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ドラえもん のび太と最強の男


<中編>



498 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/06 01:19 ID:???
>>476
 四日目の朝。狭い壁紙ハウスの中、不平も言わず七人は耐えてきた。それどころか、各々の絆が深まっ
ているようにも思える。始めは子供達に言われるがままにされていたヤムチャも、今や皆のお兄さん的存
在だ。その生真面目な性格が災いし、なかなかのび太達と馴染めなかったプーアルも、自ら変化能力を利
用した芸を披露するくらいに溶け込んでいる。それは打倒フリーザという共通の目標があるから、という
だけでは到底説明がつかない。彼らは本人同士も気づかぬうちに、本当の“仲間”になっていたのだ。
「ご馳走様でした!」
 景気の良い挨拶と共に、朝食タイム終了。これからは、昨日までと同じだ。ヤムチャは修行、プーアル
は変化の特訓、のび太達は作戦会議だ。ヤムチャだけは部屋を変えるので、しばしの別れ。
「ヤムチャさん、頑張ってね!」
「ああ、君達もな」
「僕、もう逃げたりしないよ!」
「逃げた事は問題じゃない、戻って来た勇気が大切なんだ。君は俺よりもよっぽど勇気がある」
「次は絶対にフリーザを倒してくれよ!」
「勿論だとも!」
 勿論だとも。ヤムチャは驚いていた。今この言葉が、驚くほど自然に出たのだ。無論、ヤムチャは今も
フリーザに勝てるとは思ってないし、思えない。だが、昨日までは虚勢を張るたびに、胸の中に罪悪感の
ようなものが生じていた。偽りの英雄を演じる自分への情けなさ、子供達への申し訳なさが…。今日はそ
れが無い。そんな事を考えていると、プーアルがいつも通り見送りの言葉をくれた。
「ではヤムチャ様、お気をつけて」
「すまんな、プーアル」
 思えば、プーアルにも随分迷惑をかけた。酒を買いに行かせ、身の回りの世話を全部やってもらってい
た時期もあった。その恩を一気に返す方法などあるわけがないが、せめてフリーザはこの手で倒してみせ
る。ヤムチャは修行部屋へ入る。その背中は、数日前とは比べ物にならない程大きく見えた。
 修行部屋に入ると、急に静かになった。壁紙ハウスは防音装置付きなので当然だが、昨日までヤムチャ
はそんな事気にしていなかった。これは、ヤムチャの中でも子供達の存在が大きくなったという証拠だ。

 

499 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/06 01:19 ID:???
 修行部屋の隅に置いてある重力調節器。今の設定は1G。ようするに、地球の重力と同じである。そし
て、それを操作し20Gにする。
「ぐっ…!」
 一気に体が重たくなった。だが、初めての時より大分進歩している。何しろ最初は立ち上がれなかった
のだから。今は軽い運動くらいは楽に出来る。だが、それでは重力を克服したとは言えない。二十倍の重
力下でも、普段通り動けなければ意味が無いのだ。
「今日こそ…克服…してやる!」
 いつにも増して、今日のヤムチャは気合が入っていた。部屋の中を歩き始める。これだけでも重労働だ。
次はランニング。一歩走るごとに体がギシギシいうのが分かる。そして、本格的なトレーニング。仮想の
敵へ、パンチやキックを繰り出す。そのパンチは普段のヤムチャに比べれば、遥かに遅い。こんなトレー
ニングが休みなしで十時間以上繰り返されるのだ。ヤムチャは必死に拳を振るい続けた。
「フリーザ…必ず倒す!」

 太陽とは心が広いものだ。フリーザのような悪党にも、平等に朝の日差しを分け与える。フリーザは今
日も裏山にいた。出木杉の部屋に行かないところを見ると、案外ここが気に入ったようだ。
「そろそろ彼が来る頃か…」
 裏山の麓から出木杉がやって来た。
「おはようございます、フリーザ様」
「今日こそはドラゴンボールの情報、頼みますよ」
「分かりました。努力します」
 出木杉は町へと下りて行った。思えば出木杉も、ヤムチャのハッタリに振り回されていると言えなくも
無い。しかし、フリーザはこの地球上にドラゴンボールがあると信じ切っている。もし出木杉が「ウソな
んじゃないか」とでも言おうものなら、弁解の余地無しに殺されてしまうだろう。それは、頭の良い出木
杉もよく分かっている。だから半信半疑ながらも、ドラゴンボール調査に着手しているのだ。
「図書館はあれだけ調べたしな…今日は聞き込みでもやろうかな」
 出木杉は作戦を変えた。今日は図書館ではなく、人への聞き込みを重視する事にしたのだ。

 

500 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/06 01:20 ID:???
 その頃、惑星フリーザから出発した宇宙船は順調に進んでいた。巨大な宇宙船が星の大海原を駆ける姿
は、大変優雅なものであった。だがその一方で、中は慌しかった。
「ビーム銃は人数分あるか!?」
「フリーザ様は地球に行ったはずなのに、何で全く別の星から信号が送られてくるんだろうな」
「ええい、隕石には気をつけろと言っただろうが!」
「フリーザ様、どうかご無事で…」
「くそっ!この戦闘服、旧型じゃねぇか!!」
「フリーザ様がSOSを出す程の星か…」
「スカウター調整しとけよ。念入りにな」
「データ照合出来ません!未開惑星の可能性が高いですね…」
 人に言われなければ何もやらないような連中が、自発的に行動している。全てはフリーザ救出のため、
惑星フリーザ再興のため、ひいては自分自身のためだ。動機としては不純だが、今の彼らが生き生きと
しているのは紛れも無い事実だ。
 惑星フリーザの兵士達。彼らが我々の地球に到達するのは時間の問題である…。

 世間では、のび太達の失踪は怪事件として扱われていた。連日ワイドショーは「神隠し」「白昼の悪
夢」などと見出しをつけては、この事件を取り上げる。警察の捜査は東京中に及んだが、一向に見つか
らない。もっとも、のび太達は元気に生きているわけだが。ちなみに、スネ夫は一度家へ帰ったので、
事件からは無関係とされた。だがその直後に再び失踪したため、子離れの出来ていないスネ夫の母親は、
発狂寸前に陥っていた。
 そして、本格的に失踪したのび太、ジャイアン、静香の両親の精神状態も限界だった。無神経なマス
コミには追われるわ、我が子は見つからないわ、好奇心旺盛な野次馬は見に来るわ、人生最悪の時期と
言っても過言では無い。倒れて病院へ運ばれた玉子は、今日もベッドの上で泣いている。
「のび太、どこにいるの…」
 親の心子知らず。今の状況をこれ程まで的確に表現する諺は、他に無いのではないだろうか。


 

577 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/06 23:16 ID:???
 時間は正午を過ぎ、一日で最も暑い時間帯となった。そんな中、出木杉は懸命に聞き込みを行ってい
た。だが、いたずらに時間を浪費するだけで、一向にドラゴンボールに関する情報は得られない。
「参ったなぁ…もう三百人近くに聞いてるのに…」
 流石の出木杉も焦っていた。昨日に引き続き成果があげられなかったら、今日こそ殺されてしまうか
もしれない。だが、後悔は無かった。出木杉はある信念を持って、フリーザの軍門に下ったのだ。例え
その先に待つものが死であろうと、それが運命だったと受け入れる覚悟は出来ている。
 公園へと入る出木杉。まず、公園のベンチに腰かけるホームレス風の老人に聞いてみる事にした。こ
ういう人の方が、意外に知ってるのかもしれない。そんな期待もあった。
「あの…ドラゴンボールって知ってますか?」
「なんじゃそりゃ。食えるのかね?」
 早くも暗雲が立ち込める。念のため、ドラゴンボールについて説明する。
「…知らねぇなぁ。七つ集めると龍が出るなんて…」
「そうですか…」
 出木杉は老人から踵を返そうとした。すると、老人から質問をしてきた。
「坊や。もし君がそのドラゴンボールとやらを集めて、何でも願いが叶うとしたら…何を願うね?」
 考えた事も無かった。子供の頃はよくこういう空想話をするものだ。もしも願いが叶ったら、もしも
百万円拾ったら、もしも人生をやり直せたら…。出木杉は現実的な子供だったので、こういう類の空想
をした事がなかったのだ。だが、ここでふと思った。出木杉はそんな“もしも”を実現出来るロボット
を知っている。そう、ドラえもんである。一度気がついたら、仮説を立てるのは容易であった。
「フリーザ様の言うドラゴンボールとは、ドラえもん君の事なのでは…」
 十分にあり得る話だ。きっと、七つ集めるとか、龍が出るなどの話は、ドラえもんの噂が宇宙人の間
で広まる過程で、どんどんくっつけられてしまったものなのだろう。それをフリーザは聞いたのだ。そ
して、地球へやって来たのだろう。出木杉は結論を導き出した。
「ドラゴンボールは、ドラえもん君だったんだ!!」
 出木杉は老人に挨拶し、公園を後にした。

 

578 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/06 23:16 ID:???
 すぐさま出木杉は裏山へ向かった。この新説を、フリーザに話すためである。順序立てて説明すれば、
きっと分かってもらえるはずだ。
「フリーザ様!」
「おや、お早いですね。まだ、暗くなるまでには時間があるというのに…」
「未熟ながら、僕なりの仮説を立ててみました。よろしいですか?」
「仮説?構いませんよ」
「では…。まず、この地球にはドラえもんというロボットがいます…」
 まずはドラえもんの説明。次にドラえもんはドラゴンボールに匹敵するような不思議な道具を持って
いる事を話した。
「ほほう…それで?」
「ずばり言います。あなたは“ドラえもん”と“ドラゴンボール”を間違えている可能性があります」
「なるほどねぇ…」
 フリーザは納得したような表情を見せた。だが次の瞬間、態度が豹変する。
「ふざけるんじゃないぞ!俺はドラゴンボールを知ってるんだ!!間違えるわけがあるか!!」
 出木杉は死を覚悟した。だが、必死に震えた声で反論する。
「じゃ、じゃあ聞きますが…この地球にドラゴンボールがあるという証拠はあるのですか…?」
「証拠だと!?ふざけたガキだ!!あるに決まってる………」
 ここでフリーザの口が止まる。そう、証拠は無い。ヤムチャの口から聞いただけなのだ。
「た、確かに証拠はありませんね…」
「で、でしょう?」
「しかし、私は現に生き返ってるのですよ?」
 そう、フリーザは生き返っているのだ。この事実を出木杉は初めて聞いたが、動じずにある事を聞く。
「…その生き返った時、周囲に青くて丸っこいロボットはいませんでしたか?」
「………いた」
 フリーザは生き返った直後、ドラえもんを見ている。ヤムチャのハッタリはここに崩れ去った。

 

579 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/06 23:16 ID:???
「そうか…あの青ダヌキがそんな力を…!それを隠すためにドラゴンボールなどと…!!」
 フリーザの戦闘力が一気に膨れ上がる。裏山中の動物が怯え、逃げ出す程だ。このままではまずいと、
慌てて出木杉がフリーザをなだめる。
「落ち着いて下さい!僕はまだそうと決まったと言ってるわけではありません。その可能性も高い、と
言ってるに過ぎません」
 それを聞いて、フリーザも落ち着く。出木杉もだんだんフリーザの扱いに手馴れてきたようだ。
「まあいいでしょう。そろそろ惑星フリーザからの援軍も来る頃です。それまであなたは、ドラゴンボー
ルもといドラエモンとやらの調査に専念なさい。私の体を完全にするために必要ですからね」
「はっ!」
 出木杉は、のび太達が失踪した理由が何となく分かったような気がした。

