ヤムチャ異星録
十章『十把一からげ』
「来たっ!」
ヤムチャの叫びと共に、宇宙船が降りてきた。
戦いの場所は昨日の荒野。
向こうも仲間を殺したと思われる連中のそばに降りてこようとしたのだろう。
他の奴が乗ってきた宇宙船とは違って、ゆっくりと地面に着陸した。
ガチャッと入口が開く。
中から渋い顔立ちの男と、ちっさい女の子が出てきた。
男は短髪で、近くにいるだけで何故落ち着かないような雰囲気をかもしだしていた。
女の子は髪の毛が黒に近いぐらいの赤髪で、大きな目をしている。鍛えた跡の見えないほっそりした手足。
やたらと可愛い。誘拐犯が狙うとしたらこんな娘だろう。オレじゃないけど。
「ギニュー!!」
男が唐突に叫ぶ。
同時にばばっと妙なポーズをとる。かっこ悪いぞ。
「ス、スクリームです!」
少女のほうも叫び、ポーズをとった。
男とは打って変わって微笑ましい感じがする。
しーん。
しーん。
しーん。
おおよそ三人分ぐらいの沈黙が流れる。
昨日の三人分だろうか。
やがてギニューがぷるぷる震えだす。
「く、くっそぉぉぉぉぉ!!
ポーズを仕込むのにどんだけ時間がかかったと思うんだぁぁぁぁぁぁ!!!」
706 名前:92=93[sage] 投稿日:04/12/25 21:19 ID:OVAz17eg
ギニューが一気に気を開放して、あたりの地面がめくれ上がる。
・・・・なんてこった。
あのギニューとかいうやつ、とんでもない気だ。ざっと自分の15倍以上。
まいったな・・・たとえ元の姿に戻っても界王拳15倍なんて使ったら体が一瞬で爆砕するぞ。
界王拳はようにコントロールの問題だから、基礎さえしっかりしとけば何倍でも大丈夫なんだが。
体が耐えられるかどうかは無視すれば。
どう考えてもオレの体じゃあ耐えられない。サイヤ人とかじゃないと。
「ヤムチャさ・・・レベルの桁が違うような気がするんだけどさ」
緊張した面持ちでシスルが聞いてくる。
オレは汗を一筋垂らし、ゆっくり頷いた。
「このオレが直接殺してやろうかと思ったが、貴様らたいしたことは無いようだな。
スクリーム!修行の成果を見せてやれ!」
「了解しましたです!
不肖スクリーム、隊長のご命令とあらばどんな相手でもやっちゃいますです!」
少女が元気よく答え、意気揚々と出てきた。
まずはこいつか・・・・やりにくいな。
「さぁ誰が相手です?なんなら二人掛りでもいいですよ。
あ、三人は勘弁です」
「なめるんじゃないさ、と言いたいけど。
お言葉に甘えて二人で行くさ。ヤムチャは温存しといてジンズさん」
「了解した・・・・む?」
ジンズがなにか怪訝そうな顔をした。
どうしたんだろ。
707 名前:92=93[sage] 投稿日:04/12/25 21:20 ID:OVAz17eg
それでも二人はスクリームにダッシュをかけた。
タイミングをずらして、まずはジンズ。
首筋を狙った蹴りはあっさり受け止められ、もう片方の足で後頭部を狙う。
スクリームは踊るように体を回転させ後頭部の蹴りを避けて、足払いを放つ。
見事に引っかかり、盛大にこけるジンズ。
追撃をかけようとしたがタイミングをずらして切りかかってきたシスルを対応しなければならない。
大上段から振り下ろしてきた刀を両腕で受け止める。
気を腕に集中させたのだろう。腕は傷ついていない。
防がれたシスルは刀の柄のほうでガードを下から弾く。
同時に起き上がったジンズがお返しとばかりに足払いを仕掛けた。
足払いに素直に掛かり、転んだ勢いで後ろにいるジンズにエルボーをいれる。
「ぐぅっ!」
さらに倒れこむように斬りこむシスルの腕をつかみ、真下のジンズに投げつける。
『だぁぁぁぁ!?』
スクリームはそこから10メートルほど飛び下がり、腕に気を集中させた。
・・・・・へんなポーズをとりながら。
「ヴァニラ・エスエスです!」
バシュっと気功波が撃たれる。
二人は・・・・・避けられない!
