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魔族転生ヤムま!


「ちょっとしたことでたくさんの未来ができてしまうわけです」
(其之三百五十七 トランクスの台詞より)

 乾いた冷たい空気、もとは建物であった瓦礫の山、ひびだらけの道路を歩くやせ細った
野良犬……。
 “人造人間”の出現により、この世は地獄と化した。
 最初こそ、立ち向かう者はいた。国王直属の軍隊、腕に自信を持つ名うての格闘家、そ
して――歴史に名を残す事こそなかったが、幾度となく地球を救った戦士たち。
 それら全てが、たったの二人によって全て粉砕された。
 生き残った数少ない人々は敵から姿を隠すために地下へと篭もり、脅えながら毎日を暮
らしていた。


 バババババババババッ!!
 けたたましい物音と、何度も起こるスパーク。地下基地の一つにある研究所では、得体
の知れない実験が行われていた。
「これで完成っ!」
 しばらくぶりに物音が止んだかと思ったら、今度は威勢のいい声――実験の失敗の可能
性も考慮されて研究所だけは隔離されてはいるが同じ基地内にいた人全てに聞こえるほど
――が聞こえてきた。
 研究室内にいたのは、かつてのカプセルコーポレーション社長の娘であり、自身もまた
開発の任を担っていたブルマ、そしてその息子トランクスである。
 二人の目の前にあるものは、次元の壁を超える希望の翼、タイムマシン……の手のひら
に乗る程度の縮小版であった。
 過去に渡って歴史を変えるために造られたそれだったが、人が乗るには小さ過ぎる。
「見ててね、今テストするから」
 ブルマは小型タイムマシンに適当な鉄屑をセットする。
 眺めながらトランクスは思った。
 仮にそれで時間移動が可能なものとして、果たしてどうやって証明するのか……。開発
途中から気に掛かっていた事だったが、夢中になっている時の母に口を出しても無駄なこ
とは自分が一番よく知っている。亀仙人が“天才かアホかようわからんやつ”と評した性
格は思ったより厄介なものだった。
 少なくとも、自分が乗ったとたんにドカン! は避けられる、とプラス思考に務めるこ
とが自分にできる解決法だった。
 鉄屑を積んだタイムマシンが、二人の目の前でふっと消えた。


 エイジ750――。
 亀仙流に弟子入りが決まったヤムチャは今、かつてのアジトに戻り、自分の胴着を漁っ
ていた。
 “楽”の字の一張羅は一着しかないし、居候先にあるトレーニングウェアでは心許ない
と感じたためである。
 何着か見繕って手持ちのカプセルに収め、乗ってきたジェットモモンガに足をかける。
 と、そこに。
 ガツン!
「うおぅ!」
 頭上に現れた鉄屑が、見事なまでに脳天に直撃した。
「な、なんだ?」
 周囲を見渡す。周りには誰もいない。自家用の飛行機から捨てられたゴミの類か、と思
い上空を見上げたが、雲一つない空にあるのは太陽だけだった。
 ヤムチャは薄気味悪く感じたのですぐにその場を離れる事にした。とりあえず、目的地
は近くのオアシスへ。でっかいタンコブを冷やさねばならない。


 小一時間ほどでオアシスに着いた。かつては自分は何度もお世話になっていた場所であ
る。
 頭と傷を冷やす意味で頭を水に突っ込む。多少染みるが、薄気味悪さは消えて思考はク
リアになった。
 オアシスの中心に、何か、光を反射する物がある。普段ならば気にしない事であったが、
今日ばかりは何故か気になることだった。
「なんだ……?」
 全身が濡れるのも気にせず、湖の中からそれを掴みとる。
 そこにあったのは古ぼけた電子ジャー。かなりの年代物らしく、あちこちが錆びている。
表面に光を反射するような部分は見当たらない。
 影を潜めていた盗賊の嗅覚と好奇心が、それを開くように騒ぎ出す。内から漏れた光は、
財宝の類であるかもしれない。
 ヤムチャは、思い切って錆びた蓋をこじ開けた。

 閃光。それとともに、何かが勢いよく飛び出し、覗きこんだヤムチャのアゴを強打した。
「あうっ!」
 ついでに舌も噛んだ。なんかロクな事がない。
 指で恐る恐るアゴと舌の無事を確かめていると、背後から声が掛かる。
「このわしの封印を解いたのは、貴様か?」


 声のする方に振り返ると、そこにいたのは緑の肌をした者がいた。
 頭の割に細った腕や、額や顔のシワからかなりの老齢であることが見て取れる。だとい
うのに、隙はどこにもない。
 緑の老人はヤムチャを見て言った。
「人間、お前は武道家か」
 声がするたびにビリビリと痺れるような錯覚が襲う。どう歯向かっても、この化け物に
は敵わない。もともとお留守な足元が、さらにへなへなと崩れこんだ。
「……オ、オレは……」
 睨まれただけでこれなのだから、頭が正常に働くはずもない。
「オレは、武道家なんかじゃ、ない。ただの、盗賊だ……」
 武道家、と答えてはいけない。それだけ考えて、ヤムチャは答えた。
 途切れ途切れなその答えに、そいつは満足そうに頷いた。圧力こそは残っているものの、
ぞっとする感覚は消えた。
「それは良かった。このピッコロ大魔王の封印を解いたのが武道家などであったなら、復
活早々イヤな気分を味わう所だ」
 答えは間違っていなかったらしい。ヤムチャは心の中で大きく安堵した。と、不意にヤ
ムチャの体が掴まれ、持ち上げられる。
「ふっふっふ、魔族の戦士を生み出すよりは魔力の消耗を避けられるからな。
 盗賊よ、おまえを生まれ変わらせてやろう」

 ポコペン ポコペン……
 ダーレガツツイタ ポコペン ポコペン……

 気味の悪い声で呪文を唱えたかと思うと、
「がっ!」
 首筋に、牙が突き立てられた。
 次の瞬間、ヤムチャの意識は闇に落ちた。




 それからおよそ十年の歳月が過ぎた。
 第二十二回天下一武道会、ピッコロ大魔王との戦い、第二十三回天下一武道会、サイヤ
人ラディッツの来襲を経、地球へとやってくる二人の新手に対する修行が、終わりを迎え
た。
 そして午前十一時四十三分、ついに二人のサイヤ人が地球に到着する。
「来る! やつらはここに来るつもりだ……」
 ともに修行をしていたピッコロと悟飯、ヤムチャは、遥か遠くから感じ取られた凶悪に
して巨大な力を感じ取り、身構えた。
 戦士たちも、時を同じくして同じ力を感じ取り、二人の元へ向かう。まず最初に合流し
たのはクリリンだった。他の仲間も、同じように向かっている。
 ほかの戦士たちよりもやや速く、サイヤ人たちがピッコロたちのもとに現れた。二人が
地面に種を植えたかと思うと、そこから栽培マンと呼ばれた小柄な化け物が顔を出す。そ
の直後、二人の仲間――天津飯と餃子が合流した。
 サイヤ人の内の一人、ベジータは戦士たちと栽培マンの数が同じことから、一対一のゲ
ームを持ちかけた。ピッコロなどはその提案に激昂したが、行きかえった悟空が到着して
いないこともあり、受け入れることになる。
 天津飯が先鋒として栽培マンを圧倒し、神の修行の成果を見せつける。天津飯を舐めき
っていた栽培マンの態度に腹を立てたベジータは先鋒の栽培マンをバラバラにした。


 ベジータの底知れぬ実力に驚きを隠せない中、次鋒に、ヤムチャが名乗りをあげた。
 二人が見え、構える。と、姿が消え、
 ドガガガガガガガガがガガガガガガガッ!!
 凄まじい音と、衝撃。
 常人の限界を遥かに超えたスピードの攻防。
 栽培マンの攻撃をヤムチャは余裕の表情で捌く。
 逆に栽培マンはヤムチャの鉄拳を何度も浴びた。何故か蹴りは来ない。
 劣勢の栽培マンは戦術を変える。
 両手を広げ、飛びつく。
 が、そこに敵はいない。
 衝撃。気功波が直撃したのだと理解するまで、やや間があった。
 勝ち誇り油断したヤムチャに、栽培マンは抱きつく。
 カッ!
 閃光。勝利を諦めた栽培マンは、ヤムチャを道連れにしようと自爆した。
 ヤムチャの死が予想されたが、ヤムチャの気は消えてはいない。
「あ、危なかった」
 自爆の瞬間、ヤムチャは自分に出せる限りのスピードで抜け出していた。
 だが、無事に済んでいるはずがなかった。
「ヤムチャさん、脚が……」
「あ、安心しろ。脚が動かなくても操気弾は撃てるぜ……」
 味方はみんな思った。もともとお留守だから対した被害じゃない、と。

 クリリンが拡散エネルギー波とピッコロの力によって、残りの栽培マンは全て散った。
 ついに真打ちである二人のサイヤ人との戦いである。巨漢のナッパが力を溜めている
間、ヤムチャは飛べるはずなのにほふく全身で戦線離脱しようとしていた。
「よけろっ!」
「うおおおおおおおおおっ!」
 なんか背後の方で聞こえたが、自分のことでいっぱいいっぱい。這いずるヤムチャの
後頭部に、飛ばされた天津飯の手首が命中した。
 ようやく距離をとって振り返ると、戦況は芳しくない様子だった。天津飯は左腕を飛
ばされ、餃子がナッパの背に貼り付いて自爆をするもダメージを与える事もできない。
狼牙風風拳さえ出せれば……と悔やむが、脚が動かないので敵に向かって行くこともで
きない。自分にできることで援護するしかない。
「操気弾!」
 餃子の自爆にも同じないナッパの後頭部に、ヤムチャの操気弾が命中する。
「ぎひひひひひ。おまえから先に死にたいようだなっ!」
 巨体に似つかわしくないスピードでナッパがヤムチャに向かう。
 その後で、天津飯が気功波の構えをとった。
 命をかけた一撃で餃子の仇を取るつもりだった。
「気功砲!」
「ちょ、ちょっとタンマ! おい! 後ろー!」
 ナッパと気功砲が脚の動かないヤムチャに迫る。
 気功砲がナッパを飲みこむ。
 さらにヤムチャをふっ飛ばす。そのまま岩山に叩きつけられた。
「ふうっ、おどかしやがって」
 天津飯の命懸けの一撃すらもナッパの戦闘ジャケットを破壊したに過ぎなかった。ナ
ッパは天津飯が倒れたのを見ると、再びヤムチャに向かってくる。
「はーっはっはっは!」
 ナッパの拳がヤムチャの顔面に迫る。
 拳が頬を掠めた。当たっては、いない。
 右。左。頭を狙った蹴り。
 それら全てを、ヤムチャは紙一重で避けた。
「な、なんだと……?」
 全力ではないとはいえ、ことごとく攻撃を避けるヤムチャにナッパは驚きを隠せない。
 敵が打撃での攻撃を仕掛けられるなら、自分も反撃することができる。
「くらえっ! 狼牙風風拳!」
 ヤムチャは出せる限りのスピードで拳をナッパに当てる。
 渾身の連撃。だが、ナッパには通じない。
「ダメだっ! 脚抜きじゃ力が出しきれなかったっ!」
「どういうことだ? いくらヤムチャが素早くても奴の攻撃をよけるとは……」
 とりあえず無駄に終わった反撃の分は無視。
「そうか! お留守な足元が使えなくなったから逆に気が満ちているんだ!」
 クリリンがヤムチャの回避の秘密に気付く。もしベジータがスカウターを予め外すこと
なく装着していたのなら、ヤムチャの戦闘力が何故か上昇していたことに気づいていたこ
とだろう。
「で、でもあれじゃ攻撃できませんよ」
「安心しろ。奴はあれでも魔族だ」
 三人は心置きなく気を溜めた。
「はい! はい! おぅー!」
 ヤムチャの攻撃が次々にヒットする。
 対したダメージはないとはいえ、ナッパもだんだん腹が立ってきた。
「ここまでだっ!」
 ナッパ全力の一撃。案の定ヤムチャはぶっ飛ばされた。足元のマイナス分がなかったの
が幸いして、死ぬことはなかった。
「今だっ!」
 その瞬間、三人が全力で放った集中砲火がナッパに襲いかかった。


 ドオオオオオォォォォォォォン!!!!

 ナッパに命中した特大の三つの気功波が大爆発を起こす。
「や、やったのか。はは」
 力を使い果たしたクリリンがぺたりとその場に座りこむ。もうもうと煙が立ち込め、ナ
ッパの姿は全く見当たらない。同じく、悟飯もその場にへなへなと座りこむ。

 ピッコロが、消えているはずの気を感じ取った。
「な、なんだと……?」
 上空を見上げ、二人がそれに続く。
 戦闘ジャケットを完全に破壊されたナッパが、そこにいた。
「あ、ああああ……」
 初めての実戦で対峙する相手の強大さに、悟飯は恐怖する。
「今のはさすがにかなり痛かったぜ……。きさまら、お遊びはここまでだっ!」
 上空からナッパがエネルギー波を放とうとする。
 その瞬間、地上から放たれた無数のエネルギー弾がナッパを取り巻いた。
「行け、魔空包囲操気弾!」