「今、一瞬だがフリーザの気が大幅に上がった…何が起こったんだ?」
 重力二十倍の修行部屋で、ヤムチャはフリーザの気を感じ取っていた。この頃になると、ヤムチャも
大分この中に慣れてきて、普段の80%くらいの精度で動き回れるようになった。この調子ならば、ヤ
ムチャが二十倍の重力を克服する日も近いであろう。だが、敵はそれを待ってくれるだろうか…。それ
が唯一にして、最大の不安であった。

 あれだけ高かった太陽も地に落ち、やがて夜になる。楽しい夕食だが、ヤムチャの顔がいやに険しい。
「どうしたの?ヤムチャさん」
「え、い、いや…何でもないよのび太君。ハハハ、ほらもっと食べなきゃ」
「全然食べてないのはヤムチャさんじゃないか」
「そ、そうか?いやぁ、今日は修行を頑張ったからな!」
「じゃあ、なおさら食べてよ!」
「ヤムチャ様は頑張りすぎなんですよ」
 やがて夜が更ける。ヤムチャは長年の勘で、何となく感じていたのだ。決戦の日が近い事を…。


 

625 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/08 02:07 ID:???
 無音の宇宙。その静寂の中、まるで轟音が鳴り響くような錯覚を覚えるほどの重量感で飛行する巨大
宇宙船。内部の兵士達からは慌しさが消え、各自冷静に目的地に到着するのを待っている。そんな中操
縦室では、上級兵と下級兵が、地球のデータを取っていた。
「目的の惑星のデータはどうだ?」
「衛星が一つ確認出来ます。強力なブルーツ波反応が出ているため、おそらく月かと…」
「月か…。まあサイヤ人がいなければ、恐れる事もあるまい」
「更に映像を見ますと、青や白といった色を認識出来ます。海や雲がある証拠です」
「生物がいるわけだな?」
「おそらくは」
「距離は?あとどれぐらいで着く?」
「目的惑星の自転回数に換算しますと…あと一回強といったところでしょう。目と鼻の先ですよ」
 地球の自転は一日に一回。つまり、タイムリミットはあと一日…。

 地球では、ヤムチャ達がやって来てから五日目を迎えていた。壁紙ハウス内のヤムチャ達も徐々に起
き始める。朝の挨拶をし、全員が起きたら朝食。その後は各自フリーザ戦へ向け、準備を始める。いつ
も通りの朝であった。
 出木杉も、朝早くから裏山へと急ぐ。そして、フリーザに朝の挨拶をする。その後は一日中、ドラゴ
ンボール又はドラえもんの調査である。フリーザはその間、裏山をひたすら散策する。幼い頃から機械
文明に囲まれてきたフリーザにとって、自然と真っ向から触れ合う機会は初めてだったのかもしれない。
裏山がフリーザの気を引いてるからこそ、今の今まで地球人の犠牲者が一人も出ていないのだ。そう考
えると、裏山は地球の救世主と言えるかもしれない。 
 
 決戦は明日。地球を守るのは、のび太、ドラえもん、ジャイアン、スネ夫、静香、ヤムチャ、プーア
ルの七人の戦士である。たった七人で何が出来るのであろうか。ドラえもんの秘密道具と、子供達の団
結力、プーアルの変化能力に、ヤムチャの底力。彼らの力に地球の命運は託されたのだ。

 

626 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/08 02:07 ID:???
 この日は事件らしい事件も無く、日は沈んでいった。これが俗に言う、嵐の前の静けさなのであろう
か。壁紙ハウス内では、恒例の夕食タイムが始まる。そして、食事の最中ヤムチャが口を開いた。
「夕飯を食べたら、皆でどこか行かないか?」
 余りに突然の提案だった。だが壁紙ハウスで、ここ数日過ごしていた子供達は大賛成だった。久々に
外へ出られるのだから。ドラえもんが四次元ポケットからどこでもドアを取り出す。
「どこでもドアがあるから、大抵の場所は大丈夫だよ」
「じゃあ武道館にしようぜ!俺様がリサイタルをやってやる!!」
「四畳半島にある僕の別荘へ行こうよ。ラジコンやボートで遊ぼう」
「静かな無人島で、みんなで昼寝しよう。あ、夜だから昼寝じゃないや…」
 各人行きたいところはバラバラのようだ。しかし、それらを切り裂くような静香の一声。
「温泉よ!!」
 温泉になった。女は強し、風呂は強し、静香は強し、である。流石に民宿の温泉は無理なので、人目
につかない温泉、いわゆる秘湯に行く事になった。どこでもドアで早速出発。
 
 ドアを開けると、目の前に広がっているのはまさしく秘湯だった。岩山の中に、ひっそりとある温泉。
「うわぁ、温泉だ!」
「僕の別荘の風呂より凄いや…」
「泳ごうぜ!!」
 のび太、スネ夫、ジャイアンの三人は、服を脱ぎ捨て温泉に飛び込んだ。熱がらないところを見ると、
丁度良い温度らしい。どこでもドアも、なかなか良い温泉を見つけてくれたものだ。
「よし、俺も行くぞ!!」
 年甲斐も無くヤムチャも飛び込む。温泉のマナーとしては最悪だが、周りには誰もいない。ついには、
真面目なドラえもんとプーアルまで飛び込む。一人残る静香に、のび太が尋ねる。
「ねぇ、何でしずちゃんは入らないの?」
「私、女なのよ!?」

 

627 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/08 02:07 ID:???
 幸い、近くにもう一つ小さな温泉が湧いていたので、静香はそちらに入る事になった。しまいには、
鼻歌まで唄いだす静香。実に五日ぶりのお風呂を堪能している事だろう。
 一方、男組は裸の付き合いをしていた。そして、ヤムチャがドラえもんにとある疑問を投げかける。
「ドラえもん君。君はロボットなのに、水は平気なのか?」
「大丈夫です。僕は高性能だから」
 答えになってなかった。だが、温泉の気持ちよさの前には、そんなちっぽけな事など吹き飛んでしま
う。一方、のび太達はお湯のかけ合いをしていた。体の小さいプーアルが集中攻撃され、徐々に追い詰
めらていく。
「それ!それ!」
「プーアル、降参しろ!」
「ううう…バケツに変化!」
 巨大なバケツに変化したプーアル。自分の体へお湯をたっぷりすくい、宙へ浮かぶ。そして、上空か
ら大量のお湯を、のび太達目掛けてぶちまけた。
「うわぁ〜〜〜!」
「ゲホッゲホッ…鼻に入っちゃったよ!」
「降参だ〜!」
「どうだ、参ったか!」
 こうしてプーアルの大逆転で、お湯のかけ合いは幕を閉じた。変化能力、恐るべし。
 しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎるものである。温泉タイムも程なくして終了となった。
「気持ち良かった〜」
「でも、何でヤムチャさんは、突然“どこか行こう”なんて言ったんですか?」
「気まぐれだよ。たまにはリフレッシュしないとね」
 これは嘘だった。ヤムチャは決戦の日が近い事を感じていたのだ。そのため、せめて楽しい思い出く
らいは作ろうと、皆に外出を促したのである。だが、今日が決戦前夜であるという事を、ヤムチャです
らまだ知る由も無かった。いよいよ明日はフリーザ軍が来襲する。果たして、ヤムチャ達の運命は…。


 

707 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/11 00:16 ID:???
 澄み切った空気に朝日が差し込み、今日も一日が始まった。六日目の朝である。壁紙ハウスで最も早
く起きたのは、何とのび太であった。目をこすりながら、一番乗りの感動を味わうのび太。
「…あれ、僕が一番か。珍しいな〜」
 そして、静香、ドラえもん、スネ夫、静香と目覚める。のび太が先に起きている事に、皆が驚いた。
「あら、のび太さん。今日は早いのね」
「のび太君が早起きするなんて、今日はきっと雪が降るな」
「ハハハ、言えてる」
「のび太!今日何かあったら、お前が早く起きたせいだからな!!」
「そ、そんな〜!」
 その声でヤムチャとプーアルも目を覚ます。これで全員が揃った。着替えを済ませ、朝食である。の
び太、ドラえもん、ジャイアンは和食。スネ夫、静香は洋食。そして、ヤムチャとプーアルは中華であ
る。食事の種類こそ違うが、和気藹々と朝食を楽しむ七人。
「朝から中華って、もたれませんか?」
「ハハハ、まぁね。でも、一番慣れた食事だからな」
「スネ夫はいつもパンだな」
「僕の家は上品だから、あまり和食は食べないんだよ」
「何だと!そりゃどういう意味だ!?」
 スネ夫の不用意な一言で、朝からジャイアンが怒り始めた。今にも殴りかかろうとするジャイアンに、
体を丸めて怯えるスネ夫。すかさず、静香とヤムチャが仲裁する。
「ちょっと、朝から喧嘩なんて止めてよ!」
「そうそう。喧嘩なんかしてたら、フリーザには勝てないぞ」
「ご、ごめんなさい…」
「悪かったよ、ヤムチャさん…」
 やはり、大人であるヤムチャがいると場が上手くまとまる。子供達だけだったら、ジャイアンとスネ
夫の仲はこじれたままだっただろう。普段ならばともかく、戦いを備えての仲違いは致命的である。

 

708 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/11 00:16 ID:???
 朝食が済むと、いつも通りフリーザ戦への準備である。各自片づけを済ませた後、のび太達は話し合
いを、プーアルは変化の特訓を始める。だが、修行部屋に行くはずのヤムチャの様子がおかしい。それ
に気づいたドラえもんが、ヤムチャに話しかける。
「どうしたんですか?ヤムチャさん」
「たくさんの気が…この地球に迫っている!」
「気?」
「この気は恐らくフリーザの手の者だろう。フリーザめ、何らかの方法で部下を呼び寄せたんだ!」
 緊急事態である。当分先になると思われていた、フリーザとの決戦が否応なしに始まろうとしている。
子供達の間にも動揺が走る。
「ど、どうしよう!ドラえもん!!」
「ど、どうしろって言われても…」
「ここは俺だけで行くよ」
 ヤムチャは意を決した表情で言った。子供達を戦場に駆り出すわけにはいかない。今までは、のび太
達が頑張っているところへ水を差したくなかったため言わなかったが、ヤムチャには始めから子供達を
フリーザと戦わせるつもりは無かった。自分一人でフリーザを倒すつもりだったのだ。
「ムチャですよ!相手は大勢なんでしょ!?」
「大丈夫さ。俺もこの数日、死ぬ思いで修行した。フリーザなんか敵じゃないさ」
 またもや嘘をついた。ヤムチャは自分でも、よくこんな戯言が吐けるなあ、と感心していた。だが、
子供達は騙せても、プーアルは騙せない。
「僕だけでもお供します!」
「駄目だ。プーアル…皆を頼むぞ」
「ヤムチャ様…」
 子供達は、ヤムチャの自信溢れる態度にすっかり安心している。それを見て、ヤムチャは覚悟を決め
た。フリーザを蘇らせた責任、子供達の偽りの英雄である使命、それらを全てここで清算する覚悟を。
「奴らは間もなく地球に降りてくる…そこで決着だ!」

 

709 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/11 00:17 ID:???
 その頃、フリーザと出木杉は裏山にいた。フリーザ自身もまだ、部下が間もなく到着する事に気づい
ていなかった。
「おはようございます、フリーザ様」
「今日も頼みますよ………ん?」
 フリーザの体中に大量にくっついている機械。その中の一つが反応したのだ。その原因は、勿論部下
の接近にある。待ちに待った援軍の登場に、フリーザが悪魔のような笑みを浮かべる。
「フ、フリーザ様!?」
「やっとですよ…やっと来たんですよ!フハハハハハ!!」
 今までは体力の温存や、ドラゴンボールの損傷を考え、大規模な行動が不可能だった。しかし、部下
を手足のように使えば、全ての問題はクリア出来る。
「よろしい。そのまま、この裏山に着陸なさい…」
 フリーザも部下へとメッセージを送る。この裏山を拠点にし、地球の支配とドラゴンボール又はドラ
えもんの捜索を開始する。帝王フリーザ、久々の本領発揮である。

