YamuNote
――――YamuNote――――
プロローグ
ブウ戦後から11年――――。
ブウの記憶も地球人達から消し、今までの戦いが嘘のように、平和な日々が続いた。
悟空がブウの生まれ変わりを修行させる為、長い間
ある男が神龍を呼び出す日までは。
7月5日、西の都深夜0:13分。
西の都近くの山で、神龍と、7つのDBを眼前に、ヤムチャが立っていた。
右肩にプーアルを乗せ、欠伸をしながら、彼は神龍を呼び出した。
そして全世界の空は暗闇に染まり、何か不吉な物が漂っていた。
「退屈な俺の生活に変化を起こしてくれっ!」
この願いこそが、事件の始まりだった。
神龍は「難しいが・・・・何とかやってみよう」と答える。
ヤムチャは後2つの願いをパスし、神龍は消え、DBは四方八方に飛んでいった。
7月5日、西の都早朝6:03。
ヤムチャがボサボサの頭を掻きながらベットから起き上がる。
「ん?」
枕元に、見慣れぬノートがあるのに気付く。
表紙にはただ白く、指でなぞったような文字で、
「DEATH NOTE」と書かれていて、それ以外は真っ黒に塗られいた。
ヤムチャはそれを持ち、走ってプーアルの下へと駆け寄る。
「何ですかヤムチャ様。今日は早いですね」
プーアルは器用に小さな手で玉子焼きをフライパンで作りながら、ヤムチャの方を向く。
「プーアル。このノートお前が置いたのか?」
プーアルは顔を横に振る。
「今日神龍に願いを叶えて貰ったじゃないですか。それなんじゃないですか?」
ヤムチャはそれを聞き、ノートを見つめる。
「そうかっ!これなら・・・・」
「や、ヤムチャ様?」
プーアルはヤムチャの顔を覗き込む。彼の顔は明らかにニヤリと笑っていた。
そしてそれは、Z戦士と呼ばれる者達の生存の危機を迎えていた。
第1ページ『ターゲット』
玉子焼きと白飯を頬張りながらDEATH NOTEの表紙を捲るヤムチャ。
表紙にDEATH NOTE――死のノート――と書かれてあったのを、
ヤムチャは見ただけであった為、使い方は全く分からなかった。
表紙の裏には英語で丁寧に使い方が書かれてあった。
・これは小鬼のノートです
・このノートに『正確に』名前を書かれた人間は死ぬ
・書く人物の顔が頭に入っていないと効果は無い
ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない
・名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くとその通りになる
・死因を書かなければ全てが心臓麻痺となる
・死因を書くと更に6分40秒詳しい死の状況を記載する時間が与えられる
「つまり楽に死なせたり苦しませて死なせるってことか・・・・」
ヤムチャの顔は狂気に満ち溢れていた。
「くっくっく・・・・復讐の始まりだぜっ!」
プーアルはヤムチャが心配でご飯が喉に通らなかった。
そして、ただ黙って見守る事しか出来ない自分に腹が立った。
7月5日、西の都早朝7:30。
「さて・・・・問題は誰を殺るかだ」
ヤムチャは自室に閉じこもり、
ベットに腰を掛けながら鉛筆とDEATH NOTEを片手に誰で試すかを考えていた。
プルルルル―――。
突然ヤムチャ専用の無色の電話のコール音が響く。
ベットから立ち上がり、受話器を取るヤムチャ。
「はい。ヤム―――」
「ようっ!ヤムチャっ!久しぶり!元気にしてたか?」
受話器からは聞き慣れた声が聞こえてくる。
確かこの声は――――。
「悟空か!で?用は何だ?」
「いや、実戦練習の為にウーブを天下一武道会に出そうと思ってさあ。
ついでに立ち寄ったからバーベキューでもやろうと思ってな。
来れれば夕方の4:30にオラん家な」
「ああ。多分行ける。じゃあな」
――――ガチャリ。
ゆっくりと、静かに受話器を戻す。
そして狂気の顔を浮かべる。
ターゲットは『孫悟空』。
第2ページ『名前』
7月5日、西の都夕方4:21。
ヤムチャはポケットに筆記用具とDEATH NOTEの切れ端を何枚かを念の為ポケットに入れ、
酒やら何やら色々入ったリュックを背負い、プーアルを両手に抱いて悟空の家に到着した。
ヤムチャは以前人造人間と戦っていた時に一度、
悟空の家に来た事があったが、辺りの様子は全く変わっていなかった。
変わっていたとすれば悟空の妻チチが趣味の為に改装した悟空の家位だった。
「久しぶりっ!ヤムチャさん」
懐かしいクリリンの声が聞こえた。
18号とは夫婦同士だったが、恥ずかしいが故に敢えて離れているようだった。
クリリンや18号の他にも天津飯や餃子、
デンデとピッコロにトランクスやサタンとブウ、亀仙人やヤジロベー、
悟飯やビーデルに悟天とトランクス、意外な人物でベジータやブルマ、ポポ等が居た。
魔人ブウや人造人間、フリーザ、ベジータ編の話で盛り上がった。
もちろんその中には栽培マンによって殺された軟弱なヤムチャの話もあった。
そして、あっと言う間に時は過ぎ、夜の8時を回った。
(8時14分・・・・・・後5分足らずで俺が提示した悟空の死の時間に・・・・)
ヤムチャは8時を過ぎてから、左腕に付けた時計を良くチラチラ覗いていた。
「あれ?ヤムチャさん食べないの?」
「い、いや。流石にもう食べれん・・・・」
悟天が沢山ある肉が前にありながら、食べないヤムチャを不思議そうに見つめる。
ヤムチャはDEATH NOTEの事を考えていたとは言え、流石に腹は満たされていた。
対サイヤ人用に買っておいた数十キロもの肉も、底をつこうとしていた。
やはり流石サイヤ人、と言った所か。
ヤムチャはそんな事を余計に考えながら、時が早く来る事を願う。
(あと10秒、9、8、7・・・・・・0!)
しかし、孫悟空はバクバクと平気で肉を食べ、楽しそうに皆と話していた。
ヤムチャは体が凍りついた。何も起こらない・・・。
時計の時間は常に衛星から受信されている為、誤差が起こる筈が無い。
つまり、あれはただのノート・・・・・・。
「カカロットっ!!!俺の肉を食うなっ!!」
ベジータの言葉を聞き、再びヤムチャの活気が戻った。
第3ページ「客人」
「あ、すいません。チチさんトイレ借りまーす」
悟空の家に入り、左にあるトイレに駆け込むヤムチャ。
そして、便座に座り、ポケットからDEATH NOTEの切れ端一枚とシャーペンを取り出す。
ヤムチャはDEATH NOTEの使い方の一部の思い出していた。
・このノートに『正確に』名前を書かれた人間は死ぬ
(つまり、悟空の正確な名前を書けばいい訳だ。よって・・・・)
しばらくして、ヤムチャは皆の所へ戻った。
皆が、悟空の周りに集まっているのを見て、ヤムチャは隠れてニヤッ、とほくそ笑む。
プーアルはそれを、見逃さなかった。
どうやら悟空は突然血を吐き、胸を押さえて倒れたらしく、
すぐさま病院に送られた。
原因はあの人造人間編の時にも罹ったウイルス性の心臓病。
心臓病の薬はあったが、もう手遅れの為、3日後、仲間達の見守る中、病死した。
DEATH NOTEの切れ端にはこう書かれていた。
『カカロット 病死 7月5日午後8:28
心臓病が再発し3日後の7月8日午前11:31に死亡』
本来の孫悟空の名は『カカロット』。
当然ながらDEATH NOTEには『カカロット』と書かなければ効力は消えてしまう訳だ。
と、悟空の葬儀をし終え、家に帰る途中のヤムチャは考えていた。
プーアルは2,3日家を空けるらしいので、その間ヤムチャは一人。
DEATH NOTEの活動が心置きなく出来る。
クククッ、とヤムチャは明らかに狂っていた。
DEATH NOTEがそうさせたのか、其れともヤムチャの本心なのか。
少なくとも第二の被害者が出る。それだけは確かだった。
古びたドアを開けるヤムチャ。
プーアルに整頓された部屋。
何時もの風景に、見慣れぬ姿があった。
「よお・・・・使ってるか?デスノート」
小さな背で、二本の角。黒く若々しい皮膚で、体は痩せ細っていた。
以前似たような姿を見たことがあった。
確か、あの世に居た―――閻魔大王に仕えていた小鬼だ。
小鬼は俺の心を全て見透かしたかの様に、微笑んでいた。
第4ページ「攻撃」
「俺が小鬼とはな・・・・嘗められたもんだ・・・・クククッ」
奴がDEATH NOTEを知っていることから、所持していないとも限らない。
そう思い、咄嗟に狼牙風風拳の構えを取る。
足元お留守、と良く言われたものだが、
その欠点を知らない相手にとっちゃ威嚇程度にはなるし、
大して実力の無い奴なら、この技でも十分に仕留めることが出来るからだ。
だが、危険と恐怖もヤムチャは感じていた。
凄まじく危険で、恐ろしい『何か』を。
気を読み取る。そんな高度な物ではない。
この場に居合わせれば、馬鹿でも分かる。
第六感は、ただ『ヤバイ』と、そうヤムチャに教えていた。
「ほうほう、争うか。やってみるがいい。無駄だと思うがな」
油断している隙を見つけ、小鬼に襲い掛かるヤムチャ。
恐ろしく、とても危険だが、抵抗しなければ死が訪れる、
そうヤムチャはそう思った。
「ククク」とヤムチャを見据えて笑う小鬼。
ズダダダダッ――――。
カウンター等は食らっていない。
間違いなく、狼牙風風拳の餌食になった、その筈だった。
ヤムチャの前に立つのは、他ならぬあの小鬼だった。
「無謀なお前に一言。俺は大概の事では死なない」
余りにもお留守なヤムチャの足元を蹴り付ける小鬼。
強烈とは言えなかったが、ヤムチャは仰向けに倒れそうになった。
ヤムチャは体勢を立て直すと、ゆっくりと、警戒しながら後退りして小鬼との間を空ける。
「・・・・お前の用件は?」
「一番始めに言った筈だが?」
小鬼は静かに、そして即座に言った。
ヤムチャは黙りこくる。
「俺は鬼達の中でも特別エリートでな。
閻魔大王は俺等を『死鬼』と読んでいる、影のトップだ。
今お前の部屋にあるデスノートを使って、厄介者と死に追いやる。
それが俺の仕事だ。お前の仲間が倒した奴等も殆ど俺等が殺したようなもんだ」
「それで?」
ヤムチャは恐る恐る聞いた。
DEATH NOTEを奪われるのでは無いか?
