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鬼ヤムチャ



プロローグ

一人の長髪の男が空を突き抜けるほどにそびえ立つ塔を登っている。
蒼く澄み渡る空に朱色の胴着が映える。男の表情は希望と緊張がないまぜになった、
進学や就職を控えた青年のようだ。
荷物は小さな袋を背中に携えているだけ。
男は汗を流し息切らせながらひたすら塔の頂上を目指す。

しかし、男の真の目的は塔の頂点ではなく漢の頂点。
そう、天下一武道会優勝。悲願達成へ――――。




其の一

(俺はとうとう野球選手になってしまった――――)
球場のロッカールームでユニフォームに着替える男は心の中で呟いた。
男が着替え終わるとチームメイトが近づき、笑顔で握手をした。
「お前がテスト入団で入ってきたヤムチャか。何でも化け物並みのフィジカルを
持ってるらしいじゃねぇか」
「なぁに・・・俺なんかあいつらと比べればプリント用紙さ」
「んん?お前以外にもっと凄いやつがいるっていうのかよ」
その時、他のチームメイトが会話に加わり、
「こいつはこの前の天下一武道会でベスト8だったらしいぜ」
「えっ!?あのピッコロ大魔王が参加して街もろともぶっ壊したっていう、あの?」
「・・・よしてくれよ。過去の話さ」
ヤムチャは照れを隠すように右手をさっと上げ、ロッカールームを後にした。
「って言ってもよ・・・あれって一年前だよな?」
チームメイトのひとりがぼそっと呟いた。




其の二

ヤムチャのプロデビュー戦は8回裏に代走で出場したが、足元がお留守であることが
災いして牽制球でアウト。ほろ苦いデビューであった。
チームメイトたちは「ヤムチャの能力を生かすにはスタメンで4番ファーストしかない」
と監督へ申し出たが、実績のない者をいきなり4番にするわけにはいかないとして却下。
ヤムチャもアルバイト感覚で入団したのでそんな責任の重いポジションはゴメンだと
思った。
ヤムチャは同僚の食事の誘いを断り、帰路に着くべく車に乗り込もうとしたとき、
「ヤムチャさん!」
背の低い坊主頭の男が声をかけてきた。
「おお!クリリンじゃないか!試合見に来てくれたんだな」
「ええ。ヤムチャさんの勇姿、しっかり目に焼き付けましたよ」
「そうか。それはうれしいな。・・・どうだ、これからメシでも食いにいくか?奢るぜ!」
「本当ですか!?ヤムチャさん、ゴチです!」
クリリンは嬉々として車のドアを開け助手席のシートに潜り込んだ。




其の三

ヤムチャが選んだのはカウンター10席ほどの小さなすし屋。しかし、その店は知る人ぞ
知る隠れた名店なのだそうだ。隠れ家へ招待され狂喜するクリリン。
一通り食事を終え、雑談を繰り返す内に話は盟友である孫悟空の話題になった。
「なぁ、クリリン。悟空に子どもができたそうだな」
「ええ」
「時が経つのは早いよなぁ・・・つい最近までガキだった悟空がな」
「そうですね。美人の奥さんゲットして、しかも世界の救世主ですよ」
「あいつはいつも俺たちの一歩先を行ってるよな。スタートラインは一緒だった
はずなのに」
ヤムチャはそう言うとグラスに残っていたビールを一気にあおった。