するとエネルギーは半ばで掻き消えた。こんなことが出来るのは。
「危ないぞ二人とも。サービスを何度も期待してもらっては困るからな」
パンジは空間転送装置を出して、落ち着き払った声でつぶやいた。
意外と便利。
708 名前:92=93[sage] 投稿日:04/12/25 21:21 ID:OVAz17eg
ジンズとシスルは立ち上がり攻撃を再開した。
しかしスクリームは舞うようにそれらを受け流し、弾く。
シスルの刀を足で弾き、回転するように彼女の体を巻き込み転ばす。
反対側から飛び蹴りを放ったジンズの足を肘で受け止め、同時に受け流す。
そして両手の拳を同時に突き出すような変則的なパンチで突き放した。
両手を左右に向けて叫んだ。
「たぁぁぁぁぁです!!」
いきなり吹っ飛ばされる二人。
あれは気功波などではなく・・・・・・
「そう、気合だ」
ギニューが声をかけてきた。
なにやら誇らしげに胸を張り、声を上げる。
「ふふん。不思議そうだな。よかろう!メイドのお見合い話に聞かせてやろう!」
「隊長!それを言うならメイド・イン・ミヤギです!」
・・・・・あー。多分冥土の土産話のことだろう。確証はないけど。
でも、冥土の土産話聞かせた悪役で勝った奴いないよな・・・・
今回もそうなってくれるといいんだけど・・・・無理かな。
ギニューは説明を開始した。
ナメック星でカエルになってしまったギニュー。
悟空の背中に張り付き、なんとかヤードラットの星に避難できた。
そこでなんとか体をカエル→蛇→ネズミ→猿→ヤードラット星人と変化させてきた。
あまりに生物としてのランクが違うとボディチェンジできないということを初めて知った。
最後に目をつけていた、一番強いヤードラット人に成り代わり、フリーザ軍に戻った。
ぼろぼろのフリーザ軍で、スーパーサイヤ人に勝てる作戦を建てた。
結果、最悪引き分けに出来る作戦があった。
それからは、ナメック星での戦いにの時に脅威だった武術を修行しだした。
途中、何人か仲間を集め、ヤードラットの特殊能力で力を引き出してやった。
修行中に、何故か場違いな少女--スクリームが紛れ込んでいたが、修行を要領よく覚えたことで気に入り仲間に入れた。
そして武術を覚え、以前よりも屈強な肉体になり地球へ行こうとした。
もちろん仲間とはスペシャルファインティングポーズの打ち合わせもして。
旅路の途中で、ギニューとスクリームの乗った機体に、軽いマシントラブルが起こり、遅れた。
合流するために中継地点として選んだのがこの星だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「−−おい!聞いてるのか!」
はっ。
ついうとうとしてしまったが、一応聞いていた。
要するに地球に向かう途中、不幸な事故でこっちに来ちゃったってことかよ。
なんてこった。そのまま地球に向かってくれればよかったのに。
スーパーサイヤ人のオンパレードだから。作戦とか関係なくやられたはず。
こっそりため息をつく。
「と、いうことだ!よし!やれスクリーム!」
「ふぁ!?はいです!」
あくびをしている途中に叫ばれたスクリームはつい間抜けな声を出した。
オレの見立てでは気は二人と同じぐらいだが、技量が凄まじいな。あの娘。
不意を突かないと二人は厳しいかも。
さりげない援護射撃しよう。こっそりスタン操気弾を足元に潜らす。
スクリームに近づける。あとちょい・・・・
「・・・・! 無駄です!」
操気弾の潜っている地面に気功波を撃つ。
ダン!と大きな音を出して地面が弾けた。
くそ〜。武術を修行したって言ってたな。スカウターをつけていないから気を読めるのか。
「いいぞ。ヤムチャ」
一瞬の隙にジンズがスクリームの後ろに回りこんでいた。
そのまま羽交い絞めをして、動きを封じる。
「ぬぅぅぅぅ!」
気を高めて必死で捕らえる。気は伯仲しているから、単純な力ではジンズが上だ。
「くぅ!カフェオレの翼です!」
スクリームの背中から二条の光、ちょうど翼のように伸びた。
背中にくっついていたジンズはおもいっきり弾き飛ばされた。
・・・・・ん? シスルがいない。
あいつは気を消せたはずだ。奇襲を狙っているのか?
スクリームは翼を消してあたりを見回す。
よく・・・見たら、スクリームのところだけ影が出来ている。
眩しい日光で姿は見えないが、服の端が見えたような気がした。
「バレバレです!ホイッパー・クリーマーです!!」
さっきの『ヴァニラ・エスエス』とどう違うのだろうか。
多分ポーズが微妙に違うのか。角度とか。とにかくエネルギーを真上に向かって放った!
見えていた服の端が完全に消し飛ぶ。同時にスクリームの体に布のようなものが巻きついた。
「え。」
簀巻きにされた少女の足元の地面がもこっと盛り上がった。
「やれやれ・・・・これじゃあアタシが露出狂みたいさ」
地面からまたサラシと袴なシスルが出てきた。その手には、スコップと巻尺?
