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ヤムチャ異星録

三章『三本の刀』



「どうでした?」
あいからわずにこにこしてショーツが聞いてくる。呑気だな。
「うん?ああ追っ払っといたから問題ないよ」
実は気絶していたので外で全員縛って転がしておいた。
『逃げたらコロス』と書き置きしておいたから気がついても大丈夫だろう。
「よし、じゃあ寝ましょう」
「はい、おやすみ」
とりあえず寝よう・・・・

「おはよう」
ムッツリとして仲間と縛られている男に話しかけた。
昨日は暗くて見えなかったが薄い青色の混じった銀髪の男だ。
30の半ばといった年だが顔つきが精悍なために20代でも通じるだろう。
「我々を縛るのは不当だ。即時開放を要求する」
きっぱりと言い放った。ヤムチャはため息交じりで言った。
「あのなぁ、昨日の昼間この家奪い取った奴の親玉が、自分は悪くないと言い切るか?」
「それは誤解だ。
 我々は強盗ではなく傭兵だ。昨日の強盗はこの部隊から抜けて略奪を計ったため、始末しようと昨夜訪問したのだ」
「・・・・本当か?」
家の外まで引きずってきた強盗に刀を突きつけ、聞いた。
うなだれて首を縦に振る。
「んー・・・案外ほんとかもな
 とりあえずアンタらの部隊抜けたっつーこの強盗は警察に突き出すから。
 ああそうだ。アンタらが集団強盗じゃないって確証も無いから人質としてあんたらのリーダーもついてきてもらうぜ」
「・・・・・かまわんだろう。では皆は解放してくれ。
 皆、しばらく留守にするからベースキャンプに戻っておいてくれ」
「ういっす」
自由になった男達がぞろぞろと帰っていく。




男達が行った後にヤムチャは聞く。
「本当に略奪はしないんだよな」
「無論だ。今回略奪を試みたそいつら相手にあそこまで弾薬をつぎ込んだのも、他の略奪を考えているものに対する警告でもあったのだ
それに嘘を言って、奴等が略奪をしたら私が殺される。嘘をつく理由が無い」
「まあ、確かにな。じゃ、ちょっとそこの家に一泊のお礼をするからついて来てくれ」
略奪者2人は縛ったまま、ジンズをつれてカプセルハウスへ一旦戻った。
とりあえず挨拶をして、町に向かおう。
「ショーツさーん」
「はーい・・・あ、ヤムチャちゃん、朝ごはんそろそろできるわよ」
「いえ、えーとオレはこの強盗二人を町に連れて行きますから、ありがとうございました」
ショーツは残念そうな顔をした。スパッツも。
彼女らとしてはもっと色々話が聞きたかったのだろう。
「えーいっちゃうの?残念だなぁ・・・・
 ん?その人は・・・・」
彼女はジンズをじっと見た。
なぜか、ジンズは目をあわせないようにしている。
「ジンズさんじゃない?やっぱりそうよ!」
「人違いだ」
「知り合いなんですか?」
「昨日言った大きな町の科学研究所で働いている旦那の弟さんよ」
「人違いだ」
科学研究所!やった、帰れるかもしれない。
それにしてもやけに必死で否定するな・・・こいつ。
「ほらその青っぽい銀髪なんかパンジさんにそっくり!」
「もう力の限り人違いだ」
キッパリ完全に否定し、玄関から立ち去った。

・・・・仲悪いのかな?その、パンジさんと。
「あ、ああすいません。じゃあオレはここで」
ポカンとしているショーツに声をかけ、ジンズを追いかける。
「おい、なんなんだよ」
「気にするな。それより、町に行くのだろう?」
胸ポケットからカプセルケースを出し、放り投げた。
ボンっ
中身は、ジープだ。
「これで二時間ほど走れば町に着く」
「ふーん。でもジェット機かなんか出したほうが早く着くんじゃないか?」
もしかして持ってないのかな。俺愛用のジェットモモンガは地球に置いてきたし。
「この辺りの上空は気流が不安定だ。
 それに迂闊に町のほうに飛行機で近づくと自動対空防御システムに撃墜される」
うえっ。物騒な町だな・・・・・
「ではいくぞ」
ジンズは軽々と強盗二人組みを担いでトランクに押し込み、運転席に座った。
ヤムチャは助手席にに乗り込んだ。
「んー?俺が運転してもいいんだけど?」
「お前のような10歳前後のお子様が免許持ってるわけなかろう。
 それに小さすぎてたぶんアクセルに足が届かない」
そうだった。いま少女だったんだ。
うーん色々不便だなこの体。
あ、でも映画とかお子様料金で行けるか。
「・・・・そうだ。気になっていたんだけど、このあたりじゃカプセルハウスはメジャーなのか?」
昨日のショーツさんの家を思い出して言う。
「・・・?何を言っている。カプセルハウスは数十年前から実用化されている。
 田舎でも使われているはずだが」
へーそうなんだ。カプセルの技術は地球より進んでるんだ。
そうだ、科学研究所。あそこに寄ってもらおう。
「ついでに科学研究所ってとこに寄ってくれ」
ガッ
ジンズが思いっきりハンドルに頭をぶつけた。