其の四

「持ってるモノが違うんでしょう。悟空、しっぽ生えてますし」
 おどけた調子で応えるクリリン。
「だよなぁ・・・あいつが大猿に化けた時は殺される!と思ったもんだよ。けれどなぁ・・・」
ヤムチャは空いたグラスを見つめ、当時の情景を思い出している。
「・・・ひょっとしてヤムチャさん。差が開いたのは天界の修行があったからだと・・・?」
「・・・いや、悟空は人一倍努力しているとは思うが・・・しかし、仮に俺たちも悟空に
同行して天界で修行していたらと思うと・・・」
「そうですねぇ・・・いや、止めましょう。現にピッコロを倒せたのは悟空だけでしたし、世界を平和にした。あいつがナンバーワンですよ」
クリリンのその言葉を最後に店を出た二人。クリリンはお礼を言い、二人は店先で別れた
ヤムチャの後ろ姿を見送るクリリンの目にはその背中がいつもより大きく感じた。
ヤムチャはひょっとして天界へ行くつもりなのか―――しかしクリリンは瞬時にその
着想を振り払った。背中が大きく見えたのはヤムチャの決意の為ではない。俺にご馳走
してくれたからだ、と。




其の五

かつて武術の神と謳われた亀仙人の家(通称:カメハウス)にクリリンは居た。
世界は平和になり、特に武術の修行をするモチベーションもなかったが、
他に行く当てもなかったので居候をしている。
ヤムチャがプロ野球選手として活動すると聞いて以来、クリリンはテレビで試合を
必ずチェックしている。
しかし、デビュー戦の日に食事をしてから一ヶ月、試合でヤムチャを見ることはなかった。
まだレギュラーで活躍するのは難しいのだろう、と思っていた矢先、ヤムチャの恋人
ブルマがカメハウスを訪れた。
「ブルマさん、お久しぶりです。あれ?今日はお一人ですか?」
クリリンの挨拶を聞くと、ブルマは曇った表情になり
「ここじゃないのね」
「えっ?どういうことですか?」
「・・・実は一ヶ月前にヤムチャったらこんな手紙を残して姿を消したのよ!」
ブルマはバッグから茶封筒を取り出しクリリンに渡した。




其の六

ブルマへ

オレはしばらく留守にする。
このままではオレはきっとダメになる。
いつかお前を失う予感がしてならないんだ。
お前にふさわしい漢になって絶対に戻ってくる。
再びナンバーワンになる為に―――

ヤムチャ

「これって・・・」
言葉を失うクリリン。
「・・・ヤムチャさん、ナンバーワンになったことないような・・・」
クリリンは亀仙人のペットの海ガメと目を見合わせ軽くため息をついた。




其の七

「これはヤムチャの矜持の問題じゃな」
それまでリビング奥のロッキンチェアーでくつろいでいた亀仙人は、おもむろに
立ち上がり二人と一匹に近づいた。
「そう言われてみれば・・・ヤムチャの奴・・・」
ブルマが何かを思い出して言葉をつなぐ。
「オレはサッカーで例えれば日本代表だ。アジアでは強豪でも欧州南米の強豪には
 まるで歯が立たない。せめて世界に通用するフィジカルと技術があればオレも
天下一武道会でベスト4になれる!って言ってたわ」
「そうだ!この前一緒に食事した時も、悟空が強いのはひとりだけ天界で修行したからだ、
 というようなことを言っていたような・・・(それ言ったの俺だったか?)」
ブルマの発言に呼応して、クリリンは一ヶ月前のすし屋での一部始終を語った。
「まぁ、あれじゃな。ヤムチャは修行に出たんじゃな。平和な世の中なのにご苦労な
 こったのぅ」
亀仙人は手を自身の肩にやり、コリをほぐしながら再びロッキンチェアーに座った。




其の八
「ということですから、ブルマさんも心配なさらずに・・・」
クリリンはヤムチャの失踪が修行目的であることを確信し、ブルマを慰めた。
「心配なんかしてないけど、野球チームからの電話がしつこいのよ。期待のホープ
 だから早く復帰して欲しいって・・・まったく、やっと世間で居場所が見つかったと
 思ったらこれだもの。呆れちゃうわね!」
ブルマは一気にまくし立てると、出されたアイスコーヒーを口にした。

