駆け巡る青春〜クリリンと18号〜
第二話
「さっそく、アパートに帰って、シュミレーションだ」
カプセルコーポレーションを後にして、喧騒に包まれる西の都のど真ん中を歩く3人。
「えっ……すぐ行かないんですか?」
「落ち着けよ……昨日も言っておいたが……恋は長期戦だ。焦りは禁物だぜ」
すぐにでも18号の元に飛び立っていきそうなほど興奮しているクリリンに釘をさすヤムチャ。
「は……はぁ」
アパートに帰るなり、プーアルが不安げに見守る中、ヤムチャとクリリンの恋の修行が始まった。
「さて…昨日の講義でも言ったが…ターゲットの女を見極めるんだ」
(講義というより、愚痴でしょ……)と思ったが、クリリンはふんふんと素直に頷いた。
「女によって、プレゼントに弱かったり、甘い言葉に弱かったり、強引さに弱かったりするんだ。まずお前が見た18号の性格を教えてくれ」
「いやあ…性格なんて……あまり会ったわけじゃないし…。ちょっとキツいかな〜て感じくらいしか…」
「わからないのかよ!っつーか、どこに惹かれたんだよ!顔か?」
「うーむ………」
「オイッ」
ビシッ!! つっこむヤムチャ。
こんな調子で、一歩一歩着実に、三歩進んでは三歩下がるといった具合に作戦は続いていったのであった。
やがて夜が明け――
「よーし、では行くか!夢の実現への第一歩だ!はりきっていこうぜ!」
ヤムチャが勢いよくアパートのドアを開ける。
出勤中のサラリーマンとばったり鉢合わせして固まるヤムチャ。
「おはようございます……朝から元気いいですね」
「あ…あはは……どーも………」
(あー、あの主人、奥さんにオレのこと変態だって言うんだろーなー、あの奥さん美人なのになぁ…)
どうでもいいことでガッカリしているヤムチャの後ろからクリリンも出てくる。
「頑張って下さいね」
「ああ……世話になったな」
ドキドキと緊張しまくっているクリリンをプーアルが激励する。
「メンソールタウンの市街地の東20kmてとこか……」
空を飛びながら、ヤムチャが探査レーダーと地図を見比べる。
「あのへん…治安悪いからなぁ……」
「そうなんスか……。18号大丈夫かな……」
「大丈夫に決まっているだろ!むしろ、18号にからまれたほうが危険だろ!?……それにしても、よく考えたらお前服装ださいな〜。スタジャンはないだろ」
「はぁ…。んじゃ、カメハウスによって、服とってきます」
「まぁ待て。大きな街にいったん下りて買おう。カードあるし、オレがコーディネートしたほうがいいだろう」
て、ことでヤムチャはクリリンに真っ白いスーツ(ソフトハットつき)を買ってやり、18号の元へとむかった。
ひゅ〜〜っ…かさかさ……
木枯らしが吹き、枯葉がゆれる。西部劇に出てきそうな町並。よれよれの服を来た老人が犬を散歩させている。
「寂れた街だな…」
「この辺にいるはずなんですが……」
そのとき、男の怒鳴り声が聞こえた。路地裏からだ。二人は顔を見合わせて、こっそり様子を見に近づく。
「調子に乗ってんじゃねーぞ。このアマぁ」
「今さらおせーんだよ!」
「こちとらもう5万も出してんだぞ。」
「フン。5万程度じゃ、ダサい服もかえないんだよ!とっと消えろ。殺すぞ」
いかにもという感じの男たちと、小柄なブロンドの女性が言い争っている。
「どうやらビンゴのようだな。18号に間違いない……」
「じゅ……18号………」
クリリンの緊張感の高まりは最高潮だ。心臓の音がヤムチャにまで聞こえている。
「じゃあな」と言って去ろうとする18号を男たちはひきとめようと、18号に襲い掛かった。
助けも必要もないのはわかりきっていたのだが、クリリンは反射的に飛び出した。
「ちょっ……おまっ……」
ヤムチャの制止が間に合うはずもなく、18号の背後へ現れるクリリン。もっともその前に男たちはのされていたが。
「………なんだ?お前。仲間か?」
クリリンに背をむけたままクリリンに問う18号。
「あ……いや……オレ……」
ようやく意中の女に会えたというのに、なかなか言葉が出てこない。
「…お…覚えていないのか?オレ……」
18号は振り返るのも煩わしかったが「何言ってんだ?」と思い、うんざりしながらゆっくり振り向く。
「……お前………」
目の前の人物に覚えがあった。停止コントローラーを踏み潰し、ドラゴンボールで爆弾を取り除いたあの男……。
ハゲでチビで太いまゆげで、額に六つのお灸のあとがある奴はそう滅多にいない。
「あのときの……」
「……いや……オレ、クリリンって言うんだけど」
「………」
無言でじっとクリリンの方を見つめている18号。
「あ……あはははは……」
緊張に耐え切れず意味不明に笑うクリリン。
「何しにきた?」
「……え……。あ、あの…そりゃ……もちろんお前に会いにさ……」
「…慣れなれしいな」
(何やっているんだーっ!オレとの特訓を思い出せ――!)
