ヤムチャ異星録
二章『二足の軍靴』
「どうしよう・・・」
完全に宇宙に放り出されたヤムチャ。おまけに目的地-どこか知らない座標-に到着するまで針路変更できない。
というか宇宙船は明らかに門外漢である。
食料は非常食だけだし・・・・アナウンスによれば到着は七日後。
どうしようか悩んでいるときふと寝台のようなものが目に留まった。
あれは・・・たしかブルマから聞いた頃がある冷凍睡眠装置ではないか?
アレの中で寝ている間は生命維持装置が働き、目的地に到着したら起こしてくれる。
そうにちがいない。よし早速乗り込もう。
このコールドスリープ装置も備えた異常なマシンに、ヤムチャは躊躇なく入って起動させた。
ここを押すのか・・・うん眠くなってきた。次起きるときは七日後だな。
時差ぼけとか起きないんだろうか・・・・まぁいいや・・・考えるのも・・・・眠い・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『惑星ショヴァ・パンツァーに到着』
プシュー。
寝台の蓋が開く。
「はぁあ〜・・・ん〜意外と寝た気しないな・・・いてっ」
つまずいた。自分の服のすそ踏んだらしい。
「なんだ?ズボンが下がったか?」
ベルトは腹の所についている。が、なぜか服がダボダボだ。
「?」
手鏡で確認。同時に落とした。
カシャ。
鏡が割れる。
確認した自分の顔・・・・子どもになっていた。
しかも単に子どもというだけでなく女の子になっていた。
「ええぇぇぇええ!!?」
なんだよこれ!意味ワカンネ!どういうことだ?
原因は?この前食った生牡蠣か?イヤ関係ねぇ!
となると・・・・
「お前かぁ!」
寝台をおもむろに蹴飛ばす。が、意外に重いらしく足が痛くなった。
コードを引きちぎりながら壁にぶつけ、ようやく我に返る。
しまったこれでなったんならまた使えばなおったかもしんねぇじゃん!何やってんだ俺!
しかも足痛いし・・・・もしかして気が減ってるんじゃないか!?
「ふぅ・・・・はぁぁぁあああ゛あ゛!!」
気を全開にする。が、今までの修行した分全て失われた感じだ。サイバイマンにすら負ける。
ううう・・・この体でどうしろと?女湯・・・そうだ女湯だ!ああだめだ!地球に帰ることを考えよう。
しかし、帰り方が分からない。燃料がどうかさえ不明瞭だ。
外に出て、助けを求めるか・・・?
人がいれば、特に宇宙船に詳しい人がいれば帰り方や燃料を分けてもらえるかもしれない。
ついでに体も戻してくれないかな・・・・
そうしてヤムチャはとりあえず元きていた服は着れないから、なぜかそこにあった侍服を着た。
戦闘力のカバーのためヤジロベーのものと思しき刀と非常用に少しの食料を持って大気チェックすらせずに外に出た。
幸い、水と大気はあるようだ。人家を探そう、と決意を固め少ない気でふよふよ飛んで言った。
ヤムチャ(少女):戦闘力700 装備:ヤジロベーの刀、侍服
:舞空術使用可、界王拳使用不可、操気弾発射可
ヤムチャがふらふら飛んでいた。
特に当てはない。ここ数年巨大な気を感じすぎて一般人の気を感じるのは困難になっていた。
「こんな気じゃあ悟空に見つけてもらうのも難しいな・・・・
大きい町にいければ一人ぐらいは宇宙船に詳しい人がいるかな
そもそも人いるのかな?この星・・・・・」
しばらく飛んでいると民家が一軒、ぽつんとあった。
地面に降りて近づいていくと、なにやら声が聞こえる。
ベジータの話によると自分等が普通に話している言葉は宇宙共通語らしい。
「・・・・ごくんじゃねぇぞ!頭を潰れたトマトみてぇにされたくなければな」
どうやら真っ当じゃない奴がいるらしい。
念のため気を消して、岩陰から覗き見る。
見るからに強盗らしき男達が怯えている人に銃を向けている。
家の住人らしい女の人とその子ども。旦那はすでに殺されたか、いないときを襲撃されたかそんなとこだろう。
驚いた事に外見は地球人ソックリだった。
「へへへ・・・じゃあこの家はもらっていくぜ」
ボンッ。
家についていたボタンを押すと、家は見る見るカプセルになった。
ほいぽいカプセルの家・・・・そんなのあったか?