その頃、友人や恋人の心配(?)をよそに、ヤムチャは仙人が住むと言われるカリン塔の
頂上にいた。
カリン塔の主である仙人カリンはヤムチャの天界行きの要請を拒み続けていた。
「しつこい奴じゃのぅ、おぬしも。世界の危機でもないのにむやみに人間を上へ
 やってはいかんのじゃよ」
「・・・カリン様。確かに今は平和な世の中かもしれません。しかし、いつピッコロを
超える悪が世界を蹂躙するとも限らない。準備は怠らない方が良い。俺は超神水も
飲んだ。きっと神様との修行にも耐えられる!」




其の九

「おみゃーさん、あの水飲んだ後すぐに気持ち悪ぃ、気持ち悪ぃ言うて吐き出した
 でしょうが。あれは飲んだ内に入らんでしょう」
ヤムチャがカリン塔に来てからというもの、毎日このやりとりを見せられている
ヤジロベーという名のカリン塔に住み着いている青年は呆れつつも毎度のつっ込みを
ヤムチャに入れた。
「わかってないぜヤジロベー。肝心なのはあの味を知っているのは俺と悟空だけだと
 いうことさ」
「・・・味見した程度で強くなれるなら神様に修行してもらわんでも充分でしょうに」
ヤジロベーは一歩も引かないヤムチャへ哀れみと諦めを込めた目を向けた後、
「いい加減こいつを天界に上げさせてやったらええでしょう?」
カリンの下あごを撫でながらヤジロベーも天界行き許可を懇願した。
「んん、まぁ、なんじゃな。あまりにもしつこいし、一度神様に掛け合ってやらん
こともないかな」
喉をごろごろと鳴らしながらカリンは観念したように目を瞑った。




其の十

ヤムチャが天界の神殿にある「精神と時の部屋」と呼ばれる一室に入り早3日が経った。
筋力トレーニングや座禅といった基礎的なメニューをこなすが、なにより食料庫、ベッド、
バストイレ以外何もなく、空気が薄く寒暖差の激しいだだっ広い白い風景が精神を圧迫する。
神様が「孫悟空でさえ一ヶ月しかもたなかった」と言っていたのを身でもって理解した。

―――お主とは以前下界で手合わせして以来、気にはなっていた。
―――では神様、改めて稽古をつけていただけるのですね!?
―――そうしてやりたいのはやまやまなのだが、神というのはこれでも中々多忙なのだよ。
   現に、孫悟空の修行はミスター・ポポにまかせっきりだった。
―――そうだったのですか・・・
―――ミスター・ポポは今病気療養中で相手は無理・・・ヤムチャよ。お主、
   「精神と時の部屋」に入ってみてはどうだ?

ヤムチャはふと天界に初登頂したときのことを思い出し、再び瞑想にふけるのであった。




其の十一

「精神と時の部屋」の話を神様から聞いた時、不安よりも先に部屋の中での環境に耐え
られる、という確信がヤムチャの心の中で湧いた。
豪華な食事も綺麗な女もいらない。俺は砂漠の狼なんだ、と。
天下一武道会で優勝し、絶対にナンバーワンになる。この一心のみがヤムチャを
過酷な修行へと駆り立てるのであった。

――ヤムチャが天界へ修行に行ってから4年が経過した――

実際にはヤムチャが天界で修行した期間は「精神と時の部屋」で過ごした2日だけで、
その後の消息は不明。
ブルマの元へも戻らず、カメハウスに立ち寄った形跡もない。
クリリンはじめ友人たちは「きっと居心地が良くて天界に住み着いているのだろう」と
思っていた。

そんなある日、一人の長髪の男がカメハウスを訪れた。

しかし、それはヤムチャではなかった。




其の十二

鎧を身に着けた黒ビキニ姿の長髪男はラディッツと名乗り、孫悟空の息子である孫悟飯を
人質にとり姿を消した。
圧倒的な気(戦闘力)を持つラディッツ。悟空より先にラディッツと対面していた
ピッコロ大魔王(以下ピッコロ)は悟空と手を組めばラディッツを倒せると主張し、
それに同意した悟空と共にラディッツの元へと向かった。

