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ただ今、テスト中


其の一 「一通目」

こんにちは、トランクスです。マーロンは元気でしょうか? 僕は元気です。
今回は家の宇宙船で惑星探査の旅に出かけることになりました。宇宙には謎が一杯です。

パパに言わせるとどの惑星も生物が棲めるような所は似たような物らしいですが、
実際にそのことを確認するだけでも僕には貴重な体験になると思います。

今回の探査は僕とママの二人だけで行うことになり、地球から比較的近い
惑星に行くことになりました。近い惑星といっても火星のような所ではなく、
生物の生息できる条件下で最も近い惑星という意味です。この惑星で宇宙に棲む生物の
調査の第一回目が始まります。
 愛するマーロンへ



其の二 「二通目」

こんにちは、トランクスです。ついに惑星に到着しました。やっぱり、パパの言った通り
地球のような外見をしています。空気の成分も地球と同じでママに言われて用意した
宇宙服が全く役に立たないみたいです。考えてみれば、パパだって現役時代は宇宙服
なしで数々の惑星に遠征していたのだから、このことは当たり前かも知れませんね。

これから僕はママと一緒にこの惑星にすむ生物の生態について調べることにします。
見たところ、高度な文明を持った生物は存在しないようです。まぁ、本格的な調査は
ここの生活になれてから始まります。まずは生活空間を確保して、食べられる生き物を
捕獲することから始めたいと思います。それらが確保でき、この星での生活に慣れれば
本格的な調査の開始です。ちなみに、パパが言うにはどの星でも大型の生物は無毒の
可能性が高いそうです。小さい生物は毒で身を守るらしいのですが、大きい生物には
その必要がないとの事でした。ともあれ、今からここでしばらく生活します。

それとパンちゃんの容態はどうでしょうか、早く元気になってもらいたいと思います。
それでは、また会える日を待っています。
 愛するマーロンへ



其の三 「病気」

マーロンは看護婦になっていた。彼女の担当は10歳前後の小さな子供である。
そして、そのほとんどが不治の病にかかり回復の見込みのない患者達であった。

彼女の担当の一人に生まれたときからの友人パンがいる。パンは悟飯の娘で
まだ小さい子供だった。宇宙最強の悟空にとって初孫にあたる少女であり、
彼女も父や祖父の才能を引き継ぎ、抜群の格闘センスを持っていた。しかし、祖父の悟空
がそうだったように格闘技の才能は高くても、病気に対する耐性は人並みであり、
さらに不幸なことに彼女はこの年齢では非常に珍しい癌に冒されていた。
ご存じの人も多いと思うが、幼い頃の癌はほとんど治る見込みがない、
パンも同じように治る見込みのない癌と闘っていた。

マーロンの仕事はそういう不治の病に冒された末期の患者達の精神的補助である。
彼らが安心して死んでいけるように、その不安を取り除くのが仕事であった。



其の四 「三通目」

こんにちはトランクスです。現地での生活にも慣れてきました。
色々な動物を食べたのですが、どれも美味しいです。また、危険な生物もいないので
落ち着いて調査をすることができます。ただ、残念なことにどうやら、この星には
文明が存在しないようです。かつて文明が存在した痕跡は見られるのですが、つい最近
数十年前から100年ほど前だと思いますが滅んでしまったんです。そのため、現在は
文明のない星になっています。

調査の結果についてですが、現在の所地球と目立った違いはありません。
大型の補食種として恐竜に似た生物があり、中型としてトラや熊のような生物がいます。
馬のような生物もいて、主に植物を食べて生活しています。これは草食動物ですね。
もちろん、肉食動物からは狙われています。なんだか、地球とほとんど同じで
少しつまらない気がします。

それから、この星に存在した文明についてですが、その文明の文字と思われる物を
発見しました。念のために送っておきます。
  (ε´ メ)
これが謎の文字です。他にもあるのですが、これが一番気に入りました。
ではまた今度あいましょう。
 愛するマーロンへ



其の五 「謎」

トランクスから送られてきたメールは直ちに学者達の興味を引いた。
その文字を見た人達はそれが人の形を象った物であることに気付き、象形文字の
一種であるとの仮説を立てた。もちろん、他の文字が出てこない限り結論づけることは
難しいのだが、仮にこれが象形文字であるとするとそこに存在した文明は非常に
レベルの低いと推測することができる。ともかく、学者達は一つの文字を巡って
様々な想像を巡らせていた。

そこに、ベジータがやってきた。彼はトランクスのメールを読み、文字を見るなり
震えだした。「これは……サイヤ人達も恐れるあの星の文字じゃないか」
学者達の一人が聞いた。

「ベジータさん、この星のことを知ってるんですか?」
「いや、知らない。この星は俺たちサイヤ人も何回か調査をしているが
 結局、通常の惑星と変わらない星であるという結論に落ち着いているんだ」

その話を聞いてクリリンが割り込んできた。

「おい、ベジータ。それっておかしくないか?」
「何がおかしいんだ?」
「通常の惑星と変わらない星に、なぜ何度も調査隊を送ったんだよ
 大体、お前達は調査なんてやってたのか?」
「最初は調査ではなく、いつも通り文明を滅ぼすために戦士を派遣したんだ
 戦士は中級の者だったが、難なく文明を滅ぼすことに成功した。
 俺たちはいつも通り、あの惑星を異星人に売った。しかしな…ここからが……」
「どうしたんだ?」
「いや、結局なんでもなかったんだろう」
「そっか……」

クリリンはベジータの態度が気になったが、相手が相手なのでそれ以上は質問を控えた。



其の六 「四通目」

こんにちはトランクスです。
今日で調査を終わることにします。結局、この星の生態については地球と変わらない
という結論になりました。高度な文明は存在しないのですが、一部の生物は地球で言う
猿程度の知能は持っているようです。

まぁ、調査の結果については地球に戻ってから詳しく説明しますので省略します。
それで、猿なんですが実はこの星で一番美味しい生物でした。一回しか食べられないのが
残念です。パパが言うにはどの星でも自分に近い生き物ほど美味しいそうです。
とすると、やっぱりこの星では猿が一番美味しいんでしょうね。
パパはどこかの惑星の文明人の腕を食べるのが好きだったようですが、この星の猿も
腕が一番美味しかったのを覚えています。

