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Saiyan killer2


【101話】

「あの…気付いているだろう?」
明らかに自分を無視している大界王神を相手に、横から声をかけるマーリン。
「お主…そんな服を着たままわしの術を受けようというのか?」
大界王神は深刻な顔付きになっていた。
「服…?ああ、確かに惑星クリケットで修行している途中で戦闘服に着替えたが…それに何か問題があったのだろうか…」
「大有りじゃい!そんな服を着ていたら、胸やクビレのラインがよく見えんではないか…オマケに露出も少ないとあってはモチベーションも下がるわい…」
「…………そう」
マーリンは大界王神が何を意図して言っているのかよく分からなかったが、物凄く下らないこじ付けをしているのだけは、なんとなく想像が付いた。
冷たい視線で大界王神を見つめるマーリン。
同じように界王神、シルフ、プーアルも冷たい視線を大界王神に送る。
ヤムチャだけは彼の言っていることにちょっと納得していた。
「あ、そうかい。そういうことなら別にいいんじゃよー?わしはこのまま昼寝でもしようかなー?」
大界王神はその場で寝転がると、肘を地面につきながら昼寝の体勢に入ろうとした。
「…着替えればいいのか」
マーリンは折れたのか、ため息をつきながら大界王神に言った。
「そーいうことじゃ」
「分かった…」
マーリンは力なく頷くと、少し離れた木陰まで武空術で飛んでいく。
時間の無駄だと思ったのだろう。





【102話】

ヤムチャから偉い人と聞いていたので、まさかこんな不意打ちがくるとは思いもしなかった。
ぶっ飛ばしてやろうかと思ったぐらいであったが、そんな事をする時間すら惜しいとマーリンは感じていた。
マーリンは木陰に入ると静かに服を脱ぎ始める。
遠くでその方向を凝視する大界王神だったが、木が邪魔で着替えを見ることが出来ない。
「わし…神眼で覗いちゃおうかな」
「ダメです」
「相変わらずかたいのう…面白くない奴じゃ」
「かたいとか面白くないとか、そういう話じゃありませんよ…これ」
「フン。ギャグの通じん奴め」
「…どう見ても本気だったじゃないですか」
「いいや、ギャグじゃ」
いつの間にか界王神同士で言い争いが起きていた。
それを聞いていたとシルフは、これが宇宙で一番偉い人たちの言い争いとはとても思えなかった。
マーリンが着替え終わった頃に、ヤムチャはプーアルを肩に抱きながら、さりげなくその木陰へと移動していた。




【103話】

「とんだ災難だったな」
苦笑いしながら言うヤムチャ。
「全くだ。もしあれがカイオウシンという偉人でなければ普通にぶっ飛ばしていた」
アタッシュケースに戦闘服を詰め、カプセルのボタンを押しながらマーリンが言った。
「はは、おっかねーな。それよりマーリン…髪、切ってやろうか?」
「…え?」
「いや…ほら、長いじゃん、髪。見る分には綺麗でいいんだけど、戦闘だと結構邪魔にならないか?」
予想外だったのか、ヤムチャの突然の提案に悩むマーリンだったが、ちょうどさっき、自分でも髪を切りたいと思っていたところだったのを思い出した。
「…分かった。ヤムチャ…上手く切れる…?」
「ははん、実は俺…若い頃は美容師を目指してたんだぜ?4日で挫折したけど」
「それは、大丈夫と言うのだろうか…ふざけて変な髪形にしたらお前の顔の原型が変わるかもしれないからな…」
マーリンは拳をボキボキならしながら脅しをかけるが、ヤムチャは既にプーアルが化けたハサミを持っていて、やる気満々だった。
渋々ヤムチャの散発提案を承認するマーリン。
「セミロングでいいか?」
「セミ…なに…?」
「んと、肩に届くぐらいの長さって意味だ」
「結構短くなるな…もう少し残したいのだが…」
「じゃあ、胸辺りまででいいかな」
「うん」
大雑把そうに見えたヤムチャだったが、意外と慎重な手付き且つ、素早くマーリンの長い髪の毛を捌いていく。




