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操気弾は飛んでゆく

 

 


167 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/06 02:17 ID:aHnS1GnI

 私は決めた。この洞窟を出る。しかし、今までのように逃げるためでは無い。第二の出
発のためだ。もはや人間との交流などどうでも良い。自分の好きなように生きる、そう決
めたのだった。
「ありがとう諸君! 俺は勝手気ままに生きる事に決めた!!」
 ぽかんと口を開ける考古学者達に別れを告げ、私は洞窟を出た。すると、出迎えたのは
突き刺さるような光を放つ太陽。この時、今なら何でも出来るような気がした。例え、あ
の太陽を敵に回しても勝てる。
「好き勝手に生きるって決めただけで……こんなに自信が溢れてくる! これからは思う
存分楽しんでやるぞ!」
 頭に浮かんでくるフレーズを次々とわめきながら、私は無作為に飛び続けた。これがな
かなか気持ち良い。それに飽きると、今度は鳥と競争をした。まるで相手にならなかった
が。その次は、海中を冒険した。魚の集団を驚かせたり、海底火山の観察はなかなか楽し
かった。しかし、やがてこれにも飽きてしまった。
「次は何をするかな〜。何しろ俺は自由なんだ、止められる奴はいない!」
 どのくらい時が経ったかなど、どうでも良い。一瞬一瞬、迫ってくる現在を全力で相手
する。これが当時の私だった。

 海中から出ると、近くに漁船があった。なかなか珍しいので、少し覗いてみる事にした。
「獲れますか〜?」
 わざと怪談を話す時のような声で、船員に話しかける。体格だけなら主人より大きいそ
の男は、情けなく腰を抜かしていた。
「おっ…おっ…お化けェ!!」
「その通り…俺は海の魔物よ。魚をいじめるお前らをとっちめに来た」
 我ながらの名演技。船員は叫び声を上げる間もなく、泡を吹いて倒れてしまった。実に
面白い。今度の暇つぶしは、これに決めたのだった。



168 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/06 02:18 ID:aHnS1GnI
 どこかの海岸に出る。すると、人気の無い岩場で二人きりになっている男女がいた。ど
ちらも水着姿。近寄って、話しかけてみる。
「なかなかに良いムードですね〜」
「うわッ!?」
「何よ、これ!」
 驚いた男は体をのけぞり、後頭部を岩にぶつけてしまい失神した。一方、女は意識を失っ
ている男を見捨て、よたよたと岩場から逃げてしまった。何とも哀れな末路。
「いや、面白いな。リアクションに個性があるし、当分楽しめそうだ」
 
 その後は、放浪しながら人々を驚かす日々が続いた。北から南まで、都会から田舎まで、
山から谷まで、老人から子供まで、あらゆる人を驚かせた。全く飽きが来ないのだ。その
理由は、何と言っても人間達のリアクションにある。本当に人それぞれなのだ。
 一番多いのは、叫び声を上げて逃げる人。心臓の弱い奴は失神してしまう。だが、全く
驚かない人間もいたし、殴りかかられた事もあった。時には考古学者の時のように喜ばれ、
写真を撮られそうになったりもした。無理に人間と歩調を合わせる必要は無い。こういう
生き方が自分には合っている、そう思い始めていた。
「さて、次はどこへ行こうかな……」
 適当に彷徨っていると、険しい岩山に辿り着いた。人の気配は無い。だが、こういう山
には大抵修行をしている僧や武術家がいる。そういう人間の方が、かえって私に恐怖する
のだ。霊やお化けの類には慣れているはずの僧侶が泣き叫んだり、不屈な精神を持つはず
の武術家が裸足で逃げ出す様は、何とも滑稽である。
 この岩山へも、そういう期待を持って訪れたのだが、いくら探しても人間はいない。
「ここはハズレだな…」
 他へ移動しようとしたその時、それは居た。人間である。いや、正確には人間では無い。
ターバンとマントを羽織り、鍛錬を重ねている緑色の肌をした生物。



169 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/06 02:18 ID:aHnS1GnI
「初めて見る生き物だ…。ちょっくら挨拶していくかな」
 上空から、そして背後から、少しずつ緑の生物との距離を縮めてゆく。この未知の生物
がどういうリアクションを取るか、非常に興味があったのだ。
「…背後に何かいるな」
 接近は見抜かれていた。感覚は敏感なようだ。
「チッ…なかなかの達人だな。主人ほどじゃないにせよ、な……」
「ほう、エネルギー弾の分際で口を利くのか」
「なっ!?」
 私をエネルギー弾と認知している。背中に目でも付いているのか。驚かせるはずだった
のに、逆に焦らされている。そして、その生物は振り返った。
「何の用だ…」
 この生物、一言で表すならば“邪悪”。平気で世界中の人間を殺しそうな、そんな瞳を
している。とても直視出来ない。
「うぐぐ…何者だ? お前…!」
「俺はピッコロ大魔王。十ヵ月後に、世界を支配する男だ! よく覚えておくんだな…」
「ピ、ピッコロ…!」
 主人から聞いた事がある。恐るべき妖術を使い、一時は世界の王に君臨した大魔王。主
人の仲間である孫悟空によって倒されたと聞いていたが、こんな山奥で生きていたのだ。
もしそうだとすれば、この凄まじい邪気も説明出来る。
「喋るエネルギー弾とは興味深いが…今は貴様のようなゴミを相手にしている暇は無い。
さっさと消えろ」
 この言葉に、私はいささか憤りを感じた。私は断じてゴミなどでは無い。
「魔王と言えば聞こえは良いが…ゴミはお前の方なんじゃないか? ピッコロ」
「ほう…。貴様、死にたいようだな!」
 かくして戦いは始まった。これが、第二の主人ピッコロとの出会いだったのだ。



191 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/08 23:07 ID:a2s2kMHY
>>169
 かつては世界を恐怖のどん底に陥れた大魔王。しかし、孫悟空に敗北してからは、岩山
でこそこそ暮らす負け犬の日々。私は上り坂、彼は下り坂。勝てる自信はあった。と言う
より、私の勝利は必然とさえ思っていたのだ。
 ピッコロは何の構えも見せなかった。余裕の表れか、それとも策があるのか。
「このピッコロの魔王たる強さを見せてやろう…どこからでもいいぞ?」
「ふん、そうさせてもらおうか」
 すぐさま私は地面に潜った。いくら強かろうが、地中の敵の居場所は掴めない。つまり、
私の攻撃は全て不意打ちになるのだ。当然ながら、勝率もぐんとアップする。
「なるほど、地中か…。これは確かに厄介だな…」
 口調には、妙な余裕が感じられた。気にはなったが、上り坂の私にはハッタリにしか聞
こえない。ピッコロには私の居場所は分からないはず。いつ地上へ飛び出すかも分からな
い。今、大魔王は地雷原に放り出されたようなものである。
 地中からはピッコロの位置が手に取るように分かる。初めの位置から全く動いていない。
いや、恐怖で動けないのだ。そうに決まっている…勝てる。
 長い旅行の中で、私の飛行速度は格段に上昇していた。今の攻撃スピードならば、先読
みしていなければ避けるのは難しい、いや不可能。
 敵に自分の居場所は分からない、自分の攻撃速度は先読みしていない限り反応出来ない。
この二拍子が揃っている限り、私に負けは無い。地中の中で、この勝利の方程式を幾度も
反芻した。勝てる、勝てる、勝てる。そして、飛び出た。
「ハァッ!!」
 地上に出た私の目の前にあったもの、それは拳。ピッコロの緑の拳が私を的確に狙って
きたのだ。
「悪いな…俺は見えない場所でも感じ取れるんだ」
 何とか直撃は避けるも、拳の威力によって体の一部が削り取られてしまった。クリーン
ヒットしていれば、砕け散っていただろう。



