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ヤムチャ異星録

八章『八方塞・解除』



ジンズVSヨッグ
「ちょっとパワーアップしたらしいがまだ俺様---おっと銃を取り出すな」
再び発砲しようとしたジンズを制する。痛いらしい。
舌打ちをして銃をしまう。そもそもパワーアップしたから銃は必要ではない。
「いくぞ」
ダッシュをかけ、走った勢いで突き抜くように蹴りを放つ。
ヨッグの腹に足が突き刺さる。
唾液を吐きながら数メートル後ろに下がる。
「へっへっへ」
ゆらりと腹を押さえながら起き上がる。
結構効いているようだ。
そう思った次の瞬間、腹を殴られていた。
その場に膝を着く。
強くなった事でいきなり行動不能になることはないが、痛い。
「ふん・・・・」
跳ね起きて蹴りを入れる。次は頭狙い。
ヨッグの側頭部に直撃して吹き飛ぶ。
地面に跡をつけて起き上がった。
首が殆ど無い、頭が肩にうずくまったような姿だから平気なようだ。
普通の首だと、絶対ぽっきり折れている。

「は!楽しいねぇ!」
再び突進してくる。カウンター狙いで蹴りを入れる。
突き出した足を掴まれる。そのまま大根でも抜くかのように持ち上げた。
地面に叩きつけられる。背中を強く打った。
寝ている暇は無い。仰向けのこちらにヨッグがボディープレスしてきている。
ブリッジするように起きようとしたが、手が上がらない。
手を見ると岩の棘が絡まってきている。
危ない。起き上がれない。
バク転するように手の反対側へ足を勢いよく振る。
ボディープレスしようと真上にいたヨッグにスネの鉄甲が当たり、少し離れた所に蹴り飛ばされた。
腕の岩ヅルを外す。起き上がったヨッグがこちらに向かってきた。
肘打ちから裏拳、それに投げ技を繋いでくる。
投げられたが難なく着地する。
右足を、ヨッグの足元、腹、頭に向かって突き出す。
頭狙いの足を受け流した所をヨッグが詰めてくる。
ジンズは足をヨッグの後頭部に引っ掛けるようにして戻す。
前のめりになったところで、左足で相手の足を払う。
ジンズの足は円を画くように回転し、ヨッグは前のめりに地面に口付けした。
「まだまだぁぁ!」
岩のような体格の男は起き上がり再び殴りあい蹴りあいを再開する。

次第に動きに慣れたジンズが押してくる。
ヨッグは攻防の間に何度と無く足を体にめり込まされた。
しばらくしてヨッグは接近戦を止め、空に舞い上がる。
ジンズも攻撃を止め、空のヨッグを見る。
「が〜はっはっは・・・楽しかったぜ。しかし格闘術ではてめぇの方が上みたいだな。
 認めてやるよ。だけどよ、てめぇの弱点見極めたぜ」
「弱点だと?」
「さっきから一回もエネルギー弾使ってねぇだろが。
 使わないんじゃなくて、使えないんだな?」
ぎくり・・・・
そう。一応練習はしてみたものの、ジンズは気孔波が何故かできない。
気を一箇所に集中させることはできるが、そこから放出するのがまったくできないのであった。
「と、ゆーわけで。いくぜ!そらそら!踊れ踊れぇぇぇぇっ!!」
上空から気孔波を連続で撃ってくる。
「っく!」
避ける。避ける。避ける・・・・・・・・
あたりの地形がどんどん変わっていく。
弾き帰せないことも無いが、弾くためには気を集中させなければならない。
弾いてガードが薄くなったところにもう一発飛んできたらアウトだ。

