355 名前:1/3 :03/06/29 00:52 ID:???
激しくスレ違いだと思うが。
「ぐ……ち、ちくしょおお……!」
魔貫光殺砲に貫かれたラディッツの叫びが空しく響いた。
一方、あの世。
「ふんふんふ〜ん♪」
界王星主催「蛇の道フルマラソン」がいよいよ佳境に入ろうとしていた。
主催と銘打ってはいるが、あくまでも界王本人の暇潰しの一つであり、参加メンバーも三人(?)だけだったりする。
トップを走るのは恰幅の良い風体に水色の肌、ついでにサングラス。界王だった。
彼は鼻歌などを歌いながら悠々と走っている。
後続の猿のバブルス、空飛ぶ虫のグレゴリーなども勝ち負けに拘る気質ではなく、ただの趣味の一環、といった様子だった。
そうこうする内にゴール地点、閻魔大王の館が見えてきた。
順位は変わることなく界王が一位のままゴールイン。
その後、たまには閻魔大王の仕事振りを拝見しようということで閻魔の館で一息つくことにした。
もっとも、界王は千里眼も持っているので近くに行った所で変わりなど無いのだが。
356 名前:2/3 :03/06/29 00:53 ID:???
「かっ、界王さま!? どうしてここに!」
閻魔のびっくり声とともにいっせいに整列する事務員風の鬼たち。
ほぼ伝説と化しているような界王の来訪に、館内部には緊張が走っていた。
「ちょっとマラソンついでにな。ところで、どうしたんじゃこれは」
閻魔の館の内装は豪華といえるものでは無いが、仕事の関係上、整理整頓はされている。
加えて、閻魔の体格は小山のごとく大きいので、備品などは頑丈に出来ている。
そのはずなのに、館内部は荒れていた。
書類はびりびりになってそこら中にばらまかれ、机などにも傷やヒビが入っている。
それは、さながら巨大な台風か何かが館内部で発生したかのようだった。
「まさかお主、昼寝でもしておったわけじゃ」
「め、滅相もないっ」
すぐに返すが、閻魔は床に肘をついた状態で寝そべった格好になっている。
見様によっては、界王の言う通り昼寝中に豪快に寝返りを打ったようにも見えなくない。
そんな折である。
「大変です閻魔さま! 地獄で死者たちが反乱を――!」
血相を変えた青鬼が館に飛びこんできたのは。
「なんと、死者たちが反乱?」
どれ、と界王は頭の触角を地獄の入り口に向け、
「ふーむ、まるで氾濫した川のようじゃのう」
などと呑気なことを言っていたりした。
神々の上に立つ界王がギャグを言うなんて、としばし館内の鬼たちは固まる。
ただ一人、界王に弟子入りした経験のある閻魔だけは
(今のはイマイチでした、と申し上げるべきか)
少々ピントのズレていることを考えていた。
考え事をして油断が生じたためか、
「くっ、うおおおおおおおおおおおお……!」
閻魔の肘の下に下敷きになっていた一人の死人が渾身の力をこめて肘を持ち上げる。
そこにいたのは、ラディッツだった。
357 名前:3/3 :03/06/29 00:54 ID:???
「はぁっ、はぁっ」
肘の下からなんとか抜け出たラディッツは閻魔大王を睨みつける。
閻魔の館の荒廃の原因は彼であった。
地獄送りに不満を持った彼が館内で暴れ、そこを閻魔に取り押さえられたのだ。
肩で息をするラディッツの前に、界王が立った。
「ふーむ、魂の身でありながら閻魔の腕を持ち上げるとは……」
しばし考えるような素振りの後、
「おぬし、閻魔たちの代わりに地獄へ行って反乱を収めてくれんか?」
「な――――」
閻魔が、ラディッツが同時に声をあげる。
もともと罪人である者に暴れる罪人を止めさせるなどという例は、聞いたことも無い。
「地獄は猛者の溜まり場だし、もし鎮めてくれれば悪いようにはせん」
そのあと、「おぬしは、サイヤ人だろう?」と付け足した。
ラディッツはしばし考える。
彼とて下級とは言え戦闘民族の端くれ、戦うことに魅力を感じぬ訳では無い。
加えて、目の前の怪しげな男は自分を悪いようにはしないという。
どちらにしても地獄にいくハメになるのならば、戦いに行くべきであろう。
……死後もなお、手先のような事をするのには納得がいかないが。
「決まりじゃな。おい閻魔よ、こいつに肉体をやってくれ」
537 名前:355 :03/07/05 19:40 ID:???