では、近々地球に戻ることになります。到着予定は二週間後です。
あなたに会いたいです。マーロン



其の七 「宣告」

マーロンはパンの様子を確認しに行った。パンは決して暗いところを見せない子だ。
自分は世界最強の一家に生まれた、そのことが彼女の支えになっている。
そのため、彼女は人の前では強く振るまい自分は病気には負けないと言うところを
見せていた。だが、彼女が暗いところを見せないのにはもう一つ理由があった。
それは担当の看護婦マーロンが自分の幼い頃から知る女性だからである。

パンとマーロンは正反対の性格を持っている。パンは一途な性格で一つのことに
コツコツと努力を続けていくタイプである。マーロンは色々な事を楽しむタイプであり、
かなり飽きっぽい所も持っていた。正反対の性格を持つ彼女たちはとても仲が良かった。
年上のマーロンはパンに対し、特に下と見ることもなくパンも当然の様に対等のつきあい
を行っていた。

そんな仲の良いマーロンに対し、パンは自分の弱い所を見せることができなかった。
それはマーロンとは対等でいたいという希望と同時に、彼女なら自分が人知れず
涙を流していることに気付いてくれるであろうという希望からでもあった。
マーロンもパンのそんな気持ちには薄々気付いていた。そして、強がっているパン
の気持ちを無駄にしてはいけないと思い、極力普段通りの付き合いをしていた。

そんな時、マーロンは医師からパンの余命について聞かされることになる。
辛い話だった。しかし、この話を患者にするのはマーロンの仕事である。
彼女はできる限り、明るくパンに伝えた。
パンの命は保って一ヶ月であると……



其の八 「帰還」

トランクスとブルマは惑星探査を終え、地球に帰還してきた。二人とも元気そうである。
彼らが帰宅したらすぐに仲間が集まり、惑星探査成功を祝うパーティーが開かれた。

「ほとんど成果はなかったんだけどね…」
「地球と同じだったんだってね」
「あぁ」
「でも、それが大きな成果じゃないの!
 今まで何も分からなかった世界なんでしょ
 その世界が地球と同じだったなんて、素敵な事じゃない」
「はは。そうだね。でも、僕はパパから何度も話を聞いていたから
 正直言うとパパの言う話とは違った世界を期待してたんだ
 ママもナメック星っていう所に行ったことがあるから、
 ナメック星とも地球とも違う所を期待してたんだよ」
「でも、同じだったんだ」
「そう」

トランクスとマーロンが話している所にベジータがやってきた。

「トランクス、あの星の文字は他にないのか」
「あるよ……ちょっと待ってて」

トランクスは父に言われ、象形文字が書かれた石盤の写真を持ってきた。

「本物の方が良ければ、ママが持ってる」
「いや、こっちでいい」

ベジータはその文字を見るなり、震えだした。

「やはり……あの星だ…」



其の九 「変貌」

マーロンが恋人の変化に気付き始めたのは彼が帰ってから数日経った後である。
元々、生真面目とは言えない人だったがそれでも、人前で性行為を要求するような
非常識な真似はしてこなかった。それが、帰宅後は激しく要求してくるのである。

トランクスの変化はそれだけではなかった。今まで嫌がっていたはずの格闘技を
積極的にトレーニングするようになったのである。しかし、トレーニングと言っても
トランクスが要求して来るのは実戦さながらの格闘である。無論、ベジータがこれを
拒否するはずもないのだが、トランクスの様子がおかしすぎた。
まるで、打たれることを望んでいるようなのである。「打たれすぎ」
ベジータとトランクスの練習を見てるとき、格闘の素人であるマーロンもトランクスが
打たれすぎていることに気がついた。そして、打たれるたびにトランクスは恍惚の表情
を浮かべる。明らかに打たれることを望んでいる。

訓練が終わったとき、ベジータがマーロンに話しかけてきた。
「マーロンだったな、最近トランクスにおかしな事はないか」
「あります。おかしな事ばっかりで…
 いつもセックスを要求してくるくせに、私が逢いたいときには逢ってくれないんです」
「他には」
「今まで彼は昆虫が嫌いだったんです。汚いからって言う理由で
 だから、ゴキブリなんか大嫌いだったはず何ですが……
 今は部屋にゴキブリを飼っています」
「……」
「それだけじゃなくて、よく『死』についての話もするようになりました。
 今までは「人間いつかは死ぬんだ……僕は死にたくない」そんなことを言っていたのに
 今では「いつかは死んでみたいけど、一度しか死ねない…死を存分に味わってみたい」
 そんな事を言うようになったんです。」
「同じだ……あの時と」
「ベジータさん、あの時って一体…」

ベジータはそれ以上語らなかった。



其の十 「死」

変貌したのはトランクスだけではなかった。母のブルマも変わった。
といっても、彼女の場合性格がどう変わったのかは明確ではない。
いなくなってしまったのだ。彼女が自宅からいなくなることは今までも何度かあった。
ドラゴンボールを探しに行くときもそうである。だが、今回のはそれとは違っていた。
家族には何も知らせずいなくなったのである。これは初めてのことだった。

だが、家族の面々はブルマの行方不明より、トランクスの変貌の方が気になるようだった。
そんな時、ついに起きてはならないことが起こってしまった。トランクスの死である。

