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Saiyan killer2


【161話】

永遠の一回戦ボーイの異名は伊達じゃない。
過去に3回出場した天下一武道会のトラウマが、少しずつヤムチャの頭に蘇る。
いつもそうだった。
この大会に出るたびに、当時の地球最強クラスの相手が常に初戦の相手となる。
そして、今大会…第26回天下一武道会もその歴史は繰り返された。
「やれやれ…初戦で全宇宙最強の男が相手とは俺もとことんついてないな。今回も一回戦負けか?」
言葉こそ自虐的なものだった……が、その顔は明らかに今までのヤムチャの顔ではなかった。
最強の男である悟飯が相手だというのに、何故かその表情は不安や絶望と取れるものではなく、むしろ自信があるように見える。
「ヤムチャ、気になったのだが…ソンゴクウの息子…ソンゴハンというのはそこまで強いのか?」
マーリンはずっと疑問に思っていたことを口に出す。
「ああ、強いな。はっきり言っちまうと、悟空以上だと思う」
「…なんだと?スーパーサイヤ人3であるソンゴクウを更に上回る戦闘力だというのか!?」
「んーとさ…戦闘力、って要するに気の大きさだよな?それなら、間違いなく悟空以上あると言えるな」
ヤムチャの話によれば、推定戦闘力1億5000万以上のスーパーサイヤ人3・ソンゴクウ……それより更に次元の高いところにその男…ソンゴハンは立っているという。
もはや、それがどの程度のレベルなのか、実際本気で悟空や悟飯が戦っているところを見たことがないマーリンにとっては、見当もつかなかった。
「しかし…どうやってソンゴハンはそこまで強大な戦闘力を手に入れた?ソンゴクウと同じように、スーパーサイヤ人3にでもなれるのだろうか…」
「いや、そうじゃない。あいつのスーパーサイヤ人は2までが限界だった」
「…?なのに、ソンゴクウ以上の強さ…?」
スーパーサイヤ人2と3では、まるで強さの次元が違うのは、2週間前の悟空の変身を見れば明らかだ。
普通に考えれば、変身が一段階多い悟空の方が、悟飯より強い、と考えるだろう。
だが、ヤムチャは孫悟飯の方が間違いなく強いと断言していた。
不思議そうな顔をしながら質問するマーリンに、ヤムチャが答える。
「確かに、悟飯はスーパーサイヤ人3にはなれない…。けど、あいつにはとっておきの変身がある」




【162話】

「とっておきの?……変身……サイヤ人……まさか…大猿か!?」
かつて幾多の戦場を駆け回っていたマーリンは、月が新円を描く時に限り、サイヤ人が巨大化した猿に変身するのを極稀に何度か目撃したことがある。
たまに見かけるといっても、既に民族としてのサイヤ人は滅びた後の話なので、その姿はほとんど単体だった。
大猿といえども、パワーや破壊力は物凄いが、群れ対群れで争う戦場においては単体だとそこまで脅威ではなかった。
が、もしあの大猿が何百何千の群れで蹂躙していたら…と思うと未だにぞっとする。
マーリン自身は幼い段階で尻尾を切ってしまい、それ以来生えてこなくなったので一度も変身したことはないが、大猿がどういうものかというイメージはしっかりと頭に入っていた。
「はは、バカ言え。大体あいつには尻尾がないだろ。ちなみに、悟飯がその変身を使っても、外見はほとんど変化がない」
結構まじめに考えたのに、ヤムチャはあっさりとそれを否定する。
外見はほとんど変化せずに、力はスーパーサイヤ人3以上…考えても答えが出ないマーリンに、苛立ちが募ってきた。
「…いったい、何だと言うのだ!もったいぶらずに早く教えろっ!」
「やれやれ…まだ分からないか?悟飯はな……俺たちと同じように、潜在能力を開放されているんだ。あの年寄りの方の界王神様によって」
「………!」
外見はほとんど変化がなく、スーパーサイヤ人3を超える変身…ようやく謎が解ける。
「なるほど…そういうこと…」
「そう。だから、あいつは途轍もなく強い」
ヤムチャは続ける。
「スーパーサイヤ人を“超化”と称するのなら…そうだな、この変身は仮に“究極化”とでも名付けておこうか」
ヤムチャが何故か得意げに、勝手に命名した。
「究極化…か。確かに悪くない響きだが…」
マーリンは難しそうな顔をして頷く。
「だろー!とすると…俺は、アルティメット地球人になるわけね…ハハハ…。ここの【樂】の字、【究】にした方がカッコよかったかな…?」
そんなくだらないことで半分真剣に悩んでそうなヤムチャに、マーリンは呆れたように首を振り、下を向いて右手で顔を覆うのであった。
「ヤムチャさん」
呼びかけと同時に、ヤムチャは後ろから不意に肩を叩かれる。
その振り向くと、ついさっきまで話題にしていた悟飯がいた。




