3年間
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第21話 飛ぶネコ
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「ヤムチャさま、、元気出してください。
きっと見つかりますから…」
「あぁ…」
プーアルの言葉も、慰めにしか聞こえない。
「もういい……さ」
そう、、もともとランファンなど、『タダの浮気相手』なだけだ。
俺には関係ない……
アイツがどうなろうと・・・・俺には関係ないさ。
事件から一週間……
何の手がかりも無い・・・
それどころか、ようやく見つけたと思った手がかりが、
あっという間に消えてしまった。
「俺には、無理さ・・・。
これ以上調べたって、何も判りやしない。
こういう事は警察に任せておくのが一番さ…」
「ヤムチャさま・・・」
あれから、俺はすっかりやる気を無くしてしまった。
いや、『元に戻った』と言うべきか?
あんなに懸命になっていたのが馬鹿らしく思える
……らしくないな。
俺はこうしてるのが性に合ってる。
頑張ったって、、何かに熱くなったって
結局ソンするだけだ。
今まで何度と無く思い知らされてきた。
事件の関係でしばらく修行していなかったが、
当分再開する気にはなれないな。
俺の中の『闇』がまた大きくなりはじめていた。
いいさ、、、共に逝こう。
俺には日陰が一番似合う。
「ボクは行きますよ!!」
突然の行動だった。
プーアルがいきなり奇声を上げる。
「はぁ?何だって?」
俺は訳が判らず聞き返す。
こっちはバイトの時間だ。
いくらやる気がなくとも働かなければ
食うことも出来ない。
まったくもって憂鬱だ。
急いでるときに、何を言いだすんだこのネコは?
「ボクは警察と協力して、
きっとランファンさんを見つけ出してみせます!」
・・・
俺は呆れて何も言えない。
まぁいい。暫くすればプーアルも諦めるだろう……。
ったく、どいつもコイツも無駄な努力がお好きなもんだ。
大体、こんなネコを、警察が取り合ってくれるはずないだろう?
なんて思っていたら、プーアルが家を出て行く時には
すっかり『俺の姿』に変わっていた。
そうか・・・アイツ変身できるんだったな……。
今さら思い出す。
あれはアレですごい能力なのだが、
イマイチ役に立った記憶はない。
「「行ってくるぜ!」」
さらなる事態に俺は驚いた・・・。
俺の姿(プーアル)から発せられたその声は、
まさに『俺の声』そのものだったからだ。
(・・・いつの間に?)
ブルマにでも貰ったものだろうか?
大した念の入れようだ。
まぁガンバレよ……
そう思いながら、俺はバイトへ出かけた。
それから数日・・・
警察内での『ヤムチャ』の評価は日増しに高まっていった。
俺が行っていた頃は、武術の才こそ買われていたものの、
捜査という点ではさほど役には立てなかった。
だが、プーアル(ヤムチャの姿形だが)は、会議などにも
積極的に参加し、そのたびに鋭い意見を出しているようだった。
「飛べないネコは、ただのネコです!」
最近どこで覚えたのか、妙な口癖が板に付いてきたようだ。
プーアルは、かなり懸命に捜査に協力してる。
事件の現場の張り込みや、付近の住人への聞き込み、
はたまた警察内部での情報収集など、
忙しく飛び回っているようだ。
おかげで、捜査に当たっている刑事からの評判も
すこぶる良くなってきていた。
俺は複雑な心境だったが、もはや其れを手伝おうという気は起きなかった。
プーアル、もとい『ヤムチャ』は、まさに獅子奮迅の活躍だった。
だが、だからといって事件が劇的に解決に向かっているわけではなかった。
所詮、ネコ一匹増えたところで、
警察が全力を上げて捜査しても判らない事件が
急に解決するはずもない。
(やっぱりな・・・無駄、なんだよ)
俺はますます怠惰な生活に戻っていく・・・
「プーアル、、、お前も、か・・・」
みんな、、、俺を置いて遠くに行ってしまう。
一抹の寂しさを感じながら外を見る。
「・・・遅いな」
もう夕方だというのに、プーアルは一向に帰ってくる気配がない。
捜査に熱心になっているのだろうか?
(仕方ない……迎えに行くか)
あんなネコでも、今では俺の唯一の『友達』だ。
俺は世にも奇妙な空飛ぶネコを探しに出かけた。
段々と空が薄暗くなってきた。
雨でも降ってきたら面倒だ。
俺は急ぎ足で向かっていく。
ようやく警察署へと辿り着いた。
入り口付近に人影が見える。
ラルフだ。
今日も忙しそうに働いてるようだ。
声を掛けようとして、慌てて側の電柱へと隠れる。
(危ない、危ない・・・)
何せ、今『ヤムチャ』なる人物は、警察署内に居るはずだ。
俺が見つかれば大騒動になってしまう。
同じ人物が二人居る・・・など、怪奇現象としか思われない。
そうこうしているうちに、ラルフは車で何処かへと出かけていった
俺はしばらく物陰に隠れながら待つことにした。
だが、いくら待てども一向にプーアルが出てくる様子はない
『Flying "Cat"』 終
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第22話 灯台下暗し
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業を煮やした俺は、待つのを止めた。
本当なら出ていって、「プーアルは何処だ!?」などと
叫びたいところだが、奴は今『ヤムチャ』として活動してる。
俺はどうすることも出来ず帰ることにした。
もう空は暗い。
早く帰って、飯の準備しなきゃだな……
プーアルは今日は遅くなるのだろうか?