と、心配していたからだ。
自分の計画していたのも、全てパアになる。
それだけは避けたい、何としても・・・・とヤムチャは思った。
小鬼、もとい、死鬼は再びヤムチャの心を見透かしたかのように微笑み、鋭く言った。
死鬼のその微笑みが、ヤムチャにとってはこの上無い程気持ち悪かったが。
「ククク・・・・おかしな事を考える奴だ。俺はお前に『何もしない』」
何も・・・・しない!?
ヤムチャの心はほっと落ち着いた。
第5ページ「眼球」
ヤムチャは死鬼が仲間だと分かった途端、DEATH NOTEについて事細かに、詳しく聞きだした。
彼の名はガレル。やや苦々しげにだが、聞かれた事に対しては全て話した。
「よし、俺の聞きたい事はそれまでだ」
ガレルも、そしてヤムチャ自身もひと段落着いた、という表情だ。
刹那、ヤムチャの頭に閃光が走った。
とてつもなく邪魔で、自分の致命的なミスを見逃すと、ばれてしまう。
そんな存在を。
「占いババ様・・・・・・。いや、占いババ」
ヤムチャは静かに呟く。
占いババ。それはあの世とこの世を行き来する事が出来る存在。
口封じに殺した奴をこの世に呼び出す事が出来るのは、彼女ぐらいだろう。
何かミスを犯す前に、始末しなければ・・・・・・。
ヤムチャは焦った。もう既にミスを犯してしまったかもしれない。
そうでは無い事を祈るのみだ。とにかく、ヤムチャは自分の部屋に駆け込む。
そして壁に見せかけた引き出しから、
黒い一冊のノート―――DEATH NOTE―――とシャーペンを取り出す。
面白そうにそれを眺め、追いかけるガレル。
待てよ・・・・?
ヤムチャは立ち止まった。
「殺す奴の本名が分からない、か」
ガレルはヤムチャを見据えて言う。
どうやらガレルはヤムチャの心を見透かしたようだ。
「名前を知る手立てで、何か便利な物は無いのか?」
ヤムチャは頭痛を起こしそうだった。
神龍を使うか?いや、前使ったから次使うまでにはおよそ二ヶ月は掛かる。
それまでにボロを出しかねない。いや、間違いなく出すだろう。
そんなヤムチャの思考を完全に見透かし、死鬼はニタリと笑う。
「俺の眼はお前みたいな眼じゃなくてな。そいつの顔を見れば名前と寿命がはっきり分かる眼を持っている
だからと言ってお前に殺す奴の名前を教える訳にもいかない。
それでな・・・・。お前の眼球を俺の眼球のようにする事が出来る。
ただしそれは・・・・お前の残り寿命の半分の寿命をもらうというデメリット付きだがな・・・・」
クククと笑いながらヤムチャに話すガレル。
当然、ヤムチャの答えは「OK」。
そう言った瞬間、ヤムチャの眼は赤く変色し、ヤムチャの見える世界はもう殆ど白黒。
まあ恐らく通常の眼に一時戻す事も可能だろうからその点は問題無いだろう。
そして此処に、遮る物の無い最強の殺戮マシーンが誕生した訳だ。
第6ページ「疑惑」
カプセルコーポレーションのマークが付いた白衣を纏い、
黙々と研究室に篭り、電子顕微鏡を眺め、何かをしている中年の女性、ブルマ。
彼女には悟空の死に、疑惑を抱いていた。
というよりも、抱かざるを得なかった。
病気、という物は本来ならば長期間罹っていなければ、症状は現れない。
当然悟空の死因である心臓病も無論、最低でも5年は罹らなければ発症する筈が無い。
その為、毎年悟空は某十字病院へ定期的に検査を受けていた訳であるが、
その病院の検査は、何れも『発病していない』という結果であった。
ブルマはそれが何かの偶然では無い、と悟ったのだ。
そして電子顕微鏡には、原因となった心臓病と、
以前罹った心臓病の二つの拡大図が映っている訳だが、同じものである事に間違いは無かった。
「博士、入りますよ」
同じく白衣を纏った女性が、ドアを開け、ブルマの元へ歩み寄ってくる。
女性の右手には山程の書類が、左手には何かのサンプルがあった。
「あの心臓病のデータね。待ち焦がれたわ」
ブルマは振り返り、書類とサンプルを受け取る。
そして、ブルマが書類に目を通している時、衝撃的な文がブルマの眼に映った。
「この病気は一度罹れば二度目は罹る事は無い、ですってぇ!?」
「はい、一度この病気を乗り切ってしまえば、
二度目には抵抗力が働き、『絶対に』罹りはしません」
女性はその文章に指を指しながら、静かに言った。
―――もう何が何だか分からない―――。
ブルマはちょっぴり、期待していた。
心臓病のデータに、何か重大なヒントが隠れているかもしれない、と。
それなのに、データによると、二度目は罹らない、なんて。
神龍に頼んだって、そんな事は不可能だ。
孫君は神様――デンデ――の力を大幅に上回っている。
そういう者の体については、流石の神龍も出来ない筈だもの。
「博士?何かボーっとしてませんか?」
「あ、い、いや。他に何かデータがあれば、またお願いね」
「はい、じゃあ、これで」
去っていくその女性。消えていく可能性。
だけど、まだ0%になった訳ではない。
実際に、それが起こっているのだから。
例え可能性が1%になったって、諦めるものですか。
天才の名に賭けて、探し出してみせる。
その決意を胸に、ブルマは書類をガサガサと漁った。
第7ページ「対決」
「占いババ様ー!」
古びた玄関にある白いボタンを押し、
呼び出し音を鳴らしながら大声を出すヤムチャ。
占いババと呼ばれる老女は占いをしているが、今は休養を取っている。
占いババ曰く、古びた家は落ち着くらしい。
「何じゃ、騒がしいのぅ」
ドアを開け、浮いた水晶球――直径10cmはあろう水晶球―――に正座で乗っかりながら占いババは現れる。
刹那、ヤムチャの眼球は血のような赤色に染まる。
クククク・・・・。
ヤムチャの眼には、占いババの寿命と名前がはっきり見えた。
名前はピカソの本名よりも長かったが、それはまた別の機会に話す事としよう。
「いや、ちょっと元気かなー、と思っただけで・・・」
会話を短く終わらせ、占いババの隠れ家を舞空術で去るヤムチャ。
自分の家の前でヤムチャは紙切れとシャーペンをポケットから取り出す。
当然紙切れはDEATH NOTEの切れ端。
5分程時間を掛け、占いババの名前を書き終えるヤムチャ。
死鬼の眼には正確な記憶能力も備わっており、占いババの名前は忘れる事は無かった。
今から40秒後、占いババは心臓麻痺で死ぬ。
そう思うと、自然と笑いがこみ上げて来た。
――クックック・・・・何も知らずに逝くなんてなぁ・・・・ハッハッハァ――。
その姿は、狂気そのもの。
そしてヤムチャの計画はもう直ぐ実行出来る。
もう全てはヤムチャの思惑通り、の筈だ。
だが、その様子を覗く者が一人居た―――。
ドカーンッ―――。
突然、大爆発がヤムチャの後ろで起こる。
ヤムチャの顔からは笑いが消え、驚いた様子だった。
「貴様、何をした」
ヤムチャが振り返ると、マントとターバンを着た真緑の皮膚をした者が空高く舞っていた。
「ピッコロ・・・・?」
彼の名はピッコロ。
多彩な能力を持ったナメック星人であり、戦闘力はヤムチャを遥かに上回る。
「貴様の行動を四六時中神眼で見張っていた。
孫とあのばあさんに何をした?」
ピッコロの持つ神眼は地球全域何処でも見渡す能力がある。
すっかりその能力を忘れていたヤムチャは、ただ驚くだけであった。
「く・・・・」
「答えないつもりらしいな・・・・まぁ半殺しにでもすれば口を割るだろうがな」
そう言い放ち、即座にヤムチャに接近するピッコロ。
戦いは、始まった―――。
第8ページ「不明」
ボンッ―――。
ピッコロの掌から、気が込められた弾が放たれる。
その弾は正確にヤムチャへと目掛け、飛んでいく。
「そんなもんっ!」
ヤムチャは軽く左手で振り払い、左方に弾く。
「甘いッ!」
―――――ドカッ。
瞬時にしてヤムチャの頭上に接近したピッコロは、
隙の出来たヤムチャの頭に、強烈な踵下ろしを食らわせる。
頭から数量の血を流し、ものの見事に吹き飛ぶヤムチャ。
「くそっ・・・・界王拳――三倍っ」
今のヤムチャならば、恐らく50倍までの界王拳など、何とか扱えるだろう。
だが、所詮その程度ではピッコロ等の足元にも及ぶまい。
ヤムチャも、それは十分承知の上だ。
しかし、ヤムチャの勝算は別にあった。
人類では恐らく、ヤムチャしか手にし得ない、他でもないあの邪悪なる能力。
ヤムチャは足を地面に踏み留め、軽く土埃を起こし、姿を消す。
勿論、自分自身から漏れ出す気も消してだが。
「ちぃ・・・・だが俺を放っておく訳にも如何だろうな」
ピッコロは足を止め、挑発気味に居場所の分からぬヤムチャに話し掛ける。
「・・・・!?」
刹那、ふっ、と砂埃の中から先程のヤムチャに比べるととても微弱な物だ。
それも一つではない。数十個もだ。
その『何か』の一つが、ピッコロに迫る。
