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ドラえもん のび太と最強の男


<前編>

142 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/27 02:02 ID:???
 我々の住む地球とは、全く別の銀河にある地球。その地球は我々のそれとほぼ似たよう
な環境下にあり、我々と同じ「人類」が支配する惑星であった。
 この地球は幾度もピンチにあってきた。それこそ、我々の地球とは比べ物にならないよ
うな危機であった。しかし狂科学者ドクターゲロの研究所を、とある少年の忠告で破壊し
て以来、事件らしい事件は全く起きない。地球は平和の絶頂期を迎えたのだ。
 そして、この平和な地球上に一人の男があった。その名はヤムチャ、武術の達人である。
しかしその腕も平和な世では用を成さない。彼女もいないヤムチャは、郊外のアパートで
自堕落な生活を送っていた。
「プーアル、酒買って来いや」
「ヤムチャ様…昼間から酒など、いけません!」
「また説教かよ。猫なのに賢いな、お前は」
 プーアル。空を飛ぶ不思議な猫である。昔は持ち前の変化能力と忠誠心で、ヤムチャ最
高のパートナーとして活躍していた。しかし今や、ヤムチャの説教役。主従関係は変わら
ないものの、立場が逆転してしまっている。プーアルは昔の凛々しく頼もしいヤムチャに
戻って欲しいと願っていたが、それはかないそうもない。ヤムチャの取り柄は主にそのル
ックスと武術。ルックスは品の無い無精ひげで、もはや見られたものではない。残りの武
術も、平和な世では役に立たない。この地球上にヤムチャの居場所はなかった。
 ヤムチャの仲間もいたにはいた。孫悟空は定職に就いた。その息子悟飯は学者を目指し、
猛勉強中である。ベジータはブルマと結婚し、カプセルコーポレーションの社長へと就任。
クリリンは多林寺の師範となった。天津飯は故郷の三つ目星へと戻り、餃子もそれに同行
した。ピッコロは神殿で暮らしている。ウーロンは田代まさしという芸名で芸能界デビュー
するも、その後猥褻行為で逮捕された。皆それぞれの道を歩んでいったのだ。
 仲間もいない、彼女もいない、目標や希望もない、ただ酒が欲しい。今のヤムチャに、
かつての輝きはなかった。無精ひげを生やした筋肉質の男があるだけである。家賃も滞納
している。正に最悪の状態にあったと言える。

 

143 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/27 02:02 ID:???
 舞台は変わって我々の住む地球。東京都練馬区の、とある一軒屋。そこには野比のび太
という十歳の少年と、ドラえもんという未来のロボットがのび太の両親と共に暮らしてい
た。彼らの出会いの経緯は省略するが、この二人の絆は大変深いものである。
 夏のある日、この家の一室に五人の男女が集まっていた。先程ののび太に、剛田武、骨
川スネ夫、源静香を加えた五名だ。夏休みの自由研究を、共同で行う事になったのだ。
「ヘマしたら承知しないからな。いいかのび太!」
「そうそう、どこにも連れてってやんないぞ」
「ごめんなさいね、のび太さん」
 五人の研究課題は「宇宙人との交流」となった。壮大すぎるテーマだが、のび太の親友
ドラえもんならば、十分実現可能なテーマなのだ。そのため、のび太にお鉢が回ってきた
というわけ。三人が帰るのと入れ違いにドラえもんが帰ってくる。 
「ど、ど、どうしよう。ドラえもん!」
「今、三人が家から出てくるのを見たけど、また何かやったんじゃ…」
「そのまさかなんだよ!」
 のび太が三人に頼まれた事とは、「宇宙人を連れてくること」であった。適当な星から宇
宙人を連れてきて、文化交流をしようというのだ。小学生らしく実に荒っぽい手段である。
「そんなのただの誘拐じゃないか!」
「でも、やるしかないんだよ。ちょっとでいいんだ、ちょっとで。話を聞いたら記憶を消
す道具を使ってさ。頼むよ、ドラえもん。この期に及んで“出来ない”なんて言ったら、
ジャイアンに殺されちゃうよ!」
「君が殴られて済むならそれでいいじゃないか。そんな誘拐まがいの事に付き合えないね」
「どら焼き、五個。いや、十個で手を打たない?」
「………二十個」
 のび太は打算的だが、ドラえもんも十分打算的だった。

 

144 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/27 02:03 ID:???
 舞台は再びもう一つの地球。結局プーアルは根負けし、酒を買いに行った。
「すまんなプーアル。だが、俺はもう…」
 ヤムチャにも自覚はあるのだ。しかし、どうする事もできない。「分かっちゃいるけど止
められない」というスーダラ節状態。彼を変えてくれる者はなかった。プーアルでは駄目な
のだ。何か、突拍子もない事が彼の周りで起これば…。そんな事を考えていても仕方ない、
彼は再び眠りについた。
 しかし、夢ですらヤムチャは悩ませる。夢には次々と出てくるのだ。砂漠での盗賊時代、
輝かしい天下一武道会、魔族やサイヤ人との戦い、界王星での修行、何もかも昨日のよう
に蘇ってくる。
「もう俺は駄目なんだよ!」
 ヤムチャは飛び起きる。しかし、周りには誰もいない。
「くっそぉぉぉぉぉ!!」

 一方、我々の地球。のび太とドラえもんは庭に出ていた。ドラえもんが腹部の四次元ポ
ケットを探る。
「宇宙救命ボ〜ト〜!」
 ポケットから取り出したのは、巨大なプリンのような形の宇宙船。大きさは数人がやっ
と入れる程度だが、そのテクノロジーは現代のものとは比較にならない。発射ボタンを押
すと、どこかの星へと飛んでいく優れもの。これまでも、随分お世話になった道具である。
「よし乗ろう、のび太君」
「どこに行くのかなぁ…」
「さぁね。でも、文明のあるところじゃないと」
 スイッチオン。激しい煙を上げて、宇宙救命ボートが出発した。あっという間に大気圏
を抜ける。ワープテクノロジーも駆使されているこの船は、何億光年もの距離を瞬時に進
んでいく。二つの地球が結びつくまでに、そう時間はかからないであろう。

 

196 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/28 02:01 ID:???
 またもや舞台はもう一つの地球。
「ヤムチャ様、お酒買ってきました」
 プーアルが小さい体に酒瓶を抱え、アパートへと帰宅する。しかし、当のヤムチャは反
応しない。酒に溺れ、過去を思い出すばかりの日々、ヤムチャの精神は限界に達していた。
「ヤムチャ様、しっかりして下さい!」
「あ、ああ…」
 外の空気を吸わせた方がいい。そう考えたプーアルは自分の何倍もあるヤムチャの体を
外へと連れ出した。だが外へ出たものの、ヤムチャは空を見つめるだけだった。
「あれは何だ…?」
 ヤムチャが奇妙な事を言い出す。とうとう気が触れたのだろうか。
「落ちてくる…」
 空を見上げながら、ぼそぼそと呟くヤムチャ。プーアルは呆れるしかなかった。
「来た!」
 ヤムチャがとうとう叫ぶ。ヤムチャ様は壊れてしまったと、頭を抱えるプーアル。その
数秒後、小型の宇宙船がヤムチャの目の前に降り立った。ヤムチャはずっとこれを見てい
たのだ。そして、宇宙船のドアが開く。中から出てきたのは、眼鏡の少年と青い狸だ。言
うまでも無く、のび太とドラえもんである。
「やあやあ、こんにちは」
「僕達、地球から来た者です」
 ファーストコンタクトを図るのび太達。しかし、目の前にいたのは宙に浮いてる猫と、汚
らしい外見をしている大柄な男だけだった。
「連れて行くなら、もっと頭良さそうな人のがいいんじゃない?」
「いいよいいよ、これくらいで丁度いい」
 失礼な事を、平気で言うのび太達。その時、プーアルが驚愕の事実を口ずさんだ。 
「あの…ここも地球なんだけど」

