ドラゴンボール最後の願い

 

第八話 ベジータの戦い  〜克服〜

 

 

その邪悪な気に一番最初に気がついたのはベジータだった。
ベジータは特殊な箱にボールを保管し,いったんカプセルコーポレーションで待機しようと空を飛んでいた。
カカロットとの戦いをどう乗り越えようかと思案を巡らしながら。

ふと前方から大きな気がまっすぐ自分を目指して飛んでくるではないか。
しかもこの気……ベジータがよく知っている気。
そしてこの地球上に現在存在しえないはずの気。
おそらくこの地球上で一番この人物をよく知るのはベジータであろう。
畏怖・戦慄・驚愕・羨望・殺意……
生まれたときからこの人物に対して抱いてきた感情が呼び起こされる。

ベジータ「バ……バカな…」
ベジータの目は遥か彼方に点としてその人物を捉えていた。

みるみる大きくなるその姿。
間違いない。
フリーザだ。
フリーザもこちらに気づいたようで,速度を落とし始め…
やがてベジータの前で停止した。

にらみ合う両者。
最初に口を開いたのはフリーザのほうだった。余裕の笑みで。

フリーザ「……ベジータ…。そうか。あの猿ヤロウが言っていたな。キミも生き返ったって」
ベジータ「…?……キサマのほうこそ死んだと思っていたがな。…成仏しきれんのか?」
フリーザ「まぁね。お前たち猿どもを抹殺しなければ死んでも死にきれないさ…」
困惑のベジータ。目の前のかつての上司の姿は確かに以前に地球にきたときのままだ。
わずかな違和感も感じる。

しかし信じがたい目の前の現実に当惑するばかり。
…何故生き返った?…なぜこんなに余裕なんだ?さらにパワーアップしているのか?
様々な疑問がわいてくる。そして不安も。
もちろん今のベジータはメカフリーザなど取るに足らない相手だ。
だが,フリーザのほうはベジータになど負けるはずがないと余裕綽々だ。フリーザの記憶にあるベジータは,せいぜい戦闘力200万程度。
その不気味な余裕の態度にベジータは少し警戒していた。
そしてそれ以上に目の前の人物への大きなコンプレックスがベジータの心を占めていた。
何年も畏れおののいてきた存在である。
自分を殺したこともある。

ヤムチャが栽培マンよりも遙かに強くなっても未だに栽培マンにコンプレックスを持っていることと同じであった。
だが……ベジータはヤムチャと違った。

ヤムチャなら心の弱い部分があれば,その部分を覆い隠し,ごまかし見ないふりをするだろう。
だが,ベジータならば弱い部分を叩きのめし,払拭し,乗り越えようとする。

――これはチャンスだ。
チャンスがやってきたんだ!
これでオレの中の忌々しいキサマがやっと失せるぜ――

そうほくそ笑むとベジータは超サイヤ人へと変身した。
今度はフリーザが驚く番だった。

フリーザ「超サイヤ人!? きさまもか!!ベジータ!」
フリーザは気を感じ取ることができない。
もしフリーザにこの技術があったならば,先ほどあった青年と今のベジータの実力もまた桁違いに離れていることを悟って諦めがついていただろう。

だが不運にもフリーザにはその技術はなかった。

フリーザ「くそ……!超サイヤ人は1000年に1人現れるんじゃなかったのか!
こう一度に何人も現れやがって!どこまで非常識な猿どもなんだきさまらサイヤ人は!
こうなったら……やってやる!!」

フリーザは指先からエネルギー波を数発,放った。ナメック星で使った技である。

ベジータ「……?」

ドンッドンッドンッ

…と激しい衝撃音を立てて,次々とベジータの身体にエネルギー波が突き刺さる。
が,当のベジータは涼しい表情だ。

いや,というよりあっけなさそうな顔でフリーザを見つめる。
ベジータ「おい…。お前…」

復活し余裕の態度をとっていたのだから地球来襲時よりはずいぶんパワーアップしているのだろうとタカをくくっていたベジータは完全に拍子抜けした。

少しくらいは苦戦するかも…なんて思っていたのに,これではあまりにもやりがいがない。

ベジータ(こいつなら殺してもデンデは文句を言わないだろうが…
新必殺技のファイナルシャインアタックでもかましてみようかと思っていたのに…)

ボンッ!ボンッ!

ベジータが肩を落としている最中もフリーザは構わず気功波を打ち続けていた。
フリーザ「フーッ!フーッ!」
早くも息のあがるフリーザ。額には血管マークが浮き出ている。

ベジータ(コイツ…。やっぱりあのときから強くなっていない…)
呆れたベジータは,少々からかうか,そうすれば気も晴れるだろうと思い直した。

ベジータ「…お遊びは終わりだ。変身しろ。フリーザ!!」
フリーザ「なにっ!?」
ベジータ「そんな程度じゃないだろう。当然,残しているんだろ?最後の変身を…!」
フリーザ「…ふっふっふ…。」
ベジータ(どうせないんだろ。ほれ。強がれよ)
フリーザ「…ふっふっふ。あるといえばあるし,ないといえばない…!」
ベジータ「あるのかないのかハッキリしろ!!(どうせないんだろ。)」
フリーザ(クソぉ…ベジータまで超サイヤ人になっているとは…。バカ科学者ども…今度は期待するよ……)
フリーザは腰のあたりに手をはわしボタンを探した。