どうやら、操気弾に気を取られジンズが捕まえていた隙に、服をスクリームの真上に投げて自分は地面に潜っていたらしい。
スクリームが巻尺を切ろうと暴れる。ここからでは芋虫がうごうごしてるようにしか見えないが。
「こんなっ・・・! ・・? 切れないです!」
「アタシの気ィこめてるさね。簡単に切れたら困るさ。ジンズさん!」
「む・・・分かった」
もごもごもがいているスクリームの後ろに倒れていたジンズが立ち上がった。
シスルは両手で気を込めているから攻撃ができない。となれば彼だろう。
ジンズの両足に気が集中していく。
気功弾は使わないらしい。まぁ苦手っぽいからな。
「いくぞ・・・・!!」
突然ジンズの足元で小規模爆発が起こった。
そう思った瞬間彼の姿が消え、グルグル巻きなスクリームがよろめいた。
さらにジンズがいた所とは反対方向でまた小さな爆発。
目を凝らしてよく見ると、影のようなものが少女の周りを超高速で動き回り、それと交差するたびに目に見えてダメージを負っていく。
理屈で言うと爆発力をプラスした勢いで接近・攻撃・退避・また接近を繰り返しているのだろう。
この位置だから影が見えるが、戦っている相手には何一つ見えないだろう。
昨日のトカゲと同じ方法でやられかねないけれど、今あいては簀巻きだ。手も足も出ない。
少女の周囲を半球状に小さな爆発が起こる。次第に動きを縛っていた巻尺が千切れだす。シスルが離れたせいだろう。
とうとう縛っていた巻尺が切れた!
「くぅぅぅぅ! アイスクリン・ディザスターですです!!」
スクリームの体から12色の気功波が放出される。
自分を中心に12方向。ジンズは高速移動していたので避けきれず、そのうち2条に当たった。
弱っていたのかもともと殺す威力は無かったのか、ジンズは派手に地面に激突しただけで済んだ。
ぼろきれになった巻尺を剥ぎ取り、肩で息をした。
フリーザ軍の戦闘服はあちこちが砕け、ほっそりした体が見えている。
・・・・・あー。うん。オレはロリコンじゃないぞ。
「ぁ・・ふぅ・・・・です。もう、通用しないですよ?」
「そいつァ-----どうかな、さ!」
ぎょっとして後ろを見ると、再びシスルが地面から飛び出した。
また潜っていたらしい。モグラか。
手には距離は2メートル。刀が届く距離ではないが、彼女の刀は気で刃を形成して、3メートル前後まで伸びていた。
「いくさ! 必ィィィッ殺・気吸閃!!」
振り下ろされた長大な気の刀をスクリームは白刃取りのように、両手の平で挟んで受け止めた。が
「な、なんですこれ!?・・・・・力が、抜けるです!」
シスル新技気吸閃。その名のとおり、相手の気を強制的に抜いてしまう技である。
気で形成された刃に触れると気がどんどん抜けていく。
ただ問題は、別に吸い取って自分の気が増えるわけでも無し、一回使うと自分の気までどんどん減っていくと言うことである。
刃を必死で押さえつけるシスルと押し返すスクリーム。
二人は目に見えて気が減っていった。
「な、なら・・・折ればいいだけの話です!」
ギリギリっと刃が軋む。確かにこのままだと折られそうであった。
ぽふ。
スクリームの顔にごく小さい気功波が当たった。
「うぇ?です」
そっちを見ると必死の形相でこちらに手のひらを向けているジンズがいた。
「・・・・なぜ爆発は起こせるのに、これはできんのだ・・・」
ジンズに気を取られた一瞬、シスルが刃筋をずらして刀を一気に振り下ろした。
しまった、と思うまもなく刀が体にめり込む。
ストンという軽い音と共にスクリームの体が前に倒れる。
「ぇ・・・です・・・ぅ・・?」
そのまま気を失う。
気吸閃で斬ったのは体ではなく気。流石に年端もいかない女の子を切り殺すのは忍びなかった。
しばらくすれば起き上がるだろうが、とにかく勝利した。
倒れこんだ少女の体を担ぎ、ジンズに近づいていく。
女の子はとりあえずそこらに放置して、難しげな顔をしているジンズに近づいて、言った。
「ま、気にすることじゃないさ。チームワークの勝利さね」
「むぅ・・・・情けないが、後はヤムチャに任せるか」
「・・・・・止めだ」
ギニューが唐突に呟く。ヤムチャは訝しげに見る。
「いいだろう。そこまで妨害するならばファインティングポーズは諦めよう・・・・・
貴様らを殺して一人で地球に向かってやる」
「あー。なんなら今すぐ行ってほしいんだけど」
無視されたが。ため息をつく。
ううう。くそぅ。どう戦えばいいんだよ。
とりあえず何とか時間を稼いで・・・・どうなる?