192 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/08 23:08 ID:a2s2kMHY
「どうした? 何で俺の飛び出る位置が分かったんだ…ってところか、フフフ…」
「くっ………!」
「もっとやってやろうか? 今、俺の後ろに鳥が三羽飛んでいる」
 大正解だった。ピッコロの背後、遥か彼方には三羽の鳥が舞っていた。ぐうの音も出な
い。たった一度の攻防と、パフォーマンスで完全にピッコロに主導権を握られていた。も
はやピッコロが上り坂、私は下り坂。
「ち、ちくしょう…!」
「感謝するぞ、暇潰しにはもってこいだったからな…」
「舐めやがって…。だったら、正面からだ!!」
 奇襲が通じないのなら、正面突破。ヤケになったのでは無い。これは賭けだった。世界
を旅していた時、偶然見かけた玩具。それをヒントに思いついた新技、それを大魔王相手
に試そうとしたのだ。
「まだ足掻くか…」
 私は形を円盤状に変えた。更に回転しながら飛ぶ。そう、これはフリスビーを模した技。
自分でも、どれくらいの威力かなど分からない。行き当りばったりである。
「形を変えただけか、驚かせやがって…」
 真っ直ぐ向かっていく私を、ピッコロは右手で掴もうとした。掴まれたら、一巻の終わ
りである。そう思った次の瞬間─────
 ピッコロ大魔王の五指ならぬ四指が吹き飛んだ。
「な、何だと…?」
 指を失った右手を見て、呆然とするピッコロ。最大のチャンス。私はそのまま右腕を肩
口から斬り落としてやった。ボタリと、地面に落ちる右腕。
「やった……やったぞォォ!!」
 私は勝利を確信した。土壇場で出した新技で、再び上り坂に立ったのだ。予想外の逆転
であった。



193 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/08 23:10 ID:a2s2kMHY
「ピッコロ大魔王敗れたりィ! 片腕が使えないのが戦闘において、どれだけのハンディ
キャップになるか知らない訳ではあるまい!! いやぁ、偶然の産物だったが良い技だ。
白旗かい? それとも降参? はたまたギブアップかァ!?」
 主人と戦った時も、セロリシティの市民達に罰を与えた時も、この感覚は得られなかっ
た。絶対的不利に陥った相手を見下す、この快感。何しろ、相手は同情の余地も無い残虐
非道の大魔王。私はこの瞬間、絶頂に達した。
「フン…この程度ではしゃぐとはな。俺にとっては腕の一本など、大した問題では無い」
「強がりも程々にしとけよ、ピッコロ…」
「よ〜く見ておけ、冥土の土産にな…。うおおおぉぉぉぉ!!!」
 突然叫び出したピッコロ。何か技を出すのか、それとも腕の激痛ゆえの絶叫か。そのど
ちらも外れだった。この直後、私はとんでもない光景を目の当たりにする事になる。
 何と、肩口から腕が生えたのだ。いや、再生と言った方が正しい。とにかく、ピッコロ
の右腕は元通りに戻ってしまった。生えたばかりの腕を、得意気に動かしている。
「ま……こんなところだ」
「嘘だ、腕が生え変わるなんて!」
「俺にとっては、エネルギー弾が口を利く方が信じられんぜ。まぁいい、終わりだ」
 ピッコロの邪悪な眼光が私を射抜く。またピッコロにペースを握られてかけている。私
は勝負に出た。
「だったら………一撃で仕留めてやるぜェ!!」
 再び円盤状になり、私はピッコロに襲い掛かった。狙うはその首。いくら再生能力を持っ
ていても、首を斬られれば即死なはず。だが、当のピッコロは全く動かない。
「動かなければ、かえって私が萎縮するとでも思ったか!? バカめ!!」
 一瞬で、ピッコロの首を切り裂いた。しかし、全く手応えが無い。まるで、空気を攻撃
したような…。
「こんな下らない技に引っかかるとは、単純な奴だ…」



202 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/10 17:20 ID:eVFHrUjs
>>193
 ピッコロは背後にいた。私が切り裂いたのは、ピッコロの超スピードによって生み出さ
れた幻、残像だったのだ。そして、ピッコロは私を鷲掴みにする。動けない。
「さぁて、どうしてくれようか……」
「あう…」
 私に触覚は無い。つまり痛みを感じないはずなのだが、恐ろしく痛かった。ピッコロの
握力によって締め付けられる苦痛が、じわじわと押し寄せてくる。私は死を悟った。こう
なれば、潔く死ぬのみ。武道家ヤムチャに生み出された者として、見苦しい最期は許され
ない。私には、誇り高い死を選ぶ義務があった。
 しかし、それと同時に死への恐怖も肥大していった。誇れる功績も残せず、袂を分かっ
た主人との再会も果たさぬまま、死ねる訳が無い。生と死のジレンマ。ピッコロに握られ
たまま、私は心に溜まったものを全て吐き出した。
「命乞いはしない……が、助けてくれぇ! せめて主人ともう一度会うまでは死ねない!
だが、俺は死を選ぶ。殺せ……でも、死にたくないんだよォォォ!! 見逃してくれれば、
何でもする! 俺を殺しておいた方が身のためだぞ、ピッコロォォォォォ!!!」
 自分でも呆れる程の支離滅裂ぶりであった。エネルギーの収縮を最大に利用し、思いの
丈を叫びまくる。そして、やがて落ち着いた私にピッコロが言った。
「ここまで狂った野郎は初めてだぜ…。クックック…生かしておいてやろう、何か面白い
ものが見られるかもしれんしな………」
「え…」
 信じられなかった。私は助かったのだ。誇り高い死を選んでも、薄汚い生を選んでも、
私は殺されていただろう。精神の希薄さから、どちらにも転べなかった中途半端、それが
私を助けたのだ。