【104話】

「出来た!短くするだけだったし、俺でも結構スムーズに出来たな」
「ほーう…楽しみだ」
切り始めてから2分ほど経つと、ヤムチャが嬉しそうに叫ぶ。
ヤムチャはかなりゆっくり切ったつもりだったが、常人視点だとありえない速さだ。
超人故に出来る早業である。
「プーアル、鏡に化けてやれ」
「はい!変化!」
プーアルは手鏡に変身すると、フワフワとマーリンの目の前まで飛んでいった。
「…どうですか?マーリンさん」
恐る恐るプーアルがたずねる。
「上出来、だな…意外と」
どうやらマーリンは自分の髪に満足したようだ。
前が長すぎたため、結構ばっさりと切っているが、見た目的には特に違和感もない。
今は初めてヤムチャに会った時と同じぐらいの髪の長さになっている。
もしかしたら、ヤムチャはそれを意識してこの長さにしたのかもしれない。
毛先もしっかりと見栄え良く揃えてあり、なかなか様になっているように見えた。
「んじゃ…修行頑張れよ。ただ座っているだけだけどな」
「ああ、上手くいくといいんだが…」
先ほどのエロジジイの顔が頭に浮かんで、何か変なことをされるんじゃないかと少し不安そうな表情を浮かべるマーリン。
「心配か?大丈夫大丈夫。お前は潜在能力の塊だからな、きっと凄い戦士になるぞ」
そっちの心配じゃないんだけど…と思ったマーリンだったが、口には出さずに再び大界王神の元へと向かう。




【105話】

「待たせてすまない。はじめてくれるか」
マーリンは先ほどの気持ちを心の奥にしまい込み、再び大界王神の前に立つ。
大界王神はそれを見て、大きく頷くと、ジロジロと体をなめ回すように見つめはじめた。
「…うーむ。やはり、お主はいい体格をしとるの。顔立ちもわしの好みじゃ。まあ、そこに座れ」
「……」
マーリンは言われた通り、大人しくその場に座り込む。
しまい込んだはずの気持ちが、再び頭に浮んできた。
果たして、自分はこのきついきつい修行(?)に耐えられるのだろうか。
ある意味今までで一番辛そうな修行に、不安が頭によぎるマーリンだったが、既に大界王神の修行は始まっていた。
「ほれ、集中せい!余計な雑念が混じるとパワーアップ効果も減るぞ」
自分は雑念の塊の癖によく言うヤツだ…マーリンは静かにそう思った。
ヤムチャは腕を組みながら先ほどの木陰に寄りかかり、その様子を見つめていた。
いつの間にか隣に界王神も立っている。
「そういえば、俺の時は儀式に5時間かけていたけど…今回はやらないみたいですね」
ヤムチャは界王神に話しかける。
「ああ…あれは気分の問題だと思いますよ、多分」
「ていうことは……別にやってもやらなくても良いってこと…ですか?」
「おそらく…」
思わず、界王拳を10倍ぐらいまで上げて、ドスーンとずっこけるヤムチャであった。