「あ、あのヤロウ、まだ生きてやがったのか!」
 上空のナッパがエネルギー波の目標をピッコロたちからヤムチャへと変える。
「人の技を真似やがって……」
 ピッコロが呟くと同時に、全ての操気弾がナッパに襲いかかる。
 爆発する性質がない操気弾はナッパに命中すると再び襲いかかる。破壊力は本家の魔空
包囲弾とは比べるべくもないが、戦う相手からすれば技の性質は明らかにヤムチャの技の
方が嫌らしいものだった。
「ぐっ、こいつっ!」
 一つの操気弾がナッパを直撃。
 それを捕まえようと手を伸ばせばさらに二つの操気弾がぶちかます。
「この、ちょこまかと!」
 クンッ! ナッパが指を立てた手を振り上げる。
 操気弾の中心で起こる大爆発。ヤムチャの放った操気弾は全て掻き消えた。
 最大の技があっけなく破られ、ヤムチャは戦意を失う。
「ぎひひひ……、もう戦う気が失せちまったようだな」
 ナッパは地上に降り、ヤムチャに止めを刺そうと向かって行く。
 力と戦意を失ったヤムチャはナッパに頭を掴まれ、死なないように加減した鉄拳を何度も
撃ちつけられる。怒りの収まらないナッパは容赦なくヤムチャに攻撃しつづけた。
 クリリンが隙を突きナッパに突撃するも、かえって大ダメージを受けてしまう。
「死ねぇっ!」
 更にナッパがクリリンに向けてエネルギー波を放とうとする――。
 ドグォン!!
 ピッコロとクリリンは、一瞬何が起こったのか解らなかった。気が付いたら傍らの悟飯が
消え、ナッパが岩山に叩きつけられていたのだから。
 ともに修行を積んだヤムチャが殺される。
 そう思った悟飯が瞬間的に潜在能力を開放し、ナッパを蹴り飛ばしていたのだった。
「このガキィィィィッ!」
 ナッパのエネルギー波が悟飯に向けて放たれる。
 もうダメだ――そう思った。
 エネルギー波の閃光が悟飯を包み、飲み込む。
 クリリンもヤムチャも、無力感で一杯だった。
 光が消えた後、二人は驚愕する。
 悟飯が生きていることに、そして――、
 ピッコロが、悟飯の前に立ち塞がっていたことに。
 ピッコロが悟飯を庇ったことはクリリンはもとより、ヤムチャにとっても大きな衝撃であ
った。ヤムチャが魔族の体を得、更に強靭な体を手に入れることとなったのは戯れといえど
ピッコロ大魔王の賜物。当時悪意に支配されていたヤムチャは恩義に報いるべく二代目のピ
ッコロを大魔王の名に相応しいように強く、さらに凶悪な性格を持つようにと教育した。
 今でこそ和解はしたが、そのためには相棒のプーアルさえ棄てたというのに。
 孫悟空と闘い、孫悟飯と半年ほど修行生活を送った。ただそれだけなのに、孫の一族はピ
ッコロの人生においてそれほどの影響力を持っていたのだ――自分を、差し置いて。
 声は聞き取れなかった。だが、ヤムチャには悟飯の腕の中でピッコロが何を言っているの
かわかる気がした。
 ちくしょう、かなわねえはずだぜ……。ヤムチャはようやく、天性の格の違いを知った気
がした。
 そして、ピッコロが悟飯の前でこと切れる。
「うあああああああああ――――――――っ!!」
 悟飯は叫んだ。
 小さな体にできる限りの声で。
 悟飯は構えた。
 小さな体に出せる限りの力で。
「魔閃光ーっ!!」
 その全てを込めた悟飯の一撃も、ナッパは腕一本で弾き返した。本当に、全てが終わった。
 ナッパが力尽きた悟飯を踏み潰そうとした、その時。
「き、筋斗雲……」 
 ふわふわと浮遊する雲が、悟飯をその場から退避させていた。

 やっと、到着した。
 地球育ちのサイヤ人、孫悟空が。


 到着した悟空から残った仙豆を受け取り、クリリンと悟飯は体力を回復する。
「ご、悟空、オレは?」
「あれ、おめえヤムチャか? わりい、もう終わっちまった」
 あまりに顔をボコボコにされたので味方だと判断されなかったらしい。回復した二人から
気を分けてもらい、なんとかヤムチャも復活する。その間に悟空がナッパを圧倒していた。
 闘いのレベルの違いに、三人は絶句する。
 ナッパが特大のエネルギー砲を口から放出する。
 総毛立つほどの力を感じたが、
「波っ!」
 悟空はそれを更に切り返した。
「もういい! ナッパ! このオレが片付けてやる!」
 ベジータが見切りをつけてナッパに下がるように命じる。力の差を悟っていたナッパも渋
々と言う通りに悟空の前から下がった。
「だが、オレもこのままじゃ気が済まん……」
 口を開け、三人に向けてエネルギー砲を発射しようとする。
「しまった、間にあわねえ!」
「だーっ!」
 二人の声はほぼ同時だった。
 ナッパのアゴにヤムチャの操気弾が命中。
 上空に向けて軌道の逸れたエネルギー砲が虚しく放出される。
「界王拳っ!」
 瞬時にして更にスピードを上げた悟空が、ナッパに突撃する。

「すまねえな、ヤムチャ」
 ナッパを片腕で担ぎ上げたまま、悟空はヤムチャに言った。対するヤムチャはというと、
ほとんど無反応に近い。界王拳を目の当たりにした驚きと力を使い果たした疲労によって脳
内もお留守状態だった。
「あ、あのスピード、威力……」
 ヤムチャの脳裏に一つのヴィジョンが浮かぶ。
 かつて魔族としての力を得た際に、ヤムチャは狼牙風風拳を更に強化できないかと試行錯
誤を繰り返したことがあった。たった今見た悟空の界王拳はヤムチャの思い描いた理想に限
りなく近い。
「ご、悟空、今の技は?」
「界王拳ってんだ。うまくいけば力もスピードも何倍にもなる」
 ただし、力を増幅し過ぎると自分の肉体にもダメージを与える諸刃の剣、悟空はそう説明
をしたが、錯乱中のヤムチャはその辺の大事な部分を聞いていなかった。
 初代の狼牙風風拳には、足元への注意を欠くという致命的な欠陥があった。それを克服す
べくスピードを磨いたのが新狼牙風風拳である。だが、それでも実力が上の敵には破られて
しまう。
 自分の限界以上のスピードが出すことのできる界王拳を更に加えることができれば……。
 ヤムチャの中で、新たな技の構想が練り上がりつつあった。

 ヤムチャが呆然としている目の前で、ベジータがナッパに止めをさす。弱っているとはい
え、あの苦戦したナッパを一瞬で消しとばすベジータには、とても太刀打ちできそうに無い。
 悟空は三人に戦場を離れるよう促した。クリリンも、悟飯もそれを承諾する。ヤムチャも
また界王拳の研究をしたいと思う反面、自分が足手纏いになることは解っているので渋々と
二人に同行する。その際、クリリンの場所を変えてくれという要求に悟空は頷いた。
「場所を変えるぜ」
「スキにしろ。同じことだ」
 悟空とベジータは超スピードで飛び去る。

 カメハウスを目指す三人は、途中で言い知れぬ不安感を感じる。
 それがベジータの破壊力を垣間見たゆえのものであることは解っていたし、悟空を信じて
いない訳ではないが、自分の見ていない所で物事が進んでいくということは更に不安感を煽
っていた。
「ボク、行ってみます!」
 言うが速いが、悟飯は悟空とベジータの気が感じられる方向へと飛び出した。
「待て悟飯! ヤムチャさん、悟飯を止めないと……!」
 クリリンはヤムチャを振り返るが、ヤムチャはわなわなと震えるだけだった。
「オレは……、オレは見物だけだからなっ!」
 悟空の息子であるのだから、悟飯もきっと活躍する。
 これ以上、孫一派に差を付けられてたまるか。

 自分が太刀打ちできる相手とは思えなかった。栽培マンを一撃でバラバラにし、あのナッ
パをも粉々にした破壊力、戦う場所を変える際に見せたスピード。全てがヤムチャを上回っ
ている。勝てるはずがない、と自分でも判断するような相手に向かって行くのは正に自殺行
為である。
 それでも、自分よりも幼い悟飯は向かって行った。師を敵の一派に殺され、戦っているの
が自分の父であるということもあるのだろうが、それでも悟空の元へ行くのは賢いと言える
選択ではない。
「オレは見物だけだからなっ!」
 自分がいたから勝てた、という事態になるほどの力はない。
 それでも、何かの役にはきっと立つ。
 ヤムチャもまた向かって行くのを見て、クリリンも戦地へと戻ることを決意した。

 悟空とベジータの気を辿り、ヤムチャたちが二人の近くを飛行している最中、
「な、なんだあれはっ!」
 ヤムチャたちの向かう方向に巨大な光の柱が立っている。
 ベジータのギャリック砲と、悟空が放った三倍の界王拳でのかめはめ波がぶつかり合って
いたのだった。
 想像を絶する力の拮抗は大地を、空気を揺らす。
「おいっ!」
「うわっ」
 着地した三人のもとにヤジロベーが姿を現した。
 舞空術を使えない彼は見物に来たはよかったが、悟空とベジータとの戦いから退避するこ
ともできず、影から見守っていたのだった。

「悟飯とクリリンは気功波で悟空の援護をするんだ」
「わかりました。ヤムチャさんは?」
「オレは操気弾で……と言いたい所だが気に余裕がない。頼む」
 悟飯とクリリンは頷くとその場を散った。
 二人が離れた直後、ヤムチャは全身を震わせる。
 ベジータを倒すのに、操気弾ではおそらく間に合わない。
 かつて、この技は何倍もの力量差を持った敵を破ったという。
 ピッコロと同じ力を持っているなら、自分にも使えるはずだ。
 指先に気を集中し、額へ。
「お、おまえ何しようってんだ……!」
 ヤムチャの気迫と指先に集中された気に、ヤジロベーは圧倒された。

「ぐ、ぐぬぬぬぬっ!」
 ギャリック砲と三倍界王拳のかめはめ波の威力は全くの互角。
 気を抜いた方がやられる、そんな状態だった。
 ドンッ!
 そんな状態のベジータを気功波が襲う。
「な、なにっ!?」
 目をやれば、そこにいたのはクリリンだった。
 更に反対から、悟飯の気功波が命中する。
「くっ、あの虫けらどもめっ!」
 ベジータの意識が逸れた瞬間、
「四倍だあ――――――――っ!!!!」

 かめはめ波が、完全にベジータを飲みこんだ。

 地球を破壊できるほどのエネルギーを身に受けながらも、まだ敵の気は消えない。
 ダメージを負った事は間違いないが、生きているだけでも驚異的な事だ。
「な、なんだ、おめえたち、帰ったんじゃ、なかったのか……」
 悟空のもとに、クリリンと悟飯、ヤジロベーが駆け寄る。自分の肉体の限界を超えた界王
拳の反動のために、悟空の身体にも大きなダメージがあった。
「悪いな、悟空。おまえは一対一で決着をつけたかったんだろうけどさ」
 クリリンが悟空の背をばしんと叩く。それほど力を込めたつもりは無かったが痛がり方が
半端でなかったので慌てて手を引っ込める。
 しばしの後、悟空の目つきが再び変わる。ベジータは、まだ生きている。
「おめえたち、今度こそ離れた方がいい。ヤジロベーを連れて、はやく」
 浮かれ気味だった二人も、口調や気迫から敵がまだ生きていることを悟る。二人はついさ
っきまで自分たちではどうしようもないほどの気のぶつかり合いを目にしている。たとえベ
ジータが大きなダメージを負っていても、まだまだ差は埋まっていないことは解っていた。

 降り立ったベジータは、月が無いことを知ると掌に光球を浮かべる。
「はじけて、まざれっ!」
 ベジータが光球を空に向けて投げる、と。
「させるかぁーっ!!」
 ヤムチャの最後の気を振り絞った魔貫光殺砲がベジータを狙う。
 誰よりも速く察知したベジータがヤムチャの攻撃をかわす。が、
「しまっ……!」
 パァン!
 魔貫光殺砲がベジータの作り出したパワーボールを破裂させる。

「くそったれがーっ!」
 ベジータが全身から放つエネルギーがクリリンを、悟飯を弾き飛ばす。距離をおいていた
ヤムチャが、次に放った衝撃波にて吹っ飛ばされる。
 パワーボールの精製のために消耗したとはいえ、その力にはまだ余裕があった。
「な、なんてヤツだ……。気はガクンと減ってるのに……」
 ヤムチャは対峙する悟空とベジータを他所に、倒れた二人のもとへ向かう。

「おい、二人とも、残った気をオレに渡すんだ」
 ベジータとの力量差を見ても、ヤムチャの目から戦意は失われていない。先のナッパ戦で
は情けない姿を見せてしまったが、今のヤムチャは違った。クリリンたちもヤムチャの強大
な意志を感じ取り、ヤムチャの手を取って気を送りこむ。
 隠れている三人の前で界王拳の反動で力の落ちた悟空がベジータに圧倒される。
 飛び出したいのは山々であったが、自分が出て行っても無駄だということは解っていた。
「う、うう、う……!」
 ヤムチャの手を取った悟飯の気が増大していく。
 悟空が痛めつけられることに対しての怒りが、悟飯の力を増大させている。ヤムチャはそ
んな悟飯の手を握り返した。
 修行生活を共にしていただけに、怒りも悔しさもよくわかる。その増大した力も全て受け
とって、戦いに挑む。怒りも悔しさも、全てぶつけてきてやる。

「だーっ!」
 ベジータの背中にヤムチャの魔光砲が命中する。
 悟空への攻撃に集中していたベジータは、ヤムチャの攻撃をまともに受けた。
「ゴミクズめ、まだ生きていやがったのか!」
 無数のエネルギー波が、ヤムチャに迫る。
 引いたら追い討ちを喰らうだけ。ヤムチャは前へと踏み出した。
 轟音。衝撃。
 ヤムチャの身体をそれらが走るが、それでも彼は止まらない。
「だっ!」
 ヤムチャの拳が、ベジータに叩きつけられる。

「すまねえヤムチャ、少し、もう少しだけ頑張ってくれ……」
 ベジータがヤムチャへと標的を変えたと見ると、悟空は両手を空に掲げた。

 ドドドドドドドドドォン!!!!
 光弾が次々に身体を掠めていく。
 いくつかは命中した。衣服も肉体もボロボロになる。
 敵の攻撃は速い。更に強い。
 だが、ヤムチャもまたスピードを武器とする者の一人だ。
 ピッコロや、他の仲間の無念まで背負っている。
 負けるわけにはいかなかった。
(この虫ケラに、あのナメック星人が重なって見えやがる……!)

