ドラゴンボール最後の願い

 

第六話 悟天の章 〜因縁〜

 



ドラゴンレーダーを見ながら陽気にに空を飛ぶ青年――孫悟天。
(きっと急いでも他のボールは誰かに取られちゃう。一個だけ探せるのがやっとだろう。だったら急いでも意味はない)
悟天はマイペースに目的のボールの場所へと飛んでいた。マイペース…といえども普通の飛行機の速度に比べれば何倍も速いのであるが……。

 

彼は22歳になっていた。

彼の母であるチチは悟飯の将来に期待していて,悟飯にはあれやれ,これやれといろいろうるさかった反面,次男である悟天をずいぶん甘やかしていた。
もっとも甘やかしていたと言っても質素な家庭だったので,モノを買え与えていたわけではなく,奔放に育てていたといったほうが正しいだろう。

 

悟飯が大学卒業と同時にビーデルと結婚し,サタン一家が親戚になると,孫一家は経済的に余裕ができるようになった。
しかしもともと悟空やチチ,悟飯たちは金に疎く…いや潔癖といったほうがいいか,生活ががらりと変わるようなことはなかったのだが,人格が発展途上の悟天は徐々に金の魔力にとりつかれていったのである。
叔父のサタンから結構な額の小遣いをもらっていた悟天は,その金で街へくりだすようになり,色事も覚え始めた。
悟空から受け継いだ純粋な顔立ちに,人間を凌駕した腕力を持つ悟天,さらに羽振りもよければ女性へのウケがよくなるのは必至だ。
悟飯同様ハイスクールへ通いはじめた悟天はまたたく間に女生徒の人気者になり,女遊びに夢中になっていった。
ハイスクールに通いはじめてはやくも3ヶ月で童貞を失い,卒業までに寝た女の数は両手両足の指では数えられない。
当然,学業も成就することもなく,悟天はサタンシティのバカ大学にサタンのコネで入れてもらうことになった。…が2年ほど留年。今年やっとの思いで2年に進級できた。
さすがにチチと悟飯が猛烈に悟天を叱り,ちょっとは反省したようである。

これまでは同時に何人もの女性とつき合っていたが今では真剣につきあっているのはパレスという良家のお嬢様1人であった。
悟天は彼女の誕生日に高価なネックレスをプレゼントしたいとつねづね思っていたのだが,サタンからの小遣いは止められてしまったので,買うことができない。
そこで今回のドラゴンボール争奪戦に参加し,神龍にたのんでネックレスをもらおうと思ったのである…。…なんとも勿体ないドラゴンボールの使い方であろうか。
こんなくだらない願いを叶えようとしたバカ者はヤムチャくらいのものである。

 

悟天は途中ヤムチャのアジトのある砂漠を横切っていた。
このときヤムチャのアジトでプーアルの看病をしていた未来のトランクスがこの気に気がついた。
厳密に言うとこの時代から見ては未来のトランクスではないのだが,ここでは「未来」のトランクスと呼ぶことにしよう。
トランクスは慌てて外へ飛び出るとその気を発している者を探した。
遥か彼方の上空にその者の姿を捕らえたがすぐに小さくなって見えなくなったしまった。

トランクス「……。この気は悟飯さんだろうか。ちょ…ちょっと会いに行ってみようかな…。プーアルさんの容態も落ち着いてきたし」

かつて何年もの間,修行をつけてくれた師匠の悟飯……彼は急に悟飯に会いたくなった。
もちろん自分の世界の彼ではない。さきほど行った過去で出会った幼い悟飯が成長した大人の悟飯だ。
それでもいい…。会って話がしたい。ここではパラドックスも起きないだろう。
トランクスはそう思い,上空を横切った気を追いかけることにした。

 

ヤムチャのアジトのある荒野のはずれに小さな街があった。
街の中心部には大きな泉がわき出ており,住民の生活を支えていた。
静かな街だったが,この街は犯罪を犯して罪をつぐなったものの普通の社会では生きていけない者たちが集まる場所だった。
とはいっても,ここで別に悪事を働いていたり悪事を計画しているわけではない。ちゃんと警察官もいる。
出所しても世間からは白い目で見られる,働こうにも前科があるために雇ってくれない…そういう者たちが集まり協力して生活していた。
その街の泉のほとりにある豪邸が建っていた。
住民の誰もが知っている者の豪邸だった。
いや,ここの住民でなくてもかつては世界でも広く名の通った……殺し屋の邸宅。