ピッコロは紙一重で避けるが、器用にその『何か』はUターンし、ピッコロの背に当たる。
「こ、これは・・・・?」
ピッコロは倒れそうになりつつ、『何か』の存在に気付く。
「そ・・・・・・繰気―――弾!?」
いつの頃か、ピッコロの脳裏に古い記憶が過る。
これはピッコロと融合した、神の記憶だ。
神は人間の姿を借りた時、この技を目にした事があった。
それをニタリと笑いながらピッコロを見つめるヤムチャ。
彼の眼が、赤く、赤く染まっていく。
そして、ピッコロの名が分かる、筈であった。
第9ページ「耐久」
「・・・・・・?」
魂が抜けたかのように、ただ突っ立ってピッコロを見続けるヤムチャ。
ピッコロの名前が分かる、筈であった。
もちろん、間違いなく死鬼の眼球は発動中にある。
それなのに何故か、彼は手に持ったDEATH NOTEの切れ端とシャーペンを微動だにせず、
ただただピッコロを見つめるばかりであった。
その理由は単純である。
『名前が訳せない』
死鬼曰く、読み方を知らない限りどれだけDEATH NOTEに名前を書いても仕方が無いらしい。
どうやら読み方さえ分かれば文字はどうでもいいらしいが、
逆に言えば読み方が分からなければその者は一生DEATH NOTEでは殺せないのだ。
これが死鬼の絶対的欠点であった。
ナメック星人のピッコロは、その点で言えば無敵の存在と成り得るのだ。
そして、呆然と立ち尽くすヤムチャの背を見つめ、死鬼ガレルは冷たく笑った。
「ククク・・・・奴はナメック星人か・・・・」
ヤムチャに歩み寄り、ぼそっと呟くガレル。
「し・・・・死鬼・・・・。ナメック語を翻訳する方法は・・・・無いのか・・・・?」
「あるにはある。ある程度の気を死鬼の眼球に集中させる。
だがそれは当然ナメック星人に気を読み取られ、お前の居場所が分かるだろう」
右手の指を一本一本折り曲げたり伸ばしたりしながら、ガレルは静かに答えた。
「何分位・・・掛かる・・・・?」
ゆっくりと慎重に、ガレルの返事を待つヤムチャ。
恐らくこのままでは、どちらにせよ居場所が分かるのも時間の問題。
勝機はやはり唯一つ。
DEATH NOTE以外には道は無い。少なくとも、今の所では。
「未熟なお前なら、30分余りと言う所か」
尚も静かに答えるガレル。
だが、選ぶしかない。
例え、その先に死が待っていようとも。
逃げて計画をぶち壊す位なら、死ぬ方がマシだ。
そして何より、ヤムチャはもう逃げたくなかった。
皆に認めてもらいたい。それが間違った形としても。
史上最凶の敵だろうが、極悪非道だろうが、今までの俺ではないと。
第10ページ「再開」
全ての繰気弾を爆破した―幾つか自身に当たった物もあったが―
ピッコロは、精神を研ぎ澄まし、何かを待ち構えているようだった。
「むっ・・・・この気は―――」
何かにぴくりと、ピッコロは反応する。
「あそこの岩陰か・・・・よし」
ピッコロは左方の崖の岩を見上げ、呟く。
そして左手の掌に気を集中させ、その岩に球体状の気功波を放つ。
ボンッ―――――ズドォンッ。
一瞬の爆音。一瞬の砂塵。
だが、爆発したのは岩では無い。
ピッコロが放った、あの気功波だった。
ニヤつくピッコロ。
砂塵が消え、其処に居た者。
以前はヘタレとして名を馳せ、
ピッコロが待ち構えた、ターゲット。
そして邪悪なる力と邪悪なる思考を持ち合わせた人物。
それは紛れも無く――――。
「ヤムチャ・・・・見つけたぞ」
「ようピッコロ。また会ったな」
ヤムチャは落ち着き払った声でピッコロに話し掛ける。
「貴様・・・・何故気をふ――――」
ピッコロは言葉を止め、左腕をヤムチャ目掛けて伸ばす。
だが、ヤムチャは口元を歪めながら両手でピッコロの左手を押さえる。
そのままヤムチャはピッコロの左手を払い除け、ピッコロは腕を元に戻す。
「何やら時間稼ぎを考えているようだな」
「・・・・・・ちっ。仕方ない。戦いを再開するしかないか・・・・」
ヤムチャはそう吐き捨て、赤い気を身に纏う。
恐らくこの赤さは、10倍程度の界王拳に違いないだろう。
ピッコロはヤムチャ向かって、構えつつ飛んでいく。
ヤムチャはピッコロから逃げ切れないと悟り、構えを取る。
が、構えを取った直後にピッコロの蹴りが、
ヤムチャの胸元目掛けて放たれる。
ヤムチャは即座に攻撃された為、回避は出来ないものの、何とか左腕を盾にして蹴りを防ぐ。
「まだまだ甘いッ」
ピッコロは冷たく言い放ち、右ストレートと左アッパーを同時に放つ。
右手でアッパーは防いだが、右ストレートはものの見事にヤムチャの顔面に突き刺さる。
そのまま倒れるヤムチャ。
だが、倒れる間際に攻撃で封じられた右手と左手を額に当て眼を瞑り、
ピッコロの顔面へ向けて近距離の太陽拳を放った。
第11ページ「失明」
不適にピッコロへと放たれた太陽拳。
太陽拳と名付けられた技だけあって、その光は凄まじく、強烈であった。
「うっ――――」
迸る閃光、焼ける様な痛み。
痛みからか、目蓋を閉じる事も儘ならず、ただピッコロは耐え凌ぐ事しか出来なかった。
そして、太陽拳の光がようやく止む。
ピッコロの眼に映った物はヤムチャでも、ましてや殺風景な崖の上でも無い。
ただ、真っ暗な闇だけが、ピッコロの眼には映っていた。
「見えない・・・・か」
だが、ピッコロは落ち着いていた。
いつも通り、いや、それ以上に、冷静沈着であった。
感覚を研ぎ澄まし、ヤムチャの気を探っているからだ。
目が見えない為、その分気の力でカバーしなければいけない。
その為、いつも以上に、彼は冷静沈着でならねばなかった。
そして彼は、ヤムチャの気を見つけた。
「狂いなく同じ大きさの気が、12・・・・・・」
目の見えないピッコロにとって、気を消されたら見つける事は殆ど不可。
勿論潜在パワーさえ探れれば問題無いが、ヤムチャの気のコントロールなら、それは不可能。
だが、彼には何となく、ヤムチャが何れかの一つだと、感じていた。
罠かもしれない。しかし、これに賭けてみようと、ピッコロは思った。
そこで再び、ピッコロは考え込んだ。
ヤムチャの事だ、ダミーが繰気弾なのは間違いない。
なので、下手に攻撃した所で避けられるのがオチだ。
ならばどうするか。深く考えた末、彼は一つの結論に達した。
そしてピッコロは、両腕を天に翳し、気をジワジワと両手に集中させる。
ビリビリ―――。
静電気が起きたような音がしたり、幾つかのヤムチャの気が揺れ動く。
これは強大な気が現れた為、起こった現象だ。
と言えども、Z戦士達の中ではそんな大した事の無い気の量だ。
戦闘力で表すと、10万余りと言った所だ。
だが、12ものヤムチャの気全てを上回る気の量。
そして突然、爆発が起こった。
第12ページ「再生」
上空には人間が2人。
地上にはチラチラと燃える炎。
ただ其れがあるだけだった。
「ち・・・・流石にやるな、ピッコロ」
口元を歪ませ、ピッコロをキィッと睨むヤムチャ。
「貴様のような雑魚と比べてほしくないのだがな・・・・」
目を瞑り続け、完全にヤムチャの気を捉えつつ、ピッコロも喋る。
ヤムチャは即座に、動作等からピッコロの置かれた状況に勘付く。
「どうやら冗談も言ってられないような状況じゃないか。ピッコロ」
フン、と鼻で笑うピッコロ。
「確かに俺の今の目で、貴様を捉える事は出来ん。
気で察する事が出来るとは言え、少しばかり貴様にでも勝つのは難しいだろう」
ヤムチャはピッコロの顔を見て、次に彼の言いたそうな言葉を察する。
ニヤリ、と不気味に一回笑って見せてから、彼は喋った。
「どうやら俺の力について知りたいようだな。
ククク・・・・。単純に言えば、俺は名前と顔さえ分かればどんな奴だって殺せる力を突然持った。
もちろんそれで悟空達を殺した。
そして今、俺の眼はお前の名前を探っている。
で、そのお前の名前を探り当てるまで、あと10分ちょいって所だ。ハッハッハっ!」
高らかに笑い続けるヤムチャ。その顔は狂い果てた鬼、そのもののようだった。
だがそんな有頂天なヤムチャを前に、ピッコロもニッ、と笑って見せた。
「10分か・・・・貴様を片付けるには充分だ」
そう呟き、ピッコロは突然両目を左手で刳り貫く。
血が先程目の在った場所から流れ、涙のように頬を伝う。
ヤムチャは一瞬戸惑う。が、ピッコロの目的を悟り、ただ愕然とする。
ピッコロは左手にある両目を潰し、気を高める。
「カッ!!!」
そう叫んだ刹那、一気にピッコロの両目が再生していく。
元の姿と全く変わらない、その両目。
太陽拳を浴びる直前に戻っており、ばっちりと視界も当然元通り。
ヤムチャは冷や汗を流しながら、わなわなと震える。
「半殺しにする必要がなくなった。一気にかたを付けるぞ」
額に右手の中指と人指し指を当て、先程の数十倍まで気を高める。
「くそ・・・・くっそぉぉぉっ!!!」