たしか大規模な質量をカプセルにするのは難しいとかなんとかブリーフ博士に聞いたことがある。
最近地球でやっと開発されたのが『部屋』カプセルである。
などとヤムチャがうんうん唸っているうちに強盗二人組みは今度はその場にいた女性に詰め寄っていった。
「へへへ・・・じゃあこの女ももらうかな」
下卑た声にも意味が分かってないのかキョトンとした女性とその子ども。ヤムチャは正気に戻り、これ以上は見過ごせんと岩陰から飛び出した。
「そこまでにするんだな」
凄みながら強盗の一人に近づいていく。たいていのチンピラだったら速攻で逃げ出したはずだ。
「なんだ?このガキ」
そういわれて思い出した。今の姿は12歳程度の女の子だ。こんな娘に凄まれても誰もビビらない。むしろ和む。
「迷子かな?」
ギャハハハハハ!
完全に馬鹿にしている言葉にもう一人の強盗も大笑いした。
まぁこんな態度には慣れているヤムチャはつかつか近づいていって軽ーくパンチ。
「フベオェファッ!・・・・・・・・・」
いくら戦闘力が落ち込んだとはいえ一般人とは蟻と狼ほど差がある。
ワンパンチで派手に吹き飛び近くの岩に当たって倒れた。
「ってめぇ!」
パンパパン!強盗のもう一人が発砲。
しかしどうやら体が変化する前と動体視力は変わってないらしく飛んでくる弾は、ふんわり飛んでくるソフトボール並の速度に見えた。
受け止めようかと思い、やめた。肉体強度がどの程度まで下がったか分からない以上、危険である。
避けるのは容易いが、もっと効果的に相手の戦意を削ぐ方法・・・・。
キンッ!カカッ!
刀で弾を全て叩ききった。
あんがいヤジロベーの刀頑丈だな。
「終わりか?」
強盗(と、そこに住んでた住人2人)は目を丸くし、強盗は悲鳴を上げ逃げ出した。
ヤムチャはカプセルを持ってる奴を追いかけ、捕まえた。
「おい」
「ひいいぃぃ!!た、助けて・・・」
「カプセル返せよ。それと」
刀を鼻先に突きつける。ちょっぴり刺さったが。
「オマエは警察に突き出すぞ。暴れたら殺すから」
もう喋れない強盗はかくかくと首を縦に振りカプセルを渡した。
受け取ったら、後頭部に手刀を叩き込んで気絶させ、もうひとりと一緒に縛って転がしておいた。
「ほれ、これアンタのだろ」
ヤムチャはぼぅっとしている女の人に、家だったカプセルを渡した。
女はハッとして受け取りカプセルを投げる。
ぼんっ!
カプセルは再び家に戻った。
「あ、ありがとうお嬢ちゃん」
「いいって」
「お礼するからちょっと上がっていって」
手をつかまれずるずる家の中に引きずり込まれる。
後ろからはその女性の子どもらしき女の子が楽しそうに押している。
(・・・・まぁいいか)
とりあえず居間らしき部屋に案内され、紅茶っぽい液体が出された。
一応すこし口をつけたら、地球の紅茶と味は変わらないようだった。
「いやーありがとね。危うく家が盗られて私もヤられて埋められるとこだったよ
あ、私ショーツっていうの。この子はスパッツ。ほら挨拶なさい」
「こんにちはー」
「いやこんにちは。オレ、ヤムチャっていいます」
ショーツはがっぱんがっぱん紅茶に砂糖を入れながらにこにこ言った。
二人とも銀髪だ。そういえばさっきの強盗も銀髪だな。
「ヤムチャちゃんね。素敵な名前、そうまるでお茶うけのような・・・・
いやそれにしても可愛い服ね。お父さんお母さんは?」
・・・・襲われたばかりなのにハイテンションだなこの人。
んーしかし違う星から来ましたって言っても信じられないだろうし、意味無いよな。
適当な嘘を使おう。
「えーとですね。ヂツは旅をしてまして。
・・・そうそうこのあたりに大きい町などはありますか?」
「町ならずっと遠くにあるよー」
スパッツが答える。語尾を延ばす変わった口調だ。
「その刀はすごい切れ味ねー弾を斬っちゃうなんてすごい。
こんな女の子が刀を持ってるのは護身?
