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ドラえもん のび太と最強の男



<後編>

544 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/31 01:29 ID:???
>>288
 町を眼下に見下ろせる程の高度、二人の男が対峙している。ヤムチャとフリーザ。確かに、クウラのおか
げで二人の“戦闘力”という数字の上での実力差は縮まった。だが、相手はフリーザ。無数の星々を滅ぼし、
戦闘民族と称されるサイヤ人ですら手玉に取った男。単なる数字では、この帝王の実力は測れまい。
「クウラやガキも俺をイライラさせてくれたが…一番ムカついたのはテメーだ。一瞬で終わらせてやる」
 怒りに満ちたフリーザの睨みが、ヤムチャの体に突き刺さる。思わず唾を飲み込むヤムチャ。自分の体が
震えているのが分かる。気圧されたら負け、ヤムチャも必死にフリーザの殺気と格闘する。
「来いよ、フリーザ」
 今のフリーザには、ヤムチャの言動全てが挑発と化してしまう。間髪入れず、フリーザが猛スピードで突っ
込んでくる。そしてヤムチャも両腕をクロスさせ、それをガードする。フリーザの頭とヤムチャの腕、激突。
「………グゥッ………!」
 以前は一撃喰らっただけで悶絶ものだった、フリーザの頭突き。しかし、今は耐えられない威力ではない。
ガードに使った両腕は腫れ上がってはいるが、骨折もしておらず十分使う事が出来る。改めてクウラに感謝
するヤムチャであった。
「耐えただと…バカな!」
「今度はこっちの番だ、狼牙風風拳!!」
 空中戦用に改良した、空気抵抗を抑えるために体勢を低くした構え。そこから素早く連続技を繰り出す。
フリーザの顔に、ヤムチャの打撃が次々と浴びせられる。手応えを感じる。一撃一撃が、フリーザの肉体に
食い込んでいるのが分かる。そして、決めの回し蹴り。
「…ぐおォ!」
「どうだ、確実に効いてるはずだぜ!!」
「く、くそ…ゴミの分際で………!」
 急激なヤムチャのパワーアップ。フリーザも疑問を感じずにはいられない。考えられるのは、ただ一つ。
ドラえもんである。あの青狸が、ヤムチャに手を施したに違いない。フリーザはそう推理した。
「そういう事か、ますます欲しくなったぞ…ドラエモン」
 改めて自分の目的を確認したフリーザが、冷静になってしまう。戦いはまだ始まったばかりである。

 

545 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/31 01:30 ID:???
 地上でそれを見つめるクウラ。ヤムチャは善戦しているが、その表情は厳しい。何せ、相手は悪名高きフ
リーザ。何をしでかすか分からない。ようするに、完全に消滅させるまでは安心出来ないのだ。
「フリーザが冷静になったようだな…ここからが正念場だぞ」
 そんなクウラの元へプーアルを筆頭に、子供達が到着する。どう考えてもフリーザの関係者にしか見えな
いクウラの風貌。子供達も思わず身構える。
「さっきの子供達か…」
 クウラから話し掛けてきた。その性質も、やはりフリーザに近い。そこで、実質リーダーであるドラえも
んが恐る恐る、ある事を尋ねる。
「貴方は何者なんですか?見たところ、フリーザに似てる………んですけど」
「…私はフリーザの兄だ」
 クウラは少しためらった。キー坊に頼まれ気を探った時、この星からは殆ど住民の気を感じなかった。現
在もそうだ。この星の住民は、フリーザ軍の手でほぼ絶滅状態にさせられたのだろう。そして、自分はその
親玉の血縁者なのだ。いくら絶縁状態であるとは言え、被害者にとって自分の存在は、フリーザの仲間にし
か映らないであろう。そのせいで、反乱軍結成時には色々揉めた事もあったのだ。
 予想通り、ジャイアンが真っ赤な顔で食って掛かった。
「お前、あいつの兄貴か!フリーザのせいで、俺達がどんだけひどい目に遭ったか分かってんのかよ!?」
 答えられず、下を向くクウラ。そのクウラに、ジャイアンが罵声を浴びせ続ける。ジャイアンはクウラの
事など全く知らない。その行動も、仕方の無いものであると言えた。
「やめましょうよ、武さん」
「オイオイしずちゃん、あいつの味方をするのかよ!兄貴なんだぜ!?」
「何て言うのかしら…。その人は悪者じゃない…って気がするのよ。分からないけど」
「悪者じゃないも何も、こいつが名乗ったんだぜ?フリーザの兄貴だって」
「そ、そうだけど…」
 静香とジャイアンの口論が続く。悪者の兄貴だから悪い、と主張するジャイアン。何となくクウラは悪い
人に見えない、と主張する静香。そしてそこへ、のび太が遅れて到着した。

 

546 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/31 01:30 ID:???
「遅れてゴメン、エヘヘ…」
 タケコプターを外しながら、しまりの無い笑いを浮かべるのび太。本当に情けない表情だ。ただでさえ、
静香と口論して機嫌が悪くなっているジャイアンが怒鳴る。
「おせぇぞ、のび太!!」
「わ、わぁっ!ちょっと、出木杉と話しててさぁ…」
 その時、クウラの表情が変わった。はっとしたような表情。クウラがのび太の元へ駆け寄る。
「今、のび太と言ったね?」
「え…あ、はい…」
「あ、このやろ!のび太に手を出す気か!?」
 ジャイアンがクウラに殴りかかろうとする。体を張ってそれを止める、スネ夫とドラえもん。すると、ク
ウラが驚くべき事を口にした。
「キー坊って宇宙人を知っているか?」
「き、キー坊!?」
 懐かしい響きである。かつて裏山でのび太が助けた苗木、キー坊。地球の自然破壊に憤った植物星人が、
地球の全植物を奪い去ろうとした時、人間の弁護をしてくれたキー坊。地球を救った後は、植物星に行った
はずだった。そして、この宇宙人はキー坊の事を知っている。
「キー坊は僕の友達みたいなもんです。知ってるんですか!?」
「知っている。生きていたようだな…命の恩人とやらは」
「元気ですか?キー坊は…」
「勿論だ。彼は優秀な男だよ、私も幾度も助けられた」
 それを聞き、安堵の表情を浮かべるのび太とドラえもん。キー坊は元気でいる、それだけで充分である。
それを見ていたジャイアンも、何となく感付いた。クウラは悪者では無い、と。ここで事態はひと段落。地
上のメンバーの視線は、一斉に上へと向かう。
「ヤムチャ様〜頑張って下さい〜!!」
 必死に声援を送るプーアル。その応援は、上空のヤムチャに届くのであろうか。

 

717 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/31 22:19 ID:???
>>551
 上空での戦いはほぼ互角。攻撃パターンは単純だが、戦闘力で勝るフリーザ。戦闘力は劣るが、多彩な技
でそれを補うヤムチャ。一種の膠着状態と言えた。
 フリーザがエネルギー弾を連続で繰り出す。凄まじい数で、とても全ては避け切れない。六割を避け、三
割はガードし、残りの一割はまともに喰らってしまった。対するヤムチャ、左右の手から二つの操気弾を出
す。ジグザクに軌道を操作し、フリーザの目を翻弄する。そして、一つをいきなりフリーザへ向かわせた。
「バカめ、それでフェイントのつもりか!」
 フリーザは素早くエネルギー弾を出し、操気弾を相殺する。だが、それに気を取られたため、もう一つの
操気弾を見失ってしまった。
「ちぃっ!もう一つはどこだ!?」
「頭上がお留守だぜ!」
 そのヤムチャの言葉に、思わず上を向くフリーザ。すると、下から操気弾がフリーザの顎を直撃した。
「がはァ!!」
「まだ終わってないぞ!」
 フリーザの上へ昇った操気弾は今度は急降下し、フリーザの顔面を捉えた。操気弾の二連撃、流石のフリー
ザも効いたようだ。だが、ヤムチャも息が上がり始めている。フリーザから受けたダメージもあるが、やは
りクウラから気を受け取ったため、体に負担がきているのだ。
「どうした、随分息が上がっているぞ?」
「ハハ…少し疲れただけだ。まだまだ勝負はこれからだぜ!」
「当たり前だ。貴様は死ぬしかないんだ。…このフリーザの手によってな!!」
 叫んだと同時に、フリーザが突撃してきた。てっきり頭突きを仕掛けると思いきや、フリーザは急停止。
口から無数のエネルギー弾を浴びせかける。ヤムチャは、ほぼ全弾喰らってしまった。そして、ガードを固
めているヤムチャの後ろへ回り込み、背骨を狙った強烈な頭突き。
「………ガハァ!!」
 何とか身をよじり背骨への直撃はさけるも、大ダメージを負ってしまった。ヤムチャの顔が苦痛で歪む。
すると、再びヤムチャの脳裏に蘇ってきた。過去の二度の敗北が…。