ヤムチャは叫びつつ50倍界王拳を発動させる。
今の彼の限界ギリギリの倍率ではあったが、そんな物ピッコロにとっては屁でもない。
ヤムチャは幾つかピッコロにストレートや蹴りを浴びせたが、ほぼノーダメージのようだ。
「貴様の野望も、これで終わりだ・・・・」
ピッコロはヤムチャとの間を空け、強大な気を凝縮させた指先を彼へ向け、ゆっくりと振り下ろした・・・・。
第13ページ「苦」
ズドォォォォ――――。
凄まじい轟音と共に、強大な気を凝縮した指先から、怪光線が放たれる。
激しくうねるその怪光線は、ヤムチャへと正確に、素早く突き刺さる。
「うぐあぁっ!」
悲痛な叫びと共に、倒れるヤムチャ。
咄嗟に避けて致命傷は免れたものの、それでも傷は深い。
ヤムチャは必死に立ち上がるも、ピッコロの右足の爪先蹴りで軽く吹っ飛ぶ。
50倍界王拳を解かれたヤムチャにとっては、今の状況は子供対大人どころか、幼児対大人。
今のままでは、どう転がってもヤムチャに勝ち目は無い。
と、思われた。
「・・・・此れを使う・・事に・・・・なる・・・とは」
そう途切れ途切れに言葉を言いつつ、腰に掛けた袋から何か小さなものを取り出し、ぎこちなく口に放り投げる。
刹那、ヤムチャの傷が塞がり、気も完全に元通りになった。
「仙豆・・・・だな」
ぼそりと呟くピッコロ。
そんな彼に、いきなり強烈なかめはめ波を放つヤムチャ。
ズドォーン――――。
辺り一帯が砂塵に包まれ、血の匂いが漂った。
「ちぃっ・・・・・・畜生・・・・」
血が流れ出す右腕を押さえ、痛みを堪えながらピッコロを睨むヤムチャ。
ピッコロはかつてライバルであった悟空に対して使った、口から怪光線を咄嗟に放ち、
ヤムチャの渾身のかめはめ波を揉み消し、そのまま彼の右腕に直撃したのだった。
両手で繰気弾をピッコロに放つヤムチャ。そして荒々しくも、砂塵を巻き上げ、姿を消す。
だが、焦りからか、ヤムチャは繰気段によるダミーを作り忘れている。
ピッコロは軽々と繰気弾を跳ね除け、先程のように、額に右手の中指と人指し指を当て、気を高める。
未だにヤムチャは魔貫光殺砲に気付いていない。
依然として砂塵はピッコロの辺りに舞っており、冷静さを欠いたヤムチャは気を読み取る事を忘れていたからだ。
「魔貫光殺砲っ!!!」
ピッコロの振り下ろした右腕の指先から、先程の怪光線――魔貫光殺砲――が放たれる。
「え?」
凄まじいスピードでヤムチャの腹に突き刺さり、貫く魔貫光殺砲。
鮮血が迸り、ヤムチャはバタリと倒れる。もだえ苦しむヤムチャ。
ピッコロはヤムチャの気が薄れてきた事に気付き、彼の元へ歩み寄る。
「哀れな奴だ。安らかに眠るがいい・・・・」
ヤムチャを見下ろし、気を溜め、左手でトドメの気功波を放とうとするピッコロ。
だが、苦しむのはヤムチャだけではなかった。
「っ・・・・!?」
ヤムチャに圧し掛かるように、左の胸を押さえながら倒れるピッコロ。
「おま・・・えの・・・・・名前が・・・分かったか・・・らな・・・・。殺さ・・・せても・・・・らう・・ぞ」
虫の息のヤムチャが声を上げる。だが、ピッコロは辛くも立ち上がる。
「死ぬ前に・・・・お前・・・・・だけはぁっ!!!」
ヤムチャの首元に手を差し伸ばすピッコロ。そして、ヤムチャは意識が途切れた。
第14ページ「嘘」
「うぅっ・・・・」
目を開けるヤムチャ。
ヤムチャは仰向けになって倒れていた。
ここは何処か確認しようと体を上げると、強烈な痛みが腹から全身へ広がった。
「動くな・・・・死ぬぞ」
ベジータの声が聞こえてくる。どうやらヤムチャはベジータか誰かに助けられたようだ。
よく見るとヤムチャはベットに寝ていた。
「あ、ヤムチャ。起きたの?」
続いてブルマの声が聞こえる。
「ぴ・・・・ピッコロは?」
ヤムチャがゆっくり口を開く。
「心臓麻痺で死んだわ・・・・私が怪しい奴を見張っててって言ったばかりに・・・・。
そう言えばあんたどうして?デンデ君は精神と時の部屋でたまたま修行をしていたし・・・・」
精神と時の部屋というのはこの世界での一日分の時間が精神と時の部屋では、1年分となる部屋。
修行にはもってこいだが、精神と時の部屋はこの世界とは別次元の為、この世界とはドアを通すだけの完全なシャットダウト状態となる。
ふとしたアクシデントで入り口が消えていたが、ここ最近、入り口を作り直したらしい。
ヤムチャにとって、これ以上の好都合はない。デンデにも神眼は備わっていたが、この世界とシャットダウト状態となれば、神眼も能力を失う。
ブルマ達が状況が分からない事からして、目撃者もいないようだ。
ただ単に、大きな気を察知して、行ってみたらヤムチャとピッコロが倒れていた、としか分からないのだ。
ヤムチャは自身の運の良さを知り、彼等に分からないようにニヤリと笑った。
今は完全にヤムチャのペースだ。運命はヤムチャの手中にある。
「実は悟空を殺した奴に俺が狙われていたんだが、ピッコロが助けに来て、そして・・・・・・」
ヤムチャは言葉を止めた。笑いが込み上げてくる。
が、それを留め、ベジータ、ブルマの方を向く。
「・・・・やっぱり仕組まれた事だったのね。孫君の死は・・・・」
ブルマが間を一旦空けて、喋る。
ベジータ、ブルマの手は力が込められ、ゆるゆると震えている。
許せない、そんな気持ちが渦を巻いているのだ。
「容姿は・・・・学生のようだった。18,9ぐらいの」
「神龍っていうものがあるんだから、人を殺す能力位もあるかもね・・・・その被害者がたまたま孫君だったって事もあるし」
それまで殆ど喋らなかったべジータが、口を開く。
「変だな・・・カカロットは人目を忍んで修行をした筈だ。当然一般人に会う機会が殆ど無い。
つまり、犯人は遠隔殺人が可能だ。しかし・・・・何故今回は貴様の前に姿を現した・・・・?」
沈黙が流れる。
が、ヤムチャがはっとした様に装い、口を開いた。
「それについては分からない・・・・・が、奴は・・・犯人は悟空を知っているようだった。
『貴様等の仲間を殺した者だ』って名乗っていたし・・・」
再び沈黙が流れる。
「とにかく・・・・皆を呼びましょう。ヤムチャみたいにターゲットの前に現れるかもしれないし・・・
それなら集まっておいたほうが効率が良いわ」
「せいぜいそれまで休んでおけ」
そう言い残し、部屋から出て行く二人。
ヤムチャは、そんな二人を見ながらニヤリとほくそ笑んだ。
第15ページ「失踪」
7月13日 遠隔殺人犯捜査本部兼アジト(カプセルコーポ社建築ビル) 午前7:30。
それから48時間―――つまり2日が経った。
ピッコロが第二の被害者――実際は第三の被害者――となったという事で、
瞬く間に死者を除いたZ戦士達が集まった。
事情を聞きたいという気持ちと、恐ろしい、許せないと言う気持ちが皆を突き動かしたのだろう。
ヤムチャから話を聞いた途端、――もちろん嘘の話だが――Z戦士達は唖然と、そして恐怖で沈黙に包まれた。
だがその直後、考察や推測、それによる考察が続いた。
そして今。
再びZ戦士達は沈黙に包まれた。
そう、第三の被害者が現れたのだ。
Z戦士達は有に100uはあろう集会室に集まっていた。
「クッ・・・・・」
ベジータが眉間に皺を寄せる。
「デンデが・・・・唯一の地球での神眼の持ち主だったのに」
これは悟飯だ。
地球以外でも、遥か遠い所に神眼の持ち主は何人も居る。
だが、界王も大界王神も、ましてや界王神は地球の事だけに掛り切っている訳にはいかない。
何せ地球だけでなく、他の幾多の星を見守る担当なのだ。
それに、彼等に伝える術すらなかった。
ピッコロは前世が大殺戮を犯した張本人であり、天国に行く事は無い。
デンデは修行をしていた為、ただブルマに来てと言われただけで、訳を知らない。
そろそろ出てくると思って見に行ったら、殺されていたのだ。
だが、大変な出来事は其れだけではなかった。
「プーアルが・・・・プーアルが居ない」
ヤムチャが突然皆の元へ駆け込み、叫び出した。
プーアルはここ最近旅行でヤムチャの家から居なくなっていたが、ヤムチャが倒れたと聞き、戻ってきたのだ。
ヤムチャは仙豆により、1日で体が全快し、一度自宅に帰って準備を整えて、戻ってきたのだ。
其の時にDEATH NOTEを持ってきたのは言うまでもないだろう。
そして、デンデを始末した訳であったが、プーアルを標的にした事は無かった。
「下手をすると・・・・もう殺されているかもしれない」
トランクスがぼそり、と呟いた。
刹那、悟天が胸を押さえながら倒れる。
「うッ・・・・ぐあぁぁ・・・・・」
力なく叫び、そして悟天は息を引き取った。
皆が呆気に取られ、固まる。
数pだろうが動けば殺される、そう何となく感じ取ったのだ。
他でもないヤムチャでさえ、そう思った。