 巨大宇宙船の中では、総員による着陸準備が行われていた。既に地球が間近に見える距離だ。
「フリーザ様からのメッセージ!着陸座標の指定だ!!」
「了解!ただちに着陸態勢に入る!総員、安全な体勢を取り、待機せよ!!」
「ビーム銃装備!スカウター装備!油断するな!!」
「機械衛星が邪魔ですね…破壊します!」
 宇宙船から発射されたエネルギー弾で、着陸軌道の邪魔になる可能性がある地球側の人工衛星は全て
撃ち落された。その中には、スパイ衛星、気象衛星、中継衛星など、様々な物が混ざっていた。
「大気圏へ突入する!!」
 轟音を響かせながら、巨大な円盤は日本を目指す。日本の東京、東京の練馬、そして練馬の裏山。途
中、この宇宙船を目撃した人々は、きっとこう思ったに違いない。
「地球は、もう終わりだ」


 

748 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/13 00:14 ID:???
 猛獣の雄叫びのような音を立て、王族専用宇宙船が裏山上空へと到着した。そして、木々をなぎ倒し、
風圧で草や葉を飛び散らしながら、強引に着陸しようとする。当然山なので斜面だが、船下部について
いる機械アームのため、難無く着地出来た。
 フリーザと出木杉は船の扉へと向かう。すると扉が開き、中から大勢の兵士が一糸乱れぬ歩行で出て
くる。全員超質ラバーの戦闘服に身を包み、顔にはスカウター、腕にはビーム銃を装備している。だが、
出木杉は驚かなかった。今までこの兵士達の親玉と数日間、接してきたのだ。それに比べれば、下級兵
士の迫力など問題にならなかった。
「ほっほっほ…待っていましたよ」
 フリーザが手足の無い体で近づく。全身をトゲで覆われた男、惑星フリーザの兵士長に当たる男が、
代表でフリーザに挨拶を始める。緊張のためか、やや声が裏返っている。
「フリーザ様、お迎えにあがりました!さぁ、お乗り下さい。惑星フリーザの設備ならば、フリーザ様
のお体も数日のうちに治せるでしょう」
「そうしたいところなんですが…この星で面白いものを見つけましてね。貴方達にはその捜索をお願い
したいのですが」
「フリーザ様のご命令とあらば…。で、その面白いものとは?」
 待ってましたとばかりに、出木杉が話し始める。“面白いもの”に関する事情はフリーザより出木杉
の方が詳しいのだ。当然初対面なので、自己紹介から入る。
「始めまして、僕は出木杉英才と申します。では…」
 兵士達は少年の正体も分からぬまま、怪訝な表情で解説を聞いた。要約すると、この星にはドラゴン
ボールという球、もしくはそれに匹敵する不思議な力を持つドラえもんというロボットが存在する。そ
して、そのどちらかでも手に入れば、労せずしてフリーザの体は元に戻るという事であった。
「ドラゴンボールに、ドラエモンか…面白い」
「俺は賛成だぜ、近頃暴れてねぇしな!」
「この星からは大した戦闘力は感じらません。手こずる事も無いでしょう」
 この奇妙な話に、兵士達も乗り気になる。だが、トゲの兵士長は疑惑に満ちた表情をしていた。

 

749 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/13 00:14 ID:???
「フリーザ様、この子供は一体…?」
「この星の住民ですが、いきなり私の部下になりたいと言い出しましてね」
「失礼ですが…信用は出来るのですか?」
 すると、フリーザがトゲの男を睨んだ。男も兵士長だけあって、戦闘力は五桁をゆく実力者だ。だが、
その兵士長が帝王の一睨みで情けなく震えている。
「私が部下にしたのですよ?彼を認められないならば、貴方には死んでもらうしかありませんね」
「め、滅相も無い!ただ、少し気になっただけです!」
 恐れおののく兵士長。たった数日間で、出木杉はフリーザのお気に入りと化していたのだ。強者優先
が原則のフリーザにあって、こんな事は珍しい。兵士長は悟られぬように出木杉をスカウターで調べた。
すると、その戦闘力は一桁台であった。予想外の低い数値に、胸を撫で下ろす兵士長。少なくとも、出
木杉には武力での謀反は不可能だ。
「デキスギさんにも、ビーム銃を与えなさい。一応武器くらいは持っておきませんとね」
「は…はっ!」
 出木杉はその細い右腕に、ごついビーム銃を装着した。重量は見た目の割に少なく、小学生の出木杉
にも十分扱える代物であった。
「ありがとうございます。この銃で、僕も役立ってみせます」
「貴方は戦う必要はありませんよ。新生フリーザ軍・参謀の任に就いてもらいます」
「さ、参謀ですか…。僕なんかが…」
 異例の昇進である。数日前に突然フリーザの部下になった小学生が、参謀とは。フリーザ相手にハッ
タリをかましたり、堂々と反論する姿が評価されたのであろう。
 そして、全軍にフリーザが命令する。
「ドラゴンボール、ドラエモンについて調べなさい。この星の住民を捕らえて拷問してもかまいません。
ただし、破壊活動はなるべく自重してくださいよ。ドラゴンボールやドラエモンが壊れると、大変です
からね」
「はっ!!!」

 

750 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/13 00:15 ID:???
 全軍が町に散らばろうとしたその時、ある兵士のスカウターが反応する。
「ん…戦闘力1000…?」
 次の瞬間、その兵士の後頭部に衝撃が走った。兵士は前に吹き飛び、そのまま絶命した。何者かの蹴
りを後頭部に喰らったのだ。
「だ、誰だ!」
「敵襲か!?」
「くそっ!」
 突然の仲間の死に、当惑する兵士達。蹴りの主はヤムチャであった。シャツにジーパンというラフな
格好だが、これでも亀仙人、神、そして界王に師事し、故郷を脅かす強敵と幾度も戦ってきた男だ。
「お前らは…俺が全員倒す!」
 その威圧感に、兵士長、フリーザ以外の兵士は圧されていた。二十倍の重力に耐え、英雄としての責
任を負った男。フリーザに惨敗した数日前とは、実力以上に気迫が違う。
「おやおや、この前逃げた…。殺されに来たんですか?」
「今度こそ倒してみせるぜ、フリーザ!」
 フリーザが兵士達に視線を促す。すると、集団催眠にかかったように、一斉にヤムチャへ向かっていっ
た。ある者はビーム銃で、ある者は己の肉体で、ヤムチャを襲う。だが、ヤムチャは冷静であった。狼
が獲物に飛び掛る際に使用する構え、狼の構えを取るヤムチャ。何年振りだろうか、この技を出すのは。
ヤムチャの眼がギラリと光り、野獣の眼に変わる。
「狼牙風風拳!!」
 流れるような連続技で、丈夫なプロテクターの上からの打撃にもかかわらず、次々と兵士を倒してい
くヤムチャ。ほんの数秒で、十数人がやられてしまった。由々しき事態。今回、兵士はドラゴンボール
やドラえもんの捜索に必要なのだ。ここで無駄な犠牲を出すわけにはいかない。
「私が出るしか無さそうですね…」
 フリーザ自らが動き出す。手足は無いが、その戦力は惑星フリーザ全軍よりも遥かに上だ。
「その男が私が直接殺します!貴方達はこの山を降り、捜索に向かいなさい!!」


 

818 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/14 01:19 ID:???
 フリーザの命令を受け、部下全員がヤムチャを無視し、飛び立とうとする。ヤムチャには、四方八方
に飛び去る兵士達を一気に倒す手段が無い。
「くそっ!行かせるか!!」
 町に被害を出してはならぬと、ヤムチャも追おうとする。だが、フリーザが超スピードで瞬時にヤム
チャの目の前に現れた。
「貴方の相手は、この私自ら行いましょう…。光栄に思いなさい」
「うう…!」
 そのフリーザの余りの圧迫感に、ヤムチャは微動だに出来なかった。いくらヤムチャが修行をし、フ
リーザが不完全な状態と言っても、その力の差は圧倒的である。こうしている間にも、フリーザの兵隊
は町へ危害を及ぼす。まさか、いきなりフリーザ自らが動き出すとは思わなかったのだ。
「残念でしたねぇ…。せめて私の部下だけでも、と思っていたんでしょうが…ほっほっほ」
「やってやるさ、フリーザ!」
 ヤムチャにとっても、フリーザにとっても、地上戦では不利益が生じる。二人は空中へ上がっていっ
た。だが、内心ヤムチャは震えていた。数日前の惨敗が、まだ尾を引いていたのだ。

 一方、部下達はヤムチャをフリーザに任せ、捜索へ向かうはずだった。だが、ある兵団の目の前にフ
リーザが飛んできたのだ。しかも、何故か手足がある。自力で再生したのであろうか。
「フ、フリーザ様!?」
「…やあ」
「どうなされました、もうあの男を倒したのですか?」
「まあね…。もう帰りたまえ、この星は諦めよう」
 様子は変だが命令なので、従おうとする部下達。だが、一人の兵士がスカウターでフリーザを調べた。
「戦闘力1…?おい、そのフリーザ様は偽者だ!!」
「しまった、バレちゃった。みんな〜!」
 すると、何も無い空中からのび太達が突然現れた。

 

819 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/14 01:19 ID:???
「スモールライト〜!!」
 ドラえもんがスモールライトで光を浴びせると、兵士十数名がみるみる小さくなっていった。そして、
すかさずジャイアンがパワー手袋をつけた両手で、小さくなった兵士を蚊のように叩き潰す。
「おっしゃあ!ヤムチャさん、こいつらは俺達に任せてくれよ!!」
 実は、透明マントとタケコプターを装備して、のび太達も裏山に来ていたのだ。勿論、偽フリーザは
プーアルの変身である。すると、異変に気づいた兵士達が次々とやって来た。
「ふざけやがって、死ね!」
 ある戦士が、左手に装備したビーム銃を発射する。標的は静香。
「ええい!私だって!」
 だが、どんな攻撃も反らすひらりマントで、静香はそのビームを跳ね返した。そして、のび太の出番。
ビルを灰と化す熱線銃と、戦車を吹き飛ばすジャンボ・ガン。この二丁拳銃で、敵を次々と倒していく。
「あのガキ共強いぞ!」
「さっきの奴の仲間か!?」
 全兵士の視線が、一気にのび太達に集中した。トゲの兵士長が、スカウターの通信機能を使い、全軍
に命令する。フリーザの命令には反するが、仲間をやられて黙っているわけにはいかない。
「子供になめられたままで終わるな!全軍であのガキ共を殺せ!!」

 裏山の遥か上空にいるヤムチャも、上からその様子を見ていた。
「あいつら…これで、町は大丈夫だな!」
「たかがガキに苦戦するとは…使えん部下共だ。………ん?」
 フリーザの視線の先に、ふと青いロボットが映った。そう、ドラえもんである。
「あの青いタヌキはドラエモン!ふはははは、早くも見つけたぞ!!」
 目的の一つが見つかった事で、フリーザの注意が下へと向いた。それを見逃すヤムチャでは無い。
「狼牙風風拳!!」
 地上を見て高笑いするフリーザに、鋭い打撃の嵐をお見舞いしたのだ。

 

