ドラゴンボール最後の願い

 

第32話 神龍、最後の出現

 

 


ヤムチャの足下に7つのボールが転がっている。
ほのかに光かがやくドラゴンボール。月明かりに照らされているのではない。
それは七つのボールが一箇所に集められたという証……、
ヤムチャがこのドラゴンボール争奪戦に勝利したという証であった。

 

激しいのか激しくないのかよくわからなかった争奪戦を制したのは
予想通り…というか,期待はずれというか……ヤムチャだった。

戦闘ではまったく勝てなく…さらに何度もボールを奪われ,それでもなお
他人を傷つけることを厭い続けたヤムチャ。

そんな彼が最終的に全てのボールを集めるとは皮肉なものだった。

ヤムチャ自身にもいろんな思いがこみ上げてくる。

 

ヤムチャ「待ってろ。プーアル!今、治してやるからな!

いでよ!神龍!!」

 

意を決して神龍を呼ぶ。

稲妻が大地から立ちのぼり、やがて龍の姿をかたちづくる。

ヤムチャ「これで神龍も見納めかぁ〜……」
感慨深げにヤムチャはつぶやく。

 

 

未来トランクスが神龍を見るのは二度目だが、妙にわくわくしている。

その間にブルマは,18号の停止を解除したり,ウーロンをたたき起こしたりしていた。

暗闇を破るように激しい閃光が天にのびてゆく。神龍の出現だ。

 

ヤムチャ「さて…ベジータが来ると厄介になるし,さっさと叶えるか」


雷のような神龍のうなり声が森中に響きわたる。

 

神龍「さぁ願いを言え。どんな願いも叶えてやる…」

ヤムチャ「神龍――。オレの……」

ヤムチャの台詞が急にとぎれた。

 

いきなりガクガクと震えだすヤムチャ。目には光が宿っていない。

 

未来トランクス「…?ど…どうしたんですか?ヤムチャさん…」

 

震えがおさまったヤムチャの顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。

神龍に願いを叫ぶ。声高らかに。どことなくくぐもった声で。

 

ヤムチャ『地球人類がもっと神を敬うように!!』

 

未来トランクス「……えっ!?」

あっけにとられているトランクス。ヤムチャの願いはプーアルの病を治すことではなかたか。そのためにこれまで必死にかつての仲間たちと争ってきたのではなかったのか。
そうだ。

確かこの世界を一度去ったときもヤムチャが「叶えた」と言っていたのではないか。

無情にも願いがかなえられる。

ドラゴンボール最後の願いが。

 

神龍「承知した」

神龍の巨大な眼が妖しげに光る。そして決めゼリフを吐いて神龍は消え,ボールはバラバラに散っていった。

ヤムチャ『くっくっく……。これで私をいつもバカにするバカどもも私を尊敬するようになるだろう。ポポの腋臭も治してほしいかったけど、まいっか』

未来トランクス「……?」

一転して苦しげな表情になるヤムチャ。額にはみるみる汗がわきでてくる。歯を食いしばり,吐き出すように言葉を出す。

 

ヤムチャ「き…きたねぇぞ!」

ヤムチャ『ボクが参加しないとは言ってませんでしたよ』

 

また一転。すまして言い放つヤムチャ。人格がコロコロと変わっている。

 

ヤムチャ「だからって…こんな汚い方法で…くそぉ…デンデめぇ…」

ヤムチャがデンデの名を出した。そう。先ほどからヤムチャの精神に入り込んでいたのはデンデだったのだ。

神、デンデは、かつて先代の神がシェンに乗り移ったときに使った術で、ヤムチャに乗り移ったのである。

全てのボールを手に入れて気を抜いてしまっていたヤムチャ。そこをつかれてしまった。
しかし後悔してももはやどうにもならない。

 

「いや…オレの負けだ……。願いを叶えるまでが戦いだったんだ。完敗だ…。

すまねぇ…プーアル…」

夜空を力なく見上げるヤムチャ。

満月がやけに大きく、そして……妖艶に見えた。

「ぅあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

そしてヤムチャはありったけの声で吼えた。ヤムチャの咆哮が薄暗い森に……そして夜空に轟く……。


こうしている間にもプーアルの肉体は病に蝕まれつつあった…。

 

 

 

 

 

 

第33話へ

トップへ