ドラゴンボール最後の願い
第22話 ドラ息子vsバカ王子
悟天は焦っていた。
巨大な気が自分の元に向かってきている。まっすぐに。
偶然ではない。明らかに自分に対して攻撃的な気を発している。
悟天「しまったなぁ〜。まさかベジータさんがこんなに早く動くなんて…」
おちゃらけた口調はピンチになっても変わらない。そういうところは悟空に似ている。
ベジータの気はすぐそこまで迫りつつある。逃げてもすぐ追いつかれてしまうだろう。
さらに今は草原の上空。隠れる場所はない。近くに大きな街でもあれば,ベジータも好き勝手できそうになかったのだが,どうやらそれもなさそうだ。
辺りを見回しているうちに,ベジータとの距離はみるみる縮み……
ついにベジータが目の前に現れた。
ベジータ「よぉ。悟天。……どうやら3つも集めたようだな。ほめてやる」
ベジータの片手にはぐったりしているメカフリーザの姿。だが,悟天はそんなことを無視しているのか,目に入らないのか,今はどう切り抜けるか考えているようだ。
悟天「くっそぉ〜。まさか,ベジータさんに見つかるとはね。仕方ない」
ベジータ「そうでなけりゃつまらん。さぁこい」
そう言ってベジータは臨戦体制に入る。
悟天「はい。ベジータさん」
ベジータ「……え……?」
言葉を失うベジータ。
なぜなら悟天はベジータにいきなりボールを差し出してきたからだ。あまりにもためらいなく。
ベジータ「な……なんのつもりだ?」
あまりの呆気なさにベジータは罠でないかと疑う。目の前には悟天の手からあふれそうな3つのボール。だが,さすがにうかつに手を出せない
悟天「え…。いや。だからあげますよ。戦っても勝てそうにないし!」
ベジータは(そりゃそうだ)と思ったが,すぐに悟天の不甲斐なさに呆れて腹がたってきた。
ベジータ「お…お前…。本気で言ってるのか?」
悟天「うん。まぁネックレスなんてどうにでもなるしね」
ベジータ「ネックレス……?あぁ。お前の願いか。それはどうでもいいが……戦いもせずに白旗とは…情けないとは思わんのか」
悟天「だってさぁ,結局負けるのに,痛い思いするだけ損じゃん。運が悪ければ入院かもしれないし。どーせ仙豆は例によってあんまりないだろうし」
ベジータは最初に思った。「こいつはヤムチャだ」と。それも限りなく天然の。
だが,違ったようですぐに思い直した。
ベジータ「お前は……ヤムチャ以下だ!!」
悟天「あっはっは。バカなぁ。ボクは負けませんよ。あんな人に」
ベジータ「そうだろうな。負けないだろうよ!ヘタレレベルは!!」
そう言ってベジータは超サイヤ人へと変身した。ぎえっと叫んであたふたする悟天。
驚いてボールが手から転げ落ち,下へ落下していった。
悟天「な…何しようとすんのさ!?ボールはあげるって!!」
ベジータ「少々,きつーいお灸をすえてやろうと思ってな!!」
悟天「何それ!それはやってんの!?」
バタバタ騒いでいる悟天をよそにベジータは遠い目をして語りだした。
ベジータ「オレは…オレは…お前たちが必ずオレたちを超えてくれると信じていた…」
もう15年も前になるか…。
天下一武道会にむけて重力室で修行しているときだった。
まだ8歳のトランクスはあっさりと自分の前で超サイヤ人へと変身した。
自分があれだけなるのに苦しんだ超サイヤ人に。あまりにも自然に。
技も気のコントロールも荒削りでまだまだ自分の方が上だった。
だが――驚愕と同時に期待も嬉しさもまた抱いていたのだ。
こいつらが成長していけばどのくらい強くなるのだろう…一体どんな強さをみせてくれるのだろう……と。
はっきり言って自分は地球の将来になどそれほど興味がない。滅ぶときは滅ぶ。…自分の故郷,惑星ベジータのようにな。
しかし……自分の血を継ぐ者,ライバルの血を継ぐ者たちが……
次の世代が地球を守り続けていくのならば……嬉しくないはずがない。
その者たちのためならば,己の命を捨ててもいい……そう思いブウに挑んだこともあった。
自分もいつかはチビたちに追い越される日がくる…5年後か10年後か…。
しかし連中は合体と言う反則的な技を使ったとはいえ、数日もたたぬうちにあっさりと自分を超え,自分が命をかけても倒せなかったブウをとんでもない戦闘力で翻弄していやがった。
結局,チビどもは詰めの甘さで逆転され,決着をつけたのはカカロットだった。
だが,それも仕方ない。奴らも敗北の味を知ることで,さらに技術を磨こうとするだろう。
上には上がいることも知り,慢心することもなくなるだろう。
……あれから15年……
チビたちはカラダだけは逞しく成長した。
格闘には興味をなくしてしまったようだが,それもまたいいと思った。
あんな途方もない潜在力が眠ってしまったままなのは残念だが――
こいつらと自分は違う…。好きな道に進むがいい。
ベジータ「そう思っていたのに…。どうやらお前は心も腐り果ててしまったようだな」
悟天「何が何だかさっぱりだよ!」
ベジータ「わからなかったのかぁ!?せっかく真剣に話してたのに!」
悟天「ボクはボクで好きでやってるんだ!だったらいいじゃないか!!」
ベジータ「…フン。お前には何を言ってもダメだな…。ならばカラダにいい聞かせてやる」
悟天「くそっ!!」
戦闘態勢をとるベジータに悟天も構える。
ベジータ「!?」
悟天「ンンンン〜〜〜」
悟天が気を高め出した。頬を膨らまし…
ベジータ「ほう……」
