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憂愁のヤムチャ



601 名前:憂愁のヤムチャ(1/4)[sage] 投稿日:03/12/05 15:51 ID:lmBd1KnM
「では私はもう行くが、この町はいつでもグレートサイヤマンが見守っている!
 今度悪事を働けば容赦はしないぞ! さらばだ!」
スピード違反の青年に向かってそう叫ぶと、悟飯は勢いよく飛び上がり、道路脇のビルに向かって飛んでいった。
しばらくしてビルから降りてきた悟飯は、俺に向かって「待たせてすいません」と謝った。
「いや、別にいいんだが……。お前いつもああいうことやってるのか?」
ああいうことというのは、スピード違反の注意だった。
それは別にいいのだが、何故注意の際にわざわざ変身しなければいけないのかわからない。
「ええ」
「あの格好で?」
ブルマが作ったという、暑苦しそうなコスチュームを思い浮かべながら俺は聞いた。
「はい、なかなかカッコいいでしょ」
「カッコいい……のか?」
俺が首をかしげた時、「悟飯」と呼ぶ声が反対側の道路から聞こえてきた。
見ると野球のユニフォームを着た若者の集団が歩いている。先頭の金髪の青年が声を掛けたようだった。
「シャプナー! ……すいません、ちょっと行ってきます」
「ああ」
悟飯は道路を渡っていった。俺はすることがなくその場で待っている。
「あのおじさん、誰だよ」という声が聞こえてきた。シャプナーという若者が尋ねたのだろう。
悟飯がなんと答えたのかはわからなかった。
「おじさん……、か」
俺はつぶやいた。
考えてみると、俺ももう40代なのだった。
体力も落ちてきた。
カッコいいというグレートサイヤマンのセンスも、俺には理解できない。
よく年より若いといわれるが、やはりもう若くはないのだと思う。
もうこの先、たいしたことはできないだろう。そしてこれまでも、俺は何ひとつ成し遂げられずに来た。
悟飯にはまだ先がある。悟空には過去の大きな功績がある。そのどちらも、俺にはもう望めそうにない。
そう考えるとなんだか力が抜けてきた。ここ最近、ずっとこうなのだ。
悟飯が突然野球観戦に誘ってきたのも、そんな俺の状態を見抜いているからだろう。
おそらくプーアルの差し金か。俺を元気付けようとしてくれているのだ。
しかし実際には、俺は出かける前よりも疲れてきているようだった。
プーアルには申し訳ないが、仕方がない。

603 名前:憂愁のヤムチャ(2/4)[sage] 投稿日:03/12/05 15:54 ID:lmBd1KnM
悟飯が駆け足で戻ってきた。
「すいません、たびたび待たせてしまって」
「いや、ちょっと休憩しようかと考えていたところだ」
俺はちらっとシャプナーたちの方を見やった。
「これから見に行く野球の試合ってのは、彼らがやるのか?」
「はい、僕の高校の野球チームです。
 でも相手は凄いですよ。タイタンズっていうプロのチームです。練習試合とかで」
「タイタンズ、ねえ。強豪だな」
「そうらしいですね。それなのに直前で監督が辞めてしまって」
「へぇ。彼らには悪いが、ワンサイドゲームになりそうだ」
俺はシャプナーたちの方を見やった。
練習試合とはいえ、プロとの対決。監督不在の逆境。
しかし悟飯と話している時の声は明るかった。なかなか余裕がある。
俺はそのまま視線をそらし、あたりを見回した。
もう試合会場が近い。人が多くなってきた。
ダフ屋やテキ屋の姿も見られる。この試合はそれなりに大きなイベントらしい。
その時、俺は何か違和感を感じた。
人ごみに異質なものを見たような気がする。ゆっくりと視線を元に戻す。
焼き物の屋台のすぐ横に、さっきの交通違反の青年が、悟飯に向けて銃を構えていた。
「悟飯!」
俺が叫ぶと同時に、銃から弾丸が飛び出した。
一瞬迷った。悟飯ほどの実力なら銃などどうということもない。
しかし性格上、彼は普段は気を人並み以下にまで抑えているかもしれない。それならダメージを受けかねない。
俺は決断した。悟飯が気を抑えているにしてもそうでないにしても、攻撃を受けない方がいいに決まっている。
左手で悟飯を突き飛ばし、右肩で銃弾を受けた。
そして青年に向かって飛びかかろうとしたが、足がもつれて転んでしまった。
「ヤムチャさん!」
「へ……へへ……。お前が悪いんだ。お前が正義面してでしゃばるからこうなったんだ」
青年はもう一度銃の引き金に手をかけた。
「言ったはずだな……。今度悪事を働けば容赦はしないと」
悟飯は気を高める。青年の銃が再び火を噴いた。