マーロンがカメハウスでテレビを見ていたときである。
突然電話が鳴り始めた。受話器を取るマーロン。

「はい、カメハウスです」
「やぁ、マーロンかい」
「トランクス……」
「これからね死んでみようと思うんだ」
「え??」
「麻酔薬だよ、これを使い続けると人間は死ぬんだって」
「何言ってるの……嘘でしょ」
「僕は死を楽しみたいんだ、麻酔薬ならそれができるかと思って」
「馬鹿なこと言わないで」
「パパに殴られても、手加減されるから死ねないんだ
 これなら確実だと思ってね。」
「……」
「ねぇ、今足に一本打ってみたよ。しばらくすると足の感覚が無くなるんだよ
 体中に打つと体の感覚が無くなっていくんだろうね、心臓に打つと多分死ぬな」
「止めて、止めてよ」
「駄目だよ、もう止まらない」
電話の向こうで恋人が自殺しようとしている。でも、それを止める力を彼女は持たない。
とっさに父の助けを呼ぶマーロン。
「ねぇ、お父さん。トランクスを助けて!!」
「どうしたんだ」
「トランクスが…死んじゃうよ……助けてあげて」
「何が起こった」
「ウワァーン…」
マーロンは泣き崩れ、それ以上喋る事はできなかった。
事態が飲み込めないクリリンは急いでカプセルコーポレーションに向かった。

カプセルコーポレーション内、トランクスの部屋。
「ねぇ、マーロン。聞いてる? ねぇ…」
返事はない。だが、トランクスは話し続けた。
「僕はね、死ぬんだよこれから。一度しかできない貴重な体験だ
 存分に味わうつもりでいる。もう、両足の感覚がない。でもね、脳の感覚だけは
 しっかり残っている。さぁ、他の場所にも打っていこう」
足先から始め、徐々に体の上を注射していく。しばらくすると下半身が動かなくなった。
「さて、このまま腹に打つのも良いんだけど、それだとすぐに死んじゃいそうだな」
そう言って彼は左腕に注射をしていった。左腕の感覚もなくなった。
ついで、顔に打つ。数カ所を打つと耳が聞こえなくなり、口がきけなくなり、
目も見えなくなってきた。だが、意識だけははっきりとある。
「あぁ、これだ。これなんだよ。これが死の感覚だよ。僕が求めていた物だ」
彼は次々と注射していく。そして…目の前に天使が現れた。
「へぇ、僕は天使なんか信じないのに。本当にいるのかな
 あぁ、天使が歌ってる。まるで、小鳥たちの囀りみたいだ。
 いや、もっと綺麗な歌声だな。天使にふさわしい、美しい声だ」
トランクスは最後の注射を心臓に行った。



其の十一 「葬式」

クリリンがカプセルコーポレーションに着いたとき、既にトランクスは死んでいた。
翌朝、彼の葬式が行われた。葬式には恋人のマーロン、仲間の戦士達だけではなく、
学校や近所の友人なども集まって大規模な物になった。だが、ブルマの姿はなかった。

「どうして……どうして自殺なんてしたのよ」
「無敵のはずのサイヤ人が……こんな死に方をするなんて」
「止めるべきだったんだ、あの星に行くと言ったとき」

葬式ではあのベジータも涙を流している。彼もまた一人の父親なのだろう。
そこへ、悟空が話しかけてきた。

「トランクスの事はオラがなんとかする。界王神様に頼めばナメック星に行ける
 そうすれば、ドラゴンボールで生き返らせることができる」
「待てカカロット、トランクスの死の謎を解かない限り生き返らせても無駄だ」
「どういうことだ?」
「奴は殺されたわけではない。自殺したんだ
 そんなのを生き返らせても、また自殺するだけだろう
 俺が奴の死の謎を解明する。自殺の原因が分かるまで、ドラゴンボールは使うな」
「そっか……でもよ、自殺の原因もドラゴンボールで解明すればいいじゃねぇか」
「息子が死んだんだ、ボールなんぞに頼ってたまるか」

そこにクリリンがやってきた。

「なぁ、ベジータ。お前あの惑星がどうとかって言ってたよな?
 それと関係のある事じゃないのか?」
「あぁ」
「話してくれないか」
「分かった」



其の十二 「惑星」

ベジータはあの惑星についての話を始めた。

「ブルマとトランクスが調査に行った惑星は俺たちサイヤ人も何度か調査している
 調査の結果、通常の惑星と違いは見られないと言うことになったのだが
 あの惑星への出入りは禁じられ、調査が終了してから数年間、惑星ベジータが滅ぶまで
 あの惑星に入ったものはいない」
「なんか、矛盾してねぇか。普通の惑星と変わらないんだろ
 どうして、入れないんだよ」
「あの惑星は見た目では他と変わらない。そう言う意味で通常の惑星と言ったんだ
 だが、あの星に行った連中は全員、謎の死を遂げている」
「サイヤ人が……全員か」
「あぁ」

ベジータは話を続ける。

「最初、中級戦士を派遣した。まじめな戦士で人柄もよく誰からも好かれる性格だった
 奴は家族を持っていた。妻のため、小さな子供のために必死で働いていた。
 そんな奴があの惑星に派遣された。戦闘力は中型だが、不眠不休で頑張ったのだろう
 僅か数日で文明を滅ぼし、商品として使える所まで持っていった。
 奴の仕事が完璧だったため、俺たちは自信を持って客にあの星を売った。
 買ったのは人口増加により自身の惑星に住めなくなった異星人だ。
 そいつらの幾つかが、あの惑星に移り住み生活を始めた。危険の少ない星だから
 奴らもすぐに気に入ったようだ。
 だが、異変が起きた。あの星に移り住んだ奴らが全滅したんだ。
 全員死んでしまった、原因も分からないままにな。
 すぐさま、星を購入した奴らから状況を調べるように依頼が来た。
 俺たちは状況を調べるため、最初に派遣した中級戦士に事情を聞くことにした。
 だが、その戦士も既に死んでいたんだ、死因は自殺だった。
 自殺するような奴じゃなかった。真面目だったし、何より生まれたばかりの子供がいた
 だが、死んでしまったのだ。
 仕方なく、俺たちは他の戦士を派遣した。遠くから見てもその星に強力な敵はいないと
 判断されたので派遣されたのは下級戦士からなる数人のグループだった。

 下級戦士達は惑星をくまなく探し続けた。だが、知的生物の存在は確認できず
 生物系は全て通常の惑星と変わらない物だった。大気の成分や水なども同じだった。
 調査の結果、通常と変わらないと判断し、下級戦士達を惑星ベジータに連れ戻した。
 だが、数日から数週間経ちその戦士達は全滅した。死因は自殺だ」
「おい……それって」
「その後、何度か戦士達を派遣した。結果はいつも同じもので、
 通常と変わらない惑星だという事だったが、惑星調査した者のほとんどが自殺した