 

197 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/28 02:02 ID:???
 驚愕の事実。何と日本語が通じたのだ。いや、そうではない。のび太達が異星だと思って
いたこの惑星は、地球だったのだ。
「ち、ち、地球〜?ここが!?」
「どこから来たの、北の都?それとも東?」
「え、東京だけど…」
 のび太とプーアルとの間で、かみ合わない会話が繰り広げられる。しかし、22世紀のド
ラえもん。この異常事態を素早く推理した。
「分かった!」
「分かった…って何が?」
「ここは僕達の地球じゃないんだ。でも、ここも地球という名前なんだ。ようするに、二つ
の地球が存在したって事さ」
「なあるほど」
 そうは言ったが、のび太は分かっていない。五回に一回は0点を取る頭脳なので、当然と
言えるだろう。とにかく、ドラえもんが用件を話す。日本語が通じるので、翻訳こんにゃく
は必要なかった。
「僕達の星に来てくれませんか」
「悪いけど、他を当たってください」
 即答だった。プーアルはヤムチャの世話に精一杯で、それどころではないのだ。訳の分か
らない二人組の星に行く余裕など、あるわけがない。
「いや、行くよ。行かせてくれプーアル」
「ヤムチャ様!」
 さっきまで生気を失ったようにぐったりしていたヤムチャが、突然会話に加わってきた。一
番驚いたのは恐らくプーアルであろう。
「俺を連れてってくれ!」
 何故かやる気満々のヤムチャ。彼の胸中にあるものは一体何なのだろうか。

 

198 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/28 02:03 ID:???
「こちらです、どうぞ」
「さあさあ、乗って下さい」
 接待気味にヤムチャを促す二人。特にのび太は命がかかっているため、必死である。ヤム
チャは黙って二人に従った。プーアルも付き添う。
「ヤムチャ様、いいんですか?」
「プーアル、俺はこの子達をきっかけに変われそうな気がするんだ。お前まで付き合う事は
ない。地球に残っていてくれ」
「いえ、僕もお供します!」
 前述の通り、ドラえもんとのび太の絆は深い。日常、非日常を幾度もくぐり抜けてきたコ
ンビなのだ。だが、ヤムチャとプーアルも負けてはいない。主従関係ではあるものの、その
絆は海より深く、鉄より硬い。この二つのコンビは案外似ているのかもしれない。
「出発しまぁす」
 陽気にドラえもんがボタンを押す。まさか最初の惑星で、のび太達の手前勝手な宿題の協
力者が現れるとは思ってもみなかっただろう。宇宙救命ボートは再び発進した。二つの地球
は今まさに結ばれたのだった。
 救命ボート内。言葉が通じるので、好奇心旺盛なのび太は次々と質問をぶつける。
「あのぉ…名前は?」
「俺はヤムチャ。こいつはプーアル」
「お仕事は?」
「何も」
「じゃあ、ヤムチャさんはどうやって暮らしてたの?」
「昔の彼女にたかったり、ゴミ捨て場を漁ったり…ハハハ」
 聞いてる方が哀れになるような問答が続く。ドラえもん達も不安がよぎる。いくら宇宙人
でも、宿題の題材になるような人でなければならない。こんな情けない男では、文化交流な
ど出来るわけがない。やがて、ボートは我々の地球へと近づいていく…。

 

240 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/29 01:06 ID:???
>>198
 地球。野比家の庭に到着した宇宙救命ボート。のび太達はヤムチャとプーアルを自室へと
案内する。
「じゃあ友達を呼んでくるので、ここで待ってて下さい」
「ああ」
 部屋に二人きりとなった、ヤムチャとプーアル。深い間柄にもかかわらず、一言も喋らな
い。永遠とも思われる沈黙が続く。無精ひげにジャージ姿という、文化交流というものとは
程遠い格好の男。座り込んで下を向く猫。子供の部屋には、似つかわしくない光景がそこに
あった。
 二十分後、下の階に大勢の子供の声がする。帰ってきたようだ。ドタバタと階段を上がる
音。そして、おなじみの五人が部屋に入ってくる。
「さあさ、いらっしゃい」
「のび太、このおじさんと猫か?」
「そうだよ」
「見かけは私達と変わらないのね。あら猫さんもいるわ」
「何か臭うよ、僕の服に臭いがついたら困るよ!」
 ヤムチャらを無視し、好き放題に話し始める五人。結論はこうなった。
「とりあえず、お風呂に入った方がいいわよ」
「ひげも剃った方がいいね」
「ジャージは脱ごう。パパの服を貸してあげるよ」
 言われるがままにされるヤムチャ。風呂に入り体を清潔にし、無精ひげを綺麗に剃り、大
人用のシャツとズボンを着る。ジャージのポケットには、大量のゴミが入ってきた。紙切れ、
何かの破片、埃、折れた写真、腐った食べ物…。何を溜め込んでいたのだろうか。
 一時間後、ヤムチャは見違えるくらいに変わった。キリッとした顔立ち、鍛えられた筋肉、
抜群のスタイル、男の中の男がそこにいたのだ。あまりの変貌ぶりに、驚くのび太達。
「す、すごいやヤムチャさん!」

 

241 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/29 01:07 ID:???
 ドレスアップも完了し、本来の目的であった文化交流の開始。のび太達にとっては宇宙人
である、ヤムチャへの質問が始まる。まずは静香。
「あなたの故郷は何と言う星ですか?」
「故郷?地球だ」
 この答えで、良い意味での緊張感が崩れ去った。最初に声を発したのはジャイアン。
「おいのび太!俺は宇宙人を連れて来いって言ったんだぞ!?」
「そうだそうだ!」
 スネ夫も続く。ドラえもんが慌ててこの矛盾の原因を説明をしようとしても、まるで聞く
耳を持たない。流石は腕力と暴力で成り上がったガキ大将である。
「よくも俺様を騙しやがったな!」
「ま、待ってよ…」
「うるせえ!!」
 ジャイアンのゲンコツ一閃。のび太の頭に星が輝き、あえなくダウン。怒ったジャイアン
とスネ夫はそのまま部屋を出て行ってしまった。部屋には嫌な空気が残る。
「俺が悪かったのかな?」
 何となく責任を感じたヤムチャ。すぐさまプーアルとドラえもんがフォローする。
「そんな事ないです!ヤムチャ様はホントの事を言っただけなのですから!」
「そ、そうだよ。ね、ねぇのび太君?」
「う、うん…」
 最悪の結果となってしまった。のび太達にも、ヤムチャ達にも何の利益もないまま、文化
交流という名のインタビューは終了してしまったのだから。
 その時だった。
「な、何もしてないっつーの!」
 家の外から、ジャイアンの叫び声が聞こえたのだ。家を出てすぐに、何かあったらしい。
「な、何だ!?」

 