昨日帰っておけばよかったぜ。
こうなりゃヤケクソだ!
体を半身ずらして足を開く。
腕を独特の形に構える。この構えは踏み出し足を強く蹴るためだ。ようするに、いつもの構え。
するとギニューは眉をぴくりと上げて言い出した。
「ほぅ、貴様も武術をやるほうか。ならば技量のみで戦ってやろう」
気もオレに合わせた。でもこっちが勝ちそうになったら絶対気全開で殺しにくるからなぁ。
「いくぞ!狼牙風風拳!」
抜き手で放った拳を頭がわずかにぶれるぐらいの動きで避ける。
もう片方の手で首筋を狙うがあっさり掴まれる。
体を空中で反転させ、爪先でわき腹を突こうとした。
同時にギニューの右手のひらが腹に炸裂していた。
自分から後ろに飛んで勢いを逸らす。それでも引きつるような痛みがあるが。
再びかかっていく。まともに闘っては勝てない。不意を突け。
相手の目の前で飛び込むように前転し、腕の力だけで飛び上がって顔に蹴りを放つ。
いると思っていた場所にギニューはおらず、見事に空振りをした。
「うわっ!?」
ちょうど自分の真上に飛んでいて、膝が腹にめり込んだ。
パキパキと肋骨の折れるような音が聞こえる。ヤバイ。
胸を押さえて着地する。ギニューは薄ら笑いを浮かべている。
奴の頭を掴んでぶんぶん振り回したい衝動に駆られたが、ちょっとできそうに無い。
「せい!」
ギニューの掌が再び飛んでくる。凄いスピードだ。
すれすれで避ける。髪の毛が数本千切れるのではなく、すっぱり切れた。
「はいぃぃぃぃぃやぁぁ!」
渾身の力を込めた蹴りを放つ。気が同じなら相当のダメージを負うはずだ。
ところがギニューは慌てず前へ一歩踏み出しつつ、左手で押し返した。
一番威力の出るところは足の先だが、根元を押さえられては威力は完全に殺される。
蹴ったこっち側が逆に10メートルほど下がってしまった。
「操気弾!」
周囲に十数個の操気弾を生み出した。
自分でも最高記録。心の中で喝采を上げた。
「いっけぇぇぇぇ!!」
それらをギニューの周りに配置させ、ランダムに飛びまわさせた。
数個ずつ当てていく作戦だ。まぁ絶対気を爆発させて消し飛ばしそうだけど。
こういう姑息な戦法でちょびちょび削っていくしかない・・・か。
第一弾。3個同時にギニューに襲い掛からせる。
しかし、後ろから飛んできたのを肘で弾き、真上から来たのを頭がほとんど上下しない動きで避けた。
正面からきたのは、上の避けた奴と一緒に蹴り飛ばした。
「うげ。くっそ!いけ!いけ!」
次々と飛ばすがそれらは体術でことごとく弾かれ、次第にエネルギーを失っていく。
後ろから飛んできたのをバク転で避け、そのまま上にある操気弾を蹴り落とす。
前から飛んできたのを跳ね返し、違う一つに当てる。
全て無駄のない動きで避け、打ち返し、破壊した。
やがて最後の一つが握りつぶされる。ボシュっと乾いた音を立てて操気弾は消え去った。
「なかなかおもしろい芸だが---」
訂正。最後の一つを地面から飛び出させる。
狙いは油断しきった奴の顎。ここに当てれば・・・・
ダンッ!
視線を変えることなく、地面から飛び出た操気弾を踏み潰した。
「--クラッシャーボールみたいなものか? ジースの妹じゃないよな。貴様」
・・・・・だぁぁぁぁめぇだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
分かってたことだが、全っ然敵わねぇ。
気でも技量でも体術でもスピードでも力でも・・・・・エトセトラ。
何一つ敵わない。どうしよう。
ギニューはこっちにゆっくり近づいてくる。堂々と歩くが、隙はまったく見えない。
しょうがない・・・・というか手がない。あれしか。成功すればラッキーってぐらいだが。
善は急げ。オレはいきなりペコペコしだした。
「あ、あはははは。降参します。あ、あのオレ・・・いや私をその、特選隊に入れてくれません?