(どういうことなんだ・・・・・・誰が・・・・誰が仕組んだ・・・・・・訳が分からない・・・・)
少なくとも、ヤムチャは仕組んでいない。
そして、とても偶然とは思えなかった。
悟天は胸を押さえて死んだ。
おそらく、いや、間違いなく心臓麻痺だろう。
この事件の真実は、DEATH NOTEと、監視カメラの画面を覗く犯人、そして死鬼だけが知っていた。
第16ページ「紛失」
そして2時間が過ぎていった。
流石の彼等もどうやら危険は失せた、と判断したようだ。
最初にベジータが、そして全員が早々と集会室を立ち去り、二人一組に用意されていた部屋に篭った。
ヤムチャはプーアルと一緒の部屋だった為、今は部屋にはヤムチャ一人――実際にはガレルも居るが――しか居ない。
だからこそ、プーアルが失踪したのを直ぐ様判った訳だが。
ベットに寝そべり、少し頭を捻った後、ヤムチャは自身の持ってきた荷物が全て入った巨大なバックのチャックを開け、中身を改めて細かく、念入りに調べた。
「やはり・・・・ない・・・・くそっ」
ボソッと呟くヤムチャ。それを見て、ガレルは笑いながら顔を出す。
「デスノートか・・・・だが犯人は必ずしも奪ったお前のデスノートを使っているとは限らない」
「ど、どういうことだ?」
少し考え込みつつ、ガレルの方を向くヤムチャ。
「デスノートの主である死鬼が、そのデスノートを下界、つまりこの世に落としてしまった。
そして、それが不幸にもお前等の仲間が拾った、という寸法だ」
説明を受け、納得するような素振をする。
そして、何かに気付く。
「・・・・・・って事は、誰にでも犯行は可能だ、ってことか?」
「まぁ、そういう事になるな」
軽く応対するガレル。
つまり、犯人の特定はZ戦士、というのみで一人や、ましてや五人にでさえ犯人を絞る事など出来ないのだ。
警戒のしようがない、という事だ。
そんな絶望的な壁を目の当たりにしているヤムチャに、ガレルは更に警戒の言葉を掛けた。
「ここからお前は俺の話す事に対して応ずるな」
真顔でヤムチャに向かって話すガレル。
「え?」
ヤムチャは間抜けな声を発しながら、細い目でガレルを見つめる。
「この部屋には監視カメラと盗聴器の両方が含まれている」
「そういうお前も声を・・・・」
キィッと目を尖らせ、ヤムチャを静止させるガレル。
「案ずるな、俺はカメラには見えないし、声を聞かれる事もない。いくらデスノートの所持者だろうが、機械を通してではな。
だが良く考えてみろ、何も居ない筈の空間に向かって、お前は喋ったりしている。
最悪の場合、死鬼の存在がこの世に知られかねない。それはまずい。
それに、貴様も会話を聞かれれば弱みを握られる事になる筈だしな」
この言葉を聞いた途端に、ヤムチャはそっぽを向き、ガレルを無視するようにベットに潜った。
確かにヤムチャにとってこれは大きなハンデだ。
しかし、ガレルにこっちが話し掛けなければいいだけの事だ。
最初は難しいだろうが、慣れれば問題ない。
それに、それを除けば第二のDEATH NOTE所持者への手がかりになりうる。
そしてアジトに監視カメラと盗聴器設置させたのはベジータかブルマの何れか。
そしてカプセルコーポ社の社長であるブルマ自らだけしか命令する事は出来ない筈。
ならば少なくとも監視カメラと盗聴器を設置する為には、ブルマはヤムチャがDEATH NOTEを持つ者だと知っていなければならない筈だ。
ヤムチャはおもむろにポケットからいつも持ち歩いているDEATH NOTEの切れ端とシャーペンをポケットから取り出し、
ブルマ、と名前を書こうとした。
だが、何か違う。そうもヤムチャは感じた。
(・・・・殺すのは、もっと手がかりが増えてからでもいい・・・それになるべく・・・・殺したくはない・・・・・・)
ヤムチャはポケットにDEATH NOTEの切れ端とシャーペンをポケットに戻して目を瞑り、そのまま深いまどろみに落ちた。
第17ページ「不安」
自分と、そしてパートナーであるプーアルの家。
俺は何故かそこに居た。
気が付くと、銀の光が俺を見下ろしている。
それは穏やかな光であったが突然、光を失い、周りに闇で囲われる。
アレが何となく、DEATH NOTE所持者であると分かった。
自分は無意識の内に死鬼の眼を発動させていた。
無論、DEATH NOTE所持者を殺す為だが。
だが、名前は見えない。恐らく、はっきりと第二の所持者の実像が分からないからだろう。
刹那、自分の胸が数十本の針を一斉に指された様な痛みを感じる。
――苦――しい――死ぬの――か――く――そっ――。
すると、何故か奴の悔しそうな声が聞こえてくる。
恐ろしく聞き覚えのある声だった。驚愕を憶える程に。
俺は何故か、ニッと笑った。まるで勝敗が逆転したかのように。
そして倒れる間際、闇の中に居る人物の顔が、はっきりと見えた。
声と顔を照らし合わせると、それは同一人物であった。
その人物は、紛れもなく・・・・・・。
そして、目が覚めた。
目覚めると、部屋は真っ暗だった。
「夢・・・・か」
傍にある時計を見ると、針は3:32を指していた。
この暗さを考えると、今はおそらく午前3:32。
どうやら大分寝過ごしてしまったようだ。
幾ら暗くても、赤外線カメラの為、動きがばれてしまう。
今は作戦を考えているべきだと、ヤムチャは考えていた。
DEATH NOTE所持者の手がかりを探す為に、日替わりで3、4人が単独行動に出る。
幸いにもヤムチャの当番は明後日。
丁度良いタイミングだった。
作戦を考える時間は十二分にある。だが、遅くもない。
だが、不安は大いにあった。
夢に見た、あの顔、あの声。
そしてヤムチャが見たのはそれだけではなかった。
自分の姿が・・・・・・。
そんな事が現実に在る筈が無い。
だが何故か正夢になる、そんな気がした。
正夢だとすれば、一体どうしたらいいのか。
そう悩んでいる内、ヤムチャはまどろんでいた。
第18ページ「疑問」
同刻。
伝説の超サイヤ人と謳われる、今では生きている中で唯一、純粋な血を受け継ぐサイヤ人――ベジータ――。
王族の血筋で、幼い時から類まれな才能と凄まじい戦闘力を合わせ持ち、そして努力の末に超サイヤ人へと覚醒したのだった。
今では二人の子を持ち、内一人、長男トランクスが超サイヤ人への変身が可能である。
その彼が、薄暗い部屋の中で一人、幾つもの機械とテレビの前に座っていた。
表紙の黒いノートと鉛筆を持ち、昨日、9時半頃からずっとテレビの画面に映る映像を眺めている。
その目つきは鋭く、何一つ逃す物は無い、はたから見ればそんな事を感じさせる程だった。
何故、テレビの画面を昨日から眺めているのか、何を見ているのか、答えは簡単である。
『ヤムチャが不審な行動を取ったから』である。
その為、ヤムチャの部屋に取り付けられた幾つかの監視カメラを通して、ヤムチャを監視しているのだ。
実際、監視カメラの他にも、盗聴器が仕掛けられている。
が、物静かな夜〜早朝に掛けては、あまり効果は期待できない。
そして、ヤムチャの部屋だけに監視カメラ、盗聴器が仕掛けられている訳ではない。
この部屋を除いたアジト全ての部屋には、この二つの装置が仕掛けられている。
そして、これでヤムチャの部屋を覗いたら、謎の不審な行動を見かけ、
普段は録画だけで済ませている監視カメラも生で見る事にした、という訳だ。
だが、徹夜のこの作業も虚しく、大した物を見つける事は出来なかった。
そこで、疑問が残る。
何故監視カメラと盗聴器が仕掛けられてあるのか?
最初にヤムチャの部屋を覗いたのは偶然だったのだろうか?
そして黒い表紙のノート、とは?
またもや同刻。
一人の熟女、ベジータの妻であるブルマが一人、部屋に篭っていた。
少しばかり高そうな椅子に座り、どこにでもありそうな机に背を向け、考えていた。
犯人の動機は、目的は一体何か?
最初はZ戦士達を一つ残らず殺す、そうだと思った。謎が残るがそれは一先ず置く。
しかし、犯人は地球の神であるデンデを殺す。
これはもしや、地球を支配するという、よくありがちな野望では?
だが、これも違った。何故なら、犯人はZ戦士である筈のないプーアルを殺したからだ。
そして、色々考えた。
犯人は、探られているのに勘付き、これで脅威を見せて、圧力を掛けたかったのか?
恐らくそれも違うだろう。何故なら犯人は圧力を掛けるまでもなく、皆を殺せばいいだけだからだ。
そして、考え付いた末がこれだった。
『犯人が二人居る』。
但し共犯ではなく、同じ力を持ったと言うだけで、動機と目的は全く違う。
これしか考えられなかった。
しかし、何故犯人はプーアルを消す必要があるのだろう?
それに、何故犯人はZ戦士達を知っているのだろう?
もしや、Z戦士の中に敵が居るのだろうか?
