ドラゴンボール最後の願い
第24話 小悪魔始動
既に西の都は暗闇に包まれている。カプセルコーポレーションの研究室でも明かりがついている部屋は,ブルマの研究室と…ブラの部屋だけであった。
ブラ「うっふっふっふ……」
真夜中の部屋にブラの笑い声が妖しく響く。
ブラ(レーダーには反応が3つだけになっちゃった…。映らない4つはママが隠し持っているに違いないわ。今こそ行動すべきよね!)
ブラがドラゴンレーダーのスイッチを入れる。
かなり近いところに4つのボールの反応が確認できた。
ブラ(やっぱり。でも今これを奪うのは得策じゃないわ。さきに3つのボールを奪ってから,これを狙おっと。)
ブラ特製のドラゴンレーダー。これはブルマの作ったボールの電波を遮るボックスの性能ですら無意味にしてしまうものだった。つまり,生命体に囲まれていようが,特殊なボックスに入れられていようが,ドラゴンボールの位置を知ることができるのである。
さらに,ドラゴンレーダーに似た小型の機械を机の引き出しから取り出した。
ブラ「うふふ。これでドラゴンレーダーが機能しなくなるわよ…。えいっ!」
不敵な笑みを浮かべて,その機械のスイッチをオンにした。ピピッとデジタル音がする。
ブラは,母の作ったドラゴンレーダーを確認してにやっとほほえんだ。
ブラ「うまくいった♪」
ブラ(さて…。じゃあ…行きますか。)
ブラはリュックを背負うと真夜中の庭へと出ていった。カプセルから飛行機を取り出すと,颯爽とそれに乗り,出発する。行き先は2個のボールの在処。
こんな時間に10歳足らずの娘が飛行機に乗ってでかけるなど普通の家庭では考えられない。ブルマの家庭でも例外ではなかったのだが,二人は地下の研究室に閉じこもっていて,飛行機のエンジンの音を聞き取れなっかた。
その頃……サタンの別荘近くの森――。
ここはまだ昼下がりだ。埃のたまった古いほったて小屋の窓がヤムチャの声で震えた。
ヤムチャ「なっ…なんだ?反応が…無数に現れた!?」
パン「ど…どういうこと!?」
ヤムチャとパンが見つめるレーダー。どういうわけかドラゴンボールの反応がいきなり無数に散在しているではないか。
すぐにトランシーバーでトランクスも連絡してきた。
トランクス「オ…オレのもです!!どういうことでしょうか!?」
ヤムチャ「わからん!まぁブルマの仕業だろうが,気を抜くな。」
ブラの作ったマシーン。
ブラはあらかじめドラゴンボールと似た電波を出すチップを虫型の偵察機にとりつけ世界中にばらまいたのである。
偵察機と言ってもドクター・ゲロが悟空たちの細胞を採取したり情報を得たりするために作ったような小型のものである。
出発時に機動させた機械は全てのチップに電波を発させるというものだったわけである。
ヤムチャ「くそっ。どうなってやがる。どれも止まったり動いたりしてやがる。」
パン「でもさ…。相手があたしたちのボールを狙っているんだったら,あたしたちのところへまっすぐむかってくるわけでしょ。それでわかるんじゃない?」
ヤムチャ「…うーむ。オレもそれを思ったが,ベジータたちのボールはレーダーに反応しないからな。こんな罠をしかけて何の利点があるんだか…。ただ戸惑わせるためなのか?」
ブラの飛行機が早くも森の上空へと近づいた。
庭に飛行機を着陸させ,カプセルに戻すと,続いて浮遊バイクを出して森の中へと入っていった。
ブラ「さーて。誰がもっているのかしら。スカウターではほとんど反応がなかったけど…。」
そう言って耳に取り付けたスカウターをポケットにしまう。もちろんブルマの研究室から持ち出したやつだ。
日はまだ高いが,森の中は薄暗い。ライトをつけてバイクはブラを乗せ疾走する。
木々の間をくぐり,やがて前方にほったて小屋が見えてきた。反応はあそこからする。
バイクを降り,ドアをノックする。
ヤムチャ「げっ!?だ…誰だ!!??」
びくっとしてちょうど食べていたカップ焼きそばを吐き出すヤムチャ。