820 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/14 01:19 ID:???
 突然の攻撃に、強靭な肉体を誇るフリーザも、僅かだがダメージを負った。だが、肉体以上に、その
宇宙一のプライドが傷つけられた事は言うまでも無い。
「く…この虫ケラが!!」
 フリーザが頭から突進する。だが単純な軌道なため、かろうじて見切る事が出来た。
「チィ、かわしたか」
「またあの世へ送ってやるぜ、フリーザ!」
「死ぬのはテメーだ!!」
 今度は口からのエネルギー波。これもフリーザの口の直線上から離れる事により、回避に成功した。
手足が無い今、フリーザの攻撃は二種類しか無い。頭突きと、口からのエネルギー波。勿論、どちらも
威力、速度共に凄まじい。だが、フリーザのモーションに気をつければ、全てを避ける事も出来る。今
のフリーザは、その圧倒的なパワーを活かし切れない状態にあるのだ。
 今のフリーザになら、勝機はある。ヤムチャは気を解放した。宇宙の帝王相手に、どこまで喰らいつ
けるか…。ヤムチャの心に眠っていた狼が、今まさに目覚めたのだ。
「いい気になるなよ…。頭と口しか使えなくても、貴様如きは敵じゃないんだ!!」
「来い、フリーザ!!」
 微かな希望を掴んだヤムチャ。ヤムチャVSフリーザ、開始である。

 裏山近辺でも、のび太達が善戦していた。プーアルは変幻自在に変身して、敵を惑わしている。そし
て、その惑わされた敵を、秘密道具で叩く。順調だった。
「くそっ!仲間に化けるわ、ビームは跳ね返されるわ、厄介な武器を持ってるわ、何なんだ一体!!」
「ちきしょう!あんな小僧達に、我等フリーザ軍が…」
 被害は甚大であった。小さくされ潰された者、焼き払われた者、爆破された者、と様々である。
「これ以上、我が軍に被害が出てはまずいな…。私がフリーザ様に殺されかねん。おのれ…あんなガキ
共の相手を、兵士長であるこの私がする事になるとは!!」
 全身のトゲを鋭く尖らせ、怒りに燃えた兵士長が遂に出陣を決意した。


 

866 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/15 00:22 ID:???
「な、なんか、すっごいのが来たよ!」
 タケコプターを付け、空で奮戦するのび太達。そこへ、兵士長がやって来たのだ。今までの下級兵士
とは格が違う。体中に生やしたトゲが、その迫力をより引き立てている。そして、部下に向かって叫ぶ。
「お前達は近くで見ていろ!あのガキ共に、真の恐怖というものを存分に味わわせてやる!!」
 わざわざ遠く離れた惑星まで来て、これまで何の活躍も出来なかった兵士長。しかも、新入りの出木
杉の方が重用されているという事実。彼としては、何としてもここで名誉挽回をしたかった。部下の見
ている前で子供達を始末すれば、フリーザの目も自分に向いてくれるはずだと思ったのだ。
「つ、強そう…」
「ええい、スモールライト!」
 光を浴びる兵士長。普通ならば、ここで体が小さくなっていくはずだ。
「な、何だこれは!?う、うおおおおおおおお!!」
 耐える兵士長。己の体内の戦闘力、つまり気でスモールライトの起こす細胞の縮小に、逆らっている
のだ。この予想外の事態に、焦るドラえもん。
「ス、スモールライトが効かない!?」
「厄介な道具らしいが、私には通用しなかったようだな…それ!」
 兵士長が軽く手を振ると、凄まじい突風が起きた。吹き飛ばされるのび太達。しかも、のび太の頭か
らタケコプターが取れてしまったのだ。
「タケコプターが!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 そのまま裏山へ落ちるのび太。運良く木の上に落ちたが、この高度ではかなり危険である。
「のび太君!」
「のび太さん!」
「ハッハッハ、落ちたか。残りは五人だな…せいぜい楽しませてくれよ」
 兵士長は確信した。道具にさえ気をつければ、恐れるに足らない敵である事を。スカウターでも確認
したが、全員戦闘力は一桁しか無いのだ。戦闘力一万を誇る兵士長にとっては、赤子も同然の存在なの
である。この差を埋める方法、その鍵はドラえもんの秘密道具が握っている。

 

867 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/15 00:22 ID:???
 そして、裏山上空では、ヤムチャがフリーザ相手に優勢であった。最初のモーションさえ見逃さなけ
れば、頭突き、エネルギー波ともに避けられる。そして、フリーザの攻撃後の隙を突き、ヤムチャが攻
撃する。地道ではあるが、確実に効果は上がっていた。
「操気弾!喰らえっ!!」
 ヤムチャの手から放たれたエネルギー弾が、フリーザを襲う。しかし、フリーザの動体視力からすれ
ば大した速度では無い。あっさりと避けられる。
「あんなものが当たるとでも?」
 フリーザを通り過ぎたエネルギー弾が軌道を180度変える。そして、フリーザの延髄を直撃した。
「ぐはァ!!」
「背後がお留守だぜ…なんてな」
「く…この体が元通りになり、パワーが戻れば貴様なんぞに!!」
「おいおい、さっきと言ってる事が違うぜ」
 会話も完全にヤムチャペース。だが、フリーザが不敵に笑い始めた。予想外の苦戦に気が触れたわけ
でも、体が復活する手があるわけでも無い。これは、何かを閃いた時の笑い。それも危険な閃き。
「もう、この星は消しましょう」
「何だと!?」
 突然フリーザは顔を下へ向け、口を開きエネルギー波を撃とうとした。フリーザの思い切った選択に、
一瞬ヤムチャの気が動転する。だが、これがフリーザの狙いだったのだ。
「隙だらけですよ!!」
 ヤムチャが気づいた時には、既にフリーザの頭が目の前にあった。鼻が潰れる音、顔面の骨にヒビが
入る音、ヤムチャの耳に鮮明に聞こえた。喰らってはならない一撃を、喰らってしまったのだ。この一
撃で形勢は逆転した。
「こんな宝の山を壊すわけないでしょう?さて、これまでのお返しをしなくてはなりませんね…」
 フリーザはヤムチャの攻撃を一撃喰らった程度では問題にならない。だが、その逆は致命的なのだ。
ヤムチャの気がガクンと落ちる。死へのカウントダウンが始まった…。

 

868 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/15 00:23 ID:???
 一方、裏山へ落ちたのび太。木に落下したため、枝や葉がクッションとなり、大きな怪我はしていな
かった。常日頃、裏山を大切にしているのび太への、山からの恩返しだろうか。
「いてて…助かったぁ」
 辺りを眺めるのび太。周りには誰もいない。空ではドラえもん達が、兵士長と戦っている。更にその
上空では、ヤムチャとフリーザの対決が繰り広げられている。
「タケコプター…どこに落としちゃったんだろうなぁ」
 しかし、近くには見当たらない。タケコプターはあの突風で、遠くへ吹き飛ばされてしまったらしい。
「どうしよう…。あるのは熱線銃だけか」
 熱線銃片手に、裏山を慎重に歩き始めるのび太。すると、目の前に巨大な宇宙船があった。言うまで
も無く、惑星フリーザの船である。余りに近すぎて分からなかったが、どうやら、のび太は宇宙船の近
くに落ちていたらしい。だが、幸いにも敵兵はいなかった。一人残らず出撃したようである。
「そうだ、出木杉がいるかも!」
 スネ夫が“フリーザの仲間になっていた”と言っていた出木杉。もしかすると、近くにいるかもしれ
ない。宇宙船の周辺を、抜き足差し足で探ってみる。すると、向こうから現れてくれた。
「野比君!」
「あ…出木杉!」
 敵地だが、クラスメイトと再会した事で、のび太もひとまず安心する。
「もうフリーザに従わなくていいんだ!ここから逃げよう!!」
「悪いけど…僕は決めたんだ。フリーザ様に一生ついて行くって」
「え!?」
「僕の使命は、ドラえもん君を手に入れる事だ。もし、ドラえもん君をよこすのなら、僕からフリーザ
様に口添えしてあげるよ。この星は見逃してあげてくれってね」
「何言ってるんだよ…。ドラえもんは友達なんだ!そんな事出来るわけないだろ!!」
「そう…。じゃあ、君には死んでもらうしかないね」
 出木杉は右手に備えたビーム銃のエネルギーを、無表情で溜め始めた。

 

904 名前:ドラえもん のび太と最強の男 :03/08/16 00:44 ID:???

フリーザ軍来襲後、裏山の周りは騒然としていた。突然のUFO着陸に、町中の人間が野次馬に来て
いるのだ。彼らには、これが本物かショーなのかすら半信半疑であった。だが、中にはドラえもん達に
気づく者もいた。
 のび太のクラスメイト達。
「あれ、ジャイアンじゃないか?」
「あ、ああ…。しずちゃんに、スネ夫。ドラえもんまでいるぜ!」
 そして、のび太の担任の先生。
「何で、私の生徒が宇宙人と戦っているんだ?」
 更には、空き地の隣に住居を構える神成さん。
「あいつらは、いつもワシの家のガラスを割る子供達!こ、こうなりゃ応援してやるわい!!」 

 一方その頃、玉子が入院している病院に、のび助が見舞いに来ていた。警察による必死の捜索にもか
かわらず、未だにのび太は行方不明である。だが、二人には、不思議と悲壮感は無かった。
「ママ…調子はどうだい?ほら、果物買ってきたから食べなさい」
「あのね、パパ…。夢の中にのび太とドラちゃんが出てきたのよ」
「え?」
「僕達は頑張ってるから心配するなって…。必ず帰って来るから…って」
「ハハハ…僕も見たよ。きっと大丈夫さ、のび太は。ドラえもん君だってついてるんだ」
「そうね…」
 その仲の良い夫婦は、窓の外に広がる晴天をいつまでも、いつまでも眺めていた…。

 だが、両親の祈りとは裏腹に、のび太は危機を迎えていた。銃口をまっすぐのび太に向け、ビーム銃
を構える出木杉。その目は殺気に満ち溢れ、かつての優等生の面影は無かった。
「何で、フリーザの味方なんかするんだよ!あいつは、悪い奴なんだぞ!?」
「君とも長い付き合いだしね。いいよ、教えてあげよう。僕がフリーザ様に従事する訳を…」

 

905 名前:ドラえもん のび太と最強の男 :03/08/16 00:51 ID:???
出木杉はビーム銃の構えを解いた。さっきまで殺意に満ち溢れていた瞳が、もう穏やかな光を帯びている。
優等生らしい、落ち着いた目だ。
「野比君。僕はね、人生っていうのは、各々定められた“一本の道”を歩む事だと思っている。そして、
僕には何となく見えてしまったんだよ。その道が…」
 出木杉が悟った事。この地球には、様々な国があり、文化があり、職があり、生き方がある。すなわ
ち、それだけ多くの選択肢があるという事だ。そして、我々は生きていく上で、様々な選択を強いられ
る事になる。だが、人の命は平等に一つだけ。つまり、人は複数の道を歩く事は出来ないというわけだ。
普通の小学生はいちいちこんな事は考えず、精一杯今を生きていくものである。しかし、勉強熱心で、
人一倍の好奇心を持つ出木杉には、それが出来なかった。
 貧乏だから学校へ通えない、成績が悪ければ良い大学に入れない、良い大学を出なければ昇進出来な
い、目が悪ければボクサーになれない、字が読めなければ先生になれない、背が低いと警察官になれな
い、高所恐怖症ならば大工になれない、絵が下手ならば漫画家になれない、声が悪ければ歌手にはなれ
ない、実家が農家だから他の職には就けない………。諦めと挫折。そして、一つの選択肢を消去。誰し
も一度は経験するだろう。
 このように、人は無数の消去法を経て、一本の道を歩いて行く。無論、これらの制約をはねのけて、
己の道を行く者も少なくない。だが、小学生らしからぬ頭脳を持った出木杉には、おぼろげに見えてし
まったのだ。夥しい消去法の繰り返しによって、築かれる“一本の道”が…。
 だがそんな時、彼はフリーザに出会ってしまった。出木杉にとって、フリーザとの出会いは革命的な
ものであった。先程、人生を道に例えたが、フリーザは道などものともしない。好きなように歩き、好
きなように走る。時には飛んで、宇宙まで行ってしまう。出木杉には、フリーザがそのような存在に映っ
た。そのため、出木杉は自分の新たなる可能性を開くべく、未知なるフリーザに従う事にしたのだ。
「…分かったかい?フリーザ様は、僕が見えてしまった道を、更に広げてくれる方なんだ」
「分からないよ」
 のび太は、出木杉の話を半分も理解していなかった。だが、そんなのび太にも確信出来る事が一つだ
けある。



 

906 名前:ドラえもん のび太と最強の男 :03/08/16 00:52 ID:???