考えたしたら限が無かった。
が、これによりブルマが確信した事が二つ程あった。
動機や目的が違う犯人が、二人居る。
そして、Z戦士の中、もしくはZ戦士と絡んでいる人が犯人。それも二人とも。
それだけは、間違いなかった。
第19ページ「師匠」
「ふわぁぁ・・・・・・」
大きく口を開け、欠伸をしつつ髪をぼさぼさと掻き、ベットから起き上がるヤムチャ。
気が付けばもう9:00。
眠気を抑え、ヤムチャは集会室へと足を踏み入れる。
集会室は主に食事、作戦会議に使われる。
食事は集会室に2,3人の料理人達が好きな時、好きな物を、好きな分食べる事が出来る。
(サイヤ人の胃袋にも納まり切らない程食料を大量に買い溜めしてあり、恐らく食料が尽きる事は無い)
集会室には料理人以外には、天津飯、餃子、クリリンが並んで椅子に座り、食事をしつつ、話をしている。
ヤムチャは料理人に注文を出して、天津飯の隣に座る。
「よう、みんな」
「おはよう、ヤムチャさん。ところで、知ってる?」
クリリンが、小さな声でヤムチャに話し掛ける。
その顔は真剣そのもの。それも、クリリンだけではない。天津飯も、餃子もだ。
(尤も、餃子はいつもと同じ無表情だが)
「な、何が?」
ヤムチャはクリリンに合わせて、小さな声で返事をする。
「その様子だと、まだ見てないようだな」
天津飯が、ヤムチャの顔を伺い、ゆっくりと口を開ける。
何があったのか?全くヤムチャは何も知らされていない。恐らく、起きてから直ぐに、集会室に向かったからだろうが。
「殺されたんだ、武天老師サマが・・・・」
餃子が、無表情のまま、静かに話した。
ヤムチャは注文した味噌ラーメンを口に入れつつ、クリリン達の話を聞く。
「死因はまだ分からないけどな、殺されたのは間違いない・・・・それは分かるだろ?」
そして沈黙・・・・。
ヤムチャには、話す言葉も無かった。というか、話す事が浮かばない。
自分の師匠が死んだ。
それも、恐らく自分がDEATH NOTEを手にしたから。
あの人は老けていた。だけど寿命では死なない。
それを知っているからこそ、ヤムチャは余計に悲しかった。
同時に疑問もあった。何故、何故アイツが俺の、いや皆の師匠を何故に殺さなければいけなかったのか。
無償に悔しさと怒りが溢れ出る。
「そういえば何でヤムチャさんは壁に張ってあった紙を見てなかったんだ?」
クリリンが思い出すようにヤムチャに問い掛ける。
―――壁に張ってあった紙?そういや俺は・・・・集会室に一番近い部屋だっけか。
「それはヤムチャが集会室に一番近い部屋に居るからだ。
確か・・・・ヤムチャの隣の部屋の横に張ってあったからな。
ヤムチャが集会室に行く前にどっか行ったとも考えにくい。
どうみてもその髪型は、起きたばっかりだろうからな」
呆れたように言い放つ天津飯。ヤムチャは髪を手で触り、髪型を確かめる。
確かに感触から言って髪はぐちゃぐちゃになっている。
「そ、そういや・・・・第一発見者は・・・・?」
クリリン達はヤムチャの言動に驚き、固まる。
そして、間を空けた後、天津飯は深刻な顔で話した。
「ベジータだよ・・・・あのベジータが」
第20ページ「煙」
正午から武天老師の葬儀が始まる。勿論、Z戦士達は皆参加する。
ただ一人の男を除いては、だが。
その男は葬儀の最中にアジトを抜け、街を走り抜け、自身の家に向かっていた。
男の体は風を切り、男の脚は砂埃を巻き上げる。
彼は舞空術――空を飛翔する技――を会得していたが、気で仲間達に気付かれてしまう。
彼は仲間達に知られたくなかった。其の為彼は走るしか術はなかった。
男の名はヤムチャ。DEATH NOTE所有者の一人だ。
ヤムチャはクリリン達との話を終え、集会室を立ち去り、自室に戻った時に決意を固めた。
アイツを、第二のDEATH NOTE所持者を止める。
そしてヤムチャは葬儀の隙に皆の目を盗み、アジトを抜け、今、自身の家の目の前に居る。
「死神に憑かれた者は不幸になる。単なる噂だと思ったが、事実だったようだな・・・・」
死神ガレルが口を開く。その表情は何処と無く嬉しそうだ。
「その噂、もっと早く言ってくれたら、こんな事にはなってなかったかもな・・・・」
一歩、また一歩。慎重に歩を進めながらガレルに話し掛ける。
DEATH NOTEを手に入れた時、死神が訪れた時、ピッコロを殺した時。
ヤムチャの家はそれを全て見届けていた。
そしてこの事件の解決も、今、この家は見届けるのだ。
ギィィィ―――。
軋む音を奏でながら、ヤムチャがドアを開く・・・・・・。
家の中へ入っていくヤムチャ。
ありえないといっても言い程、家の中は静かだった。
「誰も、居ないようだな・・・・・・」
ガレルは部屋を観察する。ガレルの言葉通り、人の気配は全く無い、居ないといっても言い。
だが、キッチンを覗くと、洗い終わり、乾かしている食器等が並べられていた。
しかも食器はどれも濡れている。これはつまり、数時間前には人が居た、と言う事を意味する。
その他にも部屋やトイレ等を覗いてみたが、どれも人が居た、というのを表すようなものばかりだった。
夢に出てきた人物。そしてもう一つ。
自分の、自分自身の姿。間違いない。アイツはやってくる。
―――ドスッ。
ドアを破り、一人の男が現れる。
「ベジータ・・・・・・・」
静かに呟くヤムチャ。
ヤムチャの眼がすぅっと細まる。
刹那、ヤムチャは右手を前に伸ばし、その掌から気功波を放つ。
気功波は勢いよくうねりながらベジータに迫る。ベジータは微動だにしない。
バキッ―――。
球体状のそれは、ベジータの肩の上を越え、その後ろにある壁を貫き、彼方に飛んでいく。
男――ベジータ――の表情は全く変わらない。
「真面目にしてくれよ。じゃなきゃ、次は当てるぜ?」
―――ボムッ。
ヤムチャが言い終えた途端、音を立てながらベジータの体は濃い煙に包まれた。
第21ページ「録音」
何秒か経つうち、濃い煙が薄まり、そして消える。
そして、現れた者。それはベジータでは無かった。
ヤムチャの眉間に皺が寄る。
「やっぱり、お前か・・・・・・」
重い口を開けるヤムチャ。そして、目の前の人物を見つめる。
「分かってたんですか・・・・」
全く動じないヤムチャの目の前の人物。その顔には余裕さえも伺える。
「何故、僕が犯人だと?」
少し間を空け、目の前の人物が問いかける。
「・・・・嫌な夢を見てな。
それでちょっと考えてみて、分かったんだよ」
ゆっくり、ゆっくりと喋りかけるヤムチャ。恐らく時間稼ぎか何かのつもりだろう。
それに気付いているのかどうかは分からないが、目の前の人物は何も言わず、静かに聞いている。
「最初は犯人は絞れないと思った・・・・。
だが違った。俺はアジトに来てからDEATH NOTEの切れ端しか使っていない。
つまり・・・・俺がDEATH NOTEを持っているのを知っているのはお前しか知らない筈だ。
だから、俺のDEATH NOTEを奪えるのはお前しか居ないんだよ・・・・」
目の前の人物は何も言わない。
「そして・・・・お前はわざとそんな手がかりを残して、俺をここに誘導させたんだろ?プー・・・・アル」
長い沈黙が続く・・・・。
「何で、何でなんだよ?何でお前が・・・・?」
目の前の人物――プーアル――に歩み寄るヤムチャ。
「・・・・・・」
ただ黙り続けるだけのプーアル。
ズゴォォーッ――ドドォーン――。
刹那、轟音が鳴り響く。
そして大きく揺れ動くヤムチャの家。
やがてヤムチャが先程空けた穴が更に大きく広げつつ、其処から気功波が飛んでくる。
気功波はヤムチャ達の後方にあるキッチンへと向かっていき、やがて爆発が起こり、キッチン諸共吹き飛ぶ。
その衝撃によりドアの方へと吹き飛ばされるヤムチャ、プーアル。
「く、一体何がっ・・・・?」
ヤムチャが苦しみながらも呟く。
自分以外のZ戦士は正午から始まった亀仙人、いや武天老師の葬儀に参加している、筈だ。
しかし、何故に気功波が・・・・?誰が放ったんだ?
そうヤムチャが考えているうち、何かの軋む音が聞こえる。
これは紛れもなく、ヤムチャの家の何れかのドアが開いたのを示すものだった。
「全て・・・・聞かせてもらった。
証拠もある。このスカウターの録音機能を使った。
貴様の謎の行動も、わざと濡れ衣を着せられる為だな・・・・?」
スカウターを左手に持ち、一人の男がヤムチャの家に入る。
この男は、偽者でも何でも無い、正真正銘の、ベジータだった。
第22ページ「誤算」
「べ・・・ベジータ?」
呆気に取られるヤムチャ。
「さぁ、其処を退け。プーアルを捕まえる」
完全なる誤算。ヤムチャはプーアルを捕まえる気など一切無い。
ただ、ただ改心して、元のプーアルに戻って欲しい、それだけが望みだった。
何故ベジータが此処に居るのか。そんな事はどうでもいい。
むくっと立ち上がるヤムチャ。その眼には決意が秘められている。
そしてその眼は紅く、ベジータに向けられている。
「退かない・・・・というのか?ただではすまんぞ?」
それを察し、目つきをきゅっと細めるベジータ。
その言葉は何処と無く冷たい。
「俺の相棒を・・・・プーアルを捕らえられる訳にはいかない・・・・
そうしようと言うのなら・・・・俺は何としてでもお前を止める・・・・」
ベジータは無言でヤムチャを睨む。ヤムチャも睨み返す。
ベジータとヤムチャの間は2mも無い。
その間を縮めようともせず、睨み合いがただただ続く。
そしていつの間にか、ベジータは体を消していた。
と思うと、ヤムチャの眼前に移動し、ヤムチャに強烈な右アッパーを炸裂させる。
ヤムチャの体は宙を舞う。そして、ベジータはプーアルの元へと歩み寄る。
「何としてでも止める・・・・。俺はそう言っただろっ!!」
ヤムチャの拳は、隙を、そして背を見せたベジータを的確に捉えた。
前のめりに吹き飛ぶベジータ。
ヤムチャは淡い赤い色をしたオーラを纏っていた。これは界王拳。自分の限界以上の力を引き出す技だ。