【163話】

橙色の胴着を着ていて、首から下だけ見れば、悟空と見分けがつかないような体格をしている。
「お、悟飯か」
「初戦の相手、よろしくお願いします」
そう言って悟飯はヤムチャに握手を求めてきた。
ヤムチャも数秒だけ間を空けて、手を差し出す。
「…ああ、よろしく。あと悟飯、その髪型なかなかイカしてるぜ」
「え…?は、はい…どうも」
ヤムチャは何を思ってか悟飯に向かって軽くウインクすると、悟飯は引きつった作り笑顔を見せて、その場を後にした。
「…今のが、ソンゴハン?」
悟飯が去ってからしばらくすると、マーリンが小声でヤムチャに言った。
「うん。っていうか、お前、前に会ってるぞ」
「そう…なの?」
「悟空と戦う時に、緑色の肌で白いターバン着た奴と、ちっこい子供が遠くで見てたろ。そのちっこい子供が悟飯だ」
思い出すように上を向きながら、マーリンは悟空との戦いの記憶を遡る。
「うーむむ…あまり記憶にない。あの時、わたしはソンゴクウばかりに意識が偏っていたから…」
ふーん、と相槌を打つと、ヤムチャは結んでいた帯を一度ほどき、更に強く結びなおした。
そしてグルグルと肩を回したり、大きく深呼吸をしたりして、落ち着かない様子だ。
「ふふ…ヤムチャ、緊張しているのだな?」
「そりゃ、しない方がおかしいだろ。でもまあ…慣れたかな、どうせいつも初戦はこういう相手だからさ」
ヤムチャは愚痴をボヤくような言い回しでマーリンに言う。
「まあ…よいではないか。遅かれ早かれ、いずれは倒さなければいけない相手なのだし…」
「まあな…」
「それに…いつも修行で、お前の稽古相手を務めている者を、誰だと思っている?」
「………へ、よく言うぜ、こいつ」
ヤムチャはそれを聞いてニヤリと笑う。
マーリンもヤムチャに釣られて笑う。
「さ…そろそろ本戦が始まるぜ。外に出るぞ」
「うん、分かった!」
こうして二人は本会場である外の武舞台に向かって、そして、優勝に向かってゆっくりと歩きだした。




【164話】

パンパン!…パン!

午後1時過ぎ、雲一つない青空に、3発の花火が上がった。
天下一武道会、本戦開始の合図だ。
『実にぃぃぃぃ…!!約、一年ぶりッ……!皆さま、長らくお待たせいたしました!
これより、世界最強を目指し、ここに終結した者たちの熱い…実に熱い戦い!第回26回、天下一武道会を開催いたしまーーーすッッ!!』
審判、兼ね実況、兼ね解説を全てこなす、黒いスーツにサングラスをしたお馴染のアナウンサーが開会の言葉を述べると、冒頭から会場に異常とも言えるほど大きな歓声が上がる。
世界で一番盛り上がる大会だけあって、観客席はギュウギュウ詰めで明らかに過密化していた。
リングは一昔前と比べるとだいぶ広くなっており、そう簡単に場外負けというのは起こらないだろう。
観客席は武舞台と同じ高さで、前よりかなり低くなっている。
これならエネルギー波などをまっすぐ放っても、高さ的に観客に当たることはない。
1年前、ベジータが観客を数百人殺すという事件が起こったせいで、観客席にも安全が配慮されたようだ。
その事件の記憶は、魔人ブウの記憶を地球人の頭から消す時に、同時に消しているが、“何者かによって観客を大量に殺された”という曖昧な記憶だけは残っていたようだ。
『午後1時を回りましたので、予定通り、早速第一回戦……始めたいと思います!!』
観客席からは先ほどより更に大きな歓声が上がり、アナウンサーの声すらかき消されそうになる。
『えー、…第一試合!!…“蘇る狼”…ヤムチャ選手ー!“戦う学生”…孫悟飯選手!!入場ですッ!』
ざわめきが収まらない中、ヤムチャと悟飯がゆっくり歩きながら武舞台の中央に向かう。
ちなみに、この“蘇る狼”や“戦う学生”というフレーズは、アナウンサーが勝手に定めたものではなく、予選を勝ち抜いた選手たちと直接話して個別に決めさせたものである。
『過去に3度も予選を勝ち抜き、本戦に出場したことがあるベテランヤムチャ選手!
対するは、天下一武道会で優勝したことがある、孫悟空さんの息子、孫悟飯さん!前大会はハプニングがあり、残念ながら試合を見ることはできませんでしたが…その実力は未知数です!!』
両者、開始位置につく。