そう。えーとほら、あそこの二人とオ--私、それとあのお嬢ちゃん合わせれば丁度5人じゃないですか。
どうか、お願い・・・できませんかね。・・・あ、あは」
「ふむ」
ギニューが近づいてくる。ただし警戒はしたまま。
「いいだろう。貴様はジースに似ているしな。
ただぁし!ならばファインテングポーズを覚えてもらうぞ」
「は、はははははい!」
「ちょ!ヤムチャ!何言ってるさ!」
ちっ。邪魔だな。
あんまり騒ぐと作戦がオジャンになる。こっそり後ろを向く。
ギニューはなにやらポーズについて熱弁しているため気づいていない。
彼女に口パクで伝える。『す・こ・し・だ・ま・つ・て・ろ』
「分かったか!ポーズの大事さが!」
ギニューが酔ったように問いかける。慌てて振り向く。
「あ、ええええはい!えっと少し質問が」
「? なんだ」
「あのですね・・・・・・」
声をひそめる。ギニューは反射的に耳を傾ける。
もっと近づく。ほとんど息がかかるぐらいに。
「実はあのポーズの4人目の格好ですが」
「なに? あ、アレは自信作だぞ」
「アレ・・・は・・・め」
「ん?」
「かめはめ波ぁぁぁっ!」
もちろんダメージはないが、かめはめ波の砂埃で視界が遮られる。
必殺、会話の途中で攻撃しちゃうよアタック。
迷ってる暇はない、今だ!
弁解しようとして隙だらけになったギニュー。
ヤムチャは一息に装甲版に隠された一つのスイッチを押した。
すると爆発ボルトによって--どういう構造か知らないが、まったく邪魔にならない--一部の装甲が弾け飛んだ。
ギニューがはっとしたのが気配で分かったが、気にしない。
装甲から飛び出てきたヤジロベーの刀を逆手にとる。鞘と刀は別々にしていたから抜刀する手間はない。
刀に一気に気を注ぎ込む。一気に。一瞬で。
同時にギニューに首筋に刀を振るう。
ギニューは油断していたため気が首まで回っていない。
避けられない! 勝った!
シュンッ。
いきなりギニューの姿が消えたと思ったら、刀が急に止まった。
いや、何者かが刀をオレの後ろから掴んで止めている。
「・・・・いまの奇襲は危なかった」
オレの後ろにいる奴。ギニューが語りかけてきた。
これは、この消え方は。
「瞬間・・・移動だと・・・!」
「ヤードラットの体じゃなかったら死んでいたがな。惜しかった、な。
とりあえずこの刀、折らせてもらうぞ!」
ギシっと刀が軋む。
今まで折れなかった刀。刃こぼれ一つなかった。
どんどん刀を折るために込める気が増えていく。
刀はまだ折れない。もう核シェルターを一撃で吹き飛ばしそうなほどに気が増えている。
必死で引っ張るがビクともしない。凄まじい気が吹き荒れる。
もはや自分ですら一瞬で消し飛ばしそうな気になった。
ぴし。
とうとう刀に小さなヒビが一つ入った!
「スタン操気弾!」
奴の顔の前に放り込んでやる。
当然避けられるが、顔の横でスタン操気弾は爆発した。
爆音に一瞬手を離すギニュー。その隙に刀を抜き取り、間合いを取る。
危ねぇ〜。ヤジロベーの刀なのに。
ヤジロベーの? はん。死にそうなのにのんきだな。オレ。
「おもしろい剣だな」
ギニューがさっきの操気弾をまったく意に介せずに言う。
「おい、見せてみろよ。なぁ」
手を出しながら近づいてくる。
とっさに身を守るように下がる。うーんまるで悪党に追い詰められた女の子みたいな動作だな。我ながら情けない。
「いいじゃないか。ほら。貸してみろよ」
-勝たせてやろうか?
・・・・・?
なんだ? 今、ギニューの声とかぶって何か聞こえたような。
ぽふぽふっとギニューに何発か気功波が当たる。
多分ジンズの撃ったやつ。全然効いていない。なんで弱いのしか撃てないんだ。
「なぁって言ってるんだがね」
-勝ちたいのか?
まただ。どこから。近い。どこだ。
-剣
刀? 一体なにが・・・?
「じゃあちょっと自主的に渡したくなるように小突き回してやろうか」
一瞬で相手の間合いに移動してきた。瞬間移動だ。
デコピンされた。いや、そんな威力じゃない。
一般人だったら頭が吹き飛ぶ威力だ。ヤムチャは後ろに飛ばされた。
くそっ・・・この刀は何なんだよ!
-貴様らの思考速度で会話するのは面倒だ 情報を送り込む
思考は一瞬。なにか言葉が頭に浮かんできた。なぜかそれを一瞬で理解できた。
俺はとある宇宙人だ。
経緯は忘れたがこの刀に封じ込められて100年ぐらいになる。
さっき刀にヒビが入ったおかげで封印が弱まり、貴様と意思を同調できるようになった。
俺の特殊能力で貴様をパワーアップできる。
一つ条件があるがな。
条件? なんだ。
-相手の息の根を止めたら貴様の体を頂く
オレの体?
