【121話】
「…お前さ、……何杯食った?」
腹も膨れたのか、満足そうにに壁に寄りかかってリラックスしているマーリンを見て、ヤムチャは言う。
「いちいち数えていないが…5杯ぐらいかな?」
「…その2倍だよ。その細い体の何処にこれだけの食いもんが入るんだか…」
鍋いっぱに入っていたカレーはすっからかんとなり、マーリン以外は一杯しか食べていない。
ヤムチャはまじまじとマーリンの腹を見つめる。
食べ終わってからさほど時間は経っていないのだが、既に消化が進んでいるようで、マーリンの腹はほとんど出っ張ってなかった。
胃腸の機能がよほど優れているのだろう。
「力も蓄えたことだし、フルパワーでヤムチャの相手が出来るな。ふふ…死ぬなよ、ヤムチャ」
「はは…大会の前に死んだとあっちゃ、今までの初戦敗退より惨めだな…」
ニヤニヤとしながらヤムチャを見つめるマーリン。
対するヤムチャは苦笑いをしていた。
二人とも冗談っぽく笑っているが、この後ヤムチャは本当に死にそうになるくらいマーリンに甚振られることになる。
―――。
ドドド…ガガガガッッ!
空中に、二つの影が見える。
その影は高速で移動し、ぶつかっては離れ、離れてはぶつかってを繰り返していた。
肉と肉、骨と骨が激しく衝突する音と、風を切る音が、轟音となり静かな荒野に響き渡る。
「ハイハイハイーやッッ!!」
一瞬で数十発と繰り出したヤムチャの拳が、全てマーリンの顔面スレスレで空を切る。
「遅いッ!…はっ!」
何十発目かのヤムチャの手刀を手の甲でガードすると、一瞬ヤムチャの動きが止まる。
マーリンはそこで無造作に体から気を放ち、ヤムチャはその風圧で後方に吹っ飛んだ。
どうにか倒れず踏ん張るが、ヤムチャの表情は強張っていた。
「ち…っ!!」
かなり力を上げたヤムチャなのだが、やはりマーリンにはまだ及ばない。
【122話】
「…はぁ…はぁ……、さすがに…強いな。肉弾戦で正面からまともにぶつかりあってちゃ何をしても歯がたたねえ……!」
「そんなことはないぞ、以前よりかなり技のキレが上がっている。パワーアップ受ける前のわたしではおそらく敵わなかった…」
両者は距離を取り、一時休戦なのか、気を練ることをやめた。
「俺のどこが悪い?マーリンから見た感じだと」
ヤムチャはプライドを捨てたのか、弟子であるはずのマーリンにアドバイスを求める。
しかし、自分の動きとは意外と分からないもので、客観的に見てもらった方が良くない点は分かりやすいのだ。
「うー…ん…そうだな…例えば……」
マーリンは首を傾げながら考え始める。
「わたしが思うに、ヤムチャはこれといった決定打がないのが惜しい。ある程度は追い込んでくるのだが、そこからのパンチ力がヤムチャには足りないのではないかな…?」
「決定打……ねえ。確かに言えてるかもしれない。よく見てるな、お前」
ヤムチャは感心したように言う。
「それから、状況に関係なく肉弾戦に拘り過ぎではないか?力で劣る相手には、わたしが以前ソンゴクウにとった作戦のように、業で翻弄して相手に隙を作り、そこをピンポイントで攻める方がヤムチャもやりやすいはず…」
「なるほど…。トリッキーになれってことね」
ヤムチャはマーリンの説明に首肯する。
これはまさにマーリンの言うとおりだった。
ヤムチャの戦闘スタイルといえば、牽制の狼牙風風拳で相手の体勢を崩し、隙ができたところに単発で強めのパンチや蹴りを入れるというスタイルが多かった。