 ヤムチャの頭脳に、ふと自分に、ナメック星人――ピッコロの影を見たとベジータの声が
聞こえたような気がした。
 最初こそただの思い違いだと思っていたが、それはだんだんはっきりとしてきた。

「はーっ!」
 ベジータのエネルギー波にヤムチャは吹き飛ばされる。

 戦いの手が読めるという訳ではない。戦闘民族であるサイヤ人のベジータの攻撃は本能の
ようなものであり、心が読めるからといってそれだけで戦闘を有利に運べる訳ではない。
 が、敵の心情が覗けるとことで敵の体力や精神、そういったものを知ることができる。
 敵は目で見ない限り自分の位置を知ることはできない。

「くらえっ!」
 ヤムチャは出せるだけの操気弾を浮かべた。
 ベジータはナッパと同じように、爆発波で操気弾を吹き飛ばす。
 ヤムチャもまた、その対応を読んでいた。
 敵の爆発を目眩ましに使い、一気に距離を縮める。
「いくぞ、新狼牙風風拳!」
 爆煙の中から現れたヤムチャの連撃が、ベジータの身体を捉えた。

 全力で立ち向かってはいるが、全てにおいて今のベジータにさえ劣っていることをヤムチ
ャは知っている。彼にできることは悟空のための時間稼ぎだけだ。
 悟空が大きな気を集めていることをヤムチャは察知していた。
 それに懸けるしかないことも解っていた。

 狼牙風風拳は初撃こそきまったものの、あっさりと見切られる。
「くたばれっ!」
 エネルギー波で吹っ飛ばされる。
 消費を避けているためか、ヤムチャの身体を撃ち抜くかと思われたその一撃はダメージを
与えるに留まった。
 自身のダメージも省みずベジータに突進する、その時。
「――――――!」
 視点がガクンと下がる。
 足払い。そう理解した時には拳が顔面に叩きつけられていた。

「……できたっ!」
 悟空の掌に巨大な気の塊、元気玉が浮かぶ。

 悟空はそのままキッとベジータを睨んだ。
 その近くにはヤムチャもいる。ヘタをすれば巻き添えを受けかねない。
 と、その刹那。
「どわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 ズンッ!
 ヤムチャへの攻撃に集中していたベジータがヤジロベーの奇襲を喰らう。
 そのままヤムチャを抱え、走り去る。
「だーっ!」
 隙を見逃さず、悟空は元気球を投げつけた。

「な、なにっ!?」
 ベジータは超スピードで接近する元気玉に驚くも紙一重で回避する。
「し、しまったぁっ!」
(ちくしょう、ヤムチャがいたら跳ね返してもらうこともできたのに!)
 悟空は自分の判断のミスを嘆く。
 悟飯も、クリリンもが絶望する中、ヤジロベーに抱えられたヤムチャだけはニヤリと笑う。
 悟空の心の声が、はっきりと聞き取れる。味方ならば、あの光球を跳ね返せる。
 それならば――。
「出て来い、操気弾!」
 ボゴォッ!
 地面を割り、元気玉が直進する先に操気弾が踊り出る。

 それはヤムチャがベジータへの奇襲の目眩ましに使った魔空包囲操気弾の一つ。
 いざという時の最後の一撃として爆発波の瞬間に一つだけ地中へと潜らせていたのだった。
 ヤムチャの気の塊である操気弾が元気玉とぶつかり、押し戻す。
 不意を突かれたベジータは動きを止める。
 反射される元気玉。
 そして、直撃。
「ざまあ、みやがれ……」

 ベジータは完成された元気玉を受けながらも、まだ死んではいなかった。戦闘ジャケット
から小型のリモコンを取り出し、宇宙船を呼び寄せた。
 逃がしてたまるか、とクリリンが気円斬の構えを取るが、悟空に制止されて動きを止めた。
 ベジータが乗った宇宙船が飛び立つ。
 自分たちは、勝った。
 疲労とダメージのために、ヤムチャはその場で意識を失った。


 ヤムチャが次に目覚めたのはベッドの上だった。寝起きだというのに、頭の中ははっき
りとしている。が、最後まで戦いを見届けた記憶がない。戦いの最中で気絶していたのだ
ろうということは想像できるが、結末の記憶がさっぱり抜け落ちている。自分がこうして
生きているのだから、勝敗については考えるべくもない。
 次に、自分の今置かれている状況について考えた。病院か、と思ったがそうでもないら
しい。ベッドの上にこそ寝かされてはいたが、薄暗い部屋に置かれた機械は病院のそれで
はないことは素人目にも理解できる。
 と、そこで自分が既にただの人間ではない存在になっていることを思い出す。詳しくは
分からないが、病院では判断のつかないほどに自分の身体は変調していたのかもしれない。
だとすると、ここは研究所などの類だろうか。
 眠っている間に自分の身体が調べられていたのだと思うといい気分はしない。体力も回
復している。扉に鍵がかかっていたとしても、破壊してしまえばいい。脱走は容易いはず
だ。
 扉は手動のようなので手をかけ、開く。神経質な人間を考慮してのことなのか音は極め
て小さい。逃げ出すことは思ったよりもさらに簡単なことのようだった。
「おや、もう目が覚めたのかい」
 部屋から一歩を踏み出したところで、誰かに声をかけられた。声のほうを振り向くと、
そこには白衣を纏った一人の男がいた。人のよさそうな顔の、眼鏡に髭。それらには見覚
えがあった。ヤムチャは男の名を呼ぶ。
「……ブリーフ、博士」

 その直後に言われた「ついておいで」の言葉通りにヤムチャはブリーフの後を歩く。科学
者であるブリーフ博士がいるということは、やはり自分がいる場所は何かの研究所なのだ
ろうか、などと考えを巡らせていると、突き当たりの扉の前で足が止まった。
 通された部屋はうって変わって明度が高く、イミテーションの観葉植物や座り心地の良
さげなソファが並べられている。休憩室であるらしいことがわかり、多少高まっていた緊
張をほぐす。
「まあ、かけなさい」
 穏やかにそう言うブリーフ博士の言葉通りにソファにかけると、目の前のガラスのテー
ブルに水が注がれたグラスを置かれる。浮かんでいるのは買い置きのものであるのか、不
定形のカットの氷だった。
「飲むかね?」
 返事もせず、ヤムチャはくいっとグラスの水を飲み干した。一杯の水だけで乾きどころ
か気になり始めていた小腹の空きも消えてしまう。
「単刀直入に言おうか。眠っている間に君と、その――ピッコロ大魔王のカラダを調べさ
せてもらったんだ」
「…………」 
 手の中のグラスを握ったままテーブルにそっと戻す。からん、と氷の動く音がした。
「君のカラダは極めて、ピッコロ大魔王――ナメック星人に近いものになっている」
 ぴきり。
 握り締めたままのガラスに、小さくヒビが入った。



 衝撃の告白を受けたその数日後。一度はピッコロの死により絶望的となった仲間たちの
蘇生の可能性を求め、彼らはナメックの星へと旅立つこととなった。ナメック星へ向かう
人員は当初クリリンとヤムチャ、それにブルマだけの予定であったのだが、それにさらに
悟飯が加わることになった。
 出発を数日後に控えた、その夜。
 ウィィィィン……。
 静かな電子音とともに自動ドアが開く。
「ヤムチャ、か?」
 棺のような大仰なベッドに固定された悟空がベッドの方へ顔を向ける。
「さすがだな。気は消しておいたつもりだったんだが」
 もう隠す必要は無いと思い、ヤムチャは足音を立ててベッドの近くまで歩み寄る。もし
病院関係者に見つかりそうになれば、その時は窓から脱出すれば良いだけのことだ。
「いってえ何のようだ?」
「とぼけるな。わかっているんじゃないのか。オレも、ピッコロ大魔王の子なんだぞ」
 す、とヤムチャが手刀に力を込め、そのまま振り下ろし――――、
 悟空の目前でぴた、と止まる。
「おめえ、強くなったな」
「そのつもりだった。だが……」
 サイヤ人との戦いにおいて、ナッパはおろか格下であるはずの栽培マンにすらダメージ
を負ってしまった。油断や慢心があったとはいえ、それは言い訳にすらなるものではない。
むしろ武道家としては恥ずべき点になる。
「頼む悟空、ナメック星に行くまでの間でいい。オレに界王拳を教えてくれ!」


 地球に逃れたナメック星人――カタッツの子が遺した宇宙船に乗り込み、地球を発って
およそ一ヶ月。一行はついにナメックの星へと到着した。
 宇宙船の中から見渡す限りに見える緑と、地球のそれとは成分が異なるのかやや緑がか
った海。かつて異常気象によってナメック人の大半は滅びたとそのとき気絶していたヤム
チャ以外の人間は聞いていたが、そんなことを感じさせないほどに穏やかな光景だった。
 ブルマが大気が存在しているか、もしくは存在しても人体に有毒な成分が含まれていな
いか、と調べようとする。
 ヤムチャはそれを無視して宇宙船の外へ出る。
 続いてクリリン、悟飯が続き、最後に何故か異様に不機嫌なブルマが何事か怒鳴りなが
ら外に出てきたが、それは耳に入らなかった。
 知らない、けれど知っている。

 君のカラダは極めて、ピッコロ大魔王――ナメック星人に近いものになっている。

 言葉にできない不思議な感覚。ヤムチャの頭にブリーフ博士の言葉が反芻される。
 未だ不機嫌なブルマと、怒りの訳が分かっていないクリリンと悟飯を振り返って威勢よ
くヤムチャは言った。
「さあ、ドラゴンボールをさがそうぜ!」

 レーダーにあったボールの反応を頼りにホイポイカプセルにしまっていた飛行機でのん
びり捜索しようと思っていた刹那のこと。
 キィィィィィィィン!
 反応とは別の所に球体のものが落ちていく。それがべジータの乗っていった宇宙船と同
型のものであることはすぐに見て取れた。
 ベジータも、目的を同じとしてナメック星に来ている。
 その事実がある今、のんびりとボール探索を楽しむ訳にはいかなくなった。

「どうなってるんだ、これは……」
 ブルマを手ごろな洞窟に残し、三人は反応のあった場所へと移動する。そこは小高い丘
に囲まれるような形の村だった。
 ピッコロや地球の神によく似た風貌を持つナメック星人たちが、ベジータたちが着てい
た戦闘ジャケットと同じものを纏う異形の異星人たちに囲まれている。その中心の三人の
うち脇の二人が抱えているのは、バスケットボールほどもあるドラゴンボール。
「ヤツらも目的は同じってことか?」
 気配を消しながら様子を伺う三人だが、惑星戦士の衣装と、感じられる気の邪悪さから
穏やかに事を済ませるつもりが無いことは分かっていた。
「あのスカウターってヤツが無ければ、操気弾でかく乱できるんだが……」

 ピピピピピピ……! 一人の戦士のスカウターがけたたましく鳴り響く。
「強い戦闘力が三つ……!」
「げっ」
 自分たちの存在が敵に知れたのかと思ったが、別の気を感じ三人は胸をなでおろす。
「今だっ!」
 直後、ヤムチャは操気弾を浮かべた。

 惑星戦士たちの中に三人のナメック人が降り立つ。一人は体格のいい物、一人は長身。
そしてもう一人がマントを羽織った若者である。
「ピッコロの服装のルーツってあれと同じなのか?」
 ややピントのずれた疑問が浮かんだが、本人もいなく真相は分からず。
「まあいいさ。下がってろ二人とも!」
 片手に操気弾を浮かべ、もう片手に気を込める。

 睨み合う三人と惑星戦士たち。
 ドォォォォォォォンッ!
 上空に爆発。
 何事かとその場の誰もが空を見上げた、その時。
 「うわっ!」「うげっ!」「ぐわっ!」惑星戦士たちの悲鳴が響く。
「な、何だっ!」
 真ん中の三人の内のピンクの肌をした巨漢が叫ぶ。
 緑の肌をした美青年の風貌を持つ戦士も光球の襲撃を受けるも、紙一重で回避する。
「まずいぞザーボン! スカウターがやられた!」
 巨漢が傍らの緑の肌をした戦士ザーボンに向けて叫ぶ。
 不意を突かれた戦士たちは為す術も無く操気弾の餌食となっていく。

 そこへヤムチャが躍り出た。
「急げ! みんな逃げるんだーっ!」

「いったい何者だ……」
 ピンクの巨漢が操気弾を握りつぶす。
「はやくしろっ! その子たちも巻き込む気か!」
 ヤムチャの言葉にナメックの村人たちは怯えた二人の子供を見やる。
「ドラゴンボールはあきらめるんじゃ! どうせ願いを叶えることなどできん!」
 長老と思しきナメックの老人が叫ぶ。
 その言葉に、村人たちが頷き、飛び立った。

「何をしているんです! 追いなさい、ドドリアさん!」
 突然の出来事に呆然としていた所に、脇にいた小柄な異星人の檄が飛ぶ。
 びくり、と反応をしてからドドリアは最大速で飛び立った。

「この子たちと、長老たちを頼む」
「え、ちょっ、何を言って……」
 抱えていた二人の子供をクリリンに渡し、マントを羽織った若者が停止する。
 何事か話したようであったが、クリリンには聞こえなかった。

 ドォォォォォォォォォォォン…………ッ!
 遥か後方――おそらくは、若者が居た辺り――が、爆ぜた。


 誰もが言葉を失った。
 追手が来るであろうことは予想できたが、振り切れるものだと思い込んでいた。それだ
けでもさらに衝撃であったというのに、若者の一人が自爆によって活路を開くということ
は夢にも思いはしていなかった。
「バカめ……、命を粗末にしおって……」
 一人の老人がポツリと漏らす。
「みんな、地上へ降りるんだーっ!」
 託された子供を抱えていたクリリンが叫ぶ。爆風は確かにドドリアを捕らえていたはず
だった。だというのに、ドドリアの気は衰えを見せてはいない。彼のやったことはせいぜ
い目晦まし程度のものであったに過ぎない。

「くっそー! やつら、この隙に逃げやがったのか!」
 ドドリアが叫ぶ。しばらく飛び回っていたかと思うと、彼はそのまま引き返して行った。
 何手かに分かれて岩陰に隠れていた一行は一息つく。
 と、

 ドォォォォォォォォンッ!

「な、なんだと……?」
 ひと塊になっていたナメックの老人のグループを爆風が襲った。

「こりゃ、民族大移動ってヤツか?」
 そこには、紫の肌に先端のへこんだ突起が頭部に二つ付いている容貌をした惑星戦士キ
ュイが立っていた。

「また別に追手がいたのか!」
「なんのことだ? オレはキサマらなんぞに用はないんだがな」
 言葉とは裏腹に、見逃してくれるという気配は無い。三人はキュイの気を探る。地球で
戦ったベジータに匹敵するかのような実力が推し量られる。
 宇宙船の中で多少のトレーニングを積んだとはいえ、まだまだベジータはおろか、ナッ
パの足元にも及ばないレベルの実力である三人には、絶望的な状況であった。

「見逃してはくれないようだな」
「まあな。怪しいヤツはすべて抹殺せよとの命令なんでな」

 敵の態度は高圧的。スカウターを通して見ている戦闘力がナメックの若者二人がようや
く1000前後という程度なのだから、18000近くの数値を持つ彼からすれば当たり前といえ
ば当たり前だった。

「君たちは長老たちと子供をつれて逃げろ」
「ここは我々が引き受ける」

 ナメックの若者二人が地球からの一行に耳打ちする。
 相手の実力を測ることができる悟飯とヤムチャはそれを断った。

「悟飯、おまえはナメック星人たちをブルマの所へ連れて行くんだ
 ここは――」
 ヤムチャはキュイを睨みつけ、

「オレたちがやる」


「仲間への最後のあいさつは済んだのか?」
 キュイが嘲笑うかのごとき声でヤムチャたちに目をやる。
 油断――。
 勝機があるとしたら、今のうちしかない。
「行け悟飯っ!」
 クリリンが叫ぶとほぼ同時に、悟飯は二人の子供の手を引いて飛び出す。
 それを合図として長老たちも飛び去った。
 ニヤ、とキュイが嫌らしく笑う。
 ゆっくりと掌を一行へ。
「かあっ!」
 ボンッ!
 エネルギー波がキュイの腹部をとらえた。
 間隙を入れずナメックの若者が蹴りを叩き込む。
 クリリン、ヤムチャが両脇に回り気功波と魔光砲をぶつける。

「あんたたち、一緒に行ったんじゃなかったのか」
「いや、確かに長老たちは心配だったがな……」
「しゃべっている暇はないようだぞ」

 煙が晴れる。
 キュイはたじろぐことも無くその場に立っていた。
 ダメージを受けた様子はない。
 変化といえばスカウターが破損し、戦闘ジャケットが多少傷ついた程度。

