男ラディッツ
504 名前:男ラディッツ ◆frEmlPO5xE :03/02/08 12:03 ID:CN2TkdgT
銀河の端の荒れ果てた惑星。ラディッツは一人石の上に座っていた。
そこに飛んでくるベジータとナッパ。
ベジータ「ラディッツさん終わりました」
ナッパ「軽いもんでしたよ」
ラディッツ「おおそうか。……それと何度も言ってるけど”さん”はやめろ」
ベジータ「大丈夫ですよ。今はスカウターしてませんし、他に誰もいません」
ラディッツ「まあそうだが……」
立ち上がるラディッツ。
ラディッツ「よし。それじゃあ、フリーザの野郎に報告だ」
べ&ナ「ハイ!」
一人用の宇宙船の中でラディッツは必死に考えをまとめていた。
(ベジータがフリーザたちに疑われているようだな。そろそろ勘付かれるかもしれん。だが今の俺の力ではどうしようもない。
……より多くの仲間が欲しい。信頼できる仲間が)
ピピッピピッ
ラディッツ「ベジータからか……。はいラディッツです」
無線@ベジータ「次のターゲットはX68星だ」
ラディッツ「はい」
(ふふふ。ベジータの奴。だいぶ演技がうまくなってきたじゃないか)
無線@ベジータ「ただし、お前はまず地球に行ってカカロットをつれてこい。フリーザ様の命令だ」
(何! カカロット!? くそ! 何故今になって突然? やはりフリーザは何か勘付いているのか?
あいつを巻き込むことはしたくなかったのに。……カカロットの成長振りに期待するしか無いのか。弟よ。すまない)
509 名前:男ラディッツ ◆frEmlPO5xE :03/02/08 12:15 ID:CN2TkdgT
地球へと向かうボール型の宇宙船。
(フリーザを倒すためには、まだまだ力が足りない。圧倒的に……。
カカロットが急激に成長している可能性もあるが、期待は出来ないだろう。
なにか、なにか方法は無いものか。くそ!!)
ラディッツ「地球。きれいな星だな……」
「チキュウトウチャク、チキュウトウチャク」
宇宙船の扉が開く。と近寄ってくる農民がいる。
(しまった。いきなり見つかったか。
カカロットを探し出す前は騒がれては困る)
ラディッツ「戦闘力たったの5か。ゴミ(をぶつければ、殺さずに失神させられるだろう)」
農民の男はバタリと倒れた。
(よし。息はしているな)
(カカロットは……)
スカウターを走らせるラディッツ。
ラディッツ「む! こいつか? 見つけたぞカカロット」
(やはり。こんな程度の戦闘力か。……いや、仕方がない。
幼いカカロットが生きてこれただけでも良しとせねば)
ピッコロを見つけるラディッツ。
ラディッツ「違う。カカロットではない……。む、こっちか? これも同じくらいの戦闘力だ」
512 名前:男ラディッツ ◆frEmlPO5xE :03/02/08 12:23 ID:CN2TkdgT
亀ハウスに到着するラディッツ。
(おお! カカロットよ。立派に……なったな。
それに、なんだ? 戦闘力は微々たる物なのに何か感じさせるものがある。
潜在能力?? まさか俺のように戦闘力をコントロールできるのか?
いや、それだけではない。カカロットはもっともっと強くなる可能性を秘めている!
凄いぞ! フリーザに、あのフリーザに勝てるかもしれん!!
……だが時間が無い。時間が無いのだ! くそ!!