「出木杉!君は…君は間違っている!!」
 出木杉が何を言っていたかなど、知った事ではない。フリーザという悪い奴に味方している時点で、
出木杉は間違っているのだから。少なくとも、のび太はそう考えた。
「そうかい…残念だ。野比君には理解してもらえなかったようだね」
 ここでの理解とは“思想を共有する”という意味である。言うまでも無く、のび太は本当の意味で理
解していない。
「だったら、僕はフリーザ様の部下として君を殺す!」
 ビーム銃を構える出木杉、同時に熱線銃を構えるのび太、二人とも動かなくなった。いや、動けない
のだ。どちらも、相手を一瞬で殺す事の出来る武器を持っている。すると、出木杉が口を開いた。
「野比君…」
「な、何だよ…?」
「僕だって怖いさ、フリーザ様が…。正直、何度殺されかけたか分からない…」
「じゃあ、こんな事は止めようよ!ドラえもんとヤムチャさんなら、フリーザを倒せるさ!」
「無理だ…。僕はこれ以上、先が見えた人生なんか続けられない!!!」
「で、出木杉ィ!!!」
 同時だった。出木杉はビーム銃を放ち、のび太は熱線銃の引き金を引いた。

 のび太の撃った熱線は、出木杉のビーム銃を貫いた。そして、出木杉のエネルギー波は、のび太の背
後に立っている木へと当たった。メキメキと音を立て、崩れ落ちる大木。
「か、勝った…。僕が…出木杉に…!」
 波のように押し寄せる、勝利の快感。だが、すぐさまのび太は出木杉のもとへ駆け寄った。
「だ、大丈夫!?」
 出木杉は気絶はしていたが、怪我などは全く無かった。のび太が正確に、出木杉のビーム銃を狙った
おかげである。おそらく、余りに興奮したため、ビームを撃った直後に気を失ったのだろう。
 昼寝とあや取りが大好きな、日本一のダメ少年・野比のび太。見事な大勝利である。


 

280 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/20 01:32 ID:???
前スレ>>906の続き
 裏山近辺では、ドラえもん達と兵士長の戦いが続いていた。と言っても、ドラえもん達は防戦一方で
ある。兵士長の繰り出すエネルギー波は、ひらりマントを一撃で使用不能にしてしまう。ドラえもんも、
ポケットから次々とマントの予備を出すが、とうとうそれも尽きた。
「ひ…ひらりマントがもう無い…」
「どうすんだよ!あんなのまともに喰らったら、オシマイだぜ!?」
「そ、そんな…。ママァ〜!!」
 その様子を見て、兵士長もドラえもん達に打つ手が無くなったと確信する。
「私のエネルギー弾を反らす不思議な布…。どうやら、それも無くなったようだな」
「く…くそ…!」
「いい顔だ!私は、敵が絶望する瞬間が最も好きなのだ!!」
「何て人なの!?」
 地上を見る兵士長。裏山付近には、多くの住民がやって来ている。それを見た兵士長、何を思ったか、
右手にエネルギーを溜め始める。
「いつの間にか、ギャラリーが集まっているな。見たところ、あれはお前らと同じ種族だろう?」
「だったら何だ!」
「全員消してやるさ。うっとうしいんでね」
 兵士長は、野次馬達に向かってエネルギー波を放り込もうとした。すかさず道具を出すドラえもん。
「どくさいスイッチ〜!」
 指名した人間を消す事の出来る道具。一見物騒な道具だが、本来独裁者を懲らしめるための道具なの
で、その効果は一時的なものである。のび太も、この道具によって洗礼を受けた事がある。
「今、ここで戦っている人以外、みんな消えろ!!」
 そして、スイッチを押す。世界中の人間が消えた。地球上に残ったのは、ドラえもん達にヤムチャと
プーアル、そしてフリーザ一味。突然、地上の野次馬が消え、驚く兵士長。
「ほう…。こんな事まで出来るとはな!なかなかの青ダヌキだ!!」
「僕はタヌキじゃない!!」

 

281 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/20 01:32 ID:???
「だが、私が有利であるという状況は変わらない!!」
 兵士長が、野次馬へ放とうとしたエネルギー波を、今度はドラえもんへ撃とうと右腕の向きを変えた。
「コベアベ〜!」
「そんな笛で何が出来る!?」
 コベアベ。この笛の音を聞いた人は、頭で考えた事とはあべこべの事、つまり反対の事をしてしまう
という道具である。即座にドラえもんはコベアベを吹いた。
「バラバラにしてやる!!あれ、手が勝手に動く…」
 大爆発。兵士長は、自分の顔目掛けてエネルギー波を放ってしまったのだ。油断のため、先程のスモー
ルライトのように逆らえなかったのである。
 兵士長の顔はトゲがいくつか欠け、煙が立っている。だが、死んではいない。むしろ、怒りを買って
しまっただけのようだ。体中に血管を浮き立たせ、わなわなと震えている。
「そのポケットかっ!!」
 兵士長が目に力を込める。すると、ドラえもんの腹にある四次元ポケットが破裂し、粉々になった。
最大の武器を失ってしまったのだ。
「あっ!ポケットが!!」
「眼力で戦闘力を操るのは苦手だから、大した威力は無いが…これで道具はもう出せまい!!」
「どうすんだよ、ドラえもん!!」
「ど、どうしよう…」
 絶望に沈むドラえもん。そんな中、抜け目無いスネ夫はある事を思い出していた。
「スペアポケットは!?」
「そ、そうか!家の二階に、まだあるかも…」
「それは、あのポケットの予備?僕が取ってくるよ」
「ありがとう、プーアル!!」
「ロケットに変化!!」
 プーアルはロケットに変身し、野比家の方向へ飛んでいった。特訓の成果か、速度もかなりのものだ。

 

282 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/20 01:33 ID:???
 ロケットに変身したプーアルを、敢えて見逃す兵士長。
「逃げたか…賢明な奴だ。もっとも、後でスカウターで見つけて殺してやるがな」
 依然として状況は悪い。プーアルが戻ってくるまでは、四次元ポケット無しで兵士長をやり過ごさな
くてはならない。
「ど、どうする…?あのトゲ男が待ってくれるとは思えないし…」
「俺がやる!!」
「ジャイアン、無茶だよ!」
「ヤムチャさんは、あのトゲ野郎より強い奴と一対一で戦ってるんだ。ここで戦わなきゃ、俺はヤムチャ
さんに顔向け出来ねぇよ!!」
 その直後、ジャイアンが突っ込み、全力で拳を振るった。しかし、パワー手袋をはめているとは言え、
子供のパンチが通用するはずも無い。軽々と受け止められる。
「これがパンチか?次は私の番だな」
 兵士長はジャイアンを見下しつつも、満面の笑みを浮かべている。ジャイアンは死を覚悟した。
「ジャ、ジャイアン!」
 道具は無い。だが、ずる賢さなら誰にも負けぬスネ夫。またもや何かを閃いた。
「ジャイア〜〜ン!歌って〜〜!!」
「う、歌…?そうか、俺様の美声で敵をメロメロにするってわけか!!」

 ジャイアンの歌が、兵士長の耳に炸裂した。しかも、距離は殆どゼロ。
「うぎゃああああああああああ!!!」 
 のび太達が恐れ、救急車騒ぎも起こし、魔界のクジラすら追い払ったジャイアンの歌声。もはや、音
痴の域を超えている。そして、兵士長もその餌食となった。
「こ…こんな技を隠していたとは…!」
 だが、これも倒すには至らない。全身のトゲを震わせながら、兵士長が叫んだ。
「大したガキ共だ…。いいだろう、私の真の姿を見せてやろう!!」

 

303 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/21 00:41 ID:???
>>282
 気を溜め始める兵士長。すると、体中のトゲが消え、代わりに皮膚が美しい銀色を帯び始めた。当然、
戦闘力もどんどん増している。その隙に、ジャイアンが兵士長から離れた。
「何が起こってるんだよ…スネ夫」
「さ、さあ…僕に聞かないでよ」
「きっと、変身型の宇宙人なんだよ」
 宇宙開拓が進んだ22世紀で造られたドラえもん。宇宙についての知識は生まれながらに持っている。
そのドラえもんが、冷や汗を垂らしながら話し始めた。
「宇宙人の中には、身の危険を感じた時、変身する種族がいるって聞いた事がある。あのトゲ男も、多
分その種族だったんだ」
「って事は…。あいつ、もっと強くなるって事?」
「きっと、そうだろうね」
「そんなの無いよ〜!ママァ〜!!」
 やがて、兵士長の変身が終わる。美しい銀色の皮膚に包まれ、先程までとは、すっかり雰囲気が変わっ
てしまっている。第一形態を豪快と評するならば、第二形態は鋭利といった印象を受ける。
「この姿になるのは数十年振りだ。今の私の戦闘力は、さっきまでの1・5倍!つまり、15000!!
あのキュイやベジータにも迫る戦闘力なのだ!!」
 得意気に高笑いを始める兵士長。彼が笑うだけで、空気がビリビリと震える。
「ぬんっ!」
 兵士長のエネルギー波。一瞬でドラえもんの左腕を吹き飛ばし、その背後にある山に向かっていった。
その山は大爆発を起こし、瞬く間に平らな地面と化した。
「僕の腕が…!」
「ほんの挨拶だ。力があり余っていてね、外してしまったよ」
 ドラえもんは片腕を失ってしまった。ロボットだったのが、不幸中の幸いである。
「ドラちゃん大丈夫!?」
「あまり、大丈夫じゃないかも…」

 

304 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/21 00:42 ID:???
 その時、ロケットに変身したプーアルが帰ってきた。背中には、スペアポケットを乗せている。
「ごめん、探すのに手間取っちゃった!」
 猫の姿に戻り、ドラえもんにポケットをパスする。片手のドラえもんは、何とか右手でキャッチし、
腹へと付ける。ドラえもんの左腕が無くなっているのを見て、驚くプーアル。
「その腕、大丈夫!?」
「一応ネコ型ロボットだからね。他の誰かだったら大変だったよ」
 新しいポケットの存在を見ても、兵士長の余裕は崩れない。銀色の皮膚が、その兵士長の心情を表すか
の如く、妖しく輝いている。
「逃げたと思ったが…まさか、もう一つポケットを持っていたとはな。だが、もう道具は通用せんぞ。何
なら試してみるがいい!!」
 千載一遇のチャンス。ドラえもんはここぞとばかりに、究極の道具を取り出す。
「ソノウソホント〜!」
 これは、口に取り付ける道具で、形は鳥のクチバシそのものである。特筆すべきはその効果だ。何と、
この道具を付けた人の言った事は、全て現実になってしまうのだ。この道具のせいで、のび太の父は石を
割ったり、ジャイアンの父と相撲をしたり、スーパーマンになったりしている。
「何だそれは?やってみるがいい!」
「あのトゲ…じゃなくて、銀色男は死ぬ!!」
 何も起こらない。兵士長はピンピンしている。まさか、この究極の道具すら通用しないのであろうか。
そんなはずは無いと、ドラえもんは次々に言葉を発する。
「銀色男は弱くなる!銀色男は小さくなる!銀色男はどら焼きになる!銀色男は頭痛を起こす!銀色男は
笑い出す!銀色男は泣き叫ぶ!銀色男は小池さん!銀色男は宿題を忘れる!銀色男は………」
 やはり何も起こらない。この道具は高性能なので、“銀色男”という言葉でも反応するはずである。よ
うするに、兵士長にソノウソホントは効かなかったという事だ。
「何も起こらないではないか!終わったな!!」
 しかし、ドラえもんはまだ手があるようだった。ポケットからある道具を取り出す。