変なこと言う奴もいるもんだ。ヘタレといわれ続けたオレの体を貰うなんて。
んでもどうして。
-理由は忘れたが とある星を滅ぼす たしかそうしなければならないはずだ
・・・・・・・・・・
オレの命と、見知らぬ星の命を天秤にかけなければならない、か。
もしオレが死んだら、ドラゴンボールであの連中は復活させてくれるだろうか。
怪しいものだ。だからといってどこかの星をオレの体が滅ぼすのはちょっとな。
「どうした!」
ピピピピピピ!
指先から気功弾を撃ってきた。凄いスピード。避けられない。
ガガガガガガ!!
自分の背後にある岩に次々と突き刺さった。
どうやらオレから数ミリ単位で狙いを逸らし、岩に当てたらしい。恐怖を与えるために。
うっかり失禁しそうになる。いやちょっと漏れた。こ、こええええええええ。なぶり殺しかよ。
考えろ。考えろ考えろ。いい方法を。なにか。最善で最高。
ここで殺されないで、ちょっとでもドラゴンボールで復活させてくれる可能性が高くなり、他の星も安全な方法。
オレは刀に話しかける。
こっちも条件がある。
-ほう 条件なぞつけられる立場か? まぁいい なんだ
こいつを倒したら、そこらにいるオレの仲間の指示に従ってオレの故郷の星に帰ってくれ。
まずはそこを滅ぼしてくれないか。
-? 故郷が嫌いなのか 別にいいだろう
よし。
刀に読み取られないように胸中で呟く。
地球にまず行ってくれれば、滅ぼそうとしてもサイヤ人が倒してくれる。確実に。
さらにオレの体だから絶対連中は変に思うはずだ。
そうすれば・・・生き返らせて・・・くれるかな。多分。原因ぐらいは調べてくれるはず・・・だと思う。
どっちにしろ死ぬんだから、この星と見知らぬ星両方救えるほうがいい。
-それでは 命を
命を。生命を。いのちを。イノチヲ。
「賭けてやる!!」
『良くぞ言った』
体全体を揺るがすような声。
とたんにヤムチャの体から気が溢れまくった。
光るヤムチャ。気がだんだん収束してヤムチャの体に戻っていく。
「・・・っ! なんだ!?」
ギニューがいきなりの展開に焦っている。
気功波をヤムチャに向かって撃つが、激しく放出される気に弾かれてあさっての方向に飛んでいく。
ジンズとシスルはぽかんと見ている。
パンジはパシャパシャ写真を撮っているが、とりあえず無視。スクリームはまだ寝ている。
やがて気の放出が収まり、一人の男が出てきた。
ざんばら髪に頬の十字傷。若い、最盛期のヤムチャの肉体だった。
しかし気の量は絶対的に違う。
「・・・・・あー。戻った戻った」
首をこきこきしながら言う。
ようやく戻れた。喜びの歌でも歌いたい気分だったが。
「さて、と。試してみるか。・・・・界王拳、10倍!」
全身が赤い気で覆われる。
10倍なんて初めてだった。体が軽い。
今まで3〜4倍をしたら体がずっしり重くて歯を食いしばりながら動くような状況だったのに、今は凄く軽い。
いや、この体の気の溢れ出しかたは・・・・?
もしかして、命を削って気を出しているのか!?
やばい。性質が悪い。悪質だ。
さっさとけりをつけねば。
「ほほぅ・・・少しは楽しめそうになったではないか」
「ほざけ。楽しんだまま仕留めてやるぜ」
「何で姿が変わったかは知らんが--」
「関係ない、な」
言葉と同時に二人は駆け出した。
拳が交わされる直前で両方とも空へ飛び上がった。
「よくも今までやってくれたな・・・いくぜ!真・狼我風封拳!!」
ちょっと字面を変えてみた。・・・・しまった!発音は同じだ!
相手の右肩口から左腰まで切り裂くような刀を振り下ろす。
戦闘服の肩部分を切断しただけで、腕を掴まれる。
すでに相手は気全開だから油断は出来ない。
次は左手。顎をかすめるように振るがこれはあっさり避けられる。
「はぁぁぁいゃらぁぁ!!」
掴まれた右手を支点に回し蹴りを放つ。
焦らず躊躇わず、ギニューは右手を掴んだまま上に放り投げた。
回し蹴りは髪をかすめて外れた。同時に掌底が腹に飛んでくる。
「ふっ・・・く!」
なんとか上体を逸らし直撃を避ける。腹部の装甲版が引きちぎれた。
回し蹴りをしたほうとは逆の足、右足を跳ね上げる。
ギニューの戦闘服が砕ける。直撃はしていない。惜しい。
がしっと両足を掴まれる。
「どおぉぉぉぉりゃっ!」
地面に投げられる。凄い力だ。足掻けない。
「いぃぃぃ!界王拳13--いや12倍!」
数値がみみっちくなる。ちょっと不安だから。
なんとか地面すれすれで横に飛び、叩きつけられなかった。
奴の上に回りこむ。お返しだ。
きっ!
