ヤムチャ異星録
五章『五人組足らず』
「---え。それでは到〜着〜」
間延びした声で意識がはっきりした。
ここは、ショーツさんの家の前。荒野にぽつんと公衆便所みたいに転移装置が建っていた。
き、気持ち悪い・・・・・・・
ジンズとシスルも膝を着いて気分悪そうにしている。
悟空に瞬間移動体験させてもらったときはなんとも無かったのに。
パンジは全くこたえておらず、その場に直立していた。
「死ぬかと思ったぞ・・・」
「ふらふらするさ・・・」
最悪の変人はやや失望したようにこちらを見た。
「やれやれ。情けないな君らは。体を散々鍛えているのに。
おーいショ〜ツ〜。スパッツ〜帰ってきたぞ〜」
家の中から足音が二つ。
ばたばたと、玄関のドアを開けた。
「パンジさ〜ん〜お帰りなさい。
って、まぁお客さん?」
「父ちゃんー久しぶりー」
相変わらずテンション高めで登場してきた。
恐らく、いつもこうなのだろう。
スパッツとパンジさんが抱き合っている。
本当に、仲のいい親子なんだな。
「あらあら・・・ヤムチャちゃんにジンズさんじゃない〜
一日ぶりねぇ。そちらのお侍様は?」
「一日ぶりー」
軽く会釈をするジンズとヤムチャ。シスルも挨拶をした。
「ども。パンジ博士の研究所で働かせてもらってるシスルさ。よろしく」
そう言って、スパッツの頭をグシャグシャ撫でる。
「はっはっは。それでは愛する娘とビューティーな妻よ。
私はこちらのヤムチャくんに頼まれて、彼女の宇宙船を調査しに行ってくる」
「まあまあ宇宙船?するとヤムチャちゃん宇宙人だったのね。
道理で変わった子だと思ったわ」
ヤムチャが宇宙人だということに全く驚いていない様子だった。
心が広いのか呑気なのか。
パンジは空間転送装置をカプセルにして、胸ポケットに入れた。
とりあえず宇宙船まで行こう。まずはそれからだ。
「わぁ・・・ホントだったんだねぇ」
「ふむ」
「素晴らしい!」
ヤムチャが乗って来た宇宙船を見て第一声。
あたりはごつごつした岩肌。クレーターは出来ていない。
宇宙船の表面は丸くてつやつやしている。ヘリのプロペラを取ったような形だ。
ジンズとパンジはさっそく中に乗り込んだ。
シスルは船体の材質を調べているようだった。
オレも入ってみるか・・・
中でパンジが一心不乱にコントロールパネルをいじっていた。
ジンズは寝台を眺めている。コード類が引きちぎられ、壁に叩きつけた痕がある。
「なんだ?これは」
「ああそれは冷凍睡眠装置で・・・
ってそうだった!パンジさんちょっと来てくれよ」
パネルをいじっていたパンジは名残惜しそうにこちらに来た。
そういえば今まで自分が変身したことについて全く触れていなかった。
・・・・・実は男です、なんて話したら女湯に入れないか。
「実はさ、この冷凍睡眠装置に寝たらオレの姿が変わったんだよ。
なんか変な装置が付いてるのかも。ちょっと調べてくれ」
「なんだと!?体を変質させる装置!」
今度はこちらを調べ出した。
パンジはパーツを眺めて時々唸り声を上げている。
がちゃがちゃパーツを外したり、時折オレの体を見たりしている。
オレの体を調査しようとしたが、ジンズから『犯罪者クサイから』と止められた。
再びパネルのほうに行く。この機械について調べているらしい。
「ふ〜ん・・・・まさか、この機体は」
「なんか分かったのか?」
「恐らく、この星で出来た宇宙船だ」
へ?
