">remove
powerd by nog twitter


3年間



------------------------------
第31話 覚醒
------------------------------

「うぉぉぉぉおおお!!!」

俺は声にならない声で叫ぶ。
激痛と快楽の狭間に酔う自分の身体を
無理やりに突き動かすために。

周囲では、3人の男が交互に『銃』を放っている。
「はぁ!!」
「なっ!?消え・・た??」
瞬間の超スピードにより敵の眼から逃れる。
と同時に背後に回りこんで至近距離からのエネルギー波を放つ。

『1点』に全ての力を込めた攻撃。
さながらピッコロの『魔貫光殺砲』のような一撃。
どんなに高性能な防具でも、一点に集中すれば貫けないことはない。
僅かとは言え、俺はその防護スーツに『ヒビ』が入ったのを見逃さなかった。

(倒す方法は・・ある!)

俺はさらに力を込める。
もう少し・・・もう少しだけ持ってくれ。俺の身体よ……
そう思うと同時に敵の身体は内側から爆発していた。


「ねぇ、ヤムチャ〜、私達ってさぁ……似てると思わない?」

ふとランファンとの他愛の無い会話がフラッシュバックする。

「ん?あぁ、そうだなぁ〜似てるな」

(出会ったときから、そう思っていたな)

「どこが、だと思う?」

「んー、世の中のはみ出しモンってトコかな?
 親も知らず、不幸に育ってきたもん同士だもんな」

そう言って自嘲気味に笑う俺を見て、ランファンは微笑みながら言った。

「あはは。そうかもね。でも違うわ」

「ん?何が〜?」

(違う?何がだ?)

「私は今、最高に幸せよ。貴方と一緒に居れて幸せだわ♪
 例え偽りの時間でも……ね」

「はは……」

苦笑する俺をよそに、ランファンは満面の笑みを浮かべていたっけ。
あの頃の俺は、ブルマともランファンともどっちつかずで、
どちらにもいい顔をして、適当な相槌を打って・・・
本当に最低なヤツだったな……。

彼女は判っていた。自分の"立場"を。
自分が所詮はただの"浮気相手"でしか無いことを。
それでも彼女は、『自分は幸せだ』と言った。

「貴方は違うわ……貴方はきっと今、不幸な時間を生きてる。
 ブルマさんとも上手く行かなくって、修行も捗らなくって……
 でもそのお陰で一緒に居れるんだもの。感謝しなくちゃね♪」
「ふふふ♪」

そう言って悪戯っぽく笑うランファン。
そういう時ほど余計に可愛く見えたものだった。

「ははは……そうだな」

俺は適当な相槌を打っていた。


「でも、私達はよく似てるわ・・・」

その時、ふと彼女が見せた寂しげな表情が忘れられない。

「貴方も…私も…出会った相手を
 不幸にする事しか出来ないって思ってる……」

図星だった。
俺はいつだってそう思って生きてきた。
プーアルと居た時も、仲間と居たときも、
ブルマと居るときも、そしてランファンと居るときも……
俺は相手を不幸にしてしまう、周囲の役には立てない。
俺には誰かを幸せにしてやれるだけの力などないんだ・・・と。

「ふふふ。世の中からハズレた者って良い表現ね♪」
「でも貴方は本当は違うわ・・・
 私の届かない高い空まで行ける翼を持ってるの…」
「忘れないで・・・私は貴方に会えて幸せになれたのよ……」
そう言って背中越しに抱きついてきたランファン。
俺は彼女に悟られないよう、引きつった笑いを浮かべる事しか出来なかった。

その時は――

(ランファン……きっと君も同じ悩みを抱えてたんだな)

今なら判る。彼女の気持ちが。
彼女もずっと同じ想いをしてきたのだ。

俺がブルマのことを思い出すたびに、
俺が愛想笑いを浮かべるたびに、
彼女の心は泣いていたのだ。

『自分には、この人を幸せにすることは出来ない・・・』

そんな現実を突きつけられたような気分だったのだろう。

「ごめんな・・・」

ぽつりと呟く。
今までの形だけの謝罪とは違う。
強い決意を抱いた言葉だ。


君に会えて、俺は変われたんだ……
あんなに苦しい想いをさせていたのに、
それでも彼女は、『俺に会えて幸せになれた』と言ってくれた。

……今度は、今度は2人で幸せになろう!

こんなトコで、こんなコトで、こんな形で、
終わっちまうわけにはいかない!

壁の向こうでは相変わらずの狂った惨劇が続いてる。
こちら側には煩い蠅が2匹、部屋を飛び回っている

「邪魔なんだよ!てめぇらは!!!」

俺は更に気を高める。薬に溺れそうな意識を必死で繋ぎとめる。
この『意思の力』の最大の源は、おそらく怒りだろう。
俺の中で、ラルフへの怒りと『自分への怒り』が激しく渦巻いている。


俺の周囲には紅く燃える炎のような『気』が具現化している。
『界王拳』と呼ばれる技――
己の力を数倍にも高めてくれる技だ。
だが、同時に肉体には激しい痛みが伴う。
そういえば界王星では、俺が一番最初にこの技を習得したんだったな。
その時に、やたらと天津飯が怒っていたのを想いだす。
初めてちょっとした優越感に浸れた瞬間だった……
ヤツの滑稽なほどの激高ぶりを思い出し含み笑いをこぼす。

こんな時におかしな事を思い出すもんだ。
そんな事を考えながら、俺は更に気を高めていく。
痛みの感覚が薄れている今なら相当な力が出せそうだ。
後は目の前の蠅どもを叩き潰すだけだ。

……きっと勝てる。

「行くぜ!!!」

『Awakening』 完



------------------------------
第32話 飛翔
------------------------------

(あと二人・・・!)