そう桃白白の家だった。

彼は天津飯に敗れプライドがボロボロにされてからは,殺し屋を廃業し,別の生き方を模索していた。その名を知る者にボディーガードを頼まれることもあったが,長続きしなかった。

そこで兄の鶴仙人と共に経済界に進出したのである。桃白白はこう見えて200年以上サラリーマンをやってきた男だ。武道にも長けているが,それ以上に莫大な知識を蓄えていた。
すぐれた先見性を発揮し,株と投資でまたたく間に富豪となったのだ。

今では世界各地の飢餓に苦しむ人や孤児のために多くの寄付をしている。また,この街で暮らす者のように更正こそすれ前科があってなかなか社会に馴染めない者たちへも支援していた。
かつての自分をだぶらせていたのだろう。そういう者たちを見捨てることができなかったのだ。
そして桃白白はそんな彼らのカリスマ的存在になっていた。
血に染まった悪の金と,光に満ちた表の世界で稼いだ金の質の違いを悟り,桃白白は闇の世界には決してないだろう安息の日々を送っていた。

 

……もうすぐ不死鳥の血の効き目も切れるころだな……

白髪まじりの桃白白がため息をつく。大昔に兄の鶴仙人と亀仙人と共に秘境を渡り歩いた末,手に入れた不死鳥。
その血は不老長寿をもたらすと言うものだった。その血の効力で常識では考えられないほどの歳月を生きてこれたのだ。しかしその効き目もじょじょに切れかかっている。
桃白白「寿命か…。まぁいい。好き勝手やってきたしな…。だが,これまで犯してきた罪を償うまでは死ねんな……。」
豪華なリビングでワインのはいったグラスをかたむけ思い出に浸る桃白白。

 

と,そのとき玄関で物音がした。
言い争うような声が遠くで聞こえる。
門には何人かの警備員がいる。いずれも前科者ばかりだから血の気の多いやつがほとんどだ。
しかしすぐに怒鳴り声は消え,部屋は再び静まり返る。
その静寂をやぶるようにリビングの壁につけられた電話がなった。門にいるはずの警備員からの連絡だ。受話器からかすれた男の声がもれる。
警備員「す……すみま…せん。侵入者です…お…恐ろしく強い…奴で……」
桃白白「侵入者か…。面白い」
桃白白はすべて聞く前に受話器を戻した。この前科者ばかりの町にたつ巨大な豪邸であったが,泥棒など入ったことはない。
街の住人が更正した連中ばかりということもあるが,誰もが桃白白を畏れ,尊敬していたからである。
久々に血が踊る。……強いらしいではないか。
握りしめる金属の拳がギシリと軋んだ。

 

悟天はドラゴンレーダーに導かれ,ある町へと降り立った。
活気のある町だが,すれ違う人みな顔に陰があるような気がした。
悟天「えーっと…。範囲を狭めるには……」
レーダーのボタンをぐりっとまわし,レーダーの縮尺率を変える悟天。
どうやらドラゴンボールは大きな豪邸内にあるようだった。
悟天「やべっ。人が持っているのか〜。ま,いっか。譲ってもらお」
門をノックして,廷内に入ろうとするも,当然追い返される悟天。
舞空術で塀をこえ,無断で敷地内へと入った。警備員が悟天を追い出そうとするが,悟天にかなうはずもなく,たやすく気絶させられてしまった。
堂々と家の中に入っていく悟天。非常識きわまりない奴である。

純朴な少年だった悟天。ここまでは悟空と同じ。
だが,青年になるまでの過程が違っていた。
悟空は武天老師,カリン,神様,界王……と師に恵まれ肉体のみならず精神までも鍛えさせられた。おかげで純粋だが何にも染まらない無垢な青年へと成長したのである。
悟飯にもピッコロがいた。
…が不幸にも悟天には心の師がいなかった。
純粋なまま育ち,誘惑に染まりやすい身勝手な青年になってしまったのだ。
決して悪いと思ってやっているわけではないから尚更タチが悪いのである。

 

悟天「すみませ〜ん。誰かいませんかぁ〜?」

広い玄関で大声で主人を呼ぶ悟天。

悟天「勝手にさがしちゃいますよ。ドラゴンボール」
桃白白「ようこそ。何のご用かな?」
奥へ続く廊下から1人の男の声が聞こえた。渋い壮年の声だ。
悟天「あっ。あの〜この家の人で……」