どういうことだ。
宇宙船を作っていなかいって聞いたけど。
「それは・・・まさか100年前の技術か?」
「まず間違いないさね」
船外からシスルが入ってきた。
「この船体はタシギ鋼で出来てるよ。
こんな大質量のタシギ鋼が取れて、加工できたのは100年前の文明ぐらいさ
それによく見たらカプセル化スイッチが付いてたしね」
「燃料は特殊鉱石のマエバリウムを使っているな。
この星の希少鉱石だ。あと一人分運ぶぐらいはエネルギーが残っているね。
まだ研究段階の鉱石でね。私の空間転送装置に使われているぐらいだ。
100年前は結構使ってたらしいんだけど、資料が無くなってるんだよ」
「100年前って・・・・何なんだ?」
まったく訳の分からないヤムチャは皆に聞いた。
ジンズが首を縦に振り説明し始めた。
今から100年以上前の惑星『ショヴァ・パンツァー』
現在よりかなり進んだ科学力をもっていた。
人々は平和に暮らし、カプセルの開発が次世代の科学として期待されてた頃。
ちょうど100年ほど前に戦争が起こった。
理由は一人のアホな凄腕ハッカーがある国のコンピューターにアクセスした。
そこで核ミサイル発射コードを発見した。
深く考えもせずに、軽いジョークのつもりで近くの原子力潜水艦に大陸間弾道核ミサイルの発射指令を出した。
艦長は不審に思ったが、命令だからと、核を発射。
撃たれた国が報復に、と相手にまた核を打ち込む。
戦火は次々と拡大していき、星中の主要都市は完全に消えた。
誰一人勝者がいない戦争だった。
生き残ったのは山間部に住んでいた文明と無縁の、田舎者たち。
彼らが何とか努力して、さらに盛んになったカプセル技術のおかげで、殆ど世界は復興した。
しかし失われた技術は多かった。例えば宇宙船とか。
戦争でタシギ鋼も多く消費され、今ではレアメタルになった。
実際どのような戦争だったのかは、生き証人が誰もいないため分からない。
ただ当時の発明品は、その殆どが作り方と共に消失してしまったそうだ。
「ふーん」
「そんだけか!反応は!」
一生懸命、長々と説明してくれたジンズは、半分聞き流していたオレに文句を言った。
いやぁ、自分から聞いといてなんだけど、やっぱり長話は苦手だ。
ジンズがしばらく早口で文句を言った後、息を整えた所で話を変えた。
「うん、これがそのときのヤツだって事は分かったけど。
どうやったらオレの星に戻れるんだ?」
同じく話を聞き流して、コントロールパネルをいじくっていたパンジがこっちを向いた。
「コマンダー登録者『ヤムチャ』となっているな。
命令を出したらどうだろうか。君の星の座標は記憶されているし」
そういえば・・・発射するときにそんな登録をした気が。
とりあえず命令してみよう。
「えっと、元の星まで飛んでくれないか?」
・・・・・・・・・
しばらく時間が経過。
ピーっとアラーム音がした。
『声紋パターンが違います。艦長と認められません』
駄目か。
姿が変わって声も変わってるから、本人証明が出来ないんだな。
元の姿に戻らないとダメかなのか。
「なぁ・・・・どうにかならないのか?この宇宙船」
「ふん。つまり君が元の姿に戻るか、我々の研究所にコイツを運び込んで分解して新しい機体を作れば帰れるな。
ただし新しい機体を作ろうとすれば、けっこう時間が要るけどな」
「時間が掛かるのか・・・何か、元の姿に戻る方法は無いのか?」
パンジは顎に手を当て、再びパネルを操作しだした。
シスルも寝台のパーツを調べ始めた。
今度はシスルがオレの体を調べ出した。ジンズは何も言わなかった。
しばらくして。
「君の体の変化は、恐らく冷凍睡眠に入った際に生体エネルギーが大きく下がったことが原因だ。
そのエネルギーの変化にこの寝台についていた機械がおかしな反応をしたんだな。
カプセルの粒子化と同じように君の体が一旦分解されて、再構築されたときにそんな体になったんだ。
もっとも。これが誤作動から起きたトラブルで、君の体の質量が変わってないなら対処法はある」
「え。なになに?」
やはり理解できない説明だったが、戻れる方法があるようだ。
「アンタの生体エネルギーを元の値まで一気に戻してやればいいのさ。
その衝撃で、不安定な状態の体は元に戻るはずさ」
元の値まで?
うわーどうしよう・・・元の気まで戻すなんてまったく無理だぞ。
せめて界王拳が使えれば戻れるかも知れないけど。
女の子の体の気は今までと異質な感じだから界王拳が使えないんだよな。
それが困難そうと見たジンズが難しそうな顔でパンジに聞く。
「何か無いのか?研究所には生体エネルギー研究部があっただろう」
思い出したようにパンジは手を打った。
「おお!たまにはいいことを言うな弟よ。
そういえば生エネ部と薬研部の共同開発で、生体エネルギーを増加させる薬が試作段階にあったんだ。
それを使えばどうだろうかヤムチャ君」
「おお!それをお願いします!」
昔悟空が飲んだって言う『超神水』みたいなものか。
・・・あれ?そういえば超神水は毒って聞いたような・・・・・・
「言っとくが体の保障はせんからな。それでは早速取りに帰るからしばらくここで待って----?」
キーンという音がする。
外に出てみると、空から丸い宇宙船が落ちてきていた。
1、2・・・3機
「あれは・・・」
見たことがある。あれは、確か。
フリーザ軍の宇宙船!