フリーザ「…あった。ふっふっふ,ベジータ。超サイヤ人になっていい気になっているようだけど…やはり勝つのはボクの方みたいだね」
ベジータ「な…なに」

驚くフリをするベジータ。だが,相手が自分より圧倒的に劣っていることを悟っているので内心では(せいぜいあがいて見ろよ。くっくっく)と意地悪く笑っていたのだった。

フリーザ「くらえ!!毒ガス!」

フリーザは尻の穴を拡張させるとベジータに尻をむけてガスを噴出した。

ベジータ「なにぃ!?」

フリーザ「いくら超サイヤ人でも毒に弱いだろ!!はっはっは。死ね!ベジータ」
たまらずさらに上空に避難するベジータ。しかし…この匂いは…。

ベジータ「くさっ…。こ…これは毒ガスか!?ただのメタンガスのような気が…」

フリーザ「バカな!?一息すっただけで昏倒するような毒ガスじゃないのか!?…くさっ」

フリーザは頭部の丸い突起の一つを押す。どうやら多彩なメカフリーザの能力を説明するヘルプ機能のようだ。

フリーザの頭の中に丁寧な説明が流れる。
『ガス噴出機能…身体の中にたまったガスを噴出し気分スッキリリフレッシュ!フリーザ様のお体は自動におならが排出されないので一日一回この操作をする必要があります』

フリーザ「あの……くそ学者どもめぇぇ!!ただの屁じゃないかぁぁ!!」

ベジータ「……。」

フリーザ「他にないのか!!」
機械化した耳の部分をぐるぐる回す。
検索システムで体内の有能な装置を調べているのだ。

『尻尾…尻尾は伸縮可能で最大2mまでのばすことができるうえ,体内に内臓することもできます』
フリーザ「ああ!!使えない〜〜」

『肛門からは非常食用のレトルトカレーが出てきまして…』

フリーザ「屁と同じ場所から出てくんのかよっ!」

『股間の部分にはナイフ,缶切り,フォーク,スプーン,虫眼鏡に定規が収納され…』

フリーザ「十得ナイフじゃねぇかっ!」

『頭部をお開け下さい。楽々飼育キットです。ここにはカブトムシやクワガタ,小鳥,ハエなどの飼育スペースが確保されております。エサは必要ありません。勝手にフリーザさまの脳みそを食べ……』

フリーザ「死ぬじゃねぇかっ!! っつーか、いらねぇ!!」

『肛門のふたを開けますとホースがございます。喉を潤したいときにお茶にカルピス,ときにはトマトジュース…』

フリーザ「いらんっつーの!!」

ベジータ「……なに1人で騒いでいるんだ?あいつ…。」
目の前の1人芝居を繰り広げるフリーザを楽しむのも飽きてきたベジータ。

ベジータ「そろそろ終わりにしてやる。フリーザさんよ」
フリーザ「せ…せめて…やつを動けなくすれば…こ…これだ…!」

フリーザは手の平をベジータに向けた。まるで気功波を撃つように。

ベジータ「ふっ。オレに攻撃するつもりか?」
まったく動じないベジータ。これほどの実力差があればまともに受けてもノーダメージのはず……そうタカをくくっていた。
避けるのも容易いだろうが,ダメージ皆無の様を見せつけてやれば…そう思いベジータは気合いを入れる。

フリーザ「キェッ!」

ベジータ「!?」

ベジータの周囲をうすぼんやりとした円形の気が覆い尽くす。

ベジータ「……ちょ…超能力か…!?し…しまっ……」

身体の自由が効かない。フリーザ特有の超能力…金縛り…。
それも機械化されかなり性能が向上しているようだ。

ベジータ(だが…やつがどんな攻撃をしようとも…)

フリーザ「今度は…使えたね……」
フリーザ口元が緩む。

どんな攻撃が来る!? ベジータにわずかだが…緊張が走る。
が,フリーザはくるっとベジータに背を向けたかと思うと……
脇見もふらず全速力で逃げ出したのであった。

ベジータ(逃げるのかよっ!?)

ベジータの肉体の不自由を奪ったのはほんの数秒であったのだが,それでもフリーザが遥か遠くまで逃げるのは十分であった。
しかしフリーザの気は感じる。
今から追いかけても追いつける距離だ。

ベジータ「逃がすかよ。バカめ……,キサマの位置は丸わかりだ」

フリーザがいきなり地球を消滅させてしまう危険性もあった。しかしベジータにはある読みがあった。

フリーザは地球を崩壊させたりはしない。
ヤツは今,ドラゴボールを探しているからだ。
ベジータがフリーザに感じた違和感…それはフリーザの持っていたモノにあった。それは紛れもなくドラゴンレーダーであった。
どういうわけか復活したフリーザはこれまたどういうわけかドラゴンボールを探しているようなのである。

ベジータ「はっ…」

ベジータの胸中に言いしれぬ不安がわいてきた。

…なぜ自分はフリーザと出会ったのか…。

自分はボールを見つけ,まっすぐカプセルコーポレーションに戻っているところだった。
そしてフリーザは自分の帰るべき方向からまっすぐこちらに向かってきた。

ベジータ「まさか……」

フリーザの目指していたボールはベジータの持っていたボール…と考えれば。

ベジータ「やつの来た方向は…カプセルコーポ……ま…まずい!!」

あらん限りのオーラを吹き上げるベジータ。そのまま間髪入れずカプセルコーポレーションに猛スピードで向かった。

ベジータ(ヤツが本当にカプセルコーポから来たとするなら,出発したのはオレがボールをこのボックスに入れる前……。
ブルマとブラに何もなければいいが……)

妻と娘の心配でフリーザのことはもはや頭になかった。
ベジータはさらに気を高めてまっすぐに家へとすっ飛んでいった。



********************************

第九話へ

トップへ