【165話】

「ヤムチャさまーーーーーーーー!!!頑張ってくださーーーい!!」
「おとうさーーーん!頑張れーっっ!!!」
観客席から、一際目立つ、プーアルとシルフの大きな声援がヤムチャの耳に入る。
「はは…ありがとな…プーアル、シルフ…!」
ヤムチャはそう小さな声で呟くと、目の前にいる敵…悟飯の目を睨む。
「よう、悟飯。まともに戦うのは初めてだな」
ヤムチャは緊張をほぐすように、親しげに悟飯に話しかける。
「そうですね、ヤムチャさん…。かつてお父さんのライバルだったそうですから、油断はしませんよ!」
悟飯はそう言うと笑いながらヤムチャに向かって戦闘の構えをとった。
「ははは…過去形かよ、切ないぜ…。ところで、俺考えたんだけどさ、悟飯」
対するヤムチャはまだ構えずに、腰に手を当てながら悟飯に笑い返した。
「…?」
悟飯は神妙な顔つきになる。
ヤムチャは笑いながらも、どこか真剣に悟飯に語りかけた。
「俺とお前がセルや魔人ブウのような闘い…いわゆる、なんでもありの殺し合いをしたら、まず俺はお前に勝てないだろう。やらなくても分かる」
「な…何が言いたいんです?」
じれったく話すヤムチャに、温厚な悟飯の表情も曇ってきた。
「まあ聞けよ。かと言って、武道会のルールに則ってお前に“参った”なんて言わせるのはもっと無理だ。じゃあ10秒ダウンさせる…?そんなことはもっともっと無理だ。俺の攻撃だけでお前がダウンするはずもないだろうしな」
「……」
悟飯は困ったような顔をするが、さすがに少し苛立っているようで、わずかに気が膨らみ始めていた。




【166話】

武舞台の外側には、テントで日陰になっている場所があり、そこに出場する選手たちは溜まっていた。
マーリンは嫌がっていたのだが、ヤムチャにここにいるようきつく言われたので仕方なく悟空やベジータたちと一緒に並んで試合を見る羽目になった。
「ヤムチャのやつ…何を考えているんだ。ベラベラと喋りやがって」
悟空の隣で白いマントをたなびかせているピッコロが、武舞台を見ながら言う。
「くだらん。あの地球人と悟飯の試合なんて、やらなくても結果が分かりきっている」
ベジータが馬鹿にしたように言うと、壁に寄りかかっているマーリンが無言でベジータをキッと睨む。
「…なんだ、何か言いたそうだな」
「………」
マーリンはヤムチャに、絶対に喧嘩はするなとも言われていたので、ベジータのことがムカつきながらも無視をする。
「孫、どうした?さっきから黙りやがって」
ピッコロが先ほどから何も喋らない悟空に、不思議そうに問いかけた。
「…いや、なんでもねえんだけど…ヤムチャがちょっと、気になってな」
チラッと一瞬ピッコロの方を向く悟空だったが、再びその視線は武舞台に戻った。
「ヤムチャ?ああ、予選でクリリンに勝ったようだな。だが、実力が上がっていたとして…さすがに悟飯相手では次元が違いすぎる。あいつのパワーはお前以上だ」
ピッコロは切り捨てるように悟空に言った。
だが、悟空は相変わらず難しい顔をしている。
何故そこまで難しく考える必要があるのかとピッコロは悟空を納得しない表情で見ていたが、ピッコロのその心境を察するように悟空が答えた。
「いやさ、ピッコロ。オラも最初はそう思ってたんだ。けど…」
「けど…?」
「オラの勘が正しければ……――」
「なんだ…?なんだと言うんだ」
悟空はそのあとに何かを言い掛けたが、その後の言葉に確信が持てないのか、はっきりとは喋らず口篭らせている。
もしかしたら、言いかけたのではなく何か言ったのかもしれないが、歓声が騒々しくてピッコロに悟空の声は聞き取れない。