俺のため(?)に必死になってくれるのはアリガタイのだが、
それは別に俺にとって役に立つことではない。
ランファンのことも……
どうでもいいさ……
などと考えながら歩いていたら、俺は家とは別の方向へと来てしまっていた。
「ここは・・・」
そうだ。この場所は、俺とランファンが始めて会った場所。
西の都の外れにある小さなBAR……
まだ夜には早い。店も開いてはないようだ。
俺は心のどこかで、ランファンのことを想っている。
きっとそれは間違いない。
だが、それを認めてしまうと、俺は……
彼女を見殺しにしてるという罪悪感を感じてしまうだろう。
それゆえに、気付かないフリをしている。
(もういい。終わった事だ)
無理やりにそう結論付けると家路に着いた。
「ちっ、、、嫌な場所だ」
もう少し暗ければ飛んで帰るのだが、さすがにまだ人通りも多い。
仕方なく歩いて帰っているのだが、あのBARからの帰り道には、
どうしても『ココ』を通る事となる。
事件の唯一の目撃者として名乗り出た女。
多額の報酬と引き換えに嘘の証言をしていた女。
俺たちと接触したがために、犯人に消されてしまった女。
そう、ここはローザの家だった。
彼女の家の前を歩きながら、俺は妙な違和感を覚えた。
ローザが失踪してから、数日が経つ。
確か彼女は独り暮らしだったはずだ。
なのに……
「郵便物が、、、ない」
俺も数日家を空けただけで、ポストに得体のしれない広告や
様々な郵便物が溢れていたのを覚えている。
ましてや若い女の一人暮らしであれば、ポストが空くことなど
ありえない事だ。
誰か住んでいて、きちんと郵便を受け取っているのか?
それとも郵便物が"届く事が無い"家なのか・・・。
ラルフとの日々のお陰で、少しは俺の洞察力も上がってきたのか。
今までの俺だったら気付かなかっただろう。
俺は彼女の家へと足を踏み入れた。
不気味な静けさがこの家を支配している。
生活感はまるでない。
やはり誰も住んでいないことは間違いないだろう。
ココには誰も住んでいない……
数日前に失踪したにしては、生活感がなさすぎる。
まるで数ヶ月もの間、誰も住んでいないような感じがする。
俺はふいにテーブルの上にあった新聞を見つけた。
日付を見て、俺は愕然とする。
それは、1ヶ月以上前の日付のものだった。
そんな、馬鹿な??
大体、警察と一緒にココに来たんだ。
場所を間違えてるはずはない。
俺は何か大事なことを見落としてる気がする。
もしかして……
『ローザが犯人に消された』
なんていうのはタダの思い込みに過ぎなかったのではないか?
実際にニュースにもなっていない。
単に、彼女と接触した男が消され、
彼女を監視していた刑事が消された。
そして彼女があの時間に"ココに居なかった"。
『事実』はそれだけだ。
ただそれだけで俺は、
ローザは殺された、もしくは犯人に連れさられてしまった、
と思い込んでいた。
ローザは、今も別の場所に住んでいるのではないか?
俺は家を出ると、急いで走り出した。
もし俺の推理が正しいとしたら………
プーアルが危ない!
あのとき、俺はラルフに呼び出され、2人でココへ向かった。
ラルフも騙されていたのだろうか?
いや、きっと違う。
もし、ローザが嘘をついていて、
自分の家ではない、ココで対談していたとしたら
聡明なラルフであれば、当然気付いただろう。
それに、警察はローザを監視していたはずだ。
彼女が本当は何処に住んでいて、何者なのか判っている。
それをラルフは、敢えて俺をココに連れてきて、
彼女の家だと思い込ませた。
そして後日、『彼女が消えた』という
(恐らくは)偽の情報を植えつけたのだ。
なぜ?わざわざラルフは俺を混乱させるようなことを?
答えは一つしかない。
つまりは・・・・・
彼こそが、犯人と事件と関係のある人物ではないだろうか!?
『The darkest place is under the candlestick』 終
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第23話 その男の名は・・・
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ラルフのことだ。
俺がローザのことに気付くのは時間の問題だと判っていただろう。
今度は確実に俺を消しに来るはずだ・・・
そうすれば、事件の痕跡は残らない。
だが彼は俺が武術の達人であることも知っているはずだ。
『俺を消す』という事に関して万全を期してくるだろう。
だが、今『ヤムチャ』として警察に居るのは、プーアルだ。
アイツは何の力もない。
何の抵抗も出来ずにやられてしまう可能性が高い。
くそっ!間に合ってくれ!!
俺はさらにスピードを上げ、署へと向かった。
・・・・・署にはラルフもプーアルも居なかった。
ただ驚き慌てる警官が、騒ぎ立てているばかりだった。
こいつらもグルかもしれない・・・
疑心暗鬼になってしまうのも無理はない。
俺は余り多くを語らずに次の場所に向かった。
(プーアル、、、無事で居てくれ!!!)
俺はカプセルコーポレーションへと向かった。
………
「ヤ、ヤムチャさま・・・」
「ん?何か言ったか?」
運転席に座る男が尋ねる。
「気のせいだろ?俺は何も言ってねェぞ」
助手席の男が答えた。
「ほっほっほっ。いいから早く『アノ場所』へ向かいなさい。
この男を消さなければ、我々の身が危ないのですよ」
「はいはい」
全員が全身黒のスーツを着ている。
薄暗くなり始めた街を疾走する一台の車。
『次は、〜駅、■●駅。お降りの方は〜』
近くの駅のアナウンスが響いてきたようだ。
「ちっ、うっとおしい。
こっちは急いでるって時によ!」
男はさもイラついた様子で言う。
駅近くの踏み切りは中々空かない。
電車が止まってる時は、発車するまで待たされる。
こんな田舎ではスカイカー用の
空中道路も整備されてないようだ。
(ヤム・・・チャ・・・・・さま。た、、たすけて)
「ちっ。」
再度舌打ちをする男。
「しかし誤算でしたなぁ・・・
まさか『あの男』がこれほど執念深いとは。
ほっほっほっ」
後ろに座っている男が言った。
「そうですねー。
ラルフさんの読みでは、さっさとで諦めて
引きこもりの生活に戻るって言ってましたもんねー。
さすがのラルフさんも、ちょっと勘が鈍ったんじゃないですか?