718 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/31 22:19 ID:???
 必死に敗北の映像を振り払おうと、無我夢中でヤムチャが攻撃する。何の計算もされていない、ムチャク
チャな打撃。こんなものが通用するはずも無く、フリーザに軽々とかわされていく。
「何で…何で当たらないんだァ!!」
 ヤムチャの攻撃は速度を増していく。だが、全く当たらない。ヤムチャは完全に逆上してしまっている。
更に、無駄が多い動きのため、みるみるうちにスタミナも消費していく。今のヤムチャはフリーザと戦って
いるのでは無い。自分と戦っているのだ。フリーザに勝てない、俺は英雄になれない、と心の中で思い始め
ている自分と、必死に戦っているである。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!」
 攻撃はどんどん大振りになっていく。己の弱さを必死に振り払おうとするヤムチャ。もがき、足掻き、苦
しんでいる。そして、とうとうそれも止んだ。
「ハァ…ハァ…くそぉ………!」
「急に攻撃が雑になったかと思えば…それも終わったようだ。最後の足掻きにしては、なかなか面白かった
よ。じゃあ、そろそろ死んでもらおうか」
 スタミナ切れを起こしたヤムチャ、もはや反撃する気力も無い。フリーザは大きく口を開け、エネルギー
を溜め始める。ここで決めるつもりだ。

 敗色濃厚のヤムチャを見て、地上のメンバーも焦りを隠し切れない。
「ドラえもん、助けに行こうぜ!!」
「ヤムチャさんが殺されちゃうよ!」
 子供達の意見を聞き、ドラえもんもうなずく。再び四次元ポケットからタケコプターを出そうとする。全
員でフリーザに立ち向かえば、何とかなるかもしれない。だが、クウラがドラえもんの手を止める。
「殺されに行くようなものだ!」
「で、でも…」
「ここは、やはり私が行く。私がフリーザにダメージを与え、彼にトドメを刺してもらえばいいのだからな」
 クウラの名案だった。だが、そのクウラの腕に感触が生じた。

 

719 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/31 22:19 ID:???
「お願いします!ヤムチャ様の邪魔をしないで下さい!!」
 プーアルだった。クウラの腕にしがみ付き、必死に押さえようとしている。
「な、何故だ…。彼は今、殺されかけようとしているのだぞ!?」
「ヤムチャ様は、今必死に戦っているんです!自分自身と…」
「自分と………?」
「僕には分かるんです。ヤムチャ様が、誰と戦っているのか…。今、貴方が助けに入ってしまったら、きっ
とヤムチャ様は本当に負けてしまいます。だから…だから………!」
 涙ながらの必死の説得に、流石のクウラも迫力負けした。プーアルを優しく手から引き離す。そして一息
ついてから、微笑んだ。
「すまなかった…。私は、またも何も分かっていなかったようだな」
「あ、あ…ありがとうございます!!」

 フリーザの口には、ヤムチャを消滅させるに十分なエネルギーが溜まっている。もはや、撃つだけである。
撃たれたが最期、ヤムチャの死は確定する。
 俺は勝てないのか。俺は英雄になれないのか。ヤムチャは葛藤していた。自分のせいでフリーザを蘇らせ、
子供達を無駄に期待させ、自分より遥かに強いクウラに暴言を吐いた。ろくな事をしていないでは無いか。
意識の中で、ヤムチャはプーアルに尋ねる。俺は一体何なのだろう。おそらく、プーアルはこう答えるに違
いない。“ヤムチャ様は、ヤムチャ様ですよ…”
 ヤムチャは英雄なんかではない。ヤムチャはヤムチャなのだ、何を気負う必要があろうか。武術とルック
スには自信があって、心根はどこか情けなく、失敗を繰り返してばかりだが、沢山の仲間がいる。どこにで
もいる、ただの人間である。ただのヤムチャである。
「こんなつまらない事でいちいち悩んで…ホント情けないな、俺は」
「独り言か?まぁいい、消えろ!!!」
「俺はヤムチャだ──────────!!!」
 空に閃光が奔った。

 

790 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/01 23:12 ID:???
>>732
 フリーザの口から放たれた、極太のエネルギー波。間一髪、ヤムチャはそれをかわす。だが、かすったた
め、シャツはボロボロになってしまった。戦いの邪魔になるため、ヤムチャはシャツを颯爽と脱ぎ捨てる。
「こっからが本番だぜ…フリーザ」
 両拳を握り、精神統一するヤムチャ。目をつぶり、ゆっくりと深呼吸をする。そして、カッと目を開き、
一気に気を開放する。先程までは気に使われていた感のあるヤムチャだが、今は完全に気をコントロールし
ている。迷いを吹っ切ったためであろうか。
「はああ………操気弾!!」
 ヤムチャの掌から、エネルギーの球体が生み出される。しかし、その直径は先程より明らかに小さい。せ
いぜい五センチ程度である。
「行くぜ!!」
 操気弾はまっすぐフリーザへと向かっていく。余りにバカ正直な攻撃にもかかわらず、フリーザは微動だ
にしない。当たってやろう、と言わんばかりである。そして、そのまま直撃を受けた。
「………ぐおッ!?」
 操気弾を顔面に受け、のけぞるフリーザ。綺麗に鼻へとヒットしたため、鼻血が出ている。
「バカな…あの程度の大きさで、何故こんな威力が!?」
「やはり、お前は大きさでしかエネルギー弾を見ていないな…」
 確かに、今のヤムチャの操気弾は小さい。だが、そのエネルギー濃度は先程より遥かに高いのだ。長年の
修行で、気のコントロールを完璧にこなせるヤムチャだからこそ出来る芸当である。フリーザには、操気弾
に凝縮されたエネルギー量を見切る事が出来なかったのだ。
 ヤムチャの攻撃は止まらない。操気弾を自在に操り、フリーザの頭、肩、胸、背中と次々とダメージを与
えていく。小さいため、フリーザもなかなか捉えられない。そしてようやく、眼力で操気弾を爆破した。
「ふぅ…」
 フリーザが一息ついたその時、ヤムチャが一瞬で間合いを詰める。強烈な肘を入れ、回し蹴りの追い討ち。
たまらずフリーザは奇声を発しながら、十数メートル吹き飛んだ。何とか体勢を立て直す。
「ちくしょう………こんなクズに!!」

 

 

791 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/01 23:14 ID:???
 頭から突っ込んでくるフリーザ。しかし、ヤムチャはそれを受け止め、フリーザの頭を両手で掴む。そし
て、顔面に膝蹴りを連発する。慌てて、ヤムチャと距離を取るフリーザ。鼻血の量が増している。
「ぐ…くくっ!」
 手が無いため、血を拭う事も出来ない。垂れ流すしかない己の血を見て、怒りに震えるフリーザ。まさか、
ここまで苦戦するとは…。などと考えていると、ヤムチャの嵐のような連打が飛んできた。先程とは別人の
ような、正確無比な打撃。防ぎようが無い。またもや、逃げるように距離を取るフリーザ。ヤムチャも深追
いはしない。
「宇宙の帝王ともあろうものが、慎重じゃないか」
「減らず口はそこまでだ!!」
 またも、頭から突っ込んでくるフリーザ。だが、今回は様子が違った。きりもみ回転しながら迫ってくる
のだ。高速突進に加え、高速回転。これでは、受け止める事は不可能だ。
「ちぃっ!考えやがったな!!」
 何とかかわすも、すぐさまフリーザは軌道修正し、ヤムチャへと向かってくる。スピードはあちらが上、
いつかは避け切れなくなるだろう。ここは先手必勝しかないと、ヤムチャは操気弾を出した。
「これを喰らえッ!!」
 操気弾は、ドリルと化したフリーザを捉える。だが、操気弾はフリーザの回転にはじかれてしまった。
「う、ウソだろ…?」
「少々見た目は悪いが、この俺を止める術は無いぞ!!」
 操気弾をはじかれ、呆然とするヤムチャ。その腹部へ、フリーザの回転頭突きがえぐり込むように決まっ
てしまった。肋骨の折れる音が響く。
「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」
 叫びながら、吹き飛ばされるヤムチャ。轟音を立てながら墜落し、数十軒の家屋が破壊された。火を見る
より明らか、ヤムチャは死んだに違いない。
「フハハハハ!手こずらせてくれたが…宇宙一である俺の敵では無かった!!」
 ヤムチャを倒したフリーザ。後はドラえもんを手に入れるのみ、である。

 

