ドラゴンボール最後の願い

 

第30話 逆転、逆転、また逆転

 

 



森の中におかれたジェット機の中で待機しているブルマ。
ここらへんはすでに日も落ち、薄暗い。西の空は太陽光のほのかな残骸に照らされ、東からは満月が昇り始めている。
心細さを感じているブルマのもとへブラからの通信が来た。

ブラ『ママ…?』

ブルマ「ブラ?」

ブラ『ええ そこから逃げた方がいいわ。
パパとブウさんの戦いの最中,ヤムチャさんが逃げたの。
もしかしたらそっちへむかったのかも。』

ブルマ「ホ…ホント!? でも,この場所はわからないはずだわ!まさかバレたのかしら!ベジータは何やってんの?」

ブラ『パパはブウさんを倒して,ママの方へむかっているわ!』
通信を切るブルマ。

ブルマ「やっぱりね…。
どういうわけかヤムチャはここの場所を知っているようね。
まぁブラの情報が嘘であってもホントであっても対策は万全よ」

 

そのとき木陰からベジータがぬっと現れた。

まっすぐブルマのいるコクピットへ歩み寄ってくる。
薄暗くて顔はよくわからないが、その独特な髪型のシルエットですぐにベジータだとわかる。

ベジータ「ブルマ!!」

ブルマ「よ…よかった!間に合ったのね!」

ベジータ「ああ。間一髪だったようだ。ボールは無事か?」

ブルマ「ええ。やっぱりヤムチャ,逃げたのね」

ベジータ「ああ。あんなバカはしらん。それよりボールは…」

ブルマ「ちゃんとあるわよ」

ベジータ「いや…だからよこせって……」

ブルマ「何急いでいるのよ…。敵がいるわけでもなし」

ベジータ「え…あの…いや…とりあえず確認したいし…」

ブルマ(何か怪しいわね…)

ベジータ(……やべぇもうすぐ5分たっちまう……)

ブルマ「もうすぐあなたの願いが叶うわね。えーと何だっけ?貴方の願い…」

ベジータ「そ…早漏を治すだっけ…いや…どうでもいいだろ!そんなこと!!ボールを」

ブルマ「偽物!!」

ブルマは懐からスタンガンを取り出し…

ベジータ「げっ!やばっ!?」

バジッ……

ベジータ,否,ウーロンの目の前が一瞬真っ白にはじける。
スタンガンの威力をまともにうけてウーロンの変化がとけてしまった。
ぽてっと地面に転がるウーロン。白目を向いている。

ブルマ「ウーロン!?危なかった…。まさかウーロンが仲間になってたなんて…。ヤムチャも向かってきているようだし。
やっぱりこの場所がわかっているんだわ!!…でもどうやって……。
はっ!!
…ま…まさかブラが!!??

これ…機動させておいたほうがよさそうね…」

ブルマはコクピット内の明かりをつけ,ポケットの中からカプセルケースを取り出し,そこに並んでいるカプセルを一つ選んだ。

 

ボンッッ。

 

煙とともに現れたのはメカフリーザそのもの。しかし…

フリーザ「ウィーン…ウィーン…ボクフリーザダヨ」

ブルマ「あははは。いつ見ても面白いわ!」

フリーザはベジータに倒されたあと,すぐにブルマによって改造された。まぁ脳を摘出され代わりに機械が詰め込まれただけなのであるが,完全にブルマの僕となってしまったのである。

ブルマ「これが終わったらボディーガード件トイレ掃除用ロボットとしてコキつかってあげるからね!」

ウィーン…ウィーン……機械音を発するフリーザの横顔はどこか哀しげに見えた。

 

 

18号「…ウーロンのやつやられちまったじゃないか!」

現代トランクス「…そうみたいですね」

木の陰からこっそり見守る二人。

18号「くそっ。
こんなまどろっこしいやり方じゃなくて最初からこうすりゃいいんだよ…」

そういって18号がブルマの前に姿を現す。

現代トランクス「……あーあ。でちゃった…。」

ブルマ「18号…!?」

18号「…よぉ。ボールをもらいにきたよ。
ヤムチャは誰も傷つけたくなかったらしいけど…あんたは特に…。
でもウーロンが失敗した以上,仕方ない。」

ブルマ「え……?」

18号「その変なロボットを使っても無駄なのはわかっているはずだ。
あたしはそいつより強い。
ま,殺しはしないから安心しな…ちょっと眠っ…うぐッッ!?」

ブルマを気絶させようと近寄った18号の動きが急に止まる。

ブルマ「うふふふ。動けないでしょ〜…これ何だ?」

18号「そ……それは…緊急停止用の……うっ……」

18号が完全に停止した。時間が止まったようにそこに立ちつくしている。
ブルマの手に握られたのは17号・18号の緊急停止用コントローラー。

ブルマ「うふふふ…,ホントよかったわ〜。
あのときカメハウスに電話してなかったら……あなたがヤムチャの仲間だっていう可能性は示唆できなかったものね……」

 