【106話】

それから3時間ほどが経った。
「88……んくっ…89…!」
ヤムチャは重力発生装置に入り、500倍の重力で基礎トレーニングを始めていた。
既に腕立て伏せと腹筋100回を終え、現在は背筋100回に取り組んでいた。
出来るだけ気は使わず、生身に近い状態で体を徹底的に虐めている。
以前なら、500倍の重力なんて気を入れた状態でも厳しかったのに、今はギリギリトレーニングが出来るレベルにまで力が上がっていた。
一方、マーリンと大界王神は無言で座っていた。
ヤムチャの時は雑誌を見ながら手を翳(かざ)しているだけだったが、今回はそんなものは見ずに、じっとマーリンを見つめ続けていた。
「お主……辛い過去を経験したんじゃな」
「…!?」
何を思ったのか、唐突に大界王神が口を開く。
「故郷をサイヤ人に奪われ、両親も幼いうちに亡くし、皮肉にも父親はその故郷を奪ったサイヤ人だった…。それ故に以前はサイヤ人に尋常じゃない恨みを持っておった。…今は違うみたいじゃが」
「どうして…それを知っている…?ヤムチャから聞いたのか?」
マーリンは少し動揺した。
「いや、聞いとらんよ。人の心の中がなんとなく分かるんじゃ、これだけ長く生きとるとな…」
大界王神はニコニコしながら言う。
その笑顔が以前なら気味が悪かったが、今では何故か優しく感じられた。
何も聞かずして心を読めるだなんて、超能力の類以外では聞いたことがない。
マーリンは初めて、この目の前にいる老人…大界王神が凄い人だと思い始めた。
「確かに…わたしの過去を遡ると、余り良い道を歩んできたとは言えないな…」
どこか暗く、自嘲気味にマーリンは言った。




【107話】

物心ついた頃から、彼女は戦場に居た。
それが当たり前となり、永遠とも思えるような戦いの日々が繰り返されていた。
今ではすっかりなくなったが、戦いにおいて生きるためとは言え、無差別に命を奪っていた時期もある。
そして、宇宙に散らばっていたはぐれサイヤ人を根こそぎ排除してきたという事実も。
昔のマーリンの心は冷徹で、その手は血塗れていた。
地球にやってきてヤムチャと出会ってから、心身ともに全てが変わるわけだが。
忘れかけていた昔の記憶が、少しずつ頭に蘇る。
いや、罪の意識があったため、忘れようとしていた、といった方が正しいかもしれない。
その罪滅ぼしのためか、地球を去ってからは“侵略された星を取り戻す仕事”をこなす様にしていた。
これなら悪者は完全に相手であるため、心置きなく戦える。
かつてサイヤ人に侵略され、破滅の運命を歩んだ自分の星とその星を重ねて、それを守るかのように。
「わ…わたしは……」
上手く言葉に出来ず、出掛かった言葉が詰まる。
「大丈夫じゃよ。もう以前のお主ではない。本当に運が良かったのう、偶然とはいえ地球に降り立ったのは」
「…地球は…ヤムチャは、本当にわたしの運命を大きく変えてくれた」
「そう思っているなら、なおさら自分の運命を恨んじゃいかん。お主が重ねてきた行動や出来事の一つ一つが、結果的にお主をここに導いたのじゃから。言わば必然的じゃったのかもな…お主が地球に行くというのは」
どこか深い話をされて、感傷に浸るマーリン。
「話し込んでしまったな。さて、再開じゃ」
「ああ、頼む…」
次第に、マーリンは大界王神を信じ始めた。





【108話】

「98…99…100ッ!……ふう、早くも全身が筋肉痛だぜ」
背筋100回が終わり一息つくと、ヤムチャは地べたに寝転がった状態で床を蹴り、クルクルと体を回転させながら派手に立ち上がった。
トレーニングは既に3週目を迎えていて、汗で全身がびしょ濡れになっている。
こんな部屋に居ては、何もしていなくても体に負荷がかかるのに、その状態でトレーニングをすることは過酷を極めた。
500倍の重力といったら、常人なら何も出来ずペチャンコに押しつぶされてしまうレベルの高重力である。
体重60キロの人間だったら、その500倍…3万キロ、つまり30トンになるということだ。
体が強くなったとは言え、さすがに飛ばしすぎたか…とヤムチャは思った。
「少し休もう…」
部屋の重力を元に戻すと、体がフッと軽くなったように感じた。
手を羽ばたけば武空術なしでも空を飛べそうな勢いだ。
マーリンの様子も気になった頃なので、ヤムチャは数時間ぶりに重力発生装置から出た。
「ヤムチャ様、お疲れ様ですー!」
プーアルがタオルを差し出しながらヤムチャに近づいていった。
「ああ、すまん」
ヤムチャは礼を言うと、タオルを受け取り体中の汗を拭う。
と、マーリンの方を黙って見つめているシルフに気付き、ヤムチャは汗を拭きながら声をかける。
「シルフ、どうだ?母さんの様子は」
「なんか、凄い集中しているみたいだよ。さっきから微動だにしない…」
そう言われてマーリンを見てみると、確かに完全に精神を統一している。
動いているのは風によって僅かに棚引く髪の毛ぐらいだった。
それを見てヤムチャは意外そうな顔を浮かべる。
「なんだよ、マーリンのヤツ。さっきまであれだけ胡散臭そうにしていたのに」
チェッと舌打ちするヤムチャだったが、言葉とは裏腹に、トラブルもなく修行が進んでいるようでほっと胸を撫で下ろす。




