">remove
powerd by nog twitter


Saiyan killer2

【141話】

ヤムチャが控え室に入る頃には、既に選手の大半がそこに集まっていた。
あらかじめ胴着や戦闘服でここへやってきた悟空たちはいなかったが、大体80人ぐらいの選手が着替えたり準備運動したりして、予選に備えていた。
「さて、この胴着を着るのも久々だな…」
そう言ってヤムチャは自分が用意してきた着替えをカプセルから取り出す。
その胴着は、いつものように橙色の【亀】という文字が刺繍されている胴着でなかった。
その代わりに、腹部辺りに、大きくはっきりと【樂】の文字が刺繍されていた。
胴着の上は緑色、下は橙色、そして、同じ橙色のスカーフのようなものと、青いリストバンドに白い帯。
そう、これは悟空と武天老子に弟子入りする前までヤムチャが着ていた胴着である。
ヤムチャはパッパとそれに着替え、ギュッと帯を締めると、その胴着を着た自分の姿を鏡で確認した。
「うんうん、なかなかイケてるじゃないか」
一人で納得すると、ヤムチャは先ほどの会場に戻る。
そろそろ自分の試合が始まる時間だ。
参加者が多いだけに、午後からの本戦に間に合わせるため、トーナメント表を貼り出した10分後には試合をするとの事。
ヤムチャが予選会場に戻った頃には、既に戦いを始めているブロックもあるようで、激しい戦闘の音や掛け声が聞こえた。
『Eブロックのヤムチャ選手!そろそろ試合が始まります、おりましたら舞台へお上がりください』
ヤムチャの耳にアナウンサーの声が入る。
辺りを見渡してみるが、マーリンの姿は見当たらない。
おそらくまだ着替えているのだろう。
「まあいいや…マーリンが来る前に終わらせちまうかな…っと!」
ヤムチャはグッと足に力をこめ、軽く跳躍すると、クルクルと体を回転させながら舞台へ着地する。





【142話】

「オォーー!」
「なんかスゲーぞ、あいつ!」
「頑張ってー!マムチャ選手ー!」
ヤムチャのパフォーマンスを見て、周りの選手や観客から歓声があがる。
「おとうさーーーーん!頑張ってーー!」
シルフも舞台のすぐ近くでヤムチャを応援していた。
「今のはファンサービスだ。あと、俺の名前はヤムチャね…。マムチャって誰だよ…」
果たしてヤムチャにファンがいるのかどうか疑問だが、そんなおちゃらけてるヤムチャの前に、対戦相手が現れた。
ヤムチャより、一回りも二回りも体が大きく、全身白い衣装に覆われている…ように見える。
が…衣装に見えたそれは衣装ではなかった。
「ヤムチャ…前に聞いたことがあると思ったら、お前だったか。また俺と戦う羽目になっちまうなんて、運のない野郎だぜ」
「………へ?」
「どうやって甚振ってほしい?腕の骨を折って欲しいか?それとも足の骨か?殺さなければ勝ちらしいからな」
「……えっと、ところでお前怪我してないか?全身包帯巻いちゃって…」
「…これは俺の正装だ。まさかお前と対戦する機会がまたこうやって訪れるとは思っても見なかったぜ。それにしても久しぶりだな」
大男はいかにも自信ありげに仁王立ちしている。
どうやら、ヤムチャと以前戦ったことがあるらしい。
だが、ヤムチャのほうは覚えていないようで、ポカーンとしていた。
「あ…ああ。久しぶり……なんだよな…?お、お前は………えーと……あれだ、あの…なんだっけ………ゾンビ男…いや、違うな…ゾンビマン!キャプテン・ゾンビ!!」
ヤムチャは名前を思い出せなくて、この場で適当に命名した。
「デタラメ言ってんじゃねえ!ミイラくんだっ!」
…センスのかけらもねえな、とヤムチャは思う。
ヤムチャの命名を見る限り、人のことを言えないのはもちろんのことだが…。




