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すごいの?ヤムチャさん。


ぷろろーぐ〜その時歴史は変わった〜

空を翔ける、それなりに乗車(?)定員の多そうな飛行機の中。
チチが、カリン様の首を絞めながら叫んでいる。
「ほんとに!ほんとに悟飯ちゃんさ生きてるだな!生きてるんだな!」
「たっ、多分大丈夫と言っとろうがっ!」
「多分って何よっ!多分じゃ困るのよー!」
「そっ、そんな事言ったって…」
飛行機の中には、他にも乗員はいたが、そのチチが恐いので、止めに入ろうとはしないのだった。
「しかし、気掛かりなのは…4人…いや、5、6…6人か…全ての気が、もうわずかにしか感じられん事じゃ…一体、どうなったのか…」
飛行機の助手席に乗っている亀仙人が、深刻な面持ちで言った。
飛行機は、眩しい光を発する球体に向かい、飛んで行く…。

「おお〜い!」
到着した先に居た、クリリンの姿を確認した亀仙人が叫ぶ。
ほぼ同時に、チチが、「悟飯ちゃーん!」と叫びながら飛行機から飛び出た。
チチは、遠くに倒れる我が子を確認すると、途中に倒れる悟空を無視して、真っ直ぐ走っていった。
それ以外の一行は、クリリンに事の次第を聞く事にした。


「あ…あいつ…強いなんてもんじゃないすよ…ブ…ブルマさん…ヤムチャさんも…俺たち4人以外はみんな、や…やられて…」
生き残ったクリリンと悟空が、状況を説明する。
サイヤ人を逃がした事。
ピッコロが死に、神様も死んでしまったために、ドラゴンボールが使えなくなってしまった事。
生き残ったもう一人はヤジロベーだった事。
その時の事だ。
「で…では…ワシの感じたもう一つの気は一体…」
「え、もう一人?」
「ああ。お主らが最初にサイヤ人と戦っていた場所に、小さすぎて誰だか分からんが、もう一つだけ、気を感じるぞ。」
「残念だが、それはありえん…先程、神殿におられるはずの神様の気配が消え去った…ピッコロは死んだ、間違いなく…」
「じゃ、じゃあ天津飯だ!きっと、無意識の内に、気功砲を弱めてたんだ!」
嬉しそうに叫ぶクリリン。悟空も、
「そうか…天津飯か…そいつは心強ぇや…」
と頷いていた。

だが。

そこにいるのは雑魚の始末も出来ず、THE・油断の末、敵に汚いボロクズとか罵られ、お遊びは終わりって事を教えてやれなかったあの男だった。


すごいの?ヤムチャさん。
第一話
〜日記〜

〇月×日(晴れ)
朝、起きたら知らない部屋で寝ていた。
何でも、あの栽培マン、とかいう奴に自爆されて、全治三週間らしい。
隣に寝ている、ボロクズみたいな悟空の笑顔が、妙にムカついた。

〇月△日(曇り)
両腕の怪我はたいしたことがなかったので、オナ%#&*@…本を読んだりして暇が潰せるので、助かる。
今日も、エロ£¢#&…推理小説などを楽しんだ。
隣に寝ている、悟空の汚いものを見るような顔が、妙にムカついた。

〇月□日(快晴)
ブルマたちがナメック星に行った。
移動中に怪我が完治するだろという理由で、俺も連れていかれそうになった。
クソが。
怪我人だっつーの。
ブルマのいる手前、後で悟空と一緒に追い掛けると言ったが。
隣に寝ている、悟空が一緒に追い掛けると言った時の露骨な嫌そうな顔が、妙にムカついた。


〇月◇日(雨)
このまま悟空と一緒にナメック星に行こうとすると、十中八九宇宙船の中の修行についてこれず、死ぬと宣告された。
入院中に、界王拳とかいう技の原理を教えるから、退院したら精神と時の部屋で修行するよう勧められた。
あんな寂しい部屋に一人でいたら発狂するといったら、武天老子とかミスターポポとかを連れてけばいいとか言われた。
ダボが。
隣に寝ている、悟空の何も悪気が無さそうな顔が、妙にムカついた。

〇月*日(曇り)
今日で退院出来るらしい。
当面の目標は、界王拳の修得と基礎能力の向上だが、あの部屋に篭ると思うと、正直、鬱になる。
ポポは昔入ってた事があったらしく、修行のパートナーは武天老子だ。
ジジイと二人であの部屋に篭ると思うと、正直、鬱になる。
悟空が勝手に取り決めた事だが、ありがた迷惑だ。
どうせならランチさんとか、チチさんとかが良かった。
隣に寝ている、悟空の、いい事したぞ、オラって顔が、妙にムカついた。


白く、澄みわたった空。どこまでもに広がる白い大地。普段は町の雑踏の中、見ることの叶わない地平線。ヤムチャは大きく息を吸い、おもいっきり伸びををして。

ドズンッ!

大地にへばりついた
「重っ!!」


第二話
〜重力〜

ここは精神と時の部屋。重力10倍、空気は薄く、気温もめまぐるしく変わる空間。ヤムチャの眼前では、先に入っていた亀仙人が潰れている。
「役立たねーな、このジジイ。舞空術は使えねーわ、重力に耐えられねーわ…」
「お主も地面にへばりついとるくせに、よう言うわい。」
「ああ、生きてたんですか、武天老子様。てっきり圧死したものと…」
とりあえず、全身に軽く気を込めて立ち上がるヤムチャ。
「ハッハッハ、俺が倒れたのは油断ですよ、油断。武天老子様とは違うのですよ、武天老子様とは。」
そう言いながらも、かなり足元がおぼつかない感じがする。コイツ、前の天下一武道会の時の弱点、そのままじゃん。神様の下で特訓した意味ねーじゃん。とか亀仙人は思った。
「とりあえず立ち上がってくださいよ〜、武天老子様よ〜。武術の神様、なんでしょ〜?そのグラサンは伊達ですかー?ニゥガソダムは伊達じゃないんですかー?」
ヤンキー座りで、見下ろす体勢からイヤミを言うヤムチャ。ムカツクので、足払いをかけたら簡単にすっ転んだ。ついでに全力で立ち上がって、足刀を喉にいれた。
重力十倍、打ち下ろしの技なら威力もアップ。渋川〇気の技が最強に成りそうな空間。ヤムチャは泡をふいて動かなくなった。
「ふぅ。楽しみを奪ってくれるな。この武天老子、あと200年は現役じゃわい。」
亀仙人は訳の解らない台詞を吐き捨て、十倍の重力を克服すべく歩き出した。

ヤムチャの戦闘力
1500
界王拳…原理は知ってる?

亀仙人の戦闘力
142
界王拳…何ソレ?