792 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/01 23:16 ID:???
 勝利者フリーザ、ゆっくりと地上へ降りてくる。徒競走で一等を取った子供のような満足感、金メダルを
取って祖国へと凱旋する選手のような達成感、薄汚い手段で他人を蹴落とした鬼畜のような優越感、全てを
混ぜ合わせたような笑顔。不気味だが、何とも嬉しそうな笑顔だ。
 クウラは子供達に、自分の後ろへ行くように促す。子供達は全員それに従う。
「さて、ドラエモンを頂こうか。それとも、またクウラが戦うのかな…?」
「ち………!」
「確かに実力では兄さんが上だろうね。でも、お前には僕を殺せない。僕はガキであろうと、女であろうと、
部下であろうと、家族であろうと、容赦なく殺す事が出来る。これこそが、帝王なんだよ…!」
 それを聞いて、クウラが吐き捨てるように答える。
「…それが帝王か。随分と、安っぽいんだな帝王ってのは。お前にはお似合いの称号だ、フリーザ」
「何だと!?」
「それに………彼はまだ死んではいない!!」
 クウラの声と同時に、ヤムチャが飛び込んできた。渾身の拳がフリーザの頬を直撃する。驚き、再び空中
へ逃げるフリーザ。それを追うヤムチャ。

 ヤムチャの生存を知り、歓喜する子供達。プーアルなどは、もはや号泣している。彼らはヤムチャの勝ち
を疑ってはいない。
「良かった…二度とママに会えないかと思ったよ」
「やっぱり、タイムテレビにも結末が映らない…」
「みんな、もっと応援しましょうよ!」
「よし、俺がジャイアンメドレーでヤムチャさんをサポートするぜ!!」
「いや、それは止めようよジャイアン…」
「ヤムチャ様〜〜〜!ヤムチャ様〜〜〜〜〜!!」
 しかし、そんなムードの中、クウラは一人暗い顔をしている。
「いざとなったら………あれしか無いか」

 

837 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/02 23:03 ID:???
>>805
 再び空中で睨み合う、ヤムチャとフリーザ。しかし、肋骨を折られたヤムチャのダメージは深刻だ。それ
でもヤムチャの眼光は鈍っていない。獲物を狙う狼の如く…。
「しつこい奴だねぇ…」
「まぁな、そんな簡単にはくたばらねぇよ」
 そう言いつつも、ヤムチャは右腹を押さえている。下手に動くと、折れた肋骨が内臓に突き刺さるかもし
れない。とは言え、動きを制限して勝てる相手ではないのは明白。自滅する前に、相手を倒す。ヤムチャに
残された道は、早期決着しかない。
 ヤムチャは狼牙風風拳の構え。舞空術でも、地上戦と同等の速度、精度、破壊力を得られるように改良さ
れた必殺技である。これで一気に畳み掛けるのが上策であろう。ところが、先手はフリーザに取られた。
「ゴミめ、もう一度味わえ!!」
 きりもみ回転での突進。この状態のフリーザには、全ての攻撃が通じない。打撃は勿論、飛び道具も回転
によって殺されてしまうのだ。
「またかよ…!もう一発喰らったら、まずいかもな…」
「さっきのでアバラが折れたろう?次はその頭をぶち割ってくれる!!」
 攻防一体のフリーザの突撃、回避し続けるヤムチャ。だが、動くたびに横っ腹が痛む。苦痛に耐えながら
飛び回るヤムチャ。悟空だったら参ったりしない…絶対に。どんな窮地でも、必ず何とかしてくれた孫悟空。
彼は同じ武道家として、尊敬に値する存在であった。
「俺は英雄と言うより、あいつになりたかっただけかもな…」
「何をゴチャゴチャ言っている?死ねぇ!!」
 徐々にではあるが、フリーザの突撃がかすり始めてきた。無論、かすった箇所は肉をえぐられてしまう。
確実に追い詰められているのだ。
 フリーザが目を回すまで待つか、いや宇宙の帝王がそこまでマヌケなはずが無い。回転の中心を叩くか、
いや一ミリでもずれれば逆にこっちが危険だ。
「くそぉ…どうすりゃいいんだ!」
 回転する物体に効果的なダメージを与える方法、何か無いものか。思わず天を仰ぐヤムチャ。

 

838 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/02 23:04 ID:???
「そうだ!」
 ヤムチャは急に更に上空へと急上昇していった。雲をいくつも超え、ちょっとした絶景を眺められる高
度に達する。そして、両手両足を広げ、ある場所で静止した。
 下からは、フリーザが猛スピードで追ってくる。その姿は、ホーミングミサイルさながらである。だが、
ヤムチャは動かない。真っ直ぐフリーザが向かってくる。だが、ヤムチャは動かない。まともに喰らえば
確実に死ぬ。だが、ヤムチャは動かない。
「諦めたか!?木っ端微塵にしてやるぞ!!」
 ヤムチャが動いた。彼の背後に隠れていたのは、夏の真昼間に輝く太陽であった。一気に太陽光が目に
入り、ひるむフリーザ。当然、回転も突撃も一時中断せざるを得ない。
「ぐわっ………!」
「天然の太陽拳ってヤツだ!行くぜ、狼牙風風拳!!」
 回転する物体にダメージを与える必要は無い。回転を止めてやればいいのだ。太陽拳を使えぬヤムチャ
は、“本物”を味方につけるしか無かった。
 そして、必殺の狼牙風風拳。これまでのお返しとばかりに、マシンガンのように連打を叩き込む。フリー
ザには反撃の暇すら無い。激しい動きのため肋骨は痛むが、構っていられるものか。これが最初で最後の
チャンスかもしれないのだから。
 ひらすら打ち続けるヤムチャ。もう自分でも、幾ら拳を放ったかなど分からない。しかし、止めるわけ
にはいかない。これだけの打撃を浴びたフリーザのプライドはボロボロのはずだ。ここで仕留めなければ、
確実にこいつは何かやる。かめはめ波を跳ね返した天津飯、死ぬ間際に卵を吐き出したピッコロ、自分と
自爆したサイバイマン、何が起こるか分からないのが戦いなのだ。一寸先は闇。それはヤムチャ自身、よ
く分かっていた。そして、それは起こってしまった。
「これで決める─────!?」
 フリーザの両目から、光線が撃ち出された。攻撃に集中していたヤムチャだが、戦闘力がアップした分
反射神経も上がっており、何とか避ける事が出来た。もっとも、フリーザは逃がしてしまったが。
「まさか、目からも光線を出せるとはな…。やられたぜ」

 

839 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/02 23:04 ID:???
 ヤムチャの狼牙風風拳から抜け出したフリーザ。予想通り、彼のプライドはズタボロになっている。
「ハァ……ハァ……よ、よくも……!!」
 思わぬ手で逆襲され、相当のダメージを負ったフリーザ。この屈辱を晴らすには、今目の前にいる男、
ヤムチャを殺すしか無い。しかも、自分の手で。
「殺してやる!この宇宙一のフリーザに、こんな……醜態を……!!」
 この手の怒りは非常にまずい。先程までは、自分の目的を妨げる者に対しての怒りだった。つまり、ヤ
ムチャやクウラ、ドラえもん達に向けられたものだ。しかし今は違う、自分への怒りも混ざっている。こ
の怒りは、自分でも制御出来ないという点が厄介だ。怒りを発散するためなら、何でもするだろう。そう、
この地球の破壊など容易く…。
「ど、ドラえもんは俺の物だ!お前にはやらねぇよ!!」
 咄嗟に出た言葉がこれだった。フリーザはドラえもんを手に入れるまで、無茶な真似をしないはず。怒
りを静めさせなければ、この星自体が危ないのだ。
「そうか…ドラエモンがあるんだった。危うく、この星ごと消し飛ばすところだったよ…」
 ヤムチャの企みは成功したようだ。敵にまで気をかけなくてはならないとは、改めて“守り”の難しさ
を実感した。
「だが、お前は殺すよ。下等生物相手に、この技を使う事になるとはな…!」
 フリーザが気を込める。すると、エネルギーがフリーザの全身を包み始めたのだ。バリアのようにも見
える。これが、フリーザ最高の技なのであろうか。ならば、最高には最高で答えるのが一番である。
 かめはめ波、これしか無い。亀仙人が編み出したこの技は、エネルギー効率が非常に良い。戦闘力で劣
る自分にも、フリーザに押し勝てる可能性は充分にある。
「か………め………は………め………」
 フリーザはあのまま突進してくるに違いない。全力で迎撃せねば、やられる。ヤムチャは自分の重ね合
わせた両手に、かつて無いパワーが溜まっているのを感じた。
「死ねえぇぇ──────────!!!」
「波──────────ッ!!!」

 

911 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/04 01:34 ID:???
>>852
 エネルギーを纏ったフリーザ、エネルギー弾と化したフリーザの猛突進である。ヤムチャも巨大なかめ
はめ波をお見舞いする。一瞬、自分でも感心する程の大きさであった。両者は激突した。
「ぬおおおぉぉぉ………!」
「くっ…これが…フリーザ最高の技………!」
 全くの互角。この勝負、先に気を緩めた方が敗北する。