そんなわけでひたすら避け続ける。
相手は一向に疲労する気配が無い。
足を岩の棘に取られる。そのまま前転でかわす。
周囲三箇所から岩の槍が伸びてきた。空中に逃げる。
空中と着地点にそれぞれ気孔波が飛んでくる。
体の気を高める要領で、滞空時間を延ばしてやり過ごす。
「っく!」
着地した所で相手に手のひらを向ける。
ヨッグの連続気孔波が止まる。
気を腕に集中・・・・・これは難しくない。
一気に、放出するイメージ!
シーン・・・・・・
何もでない。失敗。
『後は手から放出するイメージ』
ヤムチャのアドバイスが思い出される。
そうは言うが、エネルギーなぞ出んぞ。
どうやら自分は、正体不明のエネルギーを腕から出す、というファンタジックなイメージ力に欠けているらしい。
拍子抜けしたかのように再び相手は気をため始める。



このままでは・・・・そう思い始めたころ、突然ヨッグが爆発した。
いや、ヨッグに歩兵携行式対戦車ミサイルが飛んできたのだ。
「・・・・!?」
飛んできたほうを見る。
彼の部下、傭兵隊が総勢20名、岩場の上に集結して重火器でヨッグを狙い撃ちした。
「隊長ーーー!!援護します!」
「馬鹿野郎!?・・・逃げろ!」
このままでは、アイツに虐殺されてしまう。
煙からヨッグが出てくる。
青筋が浮かんでいる。相当頭にきたらしい。
銃火器は、ダメージまでは無いが、相当鬱陶しいようだ。
「・・・・・最高に笑えねぇなあ!このカスどもが!!」
「一斉射撃ーー!!」
様々な銃弾、小型ミサイル、砲弾をヨッグに発砲する。
ヨッグはミサイル類を避け、銃弾は当たるがままにしたようだ。
この距離では銃は殆ど効かない。ハイパワー拳銃でも、至近距離で痛がらせるしかできなかった。
硝煙で傭兵隊の姿が見えなくなる。
彼はジャケットの内側のポケットに入れた通信機に叫んだ。
「今すぐ撤退しろ!殺されるぞ!」
『ビー・・・・ガ・・た・・長・・ガガ・・お役・・立・・ず・・・ザ・申し訳ありま---』
「どうした!?」
煙が晴れる。ジンズは息を呑んだ。

岩場の上で生えた棘に貫かれ、息絶えた部下全員の姿があった。
全員の名前・好きな食べ物・得意分野・好みのタイプ・・・・・・・・
全て思い出せる。笑い声も、酔いつぶれた顔も。
歴戦の戦士たちが一瞬で死んだ。腹を岩に貫かれて。
「っへ・・・・死んだか。ざまぁ見ろ。テメェもこんなふうに・・・・」
目をやるが、地面にジンズはいない。
スカウターをつけていないから、気は読めない。
「どこっ・・・・」
一瞬で目の前にジンズが現われた。
なにか反応する前に蹴り落とされた。地面に仰向けに叩き落される。
「てっめ・・・!?」
全く反応できない超スピードで地面に倒れているヨッグの上にマウントポジションをとっていた。
すぐに跳ね除ければよかったのだが、彼の顔を見て一瞬固まった。
驚くほど無表情で、何故かぞっとする表情だった。
それより気を感じることのできないヨッグでさえ、異常な殺気に固まってしまった。
無言で、だが残像が残るほどすばやくジャケットの銃を抜く。
ハイパワー。ほとんど皮膚には効果が無い。
しかしそれをヨッグの眼球に押し付け、弾装が切れるまで発砲。
一般人だったら一発の射撃で転びそうなほど強烈な反動が来るのだが、全く反動を感じなかった。
ダンッ!ダンダンダンッ!
「ぐあっ!?」
眼球が潰れる。
視界が半分遮られながらも、ヨッグは最大の力で跳ね除けた。銃が壊れる。
ジンズは自ら離れるように跳んだ。距離約10メートル。
殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロス・・・・・・・黒い感情が浮かんでくる。
相手を殺す方法がすぐに数十種類浮かび上がる。なんでもいい。殺す。

