ドラゴンボール最後の願い

 

第七話 トランクスの章 〜巡りあわせ〜

 




さて…ここからはこの世界のトランクスの話である。

この世界のトランクスは厳しい父がいたので,悟天ほどはチャラチャラはしなかった。
いや,それどころか将来カプセルコーポレーションを背負う人物であるから,かなりしっかりとしつけられていたと言える。
そうは言っても両親は戦闘バカの父に奔放な母である。
さらに世界一の金持ちの子息である。
ある程度わがままに育っても仕方ない。
が,この巨大な会社を継いでいかなければならないという大きな責任と自覚が彼の気を引き締めていった。
そのせいで武術への意気込みが次第に消沈していったことは,ベジータにとって気にいらないことのようだった…。

 

トランクスが青いスカーフをなびかせドラゴンボールの元へ飛んでいる。
いや…追っていると行ったほうが正しいか…。
トランクス「速い…。かなりのスピードだ。」
目指すべきボールの位置はなぜか猛スピードで移動していた。

レーダーと下に広がる景色を交互にみながらボールを追う。
トランクス「津波にでも飲まれたのかな…。それとも巨大竜巻…。」
次第に寒くなってくる。この高度だと当然寒いのだが,ますます気温が下がっているようだ。
しばらくしてボールの動きが止まった。

下を見下ろせば雪に埋もれた白い山々が波のようにうねっている。
トランクス「……この山脈のどこかだ。一体どうなっているんだ?」

トランクスはレーダーの縮尺を小さくすると,下へ降りていった。
そこは迫り来るような岩峰の麓の針葉樹林帯。荘厳な景色に感嘆するでもなく,トランクスはボールの位置を低空飛行で追った。
杉林を縫うように進んでいくと1件のログハウスが見えてきた。
レーダーはボールがあの付近にあると教えている。

トランクス「こんなところに誰か住んでいるなんて…。聞いてみるか」

ログハウスの前に降り立つトランクス。窓はあるが曇っていてよく見えない。だが人の気配はする。
ドアをノックしてみると中からは女性の声が聞こえた。

「は〜い」

上品そうな女性の声。ドアが開かれる。
「何でしょうか?」
ブルマと同じくらいの年頃だろうか。かなり年はいっているが,綺麗な顔立ちをしている。若い頃はさぞかし美人だっただろう…とトランクスは思った。
トランクス「あの…すみません。ドラゴンボールというものを探していまして…」
「誰だ?」
説明しようとしたトランクスの声を遮るかのように家の奥から男の声が聞こえてきた。若い男のようだ。この人の息子だろうか…そう思うや否や扉がさらに大きく開かれ男の顔が現れた。
「……!?」
男は年の頃なら20くらいだろうか。見ようによってはもっと若く見える。
端正な顔のつくりとロングのヘアが目立った。そして細く鋭い目…。
トランクス(どこかで見たことがあるな…?)
じっとトランクスを見つめる男だったがはっとして声をあげた。
「お前は……!」
男は乱暴に女性をどけるとトランクスに飛びかかってきた。
トランクス「!?」

ドゴッ!!

トランクスの頬に男の拳がめりこんだ。
速い。常識では考えられないほど。
杉を何本か降りながらトランクスは吹っ飛んだ。
気を発してビッとその場に静止するもトランクスはまだ混乱している。
この地球上に仲間以外で自分にこれほどのダメージを与える者がいるのだろうか…と。
さらに男からは全く強力な気を感じない。これは一体どういうことだろうか。
地球に侵略に来た新手の宇宙人では…という考えが頭をよぎる。
男は確かに強い…。だが…勝機はある。

トランクスは呼吸を整えると,超サイヤ人へと変身した。身体が暖まって何となく興奮してくる。暴れ出したいようなそんな気分。トランクスにとってひさびさの感覚であった。
一方,男はその変身を見ても大して驚かない。
かまわずトランクスに向かってきて,回し蹴りを放つ。
…が,たやすくトランクスにガードされ,足をつかまれてしまった。
「ちっ!」
舌打ちする男。
トランクス(勝てる!)
十分な実力差があることを認識し余裕が生まれるトランクス。
男はもう一方の足でトランクスのアゴに蹴りをいれたがトランクスは身じろぎもしなかった。
両足をトランクスに掴まれてしまった男は両手に光球を生みだした。
「これでも食らえ!」
トランクス「あっ!!…ちょっ…。」
何かを思い出したようなトランクスの叫び。だが,男は聞く耳を持たず,トランクスの顔面にそのエネルギー球を炸裂させてしまった。