驚きの声をあげるベジータ。
悟天の口から出てきたモノ…。それは悟天にそっくりな気の塊。
悟天「スーパーゴーストカミカゼアタック2だい!」
ゴテンクスが魔人ブウに対して使った必殺技であり,不思議なことに気自体が意志をもっているというものである。
魔人ブウには対してそれほど有効な技ではなかったが,気の概念をまったく変えてしまった画期的な技であるといえよう。
ベジータ「……さぼってばかりと思っていたがそうでもないじゃないか。」
少し嬉しそうにつぶやくベジータ。今のうちに攻撃をしかけることもできたのだが,やめておいた。
悟天「いけっ!オバケ!!」
悟天は吐き出した10体のオバケに命令する。オバケは悟天の指図通りにいっせいにベジータに向かっていく。
ベジータ「知っているぞ!そいつらに触れれば爆発することをな!!」
高速移動し,オバケたちから距離をおくベジータ。
悟天「爆発しないよ。それ」
ベジータ「なっ…何だと!?…そんな嘘にひっかかるか!!」
ベジータがオバケたちから逃れているその間にも悟天はもう20体ものオバケを産みだしていた。
ベジータ「何体つくろうが同じだ!まとめて消し去ってやる!!」
怒号を浴びせるもその顔は嬉しそうだ。
総計30体のオバケたちはベジータの前までくるとピタッと動きを停止する。
(フェイントか!?)と疑うベジータだが……予想に反してオバケたちは…。
ベジータ「……なっ……!? …何をしているんだ?」
目の前のオバケたちはいっせいに動きだし,それぞれ様々な動きをしている。
オバケ「ねぇ次何飲む?」
オバケ「どんな人がタイプなの?」
オバケ「サブいオヤジギャグとばすんじゃねー!!」
オバケ「じゃあこのコインを消すよ〜」
オバケ「よーし!じゃあ次の店にGO!」
オバケ「オレとしては今の政界は〜…」
オバケ「生2つ追加!!」
オバケ「負けたら一枚ずつ脱いでいくんだよ?」
オバケたちはベジータの周りをぐるりと取り囲みだし,それと同時に意味不明なことをしゃべりまくっている。オバケたちは互いにふれあっている者もいて,悟天の言うとおり,触れても爆発しないようだ。
しかし,この技には何の意味があるのか…。ベジータは当惑し苛立っている。
そう。この技こそ悟天がコンパ用に改良したスーパーゴーストカミカゼアタック2である。
殺傷力を廃し,それぞれに芸を身につけさせるという豪快な技。合コンで受けるためだけに開発した悟天執念の技であった……。
ベジータ「なっ!何なんだ!こいつらぁっ!!」
30体のオバケが同時にワケの分からないことをベラベラ喋っている様子があまりにも不気味に感じたベジータ。気を溜めるとオバケめがけて,360度回転しながら連続気功波を放った。
次々と撃破されていくオバケたち。片手はふさがっているので,もう片方の手での連続波だったが,それでもすべてのオバケたちが消滅するまで1秒もかからなかった。
ベジータ「悟天…!こいつらは…あっ!!」
既にそこには悟天の姿はなかった。彼方に遠ざかっていく小さな影が見える。
ベジータ「あのやろぉー!!時間稼ぎだったのか!!」
超サイヤ人2に変身し,全速力でおいかけるベジータ。それに気づく悟天。
悟天「げっ!もう追いかけてきた!!」
慌てて振り返る。すぐそこまで行けば大きな街があったのだが,間に合わない。
ビッ!!!
ベジータが悟天に追いついた。全力の速度から一気に止まったので激しい衝撃波が波紋状に広がりあたりの空気を振動させる。ビリビリと悟天の身体も震える。
悟天「ドラゴンボールなら置いてきたよっ!下に落ちていったじゃん!」
ベジータ「ドラゴンボールは関係ない!!」
悟天「でも誰かにとられちゃうよっ!!あっ!兄ちゃんが!!」
ベジータ「なにっ!!??」
くるっと来た方向を振り返るベジータ。…が勿論,誰もいない。青い空の下に果てしなく草原がのびているだけ。
ベジータ「ちっ!!キュイみたいなヤツだ!」
既に再び逃げ出していた悟天をベジータの目がとらえる。広いおでこには幾つか血管マークが浮き出ていた。
すぐさまベジータは悟天をおいかけ,あっと言う間においついた。
ベジータ「今度は逃げられんぞ!!」
悟天はがしっと足をベジータに握られた。ギリギリととてつもない握力で握りしめられる足首。ぐぁっと悟天が悶えた。
苦し紛れにベジータに気功波を撃ち込んだが,ノーダメージだった。
悟天「も…もう離してよっ!」
涙声で悲痛に訴える悟天。
ベジータ「離してやるっ!」
ぐいっと足首をひっぱると,悟天の頬に平手を打ち付けた。
パシィンっっと高い音が高く澄んだ空に響く。
悟天「あちょぷっ!!!??」
頬をおさえて呆然とベジータを見つめる悟天。
てっきりもっと酷い攻撃が来ると思ったのに意外であった。
ベジータは寂しそうな目をしたが何も言わずに悟天に背を向けると先ほどの場所へと飛んでいった。
あとに取り残された悟天。小さくなっていくベジータの姿が見えなくなるまで眺めていたあと,澄み切った青空を見上げた。
殴られた頬がじんじんと痛んだ。
ドラゴンボール現在の状況
ベジータ&ブルマ(4),悟飯(2),ヤムチャ&パン&未来トランクス(1)
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さて…いよいよ最終決戦が近づいてきました。ヤムチャはこのまま逃げ切れるのか?沈黙を守る悟飯も動き出すかも…?