 死んだ者達の中で、一人変わり種がいてな。自殺でなく他殺によって死んだ者がいた
 サイヤ人同士の争いで殺されたんだ。意外かも知れないが、俺達は
 同士討ちなどほとんどしない。俺がカカロットと戦ったのは場所が地球だからだ
 惑星ベジータは小さな星でそんな所で俺たちが戦ったら星が壊れるかも知れない
 そう言う危機感がどの戦士にもあったんだ。結局、サイヤ人よりも遙かに大きな
 戦闘力を持つフリーザによって惑星ベジータは破壊されたが、下級サイヤ人によって
 惑星ベジータが破壊できないという事を確認した奴は一人もいない。
 サイヤ人にとって惑星一つ破壊する能力を持つ事は珍しい事じゃない。
 惑星ベジータは小さな星だから、戦闘力1000もあれば破壊可能だという奴もいた。
 そして、そのことを否定できる奴だっていない。だから、同士討ちはタブーだった。
 だが、そのタブーを下級戦士の一人が破ったんだ。そいつは一人でサイヤ人全員を
 相手に戦いを挑んだ。俺たちは何とかそいつを殺すことに成功し被害は小さくすんだ。
 だが、滅多に起こらない同士討ちという危険とその他の全員が自殺という
 有り得ない現象に他のサイヤ人達が恐怖し、結局その惑星への出入りは禁じられた」
「お……おい、じゃぁ、そんな危険な星に何でブルマとトランクスを行かせたんだよ」
「最初は分からなかった。あの文字を見て初めてブルマ達が行った惑星が
 その星であることに気付いたんだ。」



其の十三 「調査開始」

ベジータの話を元に悟飯とブリーフ二人による調査が開始された。
「すまんな。本来なら俺が調査するべきなんだが……」
「いえ、良いですよ。僕もこれぐらいしかできないし」
「今度ばかりは格闘の無力さを味わったような気がする」
「僕も格闘技の無力さというものはよく知っています。
 お父さんが心臓の病気にかかったときも、娘が癌になってしまったときも
 力だけじゃどうにもならないって思いました。
 でも、今までに一度だって諦めたことはないです。
 トランクス君が豹変した原因は僕たちで調べますから、安心してください」
「すまない」

ベジータは部屋を出て行った。ブリーフと悟飯は二人でトランクスの豹変原因を
調べることになる。しかし、調査の手がかりとなる情報は少なかった。

「悟飯君、正直言って原因が分かる可能性は低いぞ」
「わかっています。でも、今は体を動かしたいんです
 パンが死にそうになっています。もう、十日ぐらいの命だそうです。
 そんな時に僕は無力だ。だから、少しでも人の役に立った方が気が紛れるんですよ」
「わしも孫を一人亡くしたからな。気持ちは分かるが、やけになるのは良くないぞ」
「はい」



其の十四 「強さ」

マーロンがパンに余命の宣告をしてから数週間経った。パンは目に見えて衰退し
世界最強少女の面影はもう無い。ベットに寝たきりで時折、激痛に顔をゆがめていた。

マーロンはパンに再度宣告しなくては行けなかった。もうパンの死は確実だった。
今までは本当に僅かかも知れないが、回復する見込みがあった。だが、
今はもう死の道に突き進むしかない、残された寿命は10日を切っている。
マーロンはパンにその事を伝えなくてはならなかった。悲しい現実だ。
だが、マーロンはこれを悲しむわけにはいかない。パンの方が辛いのだ。
彼女の前では辛い所や、悲しんでいる所など見せられない。マーロンは強い意志を持って
パンと話さなくてはならない。そして、彼女の余命を伝えなくてはならないのだ。

マーロンがパンの病室に入った。衰弱した顔のパンが口を開けた。

「ねぇ、マーロン。辛いことがあったんだってね」
「え?」

突然、患者からこのようなことを言われてマーロンは驚いた。

「悟天兄ちゃんから聞いたんだ。恋人のトランクスさんが死んだんでしょ」
「うん」
「元気出してね。彼ならドラゴンボールで生き返られると思うし……」

(あなたの方が辛いじゃない)マーロンは喉まで出かかった言葉を押し込めた。
なんという強い少女だろう、自分が後数日の命だというのに、まだ他人を思いやる
気持ちを持っている。格闘に強いだけじゃない、本当の強さを知っているのだ。
マーロンはこの少女に余命を伝えた。パンは驚きもせずそれを受け入れた。



其の十五 「英雄」

最近、奇妙なうわさ話が世界中に広まっている。サタンの性格が変わったというのだ。
英雄サタン、その人柄は面白くて格好良い、誰もがあこがれる世界最強の男だ。
その彼が変わった。年のせいだという者もいるし、勘違いだという者もいる。
だが、彼の性格が変わったという噂は世界中に広まっているのだ。
そして、彼の後ろに一人の女がいるという話まで持ち上がってきた。
性格の変貌はその女が原因であると一部の者達が噂していたのだ。

「サタン、最近変わった。俺悲しいぞ」
「なぁ、ブウ。今度俺と戦ってみないか」
「また、わざと負けるのか?」
「いや、勝って良いぞ。全国にサタン様の弱さを教えてやる」
「馬鹿なことは止めろ、お前はヒーローなんだぞ」
「ヒーローなんかより、ヤラレ役の方が格好良いだろ」

以前の彼からは想像もできないセリフだ。ヒーローであり続けることを自他共に
望んできた彼、その彼が自らヤラレ役になりたいという。こんな事は想像できなかった。
その日のうちにサタンの言う通り、全国放送でサタンの弱さを見せつけることになった。
TV番組「サタンvsブウ」は番組放映直後、物凄い視聴率を見せた。
だが、ドンドン視聴率が下がっていく。それは英雄サタンの無惨な姿を見たくないと言う
人々の思いを表していた。彼はブウに打たれるまま、ほとんど打ち返さなかった。
英雄がサンドバックの様に打たれる姿をTVは延々二時間に渡り放映し続けた。
放映の最後、サタンが言った。