「おいおい、今度はオレの番でいいのか?」

「珍しいヤツらだ。戦闘力がアップしやがった」
 キュイの蹴りに一人の若者、次いで突きにクリリンが吹っ飛ばされる。
 もしその気ならば今の一撃で二人の命は絶たれていたはずだが、幸いにもダメージこそ
負ったものの二人は立ち上がった。
「そうこなくっちゃな。少しは楽しませてもらうぜ」

「あいつ、遊んでやがる……!」
「これほどまでとは……」
 ヤムチャともう一人の若者はキュイとの実力差に攻めあぐねていた。
 魔貫光殺砲ならばキュイの体を貫くことはできる。だが溜めに時間がかかる。
 敵がその間待っていてくれるとは考えられない。
 クリリンにも一撃必殺の気円斬があるが、同様の理由から繰り出すことができない。

 操気弾を飛ばすもキュイはエネルギー弾であっさりと相殺する。
 背後から襲うエネルギー波も避けるそぶりも無く受け切った。
「うおおおおおっ!」
 ほぼヤケクソのようにクリリンが吼え、突撃。
 笑みを浮かべたままキュイは構える。
 突撃しつつも、両の手を額へ――――。

「太陽拳!」

 眩いまでの光がキュイの網膜を貫く。
「うっ、きさまぁっ!」
 目の眩んで視界が閉ざされたキュイは拳や脚を振り回す。
「今だ、ヤムチャさん!」
 後ろへ飛びながらクリリンは叫ぶ。
 阿吽の呼吸でヤムチャは既に魔貫光殺砲の構えを取っていた。
「受けてみろ!」
 ヤムチャの指先のエネルギーがキュイを貫通する。

「ぐ、こ、こいつ……」
 キュイは腹部を貫かれながらもまだ意識を保っていた。異星人ならではの驚異的な生命
力にその場の四人は驚かされる。
「さ、さすがにアタマにきたぜ……」
 ヤムチャが狼牙風風拳で襲い掛かるもそれをいなし、同時に飛び出した三人も返り討ち
に遭う。
 ダメージで戦闘力が落ちているのは明白だった。

 ヤムチャはエネルギー弾を自身の力のありったけ放つ。
「行け、魔空包囲操気弾!」
 無数の操気弾が次々にキュイにぶつかっていく。
 一撃一撃のダメージは浅い。
 それでも操気弾は止まらない。
 浅いが、確実にキュイの生命を削っていく。

 一方で、クリリンは空に手をかざす。
 円盤状のエネルギーが掌の上に生じた。
 腹を貫通しても命を失わない。
 ならば、敵の身体を断ち切ってしまうしかない。
 幸いにもヤムチャのおかげでキュイの動きは止められている。
「気円斬!」

「――な、に?」
 最後に見たのは、首と離れた自分の身体。
 思わぬ奇襲。
 キュイは、それを理解できなかった。


 キュイを倒した四人は先行してブルマの元へと戻った悟飯たちと合流した。ともに戦っ
たナメックの若者二人ののっぽはツムリー、恰幅のいい方はマイーマと名乗った。地球か
らの一行よりも勝る実力を持っていながらも彼らは戦闘型のナメック人ではないという。
 長老に問われ、ヤムチャたちは長老たちにナメックを訪問した理由を話す。今度はナメ
ック側が驚く番であった。異常気象によって絶滅寸前にまで追い込まれていたと思われて
いたナメック人が、名前も知らないような土地にさえも渡って生きていたのだから。

 長老はヤムチャたちを一人づつ見、口を開いた。
「最長老のもとへ行きなさい。きっと力になってくださる」
 長老が言うには、その最長老が今のナメックの始祖とも言える人物なのだという。今ナ
メック星で輝きを持ったドラゴンボールは最長老の手によるものだという。

「ツムリー、マイーマ、おまえたちもついて行ってあげなさい。それと……」
 長老は若い腕を取り、自分の胸に当てる。
 と、
 突如眩いまでの光に身体が包まれ、長老の姿が消え去る。
 若者は呆然として立ち尽くしていた。
 その腕を取り、一人、また一人と老人たちが消え去っていく。
 ブルマは何が起こっているのかわからない、と言った顔をしていたが、ヤムチャたち三
人はその長老たちの行為が意味する所を理解していた。
 わずかずつではあるが、二人の気が増していく。つまり――。

 若者に、すべてを託しているのだと。

「大きな気が、二つ、いや三つか?」
 遥か遠くを見ながら、クリリンがつぶやく。
 敵の位置が不明である以上、大きく力を使うような高速移動はできない。そのために最
長老のもとへ行くのは全員ではなくキュイと戦った四人だけ、しかも不運にも悟飯とブル
マ、それに同化に加わらなかった子供たちを残してきた洞窟からは歩いても三十日はかか
るという距離であった。
「しかもそのうち一つは俺たちも知ってるあいつだ」
 ヤムチャの言葉に二人は同じ男を思い浮かべる。戦っているのはベジータ。相手はおそ
らくドドリアとザーボンの二人組み。
「仲間割れだろうか」
「どうでもいいだろう。これはチャンスだ」
 ツムリー、マイーマがそれぞれクリリンとヤムチャの腕を引き、
「飛ばすぞ!」


「くっ!」
 地面に叩き付けられたザーボンがベジータを睨む。
 ドドリアも豪腕を振るって掴み掛かるも逆にカウンターを受け、吹っ飛ばされる。
「はっはっは、情けねえもんだぜ」
 勝ち誇るようにベジータが言い放つ。

「はあっ!」
 ザーボンが極大のエネルギー波を発射。
 ベジータはそれを難なく避ける。
 ガッ!
「なにっ!」
 驚きの声を上げたのは避けたはずのベジータ。
 その腕をドドリアが掴んでいた。

「つかまえたぜ……」
 にやり、と小気味よさそうにドドリアの唇が歪む。
「ちっ!」
 ベジータはドドリアの巨体ごと腕を振り回すが、ドドリアはそれを離さない。
 エネルギー波で吹き飛ばそうにもドドリアごと自分の腕を吹き飛ばしかねない。
 ドゴォッ!
 ザーボンの踵落しが叩きつけられる。
 戦闘力で上回っているとはいえ、完全に不意を突かれた形になる。
「くたばれっ!」
「うおおおおおおおっ!」
 上空からの二人のエネルギー砲がベジータに降り注ぐ。



「ここがその最長老さんの家なのか?」
 塔のように鋭角に切り立った崖の頂点にそれはあった。形状は地球から乗ってきた宇宙
船に酷似した形をしており、よく見れば表面にはうっすらと苔らしきものが生えている。
「やばいなあ。やたら目立つ場所じゃないか」
「仕方あるまい。最長老様はナメック中を見渡せる場所におられるのだ。
 そして、かなりの高齢で下手に動くこともできん」
 クリリンとマイーマが会話をしていると、目の前の扉が開く。中から現れたのはピッコ
ロとよく似た外見のナメック人だった。
 力を抑えているのはすぐに見て取れたが、そのままでさえも戦って勝てる相手とは思え
ない。底が、知れない。戦士型の力に、地球の二人は絶句する。
 その人物は、ゆっくりと口を開いた。
「よく来たな。ツムリー、マイーマ」

 ネイルというらしいナメック人の戦士に言われるがままに一行は最長老の家へと足を踏
み入れる。壁につと触れてみると、やはりと言うべきか地球からの宇宙船と全く同じ材質
で造られているようであった。
 踏み入れた先には大部屋が一つだけ。天井の中心には大きな穴が開いていて、そこから
二階への移動をする。飛行能力を先天的に有するナメック人にとって、階段という概念は
存在しないようだ。
 ネイルに続き、ツムリー、マイーマ、次いでヤムチャとクリリンが二階へ。
「……な」
「で、でかい……」
 二階に上った二人の目の前には年老いたナメック星人が一人。椅子に腰掛けているとい
うのに、クリリンはおろかヤムチャよりもさらに上に目線がある。ナメックの始祖、とい
う名が示す通りに長い年月を生きてきたことを見るからに感じさせる佇まいだった。
「ようこそ、あなたたちは地球人ですね」
 その巨体に似合わないほどの、穏やかな声。
 声があまりに慈愛を含んだものであったので、二人の緊張もほぐれた。
「わたしの子供たちを助けていただいてありがとうございます」
 最長老の言葉とともにツムリー、マイーマも頭を下げる。助けられなかった人もいたこ
ともあって二人はどう返事したものかと目を泳がせた。

 二人は最長老にナメック星へ訪れた訳を話す。先のツムリーたちと同じように、最長老
もまた地球に逃れたナメック星人がいたことに驚きを隠せない様子だった。

「あなたの持っているドラゴンボールを、オレたちにゆずっていただけませんか?」
 ヤムチャが切り出す。
 皺のせいで全く読み取れないが、表情をやや変化させたらしい最長老がやや曇りがちな
声で返した。
「……いいでしょう。
 あなたたちの望みは邪悪なものではありませんし、このドラゴンボールはさし上げます。
 ですがおそらく願いを叶えることはできないでしょう……」
「な、何をおっしゃるんですか!?」
 思わず声を荒げたのはヤムチャたちではなくマイーマだった。ナメックの味方がいる以上、
ボールさえそろえることができれば願いを叶えることは可能である。どんなに時間をかけて
でもボールを奪うことさえできれば……。
 最長老の言葉の意味を解っていたのはナメック人だけだった。
 時間をかける、ということがもう不可能なのだと。
「ところで、あなたたちにはまだ眠っている力がおありになる……」
 最長老が二人の額にその大きな掌を当てる。

「!!」

 ナメック特有の緑がかったオーラが二人の身体を包み――。
「力があふれてきたーっ!」
「す、すげえ!」
 年甲斐もなく大声をあげて喜ぶ地球戦士二人。自己の鍛錬のみでは行き詰っていた所で
あったのだから、ある種その喜びは当然のことであった。
 最長老の言葉によると、力を引き出すのはあくまでもきっかけであり、対象はどんなも
のでも良く、また最長老の命を削るほどのことでもない。二人は真っ先に悟飯のことを思
い浮かべた。
 自分たちを遥かに凌ぐ力を秘めていることは想像に難くない。
 まだ子供とはいえ戦闘民族サイヤ人の血を引き――、
 そして、何よりも孫悟空の血を引いている。

 ツムリー、マイーマもまた最長老によって力を引き出してもらった。戦闘型ではないと
はいえ、彼らもまたネイルの兄弟であり、ナメック闘技の因子を身体に持っている。さら
に長老たちとの同化によって二人の力は大きく底上げされていた。
「まだネイルさんには及ばないが、われわれも力になろう」
「え? だって最長老さんを守らなくていいのか?」
「たしかにそうしたいところだが、君たちには借りがある」
 最長老のもとには最強のネイルがいる。絶対の信頼を置いているからこそ、もっとも大
事な最長老のもとを離れられる。
「わかった。よろしく頼む」
 そこで、改めて彼らは硬い握手を交わした。

 ドォン!

 爆音。
 不意に、最長老のいるフロアの壁が破られた。
「へへへ、こんなところじゃ隠れたとは言えねえな……」
 そこに現れたのは、ピンクの巨漢と、緑の美青年。
 ザーボンと、ドドリアの二人であった。
「おまえたち、ここをどこだか分かっているのか」
 ずい、とネイルが一歩前に出る。
 怒りを隠すつもりもなく、最長老がその場にいなければ戦闘になることは必至だった。
 ネイルの前に、ヤムチャたちが踏み出す。
「あんたの役目は、最長老さんを守ることだろう」

「場所を変えさせてもらうぜ」
 ドッ!
 言うが速いがヤムチャの放った衝撃波がドドリアを突き飛ばす。
「ぐおっ!」
 ドドリアは以前の操気弾でヤムチャの実力を知っているつもりでいた。
 そのため、防御の暇もなくあっさりと吹き飛ばされた。
「きさまっ」
 バキィッ!
 飛び掛ろうとしたザーボンにクリリンが蹴り飛ばす。
 ツムリー、マイーマの両名も力を全開にして敵に向かった。
 連続で二方向から襲ってくるエネルギー波。
 ザーボンもドドリアも回避で手一杯になる。

「……どうやったのかは知らんが、パワーアップしているようだな」
 埃を払うような仕草とともにザーボンが口を開く。
 その声に、表情にはもう油断はない。
「へへ、おまえらザーボンを怒らせちまったようだな……」
 同じく油断の消えたドドリアもまた、余裕を持った笑みを浮かべる。
 逆に、ヤムチャたちは焦りを感じた。
 力を引き出してもらって、確かに強くなった。
 化け物としか思えなかった敵とも現に渡り合えている。

 ――だが、まだ敵の方が上回っている。

「このままでは少々やっかいなことになりそうだからな……」
 ザーボンが両腕を横に広げる、と。
 ボンッ!
 何かが弾ける音。
 ザーボンの腕が、体が膨れ上がり、
 その美しい顔は醜悪な、文字通りの化け物へ――。

「な、あ……」
 ビリビリとした気迫。
 力が、さらに膨れ上がった。
 クリリンは敵との力量差に金縛りのような錯覚を覚える。
 あがいても、敵わない。
「クリリン、おまえはツムリーたちとあっちのヤツを倒してくれ」
「え? ヤムチャさんは?」
「オレは――――」

 頼む悟空、ナメック星に行くまでの間でいい。オレに界王拳を教えてくれ!

「オレは、あいつをなんとかする」
 結局、ナメック星に行くまでの間には会得できなかった。
 少し落ち込んだりもしたが、悟空でさえも百日近くもかかったような技。自分がそんな
に軽々しく使えるようになる訳は無いとわかっていた。
 だが、限界までの力を引き出された今なら。

 ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ……!!