しかし、これでは狼牙風風拳が相手に通用しなければ、相手の体勢も崩れないし、隙もできない。
つまり、ヤムチャにはそれ以上攻めようがないというわけだ。
結果的に、ヤムチャは雑で無謀な攻めを繰り返すことになり、それが自分の隙となってしまう。
そして、気づいたら防戦一方になってしまい、何もできずに負ける。
大げさに言うならば、ヤムチャは猪突猛進で隙だらけだった。
「俺は攻めパターンが限られていたのか…だから格上には善戦すら出来なかったわけだな…」
【123話】
力のない子供が、力のある大人に単純に真っ直ぐ突っ込んでいっても、結果は目に見えている。
そんな当たり前のことすら気づけなかった自分が、少し情けない気すらした。
以前、マーリンに『お前の攻撃は分かりやすい』などと偉そうなことを言っていた自分がなんだか恥ずかしくなってきた。
「……このやり方じゃ、俺は悟空や悟飯どころか、ベジータやピッコロにすら勝てない…か」
言葉こそ自嘲的なものだったが、ヤムチャは落胆とも絶望ともつかない表情で、むしろ何かを見据えているような顔つきだった。
「でも…今、自分の悪い点に気づけたわけだからな。まだ改善のしようがあるってわけだ…この残り10日の間に!」
ヤムチャはマーリンには気づかれない程度に僅かにはにかんだ。
それに気づいたのか気づかないのか、マーリンも僅かに笑う。
「ふふ、そうだな。そこを少し自分で考えながら、戦術を練ってみるといいかもしれない、ヤムチャは…」
マーリンはヤムチャにそう告げると、再び構えを取る。
「組み手の続きをやるぞ!次はわたしが言ったことを踏まえて、かかってくるんだ!」
ヤムチャは数秒だけマーリンを見つめて黙考するが、すぐに吹っ切れたのか、やがて自らも構えを取る。
「ああ…!バリバリやらせてもらうぜ、マーリン!……っうらぁぁあ!!!」
掛け声とともに、界王拳を使わずして戦闘力100万近くはあろうかという、ヤムチャの体がマーリンに向かい、躍進する。
まるで、獲物を追う狼のようなその目つきは、若き頃…自信に満ち溢れていた頃の輝きを取り戻していた。
「こい、ヤムチャ!」
再び二人の肉体と肉体は激しくぶつかり合い、お互いの体を傷つけあう。
だが、それとは対照的に、二人の気持ちは傷付くことなく、むしろ修行を重ねることによってより一層強くなっていった。
【124話】
―――そして、時日は流れ、大会前日の夜…。
辺り一面に湯気が立ち込め、ボンヤリとだがくっきり人の形が見える。
ヤムチャたちは前に訪れたことのあるオアシスにいた。
前と同じように気のエネルギーで水を加熱して、人口の温泉を作って温まっている。
「ふー…実に心地よい…。それにしても、わたしの湯加減は最高ではないか?ふふ…褒めてくれていいのだよ、ヤムチャ」
気持ちよさそうに大きなため息をつくと、マーリンは歌うようにヤムチャに話しかけた。
マーリンは大胆にもオアシスの端っこに寄りかかりながら、両手のひじを地面に掛けている。
誰も見ていないが、当然上半身の大事なところも丸出しとなっていた。
「あ、あ、ああ…最高、最高だよ。だからずっとそこにいろよ?こっちにくるんじゃないぞ?」
ヤムチャは何度も念を押すように言った。
マーリンの目の前には、肩まで潜って自分に背を向けてるヤムチャがいた。
ほとんど肌なんて見えないが、少し耳たぶが赤くなっているのは、お湯で熱いせいなのか、それとも……?