オレだって一応できる気合砲。ギニューが地面に飛んでいく。
「あれ。」
あっさり着地する。
集中が足りなかったからかな・・・・ここ最近修行なんてしてないし。
何はともあれ追撃だ。地面に降り立ったギニュー目掛けて飛んでいく。
ザザザ!
残像を五個生み出す。一気に6方向から襲い掛かる。
「死!」
全員弓を引くように刀を振りかぶる。
「ねぇぇぇぇ!!」
刀を突き出す。全部がギニューに突き刺さる。手ごたえがない?
「甘いぞ!」
ずんっと目が暗くなる。
残像拳・・・・使えたのか。
やはり武術を学んでいるのだから使えるべきだと思っていたが。
思っていただけ。後ろに回って膝で後頭部を蹴ったのか。
前のめりに倒れながら、前転するように刀の腹を相手の顎に叩きつける。
そのまま前転で距離を置く。ギニューも体をそり返すように後ろに倒れている。
よし接近戦止め。痛い。技量向こうが上だし。
以前から考えていたけど、気の量が足りないからできなかった技で攻める!
「群狼!操気法!!」
操気弾を狼型にした技。本当にそれだけだが。
なんとなくそっちのほうが威力があるような気がしただけ。
ギニューは反り返った状態からバク転で起き上がっている。
奴を指差し、叫ぶ。
「やれぇぇぇい!」
10匹の狼が一斉に走り出す。ギニューはそれを見て手に気を集中させた。
「バルメザン・シャワー!」
狼の進路に的確に連続気功弾を放った。が、
「な、何・・・! 喰っただと!?」
狼は放たれた気功弾を口で噛みとり、吸収してしまった。
昨日のトカゲだったっけ・・・いやヤモリか? とにかく爬虫類! ありがとう!
おかげで変な特性を持ったぜ。狼達は奴の気功弾分の気がアップした。
狼は接近すると好き勝手にギニューに噛み付き、引っ掻きだした。
・・・・なんか一切命令聞かないんだけど。ま、いっか。強いし。
「ちいい!」
「がんばれー」
後ろから飛び掛ってきたのを肘うちで撃墜する。
同時に他の二匹が噛み付く。ギニューは振り払う。
そういえば、と思い刀を見る。
既に腕から離れない。もう引き返せない、か。
「ええぃ!」
「ふぁいとー」
四方八方飛び回っている。
操気弾と違って動きが生物くさいので読みにくいようだ。
一匹の尻尾を掴んでぶんぶん振り回している。がんばるなー。
あ、一匹やられた。がんばれー。
「どぉぉぉっせい!!」
叫びと同時に猛烈なエネルギーが吹き荒れた。
自分を中心に気を爆発させたらしい。
狼は爆風にまかれて消し飛んだ。惜しい。
「もういい! ちまちま戦っても埒があかん!
一気に吹き飛ばしてやる!」
「ちっ。やっぱりそうくるか・・・」
距離は約30メートル。障害物なし。
双方、両手に気を溜めだす。
「か〜」
「ミ--」
「め〜」
あたりの地面がめくれ上がる。
ジンズとシスルは固唾を呑んで見守っている。
今までになく集中する。修行を思い出せ。
実戦は修行のように、修行は実戦のように。そう習ったことを思い出す。
「--ル」
「は〜」
目の奥がちりちりする。
上から押さえつけられるような感覚。
刀が右手から離れないので刀の先から放出するようにイメージする。
「キィィィィ!!」
「めぇぇぇぇ!!」
シュンッ!
突然ギニューが消えた。瞬間移動!
・・・いやまてよ。確かこういうパターン何かで・・・・確かセルのとき・・・
騙されたような心地で後ろを振り返る。
わずか2メートルのところにギニューがいた。
近けぇぇぇぇぇぇぇ!?
相手も読まれて驚いているようだが、迷ったほうが負ける!
「---キャノン!!」
「波ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
わずか1メートル先で超強烈なエネルギーがぶつかり合う!
余波で巨大なクレーターができる。
自分でも出したことのない気功波に内心はらはらしたが。
ヤバイぐらいの気が吹き荒れる。石の破片がぶつかり、頬に傷がついた。
じりじりと刀の先が下がっていく。くそっ! なんて力だ!
「ぎぎ・・じゅ、15倍ぃぃぃぃ!」
界王拳を上げる。ぐん!と少し押し返した。
腕がぎしぎしいっている。流石にきついか?
「ぬぅぅぅぅぅおおお!」
さらにギニューの気が上がる。なんだよこいつ!