すっごい嫌そうな顔をしている。
「何故だ・・・・」
1:適当な嘘をつく
2:本当のことを言う
んー2で良いかな。
宇宙科学研究所でコイツの兄貴が働いているみたいだし。
しかし信じるかな・・・
「そーだな。オレが違う星から来た宇宙人で、帰りの宇宙船に困ってると言ったらどう思う?」
「とりあえず頭に外傷は無いようだが」
やっぱそういう反応か。
「ほら信じられねぇだろ?だから説明してもしょうがない」
ジンズは信じていないようだったが。
「あまり行きたくないのだが・・・」
「なんで?ショーツさんの話じゃアンタの兄貴が働いているみたいだったけど。
 仲悪いのか?」
「そんなとこだ・・・・見えてきたぞ」
「おおっ」
目の前には巨大な都市があった。
正面ゲートはまるで・・・いやまるっきり要塞である。
「なんか物々しいな・・・・」
「戦争時代の名残だ。それよりコイツ等は正面ゲートの憲兵に引き渡せばいいな」
そのままジープを走らせる。
正面ゲートに近づくとかなり大きい建築物だと改めて実感する。
あちこちには銃座が覗いているし、銃痕もまだある。
「戦争でもあったのか?」
「・・・・知らないのか自称・宇宙人。最近までこのあたりの都市国家が争っていたんだ。
 もっとも、今では平和協定を結んだおかげで、我々傭兵が仕事をなくしているのだが。
 仕事が無く、金が入らないとコイツ等のように略奪に走る連中が出てくる」

「宇宙から来たんだから知るわけ無いだろ」
ゲートに近づくと、憲兵が寄ってきた。
青色の服と帽子。ごっつい銃。まぁ警察にソックリだった。
「郊外で略奪を働いている者を捕まえた。ここに収容してほしいのだが」
「あ、ジンズさん。分かりました。そちらの方は?お子様ですか」
おいおい。全然顔つきが違うし、ジンズは赤銀髪、ヤムチャは少女化しても黒髪である。
間違えんなよ・・・・
「いや、旅人だ。身分証明書は持ってないが、私が責任を持つから町に入れても良いか」
「ええ。ジンズさんがいれば大丈夫ですよね」
ん?やけに信頼されてるな、こいつ。
ゲートを通って、町に入った。
いかにも都会都会然とした町並みだ。ひょっとすると西の都より発達しているかもしれない。
「そういやアンタやけに顔が利くみたいだけど、有名人かなんかか?」
「先ほど話した戦争で、私はこの町側に着いた傭兵だ。それなりに戦果を上げたからな。
 それに・・・この都市の所有者は私の兄だ。人を苛々させる男だが」
「ほえ?あんたの兄貴-パンジさんって言ったっけ、王様なの?」
意外だった。王様だとするとコイツは王子様と言う事になる。そんな奴が傭兵?
つーかパンジさん研究員って聞いたけど。
「いや?・・・こんな事も知らんとは、案外本当に宇宙人かもな・・・・
 要するに兄はこの町を作ったのだ。バカで軟派だったが手先と頭脳はよかった」
「作ったって言うと・・・大工さんかなんかか?」
「いや・・・・・・この都市は兄が作ったほいぽいカプセルだ」




