ドラゴンボール最後の願い

 

 

第36話 歌

 



……ざざーん。ざざーん。

何本もの手が招くように白波が波打ち際に押し寄せてくる。
じっと見ていると深い海の底に引きずり込まれるようだ。
どんよりと濁った空の下にこれまた黒くうねる海が広がっている。
少し強めの風邪がヤムチャの後ろに束ねた髪を揺らす。

ここはヤムチャのアジトのある荒野から数十キロ先の海岸だ。

ヤムチャとプーアルは今,ここにいた。

彼らが出会った想い出の場所だ。

ヤムチャの予想に反して,プーアルの命は争奪戦から1週間尽きることはなかった。

しかし症状が悪いのは相変わらずで,日に日に痩せていった。

そんなプーアルが久しぶりに口を開いた。

「あの場所へいきたい」と。

力を振り絞って出した声だった。

ヤムチャはプーアルを連れ,
今この場所に来たのだった。

もはやプーアルの意識はない。

それでもまだ熱は下がることがなかった。

これでもかと言わんばかりに小さな生命を苦しめ続けるかのように。

ヤムチャはプーアルの胸に手を添える。

弱々しい心臓の音が聞こえる。

ときどきそのリズムも狂い,

いのちの糸が次第に細くなっていく。

プーアルとのこれまでの生活を思い出そうとするが
なぜか思い出せない。

いろいろあったはずなのに
頭をよぎるのは
どうでもいいことばかりだった。

この海岸での思い出も
うすぼんやりで。

「なんだっけ…………あの歌……」

ヤムチャはプーアルに語りかける。

「あんときオレが歌っていた自分の歌……………」

ヤムチャはプーアルの顔を見つめる。

「ん〜〜♪ウルフ〜〜♪………違うな」

そしてしっかりとプーアルの手を握る。


「あぁ。そうだ。」

目を瞑る。


「ウッ ハッ ウッ ハッ フゥーッ」

ぎゅっとプーアルの躰を愛おしく抱きしめる。


「 狼牙風々拳!……♪」


カラオケの得意なヤムチャがぎこちなく歌い始める。

 

「クールな眼差し ホットなハート……」

 

異常なまでに熱がこもっている。

 

「俺が噂のナイスガイ ヤムチャさ」

 

自分の鼓動がプーアルの鼓動が重なってくる。

 

「めっぽう強いが 女にゃウブい」

 

目をあげる。

 

「花も恥じらう夢を見る」

 

まるで波がプーアルを浚いにくるように砂浜に押し寄せる。

 

「愛のフーケに酔いしれて」

 

プーアルを奪い去られないようにと,さらに強く抱きしめる。

 

「いつも君だけじっと見つめていたのさ」

 

微かなさざ波の音にさえ,プーアルの鼓動がかき消される。

 


「振り向かないで 居てくれよ 」

 

お前と会えてよかったよ……

 

「君の瞳に弱いから」

 

そして最後までお前と過ごせて

 


「ロンリー・ウルフ 砂漠のヤムチャ」

 

 

本当によかった

 

「星の光が胸を打つ時」

 


さようなら……。プーアル

 


「ロンリー・ウルフ 風が泣いても」

 


呼吸が止まっていた。

 

 


「俺の足跡 残るのさ」

 


風がやんでいた。

 

 


ずっと下がらなかった熱が嘘のように消えていた。

 

 

………死んだのか。

 

 

いつかは来ると思っていた現実が


今来ただけなんだ


それなのに


なぜか涙が止まらなかった

 

 

 

第37話へ

トップへ


昔飼っていた猫が死んだときを
思い出して書きました。しかし臭いですな