 

305 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/21 00:42 ID:???
「テキオー灯〜!」
 懐中電灯型の道具。この光を浴びた者は、高温、低温、無酸素、高重力など、あらゆる環境に耐える事
が出来るようになる。しかし、その効能ゆえ、時間制限は24時間と短い。それを、ドラえもんは仲間全
員に浴びせた。
「どこでもドア〜!」
 ドラえもんは地上にドアを置き、こう言った。
「無くなっても、宇宙には何の影響も無い星へ!!」
 そして、ドアを開く。一体何が狙いなのだろうか。兵士長は勿論、ジャイアン達にも見当がつかない。
ドアは荒涼とした惑星に繋がっていた。空気も重力も無い、名も無き無人の惑星である。
「みんな、ドアの中に入って!!」
 ドラえもんが促す。ジャイアン達とプーアルが、慌ててドアに入る。変身して悦に入っていた兵士長も、
ようやく様子がおかしい事に気づく。地位が兵士長止まりなのも、この性格のせいであろう。
「ちっ!この期に及んで逃げるつもりか!?」
 兵士長がドアに入った瞬間、入れ替わりにドラえもん達がドアから出る。そして、急いでドアを閉めた。

 間もなくドアが消え、この無人惑星に一人残された兵士長。
「くそっ!宇宙に私を置き去りにする作戦か!!」
 だが、戦闘服の内ポケットの中には予備のスカウターが入っている。これさえあれば、再び地球に行く
事も可能である。ドラえもん達の作戦は、戦いを先延ばしにしたに過ぎなかった。
「ふん、面倒な事になったものだ。まぁいい………ん?」
 地面に奇妙な物が落ちている事に気づいた。魚雷の形で、ドクロマークが描かれた不気味な悪い物体だ。
「何だこれは?」
 次の瞬間、その物体が爆発した。爆発は凄まじく、無人の惑星は跡形も無く吹き飛んだ。兵士長もまた、
この星と運命を共にする事になったのであった…。
 ドラえもん最強の道具・地球破壊爆弾。知恵と勇気と友情と爆弾、四拍子揃った快勝であった。

 

355 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/22 01:02 ID:???
>>305
 我々の地球からは、何百光年も離れた宇宙空間。そこを、惑星フリーザ反乱軍の宇宙船が飛行していた。
彼らの活動は、フリーザ達によって強引に売買された惑星の解放や、未だ各地にはびこるフリーザ軍兵士
の駆逐などであった。軍隊はフリーザ達の被害に遭った様々な種族から構成されており、我々で言う、多
国籍軍のようなものであった。
 この宇宙船は、反乱軍のとある部隊のもので、今日も順調に活動していた。
「ヤコン隊長。前方三千キロ程の宙域で、惑星の爆発を確認しました!」
「何だと?」
「多種の化学物質反応があり、恐らく人為的なものかと思われます」
「何であんなところで…。無人惑星しか無いはずだが」
「考えられるのは、兵器実験か何らかの事故によるものかと…」
「うむ、行ってみよう」
 宇宙船は、すぐさまその宙域へ向かった。惑星の破片が到る所に散らばっている。隊長のヤコンが船内
にアナウンスを流す。彼も、故郷の暗黒星をフリーザ軍に奪われた過去を持っているのだ。
「化学物質が検出された。宇宙空間で生存可能な者も、念のため宇宙服を着用し、調査に出よ」
 それにつれ、次々と船内から様々なタイプの宇宙人が出てくる。ヤードラット星人、コーヤコーヤ星人、
植物星人、アニマル星人、ナメック星人など、正に宇宙人のサラダボウル。
「せ、生存者がいました!」
 発見されたのは、下半身が無い銀色の皮膚をした宇宙人。意識はあるが、瀕死の重傷だ。彼はすぐさま
船内に運ばれた。中には高性能のメディカルマシーンがある。治療すれば、数十分で全快するはずだ。
「おい、どうした?」
「プイプイ副隊長!爆発した惑星跡から生存者が発見されまして、治療を施すところです」
「そうか、引き止めてすまなかった」
「はっ!」
 運ばれていく銀色の宇宙人を見たプイプイ。途端に、彼の表情が変わった。
「おい、治療は無しだ。この男、惑星フリーザの兵士長だった男だぞ」

 

356 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/22 01:02 ID:???
 プイプイの態度の変化に、一番戸惑ったのは兵士長本人であった。
「お、おい!私は怪我人なんだぞ!?ガキ共にはめられただけの、弱者なんだぞ!?」
「俺の故郷ズンはな、フリーザ軍に壊滅させられた。“惑星ベジータに重力が似ている”という理由だけ
でな!!」
 怒りに満ちた表情で、手にエネルギーを溜め始めるプイプイ。もはや止める術は無い。
「やめろ!私を殺せば、フリーザ様が黙っていないぞ!!」
「フリーザは死んだだろうが。例え生きていたとしても、クウラ様には敵うまい」
「く、クウラだと!?」
 これ以上、罪人と話す気にはなれない。プイプイは無言でエネルギー波を放った。兵士長は叫ぶ間も無
く、消滅した。惑星フリーザで甘い汁を吸ってきた代償、それは自らの命を以って支払うしか無いのだ。
「ヤコン隊長に報告しろ。生存者はいなかったとな」
「…はっ!」

 惑星クウラ。フリーザ反乱軍の拠点となっている場所である。椅子に座りながら、部隊長達の報告を聞く
男。この男こそ、反乱軍司令官にして、この惑星の所有者でもあるクウラである。そして彼は、フリーザの
兄でもあるのだ。何故、兄である彼が、弟の軍を攻撃するのだろうか。
 やがて、報告もひと段落つく。一人になったクウラは、昔の事を思い出していた。

 クウラは、幼い頃から支配者となるため、英才教育を受けてきた。だが、彼は気づいてしまったのだ。父
コルドの期待は自分では無く、弟フリーザに向いていると。耐え難い劣等感、持て余す嫉妬、愛情への飢餓、
彼は暗い少年時代を送ってきた。
 そんな彼も、やがて成人する。自らの名を冠する惑星を与えられたものの、クウラは無気力であった。一
日中、何もせず座っているだけ。そんなクウラは、コルドには見放され、フリーザには軽蔑され、部下には
愛想を尽かされ、一人になってしまった。それでも生活は変わらない。飲み食いもせず、椅子に座っている
だけだ。惑星クウラは、事実上の無人惑星と化していた。

 

357 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/22 01:03 ID:???
 だが、クウラを変える出来事が起こった。一機の宇宙船が、この星に不時着したのだ。様子を見に行くク
ウラ。その中には、とある種族の美しい女性が乗っていた。一目惚れであった。
 宇宙船の故障はひどく、直すには数週間かかる。その間、彼女はここで過ごす事になった。始めはクウラ
の一方的だった恋も、徐々に繋がっていったのだ。しかし、宇宙船は直ってしまった。別れの時は来た。
「クウラさん、ありがとうございました。また来ても構いませんか?」
「勿論ですよ」
 女性が惑星クウラを発ってから、三ヶ月が経った。未だに彼女は来てくれない。どうしても彼女に会いた
いクウラは、ついに自ら会いに行く決意をした。故郷の場所は聞いている。

 彼女の故郷は、美しい惑星だった。だが、様子がおかしい。住人が一人しかいないのだ。それも、肥満体
で脂ぎった宇宙人である。どう見ても、彼女と同じ種族には見えない。クウラは疑問をぶつけてみた。
「あの、ここは誰の星なんですか?」
「観光客かね?ここはフリーザ軍から買ったのさ。前々から、この星を別荘にしたくてね。惑星フリーザに
依頼したら、ここの住民を皆殺しにしてくれたよ。いやぁ…」
 全てを言い終わる前に、クウラはその男を殺していた。
「ウソだろ…」
 クウラは星中を飛び回った。そして、彼女の乗っていた宇宙船の残骸を見つけたのだ。船内には、彼女の
死体がそのままの状態で残っていた。ビームで胸を貫かれている。更に、操縦モニターを見ると、船の目的
地は「惑星クウラ」になっていた。呆然とするクウラ。彼女は、自分に会いに行く寸前で殺されたのだ。
「ふざけやがって…!」
 クウラが悲しみに暮れていると、いつの間にか宇宙船の周囲は惑星フリーザの一軍に囲まれていた。
「おい、惑星フリーザのお得意様を殺しておいて、ただで済むとは思ってないよな?」
「早く出て来いよ、宇宙船ごと吹き飛ばすぞ」
 それを聞き、狂ったように笑い出すクウラ。異常なまでのクウラの強さに、フリーザ軍数百名は、一分も
経たないうちに全滅した。この事件の後、クウラは“惑星フリーザ反乱軍”を結成する事となる。

 

581 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/24 00:58 ID:???
>>357
 ノックの音。クウラは現実に引き戻され、司令官の顔つきになる。
「キー坊ですが…よろしいでしょうか。クウラ様」
「ん…入れ」
 司令室に入ってきたのは、植物型宇宙人のキー坊であった。彼の住処である植物星も、フリーザ軍によっ
て多大な被害を受けていた。そのため、彼も惑星フリーザ反乱軍に入隊したのだ。その温厚な性格と、優れ
た頭脳で、キー坊は瞬く間にクウラの右腕となっていったのである。
「実は、私には命の恩人がいるのです。その方々の星がフリーザ軍に侵略されていないか心配で…」
「その星を探って欲しいと言う事だな?」
「は、はい…。司令官を便利屋扱いして、申し訳ありません」
「気にするな、元々この軍隊に上下関係など存在しない。ただ、私が最初に呼びかけただけなんだ…」
 クウラは反乱軍を結成する過程で、様々な宇宙人と触れ合っていった。当然、異星人から教わる事は多い。
気の探り方もその一つである。元々優秀な一族の出であるクウラ。彼の探れる気の範囲は、通常のそれを遥
かに上回る広さとなった。そのため、遠い故郷の安否を心配する部下から、気を探る事で様子を確かめて欲
しい、という頼みを受ける事は少なくない。
「では、方位を教えてもらおうか」
 キー坊は、目的の星の方位を伝えた。かなり遠いが、探れない範囲では無い。クウラは神経を集中させる。
今までこの類の頼みを受けて、探った星が大事に到っていたというケースは無かった。内心クウラは、今回
もそうだろうと思っていた。しかし…。
「こ、この邪悪なパワー…。奴しかいない…フリーザ…」
「え!?」
「確かに父と共に殺されたはず…。あれは偽の情報だったのか!?」
 しかも最悪な事に、その星からはフリーザとその部下以外の気が、殆ど感じられない。フリーザにこそ劣
るものの、巨大な気が一つ。微弱な気が六つ。その七つのみ。
「き、キー坊…目的の星からは、数えられる程しか気は感じられない。おそらく住人は…」
 これが事実なのだ、伝えねばならない。床に泣き崩れるキー坊。

 