「えぇっ!?」
ヤムチャは思わず大声を出してしまい、慌てて口を押さえて周囲を見た。
しっかし都市全部がカプセル?なんつー技術力だ。
ジンズはおかしそうに笑った。
「す、凄いんだな・・・この町・・」
周りを物珍しそうに見る。全部が一つのカプセルということは何かもう、凄まじいものを感じた。
辺りを歩いている人たちを見て、ふと思う。
「なあ、この星の人はみんな銀髪なのか?」
「ああそうだ。まぁたまに違った色が生まれてくるらしいが、大抵銀髪だ。
 もちろん髪を染める奴もいるがな。お前のような黒髪は滅多にいない」
そういえばさっきからチラチラ見られていたような。
銀髪といえば・・・・地球のブルマ一家を思い出すな。
アイツらもベジータとブルマの母親を抜かして全員銀髪だ。
「で、科学研究所どこよ?」
「やはり行くのか・・・・
 ではB-3ブロックだな」
ジンズはジープから、エア・カーに乗り換え、道路を走り出した。
何度か交差点を曲がり、しばらく走ったら区画間の門が見えた。
唐突にジンズはエア・カーから降りた。
「どうしたんだよ」
「ここからは車やバイクは通行禁止だ。自転車はいいがな。
 製作者-兄の趣味でB-3ブロックは田舎風になっている」
「なんか意味あるのか・・・それ」
ジンズはかぶりを振り、エア・カーをカプセルにもどした。
「全く意味が無い。完全に兄の趣味だ。
 さらにこの都市一番の科学研究所がこんな交通の便が悪い所に立っているので研究員は迷惑している」
うーん結構困った人だな。
しかし『都市カプセル』を作ったんだから腕はたしかだろう。
何とかして異星から来たってことを信じさせて宇宙船を修理してもらおう。

研究所まで仕方が無いから歩いていく。
確かに今までの都会風とはうって変わって田舎風だ。
所々に畑や田んぼがある。
「なあ・・・田舎風意外になんか変わった区画はあるのか?」
「言うより見たほうが早かろう」
ジンズはそういうとマップを出してくれた。
区画名の下に『〜風』って書いている便利なマップだ。
なになに・・・『中華風』『スラム風』『迷路風』・・・・
町作りにまったく意味の無い所もあるな・・・『全面鏡張り』なんて生活できるのか?
地図を見ながら研究所に向かっていった。
木製の橋を渡っていたところで声をかけられた。
「待てぃ!」
ん?と思い振り返ると袴に甚平を着た赤味がかった銀髪の女が立っていた。腰には刀が差してある。
結構美人だけど、おいおいなんだ?その格好。とか思ったが自分も似たような格好だと思い出し虚しくなった。
むしろ相手のほうがイイ感じに着こなしている。
「・・・・?」
「お前だお前ッ!そこのチビ侍ッ」
オレかよ・・・・
「何か用?変なカッコのオネイさん」
女は不適に笑う。ふと気を探ると、かなり高い。
まあ気の大きさでランクをつけるならヤムチャ<ジンズ<侍女<厚くて高い壁<一般人って所だが。

「ふふふ・・・・貴様の刀をいただく」
「ほい」
刀をあっさり渡した。
女はえ?といった表情をして抗議した。
「待て貴様、それでも侍か!抵抗しろ!勝負しろ!修行にならないだろうが!」
こちらにヤジロベーの刀を戻しながら言う。
なんて支離滅裂な奴だ。刀をよこせと言ったり、抵抗しろと言ったり。
「なんだ修行か。んーまあこの刀借り物だしな」
「勝負するのか」
ジンズが聞いてくる。
まぁ、早く研究所とやらに行きたいところだが。
絶対倒しとかないと付きまとわれるし、こういう修行はヤムチャも経験がある。
参加してやってもいいだろう。
「喜べっ!貴様の刀でちょうど4本目だ!」
「うわ〜なんか半端だな」
「むぅ・・・まあ刀を持って旅する人はあまりいないしな。
 適度に頑張れ。私は見物しておく」
ちっ。気楽な奴だ。
なんか群集が物珍しさに集まってきた。
は、恥ずい・・・・
「我が名はシスル。では往くぞッ!」
女が刀を鞘から抜く。