はっはっは」
助手席の男が高笑いをしながら答えた。
「ほっほっほっ、ですが、まぁこういう時のための『アレ』ですよ。
あの男がどれだけ強いか知りませんが、、、
『彼』の作ったアレが在れば、確実に消せるでしょう・・・」
「ははは、怖ぇな〜。狂気の人同士、気が合うんだろうけど、
正直俺は、あの人とは関わりたくないぜ。」
「ほっほっほっ」
Trrrrrrrrrr
突然携帯の音がけたたましく鳴り響いた。
「はいはい、何でしょう?」
「ラ、ラルフさん!!
あ、、あの男が警察署にやってきて、、、
ラルフさんの居場所を教えろって言ってきたんですよ!!」
「あの男、、? あの男とは、誰です??」
「ガガガ・・・」 ツーツー。
「くっ、電波が切れたのか・・」
"あの男"だと? まさか?
「ト、、今すぐトランクを確認しなさい!」
「は、はい!」
男は車を止めトランクをあける。
「ラルフさん、ちゃんと居ますよ!」
「どういう事だ・・・?」
一瞬の静寂。そして……
ビュン!!風を切ったような音がする。
「こういう事さ!!!」
その直後、突然、闇が切り裂かれるように空気が揺らいだ。
そして一人の男が静かに降り立つ。
その男の名は―――
「ヤムチャ!?」
『His name is...』
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第24話 動き始めた時計
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俺はあの後、ブルマの元へと急いだ。
正直会うのは気まずいと思ったが、一刻を争う事態だ。
そんな悠長なことは言ってられない。
目的は一つ。
プーアルのために作った『音声変換装置』だ。
アレにもし発信機か何か着けていてくれたら・・・
俺は祈るような気持ちで玄関のチャイムを鳴らした。
「ブルマ、いるか?俺だ!ヤムチャだ!!
時間が無いんだ!!頼む。一つだけ教えてくれないか!?」
俺はブルマの家の居間に通された。
随分懐かしい気がする・・・
「ごめんね。待たせちゃった?」
暫くしてブルマがやってきた。
俺は簡単に用件だけを伝える。
「ひさしぶりだな」とか「元気か?」とか
他の会話をしている余裕など無かった。
「という訳なんだ。
プーアルにやった機械には発信機か何か着けていないか?」
「うーーん」
暫く考えてから、ポンっと掌をたたくブルマ。
「そうだわ。あれはマイクだから、音声だけはいつでも拾えるはずよ!」
「ホントか!?聴かせてくれ!!」
「オッケー!」
ブルマはなにやら装置をセットし始めた、
そして聞こえてきた『音』は・・・
「ガー!! ピッ!!ほっほっ。いいから早く ガガガガ。
この男を消さなければ、我々の身がガガ!」
ノイズがヒドイが、聞き取れないほどではない。
聞き覚えのある声・・・ラルフだ。
「はいはい」
知らない男の声がする。
『次は、〜駅、■●駅。お降りの方は〜ガガガガガ』
「これだー!!!」
「これよー!!!」
俺達は2人同時に声を上げた。
踏み切りか何かで待っているときに響いてきたのだろう。
西の都の北の端にある駅の名が、確実に聞こえてきた。
その場所ならすぐに判る。
俺は間髪入れずに家を飛び出した。
「サンキュー!ブルマ!!」
「ったく、、、いっつも勝手なんだから」
ブルマは久しぶりに会った元・恋人のことを
苦笑しながら、懐かしそうに見送った。
「どうした?誰か来たのか?」
ベジータがトレーニングから戻ってきたようだ。
「ん。ちょっとヤムチャが、、ね」
「ヤムチャだと!?」
ベジータが若干焦った声を上げる。
「あはは、心配しなくてもいいわよ。
別にもう何でもないし。
ちょっと前にプーアル君に上げた装置について、ちょっとね。
なんだか事件に巻き込まれたみたいよ」
「そうか・・・」
ちょっと安心した様子のベジータ。
「ねぇベジータ、もしヤムチャやプーアル君が
やばい事件に巻き込まれてたら、どうしよう・・・」
ブルマが不安そうな顔をする。
ベジータは複雑な心境だった。
元・恋人のことを心配する気持ちは判る。
彼にも若干の嫉妬心のようなものが、あるにはあった。
だが、それ以上に、自分もヤムチャのことが心配だった。
決して短くはない時間を、寝食を共にした仲間だ。
彼は表情に出さないまま、いかにも面倒そうに言った。
「ふん。今のヤツなら余程の事が無い限り大丈夫だろう。
まぁ、いざとなったら、この俺が行ってやる。
ヤツも今度の戦いでは、戦力として必要だからな」
精一杯の皮肉を照れ隠しに使いながら、
遠まわしに『危なくなったら助けてやる』という意を表わすベジータ。
「ありがとう・・・」
そういって寄り添うブルマ。
彼女も、最初は勢いから始まった関係だったのだが、
不器用ながらも意外に心優しいベジータの魅力に
どんどんと惹かれていってるようだ。
また、ヤムチャも同様にブルマのことは
随分と思い出さなくなっていた。
『それぞれの時』が、静かに、ゆっくりと動き始めていた。
『The clock which began to move』
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第25話 誤算T
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「こういう事さ!!!」
俺は、予想以上に早く、その車を発見できた。
車は駅から続く道を進んで、森林に入る直前、、、
よくある田舎の一本道を走っていた。
「思った以上に近くにいたんですね。ラルフさん」
俺は一歩一歩ラルフに近づく。
「ヤ、ヤムチャ・・・!」
ラルフはもう紳士の顔つきではなくなっていた。
側近の男たちも銃を構えている。
「アンタにしては珍しく焦ったんじゃないのか?