242 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/29 01:10 ID:???
 机の前にある窓から下の道路を見る。すると、数人のガラの悪そうな学生にジャイアンと
スネ夫が絡まれているのだ。
「うわ、どうしよう!」
「た、助けないと!」
 ドラえもんとのび太が焦っていると、ヤムチャが颯爽と窓から飛び降りた。

 家の外、概要はジャイアンとスネ夫が家を飛び出した際に、学生の集団にぶつかったため、
絡まれているという状況。いわゆる当たり屋にかかったカモ状態。
「金出せば許してやるって言ってんだろ?ガキ共」
「治療費、慰謝料、10万くらいはもらわねぇとな。親の財布からでも持って来いや」
「そ、そんなぁ〜!」
「ゆ、許してくれよぉ〜!」
 脅迫する不良達。そこへ上空から、正確には野比家の二階から、ヤムチャが降り立った。
「うわっ!」
「おいおい、そのへんにしとけよ。相手は子供だろう?」
 そうは言ったが、ヤムチャ自身も何故助ける気になったのかよく分かっていなかった。か
つては己の星を救うべく戦った者としては、目の前の小悪党が許せなかったのかもしれない。
「ハァ?何だてめぇは」
「どっから湧いて出やがった!」
「言っておくがよ、俺は空手やってんだ。しかも段持ちだぜ?」
 学生の中で飛び抜けて背の高い男。恐らくリーダーだろう。その男がヤムチャに近づいた
次の瞬間。男は数メートル吹き飛び、そのまま気絶。ヤムチャが何かした様子はなかった。
「う、うわぁ〜タカシさん!」
「ひぃ〜〜逃げろ!!」
 不良達は奇怪な現象を目の当たりにして、蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。

 

297 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/30 00:43 ID:???
 助けられた事で、スネ夫はともかくジャイアンはヤムチャを尊敬の眼差しで見るようになっ
ていた。強者揃いの剛田家の血筋がそうさせたのであろう。再び舞台はのび太の部屋。ジャ
イアンとスネ夫には改めてドラえもんが説明し、ヤムチャとプーアルがのび太達がいる地球
ではない名前が同じだけの地球の住民という事は分かってもらえた。
「なあんだ、そうならそうと言えよのび太。え〜と、名前は?」
「ヤムチャ」
「ヤムチャさん!俺感動したよ。一体何をしたんだよ?」
「気を使ったんだ」
「気?」
 一同は目を丸くする。テレビ番組等でよくやってる気功などの紹介は、実にうさんくさい。
しかし、現に人間が手も触れられずに吹き飛ばされたところを見たら、信じる他は無い。
「気を軽く放出したんだ。ホントに軽くだったんだが、気絶させてしまった」
「ヤ、ヤムチャさん!俺にも教えて下さい!!」
 ジャイアンが身を乗り出す。より強くなりたいと願う心、これも剛田家の血筋によるもの
であろう。だがそんな中、スネ夫は一人懐疑的であった。
「ジャイアン、どうせトリックだって」
「うるせぇ!だったらどんな手品だったっつうんだよ!」
「え…それはその…」
「分からねぇんだったら言うな!」
 ジャイアンの鉄拳制裁。目を回しながら、スネ夫は黙り込んでしまった。またもや部屋に
嫌な空気が流れたが、ここはすかさず優等生の静香が仕切る。
「ねえ、みんな。ヤムチャさん達にもっと話を聞きましょうよ」
「そうだね」
「そうしようか。宿題だし」
 全員一致で、地球ともう一つの地球の文化交流が再開された。

 

298 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/30 00:43 ID:???
 もう一つの地球は一人の国王が統治していること、ドラゴンボールの存在、天下一武道会、
ヤムチャが出会った様々な強敵、プーアルとの関係、かつての仲間達、ヤムチャは語り続け
た。その脳裏には、輝かしかった頃の自分が思い出される。
「孫悟空って人と会ってみたいなぁ」
「だから、ヤムチャさんは強いんですね」
「ドラゴンボールか、信じられないよ」
「サイヤ人なんて俺がぶっ飛ばしてやる!」
「ヤムチャさんとプーアルさんにはそんな出会いがあったのね」
 興味津々で聞き入る子供達。宇宙開発が進んでいる22世紀から来たドラえもんですら、
初めて知る事実が数多くあった。これは、22世紀になっても二つの地球の交流は成されて
いない事を意味する。
 やがて話題も尽き、ヤムチャの着ていたジャージの中に入っていたゴミに注目が及ぶ。ゴミ
とは言え、立派な材料だ。現に古代人の生活を知る手がかりとなっている貝塚は、単なるゴミ
の山に過ぎないのだから。まずは折れまがった写真。写っているのはブルマだ。
「綺麗ですねこの人。ヤムチャさんの彼女ですか?」
「そうだったけどね…捨てられたんだよ…」
 続いて、腐った食べ物。腐食が進みすぎて、もはや原型がない。
「これは何ですか?」
「まんじゅうだよ…後で食べようとしたら腐ってしまったんだ…」
 続いて、何かの破片。機械の一部のような印象を受ける。
「これは?」
「何だったかなぁ…忘れた」
 続いて、紙切れ。10センチ四方の紙には、何か書いてある。
「数字みたいのが書いてありますけど?」
「電話番号だよ。ブルマのね…」

 

299 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/30 00:43 ID:???
 ジャージのゴミ探索は失敗だったようだ。負のエピソードしか蘇って来ない。しかし、気に
なる物もあった。ヤムチャ自身、正体を思い出せない破片である。かと言って、いくら何でも
これだけでは何かは分からない。そこに、のび太の珍しく冴えたアドバイス。
「タイムふろしきを使ったら?」
「のび太君、頭いい!たまには役に立つね」
「たまには、は余計だよ」
「タイムふろしき〜!」
 タイムふろしき。時計のマークが描かれた風呂敷で、ある物質に表を被せると未来へ、裏を
被せると過去へ、被せられた物質自体の時間が経過するという秘密道具。生物にも有効で、の
び太はこの道具で大人になったり子供になったりした例がある。
 善は急げ、その破片に風呂敷を被せる。勿論、元に戻すため裏面を被せる。
「何だろうね」
「期待しない方がいいよ。どうせ、電化製品とかでしょ」
「それもそうだね」
 ヤムチャはヤムチャで、破片の正体を必死に思い出そうとしていた。プーアルも手伝う。
「何だったかなぁ〜あの破片…」
「確か、ヤムチャ様が何かの記念に持ち帰ったものだったと思いますが…」
「記念?」
「ええ」
「あっ!…思い出した!!」
「何だったんですか?」
「フリーザだよ。あの少年が倒したフリーザの破片、あれを記念に持って帰ってたんだ」
「なあんだ、そうでしたか」
 一方、タイムふろしきは順調に破片を過去へと遡らせていた。それにつれ、邪悪な気が徐々に
増している事に、まだヤムチャは気がついていなかった。

 

