双子
347 名前:双子 投稿日:03/08/01 12:30 ID:xGsUfALO
親が子を殺す。親に言わせてみれば、子は自分の分身。
だから、子を殺すことは自分を殺す事と同じ。
自分を殺す事の何がいけない、そんな事を言う親がいるらしい。
私には双子の兄弟がいる。性別は違うがとても似ている兄弟。
けれど、
どれだけ似ていても、私とあなたは他人。
どれだけ一緒にいても、あなたは私じゃない。
だから、私はあなたを大切にする。
他人だから気を遣ってあげる。
私じゃないから、あなたの行動を束縛したり、精神を縛り付けることはない。
そう、私はあなたを、あなたの人格を尊重する。
私の弟は北の都では知らぬ者無しと言われる男だ。
整った顔立ちと引き締まった体。彼は格闘技をやっていて近隣では最強。
女の子のファンも多く、男の子も彼の強さに惹かれている。姉の私と違い、人気者だ。
348 名前:双子[] 投稿日:03/08/01 12:31
ID:xGsUfALO
その彼が天下一武道会に出るという。北の都は大騒ぎになった。
都とは言っても、ここは人口数千人の小さな町だ。だから、彼が出るとなったら、
街総出で彼を送り出す。天下一武道会。誰もが彼の好成績を期待した。
しかし、結果は予選落ち。彼に勝った格闘かも同じく予選落ちした。
街の人は皆落胆した。それ以上に彼が落胆した。弟は自信を武道会に持って行かれてしまった。
ある日の事だ。ゲロという科学者が私の家を訪れた。
弟に会いたいと言う。不気味な男だ。全身シワだらけで体中の骨も枯れ木のように細くなっている。
けれど、背筋はしゃんと伸びており、まるで軍人のようにきびきび歩いている。妙な科学者だ。
この男が、弟を改造したい。そう申し出てきた。
改造。人間を改造。私も弟も全く分からない。一体何を言っているのだこの男は。
男は続けてこうも言った。弟は最強の人間になれる、と。
弟が男の申し出を受けるまでにそう時間は掛からなかった。
そして、私も一緒に改造を受けることになった。理由は弟と離れたくないから。
科学者にとっては、実験体が二つ手に入るので断る理由もなかっただろう。
数ヶ月後、私と弟の改造は完了した。
人造人間17号、18号の誕生だった。
349 名前:双子[] 投稿日:03/08/01 12:32
ID:xGsUfALO
弟は上機嫌だった。人造人間17号。地上最強の戦士。
彼にとってこれ程の喜びはない。私は毎日、訓練に付き合わされる。
彼はうれしいのだ。最強が確認できる。私との組み手。自分が強い。
その事が彼にとって何よりの喜び。
けれど、この喜びも長くは続かなかった。弟は狂ってしまった。
「ハハハッ アハッ! オレ サイキョウ オレ ツヨイ」
私はゲロに問いただした。ゲロが言うには、弟を改造する際、運動神経の機能を上げるため
小脳を改造したという。その際、脳の他の機関にも影響を与えてしまった。と考えるのが妥当だとのこと。
私には意味が分からない。ただ、一つハッキリしているのは、ゲロのせいで弟が狂ったと言うことだ。
私は怒った。ゲロを殴った。許せない。私のたった一人の弟を。兄弟を。双子を。
私は怒り狂った。
だが、ゲロは私を緊急停止コントローラで停止させてしまった。
停止した私の耳にかすかに声が聞こえる。停止したと言っても、体が動かなくなっただけで意識はある。
350 名前:双子[] 投稿日:03/08/01 12:33
ID:xGsUfALO
「改造は失敗した。17号、18号。共に修理しなくてはならない
うまく行くかどうかは分からんが、コイツを使えば二人の人格を消し去り、私に従順な部下に仕上げられるはずだ
人造人間達は私の作ったロボットだ。だから、私の言うことを聞かなくてはならない。
コイツらに人格など無いのだからな」
ゲロはそんな事を言っていた。そんな事無い。
誰が作った物だろうと、一度生まれた物はそれ自身のために生きている。
薄れゆく意識の中、私はゲロが自分とは全く違う考えの人間だと言うことを認識した。
私は夢を見る。夢の中では妙な兵隊が私を攻撃してくる。
あぁ、改造される。この夢は現実。ゲロが私たちを改造している。
兵隊達は意識を持たない。人格を持たない。ロボット達。
その後にはゲロがいる。見えないけれど確信できる。ゲロは自分の思いのままにロボット達を操って
私たち双子を改造しようとしている。
ふと、私は隣を見る。弟がいた。弟は十字架に張り付けられている。意識はない。
寝ているのか気絶しているのか、とにかく弟に意識はなかった。
私はとっさに叫んだ。
「起きなさい!!」
寝ていてはダメだ。敵の攻撃を受け、意識を改造されてしまう。
ここは夢の世界。だが、ここで負けてしまっては恐らく現実でも改造されてしまう。
ここで勝たなくてはならない。そう、私自身のために弟自身のために、私たち二人の未来のために。
351 名前:双子[] 投稿日:03/08/01 12:34
ID:xGsUfALO
気がつけば、私自身も縛り付けられていた。敵兵隊の攻撃を受ける。
全身が痛い。だが、否定されるわけには行かなかった。
私は必死に弟を呼びかける。「起きて! あなた自身のために」
しばらくして、弟が目を覚ました。
私と弟は見つめ合い、そして夢から目を覚ました。
現実の世界でゲロは言う。
「修理がうまく行っていると良いが……」
私は思う。あなたにとっては故障でも、私にとっては正常。
私は私、弟は弟。私たちはあなたじゃない。
だから、改造されても、人造人間になっても私の人格は私の物。
これから、何が起こっても、あなたの好きにはさせない。
(完了)