真っ白な空間。その空間に映える、赤の光。その中心に居るのは…古今無双の武術の達人と言われる老人だった。

第三話
〜力〜

ヤムチャは焦っていた。自分の持つ力に置ける、圧倒的優位。この老人と二人なら、それは揺るがない。筈だった。
この、武天老師という老人の何百年という時を費やして手に入れた、力。
ヤムチャは僅か数年という期間で、それを遥かに上回る力を手に入れた。
自分は、老人を遥かに上回る才能と、若さとエネルギーが溢れる肉体を持っている。
どこをとっても同じ修行、同じ期間なら、その老人が自分を追い越す要因は、有りはしない。筈だった。

だが。

現状は。

精神と時の部屋で、既に一ヶ月を越す時間が流れようとしていた。
最初は、この部屋での禁欲生活に耐えられない。そう感じていた。それは慣れと、時折外の世界に出て、物資を補給する事により何とかなった。
だが、ヤムチャが自分の「欲」を押さえ込んだ頃、ある事に気が付いた。
武天老師と、自分との力の差が埋まってきている。
最初は気のせいだと思っていた。
だが。


ある時ふと気が付いたら、それは既に背後にいた。
もちろん、自分が修行をサボっていたわけではない。
10倍の重力も、苦にならなくなった。
力の調整はうまくいかないが、界王拳らしいものができるようになった。
たった。たった一ヶ月で、だ。
だが、武天老師は。
10倍の重力でも普段と何の遜色も無く動けるように、いや、むしろ以前の重力下にいた時の動きより、鋭くなった印象すら受ける。
さらに、自由自在に力を増す、完成した界王拳を使うようになった。
同じ修行を同じ期間だけやっていた筈なのに。

もう、自分に優位は無かった。まだまだ総合的なパワーは、実力は、自分が上だ。だが、相手の老練な技術は自分の遥か上を行く。さらに界王拳の差。

俺は追い付かれるのか?また、負けるのか?

嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ。俺は負けたくない。誰にも…誰にも、だ。

ヤムチャの戦闘力
2300
界王拳…未完成

亀仙人の戦闘力
1450
界王拳…完成したものが使えるが、2倍は体が耐えらない。


「ハッ!」
目を覚ます、ヤムチャ。寝巻きにしているランニングシャツは汗でグチャグチャだった。
一呼吸して、伸びをした。そしてしばらくボケーッとする。
「夢…か」
「そうか、夢だよな。」
「いくら何でも武天老師があんなに強い訳がない。」
「あーあ、何て夢見てんだよ、俺。」
「腹減ったな、飯にするか。」
「飯っていっても粉しかないんだよな〜。」
「あ〜ぁあ、町の飯が恋しいなぁ。」
「あ、武天老師様、何ですか?」
「え、組手?ハッハッハ、いっちょもんでやりますか!」

グシャアァ…!

…痛ぇ…
…あれ?もしかして、俺、吹っ飛んでる?

…夢、じゃないじゃん…



第四話
〜理由〜

時がたつのは早いもので…精神と時の部屋に入って、もう半年にもなろうとしていた。
その間、ヤムチャと亀仙人は重力を克服し、界王拳をも身に付けていた。

「ほらほら、足元がお留守じゃぞぃ。」
「攻撃を当てたからといって、すぐ油断しおって。」
「繰気弾、とかいって手を動かしてる暇があったら攻撃せんかぃ。足元だけじゃなく、手元までお留守じゃわい。」


気が付いたら、ヤムチャは全く勝てなくなっていた。
精神と時の部屋に入った時には亀仙人に負ける日が来るとは思ってもいなかった。
かつての師との力の差に、密かに優越感すら感じていた。
しかし、今は負けている。
今、ヤムチャの視線の先にいるのは、舞空術で自在に空を飛び、その肉体は地球人のソレを遥かに上回り、さらに経験に裏打ちされた最高の技術を持つ、まさに武術の神、と呼ぶにふさわしい老人だった。
時の部屋に入った最初の日。ヤムチャは老人を侮った。
この程度で、何が武術の神か、と。
そして己に慢心していた。
しかし、それも途中までの話。
一ヶ月が過ぎる頃から、死ぬ気で修行に励むようになっていた。
老人に負けないために。
己の誇りのために。

「ヤムチャよ。」
「そのままでは永遠に追い付けんぞ。」
「ワシに、じゃない。いや、今ではワシにすら追い付けんか。」
「悟空は何故強いと思う?」
「お主が何故強くなりたいか、少し考えてみろ。」
「それが何であれ、今よりはきっと強くなれる筈じゃ、お主ならな。」

…強くなる、理由…

ヤムチャの戦闘力
5100
界王拳…2倍まで使用可能

亀仙人の戦闘力
5600
界王拳…ギリギリ3倍まで使用可能



第五話
〜堕落〜

〇月∇日(晴れ)
今日から精神と時の部屋で修行だ。だが、ジジイと二人じゃどうにも盛り上がらない。
ジジイといえば、あの武天老師の野郎、俺の力をひがんでやがるのか、いきなり攻撃してきやがった。もちろん、後でボコボコにしてやったが。
武天老師の、脅えた顔が、妙に笑えた。

〇月∇日(晴れ)
よく考えたら、この部屋ではしばらくずっと〇月∇日のままだ。何か嫌だ。しかも重力が強すぎてシャーペンが壊れる。まあ、すぐに武天老師を連れて外にいって、お義父さんのところから頑丈なヤツをとってきたが。
ついでに特殊な条件下でも使えるゲーム機とか保存食のテストとかも頼まれた。これでしばらく修行に専念できる。
武天老師の、俺のパンチで腫れた顔が、妙に笑えた。

〇月∇日(晴れ)
こっちに来て、もうかなりになる。ようやく、お義父さんにもらったゲームを全クリした。
ラスボスの足払い攻撃に苦戦したが、所詮俺の敵ではなかったな。
こんなことをしてる間に、武天老師がかなり強くなっていてビックリした。
武天老師の、真面目に頑張る姿が、妙にムカついた。


〇月∇日(晴れ)
ヤバい。このままだと武天老師に追い付かれそうだ。生意気にもあのジジイ、俺より先に界王拳を身に付けやがった。
まぁ、実力ではまだまだ俺のが上だ。所詮武天老師よ。
武天老師の、界王拳で光る頭が、妙に笑えた。

〇月∇日(晴れ)
マズい。かなりマズい。
武天老師が強くなってる。
ヤバい、真面目に修行しないと追い付かれるかも。悟空とかピッコロとかならまだしも、こんなジジイに抜かれたとあっちゃあ荒野のハイエナの名が廃る。
明日から真面目にやろう。
武天老師の、舞空術で空を飛ぶ姿が、妙にムカついた。

〇月∇日(晴れ)
ヤバい。今度こそマジでヤバい。ここに入ってから、初めて組手で負けた。
大袈裟に喜びやがって。死ね、クソジジイが。
どうせ俺が気を抜いてたに決まってる。
武天老師の、得意気な顔が、妙にムカついた。

〇月∇日(晴れ)
もう駄目だ。あのジジイ、無茶苦茶強い。畜生、同じ修行してるのに何で勝てない。
しかも、最近偉そうに説教までしてくるようになった。
滅茶苦茶ウザい。
武天老師の、諭すような態度が、妙にムカついた。

〇月∇日(晴れ)
ここんとこ、毎日武天老師の説教が続いた。強くなる理由?そんなん知るか。
しかもあのジジイ、おとなしく聞いてやっていたってのに、何故かいきなり怒りだしやがった。なんなんだ?あのジジイ。
武天老師の、呆れたような顔が、妙にムカついた。

