駆け巡る青春〜クリリンと18号〜
第五話
「こんにちは〜」
ヤムチャが明るい声でカメハウスのドアを叩く。
「何じゃ。ヤムチャか。珍しいこともあるもんじゃの〜」
亀仙人がヤムチャを迎え入れる。
「ん?何じゃい。銃など腰につけおって」
「いやいや。ただのオシャレですよ」
ヤムチャの腰の妙な形の銃に興味を示す亀仙人。
かまわせてくれと言う前に、差し入れに、とお菓子と使い古したエロ本の束を亀仙人にプレゼントする。
「ほほぅ。うひひ〜〜っ。これはすまないのぉ」
(まぁこれで武天老師様は邪魔しないだろう……)
「ところで、クリリンはどうしました?」
「むぅ……あいつか……」
とたんに亀仙人の顔が暗くなる。サングラスのせいでますます深刻そうな顔つきに見える。
(まさか自殺でもしたんじゃねーだろーな……オイオイ……)
ヤムチャの背筋に冷たいものが走る。
「どうやら女にふられたらしくての……。二階の部屋に引きこもりっぱなしじゃわい」
(ほっ)と安心するヤムチャ。安心するのも変だが、今のヤムチャは復讐に燃える鬼なのだ。
「まぁ若いうちは思いっきり悩むもんじゃから仕方ないがのぉ。お前もちぃーっと励ましてやってくれんかのぉ」
「そうですか……。ふられたのですか…。うまくいっていると聞いていたんですが……わかりました。何とか立ち直らせてあげましょう!!なぁに。私の手にかかればチョロイもんですよ」
演技派のヤムチャ、さも悲しげにつぶやき、さらに自分の株すらもあげようと企んでいる。
(やはりそうか…。ククク……思ったとおりだ。落ち込んでないはずがないと思っていたぜ)
「そうしてくれるとありがたいわい」
この笑みの中にどす黒い野望が隠されていることなど知る由もなく亀仙人はヤムチャに感謝した。
「クリリン!入るぞ!」
返事はなかったが、ヤムチャは勝手にノブを回し、部屋へと押し入った。
どよ〜〜〜ん…という言葉が漂ってきそうな部屋。
ベッドでだら〜りとうつ伏せで寝ているクリリン。テレビがついているが、まったく見ている様子はない。
部屋の隅に携帯電話らしきものが落ちている。
(あれだっ!…よかった。壊してなかったようだな……。未練がましい奴だから大丈夫だとは思っていたけど。壊していたらまたブルマのところに行かなければならなかったぜ…)
ヤムチャが目にしたものは18号探査装置だ。あれがないと18号を探す術はない。
「よぉ!クリリン!」
ぐで〜っと寝返りをうち、ヤムチャの方をふりむくクリリン。
「はぁ〜〜。ヤムチャさんスか…どーも……で、なんスか?」
ベッドにあお向けに寝たまま、クリリンは言った。
「話は武天老師様から聞いたぞ!……辛い気持ちはわかるぜ!俺も何人もの女にふられてきたからなぁ…!」
「はぁ…」
「まぁでもいつまでもくよくよしていると、チャンスがどんどん通り過ぎていくだけぜ。なぁに18号以外にも女など腐るほどいるさ。腐っているのもいるが、いい女もいる。世界の半分は女なんだぜ?」
(でも…オレ本当に18号のことを好きだったんだ……)と言い返す元気もなく、クリリンはだらーんとヤムチャを見ていた。
「もしよかったらさ、オレの友達も紹介してあげるしさ、な!?元気だせよ」
それでもぽけ〜っとしているクリリン。そこでヤムチャは秘密のアイテムを出す。
「じゃ〜ん。これ、何だ」
変わった形の銃を腰のホルスターから取り出すヤムチャ。
「何スか?それ…」
力なくクリリンは尋ねた。ヤムチャが銃などをもっているのは珍しい。そんなおもちゃでオレが喜ぶかっつーのとクリリンは子どもみたいにいじけていた。
「スワップガンという、他人と心を入れ替えることのできる銃だ」
「へぇ〜」
興味なさげにつぶやくクリリン。
ヤムチャたちがカプセルコーポレーションを訪れたとき、ブルマからもらったのがまさにこのアイテムだった。あのときはクリリンのために使おうとしていたが、まさか逆の目的で使用されることになるとはヤムチャ自身も思っていなかった。
「ほら。これ使ってよぉ、オレと入れ替わろうぜ」
「何すんですか、それで」
「いや、お前のためだよ。オレの体で、街へ出て、女の子つかまえて、ヤってこいよ!な!」
「……え?」
「オレの体、自由に使っていいからさ、遊んでこいっての!な!気晴らしにでもさ!オレ、自分で言うのもなんだけど、顔もそこそこいいし、ナニも自信あるし……」
「……でも……」
「ま、ま!モノはためしって奴だ!行くぞ!」
「……ちょっ……」
興味がないと言えば嘘になるが、さすがに今はそんなことする気力がないクリリン。でもヤムチャは強引にスワップガンの引き金をひいた。
ビッ!!