いくら最高のスーツで防護したとしても

いくら最高の武器を身につけていても、
所詮、敵は『タダの人間』だ。

俺はスピードで撹乱しながら
隙を突いて攻撃を加えていく。
あまり長引かせるのは得策じゃない・・・。
俺は先ほどと同様に、一瞬で背後に廻ると渾身の一撃を放つ。

「ほっほっほ、貴方程度の攻撃じゃ、ダメージには為りませんよ!」
ラルフが得意げに笑う。
どうやら彼も、昔の俺と同じだな・・・
大事なものが見えていないようだ。

「はぁああ!!」

さらに力を込める。そして全力でエネルギー波を放つ。
激しい爆音と共に、たった一撃で砕け散る男。

「な!?そんなバカな!?」


血にまみれた手を拭くこともなく、
俺は3人目の標的に狙いを定める。

「狼牙風風拳!!」

俺の得意技、高速の連続攻撃・・・
これ程の界王拳を使っているわりには、
やはり思うように身体は動かない。
神経系統が麻痺し始めてるのかもしれない。

敵も死ぬ気で反撃してくる。
だが今の俺には、その動きが手に取るように判る。
銃の攻撃を横っとびで交わすと、
さらに間合いをつめ、敵の懐へと入る。

「くらえ!!」

思いっきり力を込めたボディーブロー。
そして、『一点』だけに力を最大限に集中したエネルギー波を放つ。
またしても崩れ堕ちる敵。

「そ、そんな事は在りえない!!
 その防護スーツは、どんな攻撃だって・・・」

混乱した様子のラルフ。
それを見て俺は、ふっと笑った。


「そんな事も判らないのか?」
「まぁ貴様には一生かかっても判らないかもな」

ラルフに軽蔑の言葉を投げ掛け、俺は敵の方を振り返る。
敵は焦った様子で突っ込んできている。
こいつは好都合だ。

「俺の一撃はなぁ!!」

俺はソレを後ろに飛んで避けると、
横から一気に回り込む。

「"想い"の分だけ、"重さ"が違うんだよ!!」

そう・・・あの日、チャオズが教えてくれた。
『強さ』なんて、曖昧なものでしかない。
たとえ力で劣ろうとも、"想い"をこめた一撃は
何よりも、誰よりも重いのだ、と。

それが判らなかった・・・

「ラルフ、お前の負けだな!」

その瞬間、敵の身体は原型を留めることなく
ただの肉塊となり無残に飛び散っていった。


ぐらぁ〜。

強がってはいるものの、俺の身体は相当に悲鳴を上げている。
しかも痛みの感覚が薄いのでそれに気付きにくい。
本当に危険な状態かもしれない。
はやくケリをつけなければ。

「ランファン!今助けるからな!!」

俺はランファンの居る"壁"のほうへ向けて、
ありったけの力を籠めて、気功波を放った。
ドォーーーン!!
凄まじい衝撃と共に、爆煙が舞い上がる。

先ほどは傷一つ付けられなかったが、
界王拳を使っている今なら壊せる。
そう思っていた。

だが――。

その煙が晴れるころ、俺が見たものは
相変わらず悠然と構える『壁』だった。


「ほーっほっほ、いくら人は倒せても、
 その壁は貴方には破れないようですねぇ。
 やはり、貴方はソコで死ぬ運命のようですな!」
ラルフが気を取り直したように落ち着いた口調で言う。

ちっ、確かにヤツの言うように、こいつを破らない限り
ランファンを助けるコトはできうがない。

あれこれ考えてる間にも薬は脳内を駆け巡り、
俺を闇へと引きずり込もうとしている。

急がなければ・・・
その時だった。

『ウィーーーン』

嫌な電子音と共に、またも壁の端が開いた。
そこから出てきたのは、先ほどと同じような
防護スーツに身を包んだ5人の男たちだった。

   『Fly High』



------------------------------
第33話 仲間と呼べる者たち
------------------------------

彼らは一斉に俺に銃を向ける。
無機質な物体の切先、その銃口にエネルギーが集中する。
(ヤバイ!!)
俺は一瞬の判断で上空へと飛び上がった。
その瞬間『俺が居た場所』は爆炎に包まれていた。
(あぶなかった・・・)
ドーン!と一瞬遅れて衝撃が襲ってくる。
俺はその爆風で壁へとたたきつけられてしまった。
「ぐふっ…」
思わず息を漏らす。
どうやら、もう満足に舞空術を使うことも出来ないようだ。

1対5の攻防。
さすがに多勢に無勢。かなり分が悪くなってきた。
くそっ!・・・どうすれば!?
どうすればいいんだ!?

(待ってろ。スグ行くから)
とうとう幻聴が聞こえ出したようだ。
そろそろ限界、か。
気付けば目の前にエネルギー波が迫っている。
「くっそー!!!」

最期の力を振り絞り、ソレを迎え撃つ。
そして、俺は倒れこんでしまった。
(負けて・・・たまるか!)
想いは切れてはいない。
だが、身体が動かない。

「ほっほっほ、中々頑張りましたが、最期のようですねぇ。
 さぁ、大人しく殺されなさい!!
 ひぎゃっ!?なにッッ?!だ・・ダレですか!?
 うぎゃーー!!!!!」

なんだ?
ラルフの断末魔の声が聞こえたような気がする。
いよいよ幻聴が酷くなってきたか・・・

「ふん、こんなヤツらに手こずりやがって」
「天さん、アッチ・・・」
「あぁ、あの女はお前に任せたぞ」
「うん」

おぼろげな視界の中、俺が見たものは、
気持ちの悪い三つ目のハゲと、色白のチビだった。
って、あの構えは!?

「喰らえ!気功砲!!!」

ヤツはラルフの居た場所から思いっきり
こちら目掛けて攻撃してきたではないか!
俺は必死で気功砲の軌道から逃れる。
その直後、とてつもない衝撃が襲いかかった。

・・・見ると俺の居た『部屋』は見事なまでに崩壊していた。
そこかしこで叫び声や悲鳴が聞こえる。
今、上の部屋へ上がれば、さぞかし愉快な絵が見れるのだろう……
直撃したのはこの部屋だけだったが、この建物は
その殆どの部屋が半壊状態になってしまったのだから。

逃げ惑う人々の声がする。

はははっと俺は笑う。
この豪快さと言ったら・・・
まったく、"アイツ"らしいじゃないか。


同時に2人の敵も、気功砲に巻き込まれ下半身を失くしていた。
あの防護スーツをモノともせずに消失させたという事実が、
その威力の凄まじさを物語っている。

ヤツらはそれでも上半身だけで蠢いていた。
『痛みを無くす』というのは恐ろしいものだ。
普通なら失神するほどの痛みだろうに・・・。
程なくして、ソレは動くことを止めた。
恐らくは死したのだろう。

「ふん、こんな奴らに苦戦しやがって」
そう言いながら三つ目の男が降りてきた。
「けっ、何・・しにきやがった?
 あんな、ヤツら、俺独りでもヤれたのに・・よ」
俺は必死に立ち上がり、見栄を張って元気なフリをする。

