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ヤムチャ異星録

九章『九死に一生』



ショーツさんとスパッツ。それにジンズの傭兵中間達を埋葬してやった。
パンジは『しばらく、一人にしたまえ』といって、墓の前で空を眺めている。
やっぱり悲しいんだ。当然だが。
すっかり辺りは暗くなっている。
焚き火を囲んで、3人座っている。
「なぁ・・・ジンズ。聞きたいんだけど、なんでパンジさんの家族はこんな荒野に住んでいたんだ?」
暗い雰囲気に耐え切れず、適当な会話を始める。
少し離れた所にいるパンジに聞こえないように。シスルは既に予備の服を着ている。
「ふむ。・・・・・聞いたことは無いが、予想は付く」
「なんでさ」
シスルも身を乗り出して話を聞く。
彼女も疑問だったのかな。
「多分、娘に自分の働いている姿を見せたくなかったのだろう。
 ・・・・憧れて、将来科学者になる、などと言われないように」
「なして科学者が駄目なのさ」
ジンズはいっそう顔を暗くして話し出した。
なんか・・・・余計ダークになる話題だったかな。
「実は私と兄には妹が居た。名前はスカットという。
 私と兄が15歳のとき、妹は10歳。
 兄は既にその時、天才的な才能を発揮していた。
 妹や、できの悪い私によく自慢していたものだ。
 私は科学者になる気など無かったからよかったが、妹はすごく兄に憧れていた。
 妹も兄に劣らないほどの科学知識を学び、研究所に入り込みいろいろ発明品を作ったりしていた。
 ある時、兄と妹が共同開発したマシンができた。
 なにか、『過去を変えれる』とか言っていたな。ヨタ話だと思ったが、実験の日にはとりあえず行ってみた。
 実験は失敗だ。妹は空間だか時間軸だかの狭間に引きずりこまれ、消えた。
 私は兄を罵った。『お前のせいだ』とな。人でなし呼ばわりもした。
 もちろんただの八つ当たりだ。たとえ妹が私になついて傭兵になったとしても、死んでただろうな。
 それからしばらく呆然として、兄は何もしなくなった。その後、復帰して科学にさらに熱を上げてたな。
 『失敗はありえない!』とかいってな。
 結婚した家族を荒野に住まわせたのを聞いたときに、妹の実験の失敗をまだ引きずっていることに気がついた。
 私の傭兵団の基地をこの近くに置いているのも、この家を襲う野党の類に対する抑止力のつもりだったのだ」


重。
空気がさらに重くなった。
聞くんじゃなかった・・・・・
「あ〜・・・うん。えっと、よく分かりました」
「ううう・・・・・悲しい話さ・・・」
シスルが目の幅涙をだ〜っと流している。
感動屋か。お前は。
ああ・・・しかし空気が暗い。
だれか打ち破ってくんないかな・・・・・。
「おおぅ!どうした諸君!陰気臭い顔をして」
おもいっきり明るい声が響いた。
ジンズと同じだが、どことなく軽薄な印象がある声。
さっきまで空を眺めていたパンジがこちらにいつもの調子で歩いてきた。
なんで明るいんだ・・・・・こいつ。
「なんで博士は妹さんや奥さん、娘さんが亡くなったのにそんなに平気でいられるのさ?
 凄く悲しんでもいいはずさ・・・・」
不躾なシスルの質問に、ふとパンジの顔に影が差した。
「いや・・・・別に悲しいわけじゃないけどね。
 合理的に考えて悲しんでも生き返るわけじゃないしな。
 それに、別れは済ましたからね・・・・・」
「ドラゴンボール・・・・」
ふと無意識に呟いた。
「オレの星に、ドラゴンボールっていう球があるんだ。
 それを使うと、願いが叶う。死人だって生き返る。本当だ」
自分で言って、ビックリした。
そんな胡散臭い話、誰が信じるだろうか。
これでは、同情して気休めを言うようなものではないか。
「ありがとう。大丈夫だ。君の星に行ってから調べるとしようか。
 そうだ、ヤムチャ君が乗ってきた宇宙船を持ってきたんだ」
ぼんっ!
カプセルを投げて、宇宙船が出てくる。

「このメインコンピューターから、ヤムチャ君の星の座標を抜き出して、
 あいつらが乗ってきた宇宙船に入れると帰れるぞ」
中に入って、なにやらカードを抜き出してきた。
「これだ。今すぐ帰れるが、どうする?」
「いや・・・・」
またしても、勝手に口が動く。
「アイツらの増援が明日の昼ごろ来るらしい。
 そいつらを追っ払ってからにするよ」
なに口走ってんだオレ!帰れるんだぞ。
ギニュー特戦隊とやらの残り二人・・・トカゲの最後のセリフによると、よっぽど強い奴が来るんだぞ。
なに考えている。負けて、死んだらどうする。
情けない言葉が溢れてくるが、無理やり押さえつけた。
それでも、シスルとジンズだけで戦うよりは勝算がある。オレが居なかったら勝てるかどうか分からない。
いつでも帰れるなら、明日戦ってからでもいい。
情がうつったのかな。何故か帰る気になれない。
「また来るのか・・・・」
「何度でも叩ききってや---るろ----さ・・?」
シスルが倒れた。
「おい、どうし--た・・・ってぅぅ・・・?」
「なん----だ?」
「二次効果だよ」
オレとジンズもその場にうずくまり、震えた。
パンジが言った言葉。『二次効果』?

