駆け巡る青春〜クリリンと18号〜



第三話



「……またお前か……フン……」
荒野で三度目の出会いを果たすクリリンと18号。
「言ったよな。次に来たら殺すって……」
ピシリと、空気が震える。本気かもしれない…とクリリンはごくりと息を呑んだ。
「……わ…わかった。もう次は来ない」
ピクンっと18号のまゆがうごく。そんなことに気が付くこともなく、クリリンは続ける。
「でも……最後に言わせてくれ。オレ、本当にお前のことが……好きだったんだ。
ずっと、ずっと会えることを願ってたんだ。からかっているんじゃない!本気なんだ!」
「だったらどうしたいのさ」
「だ……だから……好きな人と一緒にずっと居たいってのは当然のことだろ……。その……だから……これから一緒に…」
「フン。……どうせ男なんて体だけだろ。金出すなら抱かせてやってもいいんだぞ。それで満足なんだろ」
どきんっとするクリリン。…が、少しムっとなって言い返す。
「バ……バカ言うなよ!オレは純粋に好きなんだ…」
「何が好きだ、だ!!あたしのことなんて何も知らないくせに!!」
キッとクリリンをにらみつけて叫ぶ18号。
そんなダダをこねているような18号の態度にクリリンがキれた。
「わかるわけないだろ!何も話そうとしないくせに!」
「………」

目を見開く18号。クリリンがいきなり怒ったのに驚いて言葉が出なかった。
「あっすまん……。よ……よかったら聞かせてくれないか……」
「……調子に乗るんじゃないよ」
「……」
がくっとうなだれるクリリン。
「…暇だから…話してやってもいいけど……」
「……え……?」
「こ……今度な」
照れているのかクリリンにそっぽをむける18号。
「え……じゃあ、またお前のところに来ても……いいのか?」
「勝手にしろよ。……まぁ暇だから相手してやるだけだからな」
クリリンに背をむけて18号は言う。
「わ……わかったよ…。また来るから……」
「………」
クリリンの問いには答えず、18号はゆっくりと浮き、やがて空へと消えた。クリリンはそれをいつまでも見つめていた……。
妙ほんわかとした余韻が残る心地よさがあった。



それからニ週間がすぎたころ――。
「あのクソアマぁ〜〜っ!!!」
アパートに帰ってくるなり、ヤムチャは激昂した。
「ど……どうしたんですか?ヤムチャさん。今日、デートだったのでは……」
「あの女、あれだけ貢がせておいて『やっぱりあたしたち、合わないと思うの』だってよ!
くっそたれがぁ〜っ!最初から金目当てだったんだなぁーっ!」
「はぁ……それはお気の毒に」
またか…と思いつつも、プーアルはヤムチャを慰めた。
「くそっ!だから女は信用ならねーんだよ。あぁ!!今日は飲むぞ!プーアル、ビールだ!!自棄酒だ!」
そのとき、ヤムチャの携帯が鳴る。「あの女、もしかして謝るつもりかな?」と期待したが、相手は(残念ながら)クリリンだった。
何か報告したいことがあるらしいから、とのことだ。愚痴をぶつけるのもちょうどよかったのでヤムチャは快く応じた。

しばらくしてクリリンがやって来る。既にヤムチャはほろ酔いだった。
「いや〜たびたび、すみません」
「いいってことよ。まぁ飲もうぜ」
最初はヤムチャの愚痴を長々と語られ、クリリンは適当に相槌をうっていた。自分の意見を言うと怒り出すからだ。
「こんちくしょーっ!あのクソ女ァ!いいチチしやがって、腰つきも最高だったぜ!!あー、最悪だぁぁっ!!3日前にプレゼント喜んで受け取ったくせに、いきなりふるっかつーの!ありえねぇ!あんなクズ女ども滅んじまえ!おっぱい最高!!」
酔って、わけのわからんことを叫びつづけるヤムチャ。
「はぁはぁ……つーわけで女には気をつけろよ〜。……で、どうよ?お前の方は?」
「はぁ……あの……何度か会っているんス。実は……」
「ホントかよ!」
「はぁ……。会っていると言ってもデートとかじゃなく……なんと言っていいやら」
「『次来たら殺す』とかまで言っていたのにすげぇ進展だな!実際、どうなんだよ」
「うーん……。正直、心は開いてもらってませんね……。自分のこと何も知らないくせに、って言うくせに何も話してもらえてないっスから…。
何か会いに行くたびに『買い物につきあえ』ってだけで…。『映画につきあえ』ってこと一度だけありましたが…。
もちろん、その間、話すわけでもなく……」
「おい!やったじゃねぇか!十分、心開いているよ!それ!」
「そうッスかねぇ」
「しかし買い物ってその金はどこから……?」
「いや、それがわからないんスよ」
「わからんの!?聞けないのかよ!」
「いや〜……怖くて。でも、もう商品は盗んだりしないでちゃんと金を払っているみたいッスね(金はどうかわからないけど)」
「まぁ宇宙最強だと思っていたあの頃とは違って、目立ってたら悟飯やベジータが成敗にやってくる、とでも思ったのかもな」
「でも……このまんまダラダラした関係だったらいやだなぁ」
「何言ってんだよ!あせるなって言っただろ!18号のほうも悩んでいるんだよ、きっと」
「そうですかね…」
「まぁ何にせよ、オレのおかげってことだ。オレの恋愛テクニックがまさに唸り声をあげたって感じだな」
酔っているんで何言ってんだかわからないヤムチャ。
まわりくどい歯の浮くような甘いセリフをふんだんに盛り込んだヤムチャの恋愛テクニックは、実際、ほとんど役に立っていなかったのだが、クリリンは一応、礼を言っておいた。