どうする。……くそ! 神様。俺は地獄へ落ちても良い。フリーザを、やつを倒させてくれ。
カカロットはどうやら、他人への優しさと、そして怒りで力を発揮するタイプのようだな。
すまん。カカロット。それを利用させてもらうぞ。おまえの潜在能力を引き出すために。
……おれは本当に地獄に落ちるかもしれんな)
ラディッツ「おい!」
516 名前:男ラディッツ ◆frEmlPO5xE :03/02/08 12:51 ID:CN2TkdgT
悟飯を宇宙船の中に入れるラディッツ。
(すまんな。カカロットの息子よ)
扉を閉める瞬間、悟飯と目が合った。
(似てる。カカロットに)
悟空が生まれてすぐ、地球に送り込まれたとき
ラディッツは幼いにもかかわらず、もうすでに戦士として戦闘に参加していた。
その戦闘力の高さをフリーザに買われたからだ。
弟が名も知らぬ惑星に送り込まれると聞いて、ラディッツは激怒しフリーザに食って掛かった。
もちろん、かなうわけも無く、ラディッツはただ
生まれてはじめての喜び(悟空誕生)と生まれてはじめての敗北と、生まれてはじめての悲しみを同時に味わった。
このときを境にラディッツはさらに成長のスピードを上げることになる。
弟を守れなかったと言う気持ちと、そして心の奥に刻まれたフリーザへの憎悪。それらが原動力となったのだ。
517 名前:男ラディッツ ◆frEmlPO5xE :03/02/08 12:52 ID:CN2TkdgT
あるとき、ラディッツは自分と同じように幼いにもかかわらず、
戦闘に参加している少年と出会う。
ベジータだ。
はじめの頃、ベジータは自分が王子であった事を鼻にかけている嫌な奴だった。
だが、ラディッツと付き合ううちにベジータはだんだんと心を入れ替えるようになる。
二人が出会ってからのはじめての戦闘が終わった後のこと
ベジータ「ラディッツさん。すげえよ! 一番強いやつを一瞬でやっつけてたじゃん!
あいつ戦闘力を抑えてたから、みんな気付いてなかったけど。俺にはわかったぜ」
ラディッツ「ありがとうございます。ベジータ様。それとラディッツ”さん”なんて私のことを呼ばないでください」
ベジータ「へ? 何いってんのさ? ムグムグモガ。何すんだよ!!」
ラディッツはベジータの口を抑えると、自分の耳を指差して
スカウターをはずすようにベジータに伝えた。
首をかしげながらも、スカウターをはずすベジータ。
ベジータ「何だよ。突然」
ラディッツ「スカウターをつけてただろ。あれフリーザにも会話が盗聴されてるんだぜ。おぼえておいたほうがいい」
ベジータ「っけ。べつにフリーザの野郎に聞こえたって良いじゃんか」
ラディッツ「……フリーザの奴はサイヤ人を恐れている。
正確にいえば強い奴を恐れている。奴に秘密裏に殺されている戦士を何人も知っているよ。
俺やお前は急激に成長しすぎている。お前は”王子だから”ということで
あいつも納得しているかもしれんが、俺は下級戦士の息子だ。
そして今ではお前よりも戦闘力は上。
このことに気がつかれたらおそらく俺は消されるだろう」
ベジータ「……だから今日は戦闘力を抑えて戦ってたんだね」
ラディッツ「ああ。だからスカウターをつけているときや、皆がいる前では
おまえはあくまでも王子として、俺を家来のように扱ってくれ。
無線通信でも同じだ」
ベジータ「俺もフリーザにあまり反抗的な態度を取らない方が良いかな?」
ラディッツ「そうだな……いや、いきなり態度が変わったら怪しまれる。
今まで通りで良いんじゃないか?」
立ち上がるラディッツ。
ラディッツ「さあ。いくぞ。ベジータ”様”」
520 名前:男ラディッツ ◆frEmlPO5xE :03/02/08 13:02 ID:CN2TkdgT
(あれからしばらくたって、おれは信じ難い話を聞いた。
サイヤ人はフリーザに滅ぼされた、と)
ベジータ「嘘つけよ!! いくらあいつでも、そんな酷いこと!!
