ドラゴンボール最後の願い
第37話
ヤムチャはプーアルの亡骸をこの海が見下ろせる高台に埋めることにした。
プーアルを優しく抱きかかえると高台へとゆっくり歩き出す。
空を飛んでいくこともできるのだが,少しでも長くプーアルとふれあっていたかったのだ。
ヤムチャ「なぁ。おい。プーアル。これがホントのロンリーウルフだぜ。へへ」
鼻水をずずっとすすって無理に笑うヤムチャ。
そのとき,ヤムチャは違和感に襲われた。
熱い。異常に熱いのだ。プーアルの躰が。
ヤムチャ「な…なんだと!?」
下がったはずの熱が再びあがりだしている。
いや。これはもはや生物が発する熱ではない。
あまりの高温にヤムチャは我慢できず
砂まじりの地面にプーアルの躰を落としてしまった。
その後もプーアルの躰の熱はあがっている。もうもうと湯気までたっている。
それだけではない。
周囲にまでその熱が押し寄せてきた。
近くにいるだけで焦げてしまうほどの熱波。
やがてプーアルの肉体は生物としてのカタチを保持できなくなり
溶け始めた。
ぼこっ。ぼこっと沸騰するような音をたてて。
ヤムチャは目を見張った。
溶けたプーアルの肉体が
再び何かのカタチを成そうと動き出したのだ。
粘度細工のように。うねうねと。
そのプーアルの肉体だったモノは徐々に膨らみ……
やがて
ヤムチャの背丈よりも頭二ついや三つ分ほど高い人間の姿を形成した。
そこで初めてヤムチャは気づいた。
まがまがしい邪悪な気に。
かつてのフリーザ・セルなどとは比較にならない濃密で深淵で強大で限りなく凶悪な気だった。
天界で様子を見ていたデンデはうろたえた。
そして絶叫した。
デンデ「う……生まれた……!!」
幾度も地球上に出現し,
地球の,宇宙の,平和を守り続ける原動力となった神龍。
その大自然の摂理をもねじ曲げるほどの摩訶不思議な力は
一度使われるとその反動でドラゴンボールの内部に負のエネルギーに変換され蓄積される。
そのエネルギーを完全に浄化するのにはゆうに100年を有すると言われる。
しかし数十年で幾度もドラゴンボールが使用された結果,内部の負のエネルギーが徐々にもれだし始めた。
そのエネルギーはしばらくは世界を漂っていたが,あるとき
ある生物にとりつき,その体内へと入り込んだのである。
そして追い打ちをかけるように最後の願いが叶えられた。
ドラゴンボールにはヒビが走り,そこから負のエネルギーが猛烈な勢いで漏れだした。
エネルギーはゆっくりと生物の体内を侵しはじめる。
具現するために生物の細胞に自らのエネルギーをじっくりと溶け込ませていった。
やがて生物がその生命を維持できなくなったとき
『ヤツ』は完全に自我に目覚めた。
自らの意志で自らの望むままに姿を形作り
今ここに誕生した。
ドラゴンボールの負のエネルギーから生まれた邪悪龍。
彼はゆっくりと目をあけた。
その邪悪な気に地球に散り散りになっていた戦士たちは皆いっせいに気づいた。
それほど強大で明瞭で邪悪な気だったのである。
ヤムチャをあざ笑うかのように,彼が慣れ親しんだ姿を軽々しく崩壊させ,
屈強な姿へと変えた邪悪龍。
白く逞しい巨体に邪悪な意志を持った凶悪な面構え。
頭部,肘,背中と躰の各部にまがまがしい角を生やしている。
ヤムチャ「お……お前は誰だ……!」
気を抜けばすぐにでも嘔吐してしまうような圧迫感をふりはらってヤムチャは尋ねる。
邪悪龍「……オレの名は邪悪龍。……プーアルの記憶はもらっている。
お前がヤムチャだな。」
ヤムチャ「邪悪龍……!?…まさか…プーアルの病気はお前のせい……」
邪悪龍「そうだ。」
無表情で答える邪悪龍。どんな感情が込められているか全くわからない口調。
だが,それでもヤムチャは圧力で潰されそうだった。
ヤムチャ「何が何だかさっぱりわからんが……よ……よくも」
怒りがこみ上げてくる。だがカラダが動かない。まったくと言っていいほど。
この場に存在しているのでさえ辛いのだ。
邪悪龍「プーアルの主人だったようだな。この場では殺さないでいてやる。
次に会うまでか…それとも地球を滅ぼすまでか…。いずれにしろ数日くらい生きれるだろう。オレはこの世界を観察したいのでな。」
ヤムチャ「勝手に殺せよ。あの世にはプーアルがいるしな。寂しくねぇ」
開き直るヤムチャ。死後の世界は既に2回ほど行っている。恐くも何ともないのだ。
邪悪龍「プーアルはあの世にはいんぞ。
プーアルの魂はオレの負のエネルギーと完全に融合している」
ヤムチャ「じゃあプーアルはあの世には……」
邪悪龍「行けないだろうな」
ヤムチャ「そ……そんな……」
声が震える。絶望と悔しさでガチガチと歯が音をたてている。
邪悪龍「光栄に思え。プーアルの魂は我が負のエネルギーと共に永遠に生きるのだ」
ヤムチャ「プーアルは……お前のために生まれてきたんじゃねぇっ!」
あらん限りの声をはりあげて怒鳴るヤムチャ。
しかし邪悪龍はそんなヤムチャを無表情に見つめると,すぐに空へと舞い上がった。
緊張感から解放されると同時にヤムチャはその場に力無く座り込んだ。
砂浜に二度目のうめき声が響く。
それは,先ほどよりも更に深い哀しみと絶望に満ちたうめき声だった。
一方――……。
邪悪龍の誕生に共鳴してか,世界中に散らばっているドラゴンボールからそれぞれ邪悪龍が現れる。
一星球からは一星龍,二星球からは二星龍と…計七体。
本体と合わせて八体もの強敵が一挙に出現したのである。
地球の戦士と邪悪龍の決戦が幕を開けたのであった………。