「では、いよいよ第二段階か。二人の関係を急接近させる必要があるというわけだ」
「はぁ……」
「オレがまぁよく使う手としてはつり橋効果ってやつだ」
「よく聞きますけど……」
「例えば18号をハイキングに誘ってだな。つり橋に怖がる18号を優しく……」
「いや、怖がらないし!絶対!飛べるし!!」
「18号とともに麻薬密売組織とかテロリストとかと戦ってだな。ピンチになった18号をお前が…」
「いや、普通に自分でやっつけちゃうし!絶対!」
「じゃあ…電車内で酔った男に因縁つけられた18号をお前がさぁ…」
「いや、それ電車男だし!!まず電車に乗らないし!」
「古びた洋館に誘って、幽霊に怖がる18号にお前が…」
「いや、スチュエーションに無理あるし!」
(ヤムチャさま…映画の影響受けすぎ……)
つっこみを入れるプーアル。
「おいおい…文句ばかり言ってないでそういうシチュエーションになるように画策しろよ」
「そんな……画策だなんて……」
「いいか?恋愛なんてものは駆け引きだ。ヤるかヤらせるかのだ。男はエサをちらつかせ、女は女でどこまで許すか計算する…。需要と供給が絶妙なバランスで保たれているかどうかが肝心だ」
「……うーん……」
「おっ…そうだ!いいものがあるぜ。ブルマからもらっていたものが。こんなときにうってつけ……」
何かを思い出したようにヤムチャは押し入れをあけようとするが、また小ずるいことを……と思ったクリリンはヤムチャを制して言う。
「いや……ヤムチャさん、オレ、自分のやり方でやってみたいんス…」
「はぁ!?」
いきなりのクリリンの意見にヤムチャは驚いた。
「ヤムチャさんにはヤムチャさんのやり方があるけど、オレにはオレのやり方があるんです。今は……その自分で思いっきりぶつかってみたいんです」
「お……おい」
「そんな18号を陥れるようなことしたくないし……」
むかっとしたヤムチャだが、そこは大人だ。ヒクつきながらもクリリンに説く。何か微妙にえらそうな口調で…。
「…そりゃぁ、何と言うか、自信過剰というもんじゃないかな?クリリン君。君はまだスタート地点にようやく立ったか立たないかくらいないんだよ。
いいかい??そのスタート地点につくことすらオレの力を借りなきゃできなかったわけだ。そこから一人でどうやってゴールインを目指すつもりなんだい?」
「いや…そりゃそうスけど……」
「18号とヤりたければオレの言うことに従ってればいいんだ。ほらほら。もうすぐだぜ!ゴールイン(ベッドイン)は!な!?」
今度はクリリンの方がムカッときた。
「オレ、18号とその……ヤることが目的なんじゃないんですよ!ずっと一緒にいたいって…!ヤムチャさんは女と寝れればいいだけかもしれませんが、オレは違うんです!」
「な、何だとぉ?」
結婚まで考えていたブルマにふられてからはまさにそのとおりだった。最初は結婚のことも考えてつきあっていたが、なかなかいい女性と巡り合えず、いつのまにかヤムチャにとって、女を口説き落として行為に至ることがゴールになっていた。
「バッ、バカヤロォ!」
言い当てられた悔しさに酔いが混じって、少し感情的になるヤムチャ。
「わーったよ。そこまで言うなら、俺も無理強いはしねーさ。自分で好きにやればいい。でもな、あとで泣き言いうことになってもオレは助けないぜ!」
「……それじゃ失礼します」
夜も遅かったが、こんな嫌な雰囲気のなかにずっといるわけにはいかず、クリリンは帰っていった。
「あのハゲがぁぁぁっ!!えらそうにしやがってぇぇ!!」
クリリンが帰った後、怒りまくるヤムチャ。クリリンの前では暴言を吐かなかったのはさすが大人だ。
「ま、ま、ヤムチャさま、抑えて。クリリンさんがそうしたいって言うんですからそっとしてあげましょうよ」
「………そうだな」
とは言ってみたものの無性に怒りがおさまらないヤムチャ。
恋愛経験豊富なオレ様によくもあんな童貞が偉そうにいえたものだ!恋愛の厳しさを知らないからあんなこと言えるんだ。
つーか、なんでオレが女にふられて、あんなやつに彼女ができるんだ!ああ忌々しい!
ちくしょう!見てろ、オレを敵にまわしたらどうなるか…思い知らせてやるぜ!!
そのあと、お前の恋愛論など戯言にすぎなかっただろ、って言ってやる!ぷぷっ!

ヤムチャの大人気ない復讐作戦が今始まる……。

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