「もう容赦はしないぜ・・・・今までの攻撃が全てパーティージョークに思えるような最大の技で葬ってやる!!」
答えずにジンズは腕をすっと相手に向ける。
「ん?またハッタリか。もう効かんぞ!」
無言。
腕に気を集中。ガードの気も全て腕に。
「ぐはははは・・・・どうした、撃ってみろ」
無視。
イメージ。イメージ・・・・・
相手が正体不明の怪物だと思うな。
こちらの部隊を殺した戦車かなにかだと思え。
今から戦車を吹き飛ばす。
投擲爆弾を投げるようなものだ。そう思え。
放出する。絶対に。
ボッ!
気孔波が手のひらから放たれた。
最初にして、最少の気孔波。
精々チンピラを吹き飛ばすぐらいの威力。
それでも、ヨッグは相手が始めて気孔波を撃ったこと。
相手の殺気。かなり溜め撃ちだったこと。スカウターを失くしたこと。
全ての要素が組み合わさり、アレは危険だと誤解した。
「う、うおおおおお!!!」
手に気を集中させ、気孔波を弾こうとする。
哀れなまでにその姿は隙だらけだった。
ボシュ!
気弾が殴られ弾け飛ぶ。その間にジンズはもう、必殺の間合いに詰めていた。
手を振ったその下。ヨッグの足元にしゃがんでいた。
傭兵式蹴術奥義・・・・・そんな言葉が浮かぶ。
もちろんそんな長いこと喋る余裕なんてない。
彼が叫ぶのは気合の声によく似た一声。

「気!!」
伸び上がるように足の裏を相手の顎に叩きつける。
顎の骨が砕ける音と共に、ヨッグの岩のような巨体が数十センチ浮く。
さらにサマーソルトを叩き込む。
「翔!」
今度こそ10メートル近く空に蹴り飛ばされる。
まだ終わらない。大きく跳び追撃を叩き込む。
浮かび上がった巨体の上に乗るようにして、地面に向かって蹴り下ろす。
「・・・・天」
そこからさらに飛び上がり、足に気を集中。
全ての気を足の踵に込める。
足が放電するようにバチバチ鳴り、気があふれ出すように光る。
最後は単純にして最強の踵落とし。ヨッグは地面にうつ伏せに倒れている。
もはやジンズは相手を、『岩のような体格で、パワーがあるタフな宇宙人』とは認識していない。
ただの殺害目標。
「傑!!!」
ヨッグの体に踵がめり込む。
周りの大地がエネルギー余波でクレーター状にめくれ上がる。
大地が鳴動し、地面が割れる。
クレーターの真ん中でジンズはすくっと立ち上がった。
なるほど、この獲物はタフだ。認めよう。
ヨッグが息も絶え絶えに命乞いしてくる。
「た・・すけてくれ・・・たの・・・」
グシャ。
頭を無表情で踏み潰す。
殺害・完了。
他の敵は仲間に任せよう。次のミッションは・・・・・
「墓を・・・・作らねば」
それでも少し休む。そのくらい、仲間も許してくれるはずだ。




「しっかし、アイツ苦手さね」
腹の出血も止まったシスルが言う。
再びチヅゥの相手をする事になった。
よっぽど奴はこっちを殺したがっているようだ。
「ふふふ。シスル君任せたまえ。
 私がアイツの弱点を見つけるから君はしばらく相手をしときなさい」
パンジはごく普通の顔で言った。
さっき奥さんと子どもを殺されたばかりなのに。
恐らくこの戦いが終わるまで頭から閉め出すのだろう。それでも、相当苦痛なはずだ。
「じゃあさ・・・ちょっと戦いますから、しっかり見ててくださいさ!」
コールドナイフを構えて突っ込む。
相手は再び棒を出して打ち合う。
剣と棒がぶつかり合うたびに、棒は凍り付いていく。
このまま押し切れば・・・・・・
相手は凍りついた切り口の怪我を再生できなかった。
と、いうことはコールドナイフが最も効果的だ。
相手の頭を狙う・・・・フリをしてしゃがみ、足を狙う。と、思わせて高く飛び上がった。
前転宙返りをしながら、その勢いで切りつける。
チヅゥは両手で挟み込むようにして刀を受け止めた。
そんなことをすると大火傷しそうだが、特に痛がらずに凍りの刃をへし折る。
舌打ちしながら鞘に戻す。再冷凍しなければ。
ビシッ!
鞘から変な音が鳴った。