 一方、地上の面々は祈るしか無かった。雲の上に昇ってしまったため、クウラの視力でも肉眼では見る
事が出来ない。だが気を読めるため、お互いが最高の技で激突している事は分かる。
「二人共、かなりの戦闘力を消費している………この激突で全ては決まる!」
 双方のエネルギーの激突により、地面が揺れ始める。大気も、まるで早送りをしているかのような速度
で流れていく。子供達はお互いに身を寄せ合って、その恐怖に耐えている。これが、宇宙最高レベルの決
戦なのである。

 上空ではヤムチャとフリーザが張り合ってから、五分以上が経っていた。ヤムチャの両腕の血管が、ひ
び割れたように浮き出ている。折れた肋骨も痛む。早期決着どころか、これでは長期戦にもなりかねない。
やはりフリーザ、一筋縄でいく相手ではない。
「このままじゃあ…俺の身体が持たない………!」
 気づかぬうちに、ヤムチャは弱気になっていた。すると、フリーザがかめはめ波を押し始めたのである。
ヤムチャもそれには気づいていた。が、一度芽生えた“弱気”というものは、なかなか消す事が出来ない。
精神の乱れのせいで、気のコントロールもおぼつか無くなってくる。かめはめ波をピークのまま、維持出
来なくなっているのだ。
「くそっ!こんな気分のままじゃまずい!!」
 焦りが、ヤムチャの心に芽生え始めた。フリーザが迫ってくるのが分かる。
「や、やばい………死ぬかも………」
 諦めが、ヤムチャの心に芽生え始めた。フリーザがますます迫ってくるのが分かる。

 

912 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/04 01:36 ID:???
 子供達に勇気をもらい、クウラに力をもらい、プーアルに迷いを断ち切ってもらった。だが、やはりフ
リーザは強すぎる。一週間前までは、アパートで堕落した毎日を送っていたヤムチャ。勝負を決する大事
な場面で、巨大な力を前にして怖気づいてしまったのだ。
「びびるな!この戦いは俺だけのものじゃないんだ!!」
 自分を諌め、必死に発奮しようとする。しかし、そうしている間にも、心には次々と負の感情が芽生え
てしまう。身体と精神が一致しなければ、100%の力は出せない。底無しの泥沼へと、ヤムチャは引き
ずり込まれてゆく………。

 重々しい面持ちで、空中を睨み続けるクウラ。そこへ、顔色を伺いながら静香が尋ねた。
「フリーザのお兄さん、ヤムチャさんはどうでしょうか?」
「押されている…。このままでは、まずいかもしれん」
「そうですか………」
 何も出来ない己の非力に、歯がゆさを感じる静香。いくら声を出したところで、上空のヤムチャには届
くはずも無い。かと言って、ドラえもんの道具で割り込めるような戦いではないのだ。
「ドラちゃん、私達の声を届かせる道具ってある?」
「え?あったかなぁ………」
「コエカタマリンを使うってのはどう?」
 スネ夫の提案だった。学校の成績は中の上だが、こういう事にはやたらに頭が回る男である。早速、ド
ラえもんがポケットからそれを出す。
「コエカタマリ〜ン!」
 この道具は液状の薬品で、これを飲むと喋った文字が固まりとなって出てくるという代物である。ちな
みに、出てくる言葉は全部カタカナだ。この物体は、乗り物にしたり、時には敵にぶつけて武器としても
使えるのだ。
「みんなで飲んで、ヤムチャさんを応援しようぜ!!」
 一斉にコエカタマリンを飲む子供達。準備完了。応援の開始である。

 

913 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/04 01:38 ID:???
「ヤムチャさん、頑張ってー!!」
「ヤムチャ様〜!!」
「ファイト!!」
 次々と空へ向かって叫びだす子供達。それにつれ、カタカナの固まりが弾丸のように飛んでいく。その
異様な光景を、クウラは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で見つめていた。

 そして、上空で堪えているヤムチャにも、その固まりが視界に入ってくる。“ーテッバンガンサャチム
ヤ”“〜マサャチムヤ”“トイァフ”という具合に、意味不明な物体が矢継ぎ早に横切ってゆく。空へ飛
ばすのだから、逆さ言葉で言わなければならなかったのだ。
「な、何あれ……?」
 最初は訳が分からなかったヤムチャだが、子供達の叫びは天空を駆ける狼に届いた。
「きっとあいつらだな…。よく分からないが、ありがとよ!!」
 元気付けられたヤムチャ。芽生えた負の感情も消し飛び、一気にヤムチャのかめはめ波が盛り返した。
「まだ力が残っていただと!?おのれぇ…!」
 このまま押し合っていれば、エネルギーの絶対量の差でフリーザに勝つ事は出来ない。もはや手段はた
だ一つ。一瞬で、自分に残っている気を全てかめはめ波に込める。このまま粘っていても勝てぬのなら、
一瞬の勝負に全てを賭ける。イチかバチか、やるしかない。
「俺に残ってるパワーを全部………焼き尽くす!!」
「う…うわっ!?」
「これで終わりだァ──────────!!!」
 かめはめ波が、完全にフリーザを呑み込んだ。手足を持たぬフリーザは、防ぎようが無い。
「うちゅ……いちの……俺が………」
 かめはめ波はそのまま空の彼方まで飛び去った。その光景は、さながら地球から出発する流星であろう
か。ヤムチャは震える両手を、精一杯握り締めた。
「か、勝った………!」

 

118 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/05 01:00 ID:???
前スレ>>926の続き
 両腕の感覚は痛みを通り越し、麻痺してしまっている。だが、心は不思議と落ち着いていた。もっとこ
うしていたい。もっとこの感覚を味わっていたい。ヤムチャには、もう飛ぶ力すら残っていなかった。
「俺はフリーザに勝ったんだ………」

 恍惚に満ちた表情で落ちてくるヤムチャ。すかさず、クウラが飛んでいってキャッチする。
「よくやった…。正直、もうダメかと思ったぞ」
「へへ…ありがとう」
 そして、地上に降り立ったヤムチャに、歓喜の余り子供達が飛び掛る。特に体重129.3キロを誇る
ドラえもんは、トドメにもなりかねなかった。
「おいおい、せっかくフリーザを倒したのに殺す気かよ」
 皆が笑った。ヤムチャが笑い、プーアルが笑い、ドラえもんが笑い、のび太が笑い、ジャイアンが笑い、
スネ夫が笑い、静香が笑い、クウラが笑った。今はこれで充分である。死闘の事を振り返る事など、いつ
でも出来る。だが勝利によって得たこの気分、これは今ここでしか味わう事は出来ないのだから。

 裏山で一部始終を眺めていたフリーザ軍兵士達。最後の希望であったフリーザも敗れ、もう抵抗する気
力すら残っていなかった。自分達が乗ってきた王族専用宇宙船へと一目散に乗り込んでゆく。
「フリーザ様まで倒されるとは…もう終わりだ!」
「早く出発しろぉ!!」
「急げ、俺達まで殺されちまうぜ!」
 着地した時のように、轟音を立てながら離陸する宇宙船。そして、あっという間に空の彼方へ飛び去っ
ていった。

 その気になれば撃墜する事も出来たが、ヤムチャもクウラも敢えてそれはしなかった。もう奴らには何
も出来まい。何より、この愉快な雰囲気を壊したくなかったのだ。こうしてフリーザ軍も逃げ去り、地球
側の完全勝利で幕を降りた。

 

119 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/05 01:00 ID:???
 力を使い果たしたヤムチャも、無事ドラえもんの道具で回復した。だが、クウラにもらった気までは回
復しなかったようだ。ようするに、弱くなってしまったのだ。もっともフリーザを倒した今となっては、
戦闘力など必要無いのだが。
「では…私はそろそろ帰るよ」
「あれ?もっとゆっくりしていけばいいのに…」
「これでも一軍の長なのでね、君達は本当に素晴らしかった。さらばだ」
 案外そっけないクウラの態度。途中から参加した彼にとっては、他のメンバーに絆など感じていないの
かもしれない。簡単な挨拶の後、クウラは上空へ飛んでいってしまった。

「飛んでっちゃいましたね、エアコンさん」
 のび太がわざとなのか天然なのか、判別しにくいボケをかます。別に名残惜しさは無い。彼らにとって、
クウラは“突然現れた助っ人”でしかなかったのだから。
「まあ、彼がいなきゃ全員死んでいた。素直に感謝しよう」
 ヤムチャの言葉。結局よく分からなかったクウラの真意、今となっては知る術も無い。だがその時、ジャ
イアンが気になる事を呟いた。
「あの扇風機さん…だっけ。最初来た時はいきなり現れなかったか?」