 ヤムチャの気が膨れ上がる。
 それに呼応するかのように周囲の空気が揺れる。
「さすがに、けっこうきついぜ」
 気を抜けば、あっという間に身体がズタズタになる。
 膨れ上がる力を、自分で抑えられる程度にうまく調節しなければならない。
 さらにその状態で戦闘、すなわち敵にも注意を払う。
「何をしたところで、変身したこのわたしに勝てるつもりかっ!」
 クリリンの離脱とともに、ザーボンが飛び出す。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
 狼が、吼えた。

「ばっ!」
 クリリンがドドリアに向けてエネルギー波を放つ。
「ふんっ!」
 あざ笑うようにしてドドリアはそれを飛び越え――、
 ドゥンッ!
「な、なんだと……」
 エネルギー波が曲がった。
 直線的でない攻撃は予想だにしていなかった。
 ドドリアに僅かな動揺が生まれる。
「はっ!」
「はあっ!」
 動きを止めた瞬間、
「しまっ……」
 ツムリー、マイーマの全力の砲火が撃ち抜く。

 向かってきたザーボンが拳を大きく振り上げる。
 受けるか、避けるか。
 ヤムチャはそのどちらも選ばない。
 一歩、踏み出で、
「だっ!」
 顎を思い切り突き挙げる。
 が、ザーボンは踏み止まった。
 両腕を広げて掴みにかかる。
「……!?」
 ヤムチャはそこにいなかった。
「足元がお留守だぜ!」
 ザーボンの足元をすくう。
 その巨躯が倒れる。
 ヤムチャは間を空けず魔光砲を放った。

「何てことだ……。この、このわたしがっ!」
 ザーボンがふらふらと立ち上がる。
 度重なる攻撃を受け、戦闘ジャケットには無数の亀裂、節々から毒々しい青い血が流れ
落ち、整えられていた髪はボサボサに乱れ、もとの美しい姿は既に見る影もない。
 ヤムチャは無言で操気弾を浮かべる。
 既に自分が制御できる限界、戦闘力に換算すれば三倍程度までの力を引き出している。
 下手に長引かせることができないのは自分でも分かっていた。
「おのれぇっ!」
 残ったすべての力を込め、ザーボンが突進する。
「遅いっ!」
 ヒュンッ!
 風切り音。
 手元の操気弾は既に消え、
「が、あぁっ!」
 醜い巨体が吹っ飛んだ。

「どうする? おまえの仲間はやられたようだぞ」
 エネルギー波が貫通しながらもまだ息のあるドドリアにマイーマが問いかける。
「な、あのザーボンが……」
 自分を上回るザーボンが倒れたことは、ドドリアにとって大きな衝撃であった。
 数の上では四対一。さらに自分は深刻なダメージを受けている。
「ち、ちくしょおおおおおぉぉぉぉぉっ!」
 ここで逃げ延びても、主であるフリーザに処断されるのは目に見えている。
 ならば、せめて相打ちを覚悟して――、

「太陽拳!」

 クリリンが眩いまでの光を放射する。
 発作的にドドリアの瞳は閉じられ、
 三方向からのエネルギー波がドドリアの姿をかき消した。


 ザーボン、ドドリアを倒した一行は星一つのドラゴンボールを持って悟飯たちを待たせ
ている洞穴へと戻ることにした。少なくともそれを死守すれば敵が願いをかなえてしまう
という最悪の事態は防ぐことができる。
「そういえばヤムチャさん、さっきのって」
 敵の目に見つかることのない程度の速度で飛行しながら、クリリンがヤムチャに問いか
けた。
「ああ。界王拳だ」
 ヤムチャは得意げな笑みを浮かべて返す。彼は自分で使うことができたのがよほど嬉し
かったらしく、その後気のコントロールの難しさやら自分で引き出すことのできる力の凄
さやらを語った。もちろんクリリンは「はいはい……」と途中から受け流していたが。
 そうこうしている内に、一行は前方から大きな気が一つ、自分たちの方へと向かってき
ていることに気づく。気の主が誰かはすぐに判別できた。仲間たちの命を奪い、今ここへ
自分たちと同じ目的で来ているのであろう、あのサイヤ人。
「あいつ……やっぱり生きてやがった」
 クリリンが震えるような声を出す。まっすぐ自分たちの方へ向かってきているというこ
とは、偶然ではなく目的は自分たち。
「おそらくスカウターとかいう機械で先ほどの戦いから察知していたのだろう」
 敵が迫っているというのに冷静に話すツムリー。マイーマにもさほど慌てている様子は
ない。彼らには気を感じる力はない。それ故に判断をヤムチャたちに任せるつもりであっ
た。
「……隠れよう」
 あいつは、もっと強くなっている。

 近くの岩山の物陰へと身を滑り込ませ、敵が通り過ぎるのを待つ。もちろん自分たちの
位置を察知させないよう気を完全に消すことも忘れない。
「来たっ!」
 強烈に禍々しい気を纏い、憎き仇はその姿を見せた。先の戦闘によるものなのか戦闘ジ
ャケットはいくらか破損しているものの、今既に発散させている気は地球で戦ったときの
それよりも遥かに強さを増している。その底の知れない力の深さにクリリンは痺れたよう
に動けなくなる。
「……ぜったいに見つかりっこない……よな?」
 自信なさげにヤムチャが三人に問いかける。なぜなら、その顔にあるはずのスカウター
が無い。
 絶望的な解答が導き出されるのを、クリリンとヤムチャは懸命に振り払った。
 ただの偶然で近くに現れただけならば――、そう考えたい所であったが、
「出てこい! いるのはわかっているぞ!」

 予感は当たったらしい。
 敵は、自分たちと同じ技術を身につけている。

 掌にエネルギーが凝縮される。
 気を極端に小さくしている今では、間違いなく大きなダメージを負うことになる。
 ここで全滅をすることだけは避けねばならない。
「待てっ!」
 ヤムチャが躍り出た。

 ヤムチャが気づかれないように目配せをする。
 自分が時間稼ぎをしているうちに悟飯を連れて来るようにと。
「ほう、やはりきさまか。地球人」
 愉快そうにベジータは笑った。
 地球でのそれよりは遥かに縮まったとはいえ、力の差は完全に埋まったわけではない。
 加えて、ザーボンとの戦いでヤムチャもいくらか消耗状態にあった。
「カカロットもこの星に来ているのか?」
 少し答えあぐねる。が、嘘をついた所で牽制になるわけでもない。
 ヤムチャは首を振った。
「ドラゴンボールを持っているだろう。それをこのオレによこすんだな」
「なっ!」
「ふざけるなっ!」
 ベジータの言葉にツムリーが飛び出す。
 マイーマはクリリンと共に行ったらしく、姿は見えなかった。
「なるほど。ナメック星人と手を組んでいたのか」
 ヤムチャは心の中で舌打ちをした。
 自分たちよりも大きな力を持つツムリー、マイーマの存在はある種の切り札であった。
 下手に刺激してここで倒れられることは、ヤムチャにとっても大きな痛手である。
「よせ、オレたちの敵う相手じゃない」
 ツムリーを制し、ヤムチャは岩陰に隠していたボールを手に取る。
 ――すまない、最長老さん。
 さっそくボールを守るという約束を破棄してしまうことに悔しさを感じたが、渡さなけ
ればここで自分たちが殺される。

「これを渡せば、見逃してくれるな?」
「……ふん、まあいいだろう。カスと遊んでいるヒマはない」
 ヤムチャは足元にボールを置いた。
「行こう、ツムリー」

 ヤムチャが飛び去ろうとしたその時、
「!」
 強烈な――それこそ、目の前の敵を遥かにに上回るほどの――気が感じられた。
 それも、一つではなく複数。
 ベジータのほうに目をやれば、彼もワナワナと身体を震わせていた。
「フリーザの野郎、ギニュー特戦隊を呼びやがった!」
 次に、キッとヤムチャたちを睨めつけ、
「きさまら! 死にたくなかったら今すぐ最後のボールのありかを教えろ!」
 ヤムチャたちは何が起こったのか解らず固まる。
 敵の強大な気、ベジータの取り乱しぶりから新手の強大な敵が現れたということが見て
取れる。それと同時に理解した。残念ながら、自分たちでは歯が立たないことを。
「早くしろ! ナメック星人には手を出さん!」
「……ちっ!」
 大きく舌打ちし、ツムリーの先導で最後のボールを護る村へ。 

 一方、時間は数時間前にさかのぼる。
 ヤムチャたちが最長老のもとへ向かったその直後、レーダーに反応した無事に残ってい
るらしいひとつのボールを求め、そちらに向かっていた。ナメックの二人の子、デンデと
カルゴの案内によると、ボールを得るには長老に認められる必要があるという。
「悟飯さん、ボクも行きます」
 カルゴが進み出た。悟飯とブルマは危険だと渋ったが、子供とはいえナメック星人の力
添えがあった方がボールの入手が容易になることは明らかである。
 デンデも含んだ三人がどんなに言ってもカルゴは譲らない。あの時助けてもらってなけ
れば死んでいたのだから、恩返しをしたいと。
「……わかった。ボクにしっかりつかまってて」


 その村は、侵略者の影も知らず昨日と変わらない今日を迎えようとしていた。日の昇り
と共に目覚め、老人たちはナメックにしか生えない特殊な樹アジッサを植え、子供たちは
その手伝いをしながらナメックの喜びを知る。
 水を得ることができれば、何十、何百年と彼らは生き永らえることができる。だからな
のか、同じく水を必要とする植物――中でももっとも美しく、強く生命を宿すアジッサを
彼らは愛した。
「……何者かが、近づいておる」
 ほぼ見よう見まねに近い子供たちの畑仕事を見守っていたツーノ長老が低くつぶやく。
 その直後、カルゴを抱えた悟飯が村の中心に降り立った。
「だれじゃな、おまえは」
 腰掛けていた椅子から膝を起こし、ツーノは悟飯に尋ねる。ナメックの子供を連れてい
るとはいえ、彼の声には多少の警戒が込められていた。
 長老には心の底を見透かす力があった。それが彼を長老足らしめる一因であったのだが、
それを除いてもツーノというナメック人は慎重にして厳粛、村の人間が皆長老として認め
るようなナメック人だった。
「あの、ボク孫悟飯といいます」
 ぺこり、と丁寧に固まったお辞儀をする。「えらいひと」の前では、失礼の無いように
しなければいけない。ピッコロとの生活が長くとも悟飯の中にはしっかりとチチの教えは
根付いていたようである。
「そちらの子は、ムーリの所のカルゴか」
「は、はい。はじめまして……」
 カルゴも悟飯に倣ってぺこり。


「……というわけなんです」
 ドラゴンボールを求める理由を問われ、悟飯は拙い言葉ながらも一生懸命説明した。
 その間、ツーノはじっと悟飯の目を見つめていた。仮に嘘をついていたとしたら、心の
奥に潜む邪念を確実にツーノは見逃さない。
 が、そのような懐疑は杞憂であった。緊張していた面持ちはどこへ行ったやら、悟飯は
逆に睨むほどの勢いでツーノの両の眼を見返していた。地球に生き残ったナメック星人の
話については、逆にツーノのほうが面食らったほどである。
 悟飯がすべてを語り終えた後、やや考えた後でツーノは口を開いた。
「いいじゃろう。ボールは持っていくがいい。それと……」
 ツーノはカルゴに手招きする。ゆっくりと長老の手元に来たカルゴの手を、別の老人が
つかんだ。急のことに少し慌てるカルゴ。
「落ち着きなさい。カルゴにもナメックの力を与えるだけじゃ」
「え……?」
 言うとともに、カルゴの身体が不思議な緑の光で包まれる。それはまるで最長老が力を
引き出すときの光に似ていた。
「最長老様には遠く及ばんがな」
 言葉とともに、カルゴの光は消える。まるで初めてそれを見たかのようにカルゴは両掌
を交互に見渡す。悟飯からは別段変わったところは見当たらない。外見が変わったわけで
もなければ、内在する気が膨れ上がったわけでもない。
「悟飯さん、ちょっといいですか?」
 カルゴは悟飯の手をとった。

 ズァ……ッ!
 空気が揺れる。
「おお……」
 長老たちは目を見張った。
 カルゴの見せた力、それはまさしく――――――

 最長老と同じものであったのだから。

「あ、あれ?」
 現われかけた光はすぐに消えた。
 もう一度同じようにやってみるが、やはりうまくいかない。
「まだ力を扱うのに慣れておらんようじゃな」
 ツーノはカルゴの手をとった。その手はやや震えていた。
「地球の方、すまないがこの子の練習台となってあげてくださらんか」
 悟飯は快く頷く。カルゴの力とやらがどのように作用するのか見当もつかないが、長老
や周りの老人の様子から自分に何かしらの悪影響を及ぼすものではないと判断できる。
 もっともその後、カルゴによる力の解放は数時間にも昇り後悔する羽目になるのだが。

 悟飯の力がようやく全て解放されたとき、悟飯もまた邪悪な気がナメック星に降り立つ
のを感じた。長老たちに避難を呼びかけるが、ツーノは頑なに首を縦に振らない。自分た
ちはアジッサを最後まで見守る義務があるのだと。
「……だれか来る!」
 言葉とともに降り立ったのはクリリンとマイーマ。
「あれ? なんでおまえの気が大きくなってるんだ?」
 クリリンの疑問に悟飯は子供らしく得意げな笑みを見せる。

 悟飯が自分のパワーアップについての説明を終えると、マイーマがその腕をつかんだ。
「手間が省けた。ヤムチャたちを助けに行こう」
「カルゴは?」
「ボクもここに残ります。もう、村はここしかない……」
 その言葉に、マイーマの瞳が厳しくなる。
 ナメックの平穏を踏みにじり、至高の宝ともいえるドラゴンボールを次々に奪っていく
惑星戦士への憤怒に、カルゴの言葉が火をつけた。
「はあっ!」
 出せる限りの全力でもと来た道を引き返していく。
 腕をつかまれた悟飯はともかく、クリリンは置いてきぼりにされかけた。

「むっ!?」
 その途中、ツーノの村を目指していたベジータたちと遭遇する。
「どうなってんだ?」
 クリリンの頭に疑問が浮かぶが、ヤムチャたちは説明している暇はない、とクリリンた
ちをさらに引っ張っていく。

 行ったり来たりを繰り返し、ベジータがフリーザたちから奪ったドラゴンボールも含め
て七つ全てが揃ったかと思われた、まさにそのとき。
「……くそったれ……!」
 五人の新手の惑星戦士たちが、ヤムチャたち五人の前に立ちふさがった。


見えなかった。
 眼前に立ちふさがる五人の圧力が、重くのしかかる。
 ふと目をやれば、クリリンが震えているのが写る。
 平常心を保っていられているのはベジータだけのようだった。
 敵の力を感じ取る力を持たないナメックの二人も圧されている。

 ヤムチャたち全員が特戦隊の不気味なまでの迫力を捉えていた。
 格が、違う。
 力が伸びたことがかえって仇となったと思えるくらいに。

「ちっ」
 舌打ちをし、構えを取る。
「お? やろうってのか?」
 後ろに控えていた長身の青い肌のバータがせせら笑うように言う。

 ――油断!
「はあっ!」
 三倍界王拳の拳が、その顔面を捉える――はずだった。
「な、なに……?」
 手ごたえは、ない。
 ヤムチャはありえない、といった顔つきで自分の腕を見た。
 全力で向かったはずの拳は、確かに真っ直ぐに伸びている。

 なのに、何故。
 自分は、地面に叩きつけられている!?