ヤムチャの戦闘力
5250
界王拳…2倍まで使用可能

亀仙人の戦闘力
5800
界王拳…ギリギリ3倍まで使用可能

すごいの?ヤムチャさん。

どうして、ああなってしまったのか。
少なくとも、昔のあやつはああではなかった。
はじめて天下一武道会で戦った時には、この若さで、よくこれ程の修練を積んだものだと思ったものだ。しかも、独学と言うではないか。いやいや、驚いた。

ナムさんの次に。

このまま強大な力を、中途半端な気持ちで持つようになれば、あやつはどうなってしまうのだろうか。
悟空達に、背を向けた道を歩みだすやもしれん。
その前に正さねばなるまい。あやつの師、として。

…まぁ、あやつが道を誤ったとて、どうにでもなる気がするが…



第六話
〜手段〜

この前ワシが叱りつけてしまって以来、前にもましてあやつは話を聞かなくなった。
まぁ、ワシがいくら説得したところで、今のあやつには馬の耳に念仏だがの。
しかしどうしたものか。
頭の中まですっかり腐りきっとるからのう。
だが、腐っても我が弟子。
…弟子?
そうか、あやつが弟子だからワシが頭を痛めねばならんのか。
…いっそ破門するか。
悟空とクリリンがいれば亀仙流的には安泰じゃしな。
…いやいや、いかんいかん。ワシとした事がなんという事を…
うーむ。
本意ではないが、多少手荒になっても仕方あるまい。
少なくとも、悪の道に踏みいれる事はないようにせねばなるまい。

その為にはどうするか。
…いっそ一時的にアレをしてしまうか。
そのまま、少しずつ更正させてやればよい。
幸い、この精神と時の部屋は何処を見ても白い空間だ。
そして、ワシの長年をかけて培ってきた技術。
それを使えば…

いやいや、それは正しい事なのか?
強くなって、楽しく人生を過ごすという目的から逸脱してしまってはいないか?

…まぁ、いっか。

「ど う せ 、 ヤ ム チ ャ だ し 。」

ヤムチャの戦闘力
5300
界王拳…2倍まで使用可能

亀仙人の戦闘力
5840
界王拳…ギリギリ3倍まで使用可能




第七話
〜経過〜

〇月∇日(晴れ)
武天老師が、修行のためにと、亀水とかいう怪しげな液体を差し入れしてくれた。
もしかして、この前キレた事に対する、ご機嫌取りの意味もあるかもしれない。これが、ナカナカイケる。
何でも、集中力を高める効果があるらしく、能率的な修行ができるそうだ。
武天老師の、グラサンの光沢が、妙にムカついた。

〇月@日(晴れ)
外で物資を補給してる間に、日付が変わった。今日も晴れだそうだ。まあ、この空間には関係のないことだが。
にしても亀水は美味い。武天老師さまさまだ。だが、最近亀水を飲んだ後の記憶が薄い気がする。
武天老師が言うには、極度の集中で、頭が疲れているから、との事だが、本当にそんな事があるのだろうか?
武天老師の、焦る姿が、妙に怪しかった。

〇月@日(晴れ)
こっちに来て、もう1年ちょいになる。俺も、武天老師様も、かなりウデをあげた。
おそらく、今なら悟空にも勝てるだろう。
…多分。
それにしても、武天老師様は強い。だが、俺も負けるわけにはいかない。荒野のハイエナの意地に賭けて。
武天老師様の、手加減のない鋭い足払いが、妙に嫌だった。


〇月@日(晴れ)
亀水が美味い。疲れた時にはコレ一杯。飲んだ後にボーッとするが、そんなのどうでも良いくらい美味しいです。ビバ、武天老師様。
修行中、真っ白な空間を見て、ふと宗教のセミナーとかを思い出した。刷りこみにはよさげな空間だ。
まぁ、武天老師様と二人なので、そんなことを心配する余地など、ありはしないのですが。
武天老師様の、多彩な技が、妙に冴えておられました。

〇月∴日(晴れ)
もうすぐ、この部屋にきて、2年になるそうです。
武天老師様と二人、修行に励んだ日々が、夢のようです。
最初はこんな高齢な方と、などと思っていましたが、今では、このお方の素晴らしさに敬服の一言です。
思えば、僕はこの方にお世話になってばかりでした。
界王拳のコツ、精神面の脆さ、及び足元の克服、新技の開発。
全て武天老師様のお陰です。
武天老師の、偉大なその背中に、妙にカリスマを感じます。

〇月∴日(晴れ)
今日で修行も最終日です。外界に出て今日はゆっくり休み、明日、悟空に報告に行く、という事です。
仙豆が出来るまでもうしばらくかかるそうなので、報告した後、しばらくはカメハウスで武天老師様と修行です。
久しぶりの普通の重力で、ぐっすり眠れそうです。
そうそう、寝る時には修行のために枕元に武天老師様のお声の入ったカセットテープをかけておくように、との事でした。
武天老師様の、寝るときの修行まで考えてくださるお心遣いが、妙に胸に染みました。

ヤムチャの戦闘力
18800
界王拳…4倍まで使用可能

亀仙人の戦闘力
15200
界王拳…4倍まで使用可能




世界が沈む
俺は浮く
深い、深い、闇の中

世界が回る
俺も回る
暗い、暗い、闇の中

猫が、豚が、
ガキが、女が、
巨大な猿が、三目の妖怪が、緑の巨人が、
俺の世界を砕いていく

光の中

老人が一人




第八話
〜説明〜

オッス、俺、ヤムチャ。いや〜、大変な事になってるな、ナメック星。あのベジータや、それを上回る強敵だなんて、本当に大丈夫なのか、クリリン達は。俺達が行くまで、生きていてくれよ!どんな強敵も、すっげー修行して倒してみせる!我が師匠、武天老師様の名に誓って!
そして、本家ドラゴンボールを使い、宇宙を統一するんだ。
絶対善、武天老師様の下に築かれた楽園は、きっと宇宙に恒久の平和をもたらしてくれる。
そこには、悩みも苦しみも一切無い。
武天老師様の名の下、全てが平等で、全てが平穏で、全てが平和の理想郷。
俺は、戦う!
正義の為、理想の為に!
「うふ、うふふぅ〜。」

薬臭い病室。まるで、ミイラのように包帯を巻かれた悟空と、シッカリした、品の良いスーツに身を包んだ亀仙人が座っている。そして、亀仙人の背後にはヤムチャが立っている。
何やら、妙な笑い、というか、何処か遠くにいっているような表情のヤムチャ。それを見たら、いくら悟空でも何も気が付かないはずはなかった。
「…なぁ、ジッチャン。ヤムチャ、何か変じゃねぇか?」
とりあえず、隣で看護士にセクハラを働いている亀仙人に聞いてみる。
「ああ、あれか。修行中ショッキングな出来事があってな。まぁナメック星に着くまでには落ち着くじゃろ。」
さらりと、何も悪びれる事なく亀仙人が答える。
「だけど、さっきから亀仙流万歳、とか、訳の分かんねぇ事ばっかりブツブツ言ってて、まるでヤムチャらしくねぇ。あれの原因が、ジッチャンってんなら、オラ、許すわけにはいかねぇぞ。」
鬼の形相で睨む悟空。もっとも、睨んだところで半死人な上、力も圧倒的に劣っている為、効果は薄いのだが。
「確かにああなった原因はワシにある。」
亀仙人は、またもさらりと答える。
「ヤムチャに何をした。」
ドスの効いた、低い声で再び問う悟空。結構様になっている。
「なーに、ちょっと真面目になるようまじないを、な。安心せい。変なのはアレがヤムチャだからじゃ。」
ヤムチャだから。全く説明になっていない。だが。
「なーんだ。ヤムチャだからか。仕方ねぇか、まぁヤムチャだしな。」
この一言は、ヤムチャの周りに起きる事象、全てを説明するに足る一言だった。