 こうして、私はピッコロに従う羽目になってしまった。命は助かったのだから、幸運だっ
たと言うべきだろうが。



203 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/10 17:20 ID:eVFHrUjs
 てっきり奴隷の如き扱いを受けると思っていたが、そうでは無かった。ピッコロは私に
は目もくれず、黙々と修行に励んでいる。山を疾走し、拳を振るい、蹴りを放ち、エネル
ギー波を撃つ。その修行量は、主人のそれを遥かに上回っていた。初めて出会った頃は邪
悪の化身にしか見えなかったが、修行をしている時は、大魔王であるはずのピッコロが一
人の武道家に見えた。
 修行を終え、近くの川で水を飲むピッコロ。そこへ近付き、私は疑問をぶつけてみた。
「おい、ピッコロ大魔王…。何でそこまで修行する? はっきり言って、現時点でもお前
の強さは世界一だと思うが…」
 ピッコロは振り返らずに答えた。
「貴様に答える必要は無い。失せろ」
 予想通りの反応だが、私は引かなかった。
「俺には分からねぇんだよ、生きる意味っていうのかな。主人が俺を生んだ理由は、天下
一武道会で勝ち抜くためだが……俺は嫌だった」
「………」
「次は人間に溶け込もうと思ったが、これも無理だった。色々やったが、全部失敗しちまっ
た。そして最後に辿り着いたのが、孤独。しかし、これも邪魔されたんだ…」
「………」
「後は自由になったと自分に言い聞かせて、適当に遊び呆けただけ…。お前と出会ったの
も、その延長上だ。俺は生きたいが、その意味が見出せない……」
「俺に聞いてどうする? そんなもの、知るわけが無いだろう」
「だからさ、そのヒントにアンタが修行する理由を聞きたいんだよ」
 しばらく黙った後、ピッコロが口を開いた。
「俺の目的は世界征服、そのための修行だ。分かったか! さっさと失せろ!!」
「嘘だね。今の強さでも、世界くらい十分に支配出来るはずだぜ?」
 この言葉で、ピッコロの目の色が変わった。



204 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/10 17:20 ID:eVFHrUjs
「いいか、俺の世界征服に邪魔な奴がいる……孫悟空だッ!! 父は奴に殺され、そして
俺は託された! 俺は必ず奴を殺し、この世を地獄に変えてみせる! 貴様のような、フ
ワフワしたエネルギー弾などとはワケが違う! これは俺様の使命、宿命、運命なのだ!
ピッコロ大魔王の仇は、ピッコロ大魔王が討つッ!!」
 息を荒げる大魔王。私はこの時、目の前のピッコロが“二代目”である事を初めて知っ
た。憎悪に満ちた野望の核にある、煮えたぎる熱き魂。そこに私は惚れてしまった。この
大魔王に惚れてしまった。好き勝手にする自由もあれば、誰かに仕える“自由”もある。
即座に決断した。自分の全自由を使ってでも、ピッコロの野望を成就させてみせる。
「ピッコロォ!! 俺は見つけたぞ………必ず、アンタを暗黒の支配者にしてやるッ!!
ウハハッ…ウハハハハハハハ──────────ッッッ!!!」
 何色も混ぜられ、中途半端だった私の色は、一気に暗黒に染まった。ピッコロ色とでも
言うべきか。自由という便利な言葉に逃げていた私の生きる目的が、遂に定まったのだ。

 ピッコロの話によると、十ヵ月後に第23回天下一武道会が催される。私が主人と別れ
た時はまだ武道会まで一年半あったが、いつの間にかそれだけの時間が経っていたのだ。
「なるほど、天下一武道会で孫悟空を殺す算段か…」
「そういう事だ。奴を殺したら、世界征服を開始する…!」
「だが、わざわざ大会に出場する意味なんかあるのか?」
「俺とてゲームくらいは楽しみたい。それに、世の武道家がどれ程のレベルなのかも知っ
ておかねばならん。もしかすると、孫悟空を超える者もあるかもしれんしな…」
「はぁ…」
「それに、天下一武道会なら俺の名を知らしめるのには絶好の舞台だ。人間共に、俺の強
さと恐ろしさを存分に味わわせる事が出来る!」
 ピッコロは冷静だった。日々の鍛錬を欠かさず、しかも計算高い。仮にも一度戦った私
には、彼の凄さが肌で実感出来たのである。



225 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/13 02:17 ID:Y.pQXFlE
>>204
 天下一武道会までの残り十ヶ月、石に噛り付いてでも強くならねばならない。ピッコロ
は勿論、私もかつて無い程修行も明け暮れた。大魔王の部下として、足手まといになるよ
うでは駄目なのだ。必死だった。
 飛行速度、分裂速度、耐久力、精神力、全てをレベルアップさせねばならない。飛行速
度を伸ばすために、山中を飛び回った。分裂速度を増すために、分裂と融合の反復を行っ
た。耐久力を高めるために、あらゆる物に体当たりした。精神力を高めるために、瞑想し
た。そんな事を毎日、不眠不休で繰り返したのだ。当然、ある程度までは強くなった。そ
う、ある程度までは…。
「うぅ…ダメだ、これ以上は……!」
 ある日、私は気づいてしまった。所詮、自分はエネルギー弾。いくら鍛えても、結局は
秘められたエネルギー量が実力を左右する。修行次第で潜在するエネルギー、つまり気の
量を増幅出来る人間とは違うのだ。私のエネルギー量は、主人の補給以外に増やす方法が
無い。
「これが俺の実力なのか! 主人がいなければ、強さが頭打ちになってしまう……その程
度の存在だったのか!!」
 登れば登るだけ、道は出来ると思っていた。しかし、“操気弾”という山は余りにも低
かった。低い頂上で、自分より高い山を仰いで嘆く。もう登るべき道は無い。
「こんなのって…こんなのって……ありかよォォォ〜〜〜〜〜!!」
 その時だ。急に私の身体が激しく火花を散らし始めた。
「うわっ!?」
 身体中から力が溢れてきた。かつてない程のパワーが、私の内から湧き出てきたのだ。
「こ、これは……!」
 私はどんな努力をしても、自力では気の最大量を変える事は不可能なはずだった。だが、
この時のエネルギーは明らかに主人から授かった気の量を凌駕していた。すると、驚いて
る私にピッコロが話しかけてきたのである。



226 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/13 02:18 ID:Y.pQXFlE
「ようやく、俺の修行に使えるようになったか…」
「ピ、ピッコロ! これはどういう事だ!? 知っているのなら教えてくれ!!」
「簡単な事だ…。お前は自分をエネルギー弾だと思っていた。そして、その限界に気づい
た。だから強くなったのだ」
「えぇっ!? 全然分からん!!」
 二度は言わん、とばかりにピッコロは口を閉ざしてしまった。結局、自分のパワーアッ
プの原因は分からずに終わってしまったのだ。だが決して不利益な現象では無い。むしろ、
手放しで歓迎すべき事。私は強くなった。
 今にして思えば、あの現象はこういう事だったのではないかと思う。これまでの私は、
自分を“エネルギー弾”と認識していた。つまり、知能や意志を持つ“一つの生命体”と
は認識していなかったのだ。そして、修行を通じエネルギー弾の限界を悟った時、私の前
に初めて生命体としての道が開けたのだ。自らを生命体と認識した私は、己の力で気を増
幅出来るようになったのである。もっとも、これはただの仮説。単に怒りで気が増えたの
かもしれないし、本当にたまたまだったのかもしれない。真相は謎のままである。
「まぁいい、強くなれたのだからな。吠え面かくなよ、ピッコロ」
「自惚れも程々にしておけ……貴様と俺との格の差を思い知らせてやろう」
「うおおおぉぉぉぉぉ!!」
 私は真正面からタックルをかける。やはりスピードが増している。二倍、いや三倍か。
「このスピード、かわせるか!?」
「かわす? ………バカめ」
 ピッコロの胸部に激突した。残像では無い、手応えはある。だが、ピッコロの表情に変
化は無かった。全身全霊の一撃が、全く効いていないのだ。
「バカな…」
「以前の戦いで、俺が本気だとでも思っていたのか。こいつはお笑い種だな」
 ピッコロ大魔王は予想より遥かに強かった。やはり、私が見込んだ男。