得意の話術で言い訳しないのかい?」
「ど、どういう事です!?何故貴方がココに!?」
「ふふふ、『ヤムチャ』を消そうとするなんてなぁ・・・
アンタにしては早まった決断じゃないか?
俺はまだアンタが犯人の一味かどうか
確信が持ててなかったンだぜ?」
「さぁどうする?言い逃れの出来ない状態だ・・・」
「くっ・・・」
一歩後ずさるラルフ。
完全に立場は逆転しているようだな。
以前少なからず畏怖の念を抱いた相手とはいえ、
俺の怒りは頂点に来ていた。
ランファンのみならず、プーアルまで・・・
その迫力が彼らにも伝わるのだろう。
「誤算だったな、ラルフ」
俺は怒りを押し込め、冷静に語りかける。
せっかく捕まえた『犯人の尻尾』だ。
ランファンの居場所を聞き出さなければ……
「いったい、、何故?」
ラルフは大分混乱してるようだ。
彼の焦っている表情を見るのは初めてかもしれない。
「ふん、簡単なことさ。
アンタらは情報操作は得意なようだが、
肝心なことを知らなかったようだな。
このところ、警察に行っていたのは
俺じゃなくて、俺に変身した『プーアル』さ」
そう言いながらトランクからプーアルを助け出す。
「な・・んだと?」
ボンッ!という音とともに変化が解け、
ただのネコに戻るプーアル。
「ヤムチャさまー!!!」
「プーアル・・・よかった、無事で。お前は隠れてろ!」
「はいー!」
そそくさと虫に変化して森へと隠れるプーアル。
こうなれば安心だろう。
「そ、そんな事が・・・
では何故ココがわかったのです?」
「ふっ、さすがに冷静だな、ラルフ。
だが質問の時間はおしまいだ!!
ランファンは何処だ!?
言っておくが、『知らない』なんて言わないほうが身のためだぞ。
さっさと吐いて楽になるんだな・・・」
「な・・んですと?私を脅す気ですか?
ほっほっほっ。これは面白い。
貴方の言うことなんぞ誰も信じやしません。
私は警察なんですよ?」
「ふっ。誤算だったな、ラルフ。
プーアルの使っていた音声変換装置には、
集音マイクが付いていたんだよ。
つまりは、、、、こういう事さ!」
「ガー!! ピッ!!ほっほっ。いいから早く ガガガガ。
この男を消さなければ、我々の身がガガ!」
俺は先ほどテープに取った部分を再生する。
ノイズがひどいが、確実に『ラルフの声』と判るものだ。
十分に証拠になりうるだろう。
勿論、プーアルの使っていた機器を使えば、
もっと貴重な情報も聞き取れるだろう。
ブルマの話では10時間程度は録音可能だという事だ。。
「今日一日分の『音声』はしっかりと録らせてもらったぜ」
若干の見栄を張って俺はラルフを脅す。
ガクっとうなだれるラルフ・・・
「ほっほっほっ。まさか貴方に遅れを取るとは、、ね。
本当に、私の誤算だったようですな。」
『Miscalculation T』
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第26話 誤算U
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私の計画は完璧なはずだった。
あの男さえ現れなければ、、、!
人外の力を持つ者たちの存在。
その噂は耳にしていた。
遠く昔、ピッコロ大魔王の時代から
幾度となく強大な力を以って地球を守ってきた者たちの噂。
『Z戦士』と呼ばれる存在だ。
表舞台では、天下一武道会でその勇姿を見たのが最後となる。
まさか、そのZ戦士の一人が計画を邪魔しようとは。
私は思考を巡らせた。
更なる周到な計画を練る。
そうだ。
ヤツらは力は強いかもしれないが、
頭はさほどキレないだろう。
それに幸いなことにやってきたのは
『ヤムチャ』という者だ。
彼はZ戦士の中では、力も頭も弱い方らしい。
だが、正面から行ってはダメだ。
まずは自由に捜査させておいて、何の手がかりも与えないでおこう。
事件の捜査などは想像以上にタイヘンなものだ。
素人である彼はすぐに諦めるだろう・・・
これが一つ目の誤算だった。
奴は意外に諦めなかった。
何と、私たちが誘拐した人物の一人と
恐らく浮気関係にあったという。
道理で必死なわけだ・・・・・困ったことになってきた。
私は次なる作戦に打ってでた。
ヤムチャは放っておくには危険すぎる。
その力は、我々には遠く及ばない。
なんとしても事件と切り離さなければならない。
私は偽の目撃者を容易した。
思ったとおり彼は頭はさほど良くないようだった。
私の仕掛けた罠にまんまと嵌ってきた。
そして、、、これからというときに、
彼女も誘拐されたことにすればいい。
彼の性格であれば、落胆は大きい。
きっと自ら手を引くだろう。
すぐには手を引かずとも良い。
これ以上彼女を調べることも無いだろうし、
今後何も情報を与えなければ良い。
なんという事だ。
ここで第ニの誤算が生じた。
彼は諦めないどころか、以前よりも
さらに事件に執着してきた。
前よりも頭もキレるようになってきた……
これはマズイ。
彼ほど力のあるものなら、
いずれ真相に辿り着く危険がある
私は焦った。急がなければ、、、
そして『彼』に連絡をした。
人類の狂気を集めた『アレ』を作っている彼に・・・
彼は、まだ試作段階だがヤムチャ程度なら勝てるといった。
これなら安心だ。
なんとしても今のうちにヤムチャを消さなければ・・・
私はヤムチャに睡眠薬を飲ませ、車に積んだ。
どうやら上手く行ったようだ。
急いで『彼』の元へ運ぼう。
そして一刻も早く消し去るのだ!