ヤムチャの戦闘力
18800
界王拳…4倍まで無理なく使用可能

悟空の戦闘力
9000・戦闘不能
界王拳…2倍まで無理なく使用可能。

亀仙人の戦闘力
15200
界王拳…4倍まで無理なく使用可能




カプセルコーポレーション社長、ブリーフ博士宅、庭。
悟空が事前にブリーフ博士に頼んでおいた、サイヤ人の宇宙船の改修は後、ステレオのスピーカーの位置だけとなっていた。
宇宙船の中。
「うーむ、ヤムチャ君もついていくらしいからのう。」
白衣、眼鏡、髭。いかにも博士、といった容貌の男が、煙草をくわえて考え事をしていた。
「ウルフハリケーンとか流されたら流石の悟空君もたまったもんじゃないじゃろう…やはりステレオは取り外しておくか。」
こうして、宇宙船は完成したのだった。




第九話
〜始動〜

巨大な、球状をした宇宙船が、轟音と共に飛び立っていく。
乗員は悟空、亀仙人、そしてヤムチャ。
飛んでいく宇宙船を確認するよう、ブリーフ博士は空を見上げている。そして、一言。
「ほう!急いで造った割にはちゃんと飛びおったわい!」
世の中の不祥事を全肯定するような言葉を、天下の大企業の社長が口にする。
「あっ、あれ!?悟空達は!?宇宙船は!?」
「ひょっとして、今の音…」
そのすぐ後に、直立二足歩行の豚とふわふわ浮かぶ猫、の様な生物、ウーロンとプーアルがやってきた。
「うむ。慌てて行ってしまった。」
「なんでぇ、水臭いな…挨拶ぐらいしてきゃいいのによ。」
「ヤムチャ様…何かあったのかなぁ。」
プーアルの言葉は、別の意味で当たっていた。むしろ、会わずに出発したのは正解と言えるだろう…


宇宙船内部。
「えへ、えへへ…ららぁ、ときがみえるよ…」ヤムチャは、宇宙空間に出た瞬間から、訳の分からない電波を受信していた。
「ま、いいや。さっそく修行しねぇと!」
「そうじゃのう。たった六日間で着いてしまうからの。時間が惜しいわぃ。」
二人は後ろで「見える、そこだ!」とか言いながらシャドウをしているヤムチャを無視して、重力装置をいじりだした。
「…と、界王様んとこは確か10倍の重力だって言ってたな…」
「精神と時の部屋もそうだと聞いたわぃ。」
「とりあえず、20倍ぐらいから慣れてったほうが良いかな?」
「うむ、そうじゃの。」
パネルを操作して、重力を操作するる悟空。
「よし、20倍…っぐわっ!」
悟空は重力、ではなく、突如横から突き出てきた拳を顔面に受け、吹っ飛んだ。当然、亀仙人、ではなくヤムチャのものだ。


「な!?ヤムチャ、何をしてるんじゃ!?」
亀仙人が叫ぶ。
さっきまで遠くに逝っていたヤムチャが急に戻って来たのですこしビビり気味だ。
ゆらり、と振り向くヤムチャ。
「駄目なんですよ…普通の特訓では花形を超える繰気弾は投げられないんですよ…巨人の星に成れないんですよ…」
前言撤回、まだ遠くに居るらしい。
「は?ちょ、ちょっと待て、待つんじゃヤムチャ、早まるな!?」
「ポチッとな!」
パネルを押すヤムチャ。だが、逝っている為か力の加減が出来ず、豪快に破壊されてしまった。
「ふぅ、助かったわぃ。いきなり100倍なんぞと言われたらどうしようかと…」
しかし、次の瞬間、ドズンッという豪快な音と共に地獄の六日間の幕が開けた…

ヤムチャの戦闘力
18800
界王拳…4倍まで無理なく使用可能

悟空の戦闘力
12000(病院で、瀕死状態からの復活をはたしているため戦闘力増加)
界王拳…3倍まで無理なく使用可能

亀仙人の戦闘力
15200
界王拳…4倍まで無理なく使用可能



「うあぁぁぁっ!か、界王拳3倍だぁっ!」
「か、界王拳、2倍じゃあっ!」
「はっ!何だ、これは!?界王拳、2倍だっ!」
いきなりの異常な負荷に、界王拳を使い抵抗する悟空達。ヤムチャも、衝撃で目を醒ましたようだ。
「一体俺は何を…どうなってるんですか、武天老師様、悟空!」
「オメェが人工重力装置、ぶっ壊しちまったんじゃねぇか!」
「そ、そうなのか!?スマン!」
「そんな事はどうでもいいじゃろ!今は、この重力をなんとかせんと…」

ズンッ!

「ぐっ!また強くなったぁ!?」
「か、界王拳、4倍じゃあっ!」
「た、大変です、武天老師様!悟空がぁっ!」
「ぐぎぎ…オ、オラ、負けねぇぞ…!」
ベチャッ!
「ギャーッ!悟空が潰れたー!床が返り血で真っ赤にーっ!」
「せ、仙豆!それに雑巾は何処じゃあ!?」
「あ、あれ?ジイちゃん?へへ…久しぶりだな…オラ、スッゲー強くなったんだぞ…」

「「し、死ぬな、悟空ーっ!」」



第十話
〜到着〜

それは正に地獄だった。
いつ、強くなるか分からない、決して弱まってはくれない重力の恐怖。
少しでも気を抜くと、潰されてしまいそうなギリギリの負荷。

界王拳を常に維持しなければならない為、ろくな休息もとれず。
本来の規格外の負荷がかかっているらしく、軋み続ける宇宙船の恐怖。
壊れ逝く、ヤムチャの精神。
だが、彼等は負けられなかった。
ナメック星に居る仲間達の為に。
死んでいった、仲間達の為に。
そして、なにより…
「ぐぎぎ…し、死んで、たまる、かぁ!オ、オラ、もう生き返られねぇんだ!」
「ワシはこんな死に方は嫌じゃあ…!もっと、満足のいくよう逝きたいんじゃあ…!」
「死ぬの怖い、死ぬの怖い、死ぬの、怖ぁいぃ!」
自分の生存の為に。

そして、六日後。
最終的には、200倍を遥かに超えたであろう重力が。
常人離れした容量(キャパシティ)を持つ肉体が。
彼等の、異常なまでの生存本能が。
一つの奇跡となって、ナメック星に到着した。

ドアが開く。
ボロボロの姿で、支えあいながら降りてくる3人。
「ああ、生きてるんだ、俺達…」
「永く、永く生きてきたが…こんなに『生』が素晴らしいものとは…気が付かなかったわい…」
「オラ、思わなかった…何でもないことがこんなに幸せだったなんて…思わなかった…」
そして、仙豆を食べ、服を着替え、3人で笑い、3人で泣き、3人で叫んだ。