そんなヤムチャを、なんとなくかわいく思えてきたマーリンだった。
「いよいよ…明日だな」
ヤムチャは背中を向けながらマーリンに喋りかける。
「ああ…。わたしたちは、やれるだけのことはやった。あとは明日、後悔しないように精一杯戦うだけだ」
「うんうん、俺は俺で色々戦法を考えたしな…って…うわ……!」
いつの間にかマーリンがヤムチャの真後ろまできていて、その手がヤムチャの肩にそっと乗せる。
冷たいわけではないのに、ヤムチャはヒヤッとした感覚だった。
そして横目でチラッとその手を見ただけなのだが、白くて実に綺麗な肌をしていた。
「お、おい、急になんだよ!裸なんだぜ?俺たち!」
ヤムチャは動揺しながらも、ちょっと嬉しそうに叫ぶ。
【125話】
「ふっふっふ…そいつはすまなかったな?」
その慌てようが実に面白くて、マーリンはそう言いつつ更にべったりとヤムチャにくっついた。
マーリンの上半身がヤムチャの背中に覆いかぶさるように触れる。
「ぎゃああああ!!!!」
叫ばずには言われなかったのか、先ほどより更に大きい声でヤムチャは喚き散らす。
それを見て、あっはっはっは!と大声で笑うマーリン。
しばらくしてからようやくヤムチャは落ち着き、話を元に戻した。
「今日は一切修行はせずに休んだから、体のコンディションはバッチリのはずだ。天界の塗薬も塗ってあるから、体のアザもほとんど治ったしな」
自分の体の状態を確認しながらヤムチャは言う。
マーリンもそう言われて、自分の体を見渡してみた。
確かに今まであった修行で出来た青いアザは消えていて、白い肌だけが見える。
「なあ、ヤムチャ…」
マーリンはヤムチャのすぐ後ろで囁く。
「うん?」
いつもより近くで聞こえるマーリンの声に、ヤムチャは少しだけドキドキしてきた。
「負けるなよ…お前の仲間たちに…もちろん、ソンゴクウにもな!」
「…ああ。負けない。お前も負けるんじゃないぜ」
いつもと変わらない声だったが、はっきりと分かる力強い声。
「ふふ、誰に言っているのだ?当たり前だろう」
マーリンはその声を聞いて安心した。
「見ろ、マーリン。星が綺麗だぞ!」
ヤムチャは空を指差す。
マーリンが空を見上げてみると、そこには無数の星が光輝を放っていた。
「…美しい夜空だ。わたしの星の光も見えるかな…」
「ああ…。目を凝らせば、きっと見えるはずさ」
二人はくっ付きながら、しばらくその夜空を見つめていた。
いつの間にか、お互いの手を強く握りながら…。
【126話】
――。
まだ午前8時だというのに、既に会場には数万人の人だかりが出来ている。
そのほとんどは、先着100名限定と言われているミスターサタンの直筆サイン入りTシャツが目的のようだ。
同時刻、会場の外れに一台の車が止まる。
「…久しぶりだな、選手としてこの大会に足を運ぶのは」
そう言いながら、運転席から姿を現したのは、全身スーツでびしっと決めているヤムチャだった。
「何度も言うが…ずいぶんと肩が凝りそうな服装だな、ヤムチャ…」
助手席からマーリンがそっと降り立つ。
マーリンはヤムチャにこの前買ってもらった服を着ていた。
なんだかんだで気に入ってるらしい。
後部座席からは、シルフとプーアルが飛び出すように出てきた。
「い、いいんだよ!あとでどうせ着替えるし…」
ヤムチャは若干不満そうに言うと、車をカプセルの状態に戻した。
「それから…この遅い乗り物に乗った意味も教えてもらいたい。途中まで普通に飛んできたのに…わざわざ会場の少し手前でこれに乗り換えたのは何故だ?」
「だってさあ…車に乗って来た方が、傍から見てかっこよくないか?」
「………」
そんな他愛もない話をしながら歩いているうちに、ヤムチャはふと視線の先に、人ごみの中歩く悟空たちの姿をとらえた。
「お、あれは悟空たち!おい、マーリン、シルフ、プーアル。悟空たちに合流するぞ」
ヤムチャはそう言って、若干小走りで悟空たちのもとへと駆け寄っていった。