【143話】

「お前…俺に負けたの覚えてないのか?占いババ様のところで戦ったじゃねーか」
「占いババ…?あ…、あー、いたいた。確かそんなのいた」
ヤムチャはようやく思い出したのか、手をポンと叩く。
「…まあいい…。すぐに黙ることになるからな」
「ほう、お前がくたばるからか?」
ヤムチャがミイラくんを挑発すると、今まで薄ら笑いをしていたミイラくんの表情が曇る。
「俺を怒らせてそんなに痛い目にあいてえか?」
「どうでもいいけど、ゴチャゴチャ言ってないで、試合でお前さんの実力を示せよ。それともお前は口喧嘩の試合でもしにきたのか?」
「…っ」
ミイラくんは歯を食いしばりながら拳を強く握っていた。
ヤムチャは相手をなめきっているのか、無防備に棒立ちしている。
『それでは、ヤムチャ選手、ゾンビ男選手!試合を始めてください!』
会場にアナウンスが響く。
その瞬間、ミイラくんは猛烈な勢いでヤムチャに突進していった。
「俺は…ゾンビ男じゃねえっ!ミイラくんだっ!!」
体重300キロ近くあろうかという巨体が、一歩進むたびにドスンドスンとどでかい足音をたて、その大きな拳がヤムチャの顔面に迫る。
このままでは間違いなくヤムチャの顔面にその拳が直撃し、顔は文字通りぺちゃんこになるだろう…もし、ヤムチャが普通の人間ならば。
だが…ヤムチャは笑っていた。

ドスンッッ!!

物凄い衝撃音が聞こえ、会場の者は思わず目をそむける。




【144話】

そして、数秒後に恐る恐る舞台上に目を向けると、そこにあった光景は…まるっきり想像と逆のものであった。
ヒットするかに思われたミイラくんの拳は空を切っており、逆にヤムチャの拳がミイラくんの腹部に深くめり込んでいた。
「あげ…はが……っ…!!?」
ミイラくんは声にならない声をあげて悶絶し、そのまま白目をむいてしまう。
「…大丈夫か?一応、おもいっきり手加減しておいたんだが…どうやらそれでも効きすぎちまったみたいだな」
ヤムチャはそう言いながら、ミイラくんの腹部からゆっくりと拳を離す。
「審判、どうなんだ」
ヤムチャは気絶しているミイラくんの体を支えながら審判に言った。
「あ……失礼致しました!息はあるようですので…ヤ、ヤムチャ選手の勝利ィィ!!」
観客や選手から歓声が上がる。
ヤムチャはその歓声にこたえるかのように、わずかに手を上げると舞台から降りていった。
「まあ、勝って当たり前なんだけどね…」
自嘲気味にそう呟くが、どうやらこの歓声にはまんざらでもなさそうだ。
「ヤムチャ」
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。
ヤムチャが振り向くと、そこにはさきほど渡した胴着に着替えたマーリンの姿があった。
腹部には【樂】の文字が印字されている、ヤムチャとほとんど同じデザインだ。
違う点といえば、ヤムチャの胴着より露出度が高いところぐらいだろう。
「体ばかりでかくて、まるで大したことない相手だったな…。生意気な口を叩くからそこそこ腕が立つと思ったのだが」
マーリンは担架で運ばれてるミイラくんを見ながらため息をつく。
「ま…普通の地球人はこんなもんさ。で、マーリン…俺があげた胴着はどうよ?」
「ふふ…サイズもぴったりだし、このデザインも気に入っている。ありがとう…ヤムチャ」
マーリンは目線を少し逸らしながら、恥ずかしそうにヤムチャに礼を言った。
「はは、そいつはよかった!深夜お前が寝てる間にこっそりスリーサイズ測っておいて正解だったな…」
「何か、言った?」
「あ、いや、なんでもない…です」
ヤムチャは誤魔化すように自分のリストバンドを直すフリをしていた。
マーリンは機嫌がいいのか、ふうん、と大して気にも留めず他の舞台上の地球人が行っている試合を見つめている。




