駆け巡る青春〜クリリンと18号〜




第一話


人造人間、そしてセルの脅威が去ってから早くも半年が過ぎようとしていた……。
長い長い戦いの緊迫感から開放された戦士たちは思い思いの生活を始めていた。ある者は己の夢のために…ある者はさらなる飛躍を遂げようと毎日を充実に過ごしていた。
しかし……ここに日々を悶々と過ごす男がいた。

「これ……クリリン。街に買出しに行くぞい」
亀仙人が、居間のテーブルに頬をはりつけてテレビを眺めているクリリンに声をかけた。
「ふぁ〜〜い」
「なんじゃい。その気のぬけた返事は!!しゃきっとせんかい!!まだ若いんじゃから!!」
「はぁ……」
クリリンは気だるそうな態度で立ち上がった。
「ほれ!これ何だかわかるか?」
「何スか?そのチケット」
少し興味を持ったのか、クリリンは身を乗り出そうとした。
「ストリップショーのじゃよ!買出しがてら寄っていかぬか?ウヒヒヒ」
「亀仙人様!!またそのような…!」
近くにいたウミガメが亀仙人をいつものように批難する。
「うるさいっ!ワシはクリリンのためを思って……」
亀仙人なりの気遣いだったが、今のクリリンには余計なおせっかいだった。気の抜けたクリリンの顔を見て、亀仙人は真面目な顔をして語り出した。
「のう……クリリンよ。18号……じゃったかな?彼女を思う気持ちはわからんでもない。ワシも昔は幾多の恋をしたもんじゃからな…。
しかし…いつまでもその娘のことに捕らわれてばかりでは、新しい恋を始めることすらできんのではないか?」
「………」
うつむいたままのクリリン。
「でも……オレ……」
「うーむ……。では…ヤムチャにでも相談して見るがいい」
「ヤムチャさん……ですか?」
意外な人物の名があがって、クリリンは顔をあげた。
「その道ではあやつが一番のプロじゃろ。ワシもその手のことに関しては奴に負ける気はせんが、同年代の者どうし、話もあうじゃろ」
「でも、恥ずかしいし……」
「これっ!!いいかげんにせんかい!!」
いきなりの師匠の大声にびっくりして目を見開くクリリン。
「仮にもお前はこの武天老師の弟子じゃぞ!!いつまでもメソメソしおって!情けない!武道家失格じゃ!」
「そ……そうですね………」
クリリンはゆっくりと窓に近づき、海を眺めた。
「オレ、行ってきます!…誰かに尻を叩いてもらいたかったんだと思います…。ありがとうございました!」
「うむっ!」
クリリンは亀仙人に一礼すると、着替えもせず玄関から飛び出していった。
「……頑張れ。クリリン。
………って、あいつ買出し手伝わずにいきおった……」




西の都――のはずれにヤムチャの住むアパートはあった。
セルとの戦いの後、ブルマに「ここ(カプセルコーポレーション)に住んでいてもいいのよ」とも言われたが、そんなことをプライドが高いヤムチャが了承するはずもなく、今はここに住んでいるというわけだ。
ちなみに、最初の三ヶ月の家賃はブルマに貸してもらってまだ返していないことは内緒である。

ヤムチャに連絡を入れたところ、「いつでもヒマだから」ということだったので、クリリンはすぐにここにやってきた。
「よぉ!久しぶりだな!珍しいな!お前の方から来るなんて!」
汚い黒いジャージをだらしなく着たヤムチャが笑顔でクリリンを迎え入れた。
「いや…すみません、忙しいところ……」
忙しくもなさそうだけど、一応クリリンは謝っておいた。
「いや、全然ヒマ!…暗いなぁ。大丈夫か?元気だせよ」
奥に通される。居間に入るとテレビが大音量でついていた。
「あー…このラスボス強くてよ〜……」
ヤムチャはヘラヘラと笑った。
(むしろ、ヤムチャさんの方が大丈夫かって感じだな……)
呆れるクリリン。
しかし、話を聞くとヤムチャは毎日を楽しんでいるようだ。
ブルマから政界の大物や大企業の社長などのボディーガードを斡旋してもらい、非常に重要なときにだけ任務についているらしい。まさに特別待遇だ。銃やミサイルも効かず、目にもとまらぬ速さで動け、空をも飛べる超人なのだから当然なのかもしれないが。
また、警察の手におえない凶悪犯等も何度か依頼を受けて逮捕に協力しているという。
そのため、金には困っていないし、滅多に大きな事件もおきないので時間も十分にあった。