 舞台は移り、地球の大気圏外。巨大な宇宙船が大爆発を起こしている。そして、そのまま消滅。宇宙船
を消し飛ばした張本人は、ヤムチャに敗れたはずのフリーザであった。
「この僕の部下に、逃げ出すような臆病者は必要無い」
 かめはめ波では倒す事が出来なかったのだ。逃亡を企てた愚かな部下共に、冷酷な制裁を与える帝王。
だが、その邪悪な気を見逃さなかった男、クウラがやって来た。
「フリーザ…お前は負けたんだ。素直に引き返す気はないか?」
「ククク…お前か。僕は負けてなんかいないさ、クズ相手に油断しただけだよ」
「………ならば、今度こそ引導を渡してやろう!」

 

120 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/05 01:01 ID:???
「お優しい兄上に、僕は殺せないだろ。それで、どうやって僕を倒すのかな?」
 クウラは無言でフリーザを抱き締めた。凄まじい腕力、手足の無いフリーザはどうする事も出来ない。そ
してそのまま、クウラはある方向へ向かって飛んでゆく。その方向にあるのは、太陽。
「ま、まさか!僕と恒星に突っ込むつもりか!?」
「…これなら、お前を殺す罪悪感に囚われる事もない。何しろ、俺も死ぬのだからな!」
 宇宙の兄弟は、一直線に太陽へと突き進んでいく─────

 地上では、壊れた家々を直すドラえもん達の姿があった。復元光線を使い、丁寧に直していく。この作業
が終わるまでは、どくさいスイッチで消した人々を元に戻すわけにはいかない。
「あ〜疲れた。のび太君、ちゃんと作業してよ!」
「いいじゃない、フリーザを倒したんだから…。僕も出木杉に勝ったし…」
 のび太はすっかりだらけている。いや、この方がのび太らしいと言うべきか。呆れたドラえもんはヤムチャ
の元へ向かう。この後どうするか聞くためだ。すると、当のヤムチャは汗をかきながら震えている。
「ど、どうしたんです?顔が青ざめてますよ、僕も青いけど…」
「俺は何てバカだったんだ!死んでなかったなんて…!あの人は一人気づいてフリーザを倒しに………!!」
「え、え、え………?」
「ドラえもん、宇宙でも生きていられるように出来る道具はあるか!?」
「テキオー灯がありますけど…」
「それを俺に使ってくれ、早く!くそっ、死ぬなよクウラ!!」

 その頃、クウラとフリーザは太陽へと突撃していた。表面ですら六千度を超すという、太陽の熱。いかに
強靭な肉体を持つフリーザと言えど、無事では済まないはず。はずなのだが…。
「何故だ、フリーザ!何故、平然としていられるのだ…」
「僕はパパ達に救われた際、改造されたのさ。この程度の温度なら耐えられるようにね、フハハハハ!!!」
「………すまん、みんな………わ、私はバカだった………………!」

 

229 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/06 02:04 ID:???
>>120
 灼熱の業火が絶えず行き来する地獄の如き天体、太陽。クウラの命を賭した作戦は、フリーザの前には全
くの無意味であった。生身の肉体では呼吸をするだけで、肺が焼け付く。
「さて、僕はドラエモンを手に入れに行くよ。耐えられるけど、やっぱり熱いんでね」
「ま、待て…フリーザ………!」
「犬死にだったねぇ、クウラ。君らしい無様な最期だったよ」
「頼む…これ以上─────」
 その瞬間、巨大なプロミネンスがクウラに覆い被さった。炎の中でも何やら叫んでいるが、喉が焼けたの
か声になっていない。そんな兄の姿には目もくれず、フリーザは地球への方角を見定めるのであった。
「今度こそ、不老不死の夢を叶えてやる!」

 地球でも事態は進展していた。テキオー灯を浴びたヤムチャが、今まさに地上を飛び立とうとしていたの
である。だが、時既に遅し。思った以上に早く、クウラの気とフリーザの気は太陽へ突入してしまった。
「間に合わなかったか…!」
 膝から崩れ落ち、頭を垂れるヤムチャ。勝利に酔い、敵の生存に気づかなかった愚かさ。クウラを失った
悔しさ。握った拳からは血が滲み出ている。
「もう一回、クウラが俺に気を渡すだけでフリーザは確実に倒せたんだ!でも、勝ったつもりになって喜ん
でる俺を見て、あの人はそれをしなかったんだ…」
 そのヤムチャの迫力に、子供達は勿論、長年付き合ったプーアルですら声一つ出せない。生半可な励まし
など逆効果だ。今はそうっとしておいた方が良い、そう判断したのである。だがそんなヤムチャに、更に追
い討ちをかけるような事実が明らかになった。フリーザは生きている。太陽から脱出し、地球へ猛スピード
で向かっているのだ。
「フリーザが…こっちへ来ている!」
 てっきり、クウラと共に太陽で果てたと思っていた。今の俺では勝てるわけが無い。満足に戦えるかどう
かすら厳しいかもしれない。しかし、俺はヤムチャだ。ここで逃げたらヤムチャがすたる。
「みんな、ここで待っていてくれ。俺はフリーザを討つ!!」

 

230 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/06 02:05 ID:???
 そう言い残し、ヤムチャは飛び去ってしまった。その飛行速度はジェット機を軽く超えていた。雲を幾つ
も超え、空気も薄くなっていく。間もなく大気圏を脱出しようという時、それは現れた。フリーザだ。
「もう、ここまで来ていたのか…!」
「おやおや、先程はどうも…。宇宙へ旅させてくれたお礼がしたかったのですよ…」
 フリーザが目に力を込める。すると、弾けたようにヤムチャが吹き飛ばされた。額からは血が噴き出して
いる。ダメージこそ負っているものの、やはり戦力差は歴然。眼力だけでもこの威力なのだ。
「フフフ…痛いでしょう?だが、俺はもっと痛かったんだぞォ─────!!!」
 フリーザが連続で眼力を使う。その度に、高速の衝撃波がヤムチャの身体を蝕んでゆく。ガードしても、
ガードした箇所に衝撃波が突き刺さるため防ぎようが無い。体を丸め、必死で耐えるヤムチャ。もうどうし
ようも無いのだ。やがて、眼力の嵐も終了する。無論、フリーザがヤムチャを許したからではない。
「もうボロボロだな…しかし俺は許さんぞ。貴様は粉々になって死ぬんだ!!」
 口を大きく開け、エネルギーを溜め始めるフリーザ。今のヤムチャでは、フリーザの口が光ったと思った
ら死んでいるに違いない。自分が死んだ事にも気づかずに…。
「やるなら早くやってくれよ。俺も暇じゃないんでね」
「いいだろう、望み通り─────ぎゃッ!?」
 熱線がフリーザの右目を直撃していた。焼けるような激痛に、苦しみ悶えるフリーザ。ヤムチャが下を向
くと、そこには地上にいるはずのプーアルや子供達がいた。熱線を放ったのは、勿論のび太。タケコプター
で飛んで来たのだ。
「僕達も戦います!ヤムチャさん!!」

 最初は追い返そうと思ったヤムチャだが、のび太達の目を見て悟った。この子達は本気だ。
「…分かった。こうなったら、最後まで一緒に戦おう」
「ぼ、僕達に出来る事があったら、何でも言って下さい」
「オーケー、絶対に勝とうぜ!」
 ヤムチャはまだ諦めてはいなかった。対フリーザ最終戦、開始。

 

231 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/06 02:07 ID:???
「とてもじゃないが、俺の気ではフリーザを倒せない。奴を倒すには、元気玉しかない」
「何ですか、それ?」
「この地球上にいる全ての生命から“元気”をもらって攻撃する技だ」
 思わず感嘆の声を上げるのび太達。この技ならば、勝てるかもしれない。ただし、一つだけ問題があった。
「俺はこの技の原理はしっているが…使えないんだ」
「えぇっ!?じゃあ、ダメじゃないですか…」
「そこでドラえもんに頼みがある…“使えない技が使えるようになる道具”とかって無いか?」
 すっかりドラえもんの味をしめてしまったヤムチャ。と言うより、これではのび太と大して変わらない。
まあ、これしか方法は無いから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「オモイコミ〜ン!」
 オモイコミン。錠剤だが、その名の通り、これを飲むと自分の思い込みが現実になるのだ。これを飲んだ
ヤムチャが、「俺は元気玉を使える」と思い込めば、使えるようになるかもしれない。しかし、この道具も
所詮は平和な未来で精製されたもの。どこまで効果があるのかは不明だ。とにかく、それを一錠もらって飲
み込むヤムチャ。心の中で、元気玉を使えるように念じ始める。