227 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/13 02:19 ID:Y.pQXFlE
 そして、地獄は始まった。ピッコロとの修行は正に拷問。彼は私が死んでしまってらそ
れまで、という程度にしか思っていなかった。正直、何度消滅されかけたか分からない。
だが、修行とは厳しければ厳しい程効果も出るもの。私はメキメキと実力と自信をつけて
いったのだ。
 自分の性質を見抜き、磨く。己の気をより頑強に、精密にする。ピッコロとの組み手も、
勝てないまでも相手になるくらいには仕上がった。心の奥底にあった主人への想いは、私
が強くなるにつれて記憶の彼方へと沈んでいったのである。
 光陰矢のごとし。時間はあっという間に過ぎ、天下一武道会の前日になっていた。

 胡坐を組むピッコロに、その前に浮かぶ私。十ヶ月間共に過ごした仲ではあるが、どう
にも気まずい。妙な高揚感と不安感が入れ替わり、私を襲っていた。そんな私に、微笑を
浮かべながら大魔王が語りかける。
「ククク…不安か? 操気弾」
「不安と言うか、楽しみと言うか……。アンタはどうだよ?」
「俺は不安も感じなければ楽観もせん、あるのは殺意だけだ。孫悟空へのな…」
「……流石だな」
 一瞬、心底ピッコロを恐ろしく思った。この男は晴れ舞台の寸前という場面でも、様々
な感情を押し殺し、殺意を研ぎ澄ましている。やがて来る復讐劇のフィナーレのために。
「そう力むな、貴様の強さは俺が保障する。孫悟空は無理としても、他のザコなら十分倒
せるはずだ」
「アンタのお墨付きってワケか、有難く頂戴するとするかねぇ」
 こうして夜は更け、やがて朝日が差し込んできた。地球の自転を考えると、そろそろ出
発せねばならない。僅かながら睡眠を取っていたピッコロが私に命令する。
「行くぞ、操気弾。世界征服の始まりだ!!」
 三年に一度の格闘技の祭典、天下一武道会が幕を開ける─────



281 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/21 01:56 ID:bKlJvh..
>>227
 会場付近の天候は雨。それにもかかわらず、出場選手や観客で周囲は混雑していた。話
には聞いていたが、この大会の知名度はかなりのもののようだ。
「凄いな…」
「おい、出場登録を済ませるぞ」
「あ、ああ」
 会場入口には受付がある。天下一武道会の出場登録方法は実に単純。ここで名前を伝え
れば、それだけで予選に出られるのだ。この簡素さこそが、世界中からレベルの高い武道
家を集める要因となっているのだろう。
 中年の係員が、ピッコロに尋ねる。
「出場ですか?」
「ああ、マジュニアだ……」
「カタカナですね? マジュニアさん、と……」
 マジュニア、これは勿論偽名である。ピッコロ大魔王を名乗れば、途端に会場はパニッ
クになってしまう。それでは、復讐劇を果たす事は出来ない。そして、次は私の番。
「俺は操気弾。アヤツるに、気合のキ、そして銃弾のダンだ」
「え!? 貴方、選手だったんですか?」
「いいから、さっさと登録しろよ。大会前に怪我人出したいのか?」
「い、いえ! 操気弾さん、と……」
 登録を済ませ、ピッコロと会場を見物した。人間達の視線は我々に集まるが、もはや気
にもならない。慣れとは恐ろしいものだ、とふと思った。
 うっとうしかった雨も止み、予選開始の時刻となった。予選は競武館という場所で行う
らしい。会場近辺や中には、ウォーミングアップしている武道家が数多く見られた。私も
少し雰囲気に呑まれそうになってしまった。
 そして、我々に遅れること十数分。孫悟空達が、会場にその姿を現した。だが、私は孫
悟空よりもその近くにいた人物に絶句した。そう、我が主ヤムチャ…。



282 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/21 01:57 ID:bKlJvh..
 そもそも、主人が私を生み出したのは天下一武道会のため。武道会での再会は必然だっ
たはずなのだが、すっかり忘れていたのだ。主人も私を見て驚いている様子。しかし、お
互いに再会を喜びあう空気などとても無かった。結局、お互いに他人の振りをするような
格好となってしまったのである。
「クックッ…なかなか遊びがいのある奴らのようだ。なぁ?」
「え? ………あ、ああ」
「怖気づいたか? そんな事では俺の部下など務まらんぞ」
「す、すまん……」
 まだピッコロは、孫悟空の仲間に私の生みの親がいる事を知らなかった。もっとも、知っ
たところで、どうこうするような男では無いのだが。

 やがて、会場の係員による大会の概要やルール等の説明が始まる。だが、私の聴覚には
殆ど入ってこなかった。頭の中は主人の事でいっぱいになっていたのだ。因縁渦巻く中、
いよいよ予選開始である。
 大会参加人数は七十三名。思ったよりもずっと少なかった。そして本選に出られるのは、
その中のたったの八名。予選、本選共にトーナメント形式で行われるが、この大会が最後
まで無事に進行する保障は全く無い。予選でピッコロと孫悟空が当たれば、早くも修羅場
なのだから。
 そして、その予選の組み合わせはくじ引きで決まる。私は主人と当たらぬよう祈った。
自由を求めて旅立ったはずの私は、今や大魔王の手先。無論、自分なりの確固たる信念が
あっての事だが、やはり気まずかったのだ。
「頼むぞ…」
 掌の形となって、私は恐る恐るクジを引く。クジ番号は39。トーナメント表を見ると、
5ブロックに位置する。同じブロックでない事を祈りながら、ピッコロに聞いた。
「おい、何番だった?」



283 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/21 01:58 ID:bKlJvh..
「51だ…。6ブロックだな」
 危ないところだった。ピッコロと当たれば、予選敗退は確実。例えピッコロの野望を支
援する立場でも、どうせ出るなら晴れ舞台で活躍したかったのだ。

 私の試合は当分先。適当に試合を見回ってみたが、やはりレベルは低い。あくびが出る
ような打撃技の応酬。見ているこっちが恥ずかしくなる程である。孫悟空の仲間の試合も
見物したが、相手が弱すぎるため参考にすらならなかった。
「孫悟空達や主人は、全員別ブロックみたいだな。ラッキーだけど、つまらねぇ……」
「39番の選手と、40番の選手の試合を行います。競技台に上がってください!」
 不意に審判が私の番号を告げた。ようやく初戦らしい。
「ん……俺の出番か」

 第5ブロックの舞台に上がる。ここでも、およそ格闘者に見えない風貌の私に注目が集
まるが、黙殺した。対戦相手は40番。どうやら、ボクサーのようである。
「ん? 玉っころが相手かよ、舐められたもんだぜ」
「………」
 弱者にありがちな安い挑発。当然の如く聞き流し、試合開始。
「行くぜ!」
 開始早々、突っかけてきた。とは言え、スローモーションのような遅さ。これが本気だ
と言うのだから悲しい。私はカウンターを合わせるように、顎へ突撃する。手加減はした
が、顎の骨が砕ける音が聞こえた。だが、これで攻撃を止めるつもりは無い。
 顎に続き、両膝を砕く。次に棒状に変形し、太ももを貫く。フィニッシュは、腹部への
タックル。哀れボクサーは、虚ろな目で壁まで吹き飛ばされていった。爽快だった。
「じょ、場外……39番の勝ち………」
 惨劇の幕引きに相応しく、弱々しく審判が宣言した。