582 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/24 00:58 ID:???
「のび太さん…ドラえもんさん…!ううう…」
 悲しみに打ちひしがれるキー坊。その姿に、クウラはかつての自分を重ね合わせていた。初めて自分に好
意を持ってくれた女性、それを理不尽に奪われた痛み。それは、クウラを行動に駆り立てた。
「フリーザ…お前は必ず殺す!!」
 自分の額に人差し指と中指を置くクウラ。意識を集中する。その後、キー坊が床から顔を上げると、クウ
ラの姿が無くなっていた。音も無く消えたクウラ。一体何が起こったのだろうか。

 そして、再び我々の地球。兵士長を倒して、喜ぶドラえもん達。
「兵士長が…あんなガキ共に」
「変身までしたんだぜ?ありえねぇよ…!」
 戦闘力が一万もあれば、宇宙では強者を名乗る資格が十分にある。その資格を持った兵士長が、たかだか
数人の子供に手品のように消されてしまったのだ。ショックを隠し切れないフリーザ軍の下級兵達。だが、
ショックこそあるものの、敗北感は漂っていなかった。何故なら、彼らの親玉フリーザはまだ健在なのだ。
「まだフリーザ様がおられる!」
「そうだ!フリーザ様の強さは宇宙一だ!!」
 地上の注目は、一気に上空のヤムチャとフリーザに向けられた。

 ヤムチャとフリーザ。一撃を喰らってからのヤムチャは、もはやサンドバッグであった。フリーザの頭突
きとエネルギー波に、思う存分嬲られる。戦いと呼べるようなものでは無かった。
「く…くそ…!」
「攻撃力から推し量れる戦闘力は、恐らく私の数十分の一…。アリにしてはよくやった方だと思いますよ」
「ふざ…けるな…!俺はまだ…」
「しかし、アリはアリ…。最後には、踏み潰されるしか無いんですよ」
「何だと…!」
 次の瞬間、フリーザの口からのエネルギー波が、ヤムチャの腹部を貫いていた。

 

583 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/24 00:58 ID:???
 力尽き、みるみる地上へ落ちていくヤムチャ。その様子を、ゴミでも見るかのような目つきで、フリーザ
は眺めていた。
「ま、こんなもんでしょう。さて、次はドラエモンの入手ですね…」

 落ちてくるヤムチャを、パワー手袋をつけたジャイアンが何とかキャッチする。地面への衝突は免れた。
「ヤムチャさん、俺だよ!しっかりしてくれよ!!」
「大丈夫だよ、ジャイアン。傷はすぐ治るよ」
 ドラえもんは、兵士長戦でも使ったソノウソホントを装着した。そして、一言。
「ヤムチャさんの怪我は全快する!」
 すると、穴まで空いていたヤムチャの肉体が、みるみる元に戻っていった。そのやり取りを見ていたフリー
ザが、静かに地上へと降りてくる。
「穴まで空いていた傷が一瞬で回復するとは…。流石ですね、ドラエモン」
「な、何で僕の名前を!?」
「デキスギさんから聞いたんですよ…。貴方の事を、そして貴方が不思議な道具を持っている事を…」
 出木杉の裏切り。しかし、今はそれどころでは無い。最強最悪の敵が、目の前にいるのだ。回復したヤム
チャも、完全に戦意を喪失してしまっている。二度とこんな化物とやるのはもう勘弁だ、といった表情。そ
んな緊張する一同に対し、フリーザはある提案を持ちかけてきた。
「ドラエモンを大人しく渡すなら、この星は見逃してもよろしいですよ?」
 のび太は、出木杉に同じ事を問われた時、きっぱりと断った。だが、ここのメンバーにはそれが出来ない。
みんな心の中では思っているのだ。ドラえもん一人で済むのなら、と…。勿論、フリーザにもそんな事はお
見通しであった。何も言えず黙っている一同を、楽しそうに眺めている。
 すると突然、ジャイアンが意を決した表情で、フリーザの前に歩いていった。
「フリーザだか何か知らねぇがよ!ドラえもんは俺様の子分なんだ!!どうしても欲しかったら、俺を倒
してからにしろよ!!」
 ジャイアン、ガキ大将としての覚悟の叫び。足は震えていた。


 

707 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/25 01:29 ID:???
>>583
 ジャイアンの覚悟に対し、フリーザは不快な表情をあらわにする。
「大人しく従っていればいいものを…。人をイライラさせるのが、余程好きなんだな」
「う、うるせぇ!」
 すると、後ろにいた静香とスネ夫までフリーザの前に立ちはだかった。スネ夫は少し及び腰。
「私もよ。ドラちゃんには、お世話になったもの!」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕だって…」
 フリーザの前に立つ、三人の子供達。のび太ほどでは無いにせよ、ドラえもんとの付き合いは深い。ドラ
えもんの道具には、世話になったし、迷惑もかけられた。だからこそ、ドラえもんを売るような真似は出来
ない。人生の酸いも甘いも知らないような子供達の、ほんのちっぽけな意地だ。
 それを見ているヤムチャ。出て行けない。彼はドラえもんとの付き合いなど、無いに等しい。赤の他人に
命を売るような真似が出来るわけが無い。すると、そんなヤムチャを尻目に、プーアルまで前に飛び出した。
「僕だって、ただじゃやられないぞ…」
 驚くヤムチャ。今まで、自分に付き従うだけだったプーアルが、今は自分を置いて前へと進んでいる。そ
れなのに、自分は出て行けない。仕方ないじゃないか、フリーザと直に戦ったのは俺だけなんだ…ヤムチャ
に出来る事は、己の弱さを自分の中で正当化する事くらいであった。
 子供三人に、空飛ぶ猫が一匹。両手を広げ、フリーザを通せん坊するように立ち塞がる。その無知ぶりに
怒ってか、あるいはその無謀ぶりに呆れてか、フリーザの顔は完全に引きつっていた。
「いいでしょう、そんなに死にたければ…」
 帝王が愚か者達に罰を下そうとする。その時だった。

「そこまでだな」
 フリーザは、この声に聞き覚えがあった。遠い昔、常に自分より劣っていた男、常に暗い顔をしていた男、
いつしか一族の恥と見捨てられた男。フリーザの記憶からは消し去られたはずの男が今、鮮明に蘇る。突如
その場に現れたのは、フリーザの実兄・クウラであった。
「クウラ兄さん………久しぶりだね」

 

708 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/25 01:30 ID:???
 音も無く、地球上に姿を現したクウラ。フリーザの兄だけあって、その気はとてつもなく大きい。いくら
戦意を喪失しているヤムチャと言えど、接近に気がつかないわけが無い。だが、その理由はクウラ自ら明か
してくれた。
「瞬間移動か…便利なものだな」
 クウラが様々な異星人から、技術や知識を学んだのは先述の通り。そして、その宇宙人の中には“超能力”
を使う種族として名高いヤードラット星人もいた。気を感じた生物の元へ、一瞬で移動できる力“瞬間移動”。
クウラもヤードラット星人と知り合った際に、学んでいたのである。
「フリーザ…。死んだと聞いていたが、どうやら違ったようだな…」
「確かに一度死んださ。でも、僕も色々あってね…」
 フリーザの口調が変わっている。やはり、兄弟相手だと接し方も違うようだ。他のメンバーは、宇宙最強
の兄弟が交わす会話を、ただ見守るしか無い。
「…で、何の用だい?」
「フリーザ、これから俺はお前を殺す!」
 兄からの突然の宣戦布告。フリーザはしばし呆然としていたが、やがて笑い出す。
「ハッハッハ…!何を言うかと思えば、兄さん如きが僕を殺す?どうやら、昔の事を忘れているようだね」
 子供の頃、クウラは兄にもかかわらず、フリーザに一度も勝った事が無かった。実の兄弟にもかかわらず、
余りに無慈悲な才能の差。この差こそが、コルドの興味がフリーザへと向いていった原因でもあった。だが、
そんな弟の挑発を、クウラは黙って聞いている。気が読める彼には分かっているのだ。自分の気が、フリー
ザを上回っている事を。帝王に君臨し、その才能を腐らせたフリーザ。泥沼から這い上がり、必死に己を磨
き上げたクウラ。いつしか、その立場は逆転していた。
「ここでは、彼らを巻き込む。戦うのは空だ」
 ドラえもん達を見て、クウラが提案する。フリーザにとしても、是非ともドラえもんは無傷で手に入れて
おきたい。快く、その提案を飲んだ。
 空へと上っていく兄弟。その間、ずっとフリーザはクウラを挑発していたが、クウラは無視していた。か
なりの高度まで上ったところで止まる二人。クウラVSフリーザ、決戦開始。

 

709 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/25 01:30 ID:???
 かなりの高度まで上がったので、ヤムチャ以外はとても見る事は出来ない。そのヤムチャにも、この勝敗
は分かり切っていた。十中八九、クウラが勝つ。それ程、二人の戦闘力の差は大きいのだ。
 いきなり現れ、フリーザを倒す力を持つ男。正に、英雄と呼ぶに相応しい存在だ。実力も無いくせに、英
雄を気取っていた自分とは大違いである。ヤムチャの心境は複雑なものであった。
「お〜い、みんな!無事だったんだね!!」
 のび太だった。気絶している出木杉を、肩に抱いている。フリーザ軍兵士がいる裏山から、こっそり抜け
出してきたらしい。出木杉を倒した達成感からか、のび太の顔はとても爽やかだ。いや、のび太だけでは無
い。秘密道具で兵士長を倒したドラえもん、フリーザにも臆する事無く立ち向かったジャイアン、スネ夫、
静香、プーアル。彼らの表情は昨日までとは比べ物にならない程、凛々しいものになっていた。
 自分だけだ。自分は、フリーザに成す術無く惨敗している。しかも、そのフリーザも突然現れた男によっ
て倒されようとしている。一体、俺は何をやっていたんだ…。

 その頃、遥か上空では、兄弟対決が繰り広げられていた。手足が無く、戦闘力も激減しているフリーザ。
対するは、五体満足で、確実に実力を上げてきたクウラ。早々からクウラが圧倒していた。クウラの重い打
撃が、フリーザに次々とヒットする。フリーザの攻撃は、頭突きと口から放つエネルギー波のみ。相手がヤ
ムチャならばともかく、クウラに通用するわけが無い。
「ウソだ…こんな奴に!」
 予想を遥かに上回る兄の実力に、フリーザも焦りを感じていた。感じている間にも、クウラの攻撃は続く。
手が無いので、ガードする事も出来ない。攻撃は全てクリーンヒット。
「フリーザ…お前では俺に勝てん」
「お、おのれぇ!!」
 フリーザがエネルギー波を連発する。だが、クウラも同じ数のエネルギー弾で相殺する。何をやっても通
用しない。元々はクウラを凌ぐ才能を持っていたフリーザ、既に本能では分かっていた。今の兄には勝てな
い。クウラは、そんなフリーザの頭を掴み、更に上空へと投げ飛ばした。
「終わりだ、フリーザ!!」

 

54 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/26 22:17 ID:???
前スレ>>709の続き
 上空へと投げ出されたフリーザ。クウラはそのフリーザへ掌を向け、エネルギーを溜め始める。後は、エ
ネルギー波でフリーザを消し飛ばせば良い。これで決着だ。
「く、くそぉぉぉぉ!!」
 無念の余り、叫ぶフリーザ。奇跡的に復活し、幾日も地球で過ごし、ヤムチャを倒し、ドラえもんという
究極のロボットを見つけた。それなのに、突然現れた兄に敵わなかった。昔は勝てた兄に敵わなかった。フ
リーザの命はもう数秒も残されていないだろう。
 ヤムチャもそれを見つめる。これで、フリーザは死ぬ。地球は助かり、子供達も助かり、そして自分も助
かる。これで良かった。それなのに、万事解決なのに、ヤムチャの眼からは涙が流れていた。
 そして─────