「諸君。私は弱いんだよ、英雄じゃない。だからここで死ぬ」

そう言って彼はダイナマイトを飲み込んでしまった。

「止めろ! サタン」

止めにかかるブウも間に合わず、サタンは粉みじんに吹き飛んでしまった。

「あの女が来てからサタン変わった。覚えている、ブルマだ」



其の十六 「証拠」

悟飯とブリーフはブルマ達が調査に向かった惑星の再調査について検討していた。
ベジータの話によればサイヤ人達が惑星探査を行った回数は五回程度だという。
その結果が「通常の惑星」だ。だが、明らかにあの惑星が通常でないことは分かる。
つまり、あの惑星には通常ではない異常な何かが存在しているのだが、サイヤ人達は
それに気づけなかったと言うことである。そもそも、サイヤ人の科学力は地球を大きく
上回る。その彼らが見つけられない程小さな異常を地球人達が分かるだろうかという疑問
が悟飯とブリーフの間にはあったのだ。だが、ブルマ達の調査結果は乏しくそれを元に
自殺の原因を調査するのは間違いなく困難を極める。情報は少しでも多い方がよい。
そのため、悟飯は再度惑星探査を行うことを提案していた。

「ブリーフさん。僕は一人でも行きます」
「あのなぁ、悟飯君。君まで自殺してしまったらどうするつもりじゃ」
「でも、危険な星だからって行かないと何も情報が得られない」
「確かにそうじゃ。でもな、自殺なら良い。ベジータ君の話だと
 同士討ちをしたという例もあったそうじゃないか。君がそうならないと言う
 保証はないだろう。そして、君が攻撃してきたら地球は間違いなく滅ぶ」
「でも……これじゃ」
「焦るな、その内ヒントは転がり込んでくる」
「なぜです!!」
「確証はないがね」
「いい加減なことを……」

その時、隣の部屋のテレビから大きな声が聞こえてきた。
「あの女が来てからサタン変わった。覚えている、ブルマだ」

「え…ブルマさん??」
「サタンが変わったじゃと??」

この時、二人は初めて英雄サタンの変貌を知った。
そして同時にサタン変貌がトランクスと同じ原因であることも悟ったのである。



其の十七 「帰宅」

悟飯とブリーフがサタン死亡を知った翌日のことである。
カプセルコーポレーションにブルマが帰ってきた。汚らしい格好をした中年の女である。
以前のようなお洒落好きの面影は消えていた。それでも、帰ってきたのである。

「ブルマ、なぜトランクスの葬式に出席しなかった」
「出たくなかったから」
「なんだと!! お前はそれでも母親か」
「うらやましいわ、自殺したんだってね」
「お前!!」

ベジータはブルマを殴ろうとしたが悟飯に止められた。
ブルマは残念そうにベジータの拳を見つめる。
(同じだ…トランクスと。殴られることを望んでいる)
ベジータと悟飯は同じ事に気付いた。そう、ブルマも惑星の魔力により変わったのだ。

「ブルマさんまで……」
「畜生……どうしたら良いんだ」

ベジータは落胆の表情を浮かべる。悟飯は再び話し始めた。

「ベジータさん、サタンさんが自殺しました」
「それが何だ! あんな奴死んでもかまわん」
「おかしいと思いませんか、彼はあの惑星に行ってない」
「なんだと……そういえば」
「あの死に方は明らかにトランクスと同じだ。でも彼はあの星に行ってません」
「だが、それがどうしたと言うんだ」
「僕にはブルマさんが鍵を握ってるように思えるんです」



其の十八 「料理」

ブルマの帰宅は仲間や家族達に単純な喜びのみをもたらすものではない。
彼女の不気味な変貌が、喜び以上の恐怖を仲間達にもたらしていたのだ。
そんな時、ブルマは自分で料理をするといいだした。お嬢様育ちのブルマは
今まで料理など作ったことがなかった。その彼女が料理を作る、このこともやはり
惑星の魔力のなせる技なのだろうか。ともかくも彼女は料理を始めた。
肉を取り出し、適当な大きさに切る。フライパンに油を引く、それで肉を焼く。
料理と言うにはあまりにもお粗末なものだが、彼女が作った初めての料理だ。
だが、調理中に異変が起きた。ブルマが火傷をしたのである。
ただの火傷なら誰も驚かない。だが、ブルマは恍惚の笑みを浮かべ火の中に自ら手を
くべたのである。その表情は熱さによる苦痛を感じているものではなく、明らかに
快感を覚えているものであった。
周りにいる気付いた者が必死でブルマを止め事なきを得た。だが、その後はブルマ以外の
者が料理を続けることになった。ブルマは口惜しそうにコンロの火を眺めていた。
料理を続けることになったのはウーロンである。

「あれ?? なんだこの肉は」

彼はブルマの持ってきた見慣れない肉を疑問に思いながらも、いつも通り料理を作った。

「おおい! 飯ができたぞ」
「ウーロン、その飯は食べない方が良い」
「何でだよ、お前いつもガツガツ食ってるくせに。分かった独り占めする気だな」
「そうじゃない、ブルマの作った料理など食えるか」
「自分の奥さんだろう…そんな言い方しなくたって良いじゃねぇか」

ウーロンはベジータに凄まれ、仕方なく作った料理を他の部屋に片づけた。
その部屋に一人の若者がやってくることも知らず……

しばらくして、その部屋にやってきた悟天はウーロンとブルマが作った肉料理を
食べてしまった。彼の中にはかつてヤジロベーの魚を横取りした悟空の血が流れていた。


其の十九 「弱さ」

ブルマが死んだのは、それから直ぐのことであった。彼女は近所の川で溺死した。
生まれた時から住んでいる町のいつも見ているはずの川で死んだ。深さは50cmだった。
死に顔は安らかな笑いを浮かべているように見えたが角度を変えると不気味にも見える。