その頃ラディッツは―――

悟飯を宇宙船の中に閉じ込め、食料を確保しようと出発するところであった。
自身の持つスカウターが悟飯の戦闘力を700近く計上するというアクシデントに
見舞われたが、何のことはない、スカウターの故障だろうと気持ちを落ち着かせた。

その時であった。

一人の男がラディッツの前に立ちはだかった。




其の十三

「地球人にしてはありえない気を察知したから見に来てやったぜ」
亀仙流の胴着を身に包んだ男は自信に満ちた表情でラディッツを一瞥した。
「その服装、カカロットと同じだな。大方奴に援軍を頼まれたのだろう」
ラディッツは不適な笑みを浮かべてスカウターのスイッチを押した。
「戦闘力・・・177。この星の者にしては高い方だな。ハハハッ」
「カカロットだ戦闘力だワケのわからんことを言っているが、悪さをする奴は
 月に代わってお仕置きだぜ!」
「フン!こんな辺鄙な星、元から興味なぞない。カカロットさえ連れて帰れば
 それで良いのだ」
「そうかそうか。その願い叶うといいな。しかし、貴様が悪さをしないという
保障はどこにもない。念には念を入れてこの俺の力を少しだけ見せてやろう」
亀仙流の男は気を開放した。




其の十四

「なっ・・・何だと!戦闘力がどんどん上がっていく。1000・・・2000・・・」
驚愕の表情で男を見つめるラディッツ。受け入れ難い現実を目の当たりにし、
ラディッツは怒りと焦りを抑え切れなかった。
「はっはっはっ!真の漢(おとこ)の力をしっかり見ておくがいい!」
亀仙流の男はさらに力を入れた。
「戦闘力・・・4649!・・・嘘だ。スカウターの故障に決まっている!」
「ヨロシクか・・・洒落てるな、オレ」
「うおおおおっ!」
ラディッツは雄たけびをあげると、電光石火のスピードで男の懐に近づき右の拳を
男の左頬に撃ちつけた。
微動だにしない男。
「それは君の故郷の挨拶かな?では私も」
男はラディッツの右腕を己の右手で掴むと、勢いよく2〜3回上下に振った。
「うわぁっ!腕がもげるぅ!」
「そいつは失礼」
男は笑顔で手を離した。




其の十五

「はぁはぁ・・・貴様は一体?・・・」
息切らせ腕に手を遣るラディッツ。
「オレか?・・・俺が誰であるかすでにお前も知っているだろう。武術の王にして
漢(おとこ)の中の漢、ヤムチャとは俺のことだ。気の狂うような修行を経てオレの
存在は神をも超えた。想像を絶する力を手にしてしまったので隠遁生活をしていたが
骨のありそうな奴の存在を察知したので来てやったまでさ」
ヤムチャは得意満面の笑みで語ると、腕を組み空を見上げて遠くを見つめている。
(馬鹿な!地球にこんな実力を持つ者がいるとは!・・・誤算だ。しかし待てよ・・・)
恐怖と後悔が交錯する心の中でラディッツは一計を思いついた




其の十六

「いやぁ、もちろん知っていますとも。ヤムチャさんを訪ねる為にはるばる宇宙から
 やって来たんですから」
ラディッツは精一杯作り笑いをし、揉み手をしながら言葉を続ける。
「我々は宇宙各地から選りすぐりの戦士を募集しています。色々と手広くやっていますが
 ヤムチャさんなら即戦力でご活躍いただけるかと・・・」
「おだてはいい。俺は地球から出る気はないからな。とっととカカ何とかを連れて
くに(故郷)に帰るんだな」
ヤムチャは対峙したラディッツの実力が予想の域を出なかったので、もうここにいる
必要もないと言わんばかりに足早に去っていった。