「「「生きてるって!素っっ晴らしいぃぃー!!」」」

そんな3人を見届けて、満足したかのように。
自らの耐久性を超えた重力の負荷耐えきれず。
宇宙船は、爆発したのだった…

ヤムチャの戦闘力
230000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能

悟空の戦闘力
250000
界王拳…16倍まで無理なく使用可能

亀仙人の戦闘力
220000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能

仙豆…残り2個

第一部・ヤムチャと地獄の修行編〈完〉



その頃、悟飯、クリリンは、ベジータを助っ人に加え、ギニュー特戦隊と戦っていた。
隊長を除く4人のうち一人は倒せたものの、残りの3人の力は圧倒的で、モヒカンの巨人、リクーム一人にクリリン、悟飯はおろか、ベジータすら子供扱いされる始末だった。
悟飯の首が折られ、リクームが3人に止めを刺そうとした頃。
彼等はやって来たのだった。



第十一話
〜任務〜

「う、宇宙船が壊れてしまった…」
焦るヤムチャ。
「早く3人を探さねぇと…生きてろよ、クリリン、悟飯、ブルマ…」
気にも留めない悟空。
「Zzz…。」
6日間の徹夜が堪えたのか、その場で眠りこむ亀仙人。
「あっちに一つ、こっちにも一つ…何て事だ…バカデカい気を持った奴がゴロゴロ居やがる…」
悟空が気を探り、悟飯達を探しだす。
「お、おい悟空、宇宙船…」
ヤムチャがキョドる。
「Zzz…。」
亀仙人が熟睡する。
「…!悟飯…!?クリリンも…まずいぞ!!死にかけている…!!」
悟空が焦る。
「…おーい、悟空さーん。」
ヤムチャが少し寂しい気分になる。
「うーむ、むーん…じ、重力がぁぁ…」
亀仙人は悪夢にうなされる。


「すぐ近くのデカい気が3つ集まった所だ…!」
悟飯達の気を捕え、悟空が叫ぶ。
「おい!悟空!」
悟空のシカトっぷりにヤムチャがキレる。
「うぐぁぁ…負けてたまるかぁ…」
悪夢の辛さに、亀仙人が寝返りをうつ。
はっきりいって、まるでまとまりが無い。どうやら、地獄の6日間は圧倒的な力を与えた反面、他人を気にかける余裕が全く無かったため、個人主義を生み出したようだ。
「よし、ヤムチャ、オメェに任せた!」
「へ?」
今までシカトされてのに、いきなり何かを任され、ビビるヤムチャ。
「ほら、仙豆だ。クリリン達を助けてこい!」
そう言って、悟空は仙豆の入った袋をヤムチャに差し出す。
「何でだよ!3人で行った方が良いだろ、絶対!」
ヤムチャが抗議する。相手の力が未知数な上、3対1とあって、必死だ。


「大丈夫だ、今のオメェなら。ほら、オメェが居るから亀仙人のジッチャンだって安心して寝てられるんだぞ!」
「武天老師様…そうだったのか…」
「ほら、それに、今の敵ならオメェの圧倒的ウデを魅せつけらるぞ!そうすりゃあクリリンや悟飯は、尊敬の眼差しでオメェを見るようになるぞ!ブルマもそれを聞いて、惚れなおすに違えねぇ!」
「尊敬…ブルマ…」
ヤムチャの脳裏に、尊敬の眼差しを一身に受ける自分の姿が浮かび上がる。
「え、えへへ…そ、そうだな!よし、行ってくる!全て俺に任せといて、お前達は休んでおけ!」
言うが早いか、ヤムチャは仙豆の袋を受け取り、猛スピードで飛び立っていった。
それを見届け、欠伸をすると、悟空も横になった。
「ふあぁぁ…元気な奴だなぁ…まぁ今のヤムチャなら死にはしないだろ。悟飯はどうせドラゴンボールで生き返らせられるし、死んでたらヤムチャを責めればいいし。オラも寝よっと。」
瞼を閉じ、深いまどろみの中におちていくのだった…

ヤムチャの戦闘力
230000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能



悟飯達の気を捕え、猛スピードで飛んで行く、ヤムチャ。その表情は、自信に満ち溢れて…
「大丈夫だ…俺は強い、俺は強い、俺は強い…」
…いなかった。
「自爆されない、きっとされない、絶対されない…」
どうやら、栽培マン戦のトラウマが根強く残っているようだ。
一通りの自己暗示をかけ、自信に満ち溢れた表情を取り戻す。
「よし!あそこだ!」
眼前の目的地に向けて急加速する。
そして、ヤムチャなりに、カッコつけて着地。
満面のヤムチャスマイル。
「待たせたな、クリリン、悟飯!」
しかし、いろいろ準備していたため…
到着したヤムチャの足元で、悟飯の命の灯が燃え尽きようてしていた…



第十二話
〜数〜

「…だ…誰だ、アイツは…カカロットが来るんじゃないのか!?」
ナッパとすら戦っていないため、ベジータに顔すら覚えられてない、ヤムチャ。
「ヤ、ヤムチャさん!?悟空はどうしたんだ!?」
栽培マンにすらやられてしまったため、クリリンにあてにされてないヤムチャ。
当の本人が、足元で白眼を剥いている悟飯にビビっていて、クリリン達の台詞が聞こえていないのがせめてもの救いだ。

「しっ、死ぬな、悟飯!」
足元で、痙攣している悟飯に、無理矢理仙豆をねじこもうとする。
「一個丸々は入らない、仕方ない、半分に割って…」
ヤムチャが、無理矢理仙豆の半分を押し込むと、何とか悟飯は蘇生することが出来た。
「ふぃー、何とか生き返ったか…危うく悟空に殺されるとこだった…」
額の冷や汗を拭い、悟飯に適当に挨拶すると、クリリンに一つ、ベジータに悟飯に食べさせようとした残り半分を渡し、回復させた。
「な、何なんだ?死にかけの奴らが生き返りやがった!」
特戦隊は仙豆の効能に驚いている。
「ヤ、ヤムチャさん!何でベジータまで…」「何でって…見たところ、一緒に戦ってたんだろ?」
「そっ、そうだけど…これから敵になるかもしれないんすよ!」
「これからよりも今の勝利が大事だ!これで4対3!こちらが有利だ!」
そう言ってヤムチャは、自信満々に胸を張る。
駄目だ、コイツ…何でさっき俺達がボロボロの姿で倒れてたのか、まるで分かってない…
クリリンは、心の中でヤムチャを罵った。
仕方がないので、クリリン、悟飯、さらにベジータは、ナメック星でのこれまでの経過を、解り易く、コンパクトに説明したのだった。


「…という訳で、あいつら、とんでもない奴らなんですよ。」
十分程の解り易い説明の末、ヤムチャは相手の強さを理解し、ビビりまくった。
「へっへへへ…ちっとは面白くしてくれよ…」
自信満々に笑うリクーム。
「おーい、このゴミムシの戦闘力はいくつぐらいだ!?」
と振り向いた先に。
何故か、仲間の姿は既に無かった…