パン「ヤムチャさん,きたな〜い。まぁいいわ。あたしが出る。」
ヤムチャ「気をつけろよ!パンちゃん。ベジータたちが飛行機で来た可能性もあるんだから!!」
鼻から焼きそばを出したままパンに注意を呼びかける。
パンがおそるおそるドアを開けると,そこに立っていたのはブラ。
ブラ「あら。パンちゃん…それにヤムチャさんだったのね!」
パン「えっ!?ブラちゃん…!?」
突然の訪問者にしばし警戒心を強める二人。
ブラ「へぇ〜。二人組んでいたのね。予想外のカップリングじゃない」
パン「なっ…なによ〜。何もしてないわよ〜」
ヤムチャ「そ…そうだぞ!キスもセックスもしてないぞ!!ブラ!」
パン「生々しいこと言わないでよっ!それより…何のようなの?」
ブラ「えっとね。ドラゴンレーダーおかしくなっちゃったでしょ。たぶん全部。それでさ,ママに言われて来たってわけ。フェアじゃないから皆のところまわって直してきなさいってね」
ヤムチャ「ブルマが…?」
平然と答えるブラにヤムチャは眉をひそめる。そのヤムチャの態度に少々焦りを感じてか勢いで小屋に入るブラ。
ブラ「さあさ。レーダーを出して。」
埃のたまった机にライトを照らし,工具を取り出すブラ。
パン「あっ。はい。」
手際よくレーダーをこじ開けて中の配線をいじくりだす。何をやっているのか,どこを直しているのかメカに強いヤムチャもさっぱりわからない。
10分くらいで,早くも修理が完成したようだ。
ブラ「はい,できあがり♪」
パン「はやーい。もうできたの?」
ヤムチャ「すまんな。…で…つかぬことを聞くが,どうやってお前,ここがわかったんだ?」
ブラ「え…どうやってって…」
そこでブラははっと思い立った。ドラゴンレーダーがおかしくなっていれば,ここへ来れるはずがない。
ブラ「えっと。あれよあれ。ドラゴンレーダーに発信装置が組み込まれているのよ!ママが今回配ったやつに組みこんだって言ってたわ。」
ヤムチャ「しかし…これはカメハウスにあった昔のやつだぞ?」
ブラ「ふ…ふ〜ん。まぁたまたまついてたのかしらね!?そ,それより確認したいわ。ド…ドラゴンボールあるわよね」
パン「何で知ってるの!?」
ブラ「え…あの…他の人たちのところもある程度まわったんだけどさ。だいたい皆リタイヤしてて…あるならもうここくらいかな〜と」
ヤムチャ「ふーん,そうか」
焦りながらも苦しい言い訳を展開するブラにヤムチャは疑心を深める。
いぶかしがりながらヤムチャはポケットに入っているボールを取り出した。しかし警戒はゆるめていない。パンももう一個をテーブルの上へ置く。
ブラは修理したレーダーのボタン押して確認する。
ヤムチャ「どうだ?」
ブラ「あら……,ごめんなさい。今度はぜんぜんうつらなくなっちゃった!」
パン「もうブラちゃん!しっかりしてよ。」
ブラ「ごめんなさ〜い。すぐに直すから!」
そういってまた椅子に腰掛け,修理し直すブラ。
数分たったころ,ブラがぼやきだした。
ブラ「ねぇ〜。何か飲み物ない?…集中してたら喉かわいちゃった…!」
パン「あぁ。さっきジュース全部飲んじゃった」
ヤムチャ「すぐそこに,サタンの別荘がある。持ってきてやろうか?」
ブラ「わーい。ホント?ありがとう。すぐに修理するからね」
ヤムチャは少々不安だったが,だだをこねられても損だ。パンに「ちょっと怪しい。しっかり見張っていてくれ」と耳打ちして小屋をあとにした。
ヤムチャが戻ってきたころ,ブラは修理し直したレーダーを再確認していた。
ブラ「うん。いいわね。大丈夫そう。」
ヤムチャ「終わったのか?ご苦労さん。ほれ。ジュース」
ブラ「わーい。いただきまーす」
レーダーと交換オレンジにジュースを手渡す。
かつての彼女であったブルマとうり二つのブラの笑顔を見てちょっぴり顔を赤くするヤムチャ。
ヤムチャ(あはは…。やっぱ似ているなぁ。ちょっと心が痛むが………ん?)