其の十七

(た・・・助かった)
ラディッツは安堵の表情で近くの岩に腰を下ろした。
するとまもなく悟空とピッコロがやってきた。

―――死闘の末―――

ラディッツ退治に成功はしたが、孫悟空というかけがえのないヒーローを喪った。
ピッコロは悟飯を預かり、来るべき一年後に備えることにした。
しかし、ピッコロにはひとつ気になることがあった。
ラディッツの元へ向かう途中、ラディッツの他にもうひとつ、短い時間ではあったが
巨大な気があったことを。
悟空も同様に察知したが、気のせいだろうと言ってその場は治まった。
が、やはり気になる。
探し出して協力を仰ぐべきか―――
ピッコロ大魔王ともあろうものが得体の知れないもに近づき頼み事をしようなど
堕ちたものだ、とピッコロは苦笑し、その存在を忘れることにした。


506 名前:鬼ヤムチャ[sage] 投稿日:09/06/28(日) 22:05 ID:GDMxv4uE
其の十八

天界には悟空の盟友たちが集っていたがヤムチャの姿はなかった。
神様から以前ヤムチャが修行に来たことを告げられたが、全員そのことはヤジロベーから
聞かされていたので驚かなかった。
ヤムチャは相変わらず誰の前にも姿を見せない。
ラディッツの遺したスカウターで捜索してみるものの、ヤムチャは完全に気を消している。
しかし、神様だけは知っていた。ヤムチャのその真意を。
「精神と時の部屋」に耐え切った漢が得た力。
全てを凌駕するその力を悪用することされることを畏れ隠遁する決意をしたその心意気。
ヤムチャこそがナンバーワンである。
あの世で修行し帰還する予定の悟空との対戦を天下一武道会で見てみたいものだ。
神様はそのことを想像するだけで少年のように心が躍るのであった。




其の十九

そして、神様は一行を「精神と時の部屋」へ案内した。

しかし、全員一ヶ月もたなかった。

神様は諦めて直々に稽古をつけることにした。
仲間たちはヤムチャが「精神と時の部屋」に入ったことにより一気に老け込んでしまった
ので姿を消したのだろうと噂した。

一年後

ついに二人のサイヤ人が地球に降り立った。
髪を逆立てた小男とスキンヘッドの大男。
大男は挨拶代わりに街をひとつ消し去った。
二人は悟空を待ち受けるべく戦闘に適した場所へと移って行った。




其の二十

サイヤ人の元へ次々と到着するZ戦士達。しかし、ヤムチャは来ない。
大きい方のサイヤ人は一行を見渡すとピッコロを指差し、
「おい、ベジータ。あいつナメック星人だぜ」
相方へ言葉を投げかけた。
「なるほど。ということは貴様がヤムチャだな」
ベジータは一年前にスカウターで傍受していた内容を思い出しピッコロを睨んだ。
「何のことを言っているのかさっぱりわからんな」
ナメック星人であるという指摘よりもヤムチャに間違われたことに怒りを隠せないピッコロ。
ナメック星人の説明をベジータから受けても、Z戦士達はそのことより何故ベジータと
いう男はヤムチャのことを知っているのか?その方に驚きを隠せなかった。
Z戦士達のどよめきをよそに大男のサイヤ人は小瓶を取り出すと中身の種を地面に埋めた。




其の二十一

「この星の土は良質だから強えーサイバイマンができるぜ」
大男は種を6粒埋め終えるとビンの液体を土に撒いた。
すると、6体の生物が次々と土からかえった。
大男曰く、パワーだけならラディッツに匹敵する能力だとか。
最初に天津飯がサイバイマンと対決し、実力者の名にたがわぬ圧倒的な差で
サイバイマンを1体撃破した。