「言っておくが、お前を助けようなどとは想っていない。
 ただ、あんなヤツら程度に負けてもらっちゃ困るんでな」


「なんだと?」

「お前を倒すのは、この俺だ!」
「界王星での借りを返す前に勝手に死なれちゃ迷惑なんだよ!」
そういうと三つ目のハゲは、敵の方へ向かっていった。
「病人はそこで大人しく寝てるんだな!!」

スーッという音さえ立てずに今度は白チビが降りてきた。

「ヤムチャ・・・強くなったな」
その白い顔が、なぜか懐かしくさえ感じる。
最後に会ってから、それほど時間は経っていないはずだが、
遥か昔のことのように思われた。
「相変わらず、生意気だなぁ〜。チャオズ」
「ここの『壁』だけは壊れなかった・・・
 天さんの全力の気功砲でも。
 ここは特殊な力がある。
 ボクに任せて・・・お前は下がってろ」

俺の言う事など全くの無視で話を進める白チビ。
・・・ちょっとムカついたが、
どうしようも無かったのも事実だ。
コイツがどうにか出来るのであれば、頼むしかない・・な。

結局、俺一人の力では限界だっただろう。
ここでコイツらが来てくれたことに素直に感謝しなければ・・・
俺はコイツらにとって、まだ『仲間』と想われていたのだ。
そのことを嬉しく想う。
俺にも・・・仲間が居たんだ。

身体は立っているのもキツイくらいだったが、
今なら、何でも出来る気がした。

さぁ全てを終わらせて皆で帰ろう!

俺はこの『仲間』たちの事を、
誇らしく、そして頼もしく想った。

 『Worthy Rival』 



------------------------------
第34話 共闘
------------------------------

「はぁあああ!!!」
チャオズの奇声が響く。
それとともに『壁』がありえない角度に曲がり始めた。
なんというか、次元が歪曲してる感じさえする。
これがチャオズの超能力の真の力だろうか・・・
ナッパ相手に効かなかった頃と比べると、
その力は雲泥の差のようだ。
「はあああああああ!!」

尚も気合を込めるチャオズ・・・
そして見事にその壁は捻じ曲がり、隙間が出来た。

「壊せないなら、曲げればイイ。」

事も無げにチャオズが言った。
すごい・・・
俺は素直にそう思った。

「ひ・・ぃいーー!!」
「逃げろ〜!!!」
それに気付いた男たちはランファンを放り捨て、
後ろの方へと逃げていった。

「逃がすか!」

「待て!ヤムチャ、こっちが先だ!!」

見ると、天津飯は押され始めていた。
気功砲で2人減ったとは言え、3対1だ。
しかも相手は全員あの防護スーツを着ている。
生半可な技ではダメージを与えられないだろう。

「そいつらは、ちょっとやそっとの攻撃じゃ効かないぜ!
 一撃に、一点に全力を込めるんだ!!」

俺はアドバイスを送るのが遅かったことを悔やんだ。

あの三つ目野郎・・・敵が3人だからって、
四身の拳なんぞ使いやがって。
全くの逆効果じゃねぇか。

ダメだ、こいつは・・・
俺は素直にそう思った。

「おいチャオズ、仙豆は無いのか!?」
助太刀したくとも、俺の身体もぼろぼろだ。
おまけに、薬のせいで・・・
薬!?
そうだ!薬のせいで、俺は危ない目にあったのだ。
天津飯が部屋を壊したお陰で、大分濃度は下がっているようだが。
ともかく、この部屋は危険だ。

「おい!天津飯!!この部屋の空気は『薬』が溶かしてあるんだ!
 まずはソイツを止めないと!!」

「とりゃ!! はぁーー!!」
天津飯は一心不乱に戦っていた。
俺の声も聞こえないようだ。
その集中力は、それはソレで素晴らしいのだが・・・

「大丈夫、安心して。あの『薬』ならボクが全部焼き払っておいたから」
チャオズが言う。
「お前は安心して戦え」
相変わらずの無表情&生意気なヤツだが、何と気が利くやつだろう。
そして、無言で仙豆を差し出すチャオズ・・・
何てイイ奴なんだ!

俺は味わう間もなく仙豆を噛み砕く。
さすがに『仙人』のアイテムというだけの事はある。
あれほど苦しかった身体に、一瞬にして体力が戻る。

「サンキュー、チャオズ!!
 これなら何とかなりそうだ!
 彼女を頼んだぞ!!」

本当は今すぐにでも彼女の元へ駆け寄って、
抱きしめたかった・・・

だが、今は一刻も早くこの状況を打破しなければならない。
感動の再会は、ちょっと後に取っておこう…
まずはこいつらを倒して、ハッピーエンドと行こうじゃないか。

俺は弾けるように戦いの場へと飛び出した。

(戦いでは、ボクは役に立てない。
 でも、ボクもボクなりに頑張る。
 だからお前もガンバレ!ヤムチャ・・・)

チャオズの"声"が聞こえる。
俺は、独りじゃない・・・
きっと、どんな相手とだって、
こいつらと一緒なら勝てる気がした。

「天津飯! まずは一人に戻れ!!」

「狼牙風風拳!!」
「四妖拳!!」
俺と天津飯で連続攻撃を繰り出す。

鉄壁の防護スーツと言えど、僅かでも亀裂が入れば役には立たない。
俺と天津飯は、同じ箇所を集中して攻撃を加え続ける。
ピキっという音とともに、そのスーツに目に見えないほどの亀裂が入った。
右のわき腹辺りだ。
俺はその隙を逃さず、すかさず気を貯める。

「繰気弾!! くらえ!!!」
その亀裂への直撃だけは免れようと、必死で俺の攻撃を避ける。
俺の攻撃に気を取られている。この瞬間を待ってたんだ!

「ふ、掛かったな! いまだ天津飯!!」

「ってアレ・・?」

俺の予定では、ここでヤツのどどん波が炸裂してるはずだった。
彼はいつの間にか、必死で残りの2人と格闘していた。
さっきまで同じ敵と戦っていたはずなのに…
(どうにも息が合わないんだよなぁ、こいつとは・・・)
何て想っていたら。

「どどん波!!」

遠くからチャオズがどどん波を撃っていた。
残念な事に威力はてんで弱いのだが、
俺にとってはソレで十分だった。

(よし!いける!!)