ヤムチャの戦闘力
230000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能




前回、何時の間にやらエスケープしたジースとバータ。彼等は、隊長、ギニューの元へと急ぎ飛んでいた。
「本当に、アイツから6万の戦闘力が検出されたのか?」
「ああ、間違いない。一瞬だが、俺のスカウターに記録されている。」
バータは耳元のスカウターを指で叩く。
「しかし、さっきまでたった4千しか反応が無かったってのに…故障じゃないのか?」
「奴らが戦闘力を自在に操るのは分かっている事だ、今更、驚く事でもない。だが、6万は脅威だ。」
「3人でかかれば、倒せない数値でないだろう。なぁ、リクーム。」

・・・・・

「あれ?リクームのヤツは?」



第十三話
〜圧倒〜

どうする?
「おーい、バータァ、ジースゥ?何処だ〜。俺一人で遊んじまって、良いのかぁ〜?」
正直、あまりヤバくなさそうな感じなんだが…
「あいつら…何のお遊びだ?かくれんぼか?」
あのベジータですら圧倒するような相手だ…
「まぁいいか。この、新しいオモチャを独り占めできる訳だし。」
クソッ、さっきからふざけやがって…
「お、ビビってる、ビビってる。ハーハッハ!」
あーあ、道着、着替えたばかりなのに…また汚すことになりそうだな…


「先手必勝!界王拳2倍!ハァッ!」
掛け声とともに、ヤムチャから赤い気が立ち上る。
「なっ!何だ、あのデタラメなエネルギーは!?奴は地球人じゃないのか!?」
「あっ、アレがヤムチャさんだってのか!?」
「ス、スゴいです!ヤムチャさん!」
ヤムチャから発せられる、膨大な量の気。(クリリン達的には)予想外の展開に、驚いている。
「ゲフッ…」
次の瞬間、リクームは、ボロクズと化していた。そして、ナメックの大地に、投げ捨てられるボロクズ。
「な、何だ、全然弱いじゃないか…」
結局、ヤムチャの道着を汚したのは、極度の緊張からでた冷や汗と、戦いの際に巻き起こった砂埃だけだった。
1つ目の弱点、油断する。それが今回でてこなかったのは、たまたまなのか、はたまた、亀仙人との修行の成果か…
「ば、馬鹿な…!リクームがあんなアッサリ…!?」
リクームを連れて行くため戻っていた、(自称)宇宙1のスピードを持つ男、バータは全てを見ていた。
そのスカウターに浮かび上がる数字。

「馬鹿な…!46万だと!?た、隊長でも敵わないじゃないか!」急ぎ、スカウターに備え付けられた通信機能で知らせようとする。しかし…
「2人目、見ぃーつけたぁ。」
「!?」
ポンポン、と何者かに肩を叩かれ、邪魔をされる。
当然、ヤムチャ。
バータは、気を探知する能力を持っている上、図に乗っているヤムチャの近くに居たため、重大な事実を知らせる事なく、戦闘不能に陥るのだった…

ヤムチャの戦闘力
230000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能




「なんだと?6万の戦闘力だと?」
フリーザの宇宙船の停泊地。ジースは、ギニューを呼びに来ていた。何故、スカウターの通信機能を使わないのだろう、という疑問は持たないお約束である。
「バカモノ!お前達3人なら勝てない数字でないだろう!」
「しかし、奴らは戦闘力を自在に操りまして…」
「もういい!このギニュー隊長自ら戦いのお手本を見せてやる!」「お、お願いします!」
その後、ジースがドラゴンボールを埋めたり、二人でスーパーファイティングポーズをキメたり、いろいろやってから出発した二人だった。
その間に、リクームとバータの戦闘力が消えていたのに気が付かずに…



第十四話
〜勝利〜

ボロボロで大地に伏しているリクームとバータ。
「スゴいです、カッコいいです、ヤムチャさん!!」
子供故か、素直に絶讚してくれる悟飯。
ヤムチャは、自慢のスマイルでそれに応える。


初めて、悟空と会った時。彼は敗け知らずの盗賊だった。
めっぽう強いが、女にゃウブい。
荒野のヤムチャ、ロンリーウルフ。
砂漠に住む人々は、皆、彼の力を恐れた。
だが、悟空と出会った時から彼は敗けるようになった。
戦いに敗けるだけならまだしも、その内容に『敗北』が有った。
天下一武道会、本戦出場経験3回。しかし、全て一回戦敗退。
本来、本戦に出場する事が出来ただけでも賞讚に値する。
しかし…
相手の素振りで場外。
相手を自分から挑発しまくった挙げ句、足まで折られて完敗。
相手を舐めてかかって、ボコボコにされた上、切札は通用せず、しかもその大会での兄弟弟子達の技のせいで、自分の切札がすっかり忘れ去られる始末。
人々の記憶に、自分の情けなさが残ることが有っても、自分の勇姿は残らないだろう。
それは、完全なる『敗北』。
ミイラ君との対戦も、栽培マンとの戦闘もそうだ。
だがしかし。
今、こうして一人の子供の前では『勝利』する事が出来た。
精神と時の部屋での2年も、宇宙船での地獄の6日間も、全てが報われる瞬間に出会う事が出来た。

気が付けば、ヤムチャの頬には一筋の涙が流れていた。
「あれ?どうしたんですか、ヤムチャさん?」
悟飯が、涙に気付き不思議そうにしている。
「いや、なに。太陽の光が目に染みてな…」
せめて。
この、悟飯の前では、英雄でいられますように。
そう願うヤムチャ。
願ったけど。
「けど、ヤムチャさんって勝つ事が出来たんですね!」
「お父さんも、ピッコロさんも、クリリンさんもヤムチャさんは強い人に勝った事が無いって言ってました!」
時、既に遅し。
「あれ?どうしたんですか、ヤムチャさん?」

気が付けば、ヤムチャの頬は大量の涙でぐちゃぐちゃになっていた…

ヤムチャの戦闘力
230000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能




「いくぞ!せーの…」
「「「「か、亀仙流、ばんざ〜ぃ〜…」」」」
「声が小さい!もう一度!せーの…」
「「「「亀仙流、ばんざーい!!」」」」



第十五話
〜教育〜

事の始まりは数分前。
「よし、目を覚ましたな、ゲテモノ。」
気絶していたリクーム、バータは目を覚ました。
「よし、今からお前達を、立派な亀仙流の門下生として教育してやる!」
既に、リクーム達の隣に正座させられている、悟飯とベジータ。
「まずは、亀仙流の理念を理解してもらおう。」
こうして、ヤムチャによる亀仙流教室が始まったのである。
「つまり、亀仙流というのは、強くなって、人生を楽しもう!という流派で…」
クリリンは既に亀仙流なので、講義に参加しなくていいらしい。
「開祖、武天老師様は素晴らしい方で…」
ちなみに、バータのスカウターは、気絶している間にヤムチャが取り上げていた。
「つまり、亀の甲羅を背負うことにより…」