他の者もそれについていく。
【127話】
「やあ、みんな!悟空とピッコロ以外は久しぶりだな!」
見渡せば見渡すほど、懐かしい顔ぶれが並んでいる。
悟空、悟飯、悟天、チチ、牛魔王、ビーデル、クリリン、18号、亀仙人、ウーロン、海がめ、ベジータ、ブルマ、トランクス、ピッコロ。
ヤムチャはいつものお調子者キャラで仲間たちに挨拶を交わす。
「オッス、ヤムチャ!」
悟空は一番に挨拶を返すが、ベジータとピッコロと18号はいつも通りヤムチャを無視していた。
悟空は続ける。
「今は気を抑えてるみてえだけど、オラには分かる。この短期間で相当鍛えてきたな…おめえら」
「はは…まあな」
本当は修行だけじゃなくて潜在パワーを引き出してもらったおかげの方が大きいんだけど…とヤムチャは心の中でつぶやく。
他の者もヤムチャの声に反応し、その方を向いたが、やがてその視線はすぐヤムチャの背後に居る見覚えのない者…マーリンに移っていた。
「ピッコロさん……あの、ヤムチャさんの後ろにいる人…」
「ああ、間違いない。以前孫に勝利した女だ」
ピッコロと悟飯は周りに聞こえないように静かに言葉を交わす。
そして、その集団の中からひょっこりと背の小さい男が前に出てくる。
もう昔とは似ても似つかないフサフサヘアーで、腕には泣き喚く子供を抱えていた。
「お。クリリンじゃないか、懐かしいな」
「お久しぶりです、ヤムチャさん。…ところで、なにげにカワイイ女の子連れてますね!新しい彼女ですか?」
クリリンは肘でヤムチャをツンツンとやりながらやらしい顔つきで言う。
「あ、ああ…彼女というか奥さんというか…こいつは…その、あれだ、うん」
ヤムチャは喋りながら頬を赤らめると、語尾にいくにつれて段々と声が小さくなっていった。
「え?何て言いました?声が小さくてよく……」
「あーーーーーーーーーーーーーーっっ!!その子はあの時の……!?!?」
そのとき、突如ベジータの隣にいた女性が大声を出しながらマーリンを指差した。
【128話】
「…ブルマ、か」
ヤムチャはどこか寂しげな顔でその名を呟く。
マーリンは自分のことを指差しているブルマに気づき、その顔をしばらく見つめていたが、ようやく以前彼女と会った時の事を思い出した。
「どこかで見たことあると思ったら…あの女…。そうか、ソンゴクウと戦う前に少し出てきたあいつだな。あの様子だと、やはり、ベジータというサイヤ人の王子と…」
女の勘は案外当たるもので、マーリンは以前初めてベジータとブルマを見た時から、あの二人はくっつくのではないかと踏んでいたのだ。
どこか勝ち誇ったような顔をし、ブルマを見ながらマーリンは微笑する。
「な…何よ!今笑ったわね!何がおかしいのよ!」
ブルマはツカツカとハイヒールの音をたてながらマーリンに歩み寄っていった。
「地球の女…ブルマ、と言ったかな?お前がそこのサイヤ人と仲良しになってくれたおかげで、わたしとしては非常に好都合だった。礼を言わせてもらうよ…ふふ」
マーリンはベジータを横目で見ながらブルマに向かって言った。
「な…好都合ですって?どういうことよ、それ…!」
おそらく、分かってないフリをしているだけで、マーリンの言う好都合という意味がブルマだけには分かっているのだろう。
ブルマはマーリンの顔を物凄い形相歯軋りしながら睨むが、マーリンは一歩も退こうとしない。
騒がしくなってきた所でようやくベジータがマーリンの存在に気づいたのか、組んでいた腕を下ろしてマーリンに歩み寄り、ザッとブルマの前に出る。
「おい、貴様…!…以前、そこの地球人と一緒に居た、サイヤ人殺し…“サイヤンキラー”のマーリンだな…?」
ベジータにしては珍しく声を荒げて、マーリンに食いつく。
言うまでもなく、そこの地球人とはヤムチャのことだ。
数年ぶりとはいえ、さすがにマーリンはベジータの顔と声を覚えていた。