まぁ凄く強いようだから護身の意味無いけど。誰かに戦い方学んだりしたの?」
「ええっとですね。この技は・・・そうキャメシェン流と言いまして・・・・・
ああそうだ、さっきの奴ら明日警察に届けますから家の裏につないどきますね」
テンション高めに質問してくるショーツに適当に嘘で答えるヤムチャ。
いつのまにか夜になってた。
「オラァ!!出て来いィィィィッ!!!」
ジョジョ風の怒鳴り声がカプセルハウスに響いた。
ヤムチャはすっかり話しこんでしまい、町を目指すのは明日にして今日は泊まるように説得されていた。
それで布団を敷いていたら外からデカイ声が響いてきた。
「オレにお客さんのようだ」
その怒鳴り声でヤムチャは昼間の強盗どもの仕返しだろうと予測をつけた。
「そこにチンピラがいるだろう。そいつを出せ」
打って変わって冷静な声。拡声器で言ってるらしい。
仲間を取り戻しに来たかな?
「そいつらを出せば危害は加えん」
どこまで信じられるやら。
ヤムチャは玄関先に立ち、気配を読んだ。
入口から50メートル半径で取り囲むように銃で狙っている。
恐らく仲間を取り戻してから全員で襲撃をカマす作戦か。
この数は仲間が捕らえられた事に対する警戒だな。
どう退治してやろうか・・・・正面からでは不利だな。
奴らの裏を掻かなくては。
「隊長、出て来ました!」
ぼんやりした灯りが玄関から歩く速度で離れてくる。
愚か者どもめ。隊長-ジンズ-は思う。
「入口から5メートルの所で狙え
第一撃目は機関銃。十秒の連射のあとにロケット弾を撃て」
通信機-たかが盗賊には不釣合いだが-で狙ってる仲間に連絡を入れる。
ターゲットは12歳ぐらいの少女-ではなくここを襲撃した元仲間。
30人という総動員で狙うには少なすぎる相手である。
しかし、彼らは自分等の部隊を裏切り、強盗まがいのことをした。
略奪は死罪、それが彼らのルールである。
部隊を離れ、このハウスを町で売って金にしようと思ったのだろうがそうはいかない。
彼らの存在していた証拠さえ消さねば。
「っ来ました!」
「撃て」
タラララララララララ!!!!
灯火に向かって部下達の大小様々な銃火器が襲い掛かる。
一般人だったら肉片になっているだろう。
しかし、だんだん銃声が減っていっている。
「・・・・・?」
通信機に連絡を入れる。
「どうした?」
「分かりません!ただ仲間がどんどん・・・・う、うわあぁぁぁぁ!!」
パララララ!
「どうした!応答しろ!」
やられていってる・・・・・?
罠にかけられたのは自分らの方だったか・・・・
暗がりから少女が出てくる。
「さぁ、残ったのはアンタだけだ」
うまくいった。
ヤムチャは満足した。
入口から出て行くと見せかけ、光量を上げた操気弾を歩くぐらいの速度で進ませた。
その間に自分は窓から出て行き、光に気をとられている襲撃者達を次々と気絶させていった。
あとはこのリーダー格だけだ。
コイツだけ一般人に比べてやたら気がデカイ。それでも、自分ほどではない。
「いくぜっ!」
刀を片手に、男に突っ込む。
キンッ!
刀を振り下ろす-殺す気は無いのでみねのほうで-が、相手のブーツのかかとで弾かれた。
なかなか早い動きだ。
弾かれた勢いを殺さずにお手本のような裏拳を叩き込む。
今度はスネの所で防がれる。この感触は、ブーツに鉄板を仕込んでいる。
それに自分は身長が縮んで150cmぐらい。相手は180cmはある。
裏拳ならちょっと足を上げるだけで防げるだろう。
「せいっ!」
裏拳を防いだ姿勢のまま、こちらの顔面に蹴りを入れてくる。
こぶしを軸に体を回転させ相手の後ろを取る。
しかしジンズは空振りした足をそのまま地面すれすれに下げて一回転させ、足払いした。
小さくなっても足元がお留守なヤムチャはそれに引っかかってしまい、転んだ。
転んだ所でストンピングが飛んでくる。横に転がり避ける。
やや距離をとり、ヤムチャは立ち上がった。
「いくぜ・・・狼牙・風風拳っ!」
凄まじい速度でジンズに迫っていく。
片手は刀を持っているのでいつもとスタイルが違う。
ガッガガガッ!