事件の痕跡は残してはならない。
しかし、またしても誤算が生じた。
ヤムチャを運んでる最中に、
何と、『ヤムチャ』が現れたのだ。
それでは私が車に乗せた人物は??
ヤムチャでは無かったのだ。
ソレはただのネコだった。
在りえない、、、変身だと?
馬鹿げてる!
人生長きとはいえ、これほど予想外の出来事が連続するのは
想像していなかった……
私は軽い屈辱を感じながら、次の手を考える。
この男は確実に私を殺すだろう。
それだけは避けなければならない。
しかも、念入りに我々の会話を記録したテープまである……
こうなった以上仕方がない。
彼とランファンは、会わせないわけには行かない。
そうだ、あの場所で引き会わせよう。
狂気、、、それこそが人の本質。
あの場所に行けば、きっと彼にもわかるだろう。
私の崇高なる理想が。
ヤムチャ、タダでは済まさんぞ………
誤算続きだったが、最後は真っ向から叩き潰してやる。
あの場所には忌まわしき『アレ』があるのだ!
その時こそ、一片の肉も残さず消し去ってくれよう・・・
私は狂気の笑みを浮かべた。
『Miscalculation U』
3年間
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第27話 惨劇の再会
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「いいでしょう。ランファンさんの元へ案内します」
「本当だな? ランファンは無事なんだろうな!?」
「今さら嘘を言っても仕方ありませんからね・・・」
そう言って、俺を車へと促すラルフ。
「それに、この状況で嘘を言うと、貴方に殺されかねませんからねぇ」
どうやら、嘘は言ってないような気がするが、
何か罠でもあるかもしれない。
まぁどんな罠があろうと、今は付いていく以外の選択肢はない。
「彼女は無事です…元気にしていますよ。ほっほっほっ」
この状況でも笑えるとは……
ラルフは恐らくまだ『何か』を隠し持っているのだろう。
だが、ようやく・・・ようやくランファンに会える。
俺はその喜びのほうが強くなり始めていた。
ランファン・・・
ドクン!
彼女のことを考えると心臓が激しく脈打つ。
俺の心が揺れ動く。
自分の意思で『会わなかった』時は、
そこまで気にはしていなかったのだが、、
どうしても『会えない』という状況に置かれると
恋焦がれてしまうのだろうか・・・。
俺はランファンのことを想う気持ちが
日に日に強くなっていた。
アイツは俺とおんなじだ。
世の中の理不尽さに負けて、世の中に背を向けて歩いてきたんだ。
・・・アイツが不幸になるのは許せない。
こんな思いをするのは俺だけで十分だ。
ランファン、、、絶対助けてやる!
どうか、無事で居てくれよ。
もう一度会えたなら、『お前のことが好きだ』と伝えよう。
そして、その後は………
2人で暮らそうな。
「ココです」
その場所に着く頃には、すっかり深夜になっていた。
西の都の遥か北の街。
名前さえ知らない街だ。
その中心で車は止まった。
華やかなネオンが光る歪な建物。
ナイトクラブ。
俺は地下へと続く階段を下りる。
(ここにランファンが居る!)
根拠など何も無いが、感覚のようなものが
ひしひしと俺の体に伝わってきた。
俺は足元を確かめるように、
階段を一歩一歩降りていった。
階段を降りきった先は、薄暗い狭い空間が広がっていた。
店の入り口だろうか、重厚なドアがある。
後ろではラルフたちがついてきている。
四面楚歌・・・とでも言おうか。
前も後ろも敵だらけ……だな。
ともかく中へ入る以外に道はない。
俺は重い扉を開くと店の中へと入っていった。
中から眩いばかりの光が溢れ出す。
俺は一瞬視界を奪われた。
そして次に目を開いた時に、俺が見たものは………
・・・・・
異常な世界。
明るすぎる光………
そして……
其処彼処で繰り広げられている『性遊戯』・・・
その店では、女は『見世物』だった。
鑑賞しながらワインをすする者。
女を買い、その行為に耽る者。
金持ちどもの狂った道楽…
一連の失踪事件、その被害者の女たちは、
この狂った道楽の『道具』に、金儲けの『道具』に使われていたのだ。
しかも、市民を守るべき警察であるラルフたちが率先して・・・
男も女も皆、薬漬けのようだ。
もはや、何も判断できないような表情で
延々と裸のまま、弄ばれている。
…まったくもって吐き気がする。
「き、さまらぁ・・・」
俺は言い知れぬ怒りを覚えた。
「ほっほっほっ、ここで暴れるのはマズイのでは無いですか?
罪の無い女たちも巻き込まれますよ?」
背後から声が聞こえた。
ふんっ、なるほど。そういう事か……。
さすがに策士だな。
「どうぞ、こちらへ・・ほっほっほ」
俺は、はやる気持ちを抑えながら
ラルフに促されるまま部屋の奥へと進んだ。
「うお!!!」
突然床が開いた。
いくら舞空術が使えるとはいえ、急には反応出来ない。
俺は何とか地面への直撃を免れ、上を向いた。
すでに俺が落とされた"穴"は閉じられていた。
上方のガラス越しにラルフが見える。
周囲には扉もない。
密閉状態のようだ。
だが……この程度で俺を閉じ込めたと思っているのか?