 必死に思い込みながら、生命達に語りかけるヤムチャ。知らない人が見たら変人に思われかねない。
「この地球上の全ての命よ………俺に元気を分けてくれ!!」
 何も起こらない。やはりダメか、そう思った瞬間だった。ヤムチャの手に、少しずつではあるがパワーが
集まりつつあるのだ。このまま集めれば、弱ってるフリーザならば倒せるかもしれない。
 だが、フリーザとてこのまま黙っているわけがない。左目を撃たれたフリーザが、ようやく体勢を整えた
のだ。如何なる攻撃にも屈しない肉体、やはり目だけは別物だったようだ。
「ヤムチャ様、どのくらいで出来ますか?」
「急いでも五分はかかる………」
 ヤムチャは戦いに参加出来ない。ドラえもん、のび太、ジャイアン、スネ夫、静香、プーアル、この六人
だけでフリーザと戦わねばならないのだ。宇宙一長い、地獄の五分間が幕を開けた─────

 

546 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/07 01:12 ID:???
>>231
 五分間、長いだろうか短いだろうか。誰かを待つ時の五分は長い、試験終了前の五分は非常に短い。これ
は人それぞれだろうが、五分というのは奥深い時間である。そして今、高度八十キロ地点にて、最長最悪の
五分間に挑む六人の戦士がいた。
 ヤムチャを先頭に、彼をサポートする作戦は考えていたが、自分達が直接フリーザと戦う想定はしていな
かったドラえもん達。センスが問われる時だ。
「じゃあ、僕が変身したら一斉に攻めて下さい!」
 対峙するフリーザとプーアル。プーアルの心臓が破裂するのでは、と思われる程激しく揺れ動く。対する
フリーザは余裕の笑み。ヤムチャ以外は相手にならないと思っている。そのヤムチャも、先程圧倒したばか
りだ。つまり、もう負けは無い。
「悟空さんへ変化!」
 プーアルの姿形が、一瞬にして悟空そのものになった。特訓の成果か、どこから見ても紛れも無い悟空だ。
強さも変化出来れば最高だが、流石にそれを望むのは酷というものだろう。
「な、何故…貴様がここに!?」
「今だ!」
 最大の敵を前にして狼狽するフリーザ。その隙を突いて、のび太が熱線銃を放つ。再びフリーザの左目に
熱線が炸裂した。凄まじい悲鳴を上げる帝王、そこへパワー手袋装備のジャイアンが近付き、フリーザを渾
身の力でぶん投げる。回転しながら投げ飛ばされるフリーザ。
「おっしゃあ!スネ夫、しくじったら承知しねぇぞ!!」
「わ、分かってるよ!」
 コエカタマリンを飲み、フリーザへ向け叫びまくるスネ夫。音速のカタカナ弾丸が、フリーザ目掛け次々
と飛んでいく。最後は静香。ドラえもんから受け取った原子核破壊砲を、悲鳴を上げながら乱射する。大爆
発が起こった。女は強し、静香は強し、原子核破壊砲は強し、である。
「すごいよ、しずちゃん!」
「私ったら…とんでもない事しちゃったわ」
 将来、静香の婿になる予定ののび太。その光景を見て、背筋に冷たいものが走った。

 

548 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/07 01:16 ID:???
 煙の中には胸像のようなシルエットが映る。姿を現したのはフリーザ。秘密道具を駆使した連続攻撃を、
全く問題にしていない。
「クックック…悪あがきは終わりか?ガキ共………」
 多少はダメージを与えたと思ったドラえもん達。やはり甘かった、甘すぎた。
「ドラえもん!そろそろ、五分経ったろ!?」
「いや、まだ一分しか経ってないよ…」
 長すぎる。精神と時の部屋は、一日で一年を味わう事が出来る。今の彼らは一分で一年を過ごす心境だろ
う。一呼吸すらままならぬ状況、生きた心地がしない。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
 恐怖に負けたのび太が、熱線銃を乱発する。西部劇の悪党を倒し、一流の殺し屋にも通用した射撃、一発
も当たらない。これはのび太の腕前が未熟なわけではない。フリーザが凄過ぎるのだ。
「ぜ、全然…当たらない…!」
「ほっほっほ…思い知りましたか?宇宙の帝王に盾突いた愚かさを!!」
 一瞬にして、フリーザの威圧感が倍増する。スネ夫は失禁し、静香の瞳には涙が滲んでいる。あと三分強、
どうやって稼げばいい。ドラえもんは頭をフル回転して考える。
「そろそろ終わらせますかね、飽きましたし」
「フリーザ様!!」
 ドラえもんが叫んだ。ここは奴の軍門に下る振りをしてやり過ごすしかない。
「僕が仲間になれば…この星は見逃してくれるんですよね?」
「おや、物分りが良いですね…」
 ドラえもんの目は“安心して、ウソだから”と言っている。その極限状況でのアイ・コンタクトは完全に
通じ合った。のび太達は安心して、その様子を見守る。だが、これもやはり甘すぎた。
「ですが、貴方達はやりすぎたんですよ…。お前が俺の物になった程度で、許すと思ってるのか?」
 フリーザはのび太を睨みつける。すると、のび太は身体の自由がきかなくなった。指一つ動かせない。こ
れは恐らく超能力。かつてクリリンを葬ったあの惨劇を、眼力で再現しようとしているのだ。

 

549 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/07 01:19 ID:???
「か、体が動かない………!」
 泣きそうな声で異常を訴えるのび太。もう僕は死ぬんだ、助からないんだ。最後に断末魔のように叫ぶ。
「ドラえも〜〜〜〜〜ん!!!」

 だが、のび太は死ななかった。代わりに、地獄よりも恐ろしい歌声が響き渡る。ジャイアン最強メドレー、
今再びコンサートが開催される。入場料はピンチにつき無料。
「うおおおおぉぉぉ!!な、何だ………この耳障りな音はァ………!」
 明らかにフリーザは苦しんでいる。最大の好機が訪れた。ドラえもんはジャンボ・ガン、のび太は熱線銃、
スネ夫はコエカタマリン、静香は原子核破壊砲での一斉攻撃開始。余りの火力に、フリーザ周辺が太陽の如
く光り輝く。更に煙に巻かれ咳き込んでいるフリーザを、ハエ叩きに変身したプーアルが思い切りぶっ叩い
た。力無く落ちてゆく宇宙の帝王。今やハエと同じ扱いだ。
 それにしても、自分の命を救ってくれたジャイアンの歌。もし生き残る事が出来たなら、今度はちゃんと
リサイタル聞こうかな。そう思ったのび太であったが、一秒後やはり思い直す事にした。

 未来の秘密道具、いや秘密兵器の猛攻を受けたフリーザ。殆どダメージは無い。が、ここまで恥をかかさ
れるとは思わなかった。奴らには真の恐怖を味わわせねば気が済まない。
 フリーザのやや上空に位置する子供達。ドラえもんのジャンボ・ガンが、静香の原子核破壊砲が、のび太
の熱線銃が、次々に爆発を起こし破壊された。
「あぁっ!」
「きゃっ!!」
「え!?」
 驚く子供達、その様子を楽しそうに眺めるフリーザ。無論、彼の超能力である。まずは、未知なる力で相
手を屈服させる。そして一瞬で殺す。ガキ共は、自分に逆らった愚かさを悔いながら死んでゆくのだ。
「せめて、寂しくないよう全員一緒にバラバラにしてやろう…」
 だが次の瞬間、子供達は満面の笑みを浮かべていた。その理由はいたって単純、五分が経過したのである。

 

818 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/08 01:09 ID:???
>>549
 ヤムチャの右手には気が充実している。この地球上に存在する生命体、彼らから集められるだけの元気は
集めた。後は気をコントロールして、元気玉を生み出すだけである。
「はぁぁぁ………!」
 腕の中では放電現象のように、気が激しく弾けている。本来、ヤムチャでは持て余す程のパワー。コント
ロールは予想以上に困難であった。だが、このパワーならばフリーザにも通用する。全神経を右手に集中さ
せるヤムチャ。

 その様子を見て、焦り出すフリーザ。子供に手こずってる間に、ヤムチャは自分を脅かす程のエネルギー
を作り出していた。子供に構っている場合では無い。今すぐ、ヤムチャを始末せねば危険だ。
「ガキ共は時間稼ぎだったか…。だが、それも無駄に終わったようだ!!」
 一直線に無防備のヤムチャへと襲い掛かろうとするフリーザ。だが、その後頭部へ衝撃が走った。何事か
と後ろを振り返ると、そこにはスネ夫がいた。銃器類は破壊したが、コエカタマリンの効力はまだ残ってい
たのだ。
「ワ!ワ!ワ!ワ!ワ!」
 “ワ”が次々とフリーザにぶつかっていく。死人のような目つきで、泣きじゃくりながら絶叫するスネ夫。
そこに、嫌味で臆病なお坊ちゃんはいなかった。いるのは、一人の戦士だけ。
「とことんムカつく奴らだ!!」
 フリーザが眼力を使いスネ夫を粉砕しようとしたその時、またもや熱線がフリーザの左目にヒットした。
復元光線で、のび太の熱線銃を直したのである。
「ゆ、許さん………許さんぞォ─────!!!」
「フリーザ、こっちを見ろ!!」
 激怒するフリーザに危険を感じ、注意を引こうと呼び掛けたのはヤムチャ。