「いったい何が起こったのか、といったところか」
 真ん中に立っていた紫肌の男が、倒れたヤムチャの視界に入る。
「このバータは我ら特戦隊、いや宇宙一のスピードを持っているのだ」
 男の声を聞きながら、ヤムチャは思う。
 隙がない。
 構えをとっているわけでも、自分に警戒しているわけでもないのに。

「くそったれ!」
 ベジータがエネルギー波を放つ。
 自分も巻き添えを受ける、そう思ったヤムチャは両腕で防御の姿勢に。
「とおっ!」
 やけに芝居がかった大げさな動きで、パイナップル頭の巨体がそれをかき消す。

「な、なんてヤツらだ……!」
 マイーマがぎり、と歯を食いしばる。
 ヤムチャが容易く倒され、巨大なエネルギーを軽く吹き消す。
 自分たちがかかっても、敵を倒せるとは思えない。
「……や、やむを得ん」
 ツムリーが全身の気を集中させる。
 かつて同胞がそうしたように、今度は自分が――!
 そう思った、次の瞬間、
「へっ、戦闘力18000か」
 ボール上の光弾がその身体を吹き飛ばす。

 そして数分後――、
 慎重と実力は低いが時を止めるグルド、最速のバータによって七つのボールはギニ
ュー特戦隊の手に渡った。七つのボールを抱えたギニューが悠々と飛び去っていくの
を、その場の誰も止めることはできなかった。

「隊長がいねえから数が合わなくなっちまったぞ」
「ベジータに一人、ナメック星人に一人、そっちのゴミどもに一人……でどうだ?」
 わざとベジータたちに聞こえるようにしているのか、大声でそんなことを話し始め
る特戦隊。
「あいつら、ゲームみたいに思ってやがる」
「で、でもヤムチャさんもやられちゃったんですよ」
 憎々しげに言うクリリンと、やや怯えを見せる悟飯。
 倒れ伏していたヤムチャは、その姿勢のままでいた。

 ――宇宙一のスピードだと!? ふざけやがって……!

 地球の戦士の中でも、自分は上位に食い入るだけのスピードがあると自負してい
ただけに、軽くひねられたことは彼にショックを与えていた。地球のヘタレであっ
た時とは違い、今は悟空しか会得していない界王拳を自己流ながら使えるようにな
っている。
 そこまで思い返して、ヤムチャは笑った。
 そのまま、ゆっくりと立ち上がり、バータを睨めつけ、
「おい、バータとかいう奴! オレと戦え!」

 敵は油断を見せたが、自分にも慢心があった。
 あいつは自分の実力を知った気になったはずだ。
 つけこむところは十分にある。

「おいバータ、あのカスがご指名だぜ」
 光弾でツムリーを吹っ飛ばした長髪の特戦隊員ジースがヤムチャを親指で指す。
「あんなゴミでも準備運動にはなるか」
 バータがヤムチャの眼前に降り立つ。後ろでは他の隊員が「遊ぶなら後でチョコ
レートパフェを奢れよ」と激励(?)を飛ばしていた。


「ムチャだ、ヤムチャさん!」
「ほうっておけ。それよりも隙を見せたらヤツに攻撃しろ」
 クリリンとベジータの声も、ヤムチャの耳には届かず。
 狼は、更なる巨大な獲物に牙をむいた。

 ――界王拳、四倍!

「お、おお?」
 遠くから観戦していたジースのスカウターが警報を鳴らす。
 ヤムチャの発する戦闘力は先程の不意打ちよりもさらに大きく、40000を超えた。
「おいおい、こりゃ意外と楽しめるんじゃねえか?」
 スカウターに写る数字を見て、バータはにやりと笑った。
 戦闘力の大きさはスピードにも反映される。
 ヤムチャの不意打ちはかなりのスピードだった。
 今の戦闘力を考えれば、自分までとは言わずともそうとうのスピードが出るだろ
うことは、容易に予想できる。
「ぐぐぐ……、うおおおおおおおおおおおおっ!!」
 赤い気を纏い、ヤムチャは突進する。

 突き出す右拳。
 バータは一歩下がる。
「ぐっ!」
 膝蹴りが顎に。
 瞬間のけぞるも、大地を重く踏みしめる。
「な……!?」
 バータはヤムチャが倒れないことに戸惑う。
 
 好機は、今!

「狼牙――風風拳!」
 正拳。平拳。掌底。熊手。
 ヤムチャは次々に叩き込む。
「こ、このっ!」
 片足を払われる。が、
「っ!」
 残ったもう片足は踏みとどまる。
 さらに裏拳の追撃を見舞う。

 ヤムチャのスピードはバータには及ばずとも、十分匹敵し得るものだった。それ
に加えて、数々の戦いを潜り抜けてきたバータにとって、戦闘力を変化させ、かつ
自分のスピードに怯まず向かってくる敵は仲間内の手合わせを除けば一人もいなか
った。
 ヤムチャは攻撃を止める気はなかった。止めた瞬間、自分の限界を超えた界王拳
の負荷が重く掛かってくるに違いなく、さらに敵に攻勢に回られてしまうことも解
っていた。
 だから、止まらない。

「なあ悟飯、ヤムチャさんがどうなったか、おまえならわかるんじゃ……」
「ボ、ボクにもわかりませんよ……」
 ヤムチャに、全く不可解な現象が起きている。ザーボンを倒した後、ヤムチャと
クリリンの会話の中でヤムチャは三倍が今の限界だと言っていた。限界を超えた界
王拳の使用は大きく命と力を削る。そう悟空は言っていた。

「どうなってるんだ、バータがやられっ放しだなんてよ」
「おいリクーム……、スカウターを見ろよ」
「ああ、ただのパンチの連続にしては大きいダメージを与えているようだな」
「バータじゃない、あの長髪のヤツだ……」
 スカウターを装備していないグルド以外の二人は目を疑った。

「せ、戦闘力が……上がり続けてやがる……!」

「つぉっ!」
 突き出した左腕が、受け止められる。
「しまっ……」
「はっ、思ったよりてこずらせてくれたじゃねえか」
 瞬間、集中が緩む。
 界王拳の緊張が途切れる。
 バータはつかんだ左腕を硬く握る。
「うおおおおおおおっ!」

 ドムッ!

「ぐ、ぅっ」
 掴んだまま持ち上げ、地面に叩きつける。
 受身を取ることもできず、背中から落ちた。
 追撃のエネルギー砲がヤムチャをさらに吹っ飛ばす。

「おらっ」
 ドガッ!
「そらっ」
 ボゴッ!
「しゃあっ」
 ズムッ!
「さっきまでの威勢はどうしたっ」
 バキィッ!

 ぽたり。
 赤いしずくをたらしながら。
「く、くそったれ、め……」

「戦闘力が10000を切った。勝負あったな」
「カスにしてはよくやった方じゃねえか?」


 気が遠くなる。
(へ、へへへ……)
 頭の中でも薄ら笑いが浮かぶ。
 痛みという感覚は、とうにどこかへ吹き飛んだ。
 自分が攻撃されるたび、衝撃だけが走る。
(オレ、ここで終わりかもな……)
 自嘲気味な意思が生まれる。
 だが、その割に悪い気はしなかった。

 ――ヤムチャさまっ。

 自分をそう呼ぶものがいた。
 けれど自分はそいつを捨てた。
 ただの人間であったころとの決別。
 それ以来、まともに話した覚えもない。

 なのに、だ。
 そいつが今もなお、祈ってくれている気がした。
「やめ、ろ」

 かすれた声だけが、すこし自分の耳に届いた。
 自分を揺らす衝撃が煩わしい。

「なんだ? 命乞いか?」
 バータは愉快そうに笑った。
「――――――やめて、くれ」

 オレなんかのために、祈るな。


 暗転。
 次にヤムチャに見えた景色は、不思議な形の家々だった。
 ズゥゥゥゥン……!
 それがあっけなく壊される。
 ひとつ。またひとつ。
「はっはっは、さっさと吐いたほうが身のためだぞ」
 その中で笑っているのは、ついさっきまで対峙していたギニュー。
(そういえば、やつら、合言葉を知らないのか)
 ボールを全て集めたとしても、それだけでは願いは叶わない。
 願いの叶え方をナメック人に直接聞き出しているようだった。
「だれがきさ」
 言い終わる前に老人が一人撃ち抜かれる。
 ギニューはうろたえるナメックの中から、一人をつまみあげた。
「わからずやのジジイにはこうやった方がいいか」
 ギニューが持ち上げた小柄なナメック人。
(! あれは――)
 カルゴ!
「おまえたちなんかには絶対に教えない!」
 小さなひとりは勇敢にもギニューにそう言い放つ。
「子供には手を出すなっ! 合言葉は教えるっ!」
 長老と思しき老人が一人、一歩前に出た。ギニューは嬉しそうに笑う。
「そうか、ではご同行願おうか」
 カルゴを抱えたギニューに連れ添って老人が飛び去っていく。
 ヤムチャは、その中で確かに聞いた。
 ナメックの平和への祈りを。

 自分に祈るもの。平和のために力を貸してくれたもの。
 何が変わったわけでもないのに鬱陶しい重荷を急に押し付けられた気分になる。
(でももう、関係ねえかも、な)
 限界を超えた界王拳の歪みが、思った以上に大きい。
 精神を集中していればまだ戦えていたはずだった。
 しかしそんなことは既にどうでもよかった。
 バータから受ける衝撃すら、もう感じなくなっている。
(じゅうぶん、やったよな)
 サイヤ人との戦いで生き残って、幹部らしき戦士を倒せたのは大金星だ。
 あとはこちらに向かっているであろう悟空たち実力者に委ねてもよさそうだ。
 もし自分が「生まれ変わって」なければ、きっとサイヤ人に殺されていたはずだ。

 眠りにつこうとした。
 だけど眠れない。
 なにかが、くやしい。

「はっはっは、こいつ泣き出しやがったぜ」
 からだが、何度も踏みつけられる。
 胸、腹、腕、脚、顔。
 泥と血のついていない部分はないというほどに。

「いくぞ悟飯!」
「待ってください!」
 飛び込もうとするクリリンを制止する。
「きっと、今行ったらピッコロさんに怒られる――そんな感じがするんです」

 静かな暗闇の中を、ヤムチャは漂う。
 祈りが怖かった。
(オレは)
 耳を塞いだ。
(どうして)
 強くなろうと思ったのか。
(どうして)
 ナメックの意思を受け入れようとしたのか。
(勝てなかったのか)
 心を蝕む魔に。
(負けたのか)
 それを浄化した存在に。
(なのに)
 眠りにはつけない。
(なぜ――)
 もはや聞こえているのは自分の鼓動だけ。
 答えが、返るはずもない。
 けれど。
 答えなんか、決まっている。

『立つんだ! ヤムチャ!』

 負けたくなんか、ない。

「もうしゃべる元気もねえようだな」
 バータの掌が発光する。
「とどめだっ!」

 光にヤムチャが飲み込まれる……はずだった。

「な……!?」
 言葉を失ったのはバータだけではない。
 攻撃準備に入っていたベジータたちも目を疑う。
 光は消えた。
 手をかざしたヤムチャが、立っていた。
「まわりくどいことをしやがるぜ」
 笑いながら。
「なあ、おまえなんだろ、ピッコロよ」

 神の千里眼。意思を飛ばす界王の秘技。
 そして、魔族として受けた、同じ魂。
 それらが融合した、一つの奇跡。

『くだらんことで腐るんじゃない。おまえは』
「ああ、オレは――」
 飛び込んでくるバータの両腕を、しがみつくように掴む。
「きさまぁっ!」
 決して、放さない。
 バータの顔色が、青から紫へ。
「そんな、あいつの戦闘力がまた上がっている!? バータ!」

 君のカラダは極めて、ピッコロ大魔王――ナメック星人に近いものになっている。

 オレはナメックの龍族の子。いや、
「オレは――魔王の子だっ!」


「バ、バカな……」
 特戦隊の面々は言葉を失う。
 急激にバータの戦闘力数値が減少し、それと共にヤムチャの戦闘力が上昇した。
 戦闘力をコントロールするヤムチャが力を上昇させてバータを打ち破ったとも取
れる状況である。が、それではその前のヤムチャがバータにやられていた状況が説
明できない。

「我々戦士型でないナメック人の中には、不思議な力を持ったものがいる」
 マイーマが淡々と話す。
 悟飯はその時、カルゴのことを思い出した。
「ヤムチャはナメックの力を受けていると言ったな」
 クリリンが弾かれたようにマイーマに目をやる。
「それってよ、つまり」
「ああ、ヤムチャは何かの力を持った可能性がある」

「どうした、おまえのスピードはその程度かっ!」
 バータの拳が空を切る。
 そこに、飛び蹴り。
「ほざけっ!」
 闇雲に手足を振るうも全てがヤムチャに切り返される。

「きええええええぇぇぇぇぇぇっ!!」

 空を切り裂く奇声。
(! な、なにを、しやがった……)
 ヤムチャの動きが止まった。

「くらえ!」
 ジースが掌に球状のエネルギーを浮かべる。
 クリリンとマイーマはジースに突進した。
「な、」
 眼前にリクームが現れる。
 「ほいっ!」リクームの一撃が軽々と二人を蹴散らす。

「クラッシャーボール!」
 ジースがエネルギーを弾く。

 ――避けられない!
「させるかぁっ!」
 声と思いは同時だった。
 ツムリーがヤムチャの前に躍り出る。

 ……ボンッ!

 目の前で、光球が炸裂する。
 宙に舞う身体。
 ヤムチャにはそれがスローモーションのように見えた。
 それは魂が抜けたかのようにだらりと。
「ぐ、ぐぎぎぎ……!」
 心に身を任せるも、その身体は動かない。

 ドゴンッ!

 二度目のクラッシャーボールは、ヤムチャから意識を奪った。

「ヤムチャ、しっかりしろ!」
 ぼんやりとした意識が、次第に鮮明になっていく。
 自分を助け起こしているのが誰か、最初はそれが夢かとすら思った。
 地球に残っているはずの悟空が目の前にいる。
「な、なんで……?」
 視界が完全にはっきりした所で、見渡してみる。
 悟飯、クリリンがボロボロになっているのが第一に。
 次いで同じく酷くやられたらしいベジータの姿が見えた。
「おい、オレたちの他にナメック星人がいただろう、そいつは――」
 言ってから、ツムリーの最期を思い出す。
 だが、マイーマは。
 仲間のナメック人はもう一人いたはずだ。
「悟空」
 クリリンが割って入る。
 ボロボロなのは見た目だけで、消費した体力は仙豆を使って回復したようだ。
 悟飯もクリリンに続く。
 眉を八の字に、唇をへの字に曲げて。
「まさか、マイーマも……!?」
「ちがう!」
「ツムリーさんと、マイーマさんは……」

 言われてから、ヤムチャは気づく。
 仙豆のおかげかもしれないが、身体がやけに軽い。
 湧き上がってきそうなほどに、身体が熱い。
 自分には知り得ないはずの、もう一つの言語が頭をよぎる。

「オレと、同化……したのか?」

 二人は頷いた。

「おまえが逃したジースの野郎が隊長を連れてきやがったようだぜ」
 動揺を隠せないでいるヤムチャを尻目に、ベジータが悟空に言い放つ。
 風体こそボロボロであるが、彼もまた仙豆によって治療されているであろうこと
は見受けられた。
「っ!」
 不意に、ヤムチャはびくりと首を動かした。
「どうした? ヤムチャ」
「いや、なんでもない」
(言えるわけがあるか、こんなこと……!)
 先程のピッコロの意志の残滓であろうか。

 ――カルゴが、殺された……!

