかり、その時受けたダメージも大きい。
マーリンは言いかけた言葉を言うのをやめ、下へと俯く。




34話】

「それに意識が内面エネルギーの方へと偏りすぎてしまって、相手の気を完全に把握しようとしても意識がついていかない。
普通にやって相手の気を100%読めるなら、今のお前は40%ぐらいか。残像拳に引っかかったのもそのせいだろう」
ヤムチャはマーリンの方へ近づきながらなおも続ける。
「もっとも…俺が挑発して、お前がその技を確実に使ってくるって分かっていたから、今はたまたま回避できただけで、
戦闘中に上手くコンビネーションとして織り交ぜる分にはカナリありだと思うぜ…」
「……そうか…ふふ、そうか…」
「…俺の言ってることはおかしいか?」
マーリンの不気味な笑いにヤムチャは質問する。
「おかしいのではない…嬉しいのだ。わたしはこの技をよく考えて編み出したつもりだった。だがお前はその技の隙を一瞬で見つけ、実際に破って見せた。
確かに気のコントロールに集中しすぎて、ヤムチャへの意識が薄れたのは事実だ。わたしに隙があったとは言え、それを読むお前のブジュツの腕は凄まじい…
わたしが認めただけの男だ…」
「…おだてても何も出ないぞ」
「やはり、わたしにはこういった小手先の技を使って戦うのは性に合っていないらしいな…っ!できれば…できれば武術の腕だけでお前に勝ちたかった……!」

ボウッッ……!

マーリンの周りに赤いオーラが漂う。
そして、先程とは比べ物にならないぐらいにマーリンの気が膨れ上がり、ヤムチャはその気迫で一歩下がりそうになった。
「…勝たせてもらうぞ、ヤムチャ」




【35話】

「あれは界王拳…。なるほど…とことんやりたいってわけか…」
さっきまでのはお遊びだったとでも言わんばかりの凄まじい気に、ヤムチャの足は震えかけていた。
だが、武道家として、戦士として、ここは退くわけには行かない。
仮にも相手は自分の弟子だ。
マーリンは先ほどまでのような小細工は使っておらず、既に身体中の気を解放している。
解放しているはずなのに…なおも彼女の気は変化し続ける。
増えているのか…?はたまた減っているのか…?
激しい気の変化にマーリンの気の状態がよくつかめない。

「今のわたしの攻撃についてこれるかな?ふふ…」

「面白い…こちらも界王拳にかけるしかないようだ…!」
ボウ…と、ヤムチャの方も真っ赤な気のオーラが包む…!
砂嵐が巻き起こり、お互いの視界はほとんど遮られている。

だが、そんなことはお構いなしなのか、既にマーリンはヤムチャの目の前まで迫っていた。

「かああああああっっっっ!」
マーリンの拳が刺さるような勢いで、ヤムチャの顔面目掛けて飛んでくる。
「っく…!」
ヤムチャはそれを辛うじてかわした。
だが次の瞬間にはマーリンの逆の拳が目の前にあった。
それもギリギリでかわすヤムチャだったが、マーリンの手は止まらない。
次から次へと迫る拳に、ヤムチャは必死に避けることしかできなかった。
最初からヤムチャの回避力をマーリンのスピードが上回っている…このままでは時間の問題だった。




【36話】

これは避け続けられないと思ったヤムチャは、手のひらに気を集中し、マーリンの拳を受け止める決心をする。

バシイイイ!

受け止めた反動で5メートルぐらい体が後ろに下がったヤムチャ。
「ッ…!受け止めた…だと!?」
マーリンは信じられない表情を見せる。
以前は孫悟空をも捉えた拳を、受け止められるなど考えもしなかった。
マーリンの戦闘力はあの時より格段にパワーもスピードも増しているはず。
ましてや、元からヤムチャの力は超えており、更にこの数年の修行で差をつけたつもりだった。
だが…自分の拳はヤムチャの掌の中にあるという事実。
マーリンは予想外のできごとに、思わず手を止めてしまう。
……この時彼女は、このパンチを自分自身の理性で威力を制御していたことに、まだ気付かなかった。
「……やっぱり、これだけ力の差があるといてえな。あの世に行った時大界王様のもとで修行してなかったら、手首から上がふっとんでいたところだぜ…」
あの世…?ダイカイオウ…?
ヤムチャが何を言っているか分からなかったが、自分の拳が受け止められた事実はなんら変わりない。
マーリンは焦りを感じていた。
…焦りを感じていたのだが、この気持ちはなんなのだろうと自問自答し、意識が葛藤しているのが分かった。
心の中でモヤモヤしたものがあり、それが中々姿を現さない。
「何を言っているんだ…?」
マーリンはヤムチャに自分が動揺していることをばれないよう、冷静に聞き返す。
「前にちょこっと話した界王様っていたろ。それより更に偉い人の元で修行したんだ」
ヤムチャは自慢げな様子もなく、淡々とあの世で修行した時のことを語る。
「おしゃべりタイムはこの辺で良いか?続けるぞ、マーリン!」
「…望むところだ」