320 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/30 23:39 ID:???
>>299
 風呂敷をかけられた破片が大きくなっていく。破片が時間を逆流し、元の姿に戻っているのだ。
わくわくしながら待つ、のび太達五人。
「そろそろいいんじゃない?」
「そうだね」
 風呂敷をぱっと取る。そこにあったのは、胸の辺りまで再生しているサイボーグフリーザであっ
た。驚くのび太達。ヤムチャもようやく異変に気づく。
「な、何だこの邪悪な気は…」
「ヤムチャ様、あれ!」
 プーアルが指差した方向には、頭と胸だけある、胸像のようなフリーザがいた。気を感じると
いう事はフリーザが生きているという何よりの証拠である。
「おい!これはどういう事だ!?」
「タイムふろしきをかけたら…」
「そいつは危険だ!早く元へ戻すんだ!!」
 慌てて風呂敷をかけようとするドラえもん。しかし、ここに来てようやくフリーザが喋りだす。
「よく分かりませんが、私は生き返ったようですね…」
 そして、その場から消えた。正確には、超スピードで動いたのだ。これまで喋りも動きもしな
かったのは、フリーザ自身何が起きてるのか分かっていなかったからだ。
「ここはどこですか?地球ですか?いや、違うようだ…」
 あっという間にドラえもんの背後に回りこんだフリーザ。その恐ろしさは、気を感じる事が出
来ないのび太達でも十分身に染みた。声すら上げられぬ恐怖。
「私は地獄にいたはずなのですが…突然強い力に引き寄せられ、ここへ来たのです」
 フリーザは冷静だった。まずは状況を把握する事に専念したようだ。
「ほっほっほ…私も運が良い。ここがどこだが分かりませんが、ここを拠点にサル共への復讐を
行う事にしましょう」
 フリーザ復活。とんでもない事になってしまった。

 

321 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/30 23:39 ID:???
 ドラえもん、のび太、静香、ジャイアン、スネ夫、ヤムチャ、プーアル、計七名。フリーザの
新たな部下の誕生である。逆らってはならない。逆らったらどうなるかぐらい、頭の悪いのび太
ですら本能で感じているのだ。自分達ばかりでなく、地球人みんな殺されてしまう、と。
 手足が無く、不完全な復活とは言え、そのパワーは圧倒的だった。ヤムチャでは逆立ちしても
倒せないだろう。そして、おべっか担当のスネ夫が機嫌を取るために話しかける。
「とてもお強そうですけど…あなたは何者ですか?」
 それを聞いたフリーザは、一瞬スネ夫を睨み付けた。スネ夫は思わず失禁してしまった。だが、
フリーザは快く答えた。復活したてで機嫌は良いのだろう。
「私はフリーザです。まあ、こんな辺鄙な星の住民では知らなくとも無理はありませんがね…」
 これ以上は話しかけられなかった。下手な質問をして、怒らせたら全て終わりだ。皆が黙って
いると、今度はフリーザから話しかけてきた。
「そう緊張なさらないで下さい、私は今気分がいいのですよ…。ところで、どうやって私を生き
返らせたのです?」
 一同は悩んだ。もし正直に「タイムふろしきで復活させた」と答えたらどうなるか。便利な道
具を持つ者として、一生奴隷扱いかもしれない。道具さえあればいい、とばかりに皆殺しにされ
るかもしれない。しかし、いい嘘も思いつかなかった。いきなりあなたがここに現れたんですよ、
などと言えるわけがない。そんな雰囲気を察してか、ヤムチャが一世一代のハッタリに出る。
「フリーザ、いえフリーザ様。この星にはドラゴンボールという不思議な球があるのです」
「ドラゴンボール!?」
 フリーザの目の色が変わる。何せ、ドラゴンボールにはろくな思い出がない。
「はい、それでフリーザ様を生き返らせたのです。小耳に挟んだのですよ、フリーザという偉大
な帝王がサイヤ人によって不毛の死を遂げたという噂を…」
「それはそれは…。しかし、ドラゴンボールはナメック星にしかないはずですがね…」
「そ、そんなはずはありません。現に貴方は生き返っているではないですか」
 自分が生き返っているという事実。フリーザは納得せざる得なかった。

 

322 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/07/30 23:40 ID:???
「私を生き返らせてくれた事には感謝しましょう…。手足が無いのは不便ですがね」
「この星のドラゴンボールはパワーが小さいため、完全に蘇らせる事は出来なかったのです」
「なるほど…」
 ヤムチャのハッタリは成功したようだ。矛先をのび太達ではなく、架空のドラゴンボールへと
向けさせる事が出来た。そして、次の段階。
「ドラゴンボールは一年経たねば使えません。さあ、憎きサイヤ人を倒そうではないですか」
 これしかなかった。フリーザを再び悟空に倒させるしかない。フリーザの復讐心を煽って、宇
宙救命ボートでヤムチャ達の地球へと向かう。そして、悟空にフリーザを倒してもらう。手足が
なく、パワーの落ちてるフリーザならば、悟空の敵ではないだろう。だが、これは甘かった。フ
リーザは二度の敗北を経て、慎重になっていたのだ。
「この体で行っても、スーパーサイヤ人には敵わないでしょう。もっと力を蓄えなければなりま
せん。次こそ、確実にサイヤ人を根絶やしにするのです」
 ヤムチャの計略は失敗に終わった。だが、これ以上この危険人物を子供達の側に置いておく訳
にはいかない。ヤムチャは決心した。フリーザは俺が倒すしかない、と。昔に比べれば、戦闘力
は明らかに落ちている。生き返ったばかりの上に、手足もない。不意打ちならば…。
「みんな、伏せろ!」
 背後にいるのび太達にそう促す。そして、その直後。
「波〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 ヤムチャがフリーザに渾身のかめかめ波を浴びせた。野比家の二階半分が吹き飛ぶ。完全な不
意打ち。フリーザは気を感じる能力がないため、ヤムチャの“溜め”に気づかなかったのだ。
 だが、倒せなかった。フリーザは、ほぼ無傷で宙に浮いている。帝王との差は歴然だった。
「駄目か…ほとんど気は減っていない!」
「この技…あのサイヤ人が使った技と同じだ。貴様、奴の仲間か!」
 ヤムチャの賭けは大失敗に終わった。せめてもの救いは、のび太達が無事な事くらいであった。
二階の残り部分でまだ震えている。ヤムチャVSフリーザ、絶望的な戦いが始まった。


 

341 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/01 00:45 ID:???
>>322
 まずヤムチャは、町に被害が及ぶのを防ごうと考えた。再びハッタリ開始である。
「さっきも言ったように、この星のどこかにドラゴンボールがある。下手に地上を破壊して、ボー
ルが壊れてもつまらん。空中でケリをつけようじゃないか」
「いいでしょう…ドラゴンボールは私の体を元に戻すために必要ですしね」
 二人は空中へ上がる。そして、かなりの高度まで昇ったところで止まった。
「ところで妙ですね…。私を生き返らせておいて、私を殺そうとするとは…。もっとも、さっき
のエネルギー波如きでは私は倒せませんよ、ほっほっほ…」
 当然の疑問だった。何故生き返らせたばかりの者を、再び殺す必要があるのだろうか。言うな
れば、二度手間である。だが、この程度の矛盾で引き下がるヤムチャではない。盗賊ヤムチャは
ペテン師ヤムチャとして、最後までハッタリを貫き通す。
「宇宙の王とも言われたあんたを、是非この手で倒してみたくなったのさ…。生き返らせてな」
 メチャクチャだった。野球少年が大リーガーに向かって唾を吐くような暴言。まして、相手は
フリーザだ。プライドも実力も超一流。
「それはそれはご挨拶ですね…。冗談がお好きなようで………死ね!!」
 猛スピードでフリーザが突進する。頭突きがヤムチャの顔面にヒット。鼻が折れた。手足がな
くとも、頭がある。それをフリーザは実践していた。頭突き、頭突き、頭突きの嵐。ヤムチャも
反撃するが、フリーザの肉体は強靭で、まるで歯が立たない。
「く、くそっ!」
「今の俺になら、勝てるとでも思ったか虫ケラが!!」
 フリーザの口調が豹変している。こんな格下に、安く見られたのが余程気に食わなかったのだ
ろう。更に、フリーザは器用に口からエネルギー波を出し、ヤムチャの胸を直撃した。フリーザ
にして見れば不本意な威力だったが、ヤムチャにとっては死の一撃だった。
「ぐはァ…!マジかよ…」
「クックック…こんな程度では終わらさんぞ!このフリーザ様に盾突いた事を存分に後悔させて
くれる!!」