 ついに気のコントロールに成功したのだ。ヤムチャの掌から、生命力の塊“元気玉”が姿を現した。その
直径、驚く事にたったの五センチ。
「えぇぇぇ〜〜〜〜〜!?」

 

819 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/08 01:10 ID:???
 道具の力では、やはり完全な元気玉は無理だった。百の元気を集めて、十の元気玉しか出来なかったのだ。
ピンポン玉のような元気玉を見て、落胆の色を隠せないヤムチャ。
「確かに、今の俺が撃つかめはめ波よりは強いだろう…。しかし、これじゃあフリーザは倒せない!」
 子供達も直感した。これで全てが終わった…。皆殺しにされ、ドラえもんを連れ去られ、地球も破壊され
る。最悪のエンディングである。もっとも、一人にとっては最高のエンディングなのだが。
「ハッハッハッハ!それが貴様の切り札か!?」
 高笑いするフリーザ。長い戦いだったが、結局望み通りの結末となった。幾度も出し抜かれ、ハッタリを
かまされ、時には死に掛けた。だが、勝利の女神は帝王であるフリーザに微笑んだのだ。
 
「ハハ…やっぱり俺はダメだな」
 自虐的な笑みをこぼすヤムチャ。撃っても無駄と、手に出来た元気玉を消そうとする。すると突然、ヤム
チャの脳内に声が響いた。聞き覚えのある声だ。
『───諦めるのか?』
「こ、この声はクウラさん…!?」
『君に殴られた時、狼のような闘志を垣間見た。あれは、私の思い違いだったのか?』
「う、うう………!」
『フリーザを倒せるのは君だけだ、倒してくれ!!』
「はい!」
 奇跡か、幻聴か、この声の正体は分からない。だが、ヤムチャは元気玉を消すのを止めた。代わりに自分
の気を注ぎ込み、元気玉の直径は十センチ程になった。クウラは太陽にまで突っ込んだのだ。俺もそのくら
いしなきゃ、あの世で会った時に見せる顔が無い。
「だ─────ッ!!!」
 振り被って、運命の元気玉を投げた。せっかく作った宿題の工作を、出来が悪いからといって提出しない
人間はまずいない。もしかしたら倒せるかも…そんな期待もあった。ヤムチャ最後の攻撃がフリーザへと迫っ
てゆく。

 

820 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/08 01:11 ID:???
 まっすぐ元気玉を見定めるフリーザ。彼の勘が言っている、あのエネルギー弾に危険は無い。今の状態で
も、十分耐え得る威力だ。この最後の悪あがきを耐え抜いて殺す。待つのはハッピーエンドのみ。
「フハハハハ!これを堪え、お前らを殺し、不老不死を手に入れ、スーパーサイヤ人に復讐を果たすッ!!
やはり宇宙一は、このフリーザ様なのだ!!」
 その時、ドラえもんがポケットから懐中電灯を取り出した。スモールライトでもなければ、テキオー灯で
も無い。咄嗟の判断だった。
「ビッグライト〜!!」
 狙いは元気玉。フリーザの目の前で、急激に元気玉が膨れ上がる。十センチが一メートル、一メートルが
十メートル、十メートルが三十メートル。その巨大な塊があっという間にフリーザを飲み込んだ。
 溺れている子供のように、元気玉の中で苦しみもがくフリーザ。そして元気玉へ、ヤムチャがゆっくりと
掌を向ける。全てを終わらせるためである。
「俺がほんの少し気を込めれば、お前は元気玉と共に散る事になる」
「ま、ま、待て!」
「とんでもないアクシデントで蘇らせちまったが…いい経験が出来た、感謝してるぜ」
「助けてくれぇ……。もうお前達には手を出さない!!」
「ドラえもん、のび太君、ジャイアン君、スネ夫君、静香ちゃん、プーアル、そしてクウラ。この中の誰が
欠けていても………このシーンは出来上がらなかったろうな」
「や、止め…」
 ヤムチャはありったけの気を込めた。元気玉が激しくスパークを始め、中のフリーザごと弾け飛ぶ。
「ぐわあぁぁぁぁ──────────ッ!!!!!」

 辺りには静寂だけが残った。帝王フリーザは元気玉と共に、跡形も無く消滅したのだ。もう二度と、蘇る
事は無いであろう。今度こそ勝ったのだ。文句の付けようの無い、大勝利である。
「終わった………」
 ほっと一息つくヤムチャ。長い長い一日が終わった………。

 

39 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/09 02:31 ID:???
前スレ>>820の続き
 地上へ降り立つと、一行を祝福するかのように夕日が照っていた。地球に生命の恵みをもたらす太陽だが、
クウラの命を奪った灼熱の恒星でもあるのだ。その夕日を見て、一同の心には膨大な達成感と、それと同等
の空虚感が押し寄せてきた。誰もが、金縛りにあったように黙り込んでしまっている。

「…おめでとう」
 突然、背後から声がした。反射的に振り返る七人。そこには、見知らぬ宇宙人が立っているのだ。頭部は
流線形をしており、真紅の瞳、口部分はマスクのようなもので覆われている。
「うわぁぁぁ!!」
 謎の生命体に、慌てて身構えるドラえもん達。一難去ってまた一難、フリーザ軍がまだ残っていたのだろ
うか。ヤムチャなど、うっすら涙を浮かべている。そして一言。
「クウラさん…!」
「フフ……気づかれたか」
 この見知らぬ宇宙人をクウラと知り、驚く子供達。確かに首から下は、以前のままである。注意して見て
みると、ところどころに焦げ跡が見受けられる。気が読めるヤムチャだけは、この男がクウラだと分かった
のだ。例え姿は変わっていても、気の質までは変わらない。
「生きていて嬉しいです。でも、どうやって脱出したんです?」
「実は変身を一つ残していてな、“変身をすると傷が回復する”という特性を活かして脱出したんだよ」
「じゃあ、俺がやばかった時の声も…?」
「ああ、あれはテレパシーだ。ヤードラット星人に教えてもらっていたんだ」
 何はともあれ、クウラは生きていた。これで妙な辛気臭さも消え、今度こそ祝勝パーティの開催である。

 どうせ、今の地球上には自分達以外誰もいない。目を覚ました出木杉にも呼びかけ、大いに騒ぎ、盛り上
がった。グルメテーブルかけで好きなものを食べ、プーアルが変身芸を披露し、ヤムチャとクウラは酒を飲
んで酔っ払い、のび太はここぞとばかりに武勇伝を披露した。ただし、最終的にはジャイアンリサイタルで
全員気絶してしまった。

 

41 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/09 02:33 ID:???
 そして、翌日になった。ヤムチャが我々の地球に来てから七日目、ちょうど一週間目の朝である。早朝か
ら、壊れた家屋の修復作業に追われるドラえもん達。ヤムチャやクウラも作業に加わった事もあり、十時過
ぎには町の修復が完了した。
「やっと終わった〜!」
「疲れたねぇ、ドラえもん」
「何言ってるんだよ、君は三十分くらいでバテてたじゃないか!」
「まぁいいじゃない、終わったんだから…」
 そこへジャイアンとスネ夫が来る。無論、殆ど作業をさぼっていたのび太に怒っているのだ。
「のび太、お前全然動いてなかったじゃんかよ!ぶっ飛ばしてやる!!」
「そうだそうだ!」
 二人に追い回されるのび太。しきりにドラえもんの名を叫んでいるが、流石に今回は助ける気にはなれな
かった。そんな中物陰では、静香と出木杉が二人きりで話をしていた。
「しずちゃん、僕はフリーザについていた…。そんな僕が、こうして皆と混じっていいんだろうか?」
「…そうやって反省してるからこそ、貴方は皆に混じるべきだと思うわ」
「え、どういう事だい?」
「貴方がフリーザと組んだって知った時、みんなパニックになったわ。それこそ武さんなんて、今すぐ助け
に行こうって言ってた。貴方が皆に混じらないとしたら、それが本当の“裏切り”なのよ!」
「ごめん…そして、ありがとう。しずちゃん………」
「余り気にしない方がいいわ、出木杉さん」
 ゆっくり肩を組み合う二人。その光景は、小学生ながら恋人同士そのものであった。一方その頃、静香の
結婚相手であるのび太は、ジャイアンに殴られ号泣していた。

 時刻も正午になり、昼飯の時間。昨夜のように、グルメテーブルかけを準備するドラえもん。だが、険し
い顔の表情をしたヤムチャが何を思ったか、別れの挨拶を始めたのである。
「みんな………俺はもう帰るよ」