暗がりから現れた人物に悟天は息を飲んだ。
その男の顔は人のモノではなく…まるで金属の仮面をかぶっているような風貌で目はカメラのレンズのようになっていた。
さらに,男はピンク色の悪趣味なチャイナ服を着ており,上半身部分にでっかく○に福と染め抜きで書かれていた。

悟天「きしょくわる〜」

遠慮なく言い放つ悟天。

桃白白「……無礼な坊主だな……。
いきなり人の家へあがりこんできて主人への悪口とは…親の顔が見たいぞ。」
悟天「…え?親?…こまったなぁ。お父さんはドラゴンボール探しで競争してるし…」
桃白白「……。」
呆れて声も出ない桃白白。わざとなのか本当にバカなのかわからない。

悟天「それよりさ…あんたドラゴンボール持ってないですか?持ってるでしょ?この家から反応あるしね。ちょっとそれ貰いたいんだけど」
桃白白「ドラゴンボール……?」
無礼な悟天の態度は敢えて無視して呟いた。
悟天「えーっと。このくらいのオレンジ色の玉で…中に星があって…」

説明されるまでもなく桃白白はそれを知っていた。昔,レッドリボン軍に雇われたとき,その総帥が集めていたものだ。孫悟空から奪ったこともある。
確かにボールは数年前偶然に荒野で拾って,部屋に飾っている。

桃白白「ほう。あれを集めているのか?」
悟天「え?やっぱりここにあるんですか?それ欲しいんだけど」
桃白白「欲しいんだけど…って……。どこまでも無礼なガキだな。むかつくガキは何人かいたが,お前のような無礼なガキは初めてだぞ。少々お灸を据えてやるか。」
悟天「え?お灸って?あのあれですか?肩とかこったときにする…」
桃白白「えぇーい黙れ!」
悟天「あれ?」

桃白白が廊下を蹴る。常人の目では追うのも無理なほどの俊足。
まばたきほどの間に悟天の後ろに回り込んだ。
後ろから悟天を羽交い締めにしてから,暗殺業で培ってきたノウハウで気絶させないまま痛みだけを与える拷問を悟天に施してやろうとしたのだ。
更正したとはいえ,陰湿な部分はしっかり残っていたようだ。
ちょっと痛い目を見せてこのガキも更正してやる…と思っていた桃白白だったが…。

青年の背後に回り込んでいたはずなのに,彼は自分のほうを向いている。うっすら笑いを浮かべて。

悟天「へぇ〜」
桃白白「え……?」
混乱しながらも桃白白はその場をジャンプし,悟天の頭上をこえ再び悟天の背後に回り込もうとした。
…が,やはり桃白白と悟天は向き合うカタチとなった。
桃白白「……な…なに…?」
悟天「おじさん。何か武道とかやってた?普通の人よりもちょっと速いね」
桃白白「……」

やっぱりだ…。
確かに背後に回った。この青年が自分が認知するよりも速くこっちを振り返ったんだ。
ゾクリとする桃白白。
背筋から汗がみるみるわいてくるのがわかる。…が恐怖をふりはらって悟天の顔に一発,全力で突きを入れた。
わかっていた。既に。この青年がただ者でないくらい。わかっていたけど認めたくないから。だから。だから全力で打ち込んだ。
普通の人間ならば,一発であの世行きだろう。いや,武道で極めた格闘家だって死んでもおかしくない。あのヒーローと称えられているミスター・サタンだってベロひと突きで殺せる自信がある。

桃白白「ただもんじゃないんだな……」
微動だにしなかった悟天の顔から拳をそっと離した。
こいつは自分の想像を超えている。
桃白白は悟っていた。

悟天「どう驚いたでしょ。ボク,強いんだぜ。こんなこともできるんだよ!」
そういって悟天はかめはめ波の構えをとった。

桃白白「この構え……まさか……わ,わかった!やめろ!」
慌てて止める桃白白だが悟天の詠唱は終わらない。
悟天「波ァーーーッ」

悟天の掌から発せられたかめはめ波は広い玄関をぐるぐる回りだした。
が,悟天は気のコントロールもイマイチであって修行もろくにしてなかったものだから,かめはめ波は途中,高価なシャンデリアに激突し,天井をつきやぶってどこかに飛んでいってしまった。