その隙に、ヤムチャは気絶したプーアルを家の外に運び、小さな窪みに隠す。
「しばらくの間はここに居てくれ。後で、絶対起こしてやるからな」
ピッコロ戦で土地は破壊され、めちゃめちゃにされていた為、隠すには持って来いの場所だ。
そしてヤムチャはその場を離れる。
刹那、ヤムチャの家は凄まじい炎に包まれる。
そして中から出てきたのは、金髪で、黄緑色の眼の、金色のオーラを纏うベジータだった。
「ちぃ、超サイヤ人・・・・かっ」
ヤムチャは其れを見て呟く。
超サイヤ人。其れがあまりの強さ故に付いた、今のベジータの状態だった。
瞬時にして縮まっていくヤムチャとベジータの間。
戦闘力にしても、圧倒的にベジータの方が上回っている。
――しかし、ヤムチャにはDEATH NOTEがある。
そして、既にDEATH NOTEにベジータの名は書かれている。
更に、ベジータの名を書いてから30秒は経っている。
ベジータが接近して、俺を倒すまで最低でも1分は掛かる筈だ――。
確かにベジータがヤムチャを倒すのは1分は掛かる。
だが、こうも事が上手く物事は進むものではない。
死神ガレルはそう思い、ただ事の成り行きを見守っていた。
第23ページ「一閃」
そして、10秒が過ぎた。
ベジータは苦しむ様子も見せず、ヤムチャに接近してくる。
「くそっ!どうなってんだ・・・・一体」
既に発動している死神の眼でベジータの名前を確認する。
サイヤ人の文字と思われる物で、ベジータの名前が表記してある。
「畜生っ・・・・またこれかっ・・・・」
濃い赤色のオーラを纏うヤムチャ。
「50っ・・・・倍!!!」
ヤムチャは接近するベジータに繰気弾を放つ。
繰気弾の体積もスピードもベジータを軽く上回る。
そして繰気弾の特徴は操れる事。ベジータに当てる事は然程難しくは無い。
だが――――。
―――バシュゥッ。
轟音と一閃。
瞬時にして繰気弾は真っ二つに分かれ、コントロールを失ってVを描くように彼方へ飛んでいく。
ベジータはそのままヤムチャに接近し、連続パンチを浴びせる。
パンチはヤムチャの溝へ腹へと突き刺さる。ガードなど仕切れる筈もない。
そしてヤムチャは、衝撃によって岩へと吹き飛ばされる。
「弱いな・・・・脆すぎる・・・・」
ベジータの言葉と視線は、冷たかった。
第24ページ「残像」
ベジータに巨大な繰気弾が直撃する、筈だった。
ふっ、とベジータの姿が消える。
「なっ!?残像っ――――」
先程までベジータに首元を掴まれていたヤムチャは不安定にフラフラと立っている。
そんなヤムチャに、繰気弾をコントロールする事は困難。
そして、立っているのがやっとのヤムチャに、避ける動作も困難。
「――――ぐほっ」
ヤムチャの体が、繰気弾によって包まれる。
と、途端にヤムチャは勢いよく吹き飛ばされる。
「残像拳・・・・・・お前等は確かこれをそう言ったか」
ベジータが吹き飛ばされたヤムチャを見下ろす。
残像拳――ベジータが姿を消す為に使った技こそ、残像拳だ。
その声に気付き、咄嗟にバックステップで間を空けるヤムチャ。
「く・・そ・・・・・・何故お・・・前は・・・・プー・・アルが犯人だ・・・・と?」
途切れ途切れに言葉を喋るヤムチャ。
この喋り方は、ヤムチャ自身、苦しいからでもあるが、時間を稼ぐ、その為でもあった。
「ふん、まあいいだろう・・・・・・。
最初―――。貴様とピッコロが戦っているのを俺は見た。
他の奴等は遠くて気付かなかっただろうが、俺は感じた。
気を、貴様とピッコロの気をな・・・・・・」
超サイヤ人状態を解き、静かに、ベジータは語り始めるのだった。
「貴様とピッコロが倒れて、俺はすぐさまあのアジトへと運んだ。
最初は貴様が変な事を喋りだすから、貴様が犯人だと思ったぐらいだ。
俺は貴様が怪しいので、監視カメラを極秘で早急に作ってくれるようにブルマに頼んだ。
それはブルマに『安全の為』と理由を付けた為に、アジトの全ての部屋に取り付けたがな。
そして悟天が死んだ夜。俺が監視カメラの部屋に行くと、誰か俺の姿をした者が居た。
もちろん貴様は部屋の中。どういう事か良く考え、お前の跡を付けて分かった。
貴様とピッコロが戦っていたのは、あいつがピッコロを操っていた為。
そして貴様が変な事を喋ったりしていたのは、貴様があいつを庇っている、とな。
今日、貴様等の台詞を聞いて、確信が持てたぜ・・・・・・」
ベジータは口を閉じ、ヤムチャを睨む。
その眼には、庇うのを止めろ、と訴えかけるような、そんな感じが伺えた。
「もう・・・・・・一つ・・・聞いてい・・いか?」
ヤムチャがベジータに話し掛ける。
「プーアルを・・・・・・許す・・気は・・・ないか?」
「ふざけるなっ!!」
ベジータが声を荒げる。
拳がわなわなと震え、其処には怒りが感じられる。
―――カカロットはもう生き返らない。病死扱いだからだ。
そのカカロットを殺した奴を許す訳にはいかない。
ライバルである俺が、それを許す訳にはいかない―――。
ベジータの怒りが、一気に膨れ上がる。
「俺は――もう永遠にカカロットと戦う事は無いんだよーーーーっ!!!」
もう永遠に彼を超える事は出来ない。そんなベジータの悲痛な叫びが、渦を巻くのだった。
第25ページ「死体」
「貴様を倒して・・・・あいつを捕らえる・・・・」
一気にベジータの気が爆発的に上昇する。
先程の超サイヤ人になった、だけではなかった。
スパークのような物を体の周りに帯びていたのだ。
その名は超サイヤ人2。超サイヤ人を超えた超サイヤ人。
辺りの岩は砕け散り、辺りの崖は崩れ落ちる。
「こ・・こまで・・・・・・か」
ヤムチャがぼそり、と呟く。
「問題ない。後3分もすれば奴の名前が翻訳出来る。
大体、ここで諦めて、どうなる?あいつが捕らえられるだけだ。
お前の性で変わってしまった、あいつがな」
ガレルがプーアルの居る方向を向いて言う。
「それ・・・・どうい・・・う意味だ――」
「来るぞっ」
ガレルはヤムチャの話を遮り、ベジータの方へ注意を促す。
一方、ベジータはゆっくりと左手をヤムチャの方に向け、呟く。
「ビックバン―――アタック」
刹那、ベジータの左手から強力な気功波――ビックバンアタック――が放たれる。
ゴォォォッ―――。
ヤムチャは素早く空へ舞い上がり、ビックバンアタックを何とか避ける。
目標を失ったビックバンアタックは後方の崖を飲み込み、そして跡形も無く消し去る。
戦いは既に、後戻りは許されない。
「危・・ねぇ・・・・・・ああ・・なる所だっ・・た・・・・」
跡形もなく消え去った崖を見て、呟くヤムチャ。
そんな隙だらけのヤムチャに高速で接近し、膝蹴りを食らわせるベジータ。
ヤムチャの口から、鮮血が流れ出る。
「かはっ―――」
地面にそのまま叩きつけられるヤムチャ。
既に意識は朦朧としている。
30秒程経っただろうか。ヤムチャは立ち上がった。
「――ま・・・まだだ」
かめはめ波の構えを取るヤムチャ。
もちろん、ベジータに直撃しようとも、ほぼ無傷であろう。
「波っ・・・・」
ヤムチャの掌から弱弱しいかめはめ波が放たれる。
スピードも遅く、ベジータならカウンターも十分出来るだろう。
いつものベジータなら。
「これで貴様を気絶させる。終わりだ」
ベジータは冷たく、威圧を感じさせる言葉で話しかける。
そして左手にヤムチャを気絶させるには十分過ぎる程の気を溜め込む。
恐らくビックバンアタックを放ち、かめはめ波諸共ヤムチャを蹴散らすつもりだろう。
――ズキッ――。
鋭い痛みがベジータの体中を駆け巡る。
そして弱弱しいかめはめ波を食らいつつ、ゆっくり、ゆっくりとベジータは倒れた。
後に残ったのは、虚しいヤムチャとプーアル、そして荒れ果てた地形とベジータの死体だけだった。
第26ページ「血文字」
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
男は一人、最早原型も分からない程荒れ果てた地形の真ん中で立ち尽くしていた。
男の握り締めた右手の中には5cm四方のノートの切れ端がくしゃくしゃになっていた。
そのノートの切れ端には、5mmの空白も無いほどびっしりと書かれた片仮名が並んでいる。
一文字一文字全てが紅く細い血文字で、その並んだ片仮名を略すと『ベジータ』という文字が浮かび上がる。
今から1分30秒程前、男は朦朧とした意識の中、
倒れつつも口から流れる血を指の先に付け、ノートの切れ端に血で文字をゆっくりと書く。
そして、そのノートの切れ端を右手でくしゃくしゃにしつつも握り締めた。
男はゆっくりと立ち上がる。その眼は恐ろしい殺意が宿り、赤く血のような色をしていた。
そしてその前には、背が小さい、金髪で筋肉質の男が立っている。
「――ま・・・まだだ」
男は力を振り絞り、その筋肉質な男を睨みつける。
「波っ・・・・」
いきなり男は合わせた両手を筋肉質な男に向けて弱弱しく叫ぶ。
そして突如、男の両手の掌から謎のエネルギー波が放たれ、筋肉質な男に直撃する。
筋肉質な男は倒れ、命が尽き、死体となった。
――バタリッ。
へなへなと仰向けに倒れる男。血が所々から流れ、無残としか言い様が無い。
そして男に近付く黒き鬼。
「なぁ、ガレ・・ル・・・・。一つ・・・・やっ・・て欲し・・い事があ・・るんだ」
男は黒き鬼に気付き、それに向かってゆっくりと話した。
それから1日経った7月15日 元ヤムチャの家付近 午前6:23。
昨日までの傷が嘘のように治っていたヤムチャが、早々にアジトへと向かっていった。
空を自由に舞い、軽快に上空を飛んでいる。
昨日までの出来事が嘘だったかのように。いや、早く忘れようとしているように見える。
スタッ――。
足を地面に付け、すたすたと目の前のビルの中に入っていく。
そしてその跡を追う死鬼ガレル。彼の顔はあくまでも無表情だ。
ヤムチャはエレベーターを使って最上階へと上がる。
