病的なベジブル
第八話
悟空宅のドラム缶風呂からあがり、居間へと戻るブルマ(べジータ)。
髪は乱雑に拭かれ、くしゃくしゃだ。
が、まったくそんなことは気にせず、居間でくつろぐ悟空へと駆け寄ろうとする。
悟空「よ……よぉ…長かったじゃねぇか……はは」
ブルマ「…。じゃあ……カカロ……いや…ゴ…ゴクウ……」
悟空「あ……ああ…えーと。チチィ!酒持ってきてくれ!ブルマが飲みたいってんだ」
おお慌ててでチチに酒を用意するように促す悟空。
ブルマ「ちょっと待て!オレは酒など………!」
悟空「いいって、いいって。風呂あがりに飲む酒はうまいんだぜ〜。オラ飲まねぇけど牛魔王のおっちゃんが好きなんだ」
チチが急いで焼酎を持ってくる。
つまみは粗末な漬物だけだ。
ブルマ「酒などいらん!!オレは……」
悟空「そ、そういうなってぇ〜……ほらほら、うめぇぞぉ」
怒りだしたブルマをなだめようと、悟空は焼酎の入ったお猪口を無理やりブルマの口に持っていく。
チチ(……強引すぎるだ……悟空さ)
ブルマ「ぅえっ!!うぐ!や…やめろカカロット……」
強引に焼酎を飲ませられるブルマ(べジータ)。
悟空「おぉっ!ブルマ!いいのみっぷりだなぁ〜〜っ!ほらもういっぱい♪」
悟空はなおもしつこく酒を勧めつづける。犯罪すれすれである。
ブルマ「うぇ…ぐふっ……飲めないって……ぅいっく……」
最初は嫌がっていたブルマ(べジータ)だったが、酒好きのブルマのカラダが、アルコールを求めている。
次第に自分から進んで飲むようになっていった……。
やがて……
ブルマ「おらっ!もっともってこんかぁ!!もっとマシなつまみはないのか!!」
完全に酒がまわり、ドカドカ壁やら椅子やらを蹴って、酒とつまみを催促するブルマ(ベジータ)。
酔いのせいで体がムラムラし、落ち着かなくなったようだ。
自分の部屋で勉強していた悟飯もブルマの大声が気になり、こっそり居間をのぞきにきた。
彼の目に飛び込んできたのは、髪はボサボサ、テーブルに大また開きで足を乗せ、酒を浴びるように飲んでいるブルマの姿だった。
悟飯「そ……そんな…あれがブルマさん……?」
悟空「…ほっ。うまくいったようだな……」
チチ「まだわからねぇだぞ。このまま寝ちまうまで待って、朝になったらすぐに帰すだ」
酒を飲みながらぶつぶつ言っているブルマを見て、二人は相談していた。
ブルマ「カカロットォッ!!超サイヤ人になったからっていい気になるなぁぁ…!!」
悟空「わっ!な…。なんだ……」
ブルマ「オレはキサマを超えてやる…超えてやるぞぉぉぉ!!」
ありったけのでかい声を張り上げてブルマ(べジータ)は叫んだ。
悟空「あ…あはは。ベ……べジータの真似かぁ?よく似ているぜ…はは」
ブルマ「似ててあたりまえだ!!オレはサイヤ人の王子ベジータだぁぁぁ!!」
(ブルマさん狂ってる……科学者として尊敬してたのに……)
悟飯は悲しそうにつぶやくと足早に寝室へ向かった。
なおも暴れつづけるブルマ(ベジータ)。その相手をするのも大変な悟空とチチ。
そのときブルマ(ベジータ)は疲れたのか、急に勢いが落ちた。ほっとする悟空たち。
ブルマ「……トイレはどこだ……」
眠そうな顔をしてボソッと言う。
チチ「そ……そこを曲がって右だ……」
ふらふらとトイレへ向かってブルマ(ベジータ)は歩いていった。
悟空「そ……そろそろ、眠りそうだな。いやぁ…大変だったぁ……」
チチ「んだ……。これもみな悟空さのせいだべ!」
悟空「いやぁ……オラ何もしてねぇと思うんだがなぁ……」
そのとき、トイレからギャァァァァァっと言う叫び声が聞こえてきた。
慌てて悟空とチチ、寝ぼけ眼の悟飯がトイレに駆け寄る。
悟空「ど……どうした!ブルマ…!」
ドンドンっとドアを叩く。ブルマのつぶやきが聞こえてくる。