見るとコードが数本・・・敢えて言うならヤムチャに切られたコードが数本、また切れていた。
足元から槍が生えている。それで突き斬ったのだろう。
もうコールドナイフは使えない。なんて故障の多い武器だ。
「ちぃ・・・・」
カプセルに戻して、普通の刀を抜く。
足元からどんどん槍が生えてくる。
槍はひとまず無視し、接近する。
目の前に三本槍が現われた。一刀のもと切り捨てる。
「叩き、斬るさ!」
相手の振り下ろしてきた棒を左手で逸らし、首に向かって振り下ろす。
首がぼとりと落ちる。嫌な感触が手に残った。
「・・・・やったさ!?」
しかし次の瞬間落ちた頭が土に還り、切り口からシュルシュル触手のようなものが出てきた。
それがどんどん組み合わさり、次第に頭の形になっていく。
「・・・・頭部再生。97%の複製完了・・・・? なにをしている」
「・・・・いやさ、別に。」
気色の悪さにその場に頭を抱え込んだシスルを見て、不思議そうにチヅゥはみる。
頭を潰してもだめ。手を切ってもだめ。
弱点っぽいのは冷気だけ。
どぅしろと・・・・・・
「あーちょっと待ちたまえ。作戦タイムだ。
 ちなみにタイム中に攻撃するのは反則だからな」
「・・・・そうなのか」
何故かチヅゥは納得してしまう。
パンジはシスルを呼びつける。

「シスル君。どうやらあの敵は植物に近い宇宙人のようだ。
 なに?質問は受け付けん。とにかく、あのムチは蔓、槍は幹か茎ってとこだろう。
 さらに何故か植物性でありながら恒温性のようだ。
 サーモグラファーで見たところ大腿骨の上に心臓とでも言うべき場所がある。そこを狙いたまえ」
「ういっす」
色々疑問があったが、とりあえずここで議論会開いても駄目だし。
ぼんやり立っていたチヅゥは『終わったか・・・』みたいな顔をしてこちらを向いた。
「・・・・タイム終わりさね」
「そうか」
同時にムチが水平に、足元を狙い飛んでくる。
縄跳びの要領で跳んで避ける。一気に突っ込んでいく。
目の前に地面から槍が数本飛び出した。
警戒していたシスルは急ブレーキを掛ける。止まらなかったら最悪串刺しだ。
いつまでも止まっている暇はない。再び横に回り走り出す。
後ろからは続々槍が地面から飛び出て、追いかけてくる。
さらに地面からムチが出てくる。こちら頭を狙う。
飛び込み前転して避ける。後2歩で間合いに入れる。
目の前にチヅゥを睨む。嫌な戦い方をする奴だ。
踏み込み、2歩の間合いを一歩で詰める。チヅゥは両手を広げている。
まるで以前見た恋愛ドラマの恋人の再会シーンみたいだ・・・・とか思った。
違うのは後ろから槍が迫ってくるのと、こっちが切り殺す気マンマンなことだ。
いきなり両手を広げていたチヅゥの体から槍が5本飛び出した。
既に大きく跳んでいる。意表を突いた攻撃だ。
シスルのお気に入りの侍服を槍が貫いた。

