ドラゴンボール最後の願い

 

第31話 決着

 

 


メカフリーザはヤムチャの首をつかんだまま無表情でヤムチャを見つめている。
月明かりに照らされ、フリーザのボディに取り付けられた金属類が妖しく光る。
ほんのわずか手に力を加えるだけでヤムチャの息は止まるだろう。
フリーザは苦しませようというのか,指に加える力を徐々に強めていった。

ヤムチャの顔が次第に血の気を失い青ざめていく。

 

ヤムチャ(す…すまねぇ。プーアル……。どうやらダメみたいだ。
あの世で一緒に暮らそうな……)

諦めかけるヤムチャ。……だが……

 

ヤムチャ(何言っているんだ!!オレは…!あきらめねぇ!絶対!あきらめねぇ!!
最後まで……!!
くそっ…こんなことから…過去に行ってわざわざフリーザを呼び寄せなきゃよかったんだ…。こいつを……倒す…には…。

タイムマシン……そっか…。それだ!!
オレの予想が……あたれば……うまくいくはずだ!!必ず!!

……頼む!!…トランクス!!)


ヤムチャの視界がかすれていく。眼前のフリーザの顔がぼやけてきた。

 

ザンッッッ!

 

幻覚か金属のきしむ音。
続いてフリーザの身体がゆっくりと縦にまっぷたつになっていく映像がうっすら目に飛び込んできた。

ヤムチャ(……うまくいった…のか……!?)

 

ズシャっ…。

 

フリーザの強大な気が消えた。

幻覚ではない。

次第に意識がはっきりしつつあるヤムチャ……目の前の人物を見あげた。
月光にその顔が照らし出される。にこっと笑う男の顔がヤムチャの目に飛び込んできた。
まぎれもなく彼は……

 


トランクス「お久しぶりです!ヤムチャさん!約束通り来ましたよ!!」

ヤムチャ「へへ……。やったぜ…トランクス…おせぇよ!へへへ」

うめくように声を発するヤムチャ。

トランクス「間一髪でしたね…。でもこれでオレの役目も終わった」

ヤムチャの期待通りトランクスの声がした。ぬっとトランクスの顔がヤムチャの顔をのぞきこんできた。

ヤムチャはトランクスに肩を借りてやっと立ち上がる。

飛行艇の前にはブルマが震えて立っている。

ヤムチャ「へへ…。どうだ。運はオレを見放さなかったようだな!」

ブルマ「……ト…トランクスが二人……」

目の前の息子と飛行艇の後ろで苦しんでいるトランクスを交互に見やるブルマ。

どことなく雰囲気が違う気もするが,紛れもなくどちらも自分の息子だ。

ブルマ「どういうこと………」

ヤムチャ「逞しくなってまぁ……」

トランクス「はは……。過去に人造人間を倒した報告をしにいった帰りに寄ったんです。オレの時間からすればあれから5年以上も経っているんですよ。」

ヤムチャ「あっ,そうだな。この世界のトランクスよりずっと強くなってやがる。へへっ。よーし!オレの計画は成功したぜ!!」

――ここまででヤムチャの計画はおわかりになっただろうか!?

 


薄れゆく意識の中で咄嗟に考えたヤムチャの閃き…。

それは,未来トランクスがここを去る時にヤムチャはこう彼に頼もうと決意することだった。
(もちろん,現時点では依頼自体はまだしていない)

『オレらの世界での戦いが終わったあとでも,自分の世界で人造人間を倒したあとでも
いつでもいい。
エネルギーに余分ができたら……またこの時代に来てオレを助けてくれないか?』
と。

ヤムチャの指定した時間・場所はもちろん,今この時間,そして今いるこの場所である。

そして今,トランクスはその通りにやってきた。

つまり,今,この時代には,トランクスが3人いるというわけである。

1人は,当然この世界のトランクス。
2人目は,過去からヤムチャに連れられやってきた未来トランクス。
3人目は,2人目と同一人物のトランクス。この時代を去り,過去での戦いを終えまたやってきたのである。

