ドラゴンボール最後の願い

 

第九話 悟飯の章 〜邂逅〜

 


悟飯が猛吹雪の中を飛んでいる。まっすぐボールを目指して。

レーダーでピンポイントにボールの在処を探れるとはいえ,この膨大な雪の中に埋まっているかもしれないボールを見つけるのはいかに悟飯といえど困難であった。

雪を吹き飛ばしてしまえばいいかもしれないが,ドラゴンボールまで壊れるおそれがある。

それよりも悟飯は学者だ。ここら辺いったいの雪が突如,消失してしまうと環境にどう影響するのかが心配だった。
バタフライが羽ばたくと地球の反対側で大竜巻が起こると言われるくらい何が原因で環境異変が起こるかわからない。

さすがは悟飯,滅多にムチャはしない。キレると何しでかすかわからないヤツだが…。

悟飯「こりゃぁすごい荒れようだな…。ん。こんなところに集落があるぞ。ちょっとあそこで休ませてもらおうか。服もぐしょぐしょだし。」

村の中の一件を適当に選んで悟飯はその家のドアの前に降り立った。
コンコンとノックすると中から人の声が返ってくる。
ドアがあき,ヌっとでかい大男が姿を現した。無愛想な顔。
ちょっとびっくりする悟飯。

悟飯「あっ…あの…ご迷惑でなければ…ちょっとこの吹雪にあたっちゃって…少し暖まらせていただきたいんです。」
大男は無愛想な顔から一転,にこっと満面の笑みを浮かべて
大男「どうぞ。」
と悟飯を迎え入れた。
悟飯「ど…どうも。すみません。ほんと。」
中には老夫婦と中年の女性もいた。大男の奥さんであろうか。
悟飯は改めて大男を見る。
もしかしたら自分が強盗かもしれないのに,あっさり家に迎え入れるなんて…よほど腕に自信があるのだろうか…。
大男「スノ。この人に暖かいミルクを…。」
スノと呼ばれた女性は台所へ向かう。
悟飯「…あ…すみません」
大男「服を脱いで渇かすといい。」

ぶっきらぼうに言い放つ大男。だがその言葉に優しさが込められていた。
スノがミルクを持ってくる。

スノ「ところでなんでこんな吹雪の中を?」
悟飯「はい。探しモノをしてまして…。ドラゴンボールという綺麗な丸い石…」
悟飯が言い終わらないうちに大男が大声を張り上げた。

大男「ドラゴンボール!? ……お前…悪いやつか?」
悟飯「え!? …何でそうなっちゃうんですか?」
大男「昔…悪いやつドラゴンボール集めてた。」
悟飯「ちっ…違いますよ…」
スノ「ドラゴンボールを集めて何をお願いなさるんですか?」
悟飯「はぁ…実は家内が…子を生めない病気に罹ってしまったんです…。それを治してもらうために…」
スノ「まぁお気の毒に…」
スノはまるで自分のことのように痛々しい表情を見せた。

悟飯ははっと思い立った。そういえばこの家には子供がいない。この女性も自分の妻と同じような病気にかかっているのだろうか…。
大男「そうか。すまない。」

爺さん「そう言えば思い出すのう。昔…ドラゴンボールを探しに来た少年のことを」
髭をはやした爺さんがポツリとつぶやいた。
大男「孫悟空か!」
嬉しそうに大男が叫ぶ。
スノ「懐かしいわね」
悟飯「孫悟空って……ボクの父ですよ……」

え〜〜〜っと悟飯を除いた皆の声がはもる。一番はしゃいでいるのは大男だ。

大男「ほ…ほ…ほんとか!?」
悟飯「え…ええ…ホントです。ドラゴンボールを集めてた孫悟空っていったらボクの父くらいのものですし」
大男「オ…オレ……あいつに命助けられた。この村で暮らせるようになったのもあいつのおかげなんだ」
爺さん「うん。レッドリボン軍に脅されていたワシらも助けてもらったんじゃよ」
悟飯「そ…そうだったんですか」
大男「あいつ,元気か?」
悟飯「は…はい。2回ほど死にましたが…」
大男「え……。
   ふ…ふ〜ん。まぁ元気で何よりだ。
   …あいつ,いつか遊びに来るって言ってあれから一度も来ないんだ。あいつに伝えてくれ」
悟飯「はは……父さんそういうところあるからな…」

苦笑いする悟飯。確かに父,悟空は後ろを振り返らない。常に前ばかり見ていて,後ろを追いかける者たちもみることがない。
だからセル戦のあと,自分たちを残してあの世で暮らすなどと言ったのだろう。

しばらく暖かい料理をかこんで他愛ない談笑が続いた。
悟飯にとって驚くことではないが,この大男は実はロボットらしい。名を人造人間8号といい完全なロボットタイプだった。そのため子供を作れず,養子をもらう予定だとか…。

悟飯「あっ。いっけない。ボク,ドラゴンボールを探さないといけないんです!」
大男「実は……オレがドラゴンボールを持っていた。偶然に森の中で見つけたんだ。これを持っていればまた悟空に会えると思って……。
あいつには会えなかったが…あいつの息子に会えるなんて…オレ嬉しい……」
スノ「ドラゴンボールが願いを叶えてくれたのよ…きっと」
悟飯「ええ……。」
ドラゴンボールを貰い,スノたちに別れを告げる悟飯。

悟飯は,ドラゴンボールが導いた奇妙な巡り会わせを感じていた。
そして,ドラゴンボールは願いを叶えるだけではなく,
このようにいろんな出会いを生みだしてきたのだ…と。

しかしそのドラゴンボールをめぐって仲間たちで争っている現実。
おかしい…。どこかが。何かが変ではないか。
なぜ自分たちは今,争わなければならないのか。
それに……ドラゴンボールを使わなくても他に何か方法があるのではないか…。みんなそれぞれ。
あの夫婦のように…。

吹雪を抜ける。悟飯はどんよりと濁った空を見上げた。




 

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