 

342 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/01 00:45 ID:???
 一方、下で戦いを見ているのび太達。絶望感、悲壮感、焦燥感、様々なものが積もっていく。
「どうしよう、このままじゃヤムチャさんが!」
「ヤ、ヤムチャ様!」
「ド、ドラえもん、どこでもドアで逃げようよ。僕まだ死にたくないよ!ママァ〜!!」
「スネ夫、ヤムチャさんを見捨てる気かよ!」
「あ、あんな宇宙人、どうなったって知るもんか!」
 スネ夫はパニックに陥っている。静香とプーアルは泣き出さんばかりだ。ジャイアンは完全に
興奮している。そんな中、最も冷静だったのはのび太だった。
「ヤムチャさんを救い出して、ここから逃げる方法ならあるよ!」
「え?」

 ヤムチャは限界に来ていた。いや、一介の人間がフリーザ相手にここまで持っている方が奇跡
なのかもしれない。フリーザの頭突きとエネルギー波の嵐をひたすら耐え抜き、その合間にささ
やかな反撃を行っている。この繰り返し。
「ハァ…ハァ…お前を蘇らせたのは俺の責任だ…。必ず倒す!」
「もう飽きた、そろそろ終わりだ。死ね───ぐおっ!?」
 地上から放たれた熱線がフリーザを直撃した。のび太が熱線銃でフリーザを撃ったのだ。熱線
銃とは未来の銃で、ビルを一瞬で灰にする威力がある。のび太の数少ない特技である射撃が役に
立ったのだ。ヤムチャが下を見ると、のび太達が地上へ降りるように促している。
「ヤムチャさん、早く!このドアで逃げましょう!!」
「わ、分かった!」
 ヤムチャは傷ついた体に鞭打ち、全速力で地上に降りる。
「おのれ、逃がさんぞ!」
 フリーザも追う。だが熱線を食らった分反応が鈍り、初速が遅れた。
「よし、みんなこのドアに入るんだ!!」
 間一髪、ヤムチャ含め一同はどこでもドアでその場から脱出した。しかし、戦いはこれからだ。

 

343 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/01 00:46 ID:???
 野比家上空に残されたフリーザ。ダメージは無いが、まんまと逃げられ、怒りに打ち震える。
「消えた…!おのれ、虫ケラ共め!!」
 そして頭の機械部分から、電波を放射する。ある種のSOS信号である。
「まぁいいでしょう…ドラゴンボールが壊れたらコトですし、下手な行動は控えますか…」
 この地球にドラゴンボールがあると言うヤムチャのハッタリが無ければ、この町はフリーザの
ストレス解消代わりに消されていただろう。それだけでもヤムチャの戦いには意味があった。
「惑星フリーザからの応援が来るまでは…あそこで過ごすか」
 フリーザは学校の裏山へと向かった。

 どこでもドアで脱出したのび太達は源家の風呂場にいた。野比家から距離にして僅か数百メートル。
フリーザに気を感じる力があれば、たちまち追いつかれ殺されていただろう。
「のび太!ここはしずちゃんの風呂場じゃねえか!!」
「ゴメン、焦ってたからつい…」
「もう、のび太さんのバカ!」
 静香のビンタ炸裂。緊急時でも、風呂を汚した輩には容赦しない。問題はヤムチャの容態である。
フリーザの攻撃を浴びに浴び、瀕死の重傷だ。だが、ドラえもんは平然としている。
「ヤムチャ様〜!死なないで下さい!!」
「うう…プーアル…俺はもう…」
「まあまあ、僕に任せなさいよ」
「え?」
「ウソ8OO〜!」
 ウソ8OO。これを飲んだ人が言った事は、全て“ウソ”になるという液状の薬品だ。上手く使え
ば天候や動物まで操れるが、フリーザには恐らく効かない。とにかくドラえもんが飲み、そして一言。
「ヤムチャさんの怪我は治らない」
 一瞬にして、重傷だったヤムチャが全快した。これぞ22世紀の科学力の成せる奇跡だ。


 

378 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/02 00:08 ID:???
 ヤムチャの怪我も治り、全員無事だったものの、その場に流れる空気は重い。
「すまない、俺のせいでこんな事に…。この中で一番年長なのに、情けないよ」
「そんな、僕がドラえもんにタイムふろしきを使えなんて言ったから…」
「いや、そんな道具を持ってる僕が…」
「いい加減にしてよ!今はそんな事してる場合じゃないでしょ!?」
 静香が怒鳴った。そう、誰に責任があるかなど問題ではない。今しなくてははならない事、それは
フリーザを倒す事なのだ。
「しずちゃんの言う通りだ。みんなであいつを倒すんだ」
 一同の意見はまとまった。この時、ヤムチャの脳裏にある考えが浮かんだ。この事態を解決するた
めの最良の手段。宇宙救命ボートでもう一つの地球へ行き、悟空を呼んで来るというもの。しかし、そ
れを言い出せなかった。男のプライドか、悟空への申し訳無さか。
 安全策と男の意地との間で葛藤するヤムチャをよそに、話を進めるのび太達。
「何はともあれ、フリーザって奴の居場所を探さないと。きっと場所を移してるよ」
「よし、スパイセットを使おう」
「いや、フリーザの場所なら俺が分かる」
「ヤムチャさんが?」
「ああ、俺は生物から出ている気を感じる事が出来る。そして、気には人ぞれぞれ大小がある。フリー
ザくらいの巨大な気なら、簡単に分かるさ」
 子供達はみんなヤムチャを尊敬の眼差しで見ていた。あれだけ怪しんでいたスネ夫もだ。一日も経っ
ていないのに、ヤムチャは子供達にとって想像以上に大きい存在となっていた。
「そんな事も出来るんですか!?」
「タケコプターも無いのに空飛んでたしね、あれも気ですか?」
「俺、ヤムチャさんの弟子になりてえなあ」
 子供達の純粋な瞳を見て、ヤムチャは気がついた。この子達にとって、俺は英雄なのだと。その期待
を裏切ってはならないと。そのためにも、フリーザは必ず俺の手で倒すと…。

 

379 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/02 00:09 ID:???
 ヤムチャがフリーザの気を探る。探ると言っても、一瞬で見つかったが。
「かなり近いな…ここから北西500メートルくらいか」
 今彼らは源家にいる。フリーザは源家から北西に約500メートルの地点にいると言う。
「…学校の裏山らへんだ!」
「そうだ!きっと裏山にいるんだ!」
 裏山。その名の通り、のび太達の通う小学校の裏にある山だ。小さいながらも自然は豊富で、頂上に
は千年杉という背の高い老木がそびえ立っている。のび太お気に入りの場所でもある。
「裏山ってことは、フリーザはしばらく大人しくするって事だよね?」
 スネ夫が確かめるように聞く。だが、ヤムチャの返事は厳しいものだった。
「いや分からない。そこを拠点に、何かしようとしてるのかもしれない」
「うう…やっぱり…」
 不安が消える事はない。相手は星一つを平気で消し去る男だ。寝てるうちに全てが無くなったとて、不
思議ではないのだ。しかし、辺りはもう暗い。今は更なる戦いへ向け、英気を養う事が先決だ。
「君達は休め。明日からも戦いは始まるんだ」
「は、はい」
「じゃあ、壁紙ハウスを出すよ」
 壁紙ハウス。外見は家の絵が描いてあるだけの紙だが、壁などに貼り付けると、その絵に描いてある
ドアから亜空間で構成された部屋に入る事が出来る。秘密基地にはもってこいの道具である。一同はそ
の中に入り、明日も続くフリーザとの戦いのために眠りについた。ヤムチャ一人を除いて…。