銃の先端から出た光で、思わず目がくらむ二人。
目も慣れたころ、おそるおそる目を開けてみると……そこには自分の姿が。
クリリン「成功ってとこだな…」
ベッドが起きながら、クリリン(ヤムチャ)はつぶやいた。いきなり起き上がったので、立ちくらみを起こして転んでテレビに頭をぶつけた。
ヤムチャ「ほ……本当だったんスねぇ……すげぇ」
今の自分の体をなでまわした後、頭をさすっている元の自分の姿を見ながら言う。
ちなみに以後は、入れ替わった者の表記は外見(中身)とする。セリフは想像しやすいように外見のみ表記。
クリリン「いてて……。…だろ?ほら、遊びに言ってこいよ。オレは暇だからその辺うろうろしてくるわ…」
ヤムチャ「はぁ……」
クリリン「おっと、そうだ。その銃は一応、オレが預かっておくわ。あと2回しか使えないから誤動作を防ぐためにもな」
ヤムチャ「あっ…はい」
そう言って、クリリン(ヤムチャ)はベルトごと銃を受け取ると、今の自分の体にベルトを装着しなおし銃をホルスターに入れた。
クリリン「おっと、女の子はいくらナンパしてもいいが街で全裸はやめてくれよ!」
ヤムチャ「はは……」
久々に笑うヤムチャ(クリリン)。(ヤムチャさんはやっぱりいい人だ…。こないだ…あんなこと言ったってのに……オレのことを考えていてくれるなんて…)
そして……(そうだな……。いつまでもクヨクヨしていられないな……。応援してくれる人のためにも……!オレ自身のためにも……)と思いながら、窓から海を眺めるのであった。
当のヤムチャは(くっくっくっく……やったぜ!クリリンの体を手に入れた!)と邪悪にほくそえんでいたのだが…。
クリリン「ひひひ。うまくいったぞ。よーし……これで……」
クリリンの部屋からこっそりかっぱらってきた18号探査装置をいじるクリリン(ヤムチャ)。もし何か言われたら、携帯電話と間違えたとでも言っておけばいい。
18号の位置を確認し、まっすぐに彼女の元へと飛んでいく。
牛が泣き、小鳥がさえずる緑が多い気持ちよさげな小さな村に彼女はいた。
舗装していない道路を景色を見ながらゆっくり歩いているようだった。
そんな18号の前へとスっと降り立つクリリン(ヤムチャ)。
「ふんっ。また来たのかい」
むかつく言い方だが、顔はいかにも嬉しそうだ。
(……やばいっ!まんざらでもない顔だ!ったく!何でこんなハゲ好きになるんだよ!)
さすがヤムチャ、女性の心理をいち早く探り当てる。
「……まぁいい。今日は別にやることがないんだ。散歩につきあえよ」
ぶっきらぼうに言う18号。
(なぁぁにが、やることない、だ!!ひねくれた女だな!顔はきれいだけどな!)
クリリン「おい……」
18号「何だ?」
クリリン(ヤムチャ)に呼び止められて18号はふりむく。
クリリン「嫌ならいいんだよ!」
18号「はぁ?」
クリリンが何を言い出したかわからず18号は訝しげな顔をする。
クリリン「いちいち不快なことをいいやがって!そんなにイヤなら無理にオレとつきあわなくていいんだっつーの!」
18号「え…何言ってんだ?お前……」
いつもなら「お…おう」と恥ずかしそうにちょこちょこついてくるクリリンだったのだが……今日に限って機嫌が悪そうだ。
さすがに、毎回、ぶっきらぼうにあしらったりして冷たすぎたかな……と反省しかける18号。
クリリン「オレといても楽しくねーんだろ!オレのほうからもお断りだね!!」
18号「あたしは……その……つまらなくない……だから……」
顔を赤くしながら弁解する18号。
クリリン「だからぁ?」
18号「だ……だから……来いよっ!!一緒に!」
真っ赤になって怒鳴る18号。彼女なりの精一杯のアピールだった。
クリリン「(おっ…ちょっと可愛いな……)イヤだね!」
18号「……」
クリリン「何だよ、本当にひねくれているな!」
18号「なにぃ……」
そこが自分の嫌なところ…と思っていたのだが、言い当てられた悔しさからかむかっ腹が立ってくる。
クリリン「お前のようなひねくれた奴じゃなくてもな、い〜っぱい可愛い女の子いるもんね!むしろそっちのほうがいいし!
ま、これまでつきあってやったけどさ、やっぱお前みたいなひねくれたの可愛くないし!」
18号「か……勝手にしろ!」
あと一息だな……と踏んだクリリン(ヤムチャ)。
「つーか人造人間だしさぁ、やっぱ本物の人間の女の子がいいわけ!!ひゃははは……!?あぶぶっぅぅぅうう!!!!」
笑い飛ばそうとしたクリリン(ヤムチャ)の頬に18号のパンチが炸裂していた。
クリリン(ヤムチャ)は軽々と吹っ飛ばされ、近くの牧場の柵をつきやぶって芝生の中に落ちた。
クリリン「ひぃぃぃ〜〜〜っい゛いでぇぇぇ。こ……殺される」
情けない声をあげてゴロゴロ芝生の中をのたうちまわっているクリリン(ヤムチャ)。
18がこちらをじっと見ている。
18号「だったら………何でっ……
何で会いに来たんだよっ!!」
ズキンッ……
クリリン(ヤムチャ)の心が痛んだ。
ポロッとわずかに…だが、18号の瞳から涙がこぼれた気がした。
18号は背を向けると振り返ることもなく、空へと飛び立っていった。
「………18号………」
ドキドキ……と鼓動が鳴っている。かつて何度も女を泣かしたヤムチャだったが、こんなに後味の悪いことは初めてだった。
「はは……ま……まあ………オ…オレじゃないしな……ははは……」
凄い嫌悪感を拭い去ろうと無理に笑ってみる。
と、その時頭にほんのりと暖かい感触を感じた。
牛の糞だった。
「モ〜〜っ」
牛が悲しげに鳴いていた。
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