ふと違和感を感じるヤムチャ。何かがおかしい。ブラがか?それとも……
慌てて机の上のドラゴンボールにかけよる。
ドラゴンボールは確かにある。
背後でブラが「じゃあ」と言って出ようとした。ヤムチャが引き留めようとしたとき,パンが何かを悟ったようにブラに言い放った。
パン「ブラちゃん?その胸の膨らみは何〜?」
ブラ「えっ……」
ぎくっとするブラ。だがその足はゆっくりと出口にむかっている。
ブラ「む……胸って…?あたしのバストよ?もちろん」
ぎこちなくパンの方へ首だけを向かせる。顔がひきつっている。
パン「ふーん,ホントに…?」
ヤムチャ「ふっふっふ。よくやったぞ。パンちゃん。オレともあろうものが女性の胸に気づかなかったとは……」
ヤムチャがくくくと喉の奥で笑った。
ヤムチャ「ほら。このボールを見てみ!パンちゃん」
パン「えっ」
ヤムチャは机のボールをむんずと掴むとパンにパスした。
パン「え?ドラゴンボールが何か……?」
ヤムチャ「よく見てみな!そのボールを!」
パン「あっ!星がないっ!これ偽物!!!」
ヤムチャ「そう。本物は…………」
パン「……ブラちゃんの胸の中!!」
ブラはだっと出口へと駆け出したが,パンに一瞬にしてまわりこまれ行き場を失った。
パン「へっへ〜ん。さっきのクモが出たときにすり替えたのねっ」
ブラ「うーっ。うまくいくと思ったのにぃ。パンちゃんったらクモを怖がるかとおもったのに素手でひっぱたくんだもん。時間がなかったから慌ててこの中にいれたのよ!」
へたんっとその場に座り込むブラ。
ブラの計画…。
まず、ドラゴンレーダーにダミーを無数に表示させ、故障したと思わせる。
そこにブラが現れ、レーダーを直すと言う。
だが、もちろんバカ正直に直すわけではなく、ドラゴンボールそっくりのボールを用意し、それに反応するようにレーダーを改造するのである。
スキを見て、本物のボールと偽者のボールを取り替える。
これで保持者は、偽者のボールに反応するレーダーを手にし、直ったと判断してしまう。
ブラは本物のボールを手に入れ、まんまと逃げるわけである。
仮に保持者があとで偽者と気づいても、当のレーダーは偽者だけしか写さない。別のレーダーを使っても、ダミーだらけの表示しか写らない。
お手上げ状態である。
だが、ブラは誰が何のボールを持っているかまでは把握できなかったので、偽者のボールに星を描くことはできなかったのである。ヤムチャにここをつかれてしまったというわけだ。
パン「あたしんちは森の中にあるのよ,クモくらいで怖がるわけないでしょ」
ヤムチャ「へへへ。残念だったな。ブラ」
ポンとブラの頭を軽くたたくヤムチャ。娘と言うより妹のように感じているようだ。
ブラ「ヤムチャさん…」
うるうると瞳をゆらすブラ。騙そうとしたのにこの男の爽快さはどうだ。もう少し年齢がわかければ…きっと。
……と思うブラをよそにヤムチャは,ブラの胸をまさぐり……
ヤムチャ「これでボールの奪還に成功ってわけだ」
その次の瞬間ブラの悲鳴続いてヤムチャの絶叫が響いた。
ヤムチャ「おーぅおーぅ!!?!?」
パン「ヤムチャさん!無神経よ!!」
パンの平手をくって,ほっぺたを押さえているヤムチャ。ブラも顔を真っ赤にして怒り顔だ。
ヤムチャ「な…何で!? お前らそんなこと気にする年齢かぁ!?10歳だろ?まだ!!