「ほっほっほっ。前を御覧なさい、ヤムチャさん」
相変わらず、俺の考えてる事が判っているかのように
余裕の声でラルフが言う。
俺は言われるがまま前方を見た。
一箇所だけガラス張りの面がある。
そして、その先には―――
「ラ・・・ンファン?」
そう、そこには・・・彼女が居た
。
俺が捜し求めた愛しの女。
無残にも全ての衣類を剥ぎ取られ、
幾人の男達に囲まれて・・・・・
あぁ、何と言うことだろう。
想像していた中で最悪の・・・いやそれ以上の惨劇。
目の前では、薬漬けのイカれた女が腰を振っている。
俺の記憶の中のランファンとは、余りにもかけ離れている。
・・・・・どうやら今日は『惨劇の夜』になりそうだ。
コイツラを、全員殺したって気が収まりそうにない。
『"Meet again" in Tragedy 』
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第28話 鬼眼
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「ほっほっほ。ソコは特別室ですよ。
「今夜の主役はヤムチャさん、貴方ですからね!」
ふいに眩いばかりのライトに照らされる。
「きゃははは!ようこそ♪エンジェル・クラブへ」
突然女が飛び出してきた。
無論、その声など俺には届かない。
ただ一点を見つめたまま、俺は動けない。
ココハ何ナンダ?
「きさまらは、、、狂ってる……」
言いながら俺も頭がどうにかなりそうだ。
「あっはははは!アンタ面白いわねぇ♪」
「クルッテル??じゃぁ聞くけどさ〜。マトモって何さ〜?」
よく見れば、こいつはあのときの女だ。
名前は何だっけ?
女は尚も笑いながら続ける。
「きゃははは。み〜んな一緒よ♪」
「正常と異常の違いなんて無いんだから〜。
そんな邪魔な感覚捨てて楽しもうよ。 ねっ♪」
そう言って俺に絡み付き、ワインを含んだ唇で接吻けてきた。
(煩い女だ・・・)
俺は振りほどく事さえ煩わしく思う。
あぁそうだ、思い出した。
こいつは、確か……
「ローザ・・・」
言いかけて、ふいに、視界がグラリと揺らいだ。
ドン!!
俺はローザを突き飛ばす。
「!? なっ!!何するのよぉ〜!」
不意を付かれたローザは無様に地面に転がる。
「がっ・・・はっ!!」
俺はそんな事は、お構いなしに唾を吐いた。
口の中が苦い……口に入ったその"何か"を吐き出す。
「お前・・・?」
「きゃははは!あとちょ〜とだったのにぃ♪」
無邪気にオドケテみせるローザ。
「これ呑んだら一瞬でイケちゃうんだからぁ。」
「あぁ〜あ。もーたいなぁい〜」
そう言いながら、ローザは地面に零れた俺の唾に、
わずかに残ったソレを嘗め回す。
改めて思う。
やはり、こいつらは狂ってる。
「お前もグルだったのか・・・?
それとも堕とされたのか?」
俺の質問など、まるで聞こえていないかのように、
ローザは懸命に床に落ちたソレを嘗め続けていた。
「ほっほっほっ、ようこそヤムチャさん。
ショータイムの始まりですぞ!!!」
場違いな低く、それで居て楽しげな男の声が響き渡る。
「ラルフ・・・・・!」
「ふふふ、貴方がそんなに頭が切れるとはねぇ。正直予想外でしたよ」
「まさか私が遅れを取るとは・・・ね」
パチパチパチと拍手をしながら言う。
「ふざけるな!貴様ら全員覚悟しろよ?
ランファン!!今助けてやるからな!」
俺は、正面のガラスめがけて気功波を放つ。
そこに穴を開けて、ランファンを救出―――と行くはずだった。
だが、波動をまともに受けたはずのガラスや壁は、
穴が開くどころか、へこむ事すらなかった。
「な・・・にぃ?」
「ほっほっほっ。そんなに焦るもんじゃありませんよ。
ソレは貴方程度の力では傷一つ付きませんからねぇ」
「なんだと!?」
「何せ『彼』が、貴方達『Z戦士』を倒すために
心血を注いで作ったモノですから・・・ほっほっほ」
どういう事だ?俺達を知っている人物が後ろに居るのか?
だが、そんな事を考えてる暇は無さそうだ・・・
「貴方はソコで死んでもらいましょうか。」
ラルフは狂気の笑いを浮かべていた。
いくら殴っても、気功波を放ってもその『壁』には傷すら付かない。
「はぁはぁ・・・。ど・・・どういう事だ?!」
「ランファン!! ランファーン!!!
待ってろよ・・・今、今助けるからな!!」
目の前では狂った営みが永遠と続いている。
見ているだけで気分が悪くなる。
最悪なことに向こうの『音』は、丁寧に
こちら側にも聞こえるようにしてあるようだ。
ランファンと男達の、聞きたくもない息遣いが聞こえてくる。
「ちっくしょう!!
ランファン、聞こえるか!?
今助けてやるからな!!」
ランファンは相変わらず何処を見ているか判らない表情のまま、
男達と交わり続けている。
「はぁぁあああぁぁあアアア!!!」
俺は言葉にならない声で叫びながら、
全力でかめはめ波を放つ。
身体中の気が凝縮されたエネルギーの塊が放射される。
だが、どんな力を以ってしても、結局は徒労に終わった。
ようやく・・・ようやく目の前にまで来たのというのに。
俺は何もできないのか!?
「ランファァーーーーン!!!」
「ほっほっほっ。無駄ですよ。
貴方の声は向こうには届きません。
もっとも届いたとしても、
すでにあの女に意識などありませんがね」
ラルフが狂ったように笑い続ける。
ヤメロ!