拳はすれすれで避わされ、刀は再び足でガードされた。
「はぁっ!」
刀を足の上がらない頭に振る。
しかし、額を浅く薙いだだけだった。
「撃ッ!」
こちらの腹に相手の足が突き刺さる。
気を集中させて、自ら後ろに飛んだことでダメージはほとんど無い。
くそっ。この体にまだ慣れてないからやりにくいぜ。しかし足技か・・・・
パワーはこちらが上だがまともに戦うと体重差で不利だな。さっき防がれた裏拳で手が痛いし。なにか作戦を・・・・・
ジンズは相手の実力に驚きを感じていた。
剣技と体術を織り交ぜた攻撃もさながら、相手にはまだ余裕がある。
自分はほとんど余裕なく戦っている。
裏拳を防げたのは運がよかった。何回も成功するとは限らない。
それにこのブーツは加工できる範囲で最硬の金属タシギ鋼が使われている。
なのにガードしたとき衝撃が貫通して骨まで響いた。
先ほど吹き飛ばした蹴りは常人なら内臓破裂しているはずだ。
一体、奴は何者だ・・・・?
「よし、少し本気でいこうかな」
ヤムチャは相手に聞こえるように言った。もちろん、今までのは本気じゃなかった〜と宣言して相手の動揺を誘う作戦である。
ジンズの表情が厳しくなる。
シュッ!
姿が消える。ジンズは焦らず目を凝らす。目の前に見えた気がした。
反射的に体を曲げてやり過ごす。頭上を轟音を立ててヤムチャの拳が通り過ぎる。
「くッ!」
ミドルキック-相手にとっては首筋だが-を放ち距離を取ろうとする。
しかし軽々受け止められ、足を掴まれる。自分から逆立ちするように体を回転させ足を離させる。
ヤムチャの顔に拳を放つが、避けて腕を掴まれ真上に放り投げられる。
空を飛べないジンズは空中で体勢を整え、真下にいるヤムチャを踏みつけるように蹴りを出す。
最少の動作でヤムチャは避け、ジンズの顔にサマーソルトを放つ。
何とか上体を反らしやり過ごす。ヤムチャは一回転し、水平に刀を振る。
ギリギリでしゃがんで避けたが、刀を持ってないもう片方の拳がジンズの目に何か投げつける・・・・砂。
「くっ!」
一瞬視界が遮られる。意を決してその場に転がり、離れる。
目を開く。まだ見えるようだ。が。
「何っ!」
目の前には少女が無数に存在した。ヤムチャの残像拳だ。
「幻影か・・・!」
元の姿を思い出し、残像との違いを捜す。
違い・・・・違い・・・カタナ!
残像は刀を持っていなかった。本体は・・・・
「捉えた!」
自分の真上10メートルほどに、刀を振りかざしているヤムチャが落ちてくるのが見えた。
それより高く飛び上がり、体を空中で一回転させ踵を叩き下ろした。
「マースナリ・レッグッ!!」
このとき確かに踵に気が集中しているのがヤムチャに見えた。
そこよりさらに高い位置、地上からでは刀を振り下ろしている残像で見えない位置。
「喰らえーーッ!」
必殺技が外れて、戸惑うジンズに上空から刀を構え舞空術で急降下した。
「ぬぅぅぅっ!!」
重力を無視した感じにスカした踵をさらに一回転し、刀の柄を弾く。
ヤジロベーの刀が地面に落ちる。
「まだだッ!」
空になった刀の鞘でジンズを打ち付ける。
そのまま急降下し、地面に叩きつけられるジンズ。
「ぐ、ぐぅ・・・」
まだ意識を失っていない。
ヤムチャも降りてきて、刀を回収した。
「もう降参したらどうだ
お前じゃあオレに勝てないからな」
「確かに勝てはしない・・・が、決して降参などせぬ!」
「あっそ」
クイッとヤムチャは腕を上げる。
そうするとジンズのちょうど下の地面から、最初に灯火にしていた操気弾がでてきた。
ガツっとジンズのあごに当たり、むーんと気を失った。
「ま、こんなもんだろ」