ヤムチャの心の声も空しく、クリリンは一人つっぱしる。
「ず……ずっと探していたんだ。会いたかった」
「消えな。チビのおっさん」
そういうと18号は、わき見もふらずに空へと飛び立っていった。
後に残るは、真っ白に砕け散ったクリリンの姿。
ヤムチャが駆け寄ってくる。
「バッカやろー!!オレとの特訓がまったく生かされてないだろ――っ。
まずは運命をほのめかすセリフから入れって言っただろーっ!」
しかし、空を見上げたまま、固まっているクリリンには何も聞こえていなかった。
「おっ。ちょうどいいところに、派手でこそないが質素で可憐ないい女が!見てろ。オレのお手本を!」
大通りを歩いている若い女性をくどきに行くヤムチャ。
――5秒後、ヤムチャがパァンっと派手な音をさせてひっぱたかれたことなど放心しているクリリンには気づきもしなかった。
その日、その町で宿をとる二人……。反省会が始まる。
「お前はーっ。ちっともわかってないぜ」
「はぁ……」
ようやく現実世界へと戻ってきたクリリンにヤムチャは説教する。
「18号じゃなくてもだな、いきなりあんなふうに言われたら普通ひくぞ。親しかったわけでもないのに。っつーかこえーよ。マジで。」
「そうですかねぇ……。でもあのときは、『またな』って言ってたし、気があるってヤムチャさんも言ってたじゃないですかぁ」
「そんなもん半年前だろ。半年ぶりに会ってありゃぁねーだろ」
「でも……」
「例えば、あくまで偶然を装って『君、まさか18号かい?そんな…君には二度と会えないと思っていたのに…まさかまたこうして会うことができるなんて……。信じられない。奇跡だ』
と、出会うべくして出会った運命だと暗示するんだよ。女は運命とか運勢とか好きだからな」
「オレのと大してかわらないんじゃ……」
「バ…バーカ!変わりまくりだわい!」
「でも……本当は嫌われているんスかねぇ。まさかあんなに冷たくされるとは……。だいたい18号はオレがカメハウスにいるってこと知っていたんだから、気があるなら会いに来てたはずなんスよね…」
弱気になるクリリン。しかしヤムチャは18号のクリリンにあったときの目を忘れていなかった。幾多の女を見て来たヤムチャだけが直感で感じ取った複雑そうな18号の瞳……。
「いや……まだわからんぞ。オレの勘だが」
「ホ、ホントっ!!??」
ヤムチャを押し倒すクリリン。
「く……くるし……落ち着け……」
「あっ…すみません…」
「…で、どうするんだ?これから……」
「明日また会いに行ってみます……」
「もう明日かよ!」
「せっかく見つけたんだ…。せめて…もう少し話がしたい…。ヤムチャさんの勘、信じてみます」
「あてにされても困るが……まぁ女なんて他に腐るほどいるんだから、フられても落ち込むなよっ!」
ふられた後によくある励まし方をするヤムチャだったが、まったくクリリンの心は晴れなかった。
翌日。
「えーと…どうやらボラギノールタウンにいるようだ。そう遠くない」
ヤムチャが地図を見ながらつぶやく。
朝早く起きて、出発の準備をする二人。
「オレは明日から数日間、彼女と遊びにいくんで今日しか手助けできない。すまんな」
「いえ…ここまでつきあっていただいただけでもありがたいッス」
ヤムチャたちはさっそく目的地に舞空術で向かった。
むかう途中、緊張しているのかクリリンは深刻そうな顔をしていた。ヤムチャが励ますがクリリンは言葉少なだった。
「いた……。あそこ……ショーウィンドウの前で服を見ている。」
二人が物陰からこっそり18号を観察する。
あんまり好みじゃなかったのか、しばらく見た後18号がそこからたちのいた。
タイミングを見計らってクリリンが再び、18号の前へと現れた。昨日と同じ白いスーツにソフトハットの姿である。
「!!」
「えと……き…君、ま……まさか18号か?も、もう二度と会えないと思っていたんだでもまたこうして会うことができるなんて運命だと思わないか」
「……?」
あっけにとられる18号。
(バカヤロ――――ッ。それは初対面のときだって言っただろ!しかも思いっきり棒読みだし!)
ヤムチャが心の中で突っ込む。
「なに言ってんだ。チビのおっさん」
「いや……だからその……運命かなぁって…」
「…ふざけるんじゃないよ。ぶっ殺されたいのかい?」
「い……いや……」
(ヤムチャさんの嘘つき――――ッ!)
ガクガクと振るえるクリリンの声。
「オ……オレ……お前のことす……好きで…だから……おいかけてきたんだ……!」
(うゎぁ…昨日と同じじゃねーか!!)
心配そうに見守るヤムチャ。
ズイっとクリリンに歩み寄る18号。どことなく悲しげな目をしている、…そんなふうにクリリンが感じた瞬間、
「……だから何だよ!」
っとドンっとクリリンが押し倒される。18号にとっては軽く倒しただけなのだろうが、常人をはるかに超えたクリリンでさえ、胸に衝撃が走った。
「二度とあたしに近寄るな!次は殺すぞ!!」
18号が大声をあげたあと、空へと飛び立った。
クリリン再度、撃沈。
そのころ、こそこそと建物の陰から見守っていたヤムチャは不審者と疑われて警察に取り調べされていた。
「もう…あんな凶暴なの、やめておけよ……。いい女なんか他にもそこらじゅうにいるぜ」
ヤムチャは帰り際にクリリンに言った。
「……はぁ……」
「ま、諦めきれないならやるだけやればいいけどな。オレの教訓を思い出して頑張れよ!」
ヤムチャからどうすれば女を落とせるかというノウハウはいやというほど聞いたが、それが18号に通じるかどうかはわからない。
というか、そんなの聞いただけで女性にもてるようになれば誰も苦労はしないのだが………。
…とつっこむ元気もないまま、クリリンはヤムチャを見送ると、宿へと戻ったのであった。
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