ドスンッ!
バゴッ!
ガキィィ!

まるで金属と金属が物凄い勢いでぶつかり合っているような爆音が荒野に響き渡る。




【37話】

「そりゃーッ!!ハイハイハイハイーッ!!」
ヤムチャはこれまでにないほどの、怒涛の進撃を見せる。
自らの限界である界王拳を30倍にあげてマーリンに猛打を浴びせていた。
常人なら、手の動きどころかヤムチャとマーリンの体の形すら見えないだろう。
だが、静かに勝負は付きつつあった。
「………」
この時、マーリンは心の中にあったモヤモヤをようやく理解したが、それを口には出せずにいた。
言ってはいけないことだと悟ったからだ。
必死のヤムチャの攻めに対し、マーリンは神妙な面持ちでそれを防御し続ける。
マーリンは防御の合間にコンマ数秒とない隙をヤムチャに見つけると、空かさずジャブ気味のパンチでカウンターをとっていた。
ほんの数十秒の攻防なのだが、手数が一瞬で数百回という次元なので、カウンターを受けた数もそれだけ多い。
ダメージを受けながらも、無理してマーリンを攻め続けるヤムチャ。
界王拳はなんとか維持しているものの、既に体力が限界を迎えつつある。
「はあ…はあ……」
ヤムチャは殴打を止めると、攻め続けては分が悪いと見たのか、“受け”の構えになる。
「ヤムチャがこないのなら、わたしからいかせてもらうぞ!」
それを見たマーリンはすぐにヤムチャの懐へ入り込み、ヤムチャに攻撃のラッシュを浴びせる。

ガガガガッ!ドガガガドガッッ!!!

今度はマーリンが攻め、ヤムチャが守りといった形になった。
マーリンの攻撃に、ヤムチャは何とか付いていき、防御することができていた。
そして、マーリンのときのように攻撃に隙を見つけるとカウンターを返す。
だが…彼の目にはもう燃え滾る闘志のような輝きは感じられなかった。




【38話】

互角の攻防をしているように見えるが、ヤムチャの表情には余裕がなく、マーリンは笑いを見せる余裕すらあるように感じられる。
そんな中、攻防戦をしながらヤムチャの表情はどんどんと曇っていった。
すると、何を思ったか、ヤムチャは後ろに大きく跳躍し、攻防に見切りをつけたかのように、フッと界王拳を解いた。
ヤムチャを覆っていた真っ赤なオーラが、徐々に薄くなっていき、普通の状態に戻る。
マーリンはヤムチャのよく分からない行動に呆然とし、何を言って良いのか分からなかった。
体力の限界が近かったとはいえ、スタミナ切れではないはずだ。
あと1分ほどは持ったはず。
ということは…?
ヤムチャも無言でマーリンの方を見つめていた。
言葉を交わさずにただただ目と目を合わせる二人だったが、ようやくヤムチャの口が動く。
「…やめだ。もうこれ以上戦っても意味が無い」
「何!…それはどういう……」
「分かりやすく言ってやろうか?今までの攻防で悟った。これ以上続けても、俺はお前に勝てない。そうだろ?」
突然のヤムチャのギブアップ宣言。
マーリンは驚きを隠せず、すぐにヤムチャに突っかかる。
「何を言っているんだ、ヤムチャ。わたしとお前はほぼ互角の戦いを…………」
そこまで言いかけたマーリンだったが、ただならぬ視線を感じ、口が止まる。
ヤムチャが睨むようにして、マーリンを凝視していたからだ。
「…薄々勘付いてはいたが…お前、途中から俺の気に合わせて自分の気を調整していたな?…わざわざ“互角”になるように…。故意的かはわからねーけど」
「…!それは……」
答えを聞くまでもなく、マーリンの反応が全てを物語っていた。
ヤムチャはそれを確認すると、大きくため息をつき、下を向いて独り言のようなことをはじめた。