 

…そう。偶然だった。ブルマがカメハウスに電話をかけたのは。

ブルマは亀仙人に依頼されていた飛行機の修理が遅れると連絡した。
すると電話に出たのが運悪く18号だったのだ。
ご存じの通り,クリリンと18号はヤムチャの説得によって早々と争奪戦から離脱。もはやドラゴンボールを探しにいく必要もないのである。
18号はカメハウスで昼寝。クリリンはマーロンと亀仙人と買い物に出かけていた。
そのことがずっと頭に引っかかっていたブルマは作戦会議の折にそのことを持ち出していた。

ブルマ「あたしおかしいなーと思ったのよね。だって18号はドラゴンボール探しててもおかしくないわけじゃん。家でのんびりしてるなんて。
で,当の亀じいさんはクリリン君とマーロンと買い物言ってるなんていうしさ。
であたし『あんたボール探ししてるんじゃないの?』って言ったらさ,『もうやめた』とか言うし,どうも何か隠してるなーって思ってさ。」

それに対しベジータは「それだけではわからんが,ヤツが引き入れていても不思議じゃない」と,ブルマに対策を取るように指示していたのだった。
確かにそれだけのことでは18号とクリリンがヤムチャに協力していたなどとは全く考えられなかったのだが,女の勘が警鐘を鳴らしていたのだろう。

ブルマの勝利であった。

 


ほっと胸をなで下ろすブルマ。

実際,18号が気がないという特性を活かしてここに来るかもしれないという不安はあった。
ヤムチャとつるんでいて,なおかつここの場所を知るというほんのわずかな可能性のことだったのだが。

これでもう誰もいまい。

ブウ・パン・トランクス・ヤムチャはベジータが確認している。

ウーロンは意外だったが,相手ではなかった。そして18号は停止。

ヤムチャやクリリンが来ても,フリーザがいれば安心。
だが,木陰でニヤリと笑うトランクス。

現代トランクス「切り札は見せるな……か。ふふふふ。
さすがのパパもママもオレが二人いるなんて思ってなかっただろ〜。
ママ…ごめん。
社長解任ってことにならんよな…。」

 

そう言って意を決して母の前に飛び出ようとした直後……。

 

 

ブルマ「うっふっふっふ。ベジータ早く来ないかしら……」

木陰から痛々しい叫び声が聞こえてきた。

ブルマ「誰!?」

コクピットから降りてメカフリーザの後ろに隠れるブルマ。

トランクス「いたた…いたたた……」

茂みからごろごろとトランクスが転がりでてきた。お腹を押さえながら。

ブルマ「ト…トランクス!?」

トランクス「マ…ママ……腹が…腹がぁ……」

実の息子が苦しんでいるのに,ブルマはうかつに近づかない。

先ほどの偽ベジータのこともある。

だが,痛みを訴えている目の前の息子はどうも演技をしているようではないらしい。

ブルマ「あ…あんた本物? プーアルとか化けてるんじゃない?」

トランクス「本物だよ〜…急に腹が…いでででぇ」

ブルマ「でも…さっきベジータがむこうにあんたがいるって…」

トランクス「あ…あれ…あれは……オレであって…オレでなくて……」

ブルマ「…二人のトランクス…?…まさか…あの……」

ブルマの頭で何か閃いた。

トランクスを病院へ運ぼうとするブルマ。

ブルマ「さっ。立つのよ。頑張ってトランクス!」

肩に息子の体重がかかる。重い。こんなときだけ,大きくなりすぎよっと怒鳴りたくなってくる。

トランクスの額の脂汗がひどい。まずい。急がなくては。
ブルマはトランクスを必死の思いで,飛行機の後部座席へと押し上げた。火事場の馬鹿力というのであろうか。

そこへヤムチャが到着。本当ならここは彼ら3人に任せるところだったのだが,ウーロンの出し抜きがこわくなってきてしまったのだ。

決してベジータに殴られるのが恐くて逃げてきたわけではない!いや…そうだと思う。

 

