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追撃!トリプル人造人間!




「しっかりしろよ、悟空!」
 声をかけるが、悟空はぐったりとしたまま返事を返さない。
 人造人間との戦いで心臓病の発作が起きた悟空を家に送り届けるために、オレは空中を飛んでいた。
 とにかく今は少しでも早く悟空に薬を飲まさねばならない。オレはスピードを更に上げ、飛ぶことに全ての力を傾けた。

 ――だからだろう、奴らの接近に気が付かなかったのは――

 突然、辺りの空気が変わった。閃光が走る。次に衝撃。
 視界が回転する。ぐるりと回って、吐きそうなほどに気持ち悪い。
 次に暗転。何も見えず、ただ粗雑な耳鳴りが鳴り響いているだけ。
 脳が警鐘を鳴らしている。何か危険が迫っていると叫んでいる。

 いつの間にか、オレは、大地に叩きつけられていた。


 状況を確認するために、辺りを見渡す。
 悟空はすぐ近くに倒れている。空中にはいまだ余韻を残している爆発の残光。
(エネルギー波で後ろから狙い撃ちにされた? 油断していたかッ!)
 ギリッ……と、唇を噛む。直撃を食らった背中が痛むが、そんなことを気にしている暇は無い。
 ふと空を見上げると、残光の中から三人の人間が姿をあらわした。

 どうやら、奴らも人造人間らしい。気をまったく感じない。

「いきなり不意打ちとは……やってくれるぜ……!」
 拳を握る。意識だけは敵に向け、気を集中させる。
 見れば、悟空は完全に意識を失っている。急いで薬を飲まさなければならない。
「速攻で行かせてもらう! 界王拳10倍!」
 オレの体が、赤い光に包まれる。そのまま手近な奴を狙って、気孔波を打ち込んだ。
 瞬間、敵の姿が消える。後に残ったのは何も無いところへ虚しく飛んでいくオレの気孔波のみ。
 後ろからの衝撃に、オレの意識が一瞬飛ぶ。視界がブラックアウトする。
 なんとか持ちこたえ、振り向きざまに蹴りを放つ。が、それもまた空間を切り裂くだけだった。

「さすがだな、赤い彗星」
 目の前の崖から聞こえてくる声に、視線を向ける。
 そこには三人の人造人間が、オレを見下ろしながら笑っていた。
「だが、こいつはわたしにやらせて貰う……」
 先ほどオレが狙った奴とは別の人造人間が、誘う様に右手をこちらへと差し出した。
 そこに光が溢れる。放出されるエネルギーが、オレを狙っているのがわかる。
「ハッ!」
 掛け声と共に放たれたソレは、寸分たがわずオレの位置を貫くだろう。
 だが、そんな見え見えの攻撃に当たってやるつもりはさらさらない。足に力を込め、跳躍する。
 轟音が響き、爆発が起こる。だがソレは、オレの予想とは違い、下ではなく上で起きた。
 衝撃に、オレの体が跳ねる。先ほどまで立っていた大地に向かい、落ちる。
 そこに迫るエネルギーに、オレは回避運動を取ることも出来ずに飲み込まれた。

 そして起きる第二の爆発。なんとか意識は飛ばずにすんだが、身体の方が悲鳴を上げている。

「なん…だ…今のは……」
 理不尽な展開に、怒りすら覚えながら、オレはそんなことを口にした。
 答えなど求めてはいない問いかけに、敵が応える。
「先ほど、貴様が赤い彗星と戯れている間に、この辺り一帯に見えない機雷を仕掛けさせてもらった。少しでも触れれば、ボン! だ……」
 なんと、単純な話ではある。頭の中で理解しながら、敵の次の言葉を待った。
「戦いをまともにしようとするから、こういうことになるのだよ!」
 それが、敵の言葉。武道家の風上にもおけない、卑怯でつまらない行動原理。

 ――そうか、そっちが卑怯な手を使ってまで勝ちにいこうってんなら――

 胸中で呟く。身体はもうバラバラになる寸前。だが精神の力で持ちこたえている。
 今の状態では、今よりも強い界王拳には耐えられないだろう。それでも、オレは気を高めた。

「界王拳……20倍……」

 先ほどよりも遥かに強い光が、そして力が……オレの中から溢れるのを感じる。
 オレから放たれた気は衝撃となって、敵の設置したらしい機雷を全て爆発させた。
 連鎖が起き、爆発が広がる。余韻を残した空間をしかし、オレは敵に向かって跳んだ。
 一瞬で接敵し、高めていた気を放出する。
 円形として表現されたその気は、敵の装甲を貫くのに十分すぎる威力を持っていた。

「ゼロ距離攻撃かッ! ……あの壷を届けてくれよ! あれは……いいものだァー!

 一人、倒した。
 爆発と共に飛び散る敵の残骸は、オイルと機械の匂いが混ざり合った不快なものだった。

「なにッ!? 人造人間を破壊しただと!」
 大仰に驚いている敵に、オレは跳んだ。
 身体がはね、回る。敵はこちらの動きにはついてこれない。
「は、早いッ!?」
 拳を打ち出す。直撃した敵は、もんどりうって倒れる。
 身体を反転させ蹴りを放つ。ソレは的確に敵の腹を貫いた。
 吹き飛ぶ敵に追撃をかけることもなく、その場で意識を全方向に向ける。
 心配していたもう一体からの奇襲が来る事もなく……敵は、二人揃って前方の岩場に佇んでいた。

「焦るな! 落ち着いてさえいれば、どうということはない!」
「わたしが焦っているだと!? わたしは冷静だ!」
 先ほどオレに蹴られた敵が、おもむろに突っ込んでくる。
 軽くかわし拳を打ち出す。瞬間、もう一体の敵から放たれるエネルギー波に貫かれる。

 だが、貫かれたのはオレではなく、敵の方であった。

「な、何故……?」
「キミはいい友人であったが……キミのお父上がいけないのだよ!」
「謀ったな! 謀ったなーーーーー!」

「わたしとて男だ! 無駄死にはしない!」
 怒声と共に、敵の身体が膨らむ。次の瞬間には、敵はもう一体の敵へと全力で跳んでいた。
「く、くるな! 来るんじゃない!」
「……Drゲロに栄光あれー!」
 絶叫を残し、敵が爆発する。抱き付かれた形で、もう一体の敵も爆発に飲み込まれた。
「認めたくないものだな……若さゆえの過ちというものを……」

 気付いたときには、二人まとめて消失していた。

「なんだったんだ? こいつら……」
 呟きを残して、オレも倒れる。無理をしすぎたせいで、身体はもう動きそうに無かった。

 そのころ、Drゲロは……
「孫悟空追撃にあの9、10、11号を差し向けたが、上手くいっているだろうか? 奴らのAIには特殊なものを積んでいるからなぁ……」
 Z戦士から逃げ回りつつ、そっと呟いていた。


 その後、界王拳の反動で身体の内側をズタズタにされたオレは仙豆を食べたが、結局オレの身体は治らなかった。
 それを機に、オレは戦士としての人生に終わりを感じ、引退することになる……


終わり