290 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/22 01:12 ID:CjBX0Xig
>>283
 私は得意気にピッコロへと視線を向けた。すると、意外にも舌打ちで返されてしまった。
やはり、やりすぎたようである。
「え、えぇと……41番と42番の選手は競技台に上がって下さい!」
 騒ぎも収まらぬうちに、次の試合。41番は宙に浮いている色白な子供、42番は両目
にスコープをつけた不気味な拳法家。全く予想がつかない。
 しかし、勝負は一瞬だった。何故か対戦相手を見てうろたえている子供に、拳法家が胸
部目掛け、手刀一閃。子供は声を攻撃も防御も出来ぬまま、その場に失神した。静かな結
末だった。
 するとそこへ、孫悟空の仲間の三つ目の男が駆けつけてきた。どうやら、あの子供は孫
悟空一味だったらしい。三つ目と拳法家はいわくありげな会話をしている。二人の間には、
何かしらの因縁があるようだ。少しはまともな相手が同ブロックにいる事を知り、私は嬉
しくなった。雑魚をいじめるだけでは、やはりつまらない。
「さて、時間があるからピッコロの所でも覗くか…」
 ピッコロの強さはやはり圧倒的。デコピン一発で相手を倒してしまった。無表情で舞台
から降りてくる彼を、私が迎える。
「デコピンとは…案外優しいじゃないか」
「バカか、お前はやりすぎだ。こんな茶番で、あんな騒ぎを起こしてどうする。俺の計画
を潰すような事があったら、ただでは済まさんぞ」
「あ、あぁ…すまん」
「それに、俺の狙いは奴一人だ。カスを何千人殺すより、孫悟空を八つ裂きにするのを想
像する方が遥かに興奮するぜ……」
 身体の芯に冷たいものが奔った。この男に秘められた殺意は、この和やかムードでも消
えてはいない。ちょっと骨を折ったりするだけの私など、まだ可愛いものだ。この大魔王
は、いざとなれば平然と会場を丸ごと消し飛ばしてみせるだろう。
「ハハ…頼むぜ。アンタは俺の希望なんだからよ」



291 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/22 01:12 ID:CjBX0Xig
「魔族に向かって希望とはな、貴様もますます狂ってきたな」
「狂わずにいられるか」
 他愛の無い狂った会話を交わし、私は自分のブロックへと戻った。主人の場所へも行き
たいのだが、やはり辛い。いかに狂っていても、生来の繊細な部分は健在だった。

 5ブロック第二試合。再び競技台へと上る私。先程の試合を見てか、相手の38番・レ
スラー風の男は腰が引けている。体格は主人より上なのに、かなり情けない。
「ケッ! 俺様のラリアットで、ぶっ飛ばしてやるぜ!!」
 微妙に上ずった声で勝利宣言をするレスラー。その根性は評価に値する。
 だが、試合はあっけないものだった。私が顔面に体当たりし、ぶっ飛ばされたレスラー
の場外負け。ピッコロの忠告通り、優しくしてやったのだ。レスラーは悔しそうな、それ
でいてほっとしたような表情で去っていった。これで私は予選トーナメント決勝進出。相
手はおそらく42番だろう。
 そして、予想通り42番の男も静かで、それでいて容赦ない攻撃で対戦相手を撃破。第
5ブロック決勝の相手は、桃色の拳法着に“殺”のマークが禍々しい、42番の拳法家に
決まった。彼は自らの本選出場を微塵も疑っていない表情だった。しかし、その自信はエ
ネルギー弾と三つ目の男によって打ち砕かれる事となるのであった…。

 参加人数が少ない事もあり、予選はきびきびとスムーズに進んだ。そんな中、5ブロッ
クでも決勝戦が始まる。
「では、予選第5ブロック決勝を始めます! 39番の選手と、42番の選手は競技台へ
上がって下さい!!」
 両手を後ろに組み、絶えず不敵な笑みを浮かべる拳法家。今までのボクサーやレスラー
とは明らかに異質。動作、雰囲気、気配、勿論強さも。



292 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/22 01:12 ID:CjBX0Xig
「貴様が何者かは知らんが、この桃白白様の相手を出来る事、光栄に思え。ククク……」
「大そうな殺気だが、俺はお前なんか知らんぜ」
「ほう…この世界一の殺し屋を知らないか。まぁ人間でない貴様が知っているはずもない
か。無知とはいえ、愚かなものよ」
「殺し屋? 俺なんざ、近付くだけで人を殺せるぜ。勝手に自害してくれるんだ」
 これは過去の砂漠での出来事をもじった台詞。あの忌まわしい事件を挑発に使えるほど、
私は染まっていたのだ。まぁ、殺し屋風情に秘められた意味が分かるはずもない。
「何をたわけた事を…これ以上バカとは話せん。さっさと終わりにさせてもらうぞ!」
 桃白白が構える。その途端、隙が無くなった。“世界一”というのも、あながちデタラ
メでは無いのかもしれない。
「しゃあッ!!」
 地を蹴り、一瞬で間合いを詰めてくる。流石に速い。だが、見切れないスピードでは無
かった。ピッコロに比べれば、明らかに見劣りする。これが大魔王と殺し屋の差だ。
「あばよ」
 連打を掻い潜り、滑るように腹部へ体当たりを喰らわせた。
「ぐえぇッ!?」
 桃白白はしばし宙を舞い、地面へと落ちた。そこは既に場外。たった三秒強で勝負は決
まってしまった。嬉しいというより、物足りない気持ちの方が強かった。
「場外! 39番、天下一武道会出場決定!!」
 めでたく、私の本選出場が決まった。だが、それに異議を唱える者が一人。
「うぐぐ……ふざけるなっ! こんなのは認めんぞ、殺してやるわ!!」
 流石は殺し屋。まともに大会ルールに従うはずが無い。顔面を烈火の如く沸き立たせ、
再び襲い掛かってきたのだ。
「フハハハ、死ねぇ!!」
「いいねぇ〜こんくらいのが面白い!」