ややこしいので2人目のトランクスを未来トランクス(1),3人目のトランクスを未来トランクス(2)と呼ぶことにしよう。

 


ヤムチャ「こうもうまくいくとは思わなかったがな……」

ブルマ「ふふ…。よくわからないけど…。まだ終わりじゃないわよ。仮にあたしのボールを奪われても,そのうちベジータがブウのお腹の中からボールを奪ってきてくれるわ…。」

それには答えずヤムチャはずいっと前に出た。

ヤムチャ「…いや…ここにボールはそろっているよ…。ブウの腹の中じゃなくてね」

ブルマ「ま…まさか!!」

ヤムチャ「へっへっへ。ブウがボールを呑み込んだと思ってたんだな。うまく言ったぜ」

ブルマ「そんな……ブラったらやっぱり……」

ヤムチャ「おっと。それについてはブラを責めないでくれ。敵をあざむくにはまず味方からっていうだろ。
ブラに内緒で吐き出させていたんだ。そしてこっそりトランクスに……。」

ブルマ「えっ!?」

ブルマはトランクスの寝ているはずの背後の飛行艇を振り返った。

それを見てヤムチャと未来トランクスは飛行艇の上まで高速移動した。飛行艇の後部座席でなぜか現代トランクスが腹をかかえてうずくまっている。

ヤムチャ「ど…どうしたんだ?トランクス…」

ブルマ「知らないわよ。急にお腹がいたくなったらしくて」

現代トランクス「ヤ…ムチャさん…すみません……昨日食べたフグが…あたったらしくて…」

悶えながらもトランクスは小声でヤムチャに語る。

ヤムチャ「フグ…!? 何やってんだ。早く病院に…」

未来トランクス「フグ毒の特効薬ならありますよ」

あっさりと言い放つトランクス。

ヤムチャ「あるの!?」

ブルマ「ホントっ!」

未来トランクス「はいっ!どうぞ」

未来トランクスはにっこり笑ってポケットのカプセルケースを取り出し,その中から小さな瓶を取り出した。

未来トランクス「生物毒ならたいてい効きます」

ヤムチャは急いで現代トランクスにそれを飲ませる。

ヤムチャ「前もこんな役だったな。オレ。それにしてもお前…いろいろ持っているなぁ」

未来トランクス「母さんがタイムトラベルするならいろいろなクスリを持っていけと渡してくれたんです。どんなウィルスがはやってたかわからないし,超サイヤ人も病気にはかないませんしね。」

ヤムチャ「なるほど…。よしこれで大丈夫だ」

ブルマ「助かったわ…。さすがあたしの息子」

安堵の表情を浮かべているブルマ。

ヤムチャ「…で…ボール……」

ブルマ「それとこれとは別よっ!」

ヤムチャ「お前を気絶させることはできる……。」

ブルマ「だったらやればいいでしょ!」

ヤムチャ「……頼む!……お前を殴りたくないんだ……」

ヤムチャの目から一筋の涙が流れ落ちる。

ブルマ「……」

ヤムチャ「頼む……プーアルを助けてやってくれ……頼む……。協力してくれ…。
お前に協力してほしいんだ……」

泣き崩れるヤムチャ。

ヤムチャ「た……頼む………」

その姿を見てついにブルマは屈した。

ブルマ「…わかったわ…」

その一言を口にしたブルマはなぜか肩の荷が降りたような気がした。なぜこんなにまで意固地になっていたのかばからしくさえ思えた。


ブルマとベジータの願いは,ブルマを若返らせること…。
ベジータとの肉体年齢が離れていくことに対してずっと悩みを抱えていた。
以前にもドラゴンボールで願おうとも思ったこともある。
だが「いつでもできる」という思いが先延ばしになっていった。
そしてこのドラゴンボールの使用があと一回きりとなったときブルマは慌てた。
ベジータにとっては若かろうが老いていようが妻は妻…それほど気になることではなかったが,愛妻の悩みとあっては協力しないわけにはいかなかった。
ベジータの心のどこかにも「若がえられるのなら若い方がいい」という思いもあったのかもしれないが…。