敵がどどん波を避けたところへ、
亀裂めがけて、繰気弾を突っ込ませる。

「喰らえ!!」


激しい爆発音。敵は地面に倒れ悶絶している。
どうやら命はあるようだ。
が、コイツはもう再起不能だろう。
よし、あと2人だ、と想ったら、1人はスデに天津飯が倒していた。
(こいつ、さすがに強いな・・・)

何の策もなしに、力だけであの防護スーツを打ち破り、
そして倒しきってしまうとは・・・
俺は天津飯をちょっとだけ見直した。

「よし!今行くぜ!!」
最後の1人を2人がかりで襲う。
程なく、その防護服に裂け目を造ると、
かめはめ波を放つ。
「波ぁーーー!!!」
僅かにその隙間を外れたようだ。
ちっ・・・!もう一発・・・・

「気功砲!!!」
何と、天津飯の一撃は、その防護服ごと敵を
消し飛ばしてしまった。

改めて想う。こいつはスゴイ奴だ。
というか、最初から気功砲使っていれば・・・?
何て疑問については、後で吟味することにしよう。

  『Together Fighting』



------------------------------
第35話 永遠の一瞬
------------------------------

「ふぅー。サンキューな!天津飯
 でもどうしてココがわかったんだ?」
やっと一息付いて、俺は質問を投げ掛けた。

「ふっ、これだけの気の乱れがあればスグに気付くさ」
「ははっ。なるほどなー」
さて、後はコイツらを『本当の警察』にでも突き出して
全てを終わらせよう…。
その時だった。ふいに上の方から声が聞こえてきた。

「ほ・・っほっほ。天津・・飯さんですか。
 かの『Z戦士』が2人も集まる・・とは・・。
 つくづく、私も運が・・ないな」
聞き覚えのある声。
おそらく、俺が今この世で最も憎い男の声だ。

「ラルフ!生きていたのか?」
「ほーっほっほ。仕方ありませんねぇ・・・
 『アレ』は出したくは無かったのですが。
 ココは『彼』の研究所なんです。
 みんな、まとめて地獄に落ちるがいい!!!」

そういって、何かのレバーを引く。
ゴゴゴッ!という音とともに、どこかで扉の開く音がした。


「ちっ!なんだかマズそうだな!!」
天津飯が不安そうに辺りを見やる。
確かに、何だかヤバそうだ。

そう思いながら、俺は大事なことを思い出す。
そうだ!ランファンは?彼女は無事なのだろうか?
戦いに集中しすぎていたようだ。
俺はチャオズが開けた『壁』の向こうを見る。

「大丈夫・・・気絶してるけど、命に別状はナイ」
チャオズがランファンを看ながら言った。
戦いの間中、彼はランファンを守ってくれていたようだ。
本当に気が効く奴だ。

それにしても良かった。
俺はランファンの居る部屋へと行くと、
ようやく彼女に触れる事が出来た。
この瞬間をどれほど待ちわびたことか・・・

「ランファン!!」
俺はランファンを抱きしめた。

俺は、ぎょっとした。
その抱擁は、熱い鼓動を感じるための、
生命の息吹を感じるための、
愛しさを確認するためのモノになるはずだった。
だが俺が『抱いているモノ』は、
人間としてのぬくもりが全く感じられなかった。
その体温は異常に低く、彼女の身体の異変が
尋常ではない事を如実に物語っていた。

彼女には意識がなく、俺の身体も血に染まっている。
とても感動の再会とは呼べないようなシロモノだ。

抱き合っていた時間は、数秒しか無かったかもしれない。
だがその数秒は、俺にとって永遠とも思えるほど
貴重な、そして大切な時間だった。

彼女は未だ虚ろな表情のままで、気を失っている。
もっとも意識があったとしても、
この状況を理解できたかどうかは疑問だが。

「仙豆も飲ませたけど・・・」
チャオズが歯切れが悪そうに言った。
素人目に見ても『薬』の影響が酷いという事くらいスグに判る。
さすがの仙豆でも、病気やなんかには効かないのだろう。

もしかしたら、もう手遅れかもしれない。

「ゴメンな・・・ランファン。こんなに痩せ細って。
 無事に戻ったら、美味いモンでも
 たくさん食わしてやるからな!」

「あぁ、そうだ!今度は昼間に一緒に買物でも行こうぜ!
 俺良い店知ってんだよ」
「あの店にさ、お前に似合う服が売ってたんだ・・・」
「次のバイト代が入ったら、買ってやるよ!嬉しいだろ?」

俺は募り続けた想いを、ありふれた言葉に変えてぶつける。

…静寂が苦しい。

「ランファン・・・早く元気になってくれよ……」
俺は一方的に話し続け、彼女の顔を覗き込んだ。
生気の無い肌、痩せこけた頬、色のない唇。
開いているのか、閉じているのかさえ判らない虚ろな瞳。
その全てが痛々しい……

俺はようやく再会できた嬉しさと、
無残な彼女の姿に対する悲しさとで身体中が震えた。
ココが戦いの場でなければ、俺は泣き崩れていたかもしれない。
喜びの涙とも、哀しみの涙とも知れずに……

だが、今はそんな感傷に浸っている余裕は無い。
まずは目の前の敵を倒さなければ、俺達に未来はないのだ。

ズシン! ズシン!!

何かが確実に近づいてきている。
とてつもなく危険な『何か』が・・・

「チャオズ!!彼女を頼む!!!
 安全なところへ避難しててくれ!」
だまって頷くチャオズ。
俺はランファンをチャオズに託し、部屋の中央へと戻った。

「どうやら、真打ちの登場のようだぜ」
天津飯は闇の向こうを見つめていた。

「ほーっほっほ、人類の狂気を集めた至高の傑作。
 かのフランケンシュタインの如く!!
 人類が追い求めた叡智の果て・・・狂気の力を思い知るがいい!」

ズシン! ズシン!!

重量感のある音とともに、その『何か』が近づいてくる。

「まだ試作品ですが・・ね。
 あなたたち2人を葬るくらい訳はありませんよ。」
ラルフの発言がヤケにリアルに感じられる。
(これは危険だ!)
俺の中の本能のようなものが、最大音量で警報を鳴らしている。

ズシン! ズシン!! 