服だけ。
シスルは服をとっさに身代わりにして、槍の内側まで踏み込んでいた。
ぼろぼろになって脱ぎやすかったのが幸いした。サラシ一枚と袴だけな格好を恥ずかしいとか言ってる場合じゃない。
「大腿骨の上っと!」
思い切り刀を振る。避けられない間合いだ。
微妙にチヅゥが体を揺らす。しかし避けられない。
ギィィィン!!
とてつもなく硬い物を叩いた感触。鋼鉄を切りつけたような感じだ。
「いい!?」
思わず刀を離す。幸い刃こぼれなどはしていないようだ。
コチラをチヅゥが振り向く。ヤバイ。槍飛ばされる。
「ふん・・・」
「ターーーイム!!」
再び大声でパンジが叫ぶ。
チヅゥは動きをぴたっと止める。
「・・・そのタイムというのは卑怯ではないか?」
「ふむ・・・なるほど君のいうことはもっともだ。ではタイムはこれで最後、ということで」
「う、うぅむ・・・・・」
人がいいのか、こーゆー展開は慣れていないのか、うめく。
作戦タイム2回目。
ひそひそ・・・・
パンジに耳を近づけ作戦を聞く。
なるほど。

切り合いが再開される。
今度は接近戦で、チヅゥとシスルは切りあっている。
チヅゥは今度は棒ではなくショート・ランス-いや尖った茎を両手に使っている。
それを慎重に受け流し、弾いて牽制を仕掛ける。
シスルは積極的に攻撃をせずにだんだん後ろに下がっていった。
気がつくと元いた場所からかなり離れていた。
「なにか作戦か・・・・?」
「さぁて・・・ね」
容赦なく切り続けながら会話をする。器用な二人だ。
右手の槍でわき腹のあたり目掛けて横薙ぎに振るう。
しゃがんで避ける。右手に刀を叩きつけ切り落とす。
まるで気にしないように、回転しながら左手の槍を腹部・・・いま頭がある所に振り回した。
それを尻餅をつくように後ろに倒れ、手の甲を蹴って何とか空振りさせる。
再び一回転し、次は右足から生えたナイフのような・・・枝だか茎だか分からないが、それで尻餅をついたところを狙う。
地面すれすれの水平蹴りを、両手で地面を叩いてわずかに浮かび、避ける。
さらに一回転する。しつこい。
左足のナイフが空中のシスルに襲い掛かる。
つま先から生えたナイフの、さらに根元。足の甲にシスルは着地した。自分でもびっくりするようなバランスだったが。
そんな所に着地されるとは思っていなかったチヅゥは驚き、隙が出来た。
その隙に指弾で硬貨を相手の目の辺りに弾く。そして右手の刀で急所を狙う。
突然目の前で爆発が起こった。

シスルは派手に吹き飛ばされ、近くの池に頭から突っ込んだ。
「っぷはぁ!」
恐らく超至近距離で気孔波を爆発させたのだろうか。
まぁいい。丁度作戦の場所だ。
水の中にチヅゥが入ってくる。顔につけていた機械はさっきの衝撃で壊れていた。
・・・・・入ってこなかったら作戦ダメだったな。
作戦の欠陥に気づくが、まぁ掛かってくれたから良いか。
「・・・・・水分過多。蔓部増殖可能」
水の中でムチが増殖しまくっているのが見えた。
無駄な事を。
「今だ!」
パンジの合図でシスルは水から飛び上がって、陸地に上った。
同時に水面・・・チヅゥのいるあたりにほいぽいカプセルが投げ入れられる。
中身は、コールドナイフの冷却剤(予備)。
一瞬でチヅゥのいたあたりは凍りつく。
水の中で増殖していたムチも一緒に。
「・・・・・・・!」
慌てて飛び上がろうとするが、水面に膝まで出た所で全身が凍りつく。
周りの水も次々と凍っていき、とうとう池は氷のスケート場みたいになってしまった。
チヅゥはその真ん中に氷の彫像さながら凍り付いている。
氷の上を歩いて、それに近づく。
「あとは念のために核を砕いてしまえば確実に死ぬ、ということだよ。
 このままでもいいけど、植物は零下ウン十度でも生きた例があるからね。
 さて、チェーンソーでも出そうか」
「いや、博士。これはアタシに斬らせてさ」
「ふむ・・・・凍りついて硬くなり、しかも核部はかなり硬い殻で覆われている。それでも?」