そんな彼女の葬式は息子と同じくたくさんの人を集めた。仲間達や会社の同僚
学会で知り合った友達、学校からの友人達。みんなブルマの死を悲しんでいた。

「また、一人死にましたね」
「あぁ……やはり、あの惑星に関わった者達は全滅するだけなのか」
「ブリーフさん。そうならないように僕たちが調査するんじゃないですか」
「そうじゃったな」

悟飯は葬式が終わると直ぐにパンの所に向かった。
彼にはブルマの死だけを悲しむわけにはいかない。死に直面した愛娘がいるのだ。

「やぁ、パン。痛みはないか」
「うん。大丈夫だよパパ」

通常、末期癌の患者には痛みを取り除くための何らかの処置が施される。
だがパンはその処置を拒否した。鎮痛剤がほとんど効果をなさない末期癌の場合に
利用されるのはモルヒネ等の麻薬や神経破壊剤である、彼女はそのような薬を使うことを
拒否したのだ。そのため、彼女は普段から激痛と闘っている。

「今日、ブルマさんが死んだ」
「そう。私はもうすぐ会いに行けるね」
「……」
「私ね、時々死んでいける人達がうらやましいって思うことがある
 格闘技でどんなに辛い思いをしても、今ほどの事はなかった
 殴られるより、体の内側から来る激痛の方が怖い
 殴られるなら避けたらいい、それに私は打たれ強いから……」
「パン…」
「パパ。でも、私やっぱり死ぬのは怖い。激痛が怖い。病気はもうイヤだ
 私を助けてよパパ。パパは世界一強くて頭の良い学者なんでしょ」



其の二十 「証拠」

悟飯とブリーフはブルマが溺死した川にやってきた。

「ブルマはこの川で死んだのか」
「目撃者の証言によるとこのガードレールを乗り越えて転落したそうです」
「ガードレールの高さは60cmぐらいか…大人なら乗り越えられるな」
「えぇ、ブルマさんはまるで引き込まれるように川に転落したそうです」
「落ちる時のブルマの表情は?」
「目撃者によれば、喜びの笑みを浮かべていたと」
「やはり、そうか」
「それにしても、汚い川ですね」
「都会じゃからな。ブルマはこの川が嫌いじゃった。やはり、綺麗な方が良いんだろう」

ご飯はあることに気付いた。
(汚い川……まさか、ブルマさんは……)

悟飯とブリーフが調査を終えて帰宅すると、ウーロンが話しかけてきた。
「ブリーフ博士、この肉なんだけど……」
「それがどうかしたのか?」
「これはブルマが持ってきた肉なんだ」
「なんじゃと!」
「牛肉でも豚肉でも、鶏肉でもねぇ。他の肉はあまり知らねぇが、
 多分他のどの肉でもないと思う。あの星の肉じゃねぇのかって思ってる」
「確かに見たことがない肉だな」
「ベジータが言うにはどの星でも猿の肉がこんな感じだそうだ」
「そう言えば、トランクスのメールに猿を食ったという話があったな」
「あぁ、この肉はその猿の物だって言うのが俺たちの考えだ」
「分かった。この肉は私達が調査する」

そう言ってブリーフは悟飯と共に肉を調査しようとした。だが、

「ブリーフさん、僕はトランクスとブルマさんの死体を調べます。
 気付いたことがあるんです。僕の考えに間違いがなければ、彼らの脳に異常がある」



其の二十一 「友人」

マーロンにとって悟天は友人だった。恋人の幼なじみであり親は親友、だがその事で
マーロンが悟天のことを友人以上に思うことはなかった。だが、悟天は違った。

悟天はマーロンを口説く、いやそうじゃない。口説くと言うより自分の欲望を
ぶちまけると言った方が正しい。マーロンには恋愛より肉体を望む、そんな悟天の
気持ちがマーロンだけでなく、周りの人間にも伝わってきた。

「なぁ、もうトランクスはいないから良いだろ」
「なによ、何が良いのよ」
「やらせてくれ」
「馬鹿なこと言わないで」

「どうしちまったんだ? 悟天の奴……」
「悟天ちゃんが不良になっちまっただ」

「なぁ、やらせろって言ってるだろ」

力ずくでマーロンに寄る悟天に対し、必死で逃げるマーロンだが、力で敵うはずもなく
悟天に組み伏せられてしまう。が、悟空の手刀により悟天は気絶してしまった。

「悟天はどうしちまったんだ」
「多分、トランクス君と同じ病気です」
「何でだ…悟天はあの星に行ってねぇじゃねぇか」
「私には分かりません」



其の二十二 「細菌」

ブリーフは調査を続ける。ブルマが持ってきたと思われる肉は既に数週間経っているが、
それでも、保存が良かったのか腐ってはいなかった。

「表皮は人間と似ている。というより、ほ乳類と同じじゃ
 中には血管らしきものが通っている、骨もある筋肉も存在する
 やはり、ベジータ君の言う通りどの星も生物は似通っているのだな
 だとすれば、これは地球で言うと猿に当たる生き物だろう
 そう、トランクスが最後のメールで書いた猿だ」

ブリーフは原形を留めていない肉からそれが猿に近い生き物であることを推測した。
そして、またさらにその生き物を解剖していった。

「恐らく、サタン君はこいつを食べて豹変したんじゃ
 そしてこの猿が地球と同じようなものであるのなら、猿自体にそのような性質はない
 地球でも猿を食べて、性格が変わったという話は聞かんからな
 唯一考えられることは、こいつに寄生している微生物じゃ」

ブリーフは猿の体を解剖していく。どこかに微生物がいるはずだ、そう信じて解剖した。
そして、ついに発見した。

「間違いない、こいつらだ」

肉は腐ってないとは言え、既に数週間経っている。その中に生きている微生物は少ない。
ブリーフは初めて見た細菌達を見て、これが犯人であることを確信した。



其の二十三 「脳」

悟飯はトランクスの脳を解剖していた。彼の勘では自殺した人間の脳に異常がある。

悟飯は医学を学んでいた。脳を解剖した経験もある、脳の各部位の機能も知っていた。
父、悟空が心臓病になった時に自分の無力さを感じた。悟飯は天才的な格闘能力を
持っていたため、結果として戦闘というもので相手に後れを取ったことはない。
フリーザ戦でも最終的に父に助けられたが、それまでは自分の力があったため
戦うことができたと自覚している。セル戦では自分の力が決め手になった。
ブウとの戦いではその事が一番はっきりした。一人では間違いなく最強になったのだ。
だが、その天才的な能力も病気というものの前には無力であることを知っている。
彼は自らの強さ故に強さの限界を知ってしまったのだ。そのため、医学を志し、
強いだけではどうにもならない世界に立ち向かっていったのである。