 学校の裏山。フリーザは茂みに隠れて眠っていた。やはり生物なので、睡眠欲はあるらしい。だが、そ
の時間は人間より遥かに短かった。数十分で目を覚ます。
「なかなか良い場所です。睡眠用シェルター以外で眠ったのは何十年ぶりでしょうか…」
 そして、夜空を見上げる。裏山とは言え都会なので、あまり綺麗ではなかった。
「部下達に電波が届くまで、早くとも数日…。そうなれば、大々的に活動が開始できる…」

 

380 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/02 00:09 ID:???
 夜が明けた。壁紙ハウスの中の一同も、順々に目を覚ます。最後に目覚めたのは、やはりのび太だっ
た。それにひきかえ、ヤムチャは一睡もしていない。フリーザの気を一晩中警戒していたのだ。
「ふあ…おはようみんな」
「おはよう」
「おはよう、のび太さん」
「遅いぞのび太!」
「そうだそうだ!」
「おはようございます、ヤムチャ様」
「ああ、おはよう」
 各自挨拶も済み、ヤムチャが我々の地球に来てから二日目の朝となった。

 一方、世間は大騒ぎになっていた。特にのび太の両親は大変な事になっていた。二階が爆発したうえ、
息子は行方不明。母玉子はショックで失神し病院へ運ばれ、父のび助は今も警察と病院を行ったり来た
りしている。ちなみに今日の一面の見出しはこうだ。
「白昼、民家で爆発騒ぎ。小学生数名も行方不明」
 勿論こんな事態をのび太達が知るはずもない。のび太達は源家の壁紙ハウスで元気に生きている。

 そして、裏山で待機しているフリーザも朝を迎えた。裏山の頂上から、のび太達の町を見下ろすフリー
ザ。ここはフリーザにとっては未知の惑星なのだ。観察は怠らない。
「急に騒がしくなり始めましたね…。この星は明るくなると活動し、暗くなると活動を停止するようだ」
 当たり前の事を言っているようだが、フリーザにとってはそうではない。フリーザの母星である惑星フ
リーザは恒星が届かない区域にあるため、自然光がない。その上、フリーザ自身の睡眠時間が極端に短い
ので、「暗い時は休む」という概念が存在しないのだ。
「まずはこの星のドラゴンボールについて、少し調べますか…」
 フリーザは不気味な笑みを浮かべた。

 

403 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/03 00:57 ID:???
 壁紙ハウス内では、ヤムチャがドラえもんにある事を頼んでいた。
「君は不思議な道具を持ってるが、修行するための道具とかはあるのか?」
「ああ、ありますよ。百苦タイマ〜!」
 百苦タイマー。見た目はただの時計だが、これを使うと一分間に一度苦しみを味わう事が出来る。苦
しみとは言っても、決して抽象的なものではなく、人に殴られたり、車に轢かれたりと、到って具体的
なものである。それは百分間続き、ようするに百回苦しみを味わう事になる。しかも、その苦しみは時
間が経つごとに過激さが増していく。修行者のための道具だが、弱い人は五分くらいで死んでしまう事
もあると言う。
「じゃあ外に出てくるよ。けっこう危険な道具のようだからな」
「気をつけて下さいね。ヤムチャ様」
「心配するなプーアル」
 ヤムチャは百の苦しみを味わうため、外へ出た。果たして、ヤムチャは耐えられるのであろうか。

 その頃、裏山には捜索の手が伸びていた。行方不明になったのび太達を捜すためである。人間がいく
ら多かろうとも敵ではないが、ここで余計な体力を使うのも惜しい。フリーザは茂みに隠れていた。
「いたか?」
「こっちにはいません!」
「爆発地点から遺体が発見されなかったって事は、どこかにいるはずなんだ!捜せ!」
「しかしこれだけ見つからないと、何かの事件に巻き込まれた可能性もありますね。誘拐とか…」
「かもしれん…親達の話だと、宿題をやるために大勢の子供が集まっていたらしいが…。神隠しか?」
 朝から一時間余り捜索は続いたが、何の手がかりも発見できず、警官達は引き上げていった。ようや
くフリーザも茂みから出る。
「やっといなくなりましたか。まったくうるさいダニ共だ。部下が来たら全員殺してあげましょう」
 しかし、一体人間達は何を探していたのだろうか。フリーザは一つの結論に辿り着く。
「何かを探していたようですね…まさか、ドラゴンボール!?」

 

404 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/03 00:57 ID:???
 ヤムチャが壁紙ハウスを出てから、百分経った。間もなくヤムチャが帰ってくる。皆の予想に反して
ヤムチャは殆ど無傷だった。正確には服が汚れているだけで、体には傷一つついていない。
「殴られたり、トラックが突っ込んできたり、銃で撃たれたりしたけど、まあ何とかなったよ」
 所詮は平和な22世紀で作られた代物。常識を超えたパワーを持つヤムチャにとって、百苦タイマー
は修行どころか遊びにもならなかったのだ。ヤムチャも残念がっている。
「だが、これじゃあ修行にはならないな…」
 我々の地球では、ヤムチャが修行できるような場所はないのだろうか。“精神と時の部屋”もなけれ
ば、“界王星”もない。ここでヤムチャが聞く。
「重力を増やすような道具はないか?」
「一応、ありますけど…」
「それを出してくれ!頼む!」
「重力調節器〜!」
 重力調節器。健康診断で使う体重計のような外見だが、無重力から地球の百倍までの重力を、自在に
作り出す事が出来る。しかも、範囲設定も可能な代物だ。
 ヤムチャはもう一枚自分用の壁紙ハウスを貼り、その中で修行をする事にした。重力調節器があれば、
この地球でもそれなりの修行をする事が可能だ。
「何倍くらいにするんですか?」
「十倍は経験してるからな。二十倍にチャレンジしようと思ってる」
「に、二十倍!?」
「さっすがヤムチャさん!すっげえなあ!!」
「ヤムチャ様、頑張って下さい!」
「ああ、次はフリーザを倒してみせるさ!」
 フリーザを倒してみせる。それは偽りのヒーローを演じるための虚勢だった。いくら修行したところ
でフリーザに勝てるはずがない。それはヤムチャ自身が一番よく分かっていた。だがそんな表情は少し
も見せずに、ヤムチャは重力調節器を持って、もう一枚の壁紙ハウスの中へと入って行った。

 