桃白白「うわっ!!」
目の前にシャンデリアが落ちてきた。激しい音を立ててガラスが飛び散る。
悟天「あちゃ〜。失敗。はは…。」
桃白白「お前…まさか…あの…孫悟空の息子…」
悟天「え?……知ってるの?おじさん」
桃白白「知ってるも何もお前のオヤジには世話になったからな…。今の今までヤツに叩きのめされたことを感謝するときもあったが
…あのガキ…とんでもないクソガキをつくりやがって……常識もアタマもないくせに力だけは化け物という最悪のバカじゃなないか…」
悟天「むっ…」
能天気な悟天もさすがに桃白白の言葉にカチンときたようだ。

桃白白「消え失せろ!不快なガキだ!お前などにドラゴンボールなどやらん!!」
そう言って桃白白は機械の手をはずし,スーパーどどん波の構えをとった。もちろんまともに当たっても効かないだろうということは桃白白自身よくわかっている。
ただの威嚇だ。
しかしひるまない悟天。桃白白の目に映らないほど猛烈なダッシュ。悟天にとってはほんの軽く地を蹴っただけにすぎないが。一瞬にして桃白白の前に現れる桃白白の前に現れる。

ガキッ

鈍い金属音。
悟天の手刀が桃白白のスーパーどどん波の砲台を切り落とした。
唖然とする間もなく次の瞬間には桃白白は悟天の一撃で眠らされていた。

悟天「もう…失礼しちゃうな。ボクが非常識だなんだって…。もういいや。ドラゴンボール勝手に探すから。じゃね。」
玄関ホールでのびている桃白白をほったらかして,家の奥へと入っていく悟天。
ほどなく悟天は桃白白の私室でボールを見つける。
そのボールを背負っていたカバンにしまいこむと,舞空術で窓から飛び出した。

悟天「おっじゃましまっした〜!」

レーダーを見て次はどこへ行こうかと確認しようとする悟天だったが…
ふいに飛行を止めた悟天。その視線の先にいたのは未来のトランクスだった。

悟天「げっ!トランクス君!接近に気づかなかった…!」

いつもは仲のいい二人だが,今は敵同士。身構える悟天。
…が目の前のトランクスはいつもと様子が違う。

トランクス「あ……あなた悟飯さん……?違いますよね…」
悟天「え…?な…何言ってるの?トランクス君。その服装いかすね。」
トランクス「この気は似ているけど違う…。そうか。キミが悟天君か」
悟天「え……?どうしたって言うの?」

トランクス「ヤムチャさんから聞いていました。悟飯さんに弟さんがいるということ…。
さっきの貴方の行動見ていました…。
悟飯さんの弟さんというから…きっと素晴らしい人だと思っていたのに」

悟天は目を丸くしながら聞いている。
目の前の友人はアタマをどこかにぶつけたのだろうか…それとも油断させようとアホなことを言っているのだろうか…と。

トランクス「キミのやっていることは泥棒だ!
この世界は…悟空さん…いやキミのお父さんやオレの父さん…悟飯さん…ピッコロさん。みんなが必死で守り抜いた世界だって聞いた。
なのに…そんな平和な世界でキミは……」

トランクスがむせるような口調で話している。が悟天には何のことだかわからない。
トランクスは過酷な世界で生きてきた。
――だから,平和な世界にどっぷり浸って恵まれた力をふりかざし好き勝手にやっているの悟天が我慢ならなかったのだろう。
トランクスが自分の世界を思い浮かべこうべをたれた。その一瞬を見逃さず悟天はトランクスの懐に潜り込む。
悟天の膝蹴りがトランクスのみぞおちに決まった。

悟天「悪いね!トランクス君!せっかく手に入れたボールを奪われるわけにはいかないし!じゃっ!」

悶えるトランクス。そのうちに悟天は急いでその場を離れていった。

トランクス「ごほっ…ごほっ…」
たまらず街まで降りて泉のほとりで寝ころぶトランクス。
スキを突かれたとはいえ,悟天の強さは今の自分より遙かに上であることを悟った。

トランクス「この時代はどうなっているんだ…。人造人間より強そうな気はゴロゴロ感じるし…。みんなでドラゴンボールを巡って競争しているっていうし…。
悟天という人は非常識甚だしいし…。」

こうしている間にも自分の世界の人間は次々と人造人間に殺されているかもしれない。
なのに,この世界の人間は……。

トランクス「そっ…そうだ!フリーザを見つけないと…」
ジンジンする腹部をさすりながらトランクスは立ち上がった。

そして,上空へと舞い上がるとヤムチャのアジトへと戻っていった。

 

 

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