 

しかし…今,願いを諦めたブルマは思った。

(みんな年を取っていくのは当たり前…。自分だけ時の流れと摂理に逆らうようなことをするなんて愚かなことだ)と。

 

ブルマ「持っていきなさい。その銀色のボックスに入っているわ…」

ヤムチャ「すまねぇ…。悩みがあったら遠慮せずオレに言ってくれ。力になるからさ」

ブルマ「……バカ……」

ニヤリと白い歯を見せるヤムチャ。その歯にはまだ青ノリがこびりついていた。

 

ヤムチャは飛行艇の助手席においてあった銀色のボックスを手にした。…だが…

ヤムチャ「あっ…あれ…ポケットに入ってないぞ!?」

トランクスの脱がされたジャケットをポンポンはたき,確認するヤムチャ。

肝心の自分たちが集めたボールがない。預けたはずの現代トランクスはぐっすり眠っていて起こすのも可愛そうだ。

ブルマ「ないでしょ〜。あったらあたしが気づいているはずだもん。」

ヤムチャ「ボールはカプセルにしまえないし……。どこかにかくしたのか…。あっ…」

ヤムチャはトランクスのジャケットに入っていたブラ製レーダーを見つけた。もちろん,ダミーが移らなず本物のドラゴンボールのみを感知するものである。

ヤムチャ「これ使えばいいんじゃん。」

ブルマ「レーダーじゃない。それ,変なダミーがいっぱいでちゃうじゃない。原因もわかんないしさ。どうしちゃったのかしら」

ヤムチャ「ふっふっふ。今だからばらすけど,あれはもともとブラちゃんの策略だったのさ!オレとつるむ前にしかけておいたらしいぜ」

ブルマ「えっ!?……はぁ……あの子ったら何から何まで……。あんたたちには負けたわ。もうあの子の小遣い今月抜きねっ!」

ヤムチャ「そ……そういうなよ…」

余計なこと言っちゃったなとヤムチャは思いながらレーダーのボタンを押した。


すぐ近くに3つの反応。

ヤムチャ「なんだ。近いじゃん。ははぁ……18号がもってたのか。」

立ったまま完全に停止している18号にヤムチャが近づく。でれーっといやらしい顔をして…

ヤムチャ「おー。そーか。わかったぞ!!ここか〜〜〜?えっへっへ」
とプニプニと18号の胸をつつきだした。

ヤムチャ「…柔らかいな。ここは違うかぁぁ。2つだしなぁ…ケツのほうかぁ?」
…と今度は18号の尻をなでなでする。

ヤムチャ「ここも違う!!……ま…まさか…い…いや隠すと言ったらここしかない…!そ…そうかちょうど隠す場所が3つ!」

ブルマ「それ以上ハメをはずすとクリリン君に言っちゃうわよ」

未来トランクスと談笑していたブルマがヤムチャを叱責した。

ヤムチャ「え…えーと…ん?な…な何だ?」

ヤムチャはあわてて18号を通り過ぎると,わざとらしくブルマの方を振り返った。

ブルマ「まぁったく相変わらずスケベなんだから…」

ブルマのため息をつく様子を見て未来トランクス(2)はクスリと笑った。

ほどなくヤムチャはドラゴンボールを見つけることができた。現代トランクスはもしものときのために地面にボールを埋めておいたのだ。

もし何かあって自分,18号,ウーロンがやられたとしても,これでボールが奪われることはない(普通のレーダーでは本物がどれかわからないから)。

ヤムチャ「サンキュー!トランクス!おかげで助かったぜ!!」

 


ヤムチャはすべてのボールを今,手に入れた。

 

 

 

 

※フグ毒は神経毒なので、腹痛が起こるかわかりませんが、手足のしびれとか、言語障害とかの症状が食後30分〜3時間で出るそうです。
トランクスはサイヤ人の強力な免疫機構によって腹痛だけですんだのです。間違いない。

 

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