そして闇から、ソレが姿を現した。


「わぁ〜い。久しぶりに外に出れたや〜!!」

『Eternal Instant』



------------------------------
第36 狂気という力
------------------------------

やや高めの男の子の声が響いた。
遠くで聞こえていた重厚な足音に、およそ似つかわしくない声だ。

余りにも場違いな明るい声。それが余計に俺の恐怖心をあおる。
そのたった一言で、周囲の全ての音が吹き飛んだ気がした。
一瞬にして、全てが静寂に支配されるような錯覚を覚えた。

年は14,5になった程度だろうか。
明らかに子供じゃないか!?
俺は想像していたものと全く違う『敵』の姿に戸惑っていた。

姿形はどう見ても『人間』なのだが、人間らしさや、
生命の温かさといったモノがまるで感じられない。
『無機質』な物体・・・とでも言ったほうがしっくり来る。

異質な存在・・・

彼の周囲には違う世界の空気が流れているような気さえした。

「クスッ♪今日はお兄ちゃんたちが遊んでくれるの〜?」
そういって、彼は静かに、あくまでもゆったりとした動きで、
こちらへ向かってきた。
敵意も、殺気もまるで感じられない。そして―

「ガハッ…!」

重すぎる一撃が俺の身体に突き刺さっていた。
彼が放った攻撃だろうか?
何をしたのかさえ判らなかった。
とにかく理解不能な衝撃が俺の身体を貫いた。

「あははっ♪な〜んだ。てーんで弱っちぃじゃんかー。
 久しぶりだから、ちょっとは期待してたのにな」

なんてこった。
強敵が現れることは予想していたが、
こんな子供に、子ども扱いされるとは……

彼は強かった・・・・・。
いや、強いなんてもんじゃない。
俺と天津飯の2人掛かりでも全く歯が立たない。

彼にとっては、この戦いなど
ゲームのようなものなのだろうか?
まるで、ただ遊んでいるだけ……といった様子だ。

見た目はその辺の子供と何ら変わりはない。
だが、その力は全てのものを破壊し、
その身体は何よりも硬かった。

彼はたった一振りで、次々と周囲のモノを
瓦礫の山へと変えていった。

この『壁』さえも。
俺がどれだけ攻撃しても傷すらつけれなかったのに。
天津飯の最大の必殺技『気功砲』でようやく崩れたというのに。
彼はたった一振りの手刀でソレを粉々に砕いていく。

(こいつは・・・敵わねぇな)

これが絶望という気持ちだろうか?
おそらく自分の持てる最高の力を出したとしても
きっと彼には及ばないだろう…
俺たちは何度となく地面に叩きつけられ、血反吐を吐く。
その度に激痛と、絶望が、体中を駆け抜ける。

「くっ・・・こんな奴が居るとは!」

「天津飯・・・お前はもともと、この件とは関係ないんだ!
 さっさと家に帰って漫画でも読んでろ!」

これ以上コイツらを巻き込めない。
こんな奴と戦っていては、命の保証はないだろう。
こいつには、まもなく現れるであろう『人造人間』との戦いで
活躍してもらわなければならないんだ。
せめてコイツだけでも生き延びてもらわなければ……!

「断る!!」

・・・判っちゃ居たが、馬鹿なヤツだ。
今のうちなら、俺が時間稼ぎをしてる間に逃げられるだろうに……。

「お前の理由など知らないがな。
 コイツは強い・・・恐らくは俺よりも、お前よりも、な。
 ならば戦ってコイツを超えたいと願うのは当然だろう?」

そう言って、再び飛び掛る天津飯。

そうだ・・・そうだったな。
お前はそんな男だった。
どんな強敵にもひるまず立ち向かった。

俺はそんな姿に、憧れていたんだ。
いつも最強の道をひた走っていた悟空なんかよりも、
天津飯・・・お前の姿にな。

「ふっ、馬鹿は死なないと治らないようだな!」
そう言って俺も参戦する。
「馬鹿はお互い様だろう?」

ハハハっと乾いた笑いを零す。
極限状態の中、アタマがおかしくなったのだろうか?
こんな時に笑えるなんて……

どんなに惨めな目に遭おうとも、
たとえ勝てないと判っていても、
戦う事を止める事など出来るはずがない。
俺達は、戦いの中にしか生きる場所は無いのだ。

なぜなら俺も奴も『戦士』なのだから……

ランファンの居た部屋からはスデに
チャオズもランファンも消えていた。
さすがはチャオズだ。どこかに避難してくれているのだろう。
俺はちょっとだけ安心する。

(せめて、お前だけでも幸せになれよ・・・ランファン)

「だあぁぁー!!!」
俺は闇雲に彼へと突進する。
サイヤ人と対峙したときと同様に、"死"が急速に身近なものに思えてきた。
だが、不思議と恐怖は無かった。
戦士の死に様として『戦死』以上の名誉はないだろう。

この俺のしがない命で、何か救えるものがあるのならば……。

「クスクス。物足りないなぁ。
 もっとボクを満足させてくれよ?」
彼はどこかワクワクしたような表情で俺の突撃を見ている。
狂気の事件の最後の敵に相応しい……
ラルフ以上の狂気を、この子から感じた。

目の前では先ほどの敵の死骸が散乱している。
その中で平然とし、あまつさえ微笑を浮かべる。
とてもじゃないが、まともな感覚とは思えない。

彼にとっては『ただの遊び』かもしれない……
だけど、きっと――!

狂気ごときに負けるほど、俺の想いは軽くはないさ。

『Power of Insanity』



------------------------------
第37 『敗北』という勝利
------------------------------

それは『戦い』とは呼べないものとなった。
こちらの攻撃は何一つダメージにならない……
いっそ全部避けてくれたほうが、いくらかマシだと思う。
どんな攻撃をまともに受けても、
全く平気でケラケラ笑いやがって……
何度となく、気持ちが萎えそうになる。

対してヤツの攻撃は、その一撃が異常なまでに重く鋭い。
身体がいくつあっても足りないような気がする。
もはや、『死』は逃れられない現実だろう。
仙豆ももう一粒しか残っていない。
俺が勝てる可能性は0%に等しい。
あの天津飯でさえ、既に気を失っているのだ。