くそ! なんだってそんな話を俺にしたんだ。俺は……」
ラディッツ「本当だ。証拠も見つけたよ。ザーボンが部屋に隠し持ってやがったフィルムだ。悪趣味な野郎だ」
フィルムが再生される。
ベジータ「く。やめろ……やめろ! とめてくれ。親父……親父……
くそ! 俺は、俺は何でフリーザの野郎に今まで従って……くそー!!!」
ラディッツ「俺はフリーザを倒す」
ベジータが顔をあげる。
ラディッツ「お前も協力してくれ。頼む」
ラディッツが頭を下げた。
ベジータ「ラディッツさん。何で俺なんかに頭を……」
ラディッツ「……最後にフリーザに向かっていった馬鹿なサイヤ人。
あれは……おれの父親なんだ」
524 名前:男ラディッツ ◆frEmlPO5xE :03/02/08 13:20 ID:CN2TkdgT
>>521 arigato
(ナッパを仲間にし、俺たちはフリーザを倒すことを誓い合った。
その矢先にこれか……。実の弟との戦い。やはり俺には地獄がお似合いのようだ)
そのとき、スカウターが反応した。ピピッピピッ
ラディッツ「何! カカロットか?」
スカウターは宇宙船の中を示している。
(故障? いやカカロットの息子も潜在能力は高そうだった。
ひょっとして、ひょっとするかもしれ……)
ピピッピピッ
ラディッツ「今度こそカカロットだ!」
戦いの中で、ラディッツは焦っていた。
(違う。こんなものじゃないはずだ。お前の力は。
もっと、もっと凄い力を秘めているはずだろう! カカロットよ!
そうだ。戦闘力を集中させるんだ。そうだ! もっとだ! もっと力を!)
(これまでか。やはりカカロットには早すぎたのかもしれん。
荒療治は……失敗か)
そのとき、宇宙船の中から悟飯が飛び出してきた。
ラディッツ「な!」
(す、素晴らしい。この幼さでこの戦闘力。希望が! 希望が見えてきたぞ! さあどうするカカロット。この状況はお前にとって大チャンスだ。
今こそ真の力を発揮するんだ。)
ラディッツ「は、はなしてくれ。もう地球にはこない、約束する。改心する!」
ピッコロ「おい。孫。騙されるなよ!! おい!!」
ラディッツの尻尾を離してしまう悟空。
(なぜだ。甘い。甘すぎる。カカロットよ。そんなことでは戦士には……。
いや、勝手な言い分か。カカロットにとって優しさは重要なことだったのかもしれん。
地球で育ち。優しさに育まれてここまで成長したんだ。きれいで優しい星、か……)
528 名前:男ラディッツ ◆frEmlPO5xE :03/02/08 13:34 ID:CN2TkdgT
(やさしさ……?)
一瞬の隙で、再び尻尾をつかまれるラディッツ。
(優しさ……俺は何のためにフリーザを倒そうとしていたんだ?
復讐のため? 残虐な奴を許せないから?
俺は……俺は……自分のエゴを貫くために、勝手に仲間をも引きずり込もうとしてるんじゃないか?
ベジータ。ナッパ。そして実の弟さえも。
俺は何だ? フリーザと、俺の父親を殺したフリーザと同じじゃないか?)
『おめえなんか兄貴じゃねえ!!』
先程の悟空の言葉が心の中で何度も繰り返される。
(ふ。そうだな。こんな酷い、残酷なことをする兄貴がいるわけない。
俺は、俺はお前の兄貴失格だ……)
ふと気付くと目の前には、戦闘力を凝縮した光線が
(しまった。すぐに戦闘力を高めなければ!!)
『おめえなんか兄貴じゃねえ!!』
(……俺はは。そうだな、地獄に落ちるとしよう。カカロットよ。す、ま、な、か、っ、、、た、、、、、、な)
ラディッツは死の間際まで、本当の気持ちを告げることは出来なかった。
スカウターという呪縛が、彼を最後まで苦しめたのだ。
その後、ベジータは尊敬するラディッツを殺した悟空、そしてその仲間の地球人に激しい憎悪を抱くようになる。
ベジータが悟空の中にラディッツの面影を見るようになるのは、ずっと先のことである。
ラディッツの心はいつまでもサイヤ人の中にあり続けるのだ。