405 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/03 00:58 ID:???
 ヤムチャが本格的な修行に入った頃、フリーザは裏山を散策していた。木を見たり、空を眺めたり、
時には昆虫を殺して自身の持つサディスティックな性癖を満たしたりもしていた。そんな未曾有の危険
地帯と化した裏山に、そうとは知らず登って来る人影があった。
「あれだけ警官がいたのに、もう誰もいないや。という事は野比君達はいなかったみたいだな…」
 それは出木杉英才だった。のび太のクラスメイトで、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、しかも性
格も良いという、四拍子揃った絵に描いたような優等生だ。裏山には自由研究のために来ていた。出木
杉の研究課題は「すすきヶ原周辺の環境指標生物」である。出木杉は、環境の汚染度を測る目安になる
動植物を調べる事により、すすきヶ原の環境悪化についての論文を仕上げようとしていたのだ。
 だが、その気配をフリーザが見逃すはずもなかった。フリーザは気を感じる能力こそないが、視覚や
聴覚などの五感は人間より遥かに優れている。出木杉が土や植物を採取している音を注意深く聞き、ゆっ
くりと忍び寄る。そして、ついにその時は来てしまった。
「この自然豊かな裏山も、環境汚染に晒されているんだな…」
 そう出木杉が嘆いた時だった。前方の茂みからフリーザが現れたのだ。普通ならここで叫びを上げる
ところだろうが、出木杉は違った。目の前の正体不明の生物、手足がなく全身機械で覆われている生物、
それを己の脳内にある知識と照らし合わせ分析しようとしていたのだ。
「こ、これは一体…?」
 だが、流石の出木杉にもフリーザの正体は分からなかった。すると、フリーザが話しかけてきた。
「ほっほっほ…少しあなたに聞きたい事があるのです」
「ぼ、僕に…?」
 出木杉は戦慄を覚えた。この生物に話しかけられた瞬間、出木杉の本能が脳内でこう囁いたのだ。絶
対に逆らうな、と…。そして、フリーザが威圧するように尋ねる。
「この星のドラゴンボールについて知ってる事を教えなさい」
 出木杉には心当たりがなかった。当然である。この地球にドラゴンボールがあると言う話は、ヤムチャ
のハッタリの産物なのだから。だが、何を思ったか出木杉はこう返事をした。
「ああ、あれの事ですか。詳しく話したいので、僕の家まで来て下さい」


 

449 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/04 00:41 ID:???
>>405
 出木杉は自分の家にフリーザを案内した。フリーザの超スピードを利用し、通行人に見られる事も防い
だ。手足の無いサイボーグが宙に浮いているところなど見られたら、たちまち大騒ぎである。
「どうぞ、ここが僕の部屋です」
 出木杉の部屋。勉強机と本がぎっしり詰まった本棚が数台、更に出木杉専用の電話もある。そのわりに、
部屋自体はきちんと整っており、いつ来客があっても恥ずかしくない状態である。出木杉は部屋の中央に
フリーザを招き、自分はその前で正座をした。
「さて、ここまで足を運ばせたのです。ドラゴンボールについて話してもらいましょうか」
「その事なのですが、実は僕はドラゴンボールという物を知りません」
「何ですって?」
「あなたにここまでご足労願っておいて申し訳ありませんが、僕には心当たりすらありません」
 フリーザの顔が怒りに歪む。それだけで、部屋全体が少し震えた。当の出木杉はそれ以上に震えていた。
「貴様、自分が何を言ってるのか分かっているのか?このフリーザを騙したんだぞ!?」
 フリーザが沸点に達する直前、その刹那、絶妙のタイミングで出木杉が土下座をした。
「是非、私をあなたの部下にして下さい!!」
 この予測不能な事態、フリーザの怒りも一気に静まってしまった。むしろフリーザは、未知の惑星でつ
いさっき出会ったこの少年に、かつて従わせていた部下達とは違う何かを感じていた。強い何かを…。
 出木杉は震えて汗だくになりながら、土下座を続けている。数秒後、フリーザがそっと口を開く。
「ほっほっほ…何が狙いかは知りませんが、いいでしょう。爪の役くらいにはなるかもしれませんしね」
「あ、ありがとうございます!!」
 フリーザと出木杉、ここに奇妙な主従関係が誕生した。

 もう一枚の壁紙ハウス。仮に修行部屋と呼ぶ事にしよう。修行部屋では、ヤムチャが早くも挫折を味わっ
ていた。二十倍の重力は想像以上の負荷となっていたのだ。まともに立つ事すら出来ない。
「く…十が二十になっただけで、ここまで違うとは…」
 無様に床へと這いつくばるヤムチャ。己の情けなさに、うっすらと涙を浮かべていた。

 

450 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/04 00:41 ID:???
 フリーザが出木杉と組み、ヤムチャが二十倍の重力に苦しんでいる頃、のび太達も遊んでいるわけでは
ない。フリーザとの対決へ向け、着々と準備を進めていた。
 のび太達が素手でフリーザに立ち向かう事など、到底出来ない。となれば、頼れるのはドラえもんの秘
密道具しかない。今は使えそうな秘密道具をピックアップして、それを元に作戦を立てているのだ。ある
程度話し合いは進み、各人のおおまかな役割分担は決まった。ドラえもんが指揮、のび太とジャイアンが
攻撃、スネ夫と静香が補助、という具合になっている。プーアルはその変身能力をより正確に俊敏にする
ため、独自に特訓をしている。プーアルは優秀だが、まだまだ伸びる余地は残っている。
「のび太君は熱線銃で戦ってくれ。ジャイアンはパワー手袋。ヤムチャさんの邪魔にならないようにね」
「うん!」
「任せてくれよ!」
「しずちゃんとスネ夫は、状況に応じて補助。支持は僕が出すから」
「分かったわ!」
「無理だよ絶対…。勝てるわけがないじゃないか!」
 スネ夫から漏れた不安の声。ジャイアンがそれを掻き消すように、拳を振り上げ怒鳴り散らす。
「スネ夫、殴られてーのかよ!」
「殴ればいいだろ!だいたい相手はあれだけ強いヤムチャさんを軽々と倒すような奴だぞ!?僕ら小学生
がいくら武器を持ったって、勝ち目なんかあるわけないよ!!」
 心の中に積もった不満を全て吐き出し、息を荒げるスネ夫。その迫力に、ジャイアンも何も言えなくなっ
てしまった。だが、のび太はそんなスネ夫に優しく声をかけた。
「分かったよスネ夫。でも戻りたくなったら、いつでも戻って来てよ」
「ふん、誰が戻るもんか!」
 そう言い残し、スネ夫は壁紙ハウスを出て行った。スネ夫、戦線離脱。
「あんな奴、いない方がよっぽどマシだぜ!」
 ジャイアンが強がりを言うが、仲間が一人減ったという事実。それがのび太達に与えた精神的ダメージは、
とても心構え一つで回復出来るような軽いものではなかった。

 

451 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/04 00:42 ID:???
 やがて、夜が来る。ヤムチャも修行部屋を出て、皆で夕食の時間である。夕食は買いに行くわけにいか
ないので、ドラえもんの道具で調達する。そして、ヤムチャはスネ夫が抜けた事をこの時に知った。
「そうか…スネ夫君が…」
「気にする事ないよ、ヤムチャさん!スネ夫なんか何の役にも立たねーよ!!」
「きっと、戻って来てくれるわよ」
 楽しいはずの夕食タイムも、終始辛気臭いムードが漂ったままであった。