「グハッ!!」
「クスクス♪脆いなぁ〜」

彼の楽しげな声が聞こえる。
俺の骨の軋む音が聞こえる。

…俺はまた負けるんだろう

どう足掻いても、俺はヒーローにはなれないようだ。
ふっ、まぁいいさ。
負ける事には慣れている…


・・・そろそろ寝ちまおうか。
もう立ち上がる意味も無いだろう。
このまま負けたって誰も文句は言わないはずだ。
今までの負けとは違うんだ。

おそらくランファンは、チャオズに連れられ
安全な所まで逃げてるはずだ。
俺は勝てなくてもいい。
彼女を助ける事は出来たのだから…
少なくともその一点において、俺は勝ったのだ。

もう俺が戦う理由もない。
だが……

「な・・・なんで立ち上がれるんだ?」
「いい加減、死んでろよー!!」
俺はまた立ち上がっているみたいだ。
自分でも良く判らない…
彼は苛立ちを隠さず、その勢いで突撃してきた。
その攻撃により、またも打ち倒された。


だが、また立ち上がる。
だんだんと痛みを感じなくなってきた。
今度は薬のせいじゃない…

『死』が近いのだろう。
怒りと恐怖と狂気とで、
アドレナリンとやらが大量発生中のようだ。

「はははッ!!」
どうやら、俺も狂ってきたようだ。
勝てないと判っていて、死ぬと判っていて、
立ち上がるなんて、な。
(らしくないな…)

大人しく死んだフリでもしてれば、
幾分かは生き延びるチャンスも
在ったかもしれないと言うのに。

―そこで、気絶してる天津飯のように。

「ハハハハハハ!!」
俺は再度笑う。
彼は理解不能な俺の態度に、苛立っているようだ。


「ふふ。勝てねぇ、よなぁ〜」
俺は壁にもたれながら、彼に話しかけた。
自力で立っているのもキツイくらいだ。
「お前は強いよ。本当に……」
「俺がどんなに頑張ったって勝てる見込みなんかねぇな…」
突然の降伏宣言。
彼は意味不明だと言わんばかりの表情を浮かべている。
いささか困惑しているようにも見える。

〜〜

―彼は― 何度見たって、どう見たって子供じゃないか?
こんなヤツが、こんな子供が、
あんな狂ったような力が出せるなんて…
世の中不公平だよな。
俺にこんな力があれば、きっと、もっと楽しい人生が送れただろうに

〜〜

そんな羨望すら浮かぶ。
そんな事を考えながら、俺は刹那に人生を振り返る。

―良いことなんて、ほとんど無かった。
だけど、俺らしい人生だった…
生まれ変わっても、また『俺』で居たいと思う。
きっとそれは幸せなことなんだろう。

さて、最期くらいは、かっこよく華々しく散ってみるか…
悪い気分じゃない。
試合に負けて、勝負に勝つ、ってヤツだな。
(ランファン…幸せに生きろよ……)

俺は最後の一粒の仙豆の、半分だけを口にする。
残りの半分を天津飯に無理やり飲ませる。
意識を取り戻し、起き上がろうとした天津飯を
目で制止する。
 (お前は倒れたままでいろ!)
幸い『彼』の興味は、俺だけに向いている。
 (戦いの隙を突いて、上手く逃げてくれ・・・)

そして、天津飯よ…
 俺の誇るべき仲間よ…
  もしお前が生き延びれたのなら…

 ランファンに―

  俺は最期まで勇敢に戦った、と伝えてくれないか?

  『The victory of "defeat"』




------------------------------
第38話 狂・愛
------------------------------

「さぁて、最後の決着を着けようじゃないか!」
俺は、ゆっくりと歩きながら、苦笑いを浮かべる。

―乾いた笑い。

恐らく、その意味が判るほど
長くは生きていないであろう『彼』と対峙する。

彼は、得体の知れないモノを目の当たりにしたような、
焦燥の表情を浮かべている。
「ボ、ボクが負けるはずないんだ!!」
この辺はやはり子供なんだろう。
感情を隠すこともなく、ふてくされた表情を浮かべる。

(俺も、タダでは負けてやらないぜ)

俺は、またも一歩前進する。
彼は後退する。


そして俺は静かに『死』を覚悟する。

  ― 刹那

「うわぁああー!!!」

突然、『彼』は自らの困惑を吹き飛ばすように、
奇声を発しながら飛び掛ってきた。

―おいおい、戦いってのは隙を見せちゃダメなんだぜ?
 そんな隙だらけの体制で飛び込んできたら、
 よっぽどの実力差が無い限り当たるはずないだろう?

なんて事を考える余裕がある。
ここまでリアルな『死』と直面すると、
こんなにも冷静になれるんだろうか?
俺の身体はまるで反応できない。
それほどの超スピードでの攻撃だったのに、だ。

頭はいくつもの思考が浮かんでは消える。
スローモーションで時が進む…
俺が、防御のために動かそうとしている手は
いまだ腰の辺りで止まっている。
まったく我ながら鈍い身体だ……
俺は防御を諦め、彼のほうを見た。

そういえばコイツ、誰かに似てるなぁ…
誰だっけ?
自分を倒すべく、攻撃を仕掛けている相手を前にして
妙な事を考えるものだ。
自分で自分に呆れつつ、苦笑する。
俺の人生の中で、最も永い『一瞬』だったかもしれない。

苦笑という名の吐息が口から零れるその前に、
激しい衝撃が俺の全身を襲った。
全身の筋肉が千切れるような感覚がする。
『時』が急速に実時間の速度へと戻っていく。

そして『現実』へと引き戻される。
…もうすぐだ。もうすぐ俺は死ぬんだろうな。

一撃だった・・・
たったの一撃で、身体の半分以上が
動かせないほどの重症を負ってしまった。

「・・・!」

声にならない声で呻く。
なんてこった。これじゃ仙豆が何粒あっても一緒だな。
たったの一撃でこのダメージじゃ、どうしようもない。
これが彼の本気の一撃だろうか?
いや、違うな。きっと、もっと出せるはずだろう。

彼は目の前で笑っていた。
何がそんなに可笑しいのか…

(あぁ、そうか・・・)

その瞬間、俺は全てを悟った。
誰かに似てると思ったら、そういう事か。
何だかムカツク面だと思ったんだ。

「ラルフ……」

面倒なことだ。
彼女を救いだすという目的を果たした今、
このまま『負け』ても構わない、
そう思っていたというのに…

『戦う理由』が出来てしまったじゃないか。
怒りが込み上げてくる。
「ゆるせ・・・ねぇなぁ・・・」
全身を切り裂くような痛みに耐え、
俺はゆっくりと立ち上がる。

「このまま負けてやろうと思ったんだけどな」
「気が変わったよ。」

「なんだと!?」

もっと早く気付いてやるべきだったんだ。
この異常な空間が俺の洞察力を鈍らせていたのだろうか?
いや、違うか。俺はもともと鈍感だったんだ。
そのせいで今までどれだけ苦労した事か…