迷わずに答える。答えは決まっている。
「やるさ」
別に自分がやる必要はない。しかも普通の刀で。
博士の言うとおりチェーンソーか高周波ナイフで斬ったほうが確実だろう。
しかし、自分がやることに何かこだわりを感じる。
剣士ゆえにってやつか。
確かに急所は硬い。しかも凍り付いている。
コールドナイフの冷却剤で冷やしたのだ。軽く鉄より硬いだろう。
太刀筋を決める。
どこから刀を入れるかが大きなポイントだ。
これをミスったら最悪の場合、刀は弾きかえってきてこちらの足などを切ることになる。
料理人が魚のお頭を一刀両断するように。
カット職人が超硬鉱石を一撃の下に砕くように。
分子の結合を狙う。人間の目には決して見えない物だが。
一番斬りやすいルートを見つける。しかし、それは途中太刀筋を曲げるという荒業を使わねばならない。
本気で振るった刀の太刀筋を変えるのはかなり難しい。殆ど無理といってもいい。
かといって力を抜いて振っても、氷は切れないだろう。
ギリギリの力配分でいかないと。
刀を左上段に構えなおす。
ここから、おもいっきり刀を振って、途中で太刀筋を変える。
出来るか? やれそうだ。やってみる。
「ヤムチャを相手にするよりは・・・・マシさね」
呟いて集中する。
刀の太刀筋が完璧にイメージされた。

それは寸分の狂いも無く、相手の氷と核を切り裂く。
「ふっ・・せぁぁぁぁぁぁ!!!」
刀を振る。イメージどおりに肩口の氷を切り裂き、相手の体にめり込む。
ここで太刀筋を変える!その瞬間今まで見えなかったチヅゥの目が開いた。
足元の氷が突然割れ、槍が突き出てくる。
ここで止めたら刀は核まで届かない。そう感じたシスルは体をひねった。
勢いを殺さずに体をひねり、槍を避けた。
刀は-ひねりが加わった事で太刀筋が変わり、さらに捻りの分の勢いもプラスされ、核へと届く。
「ぁぁぁああっだぁ!」
刀を振りぬく。
チヅゥの体が斜めに、しかも途中角度が変わって横に滑り落ちる。
「斬れ・・・・たさ」
「見事、すっぱり切れちゃってるよ。核。
 ・・・・君の勝ちだね」
ふらふらと陸地に戻る。
たかが一刀振っただけなのに、この戦い一番疲れた。
ちょっとジンズとヤムチャが戦っている所から離れたが。
まぁ彼らが負けることはないだろう。
「っほんと。ヤムチャ相手にするよりはマシなのさ・・・・」
その場にぺたりと座りこんだ。
しばらく休んでから行くとしよう。ちょっと精神的にも疲れたさ。



「っだぁぁぁぁぁ!!狼牙風風拳!」
「無駄だ!アサルトミルクゥゥ!」
バシバシッ!!
拳と拳がぶつかり合う。
気孔波は吸収されるからヤムチャは白兵戦を仕掛けた。
ラクトースもエネルギー弾を打ったら再び操られそうだから素手で戦っている。
白兵戦では刀のあるヤムチャと尻尾のあるラクトースが互角だった。
「ぎぎぎ・・・・」
「ぐぐぅ・・・・」
肘と肘がぶつかり、力を掛ける。
こちらの身長が10センチぐらい伸びたので体格差が少しは縮まった。
しかし、恐らく多少はコイツ、格闘術の心得があるとみえる。
亀仙流ほど本格的ではないにしろ、力任せで戦うデクじゃないようだ。
「そらっ!」
シッポが飛んでくる。手加減は既に消えている。
「まだまだっ!」
こちらに向かってきたシッポを刀で切り落とす。
切り口からグロテクスな肉が見える。
双方一旦離れる。
シッポを切り落として有利になったか?
ずる・・・・
嫌な音を出してしっぽが再生する。

