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ヤムチャ抄(3)風と共に去りぬ





227 名前:ヤムチャ抄(3) 風と共に去りぬ[sage] 投稿日:04/01/21 22:55 ID:PZNv5GQo
ドラゴンボールの世界にも、当然ヤムチャという食事形式は存在する。
子供の頃は、友達からバカにされるたびに名づけた両親を怨んだものだが
今ではもう諦めた。ブルマやプーアル、ラーメンマンなどに較べれば
それでも幾分人の名前っぽいし、初対面の人間にも一発で覚えられる。
ヤムチャとして生き、ヤムチャとして死んでいく覚悟をヤムチャが固めた
ちょうどその頃、最寄りの駅前に飲茶専門店がオープンした。この店の
評判というのがこれ以上ないくらい最悪で、怖いもの見たさで無駄金を
払った女子高生が往来で口々に怒りのたけをぶつけ合うのである。

「(あの店の)ヤムチャって(値段どおり)見た目が安っぽーい」
「(店内の装飾が)ダサくてキモーい」
「(点心の春巻が)細いし短いし、なんだかくさーい」

ここに至って、ヤムチャは改名を決意した。役所に駆け込んで必要書類を
窓口に提出すると、一冊のパンフレットを手渡された。中華料理屋の
お品書きである。窓口の女性に、素直な疑問をぶつけてみた。

「あの、何すかこれ?」
「新しい名前は、そちらに載っているメニューのみと決められております」
「俺が勝手に考えたらいけねーのかよ!なんだよその決まりは!」
「決まりっつったら決まりなんだよボケ!早いとこ改名してさっさと帰れ!」

公務員を怒らせると始末が悪い。しぶしぶながらも仰せに従うことにした
ヤムチャが、メニューに目を通した。もうヤムチャ以外なら何でもいいや。
マーボードーフ650円。チンジャオロース780円。北京ダック6,500円。水餃子
500円。クリリン30円。…クリリン?

228 名前:ヤムチャ抄(3) 風と共に去りぬ[sage] 投稿日:04/01/21 22:55 ID:PZNv5GQo
「こ、このクリリンって、料理の名前なの?」
「そうらしいですねぇ。私は頼んだことないけど」

なんだよ、クリリンも料理仲間なのかよ!頭がクリリンな上に、中華料理!
しかも30円!?安っしー!クリリンを馬鹿にするネタ、発見であります!
お品書きに書いてあった住所を頼りに店に急行した。現物をじかに確認して
ネタの精度を上げるためである。

「オヤジ、クリリン食わせろ!」
「へい、クリリン一丁!」

店の奥から5歳くらいの女の子が出てきて、ヤムチャの向かいの席に座った。
両腕に抱えた額をテーブルの上に置いて、目を閉じて手を合わせている。
少女の側に向けられた額を、ヤムチャはクルリとこちらに返した。クリリンの
遺影であった。厨房からヤムチャを見つめる親父に、素直な疑問をぶつけてみた。

「あの、これが、クリリン?」
「へい、クリリンです!うまいっすよ!」

少女が念仏を唱え始めた。閉じられた目から、糸のような涙の筋が頬を伝って
いる。我知らず、ヤムチャも手を合わせて友の魂を弔った。そして泣いた。

店を出ると、そこに偶然クリリンが通りがかった。気軽に手を振るクリリンだが
ヤムチャはうつむいたままその場を後にした。今は挨拶など交わす気分ではない。
改名はやめた。はかなく散ったクリリンの分まで、俺はヤムチャとして生きる!
ヤムチャが昂然と空を見上げて、拳を掲げた。俺の名前は、ヤムチャだ!

お代の30円はしっかり取られた。