こいつの異常な強さ、さっき戦ったヤツらの防護スーツ、
異質な『壁』、そして痛みを感じなくする薬……
全てが線となって繋がり一つの『答え』を導き出す。

ココは『研究所』だ、と言ったラルフの言葉を
俺はようやく理解する。
ラルフは・・・彼は、
自分の息子を『実験』に使っていたのだ。
こいつは、もう『人間』じゃ無い・・・
そう、服の隙間から見えるこいつの身体は、
その半分以上が『無機質なモノ』で出来ていた。

彼は自分の事を知っているのだろうか?
それとも何も知らないだろうか?
あの『薬』のせいで思考が麻痺してるかもしれない。
むしろ、彼は『狂っている』方が幸せかもしれない。
正気になり、事実と直面したら・・・・・

恐らく事実はこうだ。
彼はきっと、一度死に掛けたのだろう(あるいは一度死んだ)
ラルフは何としてでも息子を助けたいと思った。
その願いが、思いが、狂愛となり、
『かのフランケンシュタインの・・・』という、
この狂気の研究に足を踏み入れさせたのだろう。

硬質な物質で生身の肉体を置き換える。
そうすることで、恐らく半永久的な生命活動が可能になる。
強靭な生命力を持った怪物として生き続ける事が出来る。

人体に異質なものを埋めるのだ。
想像を絶する痛みを伴うだろう。
それを打ち消す役目が、おそらくはあの薬だったのだろう。
あれを体内に吸収し続けることで、異常な状態でも
痛みを感じずに、普通に行動できるようになる。

 だが―― その代わりに心が壊れて逝くだろう。

ラルフは、息子にそれを望んだのだろうか?


ただ、ただ…人として生きることを望んだはずだ。
異常なモノとして生きるより、人間として死んだ方が幸せなこともある。
俺は、『一度生き返った者』として、どこか他人ごとじゃない気がした。
ラルフはきっと、息子の変貌ぶりに我が目を疑い、
泣き晴らしたに違いない。

狂った力、狂った心・・・

そして、彼らは闇に堕ち、
狂気に心まで喰われてしまった。

ラルフもまた哀しみを背負って生きているのだ。
少しだけ同情する。

どうして世の中には、こうも哀しみばかりが溢れているのだろうか?
世界ってやつは、人生ってやつは、
思った以上に切ないものなのだろう。

ランファン・・・今はお前も闇に居るのか?

 ランファン・・・俺の『愛』も狂っていたのかな?
 
答えなんか出やしない。
目の前では、狂った笑い上戸な子供が飛び掛ってきている。
どうやら俺は戦うしかないのだろう。
例えこの先に、ハッピーエンドなど見えなくても・・・

   『insane love』




------------------------------
第39話 生きるという事
------------------------------

子供らしい、稚拙な攻撃。
基本的な技術も何もあったもんじゃない。

ただ――

圧倒的なスピードとパワー。
それだけだ。
ただそれだけの違いが、絶望的な差を生み出す。
俺はどうすることもできない。

「狼牙風風拳!!」
通常の倍以上の超速度で繰り出す俺の必殺の……
なんてもう言えないな。

「クス♪ どうしたの〜?」

『彼』は余裕たっぷりに避けている。
まぁ仮に例え当たったとしてもダメージなんて無いだろう。


そして俺は、当たり前のように反撃を喰らう。
木偶の坊のように、抵抗する事さえ出来ずに……
俺は、死と隣り合わせの攻撃を受けながら、
必死に打開策を考える。

 ―どうすれば・・・? どうすればいい?

その時突然、後方で巨大な『気』が集まっているのを感じた。

「気功砲!!!」

あの野郎・・・まだ逃げてなかったのか。
言って逃げるようなヤツじゃない・・・か。
バカなんだよな、こいつは。
まぁバカだからこそ、俺たちは仲間なんだろう。

「あはは。まだ生きてたんだー。意外とタフじゃないか!」
『彼』は相変わらず余裕の表情で、
迫り来る気功砲を避けようともしていない。
軽く右手をかざす。
そして気功の波は、さながらモーゼの十戒のごとく、
彼の右手を中心に左右に別れていった。

俺は正直、その攻撃に期待していた。
俺の、俺たちの今持てる中で最高の必殺技。
だが、結果は何も変わらなかった。

「クスクス♪ そろそろ終りかな?
 じゃあ2人まとめて殺してあげるよ♪」

 ――何とか、何とかならないのか!?

遠くで逃げ遅れた人々の叫び声が聞こえた。
上に居た、狂った道化達は、
次なる実験体か、それともただの金蔓か。
まぁいい。何よりそんなに熟慮する暇もなさそうだ。

迫り来る攻撃から、必死の想いで

逃げて、逃けて、
耐えて、耐えて、
逃げて、逃けて、
耐えて、耐えて、
耐えて、耐えて・・・・・

それから何分経ったのだろうか?
ほんの数秒だろうか?
それとも数時間だろうか?

時間の感覚が判らない。
ただ永遠とも思える痛みが俺の身体を襲い続ける。

まだ生きている…
それが奇跡に思える。

俺の心は穏やかだ。

いずれ必ずやってくる『死』を受け入れることも出来るだろう。
俺の中に棲んでいた『闇』という名の悪魔は
どうやら、俺より先に逝ってしまったようだ。
俺に出来る事は全てやったんだ。
もう何もする必要はない……

俺の心は穏やかだ。

周囲のもの、全てを憎んでいたときもあった。
誰かの優しさに苛立つ事もあった。
何もかもがどうでもいいと思う日もあった。
そんな日々が遠い過去に思える。

今は、ただ……愛しく思う。

愛するものが、
仲間が、
この世界が、
そして何より生命が……愛しい。

コレが『生きる』という事なんだろう。
この世を愛しく想い、
誰かのため、何かのために魂を燃やす。
それが生きているって事だろう。
屍のように腐ったあの日々は、
『生きている』とは言えない日々だった。