お父さんと一緒にお風呂に入っていてもおかしくない年頃だろーが!!」
パン「入らないもんっ!たまにしかっ!」
ブラ「そうよっ!たまによっ!!」
ヤムチャ「入ってるじゃん!!」
パン「それにねっ!気にするわよ!!」
ブラ「そうよ!気にしてるわよっっ!」
二人の少女のキンキン声がヤムチャを攻撃する。圧倒されているヤムチャは何も言い返せない。
パン「でもブラちゃんいいじゃない。背も高いしさ。」
ブラ「でもさぁ,こないだパパがママに言っているのを聞いちゃってさぁ……。」
ブラの話はこうだ。
食事後,ブラが食堂をあとにしたところを見計らってベジータがブルマに尋ねた。
ベジータ『なぁ…ブルマ…。ブラのやつ…その……胸がぺったんこなのは…大丈夫なのか?』
これをちょうど食堂に戻ってきたブラが立ち聞きしてしまった。あまりのショックで部屋にかけこんだブラ。それから先の会話は聞いていなかった。ちなみにその後のやりとりは……
ブルマ『大丈夫に決まっているでしょ!まだ10歳にもなったないのよ!今からボインだったら化け物よ!』
ベジータ『そ……そうか』
ブルマ『あなたったらブラの心配しすぎよっ!たまにはトランクスの奥手に心配してよ』
ブラは昔のブルマのアルバムをひっぱりだして,観察する。
ブラ『やっぱりママは昔から大きかったんだ…』
昔といってもブラが見ていた写真はブルマが16歳頃のものだ。ヤムチャやウーロンたちと高校に行っているときのもののようで,彼らも一緒に写っている。
ブラはTシャツをひっぱって自分の胸と見比べる。自然にため息が出てきた。
ヤムチャ「なるほど。それで胸を大きくしようとドラゴンボール争奪戦に出てきたってわけだな!」
ブラ「何聞いているのよ〜〜〜!!ヤムチャさん!!」
ヤムチャ「自分でしゃべっておきながら……」
ブラ「パンちゃんに言ってたのよ!!もう!しんじらんない!」
ヤムチャ「なーに悩んでいやがる。10歳くらいでボインだったらそれこそ化け物だぜ」
ブラ「そ…そうよね」
ヤムチャ「まっ。そのうち大きくなるさ!」
と言ってヤムチャはブラの平らな胸をぽんぽんと叩く。
再び小屋に二つの絶叫がはもった。
ブラ「だから触るな〜〜〜〜!!!」
ヤムチャ「す…すまん…。いつもの癖で」
壁に逆さまのカッコウになってヤムチャは許しを請う。
ヤムチャ「まぁ…き…気にするなってこったよ……」
ブラ「うん……」
と言って,二人はパンを頭のてっぺんからつま先までじっと見つめた。
ヤムチャ「なっ!?」
パン「何見て納得してるのよ〜〜!!」
パンのぐるぐるパンチがヤムチャを襲った。
ヤムチャ「っつーか…まぁその何だ。カラダの悩みならオレにまかせておけ!手とり足とり教えてやるぜ」
ブラ「…ん。それはちょっと…。」
ヤムチャ「それはそうと……レーダー頼むぜ。直してくれ。」
ブラ「それは必要ないわ」
ヤムチャ「へ……?」
ブラ「あたしもお手伝いするわ。パンちゃんとヤムチャさんの!だって何もすることなくなっちゃったんだもん。せっかく頑張ったのにさ」
パン「ホントっ!」
ヤムチャ「助かるぜっ!……でも裏切るなよ……」
兎にも角にも,ヤムチャたちに力づよ〜い仲間が加わった。
しかしブラは本当に裏切らないのだろうか?
妖しく光るブラの瞳をよそにいよいよ最終決戦へと舞台は移っていった。
現在のドラゴンボールの状況
ベジータ&ブルマ(4),ヤムチャ&パン&未来トランクス(3)