「すまないな。言ってなかった。
 あの薬は効果が二段になっていてな。
 一回目は疲労回復、体組織回復、生体エネルギーの増加だ。
 二回目では潜在エネルギーを開放するため苦しみを伴う。
 そして・・・言ってなかった。すまない。その状態が一時間続くんだ。
 一時間耐え切ったら、潜在エネルギーが開放される」
「耐え切れなかったら・・・・・?」
目の前がグラングラン揺れながらも聞いてみる。
最悪なことばかり思い浮かぶ。
二日酔いのままベジータと組み手をしたときが極楽に思える苦しさだ。
「エネルギーが殆ど抜け落ちて、一般人以下になるか・・・・・
 最悪、死ぬ。だが安心したまえ。君たちなら大丈夫と根拠のないことを言っておこう」
なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・

回る回る。視界が回る。回る。廻る。周る。○○。
それでも体を蝕むような気配は一向に消えない。
耐えられるかよ・・・・こんなの。
端から駄目だったんだよ。オレじゃあ。
少し調子に乗って、久しぶりに勝ったからって、死んじゃあ意味無いじゃねえか。
ゴメン、プーアル。
ん?
なんか頬が痛いな?

「--チャ!ヤムチャ!・・・・・・・
 起きたさ・・・・・ふう」
目の前に泣きそうな顔をしたシスルが現われた。
「死ぃぃぃぬかと思ったぁぁぁぁ・・・・・」
呻きながら起き上がる。
既にジンズとシスルが起き上がっている。苦痛はもう無い。
ただ、再び気が大幅にアップしている。元の体とそう変わらない量だ。
「起きたか・・・・2時間うなされていて、もうダメかと思-----」
「恐らく体の構成が不安定な所為で、潜在能力の-----」
なぜか彼らは喋っている途中であさっての方向を向いた。
「どうした?」
むっくり起き上がる。するとタダでさえボロボロになっていた服が剥ぎ落ちた。
気がアップして、体が大きく--出るトコは出て引っ込むトコは引っ込んでいる--なっていた。
だいたいシスルと同年代ぐらいだ。

そして、服が剥げ落ちた。ヤムチャは当然女性用下着など身につけておらず、トランクス一丁だ。
「ぐふぁっ!」
鼻血を出してしまった。自分の体で鼻血って、ヤバイ人みたいだ。
ジンズとパンジは同時にヤムチャの反対側の夜空を見上げた。
「いいか弟よ、アレがビキーヌ座だ」
「ああ・・・常に西にある星座だな。迷ったときはアレを目印に・・・・・」
取り留めの無い会話を始める。必死にこちらを向こうとしない。
「なんかムカツクさね・・・・アタシがサラシだけになった時は眉一つ動かさなかったのに・・・・・」
『小さいからな』
逆鱗に触れた兄弟は刀を持ったシスルに追い掛け回された。
しばらく彼女はドツキ回し、肩で息をした3人が戻ってきた。
「で、服どうするんだよ」
「アタシの服はもう無いさね」
『あったとしても胸のサイズが---』
再び追い掛け回されていた。
息が合ったように逆鱗に触れる二人だな。さすが兄弟。
「た、確か・・・・ぜぃぜぃ・・・新型のラバー・ボディアーマーが合ったはずだ。
 それなら・・・・サイ・・ズが・・あうはず」
息を切らしまくっているパンジがこちらを見ないようにカプセルを投げた。

ぼんっ!
黒いパイロットスーツのようなものが出てきた。
なかなかデザインは格好いい。所々に硬いが、動くのには邪魔にならない装甲版が付いている。
そういえば、ベジータから借りたフリーザ軍の戦闘服の黒い服。あれよりいい感じだ。
「はいはい。着替えるから男連中はその辺の岩陰で寝付きなさいさ。
 明日は、また戦いなんだから」
「そ、そうするとも・・・・・」
「賛成だ」
ふらふらと男二人組みが岩場に歩いていく。
オレは服を着込んだ。少し小さかったが、伸びてサイズぴったりになった。
「さてと、アタシらはプチカプセルハウスで眠るさ。明日、勝てるかね」
「・・・・勝つさ」
彼女の口癖が伝染ったようにヤムチャは宣言した。
やはり根拠など何も無いが。
情がうつると大変だな・・・・・
小さくため息をつき、プチカプセルハウスの布団に包まった。



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