シスルは刀を肩に担ぐ様な構えで突っ込んできた。
ヤムチャは剣術を習った事は無い。荒野の狼時代に青竜刀を振り回していたぐらいだ。
「オレはヤムチャだ。後悔するなよ・・・せいっ!」
横一文字に刀を振るう。刃を裏にしているが、骨ぐらいは軽く折れる。
十分引きつけて振ったように思えたが、間合いが微妙に遠く、空振り。
「はぁっ!」
女の刀が勢いよく振るわれる。
「っく!」
何とか紙一重で避ける。意外に早い。
足払いを放つが、高く跳び避けられる。
キンッ!
跳んだ所を斬りつけるが軽がると受けられ、その反動でさらに遠くへ跳んだ。
着地と同時にこちらへ走り出してきた。走りながら短刀が3本、頭と胸と足を狙って飛んできた。
「ええぃっ!」
足に飛んできたのは避け、頭のは刀の腹で弾き、胸に飛んできたのはつばに刺さった。
アブねー・・・と思う暇も無く、同時に走り出してきたシスルが眼の前にいた。
「くらえさっ!」
至近距離に来たシスルはすくい上げるように斬撃を放った。
体を反らして避ける。が、刀の鞘が反対の手から振るわれる。
「っく!」
左手の甲で受け止める。腕がジーンとした。
そのままバク転で距離を取り、殴りかかる。
頭を狙った拳は何も無いところを素振りした。

いない!?と思ったとき、こちらの死角からわき腹に向けて刀を振るう姿が見えないはずなのに、感じた。
こちらに振るわれる刀。とんでもない危機感。ヤムチャの集中力が極限まで増幅させられた。
ゆっくりと刃を見る。軌道上にはこちらのわき腹がある。よく見ると刃を逆にしている。
アバラ骨が折れるぐらいの怪我するが、殺す気はないようだ。
増幅された知覚の中でヤムチャの手は思いのほかすばやく動いた。
こちらに来る刀を片手の手のひらで挟むように受け止める。
それでも勢いは止まらなかったが、手で覆ったためわき腹には直接刀身は当たらなかった。
シスルは必殺のタイミングで振った刀を受け止められて少なからず驚いているようだ。
「そうだよな・・・・何も相手の得意分野で相手をしなくてもいいんだ。
 反撃開始させてもらうぜ!」
そう叫ぶとヤムチャは掴んでいた刀を刀身の半ばからへし折った。
元の体だったらなんとも無かったが少女の体な状態で折ったから、手には血が滲んでいた。
バックステップで後ろに下がるシスルに思いっきり折った刀身を投げつけた。
シスルもこちらに折られた刀を投げ、空中で刀身と当たる。
もちろんヤムチャが投げた刀身のほうがパワーがあったため、刀を投げ当てたが、飛んでくる刀身の軌道を変えるしか出来なかった。
即座に腰にあった刀を二本取り出した。次は、二刀流。
一瞬の間にヤムチャは間合いを詰め、側転するように回転した勢いで斬りつけた。
シスルは体を半身ずらして避けると、着地の瞬間を狙った。
が、着地する瞬間ヤムチャは体を水平にしたまま舞空術で足元をするりと抜けつつ、足首をつかんだ。

「でいッ!」
そのまま橋の手すりに投げつけるが、手すりの上に着地させられる。
すぅっとシスルの体が薄くなる。残像拳だ。
意識的に相手は気を消しているために気で本物を見分けるのは難しい。
全部の残像がじりじり間合いを詰めてくる。
どうする?どれが本物だ?
天津飯なら見分けられそうだが、奴ほどの目はあいにく持ち合わせていない。
そうだ。相手の戦い方に合わせるな。
「かめはめ〜・・・波!!」
ヤムチャはかめはめ波を放った。狙いは、足元の橋。
崩れ落ちる橋。流石に足場が不安定ならば残像拳はできない。
落ちて、川原-これもパンジさんが作ったのだろうか-に降りた。
「まだまだ!」
シスルは二刀で切りかかってきた。
しっかり、落ち着いて相手の動きを読む。
左手の刀をこちらが右手に持ったヤジロベーの刀で押しのける。
もう片方の刀は右手の甲に手を添えて起動を反らす相手の勢いを殺さないように後ろに回り、蹴りを叩き込む。
シスルは走っていたのでそのまま勢いよく川原のコンクリート壁に突っ込んでいく。
そのまま壁走りをして、バック宙で振り返る。




「・・!」
シスルの目の前に光球が飛んできていた。
それの正体が分からないが、とりあえず左手の刀で一刀両断。
しかし光球は二つに別れ左右からそれぞれ襲ってきた。
「ちぃっ!」
シュシュッ!
両手の刀でそれを切り払う。
が、当たった瞬間激しい閃光と爆音を上げて操気弾は破裂した。
音と光だけで、殺傷力は殆ど無い。
「これぞスタン・操気弾!」
そう叫んでヤムチャはシスルに接近。
数秒間は視覚と聴覚を失っているはずだ。
刀をがむしゃらに振り回すが、ヤムチャは片方の刀を捉まえ、拳で挟み込むように殴り折った。
若干回復した視力で斬撃を放つが、軽々ヤムチャは避ける。
「だぁっ!」
その刀を上に弾き飛ばす。
橋の残骸にカツッと刺さった。
ぱっと見、相手に他の刀は持ってない。
「どうだ!俺の勝ちだな!」
「・・・ち。コレを使うとはな・・・死ぬなさ!」
ほいぽいカプセルを足元に落とした。
ボンッ。
出てきたのは、やたらデカイ鞘についていて、柄のほうにホース?見たいなのがつながっている刀。