605 名前:憂愁のヤムチャ(3/4)[sage] 投稿日:03/12/05 15:57 ID:lmBd1KnM
続けて飛んでくる数発の弾丸を、悟飯はすべて片手で受け止めた。
受け止めてしまったというべきだろう。悟飯の身体がぐらりとゆれ、地面に倒れこんだ。
「バカめ! 俺がお前みたいな強い奴に何の工夫もしないとでも思ったか!
 そっちのお友だちが転んだのを見て何も気付かなかったのか?」
青年は勝ち誇ったように笑った。
「麻酔銃だよ! 俺はこう見えても優秀なハンターでな。
 ここの西に珍しい恐竜が現れたってんで生け捕りに来たんだ。
 お前がくだらないスピード違反とかで邪魔していなきゃ、今頃俺はヒーローだったんだ!」
優秀なハンターならこんな行動は取らないだろう。眉唾ものだと思った。
俺はそう言ってやろうとしたが、麻酔は完全に回ってしまったらしく唇さえ動かない。
青年はまだ飽き足らないらしく、気絶した悟飯を踏みつけ始めた。
それを見て小太りの中年が駆けつけてくる。
「ぼ、坊ちゃん! なんてことを!」
小太りは青ざめた顔で青年に言った。知り合いらしい。
「おお、お前か! また適当にごまかしておいてくれ」
「ごまかすって……、こんなに人が多くちゃ無理ですよ!」
「半年前の時も何とかなっただろ。やれ!」
「あれは私がごまかしたわけじゃないですし……」
なにやらもめている。
半年前といえば魔人ブウ騒ぎだが、
そういえば騒ぎに便乗して好き放題していたろくでなしがいたと、ピッコロから聞いたことがある。
どう考えても極悪人だと思うが、生き返っていたのか。ポルンガも甘いところがある。
しかしもめているのは幸いだ。
俺が受けた麻酔の量は悟飯より少ない。左手の感覚が戻り始めていた。
左手だけ戻ってもどうしようもない……普通なら。
しかし俺には操気弾がある。左手から操気弾を放ち、それを操ってこの青年を打ち倒すことができる。
左手に気を溜めた。しかしここにいたって俺はまた迷い始めていた。
操気弾はまがりなりにも俺の必殺技だ。最大限に手加減したとしても、一般人には大ダメージだろう。
死にはしないと思う。しかし、足を狙ったとして、二度と歩けなくなるぐらいはありうるかもしれない。
俺は深く考え込んでいた。しかしそのせいで注意力を失っていたらしい。
「こいつ、今動いたぞ……」
青年が言い、もう一度銃を構えた。

606 名前:憂愁のヤムチャ(4/4)[sage] 投稿日:03/12/05 16:00 ID:lmBd1KnM
「坊ちゃん! こ、これ以上は……」
「うるさい! お前はこいつらの強さをしらんだろう! 気絶させておかないと安心できん!」
青年は引き金に指をかけた。同時に俺は操気弾を繰り出す覚悟を固めていた。
おそらくこれは俺の最後の戦闘となるのだろう。俺らしくちっぽけな相手だ。
そんな脈絡のないことを考えながら、俺は操気弾を繰り出した。
しかし操気弾を飛ばすより前に、青年の腕から銃が飛んでいた。
弾ではなく銃が飛んだのだ。野球のボールが青年の手に当たったのだと気付くのに少しかかった。
「今だ!」
鋭い叫び声とともに、ユニフォームの一団が青年と小太りの男に向かって飛び掛っていった。
多勢に無勢で、男たちはすぐに取り押さえられた。
「大丈夫ですか」
シャプナーが俺を抱え起こしてくれた。冷たそうな外見の男だが態度は親切だ。
悟飯を見ると、こちらはサタンの娘さんに介抱されていた。
あっちの方がいいと思ったが、そういう場合でもない。
「ありがとう」
俺は言った。麻酔は切れてきたらしく、普通に喋ることが出来た。
「すまないな。大事な試合の前だというのに、危険なことをさせてしまった」
それも、俺がしっかりしていれば軽く逃れられる危険だったのだ。俺は本気で引退を考え出した。
「いえ、どうってことありません。試合よりあなたたちの方が大事ですから」
友人の悟飯が大事なのはわかるが、俺はどうして大事なのだろう。
首をかしげるとシャプナーは言った。
「そもそも今俺たちが野球をしているのは、ヤムチャさんのおかげなのです。
 昔見たタイタンズの試合に憧れて、俺たちは野球をはじめたんだ」
俺は驚いて息を呑んだ。確かに昔、俺はバイトで野球の試合に出たことがある。
しかしまさかそれで野球をはじめる人がいるとは。ファンでさえいないだろうと思っていたのだ。
「お礼をしないとな」
そういうと俺は何をすべきか考えた。すぐに名案が浮かんだ。
「お前たちのチーム、監督がいないんだろ? 俺に代わりをさせてくれないか?」
今まで何もできずに生きてきたと思っていたが、そうではなかった。
悟空ほどではなくても、俺にも功績といえるようなものがあったのだ。
それならこれから先のことも、諦めるのはまだ早いのではないか。
試してみる価値はあると思った。