1/3
ラディッツが地獄に運びこまれた後、彼は黒い魂たちの真ん中にいた。
「ち、ちくしょう……」
敵意を持ってにじり寄ってくる魂たちに囲まれて、ラディッツは呟いた。
“集団の敵と戦う時は弱い者から潰す”
というセオリーに従い、既に数人の魂を倒した所であるが、多勢に無勢であった。
腕や脚の上を流れる血の感触が心地悪い。
幸いか足元に転がっている倒した魂が牽制になり、に取り囲む魂に無闇にかかってくる様子はない。
ここはエネルギー波を放って敵を散らし、そしてひとまず引くことにする。
ラディッツが両手に力を込めた時、
「なんだ、だらしねえな」
背後から声がかかった。
ラディッツが降りかえる。
「な」
そこにいたのは――――
自分の弟と瓜二つの姿を持つ、父バーダックであった。
538 名前:355 :03/07/05 19:41 ID:???
2/3
「お、親父――――?」
思いがけない人物の出現にラディッツは足元どころか全身がお留守になる。
地獄の魂たちがそれを見逃さないはずが無かった。
いっせいに飛びかかる魂たち。
「しまっ――」
が、
ドォォォォォォォォン!
バーダックが放ったエネルギー波によって、魂たちは軽く薙ぎ払われた。
ラディッツは忘れていたことを思い出す。
父は下級戦士でありながらエリートをも超える戦闘力を持っていたのだということを。
バーダックもまた魂の身であるが、ラディッツを囲む敵を次々に倒していく。
魂の身では、自身の持つ力を十分に引き出すことが出来ない。
閻魔との戦いで、それは既に思い知らされている。
肉体を持ちながら苦戦を強いられている自分と、バーダックは明らかに違う。
父と息子の決定的な違いは根本的な戦闘力、それに戦闘経験の差。
しかし、それ以外のものを見つけることは彼には出来なかった。
539 名前:355 :03/07/05 19:41 ID:???
3/3
「“一流の戦士”が聞いて呆れちまうな」
気絶した敵たちの山の中で、バーダックは言った。
ラディッツが苦労して倒した何倍もの敵を、バーダックは数時間で片付けてしまったのである。
「……ぐ」
うめくような片返事しか返すことが出来ない。
「目先のパワーだけを気にするからそうなる」
そう言うと、バーダックの身体が気のオーラを纏う。
それを感じ取る能力を持たないラディッツでも、バーダックの気にぞくりとする。
戦闘力のコントロール、同じ惑星戦士の中でもとりわけ珍しい能力だった。
それがいつ得たものかはラディッツにはわからなかったが、父との距離がさらに遠いことを確信する。
「おめえには、まだ先がある」
短い言葉だったが、意味は深く、強い。
「ふん」
ラディッツは返事の代わりに短くそう言い放った。
手を伸ばしても、遥か遠い父へと。
674 名前:355 :03/07/10 00:12 ID:???
1/2
その後、地獄から強制的に戻されたラディッツに伝えられたのは、
「蛇の道の先に来い」
という界王からの伝言だった。
「悪いようにはしない」という界王本人の言葉を信じるのならば、ここは言う通りにすべきである。
が、ラディッツは迷った。
地獄に派遣され、戻ってくるまでが十数時間。
その間に弟――カカロットが界王の元へ向かっていると聞いたためだ。
自分の死の一端である人間に出合うのは、とても歓迎できることではない。
だからと言って閻魔の館に留まっている訳にもいかない。
言う通りにしなければ、たちまち魂を抜かれて地獄送りとなってしまうだろう。
結局、彼には界王の言う通りにするしか選択肢は無かったのである。
675 名前:愛蔵版名無しさん :03/07/10 00:12 ID:VIP7knNp
2/2
蛇の道の頭部分に立ち、先を眺める。
道の終わりは見えない。
永遠にループする異空間にでも吸い込まれでもしたかのようだった。
案内人の鬼曰く、その距離はなんと百万キロ。
「ち、イライラさせやがる……」
百万キロの距離自体には、さして驚くことはなかった。
何せ彼には惑星戦士として星中を飛び回らされた経験もある。
ただ、会いに来いと言う人物がそこまでの要求をしてくるのが気に食わなかった。
界王は強い。
自分を倒した閻魔ですら、界王にはへりくだっていた。
ならば、もし界王を超えることが出来れば……。
閻魔はおろか、あの生き残った二人にも匹敵する力を得られるのでは無いか?
「くくく……。ふははははははははははっ!」
供に来たはずの案内人の鬼は、既に姿を消していた。
759 名前:355 :03/07/12 23:20 ID:???
1/2
蛇の道を飛んで辿って数時間。
「あれは……」
遠目に見える、抑え目な青色の道上にひときわ目立つ山吹色。
派手な色の道着の人物。
間違い無く、彼の弟の孫悟空――カカロットであった。
「そういえば、生き返る方法があるとか言ってやがったな」
なぜ弟が界王の元へ向かっているのかは容易に想像できる。
ドラゴンボールによって復活し、一年後に来ると予告した二人のサイヤ人に対抗するためだろう。
が、おかしい。
どんどんと距離が縮まってきている。
飛行しているラディッツの方が速度は上。
とはいえ、本来ならば悟空も走っているのだから距離を詰めるスピードはもっと遅いはずだ。
「何をのんびりしていやがる……!」
気遣う道理は無いのだが、何故かラディッツは苛立っていた。
760 名前:355 :03/07/12 23:21 ID:???