ヴィーン・・・・・
機械音がして、シスルは鞘から刀を抜いた。
ほとんど透明な、白みがかった刀身。
「いく・・・さっ!」
突進してくる。が、ヤムチャは落ち着いている。
さっきと同じ方法で刀身を叩き折ればいい。慌てるな。
そしてこちらに当たる瞬間、ヤムチャは片手のひらで相手の手元に近いほうを掴んだ。
そこを掴めば動きは止まる。が、
「いっつーーッ!?」
触れた瞬間手に激しい痛みが襲ってきた。
確かに刀は止まったが、折るどころの話ではない。
そっちに気を取られた隙に蹴りが飛んでくる。
とっさに手を離し後ろに飛ぼうとするが、離れない。
「こなくそっ!」
思い切り手を引っ張る。手の表面の皮膚がはがれる。
それでも蹴り飛ばされ、後ろに吹き飛ぶ。
「ぐ・・・なんだ?一体・・・」
「コールドナイフだ」
後ろで見物していたジンズが言う。
「水を冷やし、その氷を刃物にした工業用カッターの一種だ。普通の氷とは桁違いの温度だ。
 温度が下がると分子間の動きが鈍くなるため壊れにくく、さらに・・・」
小難しい説明をしているがほとんど聞いていない。
要はアレが氷で、触れないと言う事だ。
無理やり引き剥がした手から血が出ている。
おまけに火傷したようだ。これはヤバイ。

素手じゃあ無理。刀で戦うしかない。
「いくぜ!」
ダッシュで接近。
走る途中で石ころを蹴飛ばし、つぶてにする。
つぶては弾き返され、こちらに飛んでくる。
が、既に高くジャンプしており、弾いたときに崩れた体勢を狙い、刀を振るう。
キンッ!
体を下げて、氷の剣で防ぐ。
すぐにヤムチャは刀を離す。くっつけたままだと刀が凍りつく。
氷の剣が振るわれるが、自ら転ぶように避ける。
「ってい!」
足元にいるヤムチャに蹴りが飛んでくるがそのまま転がって距離を取る。
「氷弾撃っ!」
シスルは刀で川を叩く。
水しぶきが氷の粒となってヤムチャに襲い掛かる。
それを最小限の動きでかわして、避けられないのは肘撃ちや刀で弾く。
待てよ・・・こんな技使ったら・・・・
そう思いシスルを見るとやはり、刀にでっかい氷がくっついてる。
チャーンス!
あんまり後先考えるタイプじゃないみたいだ。




間合いを詰める。コレを逃すヤムチャではない。
シスルが柄についてるボタンを押した。
すると、刀の刀身の部分が外れる。
さらに柄を鞘に収める。
ヤムチャは目の前まで来た。狙いは、鞘。
ギィィィィン。
「なっ!?」
再び柄から刀が生えていて、鞘直前で止められた。
柄に付いたホースで水を供給し、鞘で冷やす。
そういうサイクルだった。
ピシピシピシ!
ヤジロベーの刀がだんだん凍りつく。
「くそ!」
気孔波を顔に飛ばし-避けられたが-その隙に距離を取った。
刀が刀身の半ばまで凍り付いてしまった。
コレでは強度がかなり落ちる。
「なんて厄介なんだ・・・何か、対抗策を考えろ」
気功波で火をつけることが出来る・・・ならば気は熱いはずだ。
さらにクリリンの気円斬。あれは何でも切れる。しかし刀に取り付けることはできない。
ヤムチャの秘奥義、操気弾。この技で、刀の周りに覆うように定着させれる。
いけるか?気の下がってるこの状態で。手の痛みで集中かも知れない。
このまま逃げたほうが楽だ。
武道家としての誇りを捨てて?
「ええぃ!迷っていても仕方が無い。ヤってみて駄目だったら降参。できれば儲けモンだ!」