「くっくっく・・・シッポぐらいだったらいくらでも再生するぞ」
「チッ。掛かって来いトカゲ野郎!」
「減らず口を・・・!」
再びラクトースが接近してくる。パンチか。爪が伸びている!
拳を避ける。頭の横を通り過ぎていく。髪の毛が数本引きちぎれた音が聞こえた。
すれ違いざまに腹にパンチを入れる。
そこには鱗が無かったらしく、体をくの字に曲げた。
どうやら挑発に弱いようだ。攻撃が直線になった。
ここに突破口がある。挑発はお手の物だ。
「どうしたぁ?それっきりか、このトカ--」
しっぽでぶん殴られた。
回転しながら地面に飛ばされていく。
楽に着地。したように見せる。実際はかなり痛い。
「それだけか?トカゲ野郎。かかってこいよ!」
微妙に涙が滲んでいるが、とりあえずバレないようにさりげなく拭う。
どうやらトカゲといわれるのは嫌いらしく肩をひくひくさせながら近くの地面に降りてきた。
「キサマ・・・・・さっきからトカゲトカゲと・・・・
 絶対許さん!」
「ふっ・・・・と、ならばヤモリということだな。
 やーいアル中!両生動物!サメ肌--」
どげしゃっ。
悪口を言う事に集中していたら蹴り飛ばされた。
後ろに吹き飛びながら、視線を向けると追撃に来ている。
「ちちぃぃ!!」
刀を地面に突き立てて、勢いを殺す。
突っ込んできた相手の追撃を避ける。
これはそう難しくなかった。相手の動きは直線的で力んでいる。
逆上した相手は動きが読みやすい。昔亀仙人に言われた事を思い出す。

今までカンペキに忘れていたのだが。
後ろが隙だらけな相手に反撃を仕掛ける。
「お留守だらけだぜ!狼牙!風風剣!」
片手だけ刀を持って狼牙風風拳をするとかなりバランスが悪い。
こないだジンズと戦ったときにあっさり止められた事がある。
と、いうわけで今回は右手にヤジロベーソード、左手に鞘を持ってやってみることにした。
・・・・・鞘。壊れなきゃいいけど。
とりあえず左手の鞘を相手の背中に叩きつける。
ラクトースは地面に口付けをした。
倒れた所を連続攻撃で、右手の刀で切りつける。
しかしラクトースの爪が伸びて刀を弾いた。
この爪、かなりの強度だ。
うつ伏せのラクトースの頭を弾かれた勢いを利用して、鞘を振るう。
結構本気で殴ったけれど壊れない。この鞘頑丈だ。
頭を蹴ろうとするが、目の前に羽が現われた。
「・・・っ!」
羽ではたかれ、やや後ろに下がる。
その間にむっくとラクトースが立ち上がった。
結構ダメージを受けているようだ。しめた。
「くそ・・・・そろそろ本気を出してやる・・・」
「っはん。こんなときに言う『ホンキ』ほど苦し紛れなものは無いぜ」
自分も何度か使ったことがあったような気がする。
そのたびに負けてたから間違いない。




するとトカゲは羽で空に少し浮かんだ。
「いくぞ!」
風の音が聞こえた気がした。
いきなりラクトースの姿が掻き消えた。
自分の目でも追いきれない、凄まじいスピードだ。
「っだぁぁ!?」
とりあえず横に飛ぶ。
自分が居た場所を影が高速で通り過ぎていく。
後ろに有った岩が真っ二つになった。
袖がずぱっり裂けている。
「いいいいい!?」
超高速飛行?ヤバイスピードだ。
天津飯の目でも追いきれるかどうか。
当然自分は影しか見えない。攻撃を仕掛ける事はまず無理だ。
斬れた岩の向こうにラクトースが現われた。
「避けたか。だがいつまで持つかな?」
再び姿が消える。
「どぉわぁぁぁ!?」
また横っ飛びに避ける。勘で避けるしかない
そしてまたコチラに飛んでくる。何でもすっぱり斬る殺傷力を持って。
決して捕らえられない速度で。なんてこった。
「うおぉぉ!?」
「んだぁぁぁぁ!?」
「でぇぇぇ!?」
「・・・・しつこい奴だ!」