キキタクナイ!!
お前の声も、ランファンの声も、、、何も、何も聞きたくない!!
俺は、ありったけの憎悪をこめて睨む。
ラルフはまるで、それを楽しむかのように微笑みを浮かべている。
その視線は、冷たく、暗い……。
もはや人間のソレではないように感じられた。
『demon's eye』
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第29話 サイコガーデン
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「ほっほっほ、さぁて、その"ゴミ"を片付けてくださいな」
パチン!と指合図を鳴らす。
『ウィーーーン』という電子音と共に、
数人の男達が飛び出してきた。
1人、2人、、、3人………。
全員が防護服のようなもので全身を包んでる。
口元までそれに覆われているおかけで、
表情はあまり見えないのだが、
その眼は不気味なまでに『無表情』のように思える。
だが、殆ど気"も感じない。
多少は訓練されているようだが、俺の相手ではないだろう。
「はっ!まさかコイツラ如きで
俺を消せるとでも思っている訳じゃないだろうな?」
俺は半ば飽きれた表情でラルフを罵る。
だが、彼もあくまでも余裕の笑みを崩さない。
「思って・・ますよ…」
ラルフが不気味な笑みを浮かべる・・・
と同時に彼らが襲い掛かってきた!
何のことはない。
スピードは常人よりは速いものの
俺からすれば、余りにも遅すぎる。
一人目の打撃をすれ違い様にかわし、後ろ蹴りで蹴り飛ばす。
同時にニ人目の蹴りをしゃがんで避けると、
鳩尾に軽く殴打を加える。
その一撃で反対の壁まで吹き飛ばされる敵。
やはりコイツらは対したことはない……
三人目は・・・と探していると、ソイツは銃を構えていた。
その先からエネルギーの塊が発射される。
なるほど・・・これは確かに中々の威力のようだ。
スピードもそれなりだ。
これがヤツらのとっておきだろうか?
俺は全身の気を掌の集中させる。
「か〜め〜は〜め〜・・・」
ランファンの居る方向とは違うことを確認すると
遠慮のない一撃を放つ。
「波ぁーー!!!!!」
人を殺す……ってのは気分の良いもんじゃない。
盗賊時代から、俺は殺しだけは避けてきた。
どんな悪党から盗みを働くときも、
その命を奪うことは無かった。
だが、仕方ない……ココは狂ってるのだから。
殺しなど罪にならない気がしてくる。
「はあああああー!!!」
俺は尚も気を高める。
銃から放たれたエネルギー波を完全に消し去り、
その波動は更に大きなうねりとなって、
二人の敵を飲み込んでいく・・・
(・・・殺した…か)
別に、だから何だという気持ちはない。
ランファンを助けるんだ。
その大義名分のためなら、どんなことも赦されると思う。
「さて・・・後一人だな」
「ほっほっほっ、ヤムチャさん、後ろをご覧なさい。
相変わらず見た目で判断するとは・・・。
悪い癖は治ってないようですねぇ」
「なにぃ!?」
言われて振り返ると、二人は全くの無傷であった。
壁にも焦げた跡が付いた程度だ。
ココは何かがおかしい……
「そ・・・そんな!?」
俺は少なからず動揺した。
少なくとも付近一帯を吹き飛ばすほどの
エネルギーを溜めたはずだ。
彼らが無事で居られるはずがない……
その隙に、背後から先ほどのエネルギー波が発射される。
「ちぃっ!」
俺はすぐさま飛んで避ける。
3人とも同じ武器を装備しているようだ。
こいつは意外に厄介だ……
ここのように狭い場所では避けるのが難しい。
おまけにランファンの声にならない悲鳴は
どんどんと大きくなっていく……
いい加減にしてくれ!
気分が悪い……
グニャリ・・・
視界が大きく歪んだ気がした。
!?
その刹那………俺は左肩に激しい衝撃を感じる。
「がはっ!!」
敵の一撃が命中してしまったようだ。
「ほーっほっほ。効いてきたようですねぇ・・・。
どうです?生身の貴方には堪えるでしょう?
神経の感覚を狂わせる、魔性の薬・・・
貴方の愛しのランファンさんも、
そこで寝ているローザさんも、
み〜んなソレの虜なんですよ・・・」
ラルフが不気味な笑みを浮かべる。
まさか……
「その"まさか"ですよ。
その部屋の空気は、濃密な"薬"を溶かし込んであるのです。
さすがの貴方も、そろそろ危ないんじゃないですか?
ほっほっほ」
グラぁ〜・・
確かにラルフの言うとおり、段々と身体の反応が鈍くなってきた。
あぁ、アイツラが装備してた服・・・あれはこの為だったのか。
相変わらず鈍感だな、俺は。
自分で自分が嫌になるぜ。
・・・こいつはやばい状況になってきた……
「ほっほっほ、さすがのヤムチャさんも薬には敵わないようですねぇ。
ついでに良い事を教えてあげましょうか?
その者たちが装備してるモノ・・・
それは薬から身を守るだけでは在りませんよ」
「それは貴方たちの言うところの『気』の力を無効化するんですよ!
当然、特殊材質で通常の攻撃もほとんど無力化してしまいます。
つまり・・・貴方の攻撃は何一つ効かないんですよ!」
何てこった・・・。
道理でさっきのかめはめ波でも、二人とも無傷だったわけだ。
「もっとも『彼』は無効化するだけじゃなく、
将来的には『気』を吸収するのが目的だと言ってましたがね。
まぁ、貴方程度の相手ならば、吸収する必要などありませんな。
ほっほっほ、ソコが貴方の墓場のようですねぇ〜」
俺は必死で攻撃を避けつつ、反撃を試みる。
だが、やはり何一つ効かないようだ。
ふと前を見る。
ランファン………
俺が捜し求めた女・・・
俺は・・・一言だけで良い。
お前に謝りたかったんだ。
目の前では相変わらずイカれた女が腰を振っている。
ダレだ?コイツは??
