駆け巡る青春〜クリリンと18号〜




第四話


「プーアル。協力してくれないか?」
「え!?はい。何でしょう」
さっきまでゴロゴロと車の雑誌を読んでいたヤムチャが、カレンダーを見上げるなり声をかけたのでプーアルは少しびっくりした。
「クリリンのための作戦だ」
「……え?それはもう関与しないって……」
クリリンが報告に来てから一週間半も経っている。なぜいきなり身を引いたヤムチャがここになって急に?とプーアルは怪訝な顔をした。
「ふっ……。どうせあいつのことだ。何の進展もしていないだろう。……そこでだ、オレが陰からこっそりと手助けしてやろうってことだ」
「はぁ〜……」
クリリンさんをあれだけ罵っていたのに(2,3日はぶつくさ言っていた)、やっぱりヤムチャ様大人なんだなぁと感心するプーアル。
そんな思いを知ってか知らずか、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべてヤムチャは語る。
「恋愛は障害があるほど燃え上がり、固い絆で結ばれるようになるという……。それを利用してだ…。
まず、お前が18号に変身して、クリリンをボロクソに言ってやるのさ」
「え……そんなこと……」
「まぁ早まるな。クリリンは落ち込むだろう。だが、根は強い奴のことだ。自分を見つめなおし、鍛えなおし、そしてそれを克服したとき、奴はさらに成長する……」
「は…はぁ……」
何か腑に落ちないプーアルだが、そんなもんかな、とも思った。
「で、同様に18号にも同じ手を使って、二人の関係をこじらす、で、仲直りして、もっと仲良くなって結婚、と。まぁ雨降って地固まるという奴だ」
(何か、途中の過程が抜けまくっている気がするけど……)
とも思ったが、プーアルは恋愛経験豊富なヤムチャなら間違いないだろうと思い、信用した。
「それで、だ。クリリンに言うことをこの紙に書いておいたんで、覚えておいてくれ」
「はい……」
広告の裏に汚い字で殴り書きされたシナリオを手渡す。
「ぅわぁ……コレひどいですねぇ……」
「うーむ、まぁドン底に突き落とすにはそのくらい言わないとな!」
「立ち上がれないんじゃないですかね……」
「そ…そんなことないぜ!!奴はそんな弱い奴じゃない」
慌ててフォローするヤムチャだが、心の中ではドス黒い陰謀が渦巻いていた。

(くくく。オレの狙いはまさにそこ!精神的にタフだが、異性との付き合いには慣れていないし、一人では立ち上がれないだろう。
無様に砕け散った奴を、オレが救い、徹底的に再教育してやる!今のまま、恋愛の苦しみも知らず結婚ってことになったらえらいことだからな!
どうせオレにまた偉そうに説教するに違いないぜ「ヤムチャさんはそんなことだから結婚できないんすよ〜」とかな!
うるせーんだよ!バカ!性悪女でも紹介してやって恋愛の苦しみを教えてやるぜ。まぁ美人はあげないけどな、お前にお似合いのブサイクをつけてやらぁ。
フられたばかりだからどんな女欲しがるだろう。どうせお前も一にセックス、ニにセックス、三四がなくて五にセックスってことがわかるだろうよ!あ、な〜んか語呂が悪いな。一にセックス、ニに交尾、のがいいかな。同じだけどな。あー、もうンなことどうでもいい!
二度とあまっちょろいことを言えないよう、叩き直してやるからな!!そのひねっくれた根性を!!)

「あの〜ヤムチャさま?」
「あっ……すまん」
恨み辛みの独り言空間にトリップしていたヤムチャは我に帰った。
「で、ボク、18号さんをカメハウスに来たときにチラっとしか見てないのですが……」
「そうだな。とりあえず思い出せる感じでいいので化けてみてくれ」
「はいっ!」

ぼんっ
っと言う爆発音を立てて、18号に変身するプーアル。
「おぉ!うまいうまい!似ているぞ!完璧!」
「あっ、そうですか」
「え……と、胸はもう少しボリュームがほしいな。くびれもこう…もっときゅっと」
「え、あ、はい」
「お尻ももっとこうぷりっとしたほうが俺好み…」
「好みですかっ!!まぎらわしい!」
「じゃあ早速脱いでくれ」
「主旨違いますっ!!」
ぼんっ!
プーアルは怒って元に戻ってしまった。(ちぃっ!昔からこうだもんなぁ。まったく普段、従順なくせに変なとこだけ頑固なんだもん!)
と思ったが、家出されると困るので何も言わないでおいた(今までにマニアックなプレイをお願いして5回ほど家出された)。

さてさて、ヤムチャの予想通り、作戦はうまくいくのだろうか。まさか、ヤムチャの思惑通りすんなりコトが運ぶことにならないだろうとは………
……1人の読者(黄昏十平衛さん仮名79歳)を除いてほぼ全員がうすうす感づいていた。