 一方、スネ夫は自宅に戻っていた。一日無断で家を空けたので、両親に叱られた。だが、得意の嘘でそ
れを乗り切り、一昨日までの生活に戻る事が出来た。金持ちらしく豪華な夕食を食べ、自室へと入る。
「バカバカしい、何で僕が戦わなきゃならないんだ」
 勉強机にある椅子に座る。だが、別に勉強をする気は無い。
「これでよかったんだよな、これで…」
 スネ夫は言い聞かせた。ただの小学生である自分が、あんなサイボーグと戦う義務は無い。だが、喉に
小骨が刺さったような、釈然としない気持ちが残る。
「外へ出よう。家にいると、色々考えこんじゃうしな」
 夜も遅かったが、両親には「夜にしか出来ない宿題があるんだ」とまたもや嘘をつき、外出に成功した。
 外へ出たスネ夫は夜道をどこへともなく歩いて行った。目的地など無い。ただ、夜風に吹かれる事で、胸
に何かがつかえているような気分を解消したかった。やがて、足は裏山へ…。
「うわ、いつの間にか裏山!?フリーザがいるんだったよな…帰ろ…」
 その時、スネ夫の視界にある人物が入ってきた。出木杉だった。
「何で、あいつこんな所に…?」
 スネ夫も人の事は言えないが、優等生の出木杉が夜遊びとは考えにくい。更に、出木杉のすぐ隣にはあ
の男がいた。そう、フリーザである。
「出木杉とフリーザが…何で!?」
 二人は何やら話し込んでいて、こちらには気がついていない。スネ夫は近づこうと試みた。


 

474 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/05 01:27 ID:???
 スネ夫は二人の会話を聞き取ろうと、耳に意識を集中した。断片的にしか聞こえないが、分かった事が
一つある。出木杉はフリーザに襲われているのではなく、フリーザの仲間になっているという事だ。会話
の内容までは分からないが、お互いの口調くらいは分かる。出木杉の口調は、部下のそれだったのだ。
 フリーザと出木杉が組んでいるという事実。スネ夫の中のほんのちっぽけな正義感、それが警鐘を鳴ら
した。スネ夫は迷わずその足で源家へと向かった。
「ハァ…ハァ…早く知らせないと!」
 源家は鍵が開けっ放しで中には誰もいなかった。静香の両親も、娘の失踪で、てんてこ舞いなのだろう。
無用心だが、スネ夫にとっては好都合。そして、静香の部屋にある壁紙ハウスへ。
「おい、みんな!大変なんだ!!」
「す、スネ夫!」
「戻って来てくれたのか!」
「スネ夫〜!よく戻ってきてくれた!!」
 一番喜んだのはジャイアンであった。だが、スネ夫の顔は険しいものだった。
「とりあえず、僕の話を聞いてよ!」
 スネ夫は裏山で見た光景について全てを話した。出木杉がフリーザの部下になったかもしれない事を…。
「ま、まさか…何で出木杉が?」
「出木杉さんが…そんなのウソよ!」
「俺には分からないが、その子は友達なのか?」
「ええ、まあ…」
 信じられなかった。だが、息を切らしてまでスネ夫が持ってきた情報が間違いだとも、とても思えない。
理由は分からないが、出木杉はフリーザの手下になってしまったようだ。
「助けに行こうぜ!」
 ジャイアンが主張する。だが、今の戦力ではフリーザには遠く及ばない。壁紙ハウスでじっくり力を蓄
えてから挑まねばならない。のび太達の敗北、それは我々の地球の敗北を意味する。結局、出木杉の救出
は諦めざるを得なかった。フリーザさえ倒せば、出木杉も救えるのだから。

 

475 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/05 01:31 ID:???
 朝が来た。ヤムチャが我々の地球に来てから三日が経った。早いものである。今日はヤムチャも少しだ
けだが、睡眠を取っていた。挨拶と朝食も済み、ヤムチャは修行部屋へ入って行った。
「今日こそ、二十倍の重力を克服してみせる」
「ヤムチャ様、無理はなさらぬよう…」
「無理をしなきゃ、フリーザには勝てんさ」
 のび太達も、フリーザ戦へ向け作戦会議を始める。プーアルは昨日に引き続き、変化の修行だ。少しで
もフリーザに近づかねばならない。

 一方、フリーザは裏山にいた。やがて、出木杉も現れる。出木杉はフリーザと違い、睡眠時間を多く必
要としているので、一人だけ家に帰っていたのだ。
「おはようございます、フリーザ様」
「ほっほっほ…人間というのは不便ですねぇ。何時間も寝なくてはならないとは」
「あなたが羨ましいですよ。僕も睡眠時間が少なくて済むなら、もっと勉強が出来るのですが」
「熱心な人ですねぇ、あなたも」
 出木杉に与えられた任務は、フリーザに代わってドラゴンボールの情報を集める事である。出木杉は昨
日フリーザの部下になった後、ドラゴンボールについて教えてもらったのだ。軽く会話を交わした後、出
木杉は町へと下りて行った。フリーザは出木杉を縛り付けておくより、ある程度自由を与えた方が良い働
きをすると考えたのである。

 出木杉は図書館へ向かった。七つ集めると龍が現れ、何でも願いを叶えてくれるというドラゴンボール。
こんな夢物語のような球がこの地球上にあるのだろうか。古い文献などを手当たり次第に調べる。
「本当にあるのかなぁ…。僕にはとても信じられないよ」
 いくら調べても、ドラゴンボールに関係するような資料は出てこない。やがて昼となり、夕方になり、
図書館が閉まる時間となった。出木杉は何一つ得られる事はなかった。
「駄目だったか…」

 

476 名前:ドラえもん のび太と最強の男[sage] 投稿日:03/08/05 01:32 ID:???
 裏山へ戻った出木杉は、フリーザにありのままを伝えた。
「何の手がかりも得られなかったですって!?」
「はい、図書館にはドラゴンボールに関する資料はありませんでした」
 当然の如くフリーザは激怒した。出木杉を殺そうとも思ったが、惑星フリーザからの援軍が来るまでは、
この少年がただ一人の部下なのだ。
「まぁいいでしょう。しかし、こんな失態が続いたら殺しますからね」
「は、はい…」
 出木杉は自分の命がフリーザに握られてる事を、改めて思い知らされた。

 そして、夜になる。壁紙ハウス内では、今日は全員揃った楽しい夕食となった。飯時にまでフリーザと
の戦いを持ち込むのは、無粋と言うものだ。つかの間の休息を楽しむ。
「そろそろお風呂に入りたいわ…」
 自宅にいるにもかかわらず、風呂に入っていない静香はこんな愚痴をこぼしていたが。

 ここで舞台は惑星フリーザへと移る。コルド、フリーザの両名が死んだ事により、この惑星自体も死ん
でいた。何せ残された部下はフリーザという巨大な傘があったからこそ、傍若無人に振るまえたのだ。そ
の傘が無くなった今、彼らなどただのボンクラでしかない。今までフリーザの支配を受けていた星々の反
乱に、怯える日々を過ごしていた。ここに来て、ようやくツケが回ってきたのだ。
 だが、そんな惑星もにわかに活気付く。形だけは機能していた電波受信室に、SOS信号が入ったのだ。
その送信主は紛れも無く、死んだはずのフリーザであった。
「フリーザ様からだ!」
「生きていらっしゃったのか!?」
「よし、出発するぞ!フリーザ様をお迎えに行く!!」
 王族専用の巨大な宇宙船に、戦闘服を着た宇宙人が次々と乗っていく。惑星フリーザを救えるのは、フ
リーザしかいない。間もなく、宇宙船は出発した。最終決戦の日は近い。



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