そして音を全く立てず、静かに自室へと戻った。
「ふぅ・・・・」
ベットに腰を掛け、一息つくヤムチャ。
「とりあえず、髪に水を付けて、寝癖らしくした後、お前は休む。
そして、時間になったら俺が起こす。それでいいんだな?」
ガレルがヤムチャに問い掛ける。ただこのアジトでは、ヤムチャがガレルに話す事は出来ない。
監視カメラと、盗聴器で常に見張られているからだ。
ヤムチャはそれっぽくコクリ、と頷いた後、自室のドアを開け、洗面所へと向かった。
そして、約3時間後・・・・。
「ふわぁ・・・・」
ヤムチャは眠たそうに、ゆっくりとした足取りで、集会室へ行き、料理の注文をして木製の椅子に座る。
眠たそう、と書いたが、実際には眠気は無い。休んだだけで、眠ってはいないからだ。
「いただきまーす」
ヤムチャは珍しく、行儀良く注文した料理――オムライス――を食べる。
そしてヤムチャがオムライスを半分程食べ終わった頃、クリリンが血相変えて集会室に走ってきた。
「オムライスなんか食べてないで早く来てよ、ヤムチャさん!ベジータが居ないんだ!!」
第27ページ「被害者」
「な、なにっ!?」
ヤムチャの安堵が驚愕へと早代わりする。無論表情だけだが。
「取り敢えず、ベジータの部屋に来てよ!」
クリリンは走り去った。そしてその後をヤムチャが追う。
ヤムチャが来た時には、ベジータの部屋には死者を除いた仲間達が勢ぞろいしていた。
「みんな、集まったようね。まず、これを見せるわ」
ブルマが慎重な面持ちで話した。
そのブルマの手には、紙が一枚あった。
「ベジータのベットに置いてあったものよ」
紙には、文字がびっしり刻まれていた。
「俺が居なくなったら、犯人はプーアルだ・・・・か」
天津飯が其れを見て、呟く。その言葉に、ほぼ全員が唖然とした。
プーアルは居なくなったんじゃなかったのか、との話し声もそわそわと聞こえ始めた。
「つまり・・・・プーアルが自分で姿を消し、被害者のように装った、って事?」
クリリンがブルマに問う。
「恐らくは・・・。Z戦士を知っているのは普通に考えてZ戦士の仲間よ。
大体プーアルの死体なんか誰も見ていないでしょ・・・だか――」
「ちょっと待ったっ!」
ブルマの言葉をヤムチャが遮った。話し声もピタリと静まる。
「なんでプーアルが犯人なんだ!それにベジータの死体だって誰も見てないだろっ!?」
「じゃあ・・・・他に誰が犯人だって言うの・・・・・?」
ブルマの言葉が、刃のようにヤムチャに鋭く向けられた。
「そ、それは・・・・」
ヤムチャが口籠る。
「それに、アンタが見たっていう犯人。それはプーアルが変身した姿。ウーロンじゃ長時間は持たない筈よ」
「・・・・・・」
沈黙が続く。
「・・・・ともかく、まずはベジータを探すべきだ。ヤムチャをメンバーから外して・・・・」
沈黙を破ったのは、天津飯だった。その言葉に、全員が頷く。ヤムチャという男を除いて。
「くそ、プーアルが犯人だからか!?邪魔する可能性があるからか!?そんな訳あるかっ!」
「取り敢えず、俺がこいつを監視する。皆は探索の計画でも練っててくれ」
天津飯がそう言い残し、ヤムチャを押し出しつつ、廊下へと出る。
「くそっ・・・・畜生っ」
とぼとぼと集会室へと歩いていくヤムチャ。その背後には常に天津飯がギラリと三つ目を光らせている。
ヤムチャは集会室へと入ると、先程座っていた椅子に腰を掛け、オムライスを食べ始める。
相変わらず行儀は良く、丁寧にオムライスを食べている。
「ん?」
天津飯は疑問に感じていた。
こんなにヤムチャが行儀が良かったか?
大体、食べるペースも鈍過ぎる。
そもそも好んで食べるものは、貧乏癖が残って食べているラーメンぐらいなもんだ。
それが、今日はオムライス?どうかしている・・・・。これじゃあまるで・・・・。
ヤムチャは自室へと戻り、ベットに潜り込んだ。
時刻はまだ午前10:00。眠気があった訳でもない。ただ休みたかったのだ。
天津飯は、そんなヤムチャへと、一歩一歩近付いていく。拳を握り締めながら。
第28ページ「舞空術」
「・・・・・・」
眼前に居るヤムチャを見下ろし、拳を振り下ろす天津飯。
ばきっ―――。
軽く骨が折れたような音がする。
拳は的確にヤムチャの右腕を捉えていた。
激痛のあまり起き上がるヤムチャ。
「ぐっ・・・・」
「大体の奴等がベジータやお前を探しに行った頃だ。ついて来い」
「なっ・・・・!?」
絶句するヤムチャ。何故天津飯がこの事を知っているのか。そんな事は分からない。
ただヤムチャには、天津飯について行く事しか出来なかった。
ゆっくりと通路を歩き、階段をゆっくりと駆け上がり、そして着いた先は屋上だった。
「早速だが・・・・ヤムチャは何処に居る?」
「な、何を言ってんだ・・・・?俺がヤムチャだぜ!?」
天津飯が話を切り出すが、ヤムチャはとぼける。
そして、ヤムチャは宙を浮いて見せた。
「俺がヤムチャじゃないってんなら、Z戦士じゃないって事だ。
じゃあこの舞空術はZ戦士でもないのに、どうやって出来んだ?」
ヤムチャが天津飯に話す。だが、天津飯は驚く所か、ニヤリと笑って見せた。
「舞空術であれば・・・だがな。・・・プーアル」
「やって欲しい事・・・?なんだ?」
「とにか・・く・・・プー‥アルを呼ん・・できてく・・・・れ」
男は既に虫の息。そんな男の頼みを、素直に受け入れる黒き鬼。黒き鬼はプーアルと呼ばれた小動物を抱え、男の傍に置く。
プーアルを見て、生きていたのを確認すると、男は黒き鬼に話しかけた。
「プー・・アルは、俺を改・・心させ・・・・・・る為に・・・デス・・ノー・・トを使っ・・たんだろ・・・?
なら・・・プー・・アルに・・俺の罪を・・・修正させ・・てくれ・・ないか・・・?お前・・・が憑いて‥い・・れば問題・・・ない・・・・
全てが・・・終わっ‥たら・・・・二人で・・・また・・静・・かに暮らそう・・・そう・・・プー・・アルに・・・・・言って・・・くれ」
そう言うと、男は腰につけた袋の中から豆の欠片を取り出す。先程の戦闘で、砕けた為だ。
そしてその豆を口に含む。刹那、怪我が消える、なんて事は無かった。
確かに怪我は消えたが、大きな傷などは消える事は無かった。
―――お前の寿命は、残り僅か。
そんなお前の頼みだ。出来る限り、やってやるよ―――。
ヤムチャ、いやプーアルに憑く死鬼ガレルは、ヤムチャの頼み事を思い起こしていた。
―――どうやら・・・無理のようだ。
だが、出来る限りはやってやる。そう決めたからな―――。
死鬼が普通、人間に此処までするのは珍しい。ガレルは、ヤムチャに惹かれたからこそ、此処までやるのかもしれない。
「舞空術ではなく、普通に空を飛べ、変身能力を持ち、
Z戦士の仲間と言えば、プーアル、お前しかいない」
「・・・・」
「お前は芝居がかり過ぎた。そして細かな口調等は合っているが、ヤムチャの癖までは真似出来なかったようだな。
更に一つ。先程俺はお前に攻撃したが、とても軽いものだ。常人で骨が折れるぐらいのな・・・・」
天津飯は不気味な程ニヤリと笑った。プーアルはただ、空に浮かんでいるだけだった。
ラストページ「幸福」
「そして・・・・ほとんどのZ戦士達はこの場に集結している」
影からクリリン、餃子、トランクス、悟飯、18号が出てくる。
ボンっ―――。
刹那、プーアルの周りに濃い煙が立ち込めた。
「本当の姿を現すつもりか・・・・」
天津飯がぼそり、と呟く。
だが、18号が否定した。
「違う、飛び降りるぞっ!」
咄嗟にクリリンが気円斬を真正面に放つ。
其処にはビルを飛び降りようとしているプーアルが居た。
グシャっ―――。
プーアルの左側の横っ腹を切り裂く気円斬。
だが怯まず、プーアルはビルを飛び降りた。
「変化されたな・・・・逃げられたか」
悟飯が呟く。確かに変化されてしまえば一般人と同じ。見つける事は難しい。
「でも奴は今ので手傷を負いました。もしかしたら捕まえられるかも・・・」
トランクスが言う。更に、餃子も助言する。
「どの道、捕まえなければならない・・・・」
そんなこんなで、捜索は三日三晩続いた。
だが、プーアルが見つかる事は無かった。
プーアルは既に、亡き者だったからだ。
ヤムチャは自分の罪について、血でDEATH NOTE―プーアルに奪われたノートだが、プーアルが返してくれた―に書き綴った。
無論、人物は仮名である。書いた名前の人物が、死んでしまうからだ。
其れを書き終わった時、ヤムチャは多量出血で瀕死の状態に陥っていた。
そんな時、ガレルが現れた。
「ヤムチャ・・・・すまん。プーアルは・・・死んだ」
ヤムチャは固まった。無論、最高のパートナーであるプーアルが死んだからだ。
死鬼であるガレルはプーアルの寿命を知っていたが、もっと長いものだった。
しかし、プーアルは死んだ。
恐らく、他の死鬼達がDEATH NOTEにプーアルの名前を書いたからだろう。
「・・・・俺さぁ、最近気付いた事があるんだよ・・・・
俺がDEATH NOTEを手に入れたのは、神龍に「退屈な俺の生活に変化を起こしてくれっ」て、
頼んだからなんだけどよぉ・・・・。実は、退屈な事が、一番幸福な事だって・・・・。
プーアルが死んで・・・・尚更分かったような気がする・・・・」
ヤムチャは、不思議と途切れ途切れでなく、はっきりと喋っていた。
そしてヤムチャは、自分の死が近い事を、悟っていた。
「だけど、俺はプーアルにもう一度逢えるのなら、どうなって・・・も・・・・い・・・い・・・・・」
ヤムチャの声が、再び途切れ途切れになった。
――大丈夫だ。お前は天国でも地獄でもない所で、
プーアルと巡り会う。苦しさを共に味わいながら・・・・な――。
7月18日。ヤムチャは遂に、生涯を終えた。
その手には、後に世間でヤムノートと呼ばれる事となる、自分の罪について書き綴ったDEATH NOTEが、しっかり握り締められていた。
YamuNote 完結