2/2
すぐ後、ラディッツは悟空が移動を停止していた理由を知る。
蛇の道の道中で、悟空は眠っていた。
走り通しだったのだから疲労が溜まっていてもおかしくはない。
が、落ちたら即地獄へ直行のど真ん中で眠るというのはいささか理解しかねる。
「……貴様がバカだとは思っていたが」
悟空のすぐ傍に降立つ。
今の悟空は無防備この上ない。
この場で地獄へ落とすことは、造作もないことだった。
「オレは貴様らに殺されたんだ」
悟空の腕を掴み、その体を持ち上げる。
手を離せば、それだけで弟は地獄に送られる。
『“一流の戦士”が聞いて呆れちまうな』
『おまえには、まだ先がある』
父の言葉が、不意にフィードバックされる。
弟も、あの父の息子なのだ。
親兄弟に対して情を持っている訳ではないが、これからの伸びを考えると楽しみではあった。
果たして、自分とどちらの方が強くなれるのか……。
ラディッツは悟空を背負い、蛇の道を進んで行った。
844 名前:355 :03/07/15 18:17 ID:???
1/3
それからさらに十日ほどが過ぎた後……、
「なんじゃ、一人で来たのか?」
界王星に着いた時、ラディッツは一人だった。
しばらく悟空を背負って進んで来たが、悟空が目を覚ましそうになった所で置いてきたのである。
どうせ目覚めた所で闘いになるのは明白なことである。
せっかく殺さないと決めたばかりだったのに、それをいきなり破るのは気が引けた。
「そんなことより何の用だ」
ラディッツは界王に詰め寄る。
百万キロもの道を飛ばされたのだから、当然気が立っていた。
界王は敵意剥き出しのラディッツにはお構い無しに、
「強くなりたいんじゃろう?」
とだけ聞いた。
返事を聞かずに頭から出ている触角らしきものをピッと動かし、
「おまえの弟とやらが来るまで……十数日といったところかな」
界王はバブルスを指差し、
「それまでに、このバブルスくんを捕まえてみろ」
845 名前:355 :03/07/15 18:17 ID:???
2/3
「ふざけるなっ!」
地獄への派遣、蛇の道と続いて、最後には猿と鬼ごっこである。
ラディッツの怒りは頂点に達した。
界王星の芝生が揺れる。
自分でもコントロールし切れてない“気”が、彼の身体から放出されていた。
が、界王は動じなかった。ついでにバブルスも。
「そうか。惑星ベジータの重力はこことほぼ同じだったな」
むしろ、ラディッツが界王星の重力をものともしていない事を気にしていた。
界王が再び触角をピッと動かす。
「ぐ……っ!」
べしゃり。
途端にラディッツの身体が崩れ落ちた。
「おまえの服をちょっとばかり重くさせてもらった」
「ち、ちくしょう……!」
よろよろと立ち上がるが、それだけの動作も負担となる。
こんな状態では、界王に歯向かうことなど不可能なのは明らかだ。
やはり、ここでもラディッツは界王の言う通りにするしか無かった。
846 名前:355 :03/07/15 18:18 ID:???
3/3
数日後。
ラディッツは未だバブルスとの鬼ごっこを続けていた。
「ほれほれ、早くせんと弟に無様な姿をさらすことになるぞ」
界王星の重力にも慣れてはきたが、それでもバブルスのスピードには敵わない。
重くなった戦闘服を脱ぎ捨てようとしても、すぐに界王が元の状態に戻してしまう。
「オ、オレが、あんなサルごときに……!」
一歩ごとに、ずしりと身体中が響く。
もともとバブルスの速さもかなりのものだ。
仮にラディッツが重い戦闘服を纏っていなかったとしても、逃げ切れる可能性すらある。
それなのに、服が“ちょっとばかり”重くなっているのだから尚始末が悪い。
暫くの鬼ごっこの後、ラディッツは芝生に倒れこんだ。
「見てられんのう。おまえならじゅうぶん追いつけるというのに」
「なんだと?」
「じぶんのパワーを上手く扱ってみろ。そうすれば出せるスピードは何倍にもなる」
『目先のパワーだけを気にするからそうなる』
父にも言われたことが頭の中で反芻される。
バーダックと自分との違いを、ここで初めてラディッツは悟った。
自らの力を集中させ、高めること。
即ち、戦闘力をコントロールするということ。
「できるのか? ……オレに」
「おまえ次第じゃな」
ラディッツは再び立ちあがった。