そして、現在に至る。
「さあ、もう一度!腹から声をだして!」
「「「「亀仙流、バンザーイッッ!!」」」」
その、講義を開いている島の、近くの岩場。
「な、何をやっているのだ、アイツラは…」
ヤムチャが講義を開いていた為、ギニューとジースは、登場の機会を失い隠れていた。
「よし、えーと…リクーム?と…バータ?だったかな?」
「「は、はいっ!?」」
さっきまで、ほぼ1人で勝手にしゃべくっていたヤムチャに、急に名指しされビビる2人。
「亀仙流の主旨は分かったな?」
「「は、はい!」」
本当は話などほぼ聞いてない2人だったが、ヤムチャが恐いのでとりあえず話を合わせる。
「よし、お前ら2人に課題を出す!…と、その前に…クリリン、悟飯!あと、ベジータ!」
「ナ、ナンデスカ、ヤムチャサン…」
クリリンも、急な名指しでビビる。
「ドラゴンボールを取り返して来てくれ。レーダー、持っているだろ?」
「は、はい、分かりました!」
「あ、ベジータは妙な事を考えるなよ?ミンチになりたくなければな。」
ヤムチャは、後ろで『チャンスだ!』と、ガッツポーズをとっていたベジータに釘を刺す。
「じ、じゃあ行ってきます…」
こうして、クリリン達はヤムチャと別れて行動をすることとなった。


「た、隊長、マズいですよ?行っちゃいますよ?」
「仕方がない、いくぞ!」
「リクーム、バータ。お前らの課題は…」
「トゥッ!」
「「ギニュー特戦隊、参上!!」」
「あの2人を倒す事だ!」
ヤムチャの指すあの2人。気を察知され、隠れている事が気が付かれていたあの2人。隊長と、その腰巾着。
「「「「ええっ!?ちょっと待て!?」」」」
リクーム&バータ対ギニュー&ジース、開戦。

ヤムチャの戦闘力
230000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能




「ん、何だ?その露骨に嫌そうな反応は?」
前回、海原〇山ばりに傲慢だったヤムチャ。当然、リクームとバータは首を横に振る。しかし。
「お前らっ!そんな奴の言いなりになって我等、特戦隊を!ギニュー隊長を裏切るのか!!」
「お前ら、今ならお仕置きはしない。戻ってこい。」
勝手にヤムチャが言った事なのに、信じこむギニュー隊長+α。既に完全に裏切り者の様な扱いを受けるリクームとバータ。
「逃げたら殺す。わざと負けても殺す。裏切ったら、やはり殺す。」
後ろにはヤムチャスマイルを張り付けたまま、恐ろしい事を言っている、鬼。
「そ、そんな事言っても…そ、そうだ!俺達はまだ亀仙流の基礎の基の字も教えてもらっていないぞ!まだ、亀仙流門下生と言えないんじゃないか!?なぁ、リクーム!」
「そ、そうだ、そうだ!それに、俺達はさっきアンタにやられて、怪我をしてるし…何より、隊長には逆らえねぇよ!」
必死に言い訳を考え、逃れようとするリクームとバータ。しかし…
「隊長ォ…!?怪我ァ…!?崇高なる亀仙流の意思より尊きモノなど存在はしないッッ!!亀仙流の敵はお前らの敵、奴らはお前らの敵だッッ!!亀仙流の為に死ぬまで闘えッッ!!」
亀仙人の矯正が別の方向に向かってしまったヤムチャに、そんな言葉など届きはしない。もはや基地の外な人である。
「まぁいい。お前達にも見せてやろう…!亀仙流の神の業を!!」



第十六話
〜神業〜


リクーム、バータ、大喜び。ああ、これで戦わなくて済む、死ななくて済む、と。
一方、ヤムチャ。いきなりリクーム、バータの前に自分の掌を突き出す。そのまま、掌をゆらゆらと揺らしだす。何故か、リクームとバータはその掌から目が離せなくなっていた。そのまま、ヤムチャが呟くように喋りだす。
「ワン、ツー、ヤムチャでお前らにとって亀仙流より尊いモノはなくなる…ついでに傷は全快し、強くなる…」
リクーム、バータの目の前の景色が歪みだす。替わりに、ヤムチャの言葉がハッキリと脳の奥に溶けこんでいく。
「ワン、ツー…ヤムチャ!!」
「「ウオォォ…オッ!!」」
ヤムチャの掛け声とともに、野獣の様な雄叫びをあげるリクームとバータ。
「亀仙流、マンセーッ!!」
もともと、チョコレートパフェなんかで手柄を譲る単純な奴らである。
「フッ…亀仙流、よいこ眠眠拳…!!」
催眠術にはかかり易かった。ちなみによいこ眠眠拳はもともと只の催眠術なので、眠らせる事以外にも使えるらしい。
「どうだ!これが、亀仙流が開祖、武天老師様直伝の神業だ!」
「「ウオォォ!武天老師様、最高ォーッ!」」
別に武術の技ではないが、その効果は絶大だ。ものの数分で敬虔な亀仙流の門下生(?)になる二人。


「な!?馬鹿な…リクームとバータの傷が塞がっていく!?」
「せ、戦闘力が…!8万、9万…9万5千近くまで上昇しただと!?以前までの倍近いです、隊長ォッ!」
「お、お前達っ!フリーザ様を裏切るというのか!?この宇宙の帝王であられるフリーザ様をッッ!!」
「「フリーザ様ァ?」」
壊れたカラクリ人形のように、首だけを捻り振り向くリクームとバータ。
「「宇宙の帝王は、我等が亀仙流の開祖、武天老師様、唯一人だッッ!」」
リクーム&バータ対ギニュー&ジース、マジで開戦。

ヤムチャの戦闘力
230000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能




「リクーム、バータ、目を覚ませ!!」
白髪・橙肌の男、ジースは、正気を保っていないであろう、元・同僚を説得しようと試みる。しかし…
「目ぇ覚ませ?目なら醒めたさ!」
「それより、お前こそこっちに来たらどうだ?いいぞ、亀仙流は!」
完全に螺子が緩んだ表情の二人。
「クソッ!ならば力ずくで…」
ジースは左腕を突き出し、力を掌に集中させ始めた…




第十七話
〜戦〜

「クラッシャー!」
力を集中させた掌から作り出された、凄まじいエネルギーを持つ光の球体。
「ボール!!」
それを、まるでバレーボールのアタックのように右手で打ち込む。
ジース、必殺のクラッシャーボール。相手は理不尽な理由で全快した上、戦闘力が増加した元同僚。
もともと互角程度の実力だった奴らがパワーアップしたのだから当たり前だがジースより強くなっている。
その為の、必殺。この一撃で、足りない戦闘力分の「流れ」を引き寄せようというのだ。しかし…
「ふん!」
パワーアップしたリクームにより、あっけなく弾かれてしまう。
もともと特戦隊では、ギニューを除くと最もパワーとタフネスのあるリクームだ。パワーアップした今、クラッシャーボール程度のエネルギー弾など紙風船の様なものだ。
「なっ!」
「マズイ、ジース!後ろだ!」
当然、リクームのパワーとタフネスが増したなら、バータのスピードもさらに増す。