その時であった。

ひとすじの光が遠方よりこちらへ向かってきた。
「ヤムチャさん!」
クリリンは思わず裏返った声を発した。




其の二十二

「みんなお揃いで何をやっているんだ?」
ヤムチャは現場へ着陸するとさわやかな笑顔をZ戦士達に振りまいた。
「何をって・・・今までどこにいたんですか!みんな心配してたんですよ!」
クリリンは久しぶりの再開を喜びヤムチャに抱擁した。
「すまなかったなクリリン。邪悪な気を感じたんで来てみたんだが、どうやら
 非常事態のようだな」
「貴様がヤムチャか。へへへ、ちょうどいいや。俺が相手してやるぜ」
大男は自分の顔を両手でパンパンと叩き気合を入れるとヤムチャに向かって歩き始めた。
「待てナッパ!そいつを侮るな。まずはサイバイマンに戦わせろ!」
ベジータは大男を制止した。
「けどベジータよぅ・・・たしかあいつの戦闘力は5000近かったじゃねぇか。
 サイバイマンじゃ勝てねぇだろ」
ナッパは歩みを止めてベジータに振り返った。




其の二十三

「地球人は戦闘力を自在に変化させることができる。あの時の数値が奴の
 限界かどうかもまだわからん。まずは様子見だ」
「・・・ちぇっ」
ナッパは軽く舌打ちをすると、あごでしゃくってサイバイマンに指示を出した。

「何が何だかわからんが、奴らは相当貴様を警戒しているようだな」
ベジータとナッパのやり取りを見たピッコロはヤムチャを得体の知れないもののように感じた。
「何でだろうな・・・ああ!あの鎧・・・あの時の奴と同じ・・・」
ヤムチャは全てを悟るとサイバイマンの方へ歩き出した。
と同時にヤムチャの独り言を聞いたピッコロも全てを理解した。
「あの人・・・前にどこかで見かけたような・・・」
悟飯は記憶の糸をたどり寄せている。しかし思い出すことはできなかった。


「懲りずにまた来たようだな。いいだろう、少しだけ稽古をつけて差し上げよう」
ヤムチャは気を開放し亀仙流の構えをとった。
周辺で野草をつまんでいた小鳥たちはヤムチャの気に気圧されるように
一斉にその場を飛び立った。
それを合図にサイバイマンの一体が猛然とヤムチャに襲いかかる。
ヤムチャは涼しい顔でサイバイマンの攻撃をかわすと、溜めの少ないかめはめ波を
放ち一蹴した。
かめはめ波をまともに喰らったサイバイマンは、勢いよく吹き飛ばされると仰向けに
倒れ込んだ。
「ヤムチャさん凄い!」
勝利を我が事のように喜ぶ餃子。クリリンとハイタッチをした。
「さぁ、次にお仕置きして欲しいのは誰かな?」
ヤムチャは残りのサイバイマン4体に向かってにじりよる。

すると―――

倒されたはずのサイバイマンが急に起き上がり猛スピードでヤムチャの背後に抱きついた。




其の二十四

「なんだとっ!」
不意を喰らったヤムチャであったが、すぐに冷静を取り戻し
「おイタがすぎるぜ」
サイバイマンを振りほどこうとした時であった。
「何をボケっとしてんだ!お前たちもやれ!」
ナッパは大声を張り上げて4体のサイバイマンに指図した。
すると、残りのサイバイマンたちは一瞬躊躇したものの一斉にヤムチャに飛びついた。
「まずい!」
ピッコロが叫ぶと同時に5体のサイバイマンは大爆発をした。