 クウラは撃たなかった。いや、撃てなかった。死を覚悟していたフリーザも、慌てて空中で体勢を立て直
す。クウラの右腕は、何かに怯えるように震えていた。
「う、撃てない………!」
 そのクウラの表情に、先程までの威厳は感じられなかった。汗をかき、身体中が震え、目も踊っている。
そこへ、フリーザが猛突撃する。フリーザの頭突きが、クウラの腹を直撃した。数十メートル吹き飛ばされ
る。その強烈な一撃を受けても、クウラの顔に変化は無い。原因不明の戦意喪失。だが、フリーザはその原
因が知っているかのように話し始める。
「やっぱり…兄さんは甘いね。可愛い弟を殺すなんて出来ないよねぇ…」
「ぐ…!」
 クウラがフリーザへにトドメを刺そうとした瞬間、浮かんできたのは幼い頃の思い出だった。父コルドの
厳しい特訓の最中、二人で愚痴を言った事も、泣いた事も、時には笑った事もあった。そんな弟を殺せる訳
が無い。脳が、肉体が、本能が、拒否してしまう。例えその弟が、自分の愛する人を奪った原因になってい
たとしても。俺のたった一人の弟なのだから…。
「く…くっ…うおおぉぉぉ!!」
 過去と現在の狭間で、苦悩するクウラ。フリーザにとっては、嬉しい誤算であった。

 

55 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/26 22:17 ID:???
 地上でそれを見守るヤムチャと子供達。とは言っても、実際に見えているのはヤムチャだけ。
「ヤムチャ様、どうなってますか?」
「あの人、もうやられちゃったのかなぁ…」
「何となく、フリーザに似てなかった?あの人」
 そんな声も、ヤムチャの耳には入らない。一人の武道家として、宇宙最強の戦いを真剣に眺めているのだ。
だが上空では、気では勝っているはずのクウラがどんどん押され始めている。
「何やってんだ…チャンスだったのに…!」
 思わず、声まで漏れてしまう。もしクウラがやられてしまったら、勝てる者はいない。すなわち、完全敗
北。ヤムチャ達の運命は、今やクウラにかかっているのだ。そのクウラが負けそうになっている。
「もし、あんたが負けたら………!」
 クウラの不甲斐無さに、今度は叫びそうになる。だが、その時思った。フリーザを倒すのは、元々俺の役
目ではなかったのか。それを、突然現れた宇宙人に任せていいのか。

 その時、フリーザのエネルギー波の直撃を喰らったクウラが、猛スピードで落ちてきた。間もなく、地上
に衝突する。落下地点にある家屋が五、六軒破壊された。
「くそぉ……!」
 大の字で、家屋の瓦礫に埋もれるクウラ。ゆっくりとフリーザが降りてくる。見下す眼、軽蔑する眼、帝
王の眼、いくつもの星を滅ぼし破壊した、悪の眼だ。
「最初は驚かされたけど、やっぱり僕には勝てないようだね。クウラ」
「うう……」
「生まれ持っての才能、やはりお前には帝王になる資格は無かったという事だ」
「く…ぐ……!」
「いつもパパは言ってたよ。お前を指差して、“ああいう風にはなるな”ってね。フハハハハハ!!」
「うう…うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
 クウラ、慟哭。反乱軍を結成して持ち直していた精神が、再びフリーザに粉砕されてしまった。

 

56 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/26 22:17 ID:???
 その様子を見ていたヤムチャも分かっていた。もはや、クウラに勝ち目は無い。
「ヤムチャさん…あの、どうなったんですか?」
「あの人、落ちてきたけど大丈夫かしら…」
 ヤムチャは考えていた。頼みの綱の宇宙人はもう勝てない。後は誰がいる、戦えるのは誰がいる。ドラえ
もんの道具は通用しないだろう。プーアルは変身しても強さは変わらない。子供達が戦えるはずも無い。じゃ
あ、誰がいる。いるじゃないか、すぐ近くに。ヤムチャしかいない、俺しかいない。俺しか…。
「俺しかいないじゃないかよォ!!」
 叫んだ後、ヤムチャが飛び出した。そう、まるで飢えた狼のように。
「ヤムチャさん!」

 一方、クウラとフリーザ。いくら貶されようとも、もうクウラの闘争心が戻る事は無い。大の字で寝そべっ
たまま、涙を流すだけだ。フリーザは勝利を確信し、口にエネルギーを溜め始める。
「ま…これ以上生きていられても困るんでね。死んでもらうよ」
 そこへ、ヤムチャが突っ込んできた。フリーザの後頭部へ強烈な蹴り。回転しながら、フリーザが吹っ飛
んでいく。予期していなかった助太刀で、クウラも我に返る。
「き、君は…」
「お前、一体何者だ?」
「え…私はクウラだ。恥ずかしながら、フリーザの兄なのだ…」
「兄貴か、どうりで似てるわけだぜ。で、あんたに言いたい事があるんだが」
「な、何だ?」
「俺の獲物を勝手に横取りするんじゃねぇよ!!」
 いきなりの暴言。何を言っているんだ、俺は…。このクウラは強い味方なのだ。とりあえず、礼を言って
おかねばならない。そう思ったヤムチャの口からは、次のような台詞が出た。
「余計な事しやがって…。クーラーだか、ヒーターだか知らないが、さっさと帰ったらどうだ?」
 呆然とするクウラ。だが、言った本人の方が呆然としていた。

 

286 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/28 22:08 ID:???
>>56
 ヤムチャとクウラの間には、気まずい雰囲気が漂っている。暴言を吐いてしまったヤムチャ、突然怒鳴ら
れたクウラ。この空気に耐えられず、ヤムチャが謝ろうとする。
「あ、あの…」
「君では無理だ」
 厳しい一言。だが、これが事実なのだ。いくらクウラがダメージを与えたとは言え、未だヤムチャとフリー
ザの差は大きい。気を読めるクウラ、そしてヤムチャ自身にもそんな事は分かっていた。
「君ではフリーザを倒せない。ここは私に任せ、向こうで休んでいろ」
「何言ってやがる…」
 このクウラの発言に、ヤムチャがキレた。いや、内心では“じゃあ貴方に任せます”と言いたかった。だ
が、武道家としての誇り、かつては故郷を守る戦士だった誇りが、それをさせなかった。
「俺は見てたんだぜ。あんたがフリーザに勝てそうになった事も、そしてフリーザへのトドメを躊躇したと
ころもな…」
「う…!」
「大方、可愛い弟を土壇場で殺せなくなったってとこだろ。…ったく、それで何が“私に任せろ”だ」
「ぐ…くく……!」
「いきなり現れておいて、“やっぱ弟は殺せませ〜ん”かよ。本当に面白い野郎…」
「貴様に何が分かる!今日会ったばかりの貴様などに、俺の気持ちが、人生が分かるものかァ!!」
 クウラがヤムチャに掴みかかる。怒りと哀しみが混ざり合い、今にも襲い掛かってきそうな形相。だが、
図星なのだ。クウラは分かっていた。この男が言う事は正しい。だからと言って、全てを認めてしまったら、
自分の全てが崩壊してしまうような気がしたのである。
 すると、ヤムチャがクウラを殴りつけた。強烈な右拳。見事に顔面に入った。突然だったため、クウラは
数メートル吹き飛ぶ。そのたった一撃で、クウラの目を覚まさせたのだ。
「す、すまない………私は、私は宇宙一情けない戦士だ………!」
 うつむくクウラに、ヤムチャは自信に満ち溢れた表情で、胸を張って言ってやった。
「何言ってんですか…。宇宙一情けない戦士、それは俺の事ですよ!!」

 

287 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/28 22:09 ID:???
 そして、ただ見ているだけだった、いや見る事も出来なかったドラえもん達。のび太が言う。
「僕達も行こう!」
 早速、ドラえもんが全員分のタケコプターを出す。最初に飛び出したのは、タケコプターが不要なプーア
ル。やはり、ヤムチャの安否が気になるようだ。泣きそうな声で、主の名前を叫ぶ。
「ヤムチャ様〜!!」
 ドラえもん、ジャイアン、静香、スネ夫も、プーアルを追うように立て続けに出発する。目的地は、クウ
ラの落下地点である。役に立てるかは分からないが、大人しく見物などしていられない。
「よしみんな、出発だ!」
「ヤムチャさん、フリーザを倒してくれよ!俺は信じてるぜ!!」
「あの落ちてきた人、大丈夫かしら…」
「もう…行けばいいんでしょ!こうなりゃ、ヤケだ!」
 そんな中、相変わらずのノロマな動きで、一人出遅れたのび太。
「ま、待ってよ〜!」
「の、野比君…」
 その声は出木杉だった。いつの間にか意識が戻っていたらしい。のび太は嫌な予感がした。まさか、また
戦うつもりでは…。だが、そうでは無かった。
「ありがとう…僕を止めてくれて。寝てる間、僕は夢を見たんだ」
「夢………?」
「面白い本を読んだり、クラスメイトと遊んだり、パパやママと話したり…とても楽しかった。僕は、こん
な楽しい人生を、自ら壊そうとしていたんだね…」
「出木杉…」
「僕には言う資格さえ無いけど…。野比君、フリーザを倒してくれ…!」
「分かったよ、出木杉!」
 心強いのび太の言葉。それを聞いて安心したかのように、出木杉は再び眠りに就いた。そして、のび太も
タケコプターで出発した。最後の戦場へ向かうために…。

 

288 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/28 22:09 ID:???
 ヤムチャに蹴り飛ばされたフリーザ。民家の車庫にあった自動車にめり込んでいる。そして、ゆっくりと
顔を上げた。その静かな動作とは裏腹に、身体中、怒りで満ち溢れている。浮き出る血管、震える背中、食
いしばられた歯。感情には“喜怒哀楽”の四つがあるが、これは明らかな“怒”。純粋な“怒”。
「ふざけやがって…二度と回復出来ねぇようにバラバラにしてやる…!」
 ここまでフリーザを怒らせたのは、過去にただ一人だけ。伝説のスーパーサイヤ人、孫悟空だけである。

 そして、その怒りの気配を見逃さない二人。ヤムチャとクウラ。大きさこそ変わっていないが、フリーザ
の気は激しさを増している。かつて無い程、危険な状態である。
「来るぞ…」
「ええ、ここは俺にやらせて下さい」
「ああ…。だが、さっき一発殴られた借りを返してなかったな…」
「え!?」
 焦るヤムチャ。もしクウラに殴られたら、一撃で粉々になってしまう。かと言って、さっき一発殴ったの
は確かだ。ここは甘んじて受けるしか無い。きっと手加減してくれるはず、そう祈りながらヤムチャは身構
えた。すると、クウラはヤムチャの顔に向かって手を─────
「あれ、痛くない…?」
「私の気を送った。急激な戦闘力の増幅は負担がかかるから、大した量では無いが」
「あ、ありがとう…。殺されるかと思った…」
 ほっとしたヤムチャ。そして、自分に気が溢れているのが分かる。クウラは借りを返したのだ。だが、こ
れでもフリーザには及ばない。そこは、技術と経験でカバーしてみせる。ヤムチャには自信があった。別に、
クウラのおかげでパワーアップしたからでは無い。自分には仲間がいる。慕ってくれた子供達、力を分けて
くれたクウラ、故郷の友人達、そしてプーアル…。
「行ってくるぜ、みんな!!」 
 クウラにだけ言ったのでは無い、仲間全員に言ったのだ。フリーザがこちらへやって来ている。ヤムチャ
も迎え撃つ体勢は出来ている。ヤムチャVSフリーザ、三度目の激突。

 

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