「ふふ…ずいぶんと懐かしい話をしてくれるな、ベジータ。その件に関しては、とうの昔に手を洗ったのだが?」
興奮気味のベジータに対し、マーリンはそれほど熱くならずに答える。
【129話】
「おいおい、サイヤ人ゴロシ…って?悟空、ベジータのやつは何言ってんだ?それにあの女の子…なんかブルマさんやお前とも面識あるみたいだし…どういうことだよ?」
クリリンはこの流れについていけず、悟空に訊ねる。
あとで説明する、とだけ悟空はクリリンに言うと、何が楽しいのか口元を緩めながらベジータとマーリンの会話に再び聞き入ってしまった。
他の者もクリリンと同じようなことを胸に思っていたが、話しかけにくいムードで聞き出せない。いきなり現れた女性と、それを連れてきたヤムチャ、初対面と思いきや以前から因縁がありそうな悟空やベジータ…それにピッコロと悟飯もこそこそ話しているし、何か知ってそうだ。
クリリンたちの頭は益々混乱する。
そんな中、ベジータの気がわずかに膨らみ、周囲数メートルの空間が歪みはじめていた。
だが、当然そんな程度で怖気づくマーリンではない。
「フン…まあいい。それよりどうして貴様がここにいる。そして、ここにいる目的はなんだ。答えてもらおうか」
「いちいち説明するのも面倒だ。自分で勝手に想像しろ」
マーリンは言葉少なくベジータに返す。
偶然にも、いつだか自分が言った事のある台詞をそのまま言われてカチンとくるベジータ。
一方マーリンの方もしつこくベジータに絡まれて頭にきてそうな感じだった。
今にも喧嘩が起こりそうなところに、ヤムチャが仲裁に入る。
「はいはいはいはい、そこまでー!ベジータもマーリンも昔のことは水に流そうぜ、せっかく久しぶりにこうやって顔を合わせるんだからさ。あんまり良い思い出とは言えないかもしれないけど…」
「どいてろ、貴様には関係のないことだ。サイヤ人の王子として、この俺がこいつを――」
と、そこで全て言い終わる前に悟空がベジータの肩にポンと手を置く。
【130話】
「まあいいじゃねーかベジータ。もう手ぇ洗ったって言ってんだしさ。どうしてもってんなら、試合でケリをつけようぜ。戦士らしくよ?」
悟空が宥めると、ベジータは舌打ちし、再びマーリンを数秒睨み、一人控え室のある方向へと向かっていった。
「チッ…!覚えておけ、試合で必ず貴様を叩き潰す。たっぷりと前の礼をしてやるぜ…クソッタレ」
と、捨て台詞を吐きながら。
「やれやれ…恨まれたものだ」
マーリンはその後ろ姿を見ながら、呆れたように言う。
その様子を見てヤムチャもマーリンに声をかけた。
「ははは…あいつ、プライドめちゃくちゃ高いからな。前にお前に負けたこと、そうとうショックだったんだろ。大目に見てやってくれ」
たしかに、ベジータにとっては余りにも屈辱的だった敗戦だった。
悟空とマーリンの決闘に勝手に割り込み、そして数分としないうちにマーリンに捻じ伏せられた。
そして、地球もろとも吹っ飛ばす決死の覚悟でギャリック砲を放つが、マーリンに跳ね返される。
結局は死にそうになったところを、悟空の瞬間移動によって助けられるという、誰がどう見ても恥ずかしいかませ犬でしかなかった。
そのベジータも、あの時点とは比べ物にならないほど心身ともに強くなっているのだが。
だが、ベジータを構うヤムチャにマーリンは納得がいかなかった。
「ベジータはわたしと共にこの星を消そうとしたんだぞ…?わたし自身、もうサイヤ人に対する恨みの念はさほどないのだが…あいつには微塵も好意を寄せれそうにもないな…」
そう言ってマーリンは控え室に向かい歩いているベジータの背中を睨む。
「そう言うなって。あいつ自身、お前がいない間に結構成長したんだよ。家族のために、命と引き換えに魔人ブウを倒そうとしたりな…」
「……。わたしには、関係のないことだ」
マーリンは一瞬何か口ごもったが、そう言って、ベジータを認めようとはしなかった。