 

42 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/09 02:34 ID:???
 突然の言葉に、言葉も出ないのび太達。ヤムチャ達はクウラと共に、瞬間移動で帰るらしい。惑星クウラ
ならば、もう一つの地球の方位も簡単に知る事が出来る。
「な、何でですか!?もっと居てくれたって…!」
「そうですよ!」
「行かないでくれよ、ヤムチャさん、プーアル、クウラさん!」
 食って掛かるのび太達に、ヤムチャが諭すように話し始める。
「この一週間、ホント楽しかった。飯食ったり、温泉入ったり、戦ったり………」
「なら、残って下さいよ!」
「俺には故郷がある。多分これ以上ここにいたら、俺は帰りたくなくなってしまうだろう…」
「じゃあ帰らなくていいですよ!壁紙ハウスで暮らせば…」
「それじゃダメなんだ。俺はここで多くの事を学んだ、逃げちゃいけない」
 下唇を噛みながらの、重い一言だった。のび太も、ようやく引き止められない事を悟った。そして、ヤムチャ
とプーアルはクウラに掴まる。間もなく別れがやって来るのだ。

「俺は君達の事を、絶対に忘れないよ。なぁ、プーアル?」
「勿論ですよ、ヤムチャ様!」
「俺、強くなるよ!次会った時は驚かせてやるからさ!!」
「最初疑っててごめんなさい…。でも、僕も強くなります!」
「ヤムチャさん、プーアル、フリーザのお兄さん、今度は私のバイオリンも披露したいわ」
「貴方達のおかげで僕は目が覚めました。これからの人生を精一杯生きていきます」
「僕の道具が役立って嬉しいです。ウシシ…」
「僕も逃げません!勉強からも、先生からも、ママからも!」
 泣く者はいなかった。またいつでも会えるのに、泣く人間などあるものか。クウラは黙って人差し指と中
指を額に付けた。そして念じる。数秒後、ヤムチャ、プーアル、クウラの姿は地球上から消え去った。
 その直後、糸が切れたように子供達は泣いた。体中の水分を全て失うのでは、と思う程泣いた………。


 89 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/10 01:27 ID:???
>>42
 惑星クウラ。ヤムチャを送り届けたクウラは、司令室へと戻っていた。すると、部屋にはキー坊がまだ残っ
ていたのだ。突然消えたクウラを心配し、ずっと待っていたようだ。
「クウラ様!一体どこへ行かれてたのです!?」
「お前の命の恩人がいるという惑星だ。地球とか言ったか?」
「えっ………フリーザは、のび太さんはどうなってましたか!?」
「フリーザは倒された。それと、命の恩人は無事だったよ。住民の気が消えたというのは、私の思い違いだっ
たようだ…」
 この真実を聞き、またも床に崩れ落ちるキー坊。だが、この涙は以前のものとは全く異なる。安堵の涙、
歓喜の涙、感激の涙、身体中の細胞が喜び、涙を精製しているかのようだ。いくら手についてる葉で拭いて
も、洪水のような涙は止まらない。クウラもその様子を嬉しそうに眺めていた。

 キー坊が泣き止んだのは、それから数十分も後の事であった。
「でも、流石はクウラ様ですね」
「…何がだ?」
「フリーザを倒したんでしょう?やはり、宇宙一はクウラ様でしたね!」
「宇宙一か…」
 ふと、遠くを見るような目つきになるクウラ。すると、独り言のように呟いた。
「一匹の狼、彼は私などよりずっと………」
「え、オオカミ?」
 クウラはキー坊の問いには答えず、司令官用の大きい椅子にゆっくりと座る。
「ヤムチャ君、みんな……ありがとう。私もようやく過去に囚われず生きていけそうだよ………」
 目をつぶると、目蓋の裏にはあの女性が微笑みが映っていた。それに応えるように、微笑むクウラ。過去
からの呪縛を解き放たれ、過去、そしてこれからの未来、全て受け入れて見せる。クウラはそう決意した。
 未だ宇宙には、かなりの数のフリーザ軍の残党が残っている。奴らにこれ以上の悲劇を生み出させぬため、
惑星フリーザ反乱軍の戦いは終わらない。クウラの戦いは終わらない…。

 

90 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/10 01:28 ID:???
 もう一つの地球。クウラに送られたヤムチャとプーアルは、西の都郊外にある自分のアパートへと向かう。
すると、アパートの周囲には人だかりが出来ているである。慌てて、アパートへ飛んでゆくヤムチャ。そし
て気づく。人だかりの正体は、何とかつての仲間達であった。
「ヤムチャ!おめぇ、オラたち心配してたんだぞ!」
 この懐かしくも惚けた声、孫悟空その人である。周囲を見回すと、少し大きくなった悟飯もいた。更には、
昔の恋人ブルマ、その夫ベジータ。兄弟弟子のクリリン、三つ目星に帰ったはずの天津飯と餃子までいる。
背が低くて見えなかったが、逮捕されたはずのウーロンもいた。
「お久しぶりです、ヤムチャさん、プーアルさん。二人共、お元気そうで何よりです」
「もう、私に振られたくらいで家出なんて…。相変わらず情けないわねぇ〜」
「別に貴様らが生きようと死のうと、俺には関係無いがな」
「ヤムチャさん、良かった〜。地球上どこにも気を感じないから、ホントに死んだかと思いましたよ」
「俺もわざわざ故郷から飛んできたんだぜ、皆に心配かけるなよヤムチャ」
「天さん、喜んでる。ヤムチャとプーアル、生きてた」
「ヘヘヘ…俺も金積んで何とかシャバに出てきたぜ。芸能界も楽じゃねえなぁ」
 十人十色の挨拶をする仲間達、どうやら自分は忘れられてなかったらしい。この地球上に自分の居場所は
無いと思っていたが、それは自分の思い違いだったのである。

 ヤムチャの無事を確認すると、ベジータ、天津飯、餃子の三人はさっさと飛んで行ってしまった。相変わ
らず淡白な男達だ。そして、悟飯がヤムチャにある事を尋ねた。
「ところで、ヤムチャさん。この一週間どこへ行かれてたんですか?」
「ちょっとナンパにな…ハハハ」
 へらへら笑いながらの返事に、呆れ返った仲間はさっさと帰ってしまった。アパートに残された二人。
「いいんですか、ヤムチャ様?ホントはフリーザを倒したのに…」
「いいんだよ、プーアル。まずは部屋を片付けて、それから職を探そう!」
 のび太達との生活を経て、一皮剥けたヤムチャ。彼の瞳は、以前とは比べ物にならない程澄んでいた…。

 

91 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/09/10 01:29 ID:???
 我々の地球。ヤムチャ達と別れた後、どくさいスイッチで消した人間を全て元に戻した。のび太の両親も、
先生も、クラスメイトも、神成さんも、全て元通りになったのである。

 子供達は一旦解散し、のび太とドラえもんは帰宅する。しかし、家には誰もいない。不安に思った二人は
隣人に両親の行方を尋ねる。そして、この時初めて、二人は自分達がいなくなって大騒ぎになっていた事実
を知ったのである。
 すぐさま玉子が入院しているという病院へ駆けつける二人。病室には衰弱し切った玉子の姿があった。約
一週間ぶりの親子対面である。
「のび太………!」
「ごめんなさい、ママ…」
 のび太は確実に叱られると思った。だが、玉子は黙って我が子を抱き締めるのであった。その美しい母子
の光景を、ドラえもんとのび助は暖かい目に見守っていた。
 そして、一連の失踪騒動はただの家出として扱われ、大きく取り上げられる事は無かった。人間とは熱中
しやすく飽きやすい。この事件も、夏休みが終わる頃には人々の記憶から消えている事だろう。

 それから数日経ったある日、のび太は自室の机に向かい、自由研究に取り組んでいた。結局、のび太達四
人は「宇宙人との交流」を止め、それぞれ代わりの自由研究を始める事にしたのである。そんなのび太は粘
土細工をする事に決めた。拙い手つきながら、真剣に粘土と格闘するのび太。そこへ、アイスを食べながら
ドラえもんがやって来た。
「あれのび太君、何作ってるの?これは………トカゲかな」
「違うよ、ヤムチャさんだよ!」
「これが!?プッ…ウヒャヒャヒャヒャ!アッハッハ!!」
「笑いたきゃ笑え!次にヤムチャさんに会った時、見せてあげるんだ」
 その後のび太は、このトカゲを“最強の男”という題目で提出する。勿論、クラスで大笑いされたが、あ
の事件を知ってる者はこれを見るたび思い出すのだ。もう一つの地球からやって来た狼、ヤムチャの事を…。

 

                       ドラえもん のび太と最強の男   おわり