【109話】

「そういえばシルフ、お前もマーリンみたいに強いの?」
何気なく、ヤムチャがシルフにたずねた。
「ぜんぜん…。お母さんは、『お前はわたしよりもヤムチャよりも強くなるはず』って言ってるんだけどね…とてもそこまで強くなれる気がしないよ」
ヤムチャの言葉でシルフは暗い表情になってしまい、何か悪いことを聞いてしまったかのような気がした。
「で、でも…お前はまだ小さいし、多分近いうちにグーンと力が伸びると思うぜ?マーリンの言うように、俺たちを超えるぐらいのな。サイヤ人の血も引いてるしさ」
「そうかなあ…」
「そうさ。まあ、5歳6歳でもスーパーサイヤ人になれる化け物もいるわけだが…そういうのは例外で…」
すると、シルフは何かを考え始めたが、すぐに答えが出たみたいだ。
「お父さん…大会が終わったら、ぼくに稽古つけてよ!」
一瞬驚くヤムチャだが、すぐに笑いながら答える。
「はは、そういう所はマーリンそっくりだな、お前。俺の稽古は厳しいぜ?」
「うん…大丈夫だから!見てよ、ぼくだってロウガフウフウケンできるんだから!」
ヤムチャから少し距離をとると、自慢げにブンブンと拳を振り回すシルフ。
確かにスピードはまずまずといったところだが、実戦で使えるレベルには到底なかった。
「仕方ねえなあ…まずは狼牙風風拳より、基礎トレーニングで肉体の鍛錬をする。それから精神統一と、俺の肩揉み。どう?やれそう?」
「うんっ!約束だからね!」
目を輝かせてシルフはヤムチャに抱きつく。
やれやれと呟くヤムチャだったが、内心は自分自身もシルフの成長を楽しみにしていた。




【110話】

それから…時間は流れ、マーリンが座りだしてから丸一日が経とうとしていた。
やりすぎて何セット目かすら分からなくなったトレーニングを終えると、ヤムチャが重力発生装置から出てくる。
重力は500倍では物足りないらしく、650倍まで上げていた。
「そろそろ…あいつも終わる頃かな」
ヤムチャはマーリンの方に視線を向ける。
相変わらず、目を瞑ったまま岩のように全く動かないマーリン。
よほど集中しているのだろう。
ヤムチャとマーリンは不眠で修行に打ち込んでいたが、プーアルとシルフは疲れたのか眠っている。
「そろそろええぞ…マーリン」
とうとう大界王神が口を開いた。
マーリンのパワーアップが終わったのだ。
その言葉を聞き、ゆっくりと目を開けるマーリン。
長い間目を瞑っていたため、眠っていたわけではないのだが数秒間景色が霞んで見える。
ぼんやりと見える大界王神の顔。
マーリンは完全に視力が回復すると、黙ってその場に立ち上がった。
そして自分の手先から足先まで、ゆっくりと見渡す。
「違う。手、足、いや、体全体の感覚そのものが違う」
「そりゃあ、わしがパワーアップさせてやったんじゃから当たり前だ。ほれ、早速スーパーなんちゃらの要領で気を入れてみい」
「む…普通にスーパーサイヤ人に変身すればいいのだろうか?」


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