【167話】

『それではァァアァァ!!第一回戦……ヤムチャ選手対、孫悟飯選手!!!試合…開始ぃっ!!!!!!』
アナウンサーの試合開始の声と共に、お坊さんのような格好をした天下一武道会の役員が、大きな鉦を鳴らした。
舞台上の二人に緊張が走る。
だが、まだヤムチャと悟飯は動かない。
いや、あるいは警戒をして動けないのかもしれない。
普通に考えれば、悟飯が一発でもヤムチャに攻撃を与えれば、一撃KO…いや、下手したら死に至るぐらいのダメージは与えられるだろう。
だが、悟飯の中の野生の勘というか、戦いを続けてきた者の独特の直感というか、とりあえずこのヤムチャはいつものヤムチャとは明らかに違うということだけは頭で分かっていた。
それが、“何”を意味しているかまでは分かっていなかったが。
「…悟飯、戦いにおいて、一番怖いものってなんだ?」
ヤムチャは試合が始まっているというのに未だに悟飯に語りかける。
「……なんでしょうね。“怖いもの知らず”という状態が、戦いにおいて一番怖いとぼくは思います」
悟飯はここにきて初めて笑いながら、ヤムチャの問いに答える。
この状況を楽しんでいるのか、もしくはヤムチャを揶揄して笑ったのかは定かではない。
「へえ、なるほど。まさに今のお前ってわけか」
「…ぼくだって怖いものぐらいありますよ」
それを聞いて、ヤムチャもようやく笑う。
しかし、悟飯の笑いとは少し違うものだった。
まるで何か企んでいそうな…どこか不気味な笑みだ。

「…ヤムチャじゃねぇ」
そのヤムチャの笑みを見てやっと確信が持てたのか、悟空はそっと独り言を呟く。
その声にピッコロがすぐさま反応した。
「ヤムチャじゃない、だと?ヤムチャじゃないとしたらあれは誰なんだ」
「いや…ちげぇんだ、ピッコロ。あれはヤムチャだけど…ヤムチャじゃねぇ。オラには分かる…」




【168話】

ここで、ようやくヤムチャが構えを取る。
そして、若干早口になりながら続けた。
「悟飯…お前は確かに強い。気だけを比べたら、俺なんか比較にならないし、悟空以上のパワーをお前は持っている。だが……かと言って、お前は俺に絶対勝てると言えるか?」
その言葉を聞き、悟飯は数秒ポカンとしたような顔をしたが、やがてすぐに先ほどの表情が戻る。
「面白いことを言いますね。…ぼくが、ヤムチャさんに絶対勝てると言えるか、って?……」
悟飯はそう言ってジワジワと体の力を解放していく。
「…やっと、気を解放し始めたな」
かつて、少なくとも魔人ブウをも余裕で倒せるだけはあった、あの途轍もないパワーが悟飯の体にグングンと宿っていった。
魔人ブウを悟空が倒してから修行はしていない悟飯だったが、1年経った今でもそのパワーは未だに圧倒的だ。
「はぁぁぁ………」
悟飯の気はどんどん大きくなっていく。
気を溜め始めてから間もないとは言え、既に戦闘力に換算して、3000万以上のパワーが悟飯の体に溢れていた。
しかし、ヤムチャはこの瞬間…気を溜めるときに、体が無防備になるのを狙っていたのだ。
「…今だ!お前の力を見せてやれ、ヤムチャ!」
寄りかかっていた壁から離れ、拳を強く握りながらマーリンがそう叫ぶのとほぼ同時に、ヤムチャの口も動く。
「んじゃ、ボチボチこっちから仕掛けていくかなッ!」

ボフゥゥゥゥンンンンンッッッ!!!!!