何とか数回避けて、ヤムチャは法則を見つけた。
あの攻撃、直進しか出来ないんじゃないか?
確かに攻撃中に針路変更するのは難しそうだ。
しかし攻撃を食らわすことは出来ない速度なんだよな。
どうしよう。
「痛って!!」
考えていた隙に飛んできたラクトースを避けきれなかった。
頬がザックリ切れた。
元の姿の時に十字傷があるところに一筋、傷ができた。
「どうした、次は首をすっぱり斬るぞ!」
ラクトースの爪にヤムチャの血が少し付いている。
結局、あのスピードで飛んでも攻撃する一瞬は触れるんだよな。
なら。
「もう一回きやがれヤモリトカゲ!テメェの攻撃なんざちっとも効かねぇんだよ!」
「とことん減らず口で、自殺願望のある奴だな・・・望みどおり殺してやろう!」
ふっとラクトースが消える。
まぁ大した事をする訳じゃあない。
普通に横に移動するだけだ。
その場に刀を残して。
ヤムチャはその場に刀を突き立てて、横に跳んだ。
影が刀と重なる。
ギャンッ!!
刀が地面から抜け、吹き飛んだように見えた。
しかしそれはよく見るとラクトースの肩にざっくり食い込んでいた。
「ぐぅぅぅおおおをををを!!?」
大きくラクトースが取り乱す。
かなり隙が出来ている。チャンスだ。

「か〜」
いま奴は気が減っている。
「め〜」
その状態で自分を超える気は吸い込めないはずだ。
「は〜」
一番基本で、一番強い技。
「め〜・・・」
自分が使える技で、ただ一つ、オリジナルじゃない技。
「波ァァァァァァ!!!」
ラクトースがこちらに気づいた。口を大きく開けた。
吸収する気か!
「こ、こんなもの・・・・こんなものォォォォォ!!!」
しばらく口の前でかめはめ波が押しとどまる。
ガシュ!
かめはめ波を噛み砕いた。失敗か?
ドォォォン!!
ラクトースの口の中、外でかめはめ波が爆発した。
煙が立ち込める。死んだか、死なないにしてもかなりダメージを負ったはずだ。
だんだん晴れてくる。
煙が消えた後には顔を黒焦げにしたラクトースが仰向けに倒れていた。
もう立てないだろう。死んではいないようだが。
「やったか?」
パンジさんとシスルが近づいてきた。
ジンズは向こうで座り込んでいる。
「ああ。トドメは・・・・あんたが?」
「いやいい」
案外冷静。妻と娘が殺されたのに。
実は凄く悲しんでいるんじゃないか?なんとなく、だけど。

「じゃ、オレが」
つかつか近づいていく。
ごそっとラクトースが動いた。オレは立ち止まった。
まだなんかする気か・・・・・?
「っぐふ・・はぁ、はぁ・・・・た、隊長!ギニュー隊長・・・・我々の仇を・・・!」
どうやら手に通信機を持っているようだ。救援を呼んでいる。
しまった。援軍が来る。
『ラクトース!くそっ分かった、明日の昼前には到着する!必ず仇は討つぞ!』
げし。
通信機を蹴り壊す。
「かは、っはっは・・・ざまぁみろ。ギニュー隊長がいらっしゃる・・・・
 貴様らでは隊長はおろか、スクリームの奴にも敵わない。全員シ・ネ---」
刀をラクトースの肩から引き抜く。
トカゲが悲鳴を漏らす。
「やかましい。」
ズバァァ!!
体を縦に両断する。
さらに気孔波で完全に灰にする。
別にどうとは思わなかった。コイツ等だって散々こんな事してきたんだ。
次が自分の番だったからって文句を言える立場ではない。もちろんオレも。
さて、それより。
ジンズとパンジの方を振り返って言った。
「一緒に、墓を作るか」


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