すっげー底力あるじゃねーか!
体の限界が近づく。このままじゃ・・・・・
指先の毛細血管が破裂する。猛烈な負荷。
これ以上上げたら・・・・ええい! いいや、やっちゃえやっちゃえ!
「だぁぁぁぁぁ! 界王拳、20倍だりゃぁぁぁぁ!!」
視界がやや暗くなる。赤視症だ。
かめはめ波が完全に真紅になる。ギニューの顔が絶望に変わる。
腕の筋肉繊維がぶちぶちと切れる音がする。とりあえず無視。
指先の爪が折れる。超痛い。涙が滲む。
最後の--本当に最後で最強の力を込める。
「うおおぉぉぉぉお!!」
その声を上げたのはヤムチャかギニューか。
どっちにしろ視界は真っ白になった・・・・・
星を一撃で打ち砕くような威力のエネルギーが水平に飛んでいく。
赤い。山を消し去り、地面をえぐり取り、どこか宇宙へ消えていった。
クレーターのほぼ中心でオレは立ち尽くす。
頭が痛い。目の奥がじんじんする。
唾を吐こうとする。しかし唾さえ出ない。右手を上げようとしても上がらない。刀が重い。
ぼんやりと刀に話しかける。腕がちりちりする。見ると手は血で真っ赤だ。
「・・・ぁ。そろそろ・・・俺の体、だっけ・・?」
-そうだ まだ止めを刺していない 敵を殺せ それまで待ってやる
「ああ・・・・・そだな・・・・」
もう考えるのが面倒だった。
こんな体なぞさっさと明け渡してやりたいぐらいだ。
なにも考えず、削れて道になった荒野を少し歩く。
すると凄惨な体になったギニューが倒れていた。
即死しなかったのは、押し勝てないと判断した瞬間、バリアを張って地面に伏せたからだと見当をつけた。
両足は炭化し、右腕は消し飛び、左手は上腕部のみ残っている。
片方の肺も潰れていてどう見ても致命傷だ。放置していても数分以内に死ぬだろう。
「かはっ・・・・・!
ぐはは・・・はは・・やるじゃ・・・ないか」
既に死色が滲み出ているギニューは、ぞっとするような顔で喋りだした。
一歩下がる。なにかただならぬ気配を感じた。
「ぐふふふ・・・最高だ・・・いや最悪か・・?
この体は・・気に入っていたんだがな・・・仕方ない・・・よなぁ」
「なにを・・・?」
「頂くというんだよ、貴様の体を! チェェェェェンジッ!!」
「なっ!?」
ギニューの体が光りだす。以前聞いたナメック土産話を思い出す。
『悟空がギニューってやつと入れ替わって大変だったんだ』
『あいつがチェンジって言って体が光ったと思ったら---』
『最後はチェンジ中にカエルを放り込んで----』
入れ替わられる!?
いやまぁ勝っても刀の主に体を盗られるけど。
カエルカエル・・・・いない! 小動物もいない!
避けられない! 界王拳は既に解いている。
ダメか。意識を取り替えられる・・・・・意識を。意識を?
ええい、ままよ!
右手にくっついたままの刀を光に差し出す。
切れかけた筋肉でおもいっきり振るう。なんと刀の重いことか。
右手の刀と光が結びつく。強烈な光に思わず目を眩ます。
やがて光が収まり、ギニューの体が跳ねた。
咳き込むように何度も跳ねる。刀の主と入れ替わったのだろうか。
「ごふっ・・・かは、かははははは!!
そうか! 思い出した! 思い出したぞぉぉぉぉぉぉ・・・・・
こうだったのか! 最高だ! それではチェェェェェェ----」
ズガァァァァァァァァ!!!!!
オレのかめはめ波に勝るとも劣らない気功波がギニューの体を完全に消し去った。
もちろん近くにいたオレも吹っ飛ばされた。のろのろと立ち上がる。
飛んできた方向を見るとやはりジンズが掌を向けていた。
「・・・・・出るではないか。なんて当てにならない技だ」
「ヤムチャに当たるとこだったさ!」
すぱーんと叩かれて地面に倒れ伏すジンズ。
何故か無性に笑いたくなった。体は不調を訴えているのに。
刀と意識が替えられるかどうか、完全にヤケクソだったけど成功したようだ。
既に刀は手から離れる。耳を近づけると何か泣き声のようなものが聞こえたような気がしたが、すぐ聞こえなくなった。
体も戻った。生きている。帰れる。
なにか言い訳しているジンズをシスルがまたドツいている。
こらえきれず吹き出してしまった。手を離した刀がカランと落ちる。
今では痛覚が麻痺してしまったように痛みを感じず、ただ笑ってしまう。
やっと、本当にようやく帰れる。