 先刻の村の様子を見ていれば分かりそうなものであるが、合言葉についての言葉
を聞き出した直後、敵はその命を奪った。ヤムチャにとって見れば付き合いの浅い
同胞であるが、今はヤムチャ一人の命ではない。

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 叫ぶ。
 と同時に飛び出した。
「あいつは……!」
 途中で擦れ違った特戦隊の二人を蹴散らす。
 油断をしていたギニューは弾き飛ばされ、ジースはその拳に貫かれた。

 ナメックと一つになって生まれた新たな怒り。
 まだ空は、暗くない。


「待て!」
 ギニューがヤムチャの前に立ちふさがる。
「どけ!」
 ヤムチャの蹴りを容易く切り返す。
 二発、三発。
 連続で蹴りを繰り出すも、ギニューは全て受け流す。
(こいつ、強い……!)
「さっきの一撃。部下を倒したのはきさまか」
「へっ、だったらどうだってんだ」
 ヤムチャが多少の笑いを浮かべて悪態をつく。
 ――と。

 ズン……ッ!

 ヤムチャの体に拳が叩き付けられていた。
「が、は……」
 空中から地面に叩きつけられるまでの数瞬、ヤムチャは考える。
 敵は手練。全力で戦わねば太刀打ちできない。
 界王拳を使ったとあれば勝ち目は出るが、それでも一つ――決定打が足りない。
 幸いダメージは大きくない。
 どうにせよやるしかない、とヤムチャは立ち上がった。
「ヤムチャ、そいつとはオラがやる」
 いつのまにやら、傍らには悟空がいた。ヤムチャの頭は少しだけ冷静を取り戻す。
 敵の力は、今感じるものよりももっと大きい。
 しかも、それだけではないような……。

「……わかった、たのんだぞ悟空!」

 自分の力でカルゴの仇を討ってやりたかった。
 だが、目的はあくまでもドラゴンボール。
 自分ひとりが突っ走り、取り返しがつかなくなることは避けねばならない。

 宇宙船らしき巨大な建物をヤムチャは見つける。
 レーダーは必要なかった。彼の目にはカルゴが殺された光景が焼きついている。
「……あれは」
 ふたつ、黒い塊が転がっているのが見えた。
 一つは自分よりも頭一つほど小さいもの。
 もう一つはそれよりさらに二回りも小さいもの。
 同時にそれが何かも理解する。
 悟飯たちの気が真っ直ぐ自分らの方へと向かってきているのが解る。
 到着するまで、もう少しの時間が掛かりそうだ。

 ――悪いな、オレで。

 ヤムチャは気功波で穴を掘り、その二つを丁重に埋めた。

「ヤムチャさーん!」
 叫びながら悟飯が近づいてくる。
 既にヤムチャは同じ場所に埋められていたボールを掘り返し終えていた。
「あれ? ベジータは?」
「なんか宇宙船の中に入って行っちゃったっすよ」
 おかしい、とヤムチャは思う。
 ベジータの目的もまた不老不死の願いを叶えることだったはずだ。
 悟空から離れている今、ボールを奪うには今は絶好の機会である。
 ボールを揃えるだけでは意味がないことに気付く材料も幾つか見つかる。

「――願いを叶えるのはもう少し待った方がよさそうだな」

 少しの間、ヤムチャたちは座り込んだ。
 体力こそ仙豆で回復している。
 しかし、最近は飛び回っていた記憶と命の遣り取りの記憶しかない。
 久方ぶりの、休憩だった。
「悟空が戻ってくるまで待つか、それとも」
 ボールを持ってこの場から逃げるか。
 敵がスカウターを持っている可能性がある以上、気を抑えて移動せねばならない。
 だが、それは逆に悟空とはぐれてしまう可能性があった。
 待つにしても、悟空より先に敵が戻ってくる可能性だってある。
 どちらにしても危険であり、どうすべきかはわからない。
「どうすべきだよ、ツムリー、マイーマ……」
 空を見上げながら、そんなことをぼやいた。


 ――わしらは合言葉を知らんのだ!
   知っているのは最長老さまただ一人なのだ!

 脳裏に、ナメックの老人とギニューが映る。
 ギニューの背後に、小柄な異星人が佇んでいた。
 たしか最初に逃げた時にも見た、そいつこそが親玉なのであろう。

 ――困りましたねえ、あなたが「合言葉は教える」と言ったのですよ。

 そいつは、ぞっとするほど冷たい声をしていた。
 敵が目線で促すと、ギニューの掌に光が生まれた。
 やめろ! ヤムチャは叫んだ。
 が、自分が干渉できない映像であることを同時に理解する。

 貫かれたのは、カルゴだったのだから。

「……なるほど」
 凄惨な白昼夢を見た後でありながら、ヤムチャの声は冷静なものだった。
 合言葉を知るのは最長老ただ一人、という方便で老人は願いの成就を回避した。
 ネイルに絶対の信頼を置いているからこその危険な賭けだ。
「オレたちは負けられない、ということか」
 両肩に重圧がのしかかるが、それは煩わしいものではなかった。
「ヤムチャさん、どうするんですか?」
 埋葬されたカルゴたちに合掌した後、悟飯がヤムチャに近寄る。
 ヤムチャはすっくと立ち上がり、くしゃくしゃと悟飯の頭を撫でる。
「待とうぜ。きっと悟空はすぐ来るはずだ。
 なんたって、おまえの「おとうさん」なんだからな」
 ヤムチャの言葉に、
「はいっ!」
 悟飯は笑顔で頷いた。

「くっくっくっく……」
 悟空は怪訝そうな表情でギニューを見る。
 いくらかの太刀合わせの後、自分の力を見せ、ギニューに退却を促した。
 ギニューは絶望の態度を取ったかと思えば、次には笑い出したのである。
 その挙句には、自分に拳を打ち付ける始末。
「いただくぞ、そのカラダを!」
 ギニューが両手を、両腕を広げる。
 目が合った瞬間、金縛りのように悟空の体が硬直する。
「チェンジ!」

 発光。
 光が、二人を繋いだ。

「な、なんでオラがそこにいるんだ……?」
「いただいたのさ、きさまのカラダをな!」


「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!」
 悟空の身体を得たギニューはわなわなと震える。
 自分たちが見下した種族とはいえ、自分を遥かに超える強さの肉体。
 加え、もと仲間に手を出せる敵などはそうそういない。
 だというのに、だ。
「どうした、ふるえているぞ」
 目の前の男は、自分以上の力で躊躇なく攻めてくる。

 ――そいつはおとうさんじゃない!
 近寄ったギニューの正体を見破り、叫んだのは悟飯だった。

 ――悟空のカラダをうばったってのか。
 戸惑っていたクリリンを尻目に、ヤムチャはギニューに突進した。
 様子見の一撃はかわされる。
 ギニューのカウンターを、ヤムチャは軽くいなした。
「それじゃあ……」

 ピピピピピ……!

 自分の体から奪ったギニューのスカウターが鳴り響く。
(戦闘力が……60000近くにも!?)
 気を取られたその時、狼牙風風拳がギニューを襲った。

 ヤムチャは自分の手を開いたり閉じたりしながら見つめた。
 強くなっている。
 同化したことがもっとも大きな一因であろうが、それだけではない。
 最長老に出会ってから、どんどんと力が湧き上がってきている。
 ちらと悟飯とクリリンを見た。
 彼らもまた、自分と同じく力を増しているに違いない。
「お、おのれ!」
 倒されたギニューが立ち上がった。
「うおおおおおおおおおおお……!」
 構え、力を全身に込めているのがわかる。
 ヤムチャはに、と笑った。
「てんでダメじゃねえか、よっ!」
 さっきのおかえし、とばかりに腹に拳を叩き込む。
 ギニューが吹っ飛ぶ。
 その身が地面につく前に、

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 ヤムチャが無数に魔光砲を放つ。
「くたばれ!」
 掌に球状の気弾が生まれる。
「ヤムチャさんが、操気弾をつくってる……?」
「何言ってんだ?」
 悟飯の言葉に、クリリンが何を言ってるのかと逆に疑問を持つ。
 意識をしていなかったが、操気弾を作るには本来高い気の集中が必要になる。
 であるはずなのに、ヤムチャは攻撃をしながらそれを作り上げた。
「はあっ!」
 放たれた「操気弾」は弧を描き……、

 ドグゥォォォォォォォォォン……!

 大爆発を、起こした。

 初代のピッコロの手によりヤムチャは魔族としての生を受けた。
 牙を首筋につきたてられた直後、切り裂くような苦痛と焼けつくような高熱が身
体を蝕み、その後には凍てつく寒さが襲う。
 それを何十回と繰り返した後、ヤムチャは魔族として両の脚で初めて立った。
 その時の感覚は、おそらく忘れられないであろう。
 いやにすっきりとした頭に、よぎる感情はただ一つ。

 憎しみ。

 たいして強くもないくせに、他人を踏み台にして生きているもの。
 そしてそれを嫌々ながらも諦め、受け入れているもの。
 もともと好きではない人種であったが、それらがさらに醜く眼に映った。
 自分は死なないために苦しんだのに、他の人間がのうのうと生きている。
 それだけで、全てが憎く、鬱陶しいものに思えた。

「ヤムチャさま」
 孫悟空とピッコロ大魔王との決戦の最中、小さな青毛の猫が手を差し伸べた。
 誰だ、と消え入りそうな声で倒れたヤムチャは問う。
 魔の眷属である彼もまた、その時は大きなダメージを負っていた。
 だから悟空に攻撃を仕掛けることもできず、倒れ付しているしかなかった。
「ヤムチャさま」
 もう一度、猫は言った。
 魔族とかつての仲間たちが見損なった彼に、優しい声で。
 ほんとうに、誰だ。
 記憶に引っかかるものの、それが何か思い出せない。

 だから、煩わしい。

 ヤムチャは差し伸べられた手を、ゆっくりと伸ばす。
 ややほころんだ顔を見て、その手を力の許す限り思い切り撥ねのけた。

「……あいつは……!」
 物陰から見ていたベジータはヤムチャの攻撃に息を呑む。
 ヤムチャという男はカカロットの外見をしたギニューを徹底的に痛めつけている。
 精神が敵とはいえ、味方の肉体を痛めつけるのは地球人のイメージに合わない。
 彼の知っている地球人は、情というものに左右されるおよそ戦闘には向かない種
族だったはずだ。
 ただ攻撃するだけならまだいい。
 その攻撃一つ一つが、速く、重い。
 気を感じ取ることが出来るようになったからこそわかる。
 奴もまた、自分の強敵となりえる存在だと。

「悟空のカラダのくせにその程度か」
 ヤムチャの肉体が赤く発光する。
 すでに二倍や三倍の界王拳では苦しくもなんともなかった。
「ぐ、こいつ……」
 ギニューがよろよろと立ち上がり、額から流れた血を拭う。
 殴り飛ばされた時に落ちたスカウターが警報を掻き鳴らす。
 ボディチェンジするしかない、彼は両腕を広げ――。

 バキィッ!

 ヤムチャの膝蹴りがギニューの顎に。
「オレのカラダは――オレのものだ!」

 分身を産み落とし、生まれ変わったピッコロを探すことが最初の仕事だった。
 ほうほうの体で逃げ出したので、体力などほとんど残っていない状況で。
「ちくしょう……。……くそったれめ」
 悪態をつぶやきながら、身体を引き摺る。
 ピッコロの配下として顔が割れている可能性がある以上、人里はなれた場所のみ
を探し続けた。ピッコロの分身も親と同じ顔をしているという確信があったので、
この選択は間違っていないと自分に言い聞かせながら。
 歩く動作のみを何日もの間していたというのに、空腹になることはなかった。
 喉が渇きを訴えることはあったが、たいていすぐに水が見つかった。
 情けない。
 他の魔戦士らと並んでピッコロの配下として働いていた自分の末路がこれか。
 諦めとともに、憎悪もまた、沸々と。
 今のピッコロと出会ったのは、そんな感情が頂点に登りかけたときだった。


「高等な戦術やら複雑な術やらはオレには通じない」
 トントン、とヤムチャは自分の頭をつつく。
「筒抜けなんだよ。おまえは」
 ギニューの顔色が絶望に染まる。
 思うように力を出せない身体。
 頼みの綱であるボディチェンジも封じられてしまった。

 かつて、仇であり目標であった悟空の肉体。
 中身は違うとはいえ、その顔に絶望を浮かべることが出来ている。
 ヤムチャは少し笑った。

 今の気分は、本当に悪くない。


「さっき、さんざんに貴様の部下にいたぶられてな」
 ズガッ!
 倒れたギニューを蹴り上げる。
「だが、そのおかげで今はいい気分だぜ」
 ヤムチャの手が発光する。
 操気弾で止めをさすこともできたが、それでは面白くない。
 高密度のエネルギーの爆弾。
 たしか、その名前は。
「クラッシャーボール、だったか」
 偶然とはいえ、先程の爆破で作り方を理解した。
 操気弾と違い、極めて気弾そのものが弾けやすい性質を持たせればいい。
 ヤムチャからすれば、ちょっとばかり手を抜いた操気弾を造ればいい。
 無数に「丁寧な」気弾を造れるヤムチャにすれば、それは容易いことだった。
「今度こそ……くたばれ!」

 宙に舞う山吹色の道着に照準を。
 掌の気弾に、力を。

「ダメだっ!」
 何かが脚に飛びつく。
 バランスを崩し、気弾が零れる。
「しまっ……」

 ドグォオオオオオオオオォォォォン!!!

 噴出したエネルギーがヤムチャを飲み込む。

「なんてことをしやがる……」
 ヤムチャは自分の脚を睨みつける。
 正確には、そこに飛び込んできた小さな身体を。
 脚にへばり付いていたのは、悟飯だった。
 大爆発の中心にいたというのに、悟飯はそれをこらえていた。
 それどころか、悟飯の手はヤムチャの脚を離してもいない。

 父の身体をかばったのか。
 毒気を抜かれたようにヤムチャの悪意が薄らぐ。

「あいつがおとうさんのカラダをうばったなら……
 なんとかして、もとに戻せるかもしれない、でしょ……」

 苦しげに息をしながら、悟飯は語りかける。
 信じられない、といった表情を崩せないまま、ヤムチャは悟飯を抱きかかえた。
 ピッコロの魔族としての悪の気が弱まった原因は悟飯である。
 ヤムチャはそれを分かっていた。
 サイヤ人との闘いで、それを思い知ったはずだった。
 だが、それをどこかで快く思っていなかったのだ。

 魔族は悪であるものだ。
 善を知ることは、本来あってはならないこと。
 善の甘さは悪の弱さにしかなりえない。
 自分はなぜ強くなりたいのか、それはバータとの戦いで改めて認識した。
 敵に負けたくない。
 そのためには強くなり、弱さを跳ね除ける必要がある。
 その心が、魔族の悪を引き起こしていた。

 ヤムチャは抱きかかえた悟飯を、手ごろな大きさの岩に寄り掛けてやる。
 悟飯の行動は悪とは呼べないものだった。
 では、孫悟飯は弱いものか?