その彼もトランクスの脳を解剖することになるとは想像したこともなかった。
だが、今はこれを拒否するわけにはいかない。全てのフラグが脳の異常を示している。
それもA10神経の異常だ。間違いない、ただの勘だが悟飯は確信していた。

そして、ついに発見した。トランクスの脳、それも彼が確信したA10神経に明らかな
異常を発見したのだ。それは筋状の小さな跡で何かが這い回った痕跡のように見えた。

A10神経とは小脳の近くから、目の後ろの前頭葉の部分まで伸びた神経であり
人の快、不快を司る神経である。これをやられると人間は快感と不快が正確に
感じられなくなってしまうのだ。



其の二十四 「怒り」

パンがいる病室の隣には有名なバリー・カーンがいた。彼もまた癌で苦しんでいた。
その彼が今朝死んだ。末期の癌はほとんどの場合助からない。パンはバリー・カーンの
死によってその事を再度確信した。そして、次に死ぬのは自分であるとさえ思っていた。

激痛が止まらない、運動能力の低下を嫌い全ての薬を断った。
これほどの痛みを止める薬は後に何らかの障害を残すことを、パンは父から聞いていた。
だが、もう後遺症を気にする必要もない。いっそ痛みを止めた方が良いのでは、
時折そんな風に考えるようになってきた。

そんな時、悟天がパンの容態を見るためにやってきた。

「よ、パン」
「お兄ちゃん……悟天兄ちゃんだよね?」

パンは一瞬のうちに悟った、悟天の様子がおかしい。目の前にいるのは誰だ。

「親父に訓練されてるから、筋肉馬鹿になるかと思ったけど
 こうしてみると華奢な体してるんだな」
「当たり前じゃない、何日横になってると思うの」
「ベジータさんの話じゃ、サイヤ人は一年間寝てても体力が落ちないそうだぞ」
「私は病人だし、ほとんど地球人だよ」
「くくく……、まぁそんなことはどうでも良い。
 やろうぜ、パン」
「え?? 何、何をやるの??」

幼い少女には理解できない言葉だ。だが、悟天の言葉が自分にとって忌むべき言葉である
事は理解できた。そこに、マーロンと悟空がやってきた。

「悟天、あなたパンにまで……」
「悟天、もう許さねぇ。おもて出ろ!! 腐った根性をたたき直してやる」



其の二十五 「真相」

悟飯とブリーフはお互いの調査結果を発表した。その結果、二人は一つの結論に達した。
あの惑星にはある微生物が生息していた、それは主にほ乳類に寄生するものである。
そして、ほ乳類の脳に寄生する生物だ。
脳に寄生することにより、宿主の快、不快を司る。この寄生生物は宿主の快感と不快を
操ることにより、宿主を自殺に追い込むのである。
寄生生物の繁殖地は宿主の体内である。繁殖地が足りなくなった時、新たな宿主の体
に移る。この寄生生物の場合、新たな宿主への転移を自殺によって行っているのだ。
つまり、この寄生生物は宿主を自殺させて、それを補食する生物に移動するのである。
さらにA10神経は性欲を司る部位でもある。恐らくは性行為によっても宿主の転移が
可能であろう。

悟飯とブリーフ恐ろしい生物だと感じた。宿主を自殺させるような寄生生物など
聞いたことがなかった。だが、それ以外に考えようもなかったのだ。

ブルマが死んだ時、ガードレールを乗り越えて川に転落した。
ガードレールの高さは60cm程、乗り越えようと思って超えられない高さではない。
だが、自然に越えてしまうものでもなく、通常では彼女が落ちることは考えられない。
悟飯は推測する。恐らく、ブルマはこの川を見た時に不快感を感じてしまったのだ。
不快感を感じたために、寄生生物によってこれが快感に変えられた。
そのため普段嫌っていたはずの川に近寄ってしまったのだ。
後はガードレールの上から川をのぞき込み、川に落ちることの恐怖が快感に変わり
徐々に川に引き込まれたのだろう。こう考えれば、彼女の自殺に説明がつく。

トランクスの時も同じだ。ベジータとのトレーニングの時、殴られることを
望んでいたかのような彼の表情も寄生生物の影響だと考えられる。
最後に自殺したのは究極の恐怖である「死」に対して快感を持ってしまったからだ。

ともかくも、これで全ての謎は解けた。



其の二十六 「対決」

パンがいる病院の上空で悟空と悟天による親子対決が始まっていた。
悟空の攻撃が悟天に命中する、次々と攻撃がヒットする。だが、悟天は打ち返さない。
(なぜだ、なぜ打ち返さない)
自分を遙かにしのぐ天才悟天は既に自分に近い力を持っている、悟空はそう考えていた。
だから、打ち返してこない事に納得がいかない。それどころか、打たれるたびに恍惚の
表情を浮かべている。
(どうしちまったんだ。悟天の奴)

同時刻、全ての謎を解いた悟飯が悟空と悟天の戦いに気付いた。

「まさか…悟天まで……」
「どうしたんじゃ?」
「ブリーフさん。僕は今すぐ、行かなきゃ。お父さん達が戦ってる」

再び、場面は悟空対悟天に移る。
悟空と悟天が戦っている。だが、それは戦いと呼べるようなものではない。
悟空が一方的に悟天を打っているだけである。

「もう、止めにしよう」

悟空がそう言った時、悟天が言った。

「まだだ、まだ終わらないよ。もっとやってくれ、サイヤ人なんだろ
 途中で止めちゃ駄目だよ」
「おめぇ、一体どうしちまったんだ」

そこへ、悟飯がやってきた。悟飯は悟天の異常さを見て確信した。間違いなく
寄生生物にやられている。

「お父さん、今の悟天は普通じゃない。二人がかりで気絶させましょう」



其の二十七 「決着」

「普通じゃないって…どういう意味だ」
「後で説明します。とにかく、悟天の動きを封じましょう」
「良いねぇ、最強の親子じゃないか。もっと、もっと味あわせてくれ」

悟空と悟飯の攻撃が悟天にヒットする。相変わらず悟天は打ち返さない。

「まずい、このままじゃ……」
「おい、悟天の奴死んじまうぞ」
「気絶させなきゃ駄目なんです、意識が残っている限り異常は無くならない」
「でも、あいつを気絶させるなんて」