轟音が杉林に鳴り響く。
「や…やったか?」
トランクス「……あ…びっくりしたぁ……」
男の予想とは裏腹にトランクスはまったく無事な姿で煙の中から現れた。
「くそっ……!あのときとは…ケタ違いに強くなっていやがる」
焦る男。その台詞にトランクスは少し首を傾げたが,男に向かって尋ねた。
トランクス「あの〜。あなた17号さんでしょ?」
「…当たり前だっ!……知って来たんだろ!!」
怒鳴り散らす男…いや17号。
トランクス「やっぱり!だって18号さんにそっくりですもん。何ですぐ気がつかなかったのかなぁ…。18号さんに双子の弟がいるって聞いたことありあますし」
17号「……?さっぱりわからん。
   オレに仕返しに来たのではなかったのか…?」
トランクス「仕返しって…?何かされましたっけ?というか,オレたち会うの初めてですよね…? あの…オレ,トランクスと言います」
トランクスの台詞に今度は17号が首を傾げた。

名前は聞いたことがない。
確かに昔,自分はコイツをボコボコにした記憶がある。そうゲロに起こされて……,ゲロをぶっ殺したときだ。コイツはベジータたちと現れた。
ピッコロやクリリンもいたがこいつだけはまったくデータがなかったんだ…。
忘れ去っていた昔の記憶が徐々によみがえってくる。
ゲロやセルにまつわる忌まわしい記憶だからあまり思い出したくもなかったのだが…。
それにしてもコイツ,初対面だといいやがる…。オレの人違いだったのか…。

腕組みをして考え込む17号。するとログハウスのほうから先ほどの女性が血相をかえて走ってきた。
17号「どうした?ランチ…」
ランチと呼ばれた女性は後ろを指さし
ランチ「あ…あなたが…暴れるから見てよっっっ!」
17号「…あ…」
見るとすぐそこまで雪崩が迫ってきていた。

 

***

 

ランチ「助かりました…。本当に」
17号「礼とお詫びに飯でも食っていけ」
トランクス「いえ……急いでますので…」
ランチ「そうおっしゃらずに。ダンナが買ってきたフグがありますのよ」
気で雪崩を止めることに成功したトランクス。まったく気というものは便利なものである。

しつこくランチに食事を誘われ,断りきれなかったトランクスはごちそうになることになってしまった。料理ができあがるころトランクスははっと思い出す。
トランクス「あ…そうだ!あ…あの…ドラゴンボールいただきたいんです。ここにあると思うんですが…」
17号「ドラゴンボール…か。なんだ。それを追ってきたのか」

そういうと17号は2階にあがってボールを持ってきた。トランクスに渡しながら言う。

17号「さっき買い物に街へ行ったときにな。怪しげな店で売られていたんだ。」
トランクス「はぁ。それで……。」
17号「ドラゴンボールのデータはある。何でも7つ集めればどんな願いでもかなうそうじゃないか?オレには興味はないがな…」
ランチ「ああ。あたしの若い頃も知り合いがよく集めてましたよ。有名なんですね」
トランクス「そ…そうなんですかね…」
17号「…でお前は何を願うんだ?」
トランクス「あ…あの…いえ…その…それは秘密です」
どもりながら赤くなるトランクス。

17号「何だよ。言えよ。高い金で買ったんだぞ。そのボール。譲るオレには知る権利があるだろ。」
ニヤリと意地悪く笑う17号。
トランクス「い…言いますよ。オレ……女の子の前に出てしまうとあがってしまって…。だから…女の子に積極的に話しかけられるように…なりたいんです」
17号「そんなくだらんことを願うのか!?」
トランクス「オ…オレには切実な悩みなんですよ!!」
17号「ふぅん。そんなに女がいいもんかねぇ…」
ため息のつく17号。それを見てランチがクスリと笑う。

トランクスは見た目が親子ほどの差がある目の前の二人が夫婦だとはにわかに信じられなかった。この二人に何があったかなど全く知るよしもない。
だが,二人を結ぶ何かのキッカケがあったのだろう。
料理を食べ終え,トランクスはログハウスを後にした。
愛に年齢の差は関係ない…か。
トランクスは悟ったような口調でつぶやくと空へ舞い上がった。

それを見送る17号はふと大事なことを聞くのを忘れたのを思い出した。
17号「けっきょく…あいつ何者だったんだ…。」

このとき…3人は自分の人生に大きく関わっていた人物が孫悟空であること……それが3人に共通していたということなどとはまったく予想もしていなかった。
どうでもいいことだがこのとき食べたフグ料理のせいで,ランチ,17号,トランクスは翌日,寝込むことになる…。

 

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