ホントにランファンなのか??
薬のせいだろうか?
良く判らなくなってきた。
段々と全てがどうでもよくなってくる・・・
先ほどから背中が酷く痛い気がする。
あぁ、そうか・・・敵が攻撃してるんだっけ?
まぁいいや……。それも遠い世界のことのように感じる。
まったく・・・こんなトコに来るんじゃなかった。
柄にも無く、『誰かを助けたい』・・・だなんて。
俺には荷が重すぎたようだ。
ランファン・・・ごめんな。
やっぱり俺はダメみたいだ。
ココは何でも赦される狂気の世界・・・
だけど、俺は………
無力な俺は……
きっと罪 ・ ・ ・ だな。
『Phycho garden』
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第30話 存在理由
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「グハァ!!」
またしても敵の攻撃をまともに喰らってしまう。
俺は思考する事も困難になってきた。
視界も、そろそろ消えかかっている。
朦朧とした感覚の中、ドンっ!と何かに躓いて倒れてしまった。
『ソレ』は、ほんの先刻まで名前を持った『人間』だったモノ・・・
恍惚の表情のまま、この世に別れを告げた若い女の肢体だった。
「ローザ・・・」
俺の攻撃か、敵の攻撃か判らないが、どちらかに巻き込まれてしまったのだろう…
だが、彼女のことを憐れむ余裕など、今の俺には無かった。
「ほっほっほ、どうです?
だんだんと痛みを感じなくなってきているでしょう?
ソレはただの麻薬じゃありません。
忌まわしき『アレ』を造るために、
『彼』がどうしても欲したものなのですよ・・・」
「人類の夢・・・不老不死を、そして全てを壊す力を!」
「私と彼はもうすぐ手に入れるでしょう……」
ラルフが何か叫んでいる気がするが、良く聞こえない。
俺は何とか立ちあがろうとする。
しかし激しい衝撃と共に再び倒れてしまう。
一撃だけを見れば、そこまでの威力ではないが、
ココまで連続して受け続けるとさすがにヤバイ。
『もう諦めな・・・お前には無理なんだよ』
俺の中の『闇』が優しく語り掛けてきた。
もう・・・いいや…
そろそろ肉体は悲鳴をあげ始めている。
薬のおかげか、さほど痛みは感じない。
俺・・・何しに来たんだっけ?
だんだん意識が揺らいでくる。
まったく………最期まで損な役回りだったぜ。
「ほっほっほっ、そろそろ限界のようですね〜」
今度ははっきりと聞こえた。
『限界』
そのとおりだ。俺にはもう立つだけの力も残ってない……
薬のせいか、敵の攻撃のせいか、
とにかく俺の身体は言うことを聞かない。
俺はずっと、ずっと自分を裏切り続けてきた。
才能を言い訳に、修行をさぼって……
そのツケがまわってきたようだな。
俺がこの世界に存在する理由など………どこにも無い。
俺はこの世界から必要とされてないのだから。
「ほぅ、中々諦めの悪い人ですねぇ。
もっとも今さら立ち上がったところで
貴方には何の力も残ってないでしょう」
「ほっほっほ」
耳障りな声だ。大体、俺にはもう立つ力なんて残っちゃいない。
・・・?
俺は、ぼやけた視界の中で自分の足元を見る。
どうやら俺は立ち上がっているようだ。
(なんで俺は立ってんだ?)
ラルフの言うように今さら立ち上がったって、何も出来やしない…
攻撃が来る……判っていても避けられない。
抵抗するだけ無駄なんだ……
ドォーーーン!!!
けたたましい爆音が響き渡る。
気付けば、俺は無意識のうちに気功波を放っていた。
「まだ抵抗する力が残ってましたか。
やはり、貴方は侮れない人ですねぇ・・・
絶対にそいつを殺しなさい!!いいですね!!」
抵抗?何を言ってやがる。
俺はもう何もする気なんてない・・・
思いとは裏腹に、薄れ行く意識のなか、
俺の身体は敵の攻撃を避け、打撃を加えていく。
『銃』に対しては、気功波で迎え撃つ。
段々と動きがシャープになっていく。
俺は何をしてる?
こんなことしたって無駄だ・・・
俺は………
「・・・ム・・チャ・・・」
その時だった。
ただの聞き間違いかもしれない。
薬のせいで幻聴を聞いたのかも知れない。
でも確かに"聞こえた"
俺を呼ぶ声が・・・(俺を呼ぶのは誰だ?)
「ヤ・・ムチャ・・・・・」
彼女が、俺を呼ぶ声が聞こえる。
彼女? 彼女は誰だ?
そうだ・・・アイツは・・・・
アイツの名前は・・・
ランファン………ランファン…!!
「ランファ----------------ン!!!」
俺は、ありったけの力を込めて叫んだ…
そうだ。俺は何を諦めてたんだ?
せっかくココまで来て、
また前と同じように闇に溺れるのか?
大好きな女が目の前で苦しんでいるというのに、
俺はまた逃げるのか!?
そんなのは、もうイヤだ。
俺は……
俺はランファンを助けるんだ!
例え、この身がどうなろうとも。
「オレはランファンを助けるんだ!!!」
そうだ。それが今の俺の『存在理由』だ。
アイツは不幸になっちゃいけない。
俺は、何としてもアイツを助けなきゃならないんだ。
俺自身の、ためにも……
俺は全身の力を振り絞り『気』を解放した。
『Justification for Existence』