操気弾を出す。形状を変える。
訝しげにこちらを見るシスルとジンズ。それに周りの見物人。
元の刀を軸に、形を変える。
刀を包み込むイメージ。
次に高速で気を回転させる。
ギャァァァァン!
「ぐっ・・・・ふぅ・・・・」
意外にキツイ。流石に技を、それも片方は見よう見まねを複合させると、気の消費に無駄が大きくなる。
そう長くは持ちそうにない・・・早期決戦だ。
一気に接近。これほど軽く体が動いたのは久しぶりだ。
「来いさ・・・・!!」
シスルは迎え撃つ。体を回転させるように遠心力をつけ、振り下ろす。
こちらは上段に構え、一気に刀身を狙い振り下ろす。
「でぁぁああ゛!」
ギャン!
一刀でコールドナイフの刀身を切り落とす。
一瞬集中が途切れ、倒れそうになる。
が、倒れたら負けだ。相手の刀身は何度でも復活する。

「いけっ!」
刀についていた気円操弾とでも言うべきエネルギー弾が飛んでいく。
鞘めがけて。
気弾は鞘にかすめるように、ついていたコードを何本か引き裂き、消滅した。
バチバチ鞘が音を立て、スパークする。
「こいつは・・・ヤバイさ!」
慌ててシスルは刀から手を離そうとするが遅く、柄まで冷気が逆流して手を張り付けていた。
「っあぁ!!」
「お、おい大丈夫か!?」
「いかん!冷却器が・・・スイッチを切るぞ!」
ジンズが駆けつけ、スイッチらしきものを押した。
「このままでは手が凍傷になって壊死するぞ」
ひどくシスルは苦しんでいる。このままではまずい。
「くそっ!コレしかないか・・・」
ヤムチャはシスルの凍り付いている手を包み込むように握った。
「何するさ!?」
「うるせぇ!じっとしてろ!」
両手に気を集中させ、熱を発散する。
それでシスルの手を温める。が、
「おい!そんな事したら・・・お前の手が焼けるさ!?」
「手が壊れる前に終わらす!」
ヤムチャはじっと気を貯める。かなり両手が熱い。ぼんやりと光っている。
心配そうにジンズが見ている。
周りのギャラリーも息を呑んでいる。




「もう止めるさ!」
「わーたわーた!ったくうるせぇな・・・もう終わったって」
手を離すとシスルの手に張り付いていた氷は解けていた
自分の手も彼女の手の火傷しているようだが。
コールドナイフを一回掴んだ左手はほとんど感覚がない。
「なんか・・・治療する道具無かったかな」
ごそごそ服を探る。すると仙豆が一粒だけ出てきた。
そういやこれヤジロベーの服だっけ。あいつこっそり持ってやがったな。
ヤムチャは仙豆を二つに割り、片方をシスルに渡した。
訝しげにそれを見つめ、口に放り込んだ。
「・・!?」
シスルの両手の火傷が消えた。
それだけではなく、戦闘でついた傷もあらかた治っている。
「ふぅ・・・怪我は治ったけどまだしんどいな・・・
 半分じゃこんなもんか」
治っただけもらいモンかな。アイツの両手が使えないとなると目覚め悪いしな。
すこし横になろう。川原の石の冷たさが心地よい。
「なんだ?・・・それは」
ジンズが怪我の治ったヤムチャに問いかける。

首だけ起こしてジンズを見て、答える。
「ん?ああ、これね。仙豆っつって怪我とか治す豆だ。
 半分でも効果てきめんだな」
ギャラリーもあらかた散っていっている。
恩を売るつもりはないけどさ、御礼ぐらいは欲しかったりして。
ちらっとシスルのほうを向く。彼女もこちらを見ていたらしく、目が合った。
ぼぉっと説明を聞いていたシスルは、あっと思い礼をした。
「あ、ありがと・・・」
照れたような、不貞腐れたような表情をして言うシスル。
にっとヤムチャは笑った。可愛いところもあるじゃないか。
「どーいたしまして」
「くらー!お前らか!橋を落としたのは!」
川原に老警官が叫びながら降りてきた。
流石に・・・橋を壊したのはダメだったかな。
捕まったら面倒だ。
「逃げろ!」
背筋を使ってその場から跳ね起き、駆け出した。
ヤムチャとジンズは急いで逃げ出したが、シスルは運悪く捕まったようだ。
とりあえず、ちょっと遠くの飯屋にでも行って、ほとぼりが冷めてから来るか。





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