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ヤムチャ抄(2) 青春の蹉跌


631 名前:ヤムチャ抄(2) 青春の蹉跌[sage] 投稿日:03/12/05 23:56 ID:vHoIKOPo
こんなに小さい校舎だったっけ。
母校の校庭を歩きながら、ヤムチャは舞い上がる砂埃に目を細めた。マフラーを下げて
大きく息を吸い込む。風の臭いは昔とちっとも変わらない。シーソー、タイヤとび、
錆付いたジャングルジム。過ぎし日の思い出が、眩いばかりに輝いて脳中を駆け巡る。
校舎の中に入った。職員室の前を過ぎて階段を登り、二又の道を右に折れて三番目の
教室の前で足を止めた。俺の教室はここだったな。耳をすますと、今にも恩師の
怒鳴り声が聞こえてくるような気がする。はやる気持ちを懸命にこらえ、ゆっくりと
扉を開けた。

632 名前:ヤムチャ抄(2) 青春の蹉跌[sage] 投稿日:03/12/05 23:57 ID:vHoIKOPo
まだ授業中だった。クソガキ共と新米教師が怪訝な眼差しをヤムチャに向けるが
ヤムチャは意にも介さない。窓際の席に一直線に歩み寄り、ガキを窓から放り投げて
机をひっくり返した。机の裏には、出刃包丁が突き刺さっていた。ヤムチャが卒業記念に
おっ立てた包丁だ。
残っていてくれたか、我が青春の証よ!感極まったヤムチャが天を仰いだ、その時。

ガシャーン!
窓ガラスが砕け散り、一人の男が転がり込んできた。小柄だが、上半身を包んだ
バトルスーツの上からでも、よく鍛錬された筋肉が見て取れる。一目で凶相だと
分かるその顔に、ヤムチャは見覚えがあった。教師の手からチョークを引ったくり
黒板いっぱいに文字を書き殴った。
『きさま、ベジータだな!』
そうだ、ベジータだ。西の都に現れた侵略者のニュースはヤムチャもテレビで
知っていたが、自分には全然関係ない話なので適当に聞き流していた。そのベジータと
まさかこんな所で相まみえようとは!投げつけたチョークを受け止めたベジータが
ヤムチャの文字を消して黒板に返事を書いた。
『そうです』
ヤムチャが質問を続ける。
『貴様、この俺をヤムチャと知っての狼藉か!?』
『知りません』
『だったら覚えておけ、俺があの有名なヤムチャ様だ!』
『聞いたこともありません』
『何だとぉ!?世界一の狼牙風風拳の使い手、ヤムチャ様の名を知らんと言うのか!?』
ガキの一人が生徒を代表して黒板の前に立った。『狼牙風風拳』に線を引いて
その下にこう書いた。
『読めません』

ヤムチャが膝から崩れ落ちた。俺ってそんなにマイナーだったのか…。

ヤムチャは敗れた。さようなら、プーアル。さようなら、栄光の日々。
さようなら、少年時代の僕の思い出。