【145話】

「お父さん、あんな大きいやつを軽々気絶させちゃうなんて…やっぱり凄いや!」
シルフがヤムチャの足元にしがみつきながら言った。
「はは…ありゃ見かけ倒しだからな。シルフでも勝てるぞ、タブン…」
「え、ほんとに?」
「ああ、おそらくな。いいか、ああいうデカイのってのは大体大振りで攻撃を仕掛けてくるんだ。だから基本的にはカウンターを返すイメージで――」
ヤムチャがシルフに熱弁している間に、マーリンは静かに屈伸運動などの柔軟体操をしていた。
『Hブロック122番、マーリン選手、予選第一試合がまもなく始まります。おりましたら舞台の方までお上がりください。繰り返します―』
アナウンスが入ると、マーリンはヤムチャに背中を向けた。
「いよいよわたしの番か。瞬きする間もなく終わらせてやろう…」
マーリンはそう言って、いつもとは違う戦闘体勢の厳しい顔付きになる。
そのただならぬ表情が目に入り、思わずヤムチャがシルフへの熱弁を中断した。
「お、おいおい…思いっきり手加減しろよ?死んじまうからな…」
「分かっている」
心配するヤムチャだったが、マーリンもそれぐらいのことは心得ていた。
どうやって相手を倒そうか考えながら、マーリンは舞台への階段を上っていく。
舞台に上がってからも、マーリンは顎に手を当てながら、考え込んでいた。
対戦相手は既に目の前にいるが、それには目もくれていない。
『それでは、マーリン選手、イズール選手!試合を始めてください!』
「へっ、初戦の相手は女かよ!けっけっけ、しかもびびって戦おうとすらしてねえ。調子狂っちまうな」
見るからに脇役っぽい男が品のない声をあげると、ようやく対戦相手…イズールがマーリンの視界に入る。
そして、無言でイズールを睨み始める。
「イズーーールーー!手加減してやれよーー!」
「イズールの奴、美味しい相手もっていきやがって…羨ましいぜ」
「なあ、この試合お前はどうなると思う?」
「何いってんだ、言うまでもねえだろ。20秒…いや、10秒でイズールがあの女をノックアウトしちまうさ」
Hブロックの周りには他のブロックより人だかりが出来ていた。
このイズールというのは、どうやら一般人の間ではちょっとした有名人らしい。




【146話】

その観客の声に応えるかのように、得意げにステップを踏みながらパンチの素振りを繰り出すイズール。
「ああ?何黙ってんだよ?…しらねーなら教えてやろうか?俺はこの若さで獅子牙流空手25段、次世代の格闘王と言われているイズールってもんだ。今日はミスターサタンを倒して文字通り世代交代してやろうかってところで…」
自慢げに話すイズールだったが、マーリンは全く話を聞いておらず、黙ってスッと人差し指をイズールに向ける。
「お、なんだ?俺に指なんて指しやがって…やっと戦う気になったか?っつーかお前結構イイ女じゃねえか…へへ、この際わざと負けてやるから試合のあと会場の裏でイッパツ――」
「不快だ、冗談は顔だけにしろ」

ッベチンッッッ!

弾けるような音が聞こえたと思うと、その瞬間突風が吹き、イズールが後方20メートルほど吹っ飛び、場外に落ちた。
前歯は2本とも折れていて、既に意識はない。
会場は何が起こったかわからず、静まり返る。
『な、なんと…本大会優勝候補と言われたイズール選手…ですが、勝手に後ろに吹っ飛び、場外に落ちたため、この試合はマーリン選手の勝利となります…』
「何が起こったんだ…まさかあの女が…?」
「いや、そんなはずはねえ!あの女は一歩も動いてないぞ!」
一時静まり返っていた会場だったが、暫くするとざわつき始め、やがてイズールの登場時以上に騒がしくなる。
「手加減しろって言ったのに…。まあ、死んでないみたいだしいいか…」
人ごみから少し離れたところで、ヤムチャがぼそりと呟いた。
「お父さん、今何が起こったの?全然分からなかった」
シルフが興味深そうにヤムチャにたずねる。
「…今のはな、デコピンだ」
「デコピン…あの、指でやるやつ?」
シルフは指でデコピンのモーションをしながらヤムチャに再度確認する。
「ああ、まさにそれ」
「でも、お母さん相手に触れたようにはみえなかったけど…」
「そりゃ当然触れてないんだから、見えるわけがない」
そのヤムチャの言葉で、シルフの頭に“?”マークが浮かぶ。