302 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/24 22:38 ID:EHCM49fI
>>292
 競技台へ舞い戻った桃白白、再度連撃を繰り出してきた。先程よりキレは増しているも
のの、はっきり言ってそれだけ。挑発も兼ね、わざとギリギリで見切ってやった。いつま
で経っても当たらぬ拳に、桃白白はイラつきを隠せない様子だった。
「くっ………図に乗りおって!!」
 突然、桃白白の右手首がポロッと取れたのだ。目の錯覚か、と思った次の瞬間。
「死ねいッ!!」
 刃物で、私は真っ二つにされた。見ると、桃白白の右手が刀と化している。きっと仕込
んであったのだろう。だが、私を殺す手段はただ一つ。一瞬で丸ごと消滅させる、これし
か無い。それを知らぬ桃白白は、馬鹿笑いしていた。
「ハッハッハッハッハ! 殺しのプロを舐めるとこうなるのだ!! …さて、次はどいつ
が来る? もはや大会などどうでもいい、どいつもこいつも殺してやるわ!!」
 しばらく花を持たせてやろうとも思ったが、チラリと視界に入ったピッコロを見ると、
相当イライラしている様子だった。下らないハプニングで、武道会が中止してしまうかも
しれない事を危惧していたのだろう。これ以上、予選を長引かせる訳にはいかない。
「おい、殺し屋。お前はまだ誰も殺してないぞ」
「ぬッ!?」
 切断されても、二つになっても私は生きていられる。意志を持てるのは片方のみだが、
すぐ融合してしまえば問題無い。意志の無いもう片方を武器にする事も可能。私は後者を
選んだ。
「分裂する手間が省けたぜ。行け、俺の分身・操気弾!!」
 私は意志の無い方を使い、攻撃を開始した。成す術なく打たれる桃白白。こちらが念を
送ってやれば、分身は自在に操れる。実に愉快。
「もう降参か? ほれほれ、どうしたどうした?」
「お、おのれッ!!」
 今度は桃白白の左手首が外れた。



303 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/24 22:38 ID:EHCM49fI
 左腕には、大口径の銃が仕込んであったのだ。この執念だけは只者では無い。
「スーパーどどん波をお見舞いしてやる! 絶対に逃げられんぞ!!」
 “スーパー”という響きに怯んだ私は、念のため分身を融合させ一つに戻った。これが
敵の奥の手のようである。
「今度は銃かよ…何でもありだな」
「クックック、銃などという生易しいものでは無いぞ。科学と鶴仙流の結晶である、この
スーパーどどん波はな………!」
「じゃあ、さっさと撃ってくれよ」
「言われずともな……死ね!!」
 発射された。凄まじい光量だが、スピードは大した事が無い。横へ移動し、やり過ごす
のは容易だった。だが、エネルギー波は軌道を変えて追いかけて来たのだ。
「逃げても無駄だ! お前を殺すまで、どどん波は追跡するのだ!!」
 それは本当だった。逃げても逃げても追いかけて来る。高速回転で弾き飛ばせない威力
では無い。しかし、この追いかけっこが意外に楽しい。競武館内を縦横無尽に飛び回り、
カーチェイスならぬエネルギーチェイスが続いた。当然、会場内はパニックになる。これ
に巻き込まれまいと、伏せるなり逃げるなりする人間が殆ど。それを見るのも、また楽し
かったのだ。
「くそぉ…ちょこまか逃げ回りおって! もう一発─────がッ!?」
 突然、桃白白が倒れた。更に、私を追い回していたスーパーどどん波とやらも、どこか
らか飛んできたエネルギー弾に相殺されてしまったのだ。犯人は、あの三つ目の男だった。
そして、男は無言のまま桃白白を担ぎ、外へ出て行ってしまう。なかなか決着がつかぬ勝
負に業を煮やし、乱入したのだろう。随分無礼な男だな、と私は思った。既に桃白白は凶
器を使っていたので、違反とはならなかったが。
 かくして、予選は何とか終了。天下一武道会に出場する八名が決まったのだ。周囲を見
ると、やはり殆どが孫悟空の仲間。主人も混じっていた。



304 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/10/24 22:39 ID:EHCM49fI
 場所を移し、本選トーナメントの組み合わせを決めるくじ引きが行われた。私が取った
番号は6番。ここで、天下一武道会一回戦の対戦カードと、当時の私の予想を紹介しよう。
 第一試合、シェンVSクリリン。これはクリリンの勝ちだろう。シェンという男、そこ
ら辺にいる親父にしか見えないのだ。予選通過した事すら信じ難い。
 第二試合、マジュニアVS天津飯。言うまでも無い、マジュニアことピッコロの勝利の
はずだ。だが三つ目の男、天津飯も、どんな隠し玉を用意しているか分からない。油断は
禁物である。
 第三試合、操気弾VSヤムチャ。これが決定した時、私は己の運命を呪った。この会場
に来てから、主人とは一言も会話をしていない。これならば、ピッコロの方が幾分マシで
あった。負けるとは分かっていても、思い切りやれるからだ。
 第四試合、孫悟空VS匿名希望。匿名希望というのは女性で、予選で見た時も動きは悪
くなかった。だが、孫悟空の勝ちに間違いないだろう。
 以上が、私の予想や感想である。これらが的確だったかどうかは、ここでは敢えて伏せ
ておこう。何はともあれ、因縁や波乱、数々のドラマの種は植えられた。いよいよ天下一
が決まるのだ。私の最大目標は、ピッコロによる孫悟空の殺害。私はそのサポートに回れ
ば良い。だが、相手が主人である以上、そんな事を考える余裕は無くなってしまった。

 ピッコロは屋根の上から観戦すると言う。私も付き合う事にした。確かに、地上よりも
試合がよく見られる。
「どちらが勝つと見る? 操気弾…」
「あのハゲ…いやクリリンって奴だろう。孫悟空の仲間だしな。言っちゃ悪いが、あの相
手の親父、ありゃ場違いだぜ」
「フッフッフ…」
 意味深な笑いを浮かべるピッコロ。それが何を意味するものかは、まだ分からなかった。
荘厳なドラの音と、審判の合図により天下一武道会が始まった。



338 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/11/01 02:23 ID:DaHgRldQ
>>304
 奇声を発しながら、クリリンへと近付くシェン。まるで構えになってない。武道と言う
より妖しいダンスに見え、観客からも失笑が飛び交う。私でさえ不思議で思うほどだ。
「何だよ、こいつ…。どうやって予選を勝ち抜いたんだ? 見とけば良かったぜ…」
 やがて、シェンが走り出す。走り方もかなりの不恰好な上、遅い。クリリンは笑いなが
らそれを見ている。その直後、突然シェンが前のめりにこけたのだ。彼の頭がクリリンの
鳩尾にもろにめり込んだ。更に、起き上がろうとするシェンの後頭部が今度は顎にヒット。
クリリン、たまらずダウン。しかし、カウント3で何とか起き上がる。
「今の………狙ったな」
「気づいたか、二回戦に上がるのはヤツだ…」
 偶然に見せかけているが、明らかにシェンは狙ってやっていた。本気になったら、どれ
くらい強いのか見当も付かない。そして、それにクリリンも気がついた様子。舐めきって
いた目付きから、一気に武道家への目付きへと変わる。
 クリリン突進。桃白白とは比べ物にならない連打を繰り出すが、シェンに全て捌かれて
しまう。実力の差は明白である。
「つ、強い…! あんな親父が………」
 隙を突かれ、舞台外に吹き飛ばされたクリリン。しかし、彼も舞空術で難を逃れる。い
きなりのハイレベルな攻防に、さっきまで笑っていた観客は息を飲むばかり。
「あのクリリンという男もなかなか出来るようだな。世界征服、容易くは無いかもしれん
な………」
 ピッコロ自らがこう評す程だ。クリリンは、相手が悪かったとしか言いようが無い。
 その後も、シェン優勢の攻防が続いた。だが、クリリンも粘る。少しずつではあるが、
シェンの動きについていっているのだ。試合開始直後と比べると、クリリンの動きが明ら
かに良くなっている。
「これは………長期戦になるぜ」
「甘いな…。あのシェンとかいう男、焦り始めている。次で終わらすはずだ」