どうやら俺は死の間際に、ようやく闇から抜け出せたようだ。

きっと『彼』は昔の俺と同じなんだろう……
生きている、などとは言えない時間を過ごしている。
暗い、暗い、闇の中で……

ふと 想う…… 『彼』は何て…

  何て可哀想なヤツなんだろう…

ベジータが聞いたら「甘い!」と怒鳴るだろうか?
だが、それでいい……
俺は、『強さ』のために何もかもを捨てる事は出来ない。
弱くたっていい。この甘さも、俺の大事な心なんだから。
俺は俺の想うように生きよう…
勝てる、勝てない、とかじゃない。
俺はこいつと戦いたくない。
こんなにも、可哀そうな子供とは。

『修行とは、敵に勝つためではない!
 己に打ち勝つためのものじゃ!!!』

我が師……亀仙人の言葉が頭をよぎる。
その意味が、やっと判った。
(まったく、不出来な弟子ですまなかったな)
だが、最後の最期で、俺はアンタの教えを理解したぜ。
これで…ホントの弟子だと認めてもらえるかな?

ははっ、もう、遅い……かな。

『彼』の攻撃は、スデに肉体の痛みの限界を通り越している。
どんな攻撃をされているかも、良く判らない。
あとは、いつこの身体が、魂が、朽ち果てるのか……

残り僅かな『生』の中、俺は静かにその瞬間を待っている。

  『The meaning of "living"』




------------------------------
第40話 終焉
------------------------------

「どうしたの?もっと掛かって来なよ♪
 遊んであげるからさぁ〜」

こいつはもう人間じゃない。
『彼』の精神は明らかに異常だ。
いっそ、悪魔の姿でもしてくれてれば良かった…
こんなにも、愛らしい笑顔で、
夢と希望に溢れる少年のような顔で、
そんな表情で、狂ったセリフを吐かないでくれ。

「クスクス♪そっちから来ないなら、こっちから行っちゃうよ?」

……きっとこいつも俺と同じなんだ。

世の中に存在を許されていない存在なのだろう。
そう気付いたとき、俺は『彼』の心を見た気がした。

俺は、その攻撃を無防備で受けた。
今までに経験したことの無いほどの激痛が走る。

もし彼が『気』というものを扱えたのなら、
この世界そのものの存続が危ういほどの力があるだろう。

「あはは♪もう降参なの?」
彼は、とても楽しそうに次々と攻撃を加えてくる。
一撃で十分に気絶しうる程、威力のある攻撃。
俺はそれを、ただ受け続ける。

反撃する気は………もう無い。

反撃しても無駄、というワケじゃない。
彼が あまりにも哀れで… 哀しくて…
『彼』が戦うのはラルフに言われたからなのか。
それとも自らに巣食う闇のせいなのか。

――きっと

きっと『彼』は、やりきれない怒りや悲しみを
こういった形でしか発散できないのだろう。
望まず、化け物じみた力を持ってしまった。
こんな『存在』では普通の生活など送れやしない。

『彼』の目は、暗く淀んでいる。
『―何も ―誰も 信じない』と想っていた、あの頃の俺と同じだ。
砂漠に独りで捨てられて、
人間全てを恨んでいたあの頃の俺と……

ランファンにした事は許せない。
だが一方で、コイツラも被害者なのだ、と想う。
もう辞めろ…
どうか気付いてくれ。

「あははははっ。もう諦めちゃったのかなぁ?」
「つまんないの〜!」
俺の意図が判ったのだろうか?
天津飯も、ただ隣で見ているだけだった。
真に憎むべきは、こいつらじゃない…
コイツラを憎んで戦ったところで、新たな闇が微笑むだけだろう。
――人を狂気へと誘う闇―― それこそが憎むべき存在だ。

だが、俺はどうすれば?

「・・・お前も、悲しい存在なんだな……」
「クスクス♪さぁそろそろ殺してあげようか!?」

俺の言葉は届かない。
深い、深い、闇の底にある彼の心には。
重い、重い一撃が俺の身体に付き刺さる。

・・・そして、俺は気を失った。

     ―― 俺は『彼』の泣き声が聞こえた気がしたんだ
     ―― だから、俺は………

「もうお前の負けだろ!?」
「うああぁぁ!!」
『彼』はイライラした様子で、俺を殴り続けていた(ようだ)
その攻撃は、深い『哀しみ』に包まれていた気がする…

     ―― だから、頼む!! 殺さないでやってくれないか?

     ―― ふん、相変わらず甘いヤツだ…
     ―― …まぁ、気を失いながらも、立ち上がり続けた  
        そのプライドだけは認めてやろう…

幾度となく繰り返される攻撃。
確実に死への階段を一歩ずつ上り続ける俺の身体…

だが、俺は死ななかった。

俺には『彼』を倒すことは出来なかった。
だが……

『純粋なる力の差』

それをもってすれば、これほどの強敵であろうとも、
勝つことが出来るんだろう。
『この男』は、それだけの力を持っているのだから。

     ―― 元々は貴様の事件だ。後は勝手にするんだな!

     ―― すまない、……感謝するぜ
 
そうだな。
こいつは、誰よりも強くあるために、
誰よりも努力し続けてきた男だ。

俺が『絶対に敵わない』と想った相手でも、
この男からすれば、物足りない相手だったのかもしれない…
その証拠に、恐らくは全力ではない状態で、
そう労せずして、『彼』の身体から自由を奪ってしまっていた。

力では解決できない闇もある。
だが、闇なる力は意味を為さない事以上に、
力無き光は、意味の無いものなのかもしれない。
例えば俺が、ここで力尽きていたとしても、
『彼ら』の闇を晴らす事など出来なかったように…

力無き者の宿命を誰よりも知っているこの男は、
力有る者の闇へと堕ちた無様を誰よりも知っているこの男は、
それでも敢えて、全てを超える『力』を求めてるのだろう。

血がそうさせるのか?真意など理解できない。
俺はこれからもきっと、彼の背中を見続けるだろう。

ある種の尊敬と、畏敬の念を抱きながら…

彼の生き様には、周囲の人間を魅了する『何か』がある。
現に俺もそんな彼の辿り着く場所がどんな場所なのか、
知りたいと想っている。

まぁそれはいい。
まずはこの事件を終わらせよう。
全てを壊した『力』は果てた。

"終焉"という名の物語の最期が俺を待っている。
どんな結末になるのか見届けようじゃないか。

  『The Final』


トップへ