どっぱぁん。
岸壁に波がうち寄せ、巨大な波しぶきが立ち上がる。
砕けた水滴が絶壁の岬に立つ少女の髪をぬらす。
キラキラと輝くようなブロンドの髪をなびかせながら、少女はつぶやいた。
「あ〜あ……何かやだなぁ……」
もちろん、18号へと変身たプーアルである。
ヤムチャに説得されたとはいえ、クリリンに暴言を吐くのは気がひける。しかも、相手の好きな人に変身して…である。
一方、近くの茂みの中で隠れて様子を見守るヤムチャ。
「お……来るぞ」
クリリンの気が近づいてくる。
公衆電話からクリリンの携帯に電話をかけ、18号に化けたプーアルがここに呼び出したのだ。
「ふっ。騙されるとも知らずにノコノコ出てきやがって。バカめ」
クリリンは半ば緊張した様子で18号(プーアル)のもとへと降り立った。
「な……なんだい?18号……何か話かい?」
(……まさか結婚してくれなんて言うんじゃないよな……にへへへ)
18号の方から呼び出されることは一度もなかったのだろう。クリリンは口元を緩ませながらゆっくりと18号に歩み寄った。
「だらしない顔をしやがって。ぷぷぷ」
笑いをこらえきれないヤムチャ。肩をひくひく震わせながら様子を見ている。
もし、クリリンがブルマに作ってもらった探査装置で位置を確認していたらこの作戦は失敗だったというのに暢気なものだ。
「あたしたち、もう会わないほうがいいと思うの……」
プーアルがヤムチャのシナリオどおりのセリフを口にしだした。
「へ!?」
18号が何のことを言っているのかよくわからないクリリン。
「あたし別にあんたのこと好きなわけじゃないし、はっきり言ってうざいんだよね、今まで同情してつきあってやっただけなのに最近、調子こいてんじゃん」
「え……あの……18号?」
「も…もしかして本気にしてたとか?えっ、ちょっとマジ〜?ちょっとかまってやったらすぐこれだもん。まいっちゃうよ。もてない男は。
あのね、こう言っちゃ悪いけど、鏡で自分の顔見たことある?ギネス級にキモいんだよ。なんであたしがそんなあんたとつきあわなければならないわけ?チビでハゲの男となんて街で歩きたくないわけ。いい笑いもんじゃないか。
バッカじゃないの………って……あの……」
顔面蒼白になっているクリリンを見てプーアルは固まった。
ヤムチャの書いたセリフはここからもっとひどくなっていくわけだが、さすがに心優しいプーアルにはもう続けられなかった。
するとクリリンはくるっとプーアルに背をむけた。

「……そうか。すまなかった。……お前が遊びだなんて…き……気づかなかったんだ……
……オレ、バカでさ…。ハハ……。
でも……オレは本気だったんだからな

……さよなら……」

それだけ言うとクリリンは岬から飛び立っていった。

てっきり慌てふためいて18号に泣きつくのかと思っていたヤムチャだったが、クリリンは思いのほか潔かった。
「あれ……そんなに深くまではいってなかったのか……やけにあっさりだな……」



そのころ――――。
ぐわーーーーーん!!!!!!
クリリンは空が割れんばかりの勢いで海の上で大泣きしていた!
「男は強くあるべき!」「女の前では男の涙は見せねぇ!」いやらしい考えを持って武道を始めたクリリンだったが、だからこそそんな意地も持っていた。
うおおおおおーーーーっと吠えては海にダイブし、やり場のない悲しみを海にぶつけていた。
そして泣いて、泣いて、泣きまくった。途中ですべての力を使い果たし、翌日には真っ白に燃え尽きたまま、カメハウスの浜に打ち上げられていた。


一方……ヤムチャたち。
「さて…今度は18号の方だが……」
早速、次なる作戦へと移ろうとするヤムチャ。……しかし。
「あの……もうボク……できません!」
きっぱりと断るプーアル。
「なっ。何を言うんだ!こ…これもやらなければ復……奴らの恋は成就しないんだぞ!」
「でも……ボクもうあんな人が傷つく顔を見たくないです!」
「いや……でもさ……ほら…な!?」
何が「な!?」なのかわからないが、必死で説得するヤムチャ。もし18号がクリリンに会いに来たら何の意味もない。それどころか、自分のしわざだとばれたら殺されかねない。
「ヤムチャ様が何を言われようと、今回、ボクは身をひかせてもらいます!!」
(やばい……この口調は前に家出したときと同じ…!)
「お……おい……プーアルぅ!!」
ひきとめようとしたが、プーアルはぷぃっとそっぽを向くとどこかへ飛んでいってしまった。
(あーあ……また2、3週間は帰って来ないな……。あー…このままじゃ、まずい!何としてでも奴らの仲を裂かないと!!くそっ!)
このままだとバレる可能性もあるし、プーアルは出て行ってしまう、悪いことばかりじゃねーか!これもみなクリリンのせいだと、怒りまくるヤムチャ。
「ウーロンは使えない……5分しか化けられないしな……。どうするか……。『これ、クリリンの手紙ですぅ』と言って18号に渡す……わけにはいかないよなぁ。
どうやって18号にオレをクリリンだと思わせるか……オレをクリリンに……待てよっ!あの手があったぜ!!」

ヤムチャはにんまりと笑うと、一直線にアパートへと帰っていったのだった。



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