ヤムチャがそう言って、一瞬だけ歯を食いしばると、ヤムチャの周囲50メートルほどの範囲に突風が吹く。
悟飯とは、比べ物にならない速度でヤムチャの気は一瞬にして膨れ上がる…!
「な……?!」
悟飯や悟空たちには今まで感じたことがないほど、爆発的なまでにヤムチャの気が上昇した。
少なくとも、このヤムチャの気は、まだ完全に気が入っていない悟飯を明らかに超えている。
そして、どことなく悟飯と似ている気だった。




【169話】

「ば…バカな……!!?」
ピッコロは信じられない光景を目の前にし、思わず声が裏返る。
ベジータもヤムチャの変化を感じてか、見向きもしなかった武舞台をやっと見始めた。
そして、これを既に予知していたのか、大して驚かなかった悟空だったが、その表情は強張り、冷や汗が垂れる。
「気ぃつけろ悟飯!!そいつはいつものヤムチャじゃねぇ!絶対油断すんなっ!!」
「え…!?あ、は、はい」
焦りながら受け答えする悟飯だったが、悟飯はそのヤムチャの変化に驚き、一時的に気を練るのをやめてしまっていた。
だが、そんな悟空の忠告は逆に裏目に出る。
悟空の声に一瞬でも気を取られてしまった悟飯を、ヤムチャの中の狼は見逃さなかった。

――ドンッッッ!

大きな打撃音の直後、悟飯の体が奇妙な体勢で数十センチ上に浮いたのが見えたコンマ数秒後に、赤いオーラを纏ったヤムチャの姿が悟飯の前に現れた。
その衝撃で、地面が揺れる。
「…気を溜めるときに体が隙だらけになるのは悪い癖だ、直したほうがいい」
「――あ…ぐ……いッッ…!!?」
悟飯は気を完全に込めていなかったのに加え、油断もしていたので意識が飛びそうになるぐらいの激痛が腹部に走った。
ヤムチャは一瞬で悟飯との距離を詰め、悟飯のみぞおちに強烈なアッパーパンチをお見舞いしていたのだ。
宇宙一の戦闘力を誇る悟飯とはいえ、完全に気を込めていない状態で今のヤムチャのパンチをみぞおちにくらったとあれば、さすがにノーダメージとはいかない。
「気のコントロールが遅いな、お前は。マックスパワーを溜めるのにどれだけ時間がかかるんだ?」
ヤムチャは厳しい目付きでそう言うと、腹部にめり込んだ拳を離し、今度は逆の拳で悟飯の顔面を強打を繰り出す。
悟飯はそれを咄嗟に見切って腕でガードし、直撃は免れるが、勢いを殺しきれなかったのか、グラグラと後ずさりをするような形になった。
ヤムチャの攻撃を防ぐために、受け止めた腕がズキズキと痛む。
ガードの上からでも、決して小さくはないダメージが悟飯の体に蓄積していた。
このままではまずい。
そう思って慌てて本気で気を高めようとする悟飯だったが、初っ端のみぞおちへのダメージが大きく、体に上手く力を入れられないでいた。




【170話】

悟飯は決して油断したつもりはなく、最低でもヤムチャに“負けは絶対にない”だけの気はあの時点で溜めてあったはず。
あれだけの気を溜めれば、ヤムチャを圧倒できる…どこかそんな先入観があった。
もちろん、つい最近までのヤムチャから現在を推測すれば、悟飯の読みは間違っていない。
むしろ、戦闘力3000万なら以前のヤムチャを葬り去るぐらいなんともないほどの気だ。
だが、そんな勝手な決め付けこそが、悟飯の油断そのものだった。
体勢が立て直せない悟飯に、ヤムチャは追い討ちをかける。
「…狼牙…風風拳ーーーッ!」
「くっ…!!」
「ハイハイハイハイハイーーっ!」
既に、悟飯とヤムチャの姿は肉眼では見ることができずに、会場には衝撃音と、ヤムチャの掛け声だけが聞こえる。
何十何百発とヤムチャの拳が繰り出され、時折その拳は悟飯の頬や体をかすめた。
「……いつまでも…調子に乗らせないぞ!…っらぁあ!」
悟飯がガードの最中にほんの僅かなヤムチャの隙をつき、鋭いパンチを放った。

ズンッッ!

ヤムチャの胸部に悟飯のパンチが突き刺さる!
その攻撃をくらったせいか、ヤムチャの攻撃がようやくとまった。
「手ごたえ…あったぞ……!」
そう言って、悟飯はにやけながらヤムチャの顔を見る。
だが、そこに映ったのは悟飯以上ににやけたヤムチャの顔だった。
「…これは、パンチのつもりか?悟飯」
「……!?」
ヤムチャはガードもせず、その胸で悟飯のパンチを受け止め、悟飯の放った拳を指差しながら言った。
「今はお前より俺の気の方が高い状態だ。なのに、そんな腰も気持ちも入っていない当てるだけのパンチで、俺を倒せる気でいたのか?」
驚いたことに、ヤムチャはほとんどダメージをくらっていない。


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