息切れして肩を激しく上下させているヤムチャにブルマは叫ぶ。

ブルマ「ヤムチャ!? やっぱりきたわね!どうしてここがわかったの!?」

ヤムチャ「ドラゴンボールをくれたら教えてやるぜ!はぁっはっ」

ブルマ「そうはいかないわよ!いくのよっ!フリーザ!!」

ヤムチャ「げっ!こっ……こいつかっ!くそっ!
トランクスも18号もやられちまったのか!?ウーロンは倒れてるし……
あーっ!?18号!!やっぱり止められている!!」

ヤムチャはぴたりと静止している18号を見て叫んだ。もはやいやらしい妄想をしている暇はない。

ヤムチャの勘は当たっていたのだ。ブルマなら…必ず用意周到にあらゆる準備をしていたと。18号も倒された場合に備え,そのためにトランクスもいたのに……。

ギギギギ……と無機質な音を立ててフリーザが動き出す。

 

ヤムチャ「全部,作戦が崩されちまった!お…おまけに相手がこいつとは……」

ブルマ「フリーザ!ヤムチャを倒して!…あ。殺さないようにね」

ヤムチャ「あぶっ!!」

フリーザの右の拳がヤムチャの頬にめり込む。

続いて,左の拳がみぞおちに埋まる。まるで動きの読めないヤムチャ。

手加減をしているようで,未だヤムチャの意識はハッキリとしている。しかしもう立てないほどにダメージを受けている。

フリーザの尻尾がのび,ヤムチャの首に巻きつく。

ヤムチャ「おぐっ……」

うっすらとヤムチャの意識が薄くなっていく…。

ヤムチャ「プーアル……」

トランクスを飛行艇の後ろに寝かせていたブルマはハッとする。

ブルマはメカフリーザに駆け寄ってきた。

ブルマ「ちょっと!やりすぎよ!やめて!!」

フリーザの尻尾がゆるみヤムチャが地面に崩れ落ちる。むせているヤムチャ。

ブルマ「…ヤムチャ…。もう諦めたら?」

同情するように細い目をしてヤムチャを見下ろすブルマ。

ヤムチャ「……お前…が…トランクスを思っているように…オレもプーアルを…失いたくないんだ。…ぜ…絶対に…」

首をさすりながら,絞り出すように声を発するヤムチャ。

ブルマ「……ふん。約束のはずよ!ボールを全部集めた人がその資格があるって!」

ヤムチャ「そ…その通り…。だから…オレが全部…集めたら……」

 

バキッ。

 

ヤムチャがメカフリーザに足払いをかける。
何の命令も受けていないフリーザはただ突っ立っているだけ。まともに足払いをうけて180度半回転した。頭を岩に強打して。

ヤムチャ「オレが願いを叶えていいってことだよな!!」

ブルマ「……」

ヤムチャの強烈な意志が込められた眼を見てブルマは息を飲んだ。

 

願いに対する執着がハンパじゃない。

 

そうだ。これまで何度も何度もボールを奪われ,痛めつけられ,それでも諦めなかったヤムチャ。
それなのになお人を傷つけることを厭ってきたヤムチャ。
たとえ,ヤムチャが悟空並に力を持っていたとしてもそのことは変わらなかっただろう。
そんな思いがブルマにわき起こる。


――この男は強い――

 

刹那。倒れていたフリーザがブルマの命令もなしにムクリと起きあがって…

ミシッ!

ヤムチャにボディーブローをかました。

ヤムチャ「おぐっ!」

10mは余裕で吹っ飛び,木に激突するヤムチャ。

ブルマ「え…!?な…何で…。まさか!?」

ブルマの予想通り,頭に衝撃を受けたメカフリーザはブルマの制御を外れていた。
目の前の敵全てを殺そうとするかもしれない。

ヤムチャが殺されたら次は……。

ブルマ「ま…まずい!!」

18号の停止を解除すればいいのに,慌ててそれに気づかないブルマ。

 

一方ヤムチャはメカフリーザに首を掴まれ,そのまま地面に叩きつけられた。

カラダがバラバラになるような衝撃が襲う。
意識はある。次の攻撃が来る……!!
しかしカラダが動かない。
強烈な吐き気と目眩。

 

ごぼっ……

 

血反吐を吐き散らすヤムチャ。

 

ヤムチャ(……プー……アル……)

ヤムチャは愛しき相棒の名を口にする。

 

しかし,その口からはひゅーひゅーと息がもれるだけ。
視界が徐々に薄れていった。


 

 

 

 

 

第31話へ

トップへ