【147話】

相手に触れず、デコピンをするという意味がイマイチ掴めなかった。
「うーーん…」
「シルフ、一ついいことを教えてやる。空気だって歴とした物質なんだぞ。当然、触れることも出来る」
頭を悩ませているシルフに、ヤムチャはヒントを出す。
「空気…物質……あ、わかった!高速でデコピンをすることによって、空気を前に飛ばして相手にぶつけたんだ!」
「その通り。いわゆる、軽い衝撃波みたいなもんだな」
そう言って、ヤムチャは誰かが飲んでポイ捨てしてあった空き缶を見つけると、十数メートル離れた所からマーリンと同じようにデコピンでパンパンとそれを打ち抜いて見せた。
「ま、こんな技もあるってわけ」
シルフは感動的な目でその様子に見入っていた。
「全く…あと何回あんなようなのと戦えばいいんだ……」
マーリンが不満を漏らしながらヤムチャとシルフのほうに歩み寄ってきた。
「あと3回勝てば予選通過だ。まあ、お前んとこは18号以外問題ないだろうな…」
ヤムチャがトーナメント表を見ながら答える。
「ヤムチャは、ジュウハチゴウと戦ったことはあるのか?」
先ほどからやたらと18号を恐れるヤムチャに、マーリンは疑問を問いかけた。
「いんや。ただ、18号より弱い20号とは戦ったこと…っていうか、殺されかけたことはある。あれはマジで危なかったな…」
「……。どんな風に…?」
「手で胸を貫かれた。心臓を貫通していたから、本当に死ぬかと思ったぜ」
「……」
「まあ、これは俺が油断してたっていうのもあるけど、あの時の俺じゃ20号とガチで戦っても勝てなかったろうな、絶対…。ピッコロも油断して殺されかけたって聞いたし」
マーリンは黙ってヤムチャの話を聞いていた。
「で、その20号をあっさりとやっつけちまったのが、20号が作り上げた自分より強力な人造人間…17号、18号なんだ」
「ということは…生みの親を…殺したのか」
マーリンは震えるような声で言う。
怒りなのか、悲しみなのか、はたまた別の感情なのか、その表情からは読み取れなかった。




【148話】

「いや、それはちょっと違うな。あいつらは元々人間ベースの人造人間だから、普通に地球人として家庭はあったはず。
それを、20号、つまりドクターゲロに奪われて、本人の意思と関係なく改造されたから、人造人間化しても20号を恨んでいたんだと思う」
ヤムチャは詳しい話を知っているわけではなかったが、自分なりの推測でマーリンに人造人間たちの成り行きを説明する。
「人造人間は冷徹な殺人鬼だとヤムチャから聞いていたのだが、どうやらワケありのようだ…な」
マーリンは意外そうな顔を浮かべながら答えた。
「ああ…。……で、話を戻すけどさ!」
同情するかのように、顔を曇らせているマーリンを見て、ヤムチャは気を遣うように明るく話を戻す。
「さっきも言ったが、18号ってのは超化したベジータがスタミナ切れでコテンパンにやられたってぐらいだ。前に戦った悟空の倍…以上…強いと思っていい」
人造人間は気を持たないため、戦闘力のように数値化するのは難しい話だが、超化した昔のベジータの戦闘力を仮に900万以上だとすると、それより僅かに上…おおよそ1000万以上はあると言っていいだろう。
時代が時代なら、全宇宙最強を名乗ってもいいレベルの強さだ。
「まあ、大丈夫だとは思うけどな…。一応、注意しとけ」
それに対し、マーリンは小さく頷くだけだった。
会場は予選だというのに、既にお祭り騒ぎのように盛り上がっていた。
中でも、各ブロックに一人、あるいは数人いる鬼のように強い謎の戦士たちの試合の行方に観客や選手は注目を集めている。
もちろん、悟空たちのことだ。
『それでは、Eブロック2回戦を始めたいと思います!ヤムチャ選手、クリリン選手!おりましたら舞台にお上がりください!』
Eブロック審判からアナウンスがコールされた。
ヤムチャの目付きが少しきついものになる。
「クリリン…さっきの地球人だな」
「ああ…俺にとっては最初の壁みたいなもんだな、この試合は」
そう言いながら、ヤムチャは今まで一度もしなかった本格的な準備運動をこなし始める。