「まさに自由人だぜ。有名になっても動きにくいだけだしな。恋愛も気ままにできそうにないし、今のオレにこの暮らしがあっている」
「なるほど……」
「オレのことはいいとして、で、相談って何だ?」
「……あの……」
言葉につまるクリリン。顔が真っ赤になっている。
「ははぁん。恋愛だな。」
「……実はそうなんス。」
「相手は誰だ?オレの知っている奴か?」
「ほら……ヤムチャさんもご存知でしょ…。あの人造人間の……」
「ああ。あいつか〜〜っ……って。おい。あれ、もう半年前じゃないか!まだ何もアクションしてないのか?」
「したいのはやまやまですが……何せ、どこにいるのかすら……。もし会っても何をしていいのやら…」
クリリンは神妙な顔をしてうつむく。
「なるほどな。それでオレに相談か…。よし!任せておけ!経験豊富な俺様が何とかしてやらぁ」
「本当ですか!」
クリリンが顔をハっとあげてヤムチャに飛びついた。
「お、おい……。苦し……」
「あ…すいません」
「しかし……まずは18号を見つけんとなぁ……」
咳払いして顎に手をあててうーんと悩むヤムチャ。クリリンは不安げに見つめる。
そこに……
「ただいま〜」
とプーアルが買い物から帰ってきた。
「あっ……こんにちはクリリンさん」
「久しぶりだな!プーアル」
「今日はクリリンも一緒に飯だ」
「はいっ。すぐ準備しますね」

ぐつぐつと煮える鍋を囲みながら三人は団欒の一時を過ごしていた。

「うーん…人造人間を見つける方法ですか…。ブルマさんに頼んではどうでしょう?」
「ブルマさん!?」
「そっ……そうか!そうだよ!クリリン」
何かを思いついたようにヤムチャが大声を張り上げた。
「お前、ドクターゲロの研究室から人造人間の設計図を持ち帰ったって言ってたじゃないか!
ブルマもそれから緊急停止コントローラーを作ったんだし、18号の探査装置も作れるんじゃないか!?」
「そ、そうかっ!」
クリリンの顔がほころぶ。
「よし!さっそくブルマさんのところに……」
興奮して立ち上がるクリリン。
「お、おい、もう夜だし!!プーアルの作った料理も残ってるし!!」
「……そうですね」
「そんなに焦るな。恋も焦ったらオシマイだぞ。ブルマの家はすぐ近くだし、今日は泊まって明日行こうぜ!」
「すみません…」
そして酒が入ったヤムチャは恋の思い出話を長々とクリリンに語りだすのであった……。

――翌日。カプセルコーポレーションを訪れるクリリンとヤムチャ、プーアル。
「…というわけで、お前に一肌脱いでもらいたいんだ」
研究室でブルマに説明するヤムチャ。
「もちろんいいわよ!」
「ちょっ…ちょっと待てヤムチャ!何を脱いでくれと言った!」
二つ返事のブルマと何を聞き違えたのか怒るベジータ。
「はぁっ!?てか、何でお前がいるんだよ!」
「居ちゃ悪いか。ブルマの発明品のモニターだ。話を変えるな!ブルマに何を脱がせるつもりだ!!」
「何勘違いしているのよっ!」
「えーと…じゃあブルマ……」
「なにっ!!ブルマだと!!ブルマのブルマを脱がせる気かぁ!!きさま…」
「ばかっ!!」
ばしっとベジータの頭をひっぱたくブルマ。
「仲のよろしいことで……。慌てなさんな。昔の女になんて手を出すほど女に不自由してないし、過去にこだわらん」
とカッコつけて言ったが、仲よさげな二人をみてちょっぴり心が痛むヤムチャだった。

図面を見ながら探査装置のコントローラーの設計図を書いているブルマ。
そこにヤムチャがこっそり近づいていく。

「な、ブルマ。あのさ、『アレ』も一緒に作ってくれないか?クリリンはウブだしさ……奥の手かもと思って」
「『アレ』?ああ……部品が貴重だけど…クリリン君のためだし…いいわよ。というか、もう作ってあるから、それあげるわ」
「ホントか!?サンキューッ!」


数時間で、18号探査レーダーが出来上がった。
「ありがとう!ブルマさん」
「ずいぶん、急いで作っちゃったけど、ちゃんと働くはずよ」
そう言ってブルマはクリリンに手渡す。見た目は携帯電話のようだが、ドラゴンレーダーのような画面がついている。
「使い方はドラゴンレーダーと同じよ。まぁドラゴンレーダーを改造したようなもんだし」
「ははぁ……縮図を変えると……あっ!反応が!!」
「そこに18号がいるってことね!」
緊張しているのか、クリリンのレーダーを持つ手が少し小刻みにふるえている。
「頑張ってね!クリリンくん!」
「さて……ここからはオレの出番だな。いよいよ本番だぜ。クリリン」
「はいっ!お願いします」
クリリンは勢いよく頷いた。


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