 どさり。
 蹴り上げられたギニューが、地面に落ちた。
 自らの内に問いを抱えながら、首を掴んで持ち上げる。
「おい、まだ気絶してねえだろ?」
「う、うう……」
 微かに呻き声が漏れた。
 満足げに、ヤムチャは唇を歪める。
 空いた方の手で、気弾を輝かせながら。

「もとの肉体に戻るんだな。そうすれば命だけは助けてやる」
 びくり、と動いた後、ギニューは何度も頷いた。
 もとより彼に選択の余地はない。

 クリリンが深手を負ったギニューの身体の悟空を連れてくるまで、ヤムチャはギ
ニューを決して離さなかった。
 呼吸の邪魔をギリギリしない程度に、されども相手に威圧を与えられる加減。
 大魔王の配下であったときに身に付けた、魔族としての技術。
 そういったときの相手の表情を見るのは恍惚としたものだが、何故か今は違う。
 晴れない気分をギニューに八つ当たりしたくなったが、それをすれば不快感は増
すことはすぐに理解できる。

 自分に手酷くやられた悟空を見て、ヤムチャは再び苦悩する。
 精神と肉体の相性の不一致によって力を大きく削減されていることはすぐに見て
取れていたはずだった。
 ならば、自分の行為は敵との戦いなどではなくただの弱いもの虐めに過ぎない。
 果たしてそれは、彼の目指した誇り高き魔族であろうか。
 弱いのは、どちらだ。

 不意に、知らぬはずの言語が脳裏を駆け抜ける。
 同化に気付いた時と同じ現象だ。

「……タッカラプト……」
 夢の、神よ。
「ポッポルンガ……」
 オレのような、できそこないに。
「……プピリット、パロ」
 どうか、答えを。

 その言葉の直後、七つのボールが激しく輝く。
 緑の空は紺碧に染まる。
 落雷とともに、一つの巨大なヴィジョンが姿を現す。
 緑の皮膚をした、強大な腕と角を持った両生類のような風貌。
 およそ「龍」という名前には似つかわしくないものだが、神格を有する佇まい。
 その場にいた全員、ベジータや、ギニューでさえもがその姿に見惚れた。
 ナメックの願いの神が、その姿を現したのだ。

『さあ、願いを言え。どんな願いも三つ叶えてやろう』

「これが……」
「……ナメック星の、神龍」
 空を見上げ、呟く。
 悟飯、クリリンはおろか、重傷を負った悟空も圧倒される。
 地球の神龍を遥かに超えたその姿は、自分たちの卑小さすら感じさせる。
 ただ願いを叶えるだけの道具。
 地球の戦士ですらドラゴンボールをそう認識していた部分があった。
「でけえ……」
 と、ナメックの神龍が発した言葉が再び耳に戻ってくる。

 叶えられる願いは、三つ。

 誰もが圧倒されている中、一人ヤムチャは叫んだ。
「(ピッコロというナメック星人を生き返らせてくれ)!」

 叫びの後、飛び出した影があった。
 影は二つ。
 一つはベジータ。
「このオレを――!」
 一つはギニュー。
「フリーザ様を――!」

「――不老不死にしろっ!」

 ……………………。
 間。
 絶望の淵に叩き込まれた地球勢だったが、龍は何も反応をしなかった。

『よくやったぞヤムチャ! 次はオレをナメック星に送るんだ!』
 ヤムチャの脳裏にピッコロの言葉が響き渡る。
 その言葉でヤムチャは我に帰った。
「え? なに? オレなんかしたのか?」
 神龍ポルンガを呼び出したことも、願いを叶えたことも記憶にないらしい。
 青筋がちょっとピッコロの額に浮いたが、そこは我慢した。
 少なくとも、あの場で願いを叶えられるのはヤムチャだけのようなので下手にこ
じれさせる必要もない。

『おそらくナメック語でしか願いを叶えることはできないのだろう。
 だから、おまえにしか頼めん! 頼んだぞ!』
「ナメック語……。ああ、あれか。えーと」
 慣れない言語を思い返しながらヤムチャは思う。
 ピッコロが「頼んだぞ」か。
 依頼の内容が情けない気もするが、そう言われるのも悪くない。

「(さっき生き返らせたピッコロをナメック星に送ってくれ)!」
『いいだろう。承知した』

 二つ目の願いを叶え終えた所でヤムチャの服が掴まれ、ズルズルと引っ張られる。
 掴んだ腕の先にいるのはベジータだった。
 なんか視界の向こう側ではおろおろしているギニューも見える。
「おい、死にたくなければオレの願いを叶えろ」
 殺意のこもった視線にヤムチャも冷や汗たらり。
 界王拳の消費分を差し引くと、下手したらベジータに殺される。
 首根っこ掴まれた猫状態でヤムチャはベジータに話しかけた。
「な、何の願いを叶えたいんだ? ……ナッパって言ったっけ。よしわかった!」
「な、おい! ちょっと待て!」
 勝手に一人で納得してベジータの腕を振り切り、ポルンガに向かって一直線。

「(ナッパというサイヤ人を蘇らせ)……」
 あとちょっとという所で龍の姿が消える。
 散るかと思われていたボールは地面に転がっていた。
「……惜しかったな」
 わなわな震えるベジータの肩を叩くヤムチャ。
 その視線の先に――、
 その小さな身体を怒りに振るわせる、強大な惑星戦士がいた。

「オレの願いをどうしてくれるんだ!」
「さっさとオレにナッパの復活を頼めばよかっただろうが!」 
「このバカヤロウ! ナッパは関係ないわ!」
 宇宙全体で見てもレベルの高い実力者たちによる、激しくレベルの低い争いが
繰り広げられる。ナッパ一人のために。
 ある種、命一つ分の重みを感じられる論争だった。
「え? ナッパじゃないなら何だったんだ?」

 一方、
「これはどういうことですか? ギニューさん」
 冷たい視線がまずギニューを貫いた。
 願いを叶える現場にいながら何もしていなかったのは事実である。
 どう言い訳をしようとも許してもらえる状況ではない。
「これは、その……」
 どう取り繕っても、目の前の恐怖には通じない。
 ナメック語しか通じないことを、ギニューは知らなく、気付いてもいなかった。

 まごまごしているギニューに、一閃。
 その身体が、真っ二つにされる。

「……クリリン、悟空をデンデの所へ」
 ヤムチャがそう促す。
 デンデに治癒能力が備わっている知識を、彼は同化によって得ていた。
 もっとも低い戦闘力であると解っているクリリンは頷き、悟空を連れ行く。
 さっきも運び屋やらされたな、とか思いながら。

「さて、次はあなたたちですね」
 冷淡な声で、敵はヤムチャたちに向き合う。
 さっきのまでの怒りはどこへやら、だが感情を隠し切ったその状態はかえって不
気味さに溢れていた。
(こいつが、敵の親玉か……!)
 睨み合いながら、その悪意の暗さ、力の深さを思い知る。
 脚が独りでに震えそうになっていることに気付き、顔には出さず苦笑した。
(どこまで強くなっても、足元のお留守は治らないな)

 真っ二つにされたギニューの死体を見て、少し笑う。
 報われない、な。
 ギニューは自分のチャンスを放り出して、上司の不老不死を願った。
 本人のあずかり知らぬ所とはいえ、それは本心から慕っているゆえの行動だ。
 恐怖で繋ぎ止められた絆だとしても、彼は確かに忠臣だった。
 どこに魅せられたなどは解りそうもないが、その悪には魅力もあったのだろう。
「あばよ、隊長さん」
 自分の立場と、たった今死んだばかりの隊長はどこか似ていた。

「許さん……!」
 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!
 大地が、大気が、それを感じる肉体までもが揺れ、浮き上がる感覚が生ずる。
「絶対に許さんぞこの虫ケラども!」

 先手必勝、
 ヤムチャのパンチが敵を襲う。
 敵はそれを受けるも動じず、
 逆にヤムチャの腕を取って投げつけた。
「貴様のようなアリの一撃がこのフリーザに通じると思ったか!」

 フリー、ザ?
 叩きつけられながらも、ヤムチャの耳に言葉ははっきりと届いた。
「そうか、フリーザってのか、おまえ」
 そこで初めて、ヤムチャは敵の名前を知った。
 その一人のために、何人もの人が殺された。
 それはナメック星に限ったことではない。
 ベジータたちを操っていたことから、もっと多くの星の人間も。
 ヤムチャの身体が紅く光る。

「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 自分の出せる限界値まで、界王拳の倍率を引き上げる。
 八倍から九倍へ。
「くらえ、フリーザああああぁぁぁぁっ!」
 フリーザはスカウターの数値に驚き、一瞬動きを止める。
 ヤムチャの魔光砲が、そこを逃さず捉えた。

 爆煙が立ち込める中、フリーザの気が途絶える。
 やられたはずはない。
 戦闘力のコントロールという技術によるものか。
 界王拳を緩めることなく、ヤムチャは構える。

 と。
 ズンッ!
 一回り大きくなったフリーザの角が、ヤムチャの身体を貫いた。

「ぐ、ううぅっ!」
「おっと失礼」
 腹に角をつき立てながら、やや野太くなった声でフリーザは言う。
「おまえが思った以上にできるようなのでな」
 言いながら、わざと頭を揺らす。
「今のオレに敵うと思うなよ。戦闘力で言うなら100万以上はあるんだ」
 ヤムチャに絶望を与えようと、せせら笑いながら。

「し――知るかよ、そんな数字なんか……!」
 ベジータが集中砲火を浴びせるも、フリーザはびくともしない。
「……貴様、いったい何を!」
 声の調子を崩したのはフリーザだった。
 ヤムチャは密着したフリーザに指を当てる。
「へ、へへへ。こいつは「おまえの気」だ。く、くたばりやがれ!」

 魔貫光殺砲!

 爆煙が晴れてくる中で、悟飯とベジータは目を疑う。
 ダメージを受け、弱まったヤムチャの気が再び高まった。
 密着した状態で、フリーザに確実に攻撃をしかけられる距離だった。
 だというのに、現れた光景は、
「はっはっは、惜しかったな」
 落ち着き払ったフリーザと、倒れ伏し、踏みつけられたヤムチャだった。

「う、ぐぐ」
「まさかオレの力を吸収するとはな。だが」
 片足を大きく上げ、

 ――ボキッ!
「うがぁっ!」
 ヤムチャの脚が砕かれる。
「あの程度が全力だと思っていたか? なかなか笑えるぞ」
 悟飯が飛び掛るも、フリーザに軽くあしらわれる。
 ベジータの攻撃もまた無駄に終わった。
 傍観するしか出来ないベジータとダメージを負った悟飯は動けなかった。
 そのまま、黙ってヤムチャがいたぶられるのを見ているしかない。

 と、そのとき、
 バシュゥッ!
 もう一つの魔貫光殺砲がフリーザの尾を飛ばした。
 次いで、連続したエネルギー波がフリーザの巨躯をも吹き飛ばす。
「待たせたな」
 白いマントにターバンの佇まいで。
 腕を組み、敵に向けての殺意もあらわに。

 今、ピッコロが到着した――。


「大丈夫か、ヤムチャ」
 ピッコロに起こされながら、ヤムチャは苦々しく笑う。
「遅かったな、さんざん待たせやがって……」
「ふん、口の減らんヤツだ」
 フリーザに向き直ろうとするピッコロを、ヤムチャは腕を掴んで拒んだ。
「なんのつもりだ」
「決まってるだろ。――腕を、出せ」
 息も絶え絶えに、ヤムチャは声を出す。
 ピッコロは驚いた表情を見せた。
 ヤムチャは言ったのだ。自分と、同化しろと。
「ふざけ「ふざけてなんかねえ!」
 激昂しかけたピッコロが言い終わる前に、ヤムチャは言葉を続けた。
「いいか、オレが役立たずなのはもう証明されちまった。
 ……だがな、おまえのプラスになれば、それでも十分役立てるんだ。
 心配するな。ドラゴンボールでも使って戻してくれればいいさ……」
 ヤムチャの目を見、ピッコロは頷いた。
 強大な敵に対抗することに、力のプラスを拒む道理はない。
「わかった。ありがたく受け取らせてもらうぜ」
 ヤムチャの身体に、ピッコロは掌を置く。
「ああ。それと、一つ聞かせてくれ。オレは――――」
 ピッコロはニヤリと笑う。

「強く、なったな」

 今度はヤムチャが笑った。
 魔王より生まれた狼は、悪のために牙を研いだ。
 魔狼はその牙をようやく誰かに褒められ、認められた気がした。
 兄弟が父の分身だということを、ここでようやく思い出した。
 魔狼の力を得た魔王は、帝王フリーザに向き直る。
 絶対に、負けられない。



エピローグ1
 戦いから、数ヶ月の時が過ぎた。
 ドラゴンボールで分離したヤムチャは、神の神殿を訪れていた。
 目的は「あること」を神に相談することなのだが、何故かコソコソと周りを伺う。
「誰も、いないよな?」
 し〜ん。
 そんな擬音が浮かぶくらいに神殿には人気がない。
 胸を撫で下ろす。
 そして、再びコソコソと奥へと進む。
「おい」
「ぎゃああっ!」
 不意に腕を掴まれ、ヤムチャは情けないほど大声で悲鳴を上げた。
 腕を掴んだのは神の側近ミスターポポ。
「おどかすなよ……。マジで死ぬかと思ったぜ」
「ヤムチャ、気配消す訓練なってない。修行しに来たか?」
「違う違う。ちょっと神様に相談があってな。――おまえも絶対に来るなよ」
 念を押して返事も聞かず、さらに奥へと進んだ。

 相談するのに誰も近寄らせないのは、ひとえに内容が情けないからだった。

「ふむ、つまり生殖行動をとりたくてもとれない、と」
 地球に帰って以後、生殖器官が排泄以外の用を足さなくなった。
 いざという場面になっても、股間のそれは臨戦態勢には入ってくれない。
 テコでも動かない、と言っているかのようである。
 むしろ逆ともいえるが。

「たしかに、ナメック星人には必要無い器官だからな」
 神はヤムチャの股間に目をやる。
 なんか情けない気持ちでいっぱいになった。
「そんなに子供が欲しいのなら一つ手がある」
「なっ、なんですかそれは!」
 身を乗り出すヤムチャ。
 この際情けないとか、そんなことは言ってられない。
 ある意味、これは彼にとっての死活問題なのだ。

「卵を産めばよかろう。卵を」

 目の前が、真っ白になる。
 青空の下、かつてのブリーフ博士の言葉が頭に響いた気がした。

 君のカラダは極めて、ピッコロ大魔王――ナメック星人に近いものになっている。


 『魔族転生ヤムま!』 了