339 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/11/01 02:23 ID:DaHgRldQ
 ピッコロの読み通り、シェンがいきなり速攻に出た。高速の手刀で、クリリンを場外へ
と弾き飛ばしたのだ。これ以上の手加減は、危険と判断したのだろう。
「場外! シェン選手の……勝ちです!」
 審判が呆気に取られながら宣言した。シェンの秘められた力、クリリンの善戦、ハイレ
ベルな攻防、第一試合には相応しすぎる試合だったと言えよう。ピッコロの笑みはこれを
意味していたのだ。彼は最初から、シェンとかいう中年男性の実力を悟っていた。
「やられたぜ…。まさか、こんな結果になるとはな」
「見た目だけで判断するな、という好例だ。よく覚えておけ」
「あ、あぁ……」
「さて、次は俺か。ザコ相手に楽しませてもらうとするかな」
「………」
 ピッコロ大魔王、出陣。第二試合の幕が上がった…。

 マントをたなびかせながら武舞台へと着地するピッコロ、緊張した面持ちで武舞台へ足
を運ぶ天津飯。
「始めて下さい!」
 先に天津飯が仕掛ける。速い、殆ど見えなかった。目を見張る程の攻防戦。一般人には
目まぐるしく動く影と、音しか聞こえていないだろう。上空から地上へ、地上から上空へ、
そして再び地上へ。そして、互いに間合いを空ける。
 ピッコロは汗一つかいてないが、天津飯は息を切らしている。
「流石はピッコロ……こりゃ勝負は見えたな」
 スタミナでは一歩劣る天津飯、額に両手をかざした。
「太陽拳!!」
 激しい光が天津飯から放射された。気を収束させるので無く、放射する事により、これ
程の光を生み出したのだろう。



340 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/11/01 02:24 ID:DaHgRldQ
 十数秒後、ようやく私の視界が開けた。審判の男が叫ぶ。
「前大会でも見せた技です! 天津飯選手の手が四本に増えましたァ!!」
 確かに増えていた。肩甲骨の辺りから、新たな手が二本生えている。こんな技は初めて
見た。天津飯は光の目眩ましで出来た隙に、手を四本にしたのだ。これでは、いくらピッ
コロと言えど、分が悪い。
 再び、攻防の開始。新たな手も使い、多彩に攻める天津飯に対し、ピッコロは防戦一方。
二本の腕を相手していると、もう一組の腕によって攻撃されてしまう。実力は勝っていて
も、これではどうしようもない。そうこうしている内に、ピッコロの顔面に拳が直撃して
しまった。
「何やってんだよ、ピッコロ…! このままじゃ、一回戦負けだぜ!!」
 ピッコロは、ひとまず間合いを取る。打撃戦では勝ち目は無いと見た模様。だが、大魔
王は笑っている。
「驚いたぞ……。では、俺も少し実力を見せてやるとしようか」
 すると、ピッコロの右手が伸びた。これならば、間合いの外から戦う事が出来る。天津
飯の左足首を掴み、足を掬って転ばせる。そのまま手を縮め引き寄せ、左拳で渾身の一撃
を浴びせた。天津飯は武舞台に倒れる。
「カウントを取ります。ワン、ツー、スリー、フォー………」
 ここで天津飯が起き上がった。流石に効いたらしく、ダメージが足にきている。
「ほう…まだ立つか」
「お前の正体は知っている…。悟空に任せようと思ったが、ここで終わらせてもらう!」
「何ッ!?」
 天津飯が手を二本に戻す。そして、呼吸を整え……その時、四本の腕に続き、更に信じ
られない事が起こった。天津飯が四人に増えたのだ。残像などではない、全て本物である。
魔族であるピッコロも、驚きを隠せない様子だった。
「四身の拳! もはや、貴様に勝ちは無くなった!!」



444 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/11/14 01:28 ID:2ROe4jWs
>>340
「こ、今度は腕では無く、天津飯選手が四人に増えてしまったァ〜〜〜〜〜!!」
 四人に増えた天津飯は、武舞台の四方へと散らばった。つまり、ピッコロは四人に囲ま
れた状態となる。
「喰らえッ!!」
 四人が同時に声とエネルギー波を発する。全員同一人物だけあって、息もぴったりだ。
四方から飛んでくるエネルギー波、真ん中のピッコロに残された逃げ道は一つ、上だけで
ある。当然、舞空術で空へと逃げるピッコロ。
「今だッ!!」
 またも息のあった声。今度は、四人が同時に額の目から怪光線を発射したのだ。逃げる
のに精一杯だったピッコロは、それを全て受けてしまう。
「ぐおッ!」
 ピッコロもダメージは受けたものの、何とか着地する。だが、勝機は薄い。一対一なら
ば、楽に勝てる相手ではあるが、その四倍はかなり厳しい。
「まずいな…あの技を破る方法なんてあるのか……?」
 私はピッコロの勝利を疑い始めていた。まさか、こんな特異な技を持つ人間がいたとは。
しかし、ここでもピッコロは不敵に笑っていた。しかも、こんな発言までかましたのだ。
「ふっふっふ、驚かされたぞ。天津飯とやら…。だが、その技には致命的な欠陥がある。
致命的のな………」
 四身の拳の欠点、果たして存在するのだろうか。少なくとも、私には思いつかなかった。
苦し紛れのハッタリなのでは、とも思えたのである。
 その真偽を確かめるべく、天津飯が再び四方に散ろうとする。だが、それは出来なかっ
た。猛スピードで、ピッコロが天津飯を倒し始めたのだ。いや、スピード自体はさほど変
わりない。相手をしている天津飯が遅いのだ。あっという間に、四人の天津飯は場外に叩
き落されてしまった。
「え…? じょ、場外! マジュニア選手の勝利です!!」



445 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/11/14 01:29 ID:2ROe4jWs
 勝利したピッコロは、私の待機する屋根へと飛んでくる。早速、労いの言葉をかけた。
「いやぁ、見事な勝利だったぜ」
「ふん」
「でも、今の技の“致命的な欠陥”ってなんだ?」
「あれは四人になる代わりに、パワーもスピードも全て四分の一になってしまう。所詮は
人間技だな」
「たったあれだけの攻防で、それに気づいたのか…」
 ピッコロの洞察力には感心させられた。そして、今度は私の出番。運命の悪戯としか思
えない対決、私VS主人の開戦である。

 武舞台に降りると、観客の視線をもろに感じる。好奇も侮蔑も無い大舞台、流石に緊張
してしまった。対するは、我が主人ヤムチャ。亀仙流の胴着を身に付け、顔には私がいた
頃には無かった古傷が出来ている。あれから、主人も猛特訓をしたのだろう。
「操気弾…久しぶりだな」
 意外な事に、主人から話しかけてきた。不意をつかれたため、どもりながら答える。
「え、えぇ…主人こそ」
「どうだった、世界は………楽しかったか?」
「色々ありましたよ…本当に」
「そうか、とにかく無事でほっとしたぜ。勝負だ! 行くぞ、操気弾!!」
 主人が構える。私には構えこそ無いものの、意識を集中させる。主人が話しかけてくれ
たおかげで、心置きなく勝負できる。やはり、この人は私の主人だった。
 しばしの沈黙。
「始めて下さいッ!」
 主人が突っ込んでくる、私も突っ込んだ。
「新・狼牙風風拳!!」