「あっちは・・・ショーツさんたちの家の方さ!」
はっとし、皆駆け出す。
くそっ。あんなデカイ気に気づかないなんて。なんで、こんな時に、こんな場所で。
フリーザは死んだってのに。
「ショーツ!スパッツ!!」
パンジの叫びが響く。
カプセルハウスまで帰ると、そこにはでかいクレーターが出来ていた。
そして、フリーザ軍の戦闘服を着て、蝙蝠羽の生えた二足歩行のトカゲが二人の首を掴んで持ち上げていた。
トカゲの身長はジンズぐらいだから、二人の足は完全に宙に浮いている。あの体勢は・・・まずい。
「パ・・・ンジさん」
「父ちゃんー」
二人とも苦しそうに助けを求める。
恐らく、こっちが少しでも近づけば、二人の首を折り、こちらに向かってくるだろう。
相手の気はすこぶるデカイ。恐らく、地球を襲ったあのハゲのサイヤ人並だ。
トカゲより少し小さい気の、フリーザ軍戦士が二人。それでもとても気がデカイ。
片方はずんぐりむっくりした、岩で出来ている肌のような宇宙人。
もう片方は前髪で顔が見えない男。肌の色が緑。
こっそり後ろ手で操気弾を作り、地面に潜らす。
「なんだ?ちょっとは殺しがいのあるクズが来たか」
トカゲがこちらに言う。
明らかにこちらを見下した物言いだ。
「君、二人を放したまえ」
パンジが押し殺した声で言う。
操気弾はもう少し・・・
相手は油断している。せめてどちらか一方の手は操気弾の直撃で放すかもしれない。
だが、どっちを助ける?最初に助けた方が明らかに生存確率が高い。
少し、悩んでいる間に岩男が笑いながら告げた。
「おい、チビどもを放せってさ」
ヒヤッとした感覚があった。
ごきっという絶望的な音が響いた。そして顔の見えない男がぼそりと言う。
「・・・死んだ」
首が折れた二人を岩山に放り投げるて、トカゲは笑う。
ジンズの顔が険しくなる。シスルは思わず目をそらす。
パンジの表情は、見えなかった。
自分が少し迷ったせいで、両方助けられなかった。
「っ貴様!」
トカゲの足元から操気弾を出す。
顎に思いっきりヒットさせた・・・と思ったら、トカゲはその気に噛み付いて体に取り込んだ。
トカゲに操気弾の分の気が増える。
「・・・パンジさん。アンタは研究所に帰って薬を取ってきてくれ。
ここにいると戦いの邪魔だ。仇は、残しておくから」
「ああ・・・・大丈夫だ。問題ない。冷静だとも・・・・」
震えた声で答える。その場にカプセルで、空間転送装置をだす。
トカゲがピクリと反応をした。
「なんか知らねぇが、その機械邪魔っけだな」
エネルギー弾をこちらの装置に放つ。
ヤムチャは気を腕に集中させて上に弾こうとした。
しかし、凄まじいスピードでジンズがヤムチャの目の前まで来てエネルギー弾を上に蹴り飛ばした。
さらに上空に飛んでいたシスルが気を込めた刀の鞘で顔の見えない男に向かって弾き返す。
男は上半身だけの動きで帰ってきたエネルギーを避ける。
後ろの岩山が弾けた。
「その薬・・・」
「3人分頼むさ!」
二人が異星人を睨みつけながら告げる。
「お前ら・・・」
パンジが頷く。装置が起動して消えていった。
「やるじゃないか。おい、お前ら!あれやるぜ」
異星人三人組が、一箇所に集まる。
思わず身構える。
「ラクトース!」
妙に変な格好をしながらトカゲが叫んだ。
は?何だあいつ・・・?
「ヨッグ!」
「チヅゥ・・・・」
岩男と顔の見えない男も叫び、三人が組み合わさるようなポーズをとる。
しかしそれでいて、何故か左右非対称というか何か抜けているようなポーズ。
『新生・ギニュー特戦隊出撃!』
変態だ。変態がいる。
しばらくシーンとして、ヤツラは集まりぼそぼそ言い出した。
「やっぱギニュー隊長とスクリームの奴がいないと新生ファインティングポーズは完成しないな」
「初めて実戦でやったけど、意外とやった後の相手の間が恥ずかしいな。あの二人も連れてくれば良かったぜ」
「いいと・・・・思うが・・・やはり五人いないと。」
何なんだあいつら。