【39話】

「…はは…あはははは!見ただろ?マーリン!」
「…なにをだ?」
独り言のようにそっぽを向きながら喋っているヤムチャだが、話の矛先はマーリンに向いているようだ
「毎日毎日、人生の大半を修行に注ぎ込んでも、俺はこの程度なんだよ!よーく分かったろ?お前が慕っているこの男は、この程度なんだってな」
「……ヤムチャ…違う…違うぞ、わたしはそんな風にお前を見ていない…」
マーリンも界王拳を解くと、話しながらゆっくりとヤムチャの元まで歩み寄っていった。
「…みんなの前ではヘラヘラしていた俺だけど、毎日のトレーニングを欠かしたことがない。もちろん、地球が平和になってからもな」
マーリンがヤムチャの傍までたどり着くと、ようやくヤムチャの視線がマーリンに戻る。
「…続けろ」
マーリンは何か言いたそうだったが、ヤムチャに話を続けるよう促した。
「お前に再会しても、恥ずかしくないように…堂々と胸を張れるように……必死に修行した。でも、これが結果だ。俺はお前に本気すら出させることが出来なかった…それどころか手加減されちまうとはな…情けない話だぜ」
「ヤムチャ…わたしはそういうつもりでやった訳では……」
「いや、いいんだ。お前がマジになったら、俺が相手にならないのは分かっているからな」
マーリンはヤムチャの開き直りに、励ましの言葉さえ思いつかず、何も言えなかった。
彼女自身、経験したことのあるこの“絶対的力の差”。
絶対に超えられない壁を目の当たりにしたとき、己の強さに一気に自信がなくなり、発狂した経験がある彼女だから、ヤムチャの気持ちはよく分かるのだ。
「マーリン…俺が何故、十年近くもお前に連絡をしなかったか…今教えてやろうか?……もう分かると思うけど…」
「……話してくれ、ヤムチャ」
すると、ヤムチャは大きく息を吸い込み、溜まっていたものを吐き出すかのように喋り始めた。




【40話】

「俺は…俺は弱すぎるんだよ!いくら修行しても、悟空たちのように強くはなれなかった…。いや、悟空たちどころじゃない。あいつらがあっさり倒しちまうような敵にさえ、俺は勝つことが出来なかった。
そんな俺が、何事も諦めずに戦い続けるお前と…再び会う資格があるのか?…俺はずっと自問自答を重ねていた。だから連絡がこんなに遅くなったんだ」
「……」
拳を震わせながら喋るヤムチャを、マーリンは黙ってジッと見つめていた。
「…今の俺はそれなりの自信があった。今ならお前に勝てる…とまでは行かなくても、いい勝負が出来る…そんな甘い考えを抱きつつ、お前を地球へと移動させたんだ。…甘かったよ、俺は」
「もういい、ヤムチャ。分かった。それ以上自暴自棄になるな…」
「そりゃそうだよな…すぐにこーやって諦めるような男が、マーリンといい勝負になるわけがないよな…はは…」
ヤムチャはマーリンの足元に倒れるように座り込むと、無念そうな表情を浮かべ、青い空を見つめていた。
マーリンはどう言葉をかけて良いかしばらく考え込んでいたが、やがて口を開く。
「…ヤムチャ、これは励ましとか同情とかそういった類に聞こえてしまうかもしれないが…少し言わせてくれ」
「なんだよ」
「前にも言ったと思うが、お前は宇宙でも指折りの最強クラスの戦士だ。間違いない」
「仮にそうだとしても、仲間内じゃ強いとはお世辞でも言えな――」
「本当にそうか?」
全て言い終わる前にマーリンはヤムチャを制した。
「そりゃ…悟空やベジータには勝てないだろうし、悟飯は今や宇宙最強の戦士だし…ていうかサイヤ人は全部無理だろうな。ピッコロも勝てそうにない。
天津飯も修行しまくってそうだしな…やっぱりチャオズとヤジロベー…それから結婚して修行を怠けてるクリリンぐらいか、俺が勝てそうなのって」
「実際、最近そいつらとは戦ってはいないんだろう?なら分からないのではないか?」
「無理。絶対勝てねーよ、やるまでもない」
ヤムチャの投げやりな態度に、思わずこめかみと拳がピクリと反応したマーリンだったが、気持ちを抑えて話を続けた。


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