446 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/11/14 01:29 ID:2ROe4jWs
 突進と連打を組み合わせた、主人得意の必殺技。以前はこの技に何も出来なかった。だ
が、一年半前とは違う。よく観察し、隙を見つけなくてはならない。この高速連撃に潜む
弱点を…。
「足元がお留守ですよ、主人!」
 弱点はあった。上半身が攻撃に集中しているため、足元はまるで隙だらけなのだ。足元
目掛け、突撃する私。主人を見事転倒させる事に成功した。
「くっ…!」
「チャンス! 分裂・十気弾!!」
 私は十に分裂し、一斉に体当たりした。顔面、首、胸、右肩、左肩、腹部、右脇腹、左
脇腹、右膝、左膝。主人は吐血しながら、うずくまる。内臓へダメージがあったようだ。
「ぐほっ! くくっ………!」
「俺は貴方を尊敬しています。だからこそ、手加減はしません!!」
 融合し、気を高める。激しく火花を散らす私の身体。“ヤムチャ”というもっとも親し
い相手を前に、私はかつてないパワーを感じていた。何という皮肉だろうか。
「な、何故…自分の力では気を作れないはずでは………!?」
「そうだったんですけどね。俺も強くなったんですよ」
 この時の私の直径、約二メートル。主人を押し潰すには十分なサイズだった。
「肉体も、精神も、全てミンチにしてあげます!!」 
 ボルテージは最高潮。主人と再会した感激で、興奮していたのかもしれない。そして、
全身を使って主人を押し潰そうとする。だが、手応えが無い。力を振り絞り、その場から
逃れていたのだ。
「流石ですね、なかなかしぶとい」
「まぁな」
「でも、このリング上じゃ勝ち目はありませんよ。俺に潰されるか、場外負けか、よく考
えて選ぶ事ですね………」



477 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/11/21 00:39 ID:4W1D7gkE
>>446
 その後も連続で押し潰そうとするが、なかなか主人も素早い。一向に捉えられない。
「くっ…そ! こうなったら、最終手段だ!!」
 私は身体を一気に膨らませた。直径、およそ五メートル。
「はああぁぁぁぁ………。このサイズ、逃れる手段は皆無!!」
 その時異変が起こった。またもや私の身体がスパークを始めたのだ。今度のは、どうも
様子がおかしい。
「な、何だ…? ど、どうなってやがる!!」
 球形に保たれていた私の体型が、みるみる変化していく。そう、粘土のように…。グニャ
グニャと落ち着かなくなってきたのだ。
「ま、まずい……体が安定しないだと!?」
 己の身体を肥大させた歪み。巨大な体と引き換えに、安定性を失ってしまった。エネル
ギー体の私にとって、それは最悪の事態だった。主人が私の身を案じて叫ぶ。
「操気弾、サイズを戻せ! そのままじゃ弾け飛ぶぞ!」
「ぐ……おおぉ………バカな………俺は強くなったんだァ! これしき!!」
「操気弾!!」
「こんな事で……この俺がッ─────ごふゥ!!」
 そして、私は粉々に砕け散った。雨のように、自分のエネルギーが飛び散っているとこ
ろが見えた。死を覚悟した。

 私は死んだ。それと共に、意志も消えるはずだった。
「いや………まだ………」
 私の体は五ミリ程ではあるが、奇跡的に残っていたのだ。即座にサイズを元に戻す。
「あ、危なかった…!」
 九死に一生を得たものの、一度破裂した影響で、私の気はかなり減っていた。勝ち目は
かなり薄くなってしまった。こうなれば、手段は選べない。私は観客席へ飛んだ。



478 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/11/21 00:40 ID:4W1D7gkE
 不意に観客の女性の頭上へ飛び、私はこう言った。
「主人………降参してください。さもなければ、この女を殺します」
 この瞬間、お祭りムードの会場が一気に凍りついた。すかさず、審判のサングラスをか
けた男が、私に訴える。
「待って下さい、それはいけません!」
「反則負け、とでも言いたいのか? この大会のルールに“人質を取ってはいけない”と
いうのは無かったはずだが………」
 ルールの盲点をついた上策、では無く無法者にありがちな自分勝手な論理。常軌を逸し
ていた私は、何をしてでも勝ちたかった。
「操気弾! 仮に俺が降参したとして、それで満足出来るのか!?」
「それは勝ってから考えますよ、主人」
「くっ…」
 主人が構えを解いた。私に表情があったなら、ここでほくそ笑んでいたに違いない。たっ
ぷりと感情を込め、言ってやった。
「これが私の道です。主人と別れた瞬間、こうなる事は決まっていたのですよ」
 しかし、その時異変が起こった。自分の身体が全く動かせない事に気づく。前を見ると、
主人の表情が変わっていた。罠にかかった鳥を見るような、優越感と哀れみのこもった何
とも言えぬ……。

「ぐ………! ま、まさか…!!」
「昔、お前は気の波長を変え、俺の支配から逃れた。この意味が分かるな?」
 主人は私と自分の気の波長を合わせたのだ。私はラジコンと化した。
「お前を野放しにしたのは、俺のミスだ…。まさか、そんな外道に成り下がってるとは思
わなかったからな」
「俺を消す気か…!」
「消しはしない。再び、俺と一つになってもらう」



479 名前:操気弾は飛んでゆく[sage] 投稿日:03/11/21 00:41 ID:4W1D7gkE
 操られるがまま、私の体は主人へと飛んだ。そして、間もなく主人に吸収されてしまっ
たのだ。ヤムチャから生み出された操気弾は、ヤムチャへと還元されたのである。
「………」
 私は消滅した。皆、そう思っているはずだ。
「………」
 審判もしばらく呆然としていたが、やがて思い出したように職務に移る。
「え…操気弾選手、戦闘不能と見なし、ヤムチャ選手の勝利です!!」
 空しい決着だった。天下一武道会では相手を殺すのは反則負けだが、これでは判別のし
ようが無い。勝利は主人のものとなった。だが、正確には勝ったのは主人では無かったの
である。
「これが…これが、主人の肉体!」
「え?」
「ふっふっふ、いいぞ! パワーも遥かに増している!!」
 そう、主人の肉体は私が乗っ取っていた。しかも、相乗効果により驚くべきパワーアッ
プを果たしていた。私と主人が手を組んだとしても、この強さは得られなかっただろう。
ピッコロや孫悟空など、比べ物にならない。
「うん、うん、うん、うん!」
 準備運動代わりに、クリリンに向かって気合砲を放つ。一瞬にしてクリリンは吹っ飛び、
白目を剥いてしまった。ほんの軽くでこの威力である。
「おめぇ、ヤムチャじゃねぇな!? 何しやがる!」
 クリリンを天津飯に任せ、孫悟空が吠え掛かってきた。先程は猛獣にも思える迫力だっ
た彼だが、もはやその存在感は道端の子犬にも等しかった。
「操られるのでは無い。操るのは、俺だ」
 もう一度言った。 
「操るのは、俺だ!」




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