大量の砂埃が宙を舞う。

Z戦士達は唇を噛みしめながら砂埃の舞う一点を凝視していた。




其の二十五

爽やかな春風が砂埃を彼方へ運ぶと、そこにはくの字になって倒れているヤムチャの
姿があった。
「くそっ!」
悔しさのあまり血が出るほど拳を握り締める天津飯。
「自爆に巻き込まれる奴は・・・“不運”(ハードラック)と“踊”(ダンス)っちまったのさ」
ベジータは起き上がる気配のないヤムチャを不遜な笑みを浮かべて見ている。
「これでカカロットが来るまで存分に遊べるってもんだ」
舌なめずりをするナッパ。
「ヤムチャさん!」
クリリンは一心不乱にヤムチャの元に駆け寄り、心音と脈を確認した。
「・・・・・・生きてる」
「何だとっ!」
クリリンの一言に唖然とする一同。
「気絶しているだけみたいだ」
「野郎・・・俺がとどめを刺してやる!」
いきり立ったナッパはヤムチャに飛びかかろうとした。




其の二十六

「そいつはほっておけナッパ!」
気の短い相方に若干苛立ちを覚えながらベジータは叫んだ。
「何故だベジータ!」
「奴が目覚めた時に死んでも消えることのない恐怖を見せてやるのさ」
「・・・へへっ、アンタも相当ワルだぜ」
「そういうことだ」
ベジータとナッパは顔を見合わせると下衆な笑い声を発した。

ヤムチャが気絶している間に餃子と天津飯が絶命した。
結果としてヤムチャは己の力を過信し油断したことによって救えたはずの命を救うことが
できなかった。




其の二十七

ヤムチャは正気を取り戻すとひとつのことに気がついた。
―――あれ?そういえば悟空がいないぞ
今まさにナッパとの戦闘を開始しようとしていたピッコロ、クリリン、悟飯の
三人に恐る恐る近づくヤムチャ。
「オホン!・・・さっきはすまなかったな、みんな。でも、もうあんなヘマは
 しないぞ!」
ヤムチャは咳払いをし、照れを隠しながら威勢よく復活宣言をした。
「フン!貴様がしっかりしていれば餃子と天津飯だけでなく孫悟空も無駄死にせずに済んだものを」
ピッコロは軽蔑の目を遠慮なしにヤムチャへ向けた。
その発言を不得要領に聞き入るクリリンと悟飯。
「意外に早いお目覚めのようだな」
4人のやり取りを確認するとベジータは、
「ヤムチャ!貴様にも真の恐怖を味わせてやろう!」
ベジータはナッパとピッコロ達より少し離れた場所へヤムチャを誘導した。




其の二十八

「お前にヤムチャ呼ばわりされる筋合いはないぜ」
これから踏み入れる未知の領域を前に興奮を極めたのだろう、ヤムチャは見当違いの
発言を対峙するベジータに放った。
それをさらりと無視してベジータは
「カカロットが来るまでだ。たっぷりかわいがってやるぞ」
「おい!そのカカ何とかって奴は何者なんだ?」
「ん?・・・貴様、仲間から何も聞いていないな?まぁ、何者か知る前に貴様は
息絶えるわけだがな」
「どちらが息絶えるかはやってみなければわからんさ」
ヤムチャはぼろぼろになっている胴着を引きちぎると、持てる力を全て開放した。




其の二十九

これが神をも超越した漢の力か―――大地は震えおののき空間は熱気のあまり歪んでいる
ようにみえる。その圧倒的な威圧感は少し離れたピッコロ達にもひしひしと伝わった。
「戦闘力14800か。少しは楽しめそうだな」
ヤムチャの戦闘力を測り終えると、ベジータは乱暴にスカウターを投げ捨てた。

―――そして戦いが始まった。―――

この戦いが一人の女性をめぐる恋の戦いの幕開けでもあったことなど当時のふたりには
知る由もなかった。




其の三十

両者の攻防が文字通り火花を散らす。しかし、戦闘力において上回るベジータが次第に
リードを広げていった。
「はぁはぁ・・・何ということだ・・・「精神と時の部屋」で俺は遥かにウデを上げたというのに」
ヤムチャは息を切らせ己を凌ぐ実力者を前に悔しさをあらわにした。
「さて、そろそろお仕舞いにするか」
疲労を一切見せていないベジータは右手に力を込めてエネルギー波を打つ構えをとった。
「・・・しかたがない。とっておきの“アレ”を使うか」
ヤムチャも右手に気を集中させ繰気弾を作った。