ブルマ「オレの……オレの×××が……なぁぁぁぁい!!ど…どうなってやがる!どこかで落としたとでもいうのか!?」
チチ「何言ってるだ?ブルマさん」
悟空「よくわかんねぇ…ないとか…落としたとか……」
悟飯「酔っ払っているだけですよ。きっと。……もう人騒がせな……。」
むすっと悟飯が言う。
悟空とチチも「しょうがねぇな…」と居間に戻る。
一方、トイレの中のブルマ(ベジータ)は、すでに完全に酔いが冷めていた。
ブルマ「はぁっはぁっ……。驚かせやがるぜ…。酔って、あの女になっていたのを忘れていたぜ……。
くそっ……さっきまでの記憶がまったくない……。カカロットの奴にバレなかっただろうな。
あんな女にはめられたなんて知られたらいい笑い者だぜ……」
ブルマ(ベジータ)は手も洗わずにトイレから出てくると、悟空に詰め寄ろうと居間へと走りだした。…が
ブルマ「おおおおおッ。頭がぁ……くそっ!!何だ!!ぅえぇぇ〜〜」
急に激しい頭痛と吐き気が襲ってきたのだ。
ふらふらになりながらもトイレにユータンし、ひとしきり嘔吐する。
ぅえ〜〜ぅえ〜〜という声が悟飯の寝室にも届く。
(ブルマさん……ボク……もう尊敬できません……)
悟飯の枕が濡れていた。
結局、頭ガンガン、体フラフラで、悟空に問い詰める気力もなく、素直に泊めてもらうことになった。
ブルマ(くっ…くっそぉぉ〜〜っ……このオレさまが酒程度でこのザマとはぁ〜〜……)
布団の中で屈辱に打ち震えるブルマ(ベジータ)であった……。
さて…翌朝……。
悟空はブルマが起きる前に修行に出かけてしまおうと、こっそり悟飯を起こして、外へと出た。
…が、そこにはブルマの姿が!
あたりまえのように髪はぐしゃぐしゃで、服もしわだらけ。とても女性が人前にでる姿とは思えなかった。
悟空「げっ!!ブルマ!!は……早いな……」
悟飯(ぅわぁぁ………汚いカッコ……)
ブルマ「キサマのことだ。そうくると思っていたぜ。
どうしてもオレに超サイヤ人になるキッカケを教えたくないというわけか…」
悟空「へ!?…何のことだ?」
ブルマ「とぼけるな!こうしてここまできたのはそれを聞くためだ」
悟空「そうなんか?……オラてっきり………いや、別に思い当たることねぇけど」
ブルマ「教えろ!超サイヤ人になるには何が必要なのか!キサマは掴んでいるはずだ」
悟空「えーっとだな……超サイヤ人になるには……
……穏やかな心をもち続けたまま、激しい怒りで目覚めるんだ」
ブルマ「……なにっ……。そ……そんなことでか?」
悟空「………だとオラ信じている」
ブルマ「お前の感想かよっ!」
悟空「いや……あまり詳しいことはわかんねぇけどよ。まんざら外れってわけでもないと思うぜ……」
ブルマ「……なるほど……。穏やかな心と激しい怒りか……。」
納得したようにつぶやいてみるブルマ(ベジータ)。
悟空「でもよぉ、何でおめぇがそんなこと聞くんだぁ?ははぁん……さては……」
ブルマ(ベジータ)はその言葉にギクッとしたが……
悟空「ベジータがオラに聞くの恥ずかしいから、おめぇに頼んだんだなぁ?
意外とシャイな奴なんだなぁ。聞けば教えてやんのに」
ブルマ「ほっ……………
(入れ替わっているってバレてない……)
…………………って違うわぁぁぁぁぁああああああっ!!」
ブルマの絶叫が山間にこだました……。
二日酔いの頭を抱えながら、ブルマは飛行機のエンジンをかける。
ブルマ「いいか、ゴクウ…。オレ、いやベジータは必ずお前を越えてみせる……。楽しみに待ってるんだな……」
悟空「あ……ああ……」
ブルマのわけのわからない言葉に頭をひねらせながらも悟空はブルマ(ベジータ)にひきつった笑顔を向けた。
ブルマを乗せた飛行機が小さくなっていくのを眺めながら、悟空親子は「ブルマに酒を飲ませてはいけない」とかたく誓うのだった…。