【149話】

「じゃ…行ってくる」
ヤムチャはマーリンとシルフに背を向けて、舞台の方へと歩いていった。
「お父さん…頑張って!」
シルフは親指を立ててヤムチャに声援を送る。
ヤムチャはチラッと振り返ると、シルフに親指を立て返した。
既に相手のクリリンは舞台の上に立っている。
ヤムチャはその姿を確認すると、一度の跳躍で15メートルほど先の舞台の上へと飛び乗った。
「待たせたか?クリリン」
「いえ、俺も今上がったばっかりですから」
クリリンはいつものように明るい表情だったが、戦いを前に緊張しているのか、目付きだけは笑っていなかった。
『予選の2回戦ながら、これは良い試合が見られそうです!両者ともに、初戦の相手を圧倒的な強さで捻じ伏せた者同士の対決です!おそらく、Eブロック一の好カードでしょう!』
アナウンサーの声にも力が入っていた。
その説明を聞いてか、野次馬たちが続々とEブロックの舞台に近づいてきた。
「お、クリリンとヤムチャか。楽しみな試合だ」
いつの間にか、マーリンの隣に悟空がいた。
「…クリリン…と言ったか、あの背が低い男」
マーリンは悟空に話しかけているのか、独り言なのかどうかわからないような言い方で言った。
「…ああ、オラの親友だ。結構つえーぞ、あいつは。前まではヤムチャよりクリリンの方が強かったけど、ヤムチャは腕を上げたみたいだし、いい勝負かもな、この試合」
その悟空の予想を聞いて、マーリンは思わず表情がにやける。
「いい勝負かも…?ふふ…まあ見ていろ、ソンゴクウ。すぐに分かる」
そのマーリンの自信ありげな言葉を聞き、疑いとも期待とも取れない微妙な表情を浮かべながら悟空は舞台上の二人の姿に注目した。
『えー、調べたところによりますと、お二人とも過去に天下一武道会出場経験者のようです!そして驚くことに、両者とも武術の神様と言われたあの武天老師のお弟子さんだそうです!
これは白熱したバトルが予想できます!』
アナウンサーの解説が入ると、一段と場が騒がしくなる。
武天老師と言えば、格闘家を名乗る者で知らない者はいないと言われるほどの達人だ。
その達人の弟子同士が、予選の段階で戦うことになるなんて、その場に居るものとしては見ないわけには行かないというのが素直な心境だろう。




【150話】

だが、そんなザワメキなど、耳に入っていないかのようにヤムチャとクリリンは集中していた。
「お前と本気で戦ったことって、何気に一度もないんだよな、クリリン」
ヤムチャが手首と足首をグリグリと回しながらクリリンに話しかける。
「そうですね。同門生なのにまともに戦うのが初めてなんて、なんか変な感じがしますよ」
クリリンも柔軟体操をしながらヤムチャに言った。
しばらくの沈黙が二人に流れる。
言葉こそないが、二人は目で会話するかのように、見詰め合う…というよりは、睨みあっていた。
「……最初から、飛ばしてくるつもりだよな?」
ヤムチャがニヤリと笑いながら言う。
「…そのつもりですよ、ヤムチャさん」
クリリンもニヤリと笑いながら答える。
それは、決していつものヘラヘラした笑いではなかった。
二人ともサッと構えを取る。
『それではァ!!ヤムチャ選手!クリリン選手!試合を始めてくださいッッ!――』
アナウンサーが全てを言い終わる頃には、既にクリリンの姿は肉眼では見えない速度で動いていた。
「っつああああッッ!!」
と、ヤムチャの右斜め後ろにパッとクリリンの姿が現れる。
蹴りのモーションに入っていて、腹部に強烈な蹴りを叩き込もうとしていた。
振り向いて肉眼で確認してからガードしていては、ほとんど間に合わない速さだ。
だが、ヤムチャは完全にそのクリリンの気を読んでいた。
「甘いッ!」
クリリンの蹴りのリーチが最大になる前に、ヤムチャはその蹴りを振り向かずして右手で受け止めた。
こんな簡単に受け止められるのが予想外だったのか、クリリンの顔に焦りの色が浮かぶ。
ヤムチャは蹴りを受け止めた際に、一瞬…ほんのコンマ数秒クリリンの体が硬直した所で胸ぐらをがっしりと掴んだ。
そして、その体を力任せに場外に向かってぶん投げる。


つぎの話へ

Indexへ戻る
トップへ戻る