「死ね!」
「繰気弾!」

青春の血潮とでも呼ぶべきふたつのエネルギーの塊が激しい勢いで衝突した。



其の三十一

ふたつのエネルギーは相撲のように力比べをしたが、やがてヤムチャはベジータのエネルギー波に
力負けしてしまうことを悟ると、繰気弾を素早く上空へ操りエネルギー波を避けようとした。
しかし、エネルギー波のスピードはヤムチャに近づくにつれて加速し、まもなく
ヤムチャを直撃。ピッコロ達のいる方へ弾き飛ばされた。

「ヤムチャさん!」
ヤムチャの体はちょうどクリリンの前で横たわった。その姿を見て今度こそヤムチャは
終わった、とクリリンは直感した。
「向こうは終わったようだぜ」
厄介者が片付いたことに嬉しい様子のナッパは一気呵成に出た。





其の三十二

その後―――

ピッコロが命を落とし、絶体絶命かと思われたZ戦士達であったが悟空が到着。
紆余曲折あったものの悟空はナッパとベジータを撃退した。

ピッコロが死亡したことにより、神様とドラゴンボールも失ってしまったZ戦士達。
しかし、ナメック星のことを思い出した一同はミスター・ポポとブリーフ博士の尽力で
ナメック星へ行くという一縷の望みを手にした。

まず、クリリン、悟飯、ブルマの三人が旅立った。
ベジータとの戦いで重症を負った悟空は全快した後に追うこととなった。






其の三十三

一方、我らがニューヒーローヤムチャは―――

ベジータとの死闘で一命は取り留めたものの、恐怖によるものなのだろうか、
記憶喪失にかかっていた。
しかし、全てを忘れたわけではなく、修行を決意したこと、「精神と時の部屋」でのこと、
サイヤ人達との決戦という一番重要な出来事が頭の中からすっぽりと抜け落ちていた。
ヤムチャの強大な力はナメック星へ行くには絶対に必要だ、とクリリンと悟飯は
必死に説得したが、ヤムチャはそれを単なるおだてであり、自分が同行しても
足を引っ張るだけだ、留守を預かる方が適任だとして固辞した。
そう、ヤムチャは己の実力が前の天下一武道会の時のままであると思い込んでいるのだ。
ヤムチャは時折この4年の月日を細部にいたるまで思い出そうと記憶の底をまさぐってみる。
が、そうすると決まってベジータの影がヤムチャに襲い掛かり脱力する。
その度にヤムチャは言い知れぬ不安と隠遁していた期間を埋めるかの如くピンク街へと
出向き女体をむさぼるのであった。






其の三十四

悟空がナメック星へ旅立った翌日、ヤムチャは行きつけの風俗店でお気に入りの嬢から
ある話を耳にした。
「それでね、廃墟になったその街にはまん丸の乗り物があって・・・」
「ふ〜ん、そんなのがあるんだ」
行為を終え、服に着替えているヤムチャは気のない返事をしている。
「そうだ!その写真が載ってる雑誌があったっけ」
嬢はスキャンティ姿で立ち上がると奥の棚から一冊の雑誌を持ってきた。
「ね?消えた街に不思議な乗り物!これは宇宙人が地球を・・・」
ページを開き記事に見入るふたり。
呆然とその写真を見つめていたヤムチャだったが、ふと脳髄の奥から電撃が一閃
ほとばしる感覚が走った。
「・・・俺も行かなきゃな」
「え?イク?もう一回やるの?」
「また会えるといいな」
ヤムチャは嬢を軽く抱擁すると足早に店を出て行った。





「鬼ヤムチャ」サイヤ人編完


続編;ノー・エクスペクテーションへ

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