「くくく、困ってるようだね。手伝ってあげようか」

そう言うと、悟天は気功波を悟空に向けて放った。
力のない一撃だ、悟空はそれを払いのけようとする。しかし、直前で弾道が逸れ
気功波は悟天自身に当たってしまった。

「やっぱ、本気の一撃がなきゃ駄目だな。これだよ、これを待ってたんだ」

そう言って悟天は自分自身に何度も気功波を打ち続ける。

「やめろ! やめるんだ、それ以上やると死んでしまう」

悟飯は必死で弟を止めようとする、だが気功波の威力はドンドン強くなっていく。
打たれるたび、体の感じる痛みが恐怖がそして、不快感が寄生虫によって快感に変わる。
もう死ぬまで止まらない。



其の二十八 「復活」

悟天の放つ気功波は突然止まってしまった。そう、悟天が死んでしまったのである。

「何でこんな事になったんだ」
「悟天は寄生虫に冒されてたんです、それで脳がおかしくなって」
「治せるのか悟飯。お前に悟天が治せるのか」
「えぇ、原因が分かりましたので今すぐにでもドラゴンボールで何とか……」
「そうか……」

悟空は静かに涙を流した。

ドラゴンボール、どんな願いでも叶う不思議な玉。
もう一度、その玉使う時が来た。寄生生物によって殺された仲間達を生き返らせるため。
そう、全てが解決したのだ。悟飯はドラゴンボールを集め、神龍を呼んだ。

「出でよ神龍、そして願いを叶えたまえ」
「悟天、トランクス、ブルマさん、サタンさんを生き返らせてください」
「たやすい願いだ」
「それと、彼らの脳に寄生している生物を消してください」
「それもたやすい事だ。  今願いを叶えたぞ」
「ありがとうございます。それとパンの病気を治してもらえないでしょうか」
「既に願いは二つとも叶えてある。そして前にも言ったが、それは不可能だ。
 ガン細胞はそのものの体の一部、そしてパンの力は私を大きく超えている
 そのような者には干渉できない」
「そうですか……わかりました」
「では、願いは叶えた。さらばだ」



最終話 「幸福」

ドラゴンボールで復活した人々のために、仲間達に再び幸福な笑顔が戻った。
だが、笑顔が戻らない人達もいた。パンの病室にいる悟飯、ビーデル、パンの三人だ。
もうパンの命は一日と持たないかも知れない。だが、パンの意識ははっきりしている。
死ぬまで苦痛を味わえと言うのだろうか、彼女はもう数時間寝ずに苦痛と闘っている。

「こんな時のため、僕は医学を学んだ。でも、大切な娘一人助けられないなんて……」
「悟飯君が辛いのは分かる。でも、一番辛いのはパン自身なんだよ」

そんな悟飯達にパンが言った。

「ごめんね、親より先に死ぬって一番の親不孝なんでしょ。私って不孝者だよね」
「……」

返す言葉が見つからない。残り数時間の命である娘に親たちは無力だった。

パンが次の言葉を繋げた。

「パパ、ママ。私しばらく一人になりたい。一人で人生を反芻したいんだ」

悟飯とビーデルは無言で部屋を出た。

パンは自分自身につぶやいた。
「私は今まで何をして生きてきたのだろう。格闘ばかりの毎日
 楽しかった、それだけは言える。それだけ言えれば満足のはずだ
 でも、どうして? どうして私は死にたくないって思うの
 生きていたい、まだ強くなりたい。もっともっとやりたい事がたくさんある
 私は死にたくない」


病室を出てきた悟飯とビーデルにマーロンが話しかけてきた。
「悟飯さん、こんな時に不謹慎かも知れませんけど、着いてきて頂けますか?」
「え??」
「すぐ、終わりますので」
「どこに行くの?」
「カプセルコーポレーションです」


場面は移って再び、パンの病室。
既にパンは死にそうになっていた。そこにマーロンがやってきた。

「パン。食欲ないかも知れないけど、これを食べてみて」
「え??」
「お願い」
「うん」

パンはマーロンの出す肉料理を口にする。もう食べる事さえ苦痛になる。
だが、何だろう自分の中の第六感と呼べるものがこの料理を食べろと言ってきた。
苦痛に耐えながらパンはその料理を僅かだけ食べた。


パンを包む苦痛が次第に和らいできた。死への恐怖も未知への期待に変わってくる。
自分をあれほど苦しめた病気が、なぜだろうか快感に変わっていく。

「ねぇパパ、なんだか私、気持ちよくなってきた
 さっきまで痛かったのに、とっても気持ちいい。とっても暖かい
 死ぬのが怖かったのに、今は楽しみになってきた」
「パン……」
少女の顔から苦痛が消えていく、変わりに安らかな笑顔が表れてくる。
「ねぇ、周りが見えなくなっちゃった。目が見えなくなったよ
 でもね、少しずつ明るくなってきた。天国に着くのかなぁ
 私死んじゃうんだよね。あぁ……どんどん体が宙に浮いていく
 ねぇ雲を超えちゃったよ。あ、天使がいる。
 私天国に着いたよ、天使に囲まれて死んでいけるんだ
 死ぬって楽しい事だったんだね。
 ……パパ、ママさようなら」

マーロンが作った料理はあの惑星の寄生生物を含む料理だった。
パンが感じている恐怖や痛みを逆転させる力を持つ生物、それが寄生生物だったのだ。

パンは死の直前まで幸福の表情を壊す事はなかった。

END