「遅い!」
それは、クラッシャーボールを撃ってできた一瞬隙にジースの背後に回りこめる程のものだった。
「ガッ!」
バータ放った打ち下ろしの一撃で、ジースは轟音と共にクレーターを作り、叩き伏せられた。
「ジィースッ!!」
しかし、ギニューも仲間がやられては黙ってはいない。一瞬でバータの懐に踏み込み、高速の一撃を繰り出す。
「遅い、ねぇ…」
しかし、その一撃がバータを捉える事はなかった。
特戦隊の中では、総合的な戦闘力はギニューが上だったが、スピード単体ならバータの方が僅かに上だった。(もっとも、モノを捉える反応力はギニューの方が高かっただろうが。)
攻撃の一瞬に、バータはギニューの背後に回りこむ。
「グッ!」
バータの、マシンガンの様な連続攻撃。ギニュー防御が間に合わず、ほぼ全弾被弾してしまう。
だが、バータのパワーではギニューを倒す事はできなかった。
パワーアップの後でも、ギニューの方が戦闘力が高い上に、バータの戦闘力の割合を大きく占めるのは「スピード」。必然的にバータのパワーとギニューのタフネスの差は大きくなる。


バータのコンビネーションの止まる一瞬の隙。それに合わせて、ギニューが反撃を試みる。しかし、次の瞬間、ギニューの体は宙を舞っていた。
「隊長ォ…俺を忘れてもらっちゃ困りますよ?」
リクームの、一撃だった。
その左手は、完全に気絶しているジースの首根っ子を掴んで引きずっている。
「ジースッ!クソッ!お前達、目を覚ませ!」

一方ヤムチャ。何か、退院してから初めてのまともな勝負だな〜とか寝そべって、ハナクソをほじくりながら考えていた。

ヤムチャの戦闘力
230000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能



「ふぁーあ。」
二時間程の昼寝の後、目を覚ました悟空。
周りの風景が見慣れないらしく、キョロキョロと辺りの様子を探っている。そして、ここにいる理由について、しきりに思考を張り巡らしていた。
「そうか、オラ、悟飯達を助けにナメック星に来たんだったな。そんでもって、確かヤムチャに悟飯達を助けに行かせたんだった!」
まだ眠そうな悟空は、手を叩いて納得した。そして、寝直そうと横になった。が。
「・・・。って、何でオラヤムチャなんかに悟飯達の事任せてんだ!?クソッ、待ってろ悟飯!今、父ちゃんが行くからな!」
どうやら、一気に目が覚めたようだ。流石にヤムチャ一人に悟飯達を任せるのが心配になった悟空は、跳ね上がる様に飛び起き、気を探り始めたのだった。



第一八話
〜闘〜

ギニューの前に、歩みよるリクームとバータ。1対1の戦闘なら、パワー馬鹿とスピード馬鹿など何とでもなる。
しかし、ギニューに一撃必殺とはいかないまでも、結構なダメージを与える事ができるリクーム。
自分を上回るスピードでチョロチョロ動きまわる事ができるバータ。


正直、それでもパワーアップなどされなければ楽勝だったのだろうが、今、目の前にいるそいつらの戦闘力は10万にも迫る数値である。
自分の最大戦闘力が12万と理解しているギニューには、充分な程に脅威となる数値だ。
「お命頂戴!トゥッ!」
不意に、リクームが右飛び膝蹴りを繰り出してきた。当たれば脅威だろいが、そこはギニュー、直線的に飛んでくるリクームをいなして捌く。
勢い余ったリクームは、轟音と共に地面に激突した。激突した地面はクレーターとなり、砂埃を巻きあげた。
「くそっ、視界が!」
仲間の放った攻撃に視界を奪われたバータが一旦空中に待避する。しかし…
「はっ!」
「うおっ!」
スカウターによりバータの位置を捕えていたギニューの体当たりにより、撃ち墜とされてしまう。
「ハァッ!」
リクームは起き上がり、力を解放してその衝撃で砂埃を吹っ飛ばす。が、既に上空に移動していたギニューはリクームに特大のエネルギー波を放っていた。
「ぐわぁぁ…」
光に飲み込まれるリクーム。死なない程度には手加減されていたが、それでも戦闘不能の状態だ。
もとより一人一人が宇宙でも指折りの傑出した力の持ち主を集めたギニュー特戦隊。一応、隊員同士のコンビネーションは持っているが、一人で戦ってもまず負けることは無いので、チームワークの訓練はあまりされていなかった。
「後はバータか…すぐに目を覚まさせてやるからな!」

こうしてリクームがやられたころ。ヤムチャは、「悟空が死んだ時、当然の如く保険金がおりてたけど、生き返ったし、どうするのかな〜。」とか考えていた。

ヤムチャの戦闘力
230000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能




「見つけた!クリリン、悟飯に…ベジータも一緒か…」
あっと言う間に悟飯達の気を探り当てた悟空。
「どうしてベジータが…?まぁ、戦っちゃいねぇみてぇだし、大丈夫か…?え…と、ヤムチャは一緒にいない、か…。何やってんだ、アイツ!チクショ〜、何でオラ、アイツに任せるとか言っちまったんだ!!」
空を飛び、辺りを見回し、一人言を叫びながら、地団駄を踏む。傍目からは結構危ない人である。もっとも、今のナメック星はほとんど誰もいないのだが。
「ヤムチャの気は…あれ?見つからねぇぞ?ヤムチャに似てるデカい気はあんだけど…」



第十九話
〜嫉妬〜

一方のヤムチャと特戦隊。前回、書き忘れていたが、一応、時間軸的には悟空が目覚める少し前の事である。
「ガハッ!」
バータの巨躯をくの字に曲げる程、深くバータに突き刺さったギニューの拳。常に高速で動き続けていたバータを、やっとの思いで捉えた渾身の一撃である。
「少し寝ていろ、バータ。後でフリーザ様の宇宙船の設備を使って、元に戻してやるからな。」

その台詞を聞いたか聞いてないかは定かではないが、気を失い、地面に倒れ伏すバータ。
「ハァッ、ハァッ…」
小さいダメージでも、積み重なれば馬鹿にはならない。
(まだ、やれるな…)
ギニューは、自分の体を少し動かし、蓄積されたダメージの大体の大きさを把握する。


そして、戦闘可能なのを確認すると、ギニューはヤムチャを睨みつけた。
「貴様!よくもこのギニュー特戦隊をコケにしてくれたな!許さんぞ!」
瞬間、ギニューの体から大地を揺るがす程の強大なエネルギーが吹き出す。
「この、ギニュー隊長自らが貴様を葬ってくれる!」
一応、ギニューはこの宇宙でも指折りの強さである。しかし、ヤムチャは、その全力を見ても全く怯む事はない。むしろ、何か逆に睨みつけている。そして。
「コケにしただと…?貴様等の方が俺をコケにししてるだろ!」
いきなり、わけの分からないキレ方をする。その理不尽さは、まさしく逆ギレである。
「は…?」
当然、ギニューはわけが分からず、だらしなく口を開けて、ポカンとしている。
「貴様等、一回の戦闘にどれだけ話を使ってるんだ!俺なんて、俺なんて…」
ヤムチャの脳裏に浮かぶ、ナメック星での記憶。
リクームは、戦闘についての描写なんてまともにされず、わずか数行で決着。バータに至っては、話をまたいだせいで戦った描写すらない。
「それなのに…それなのに、お前等は…2話だと?ふざけるなぁッッ!」
言うが早いか、ヤムチャの体から赤いオーラが吹き出した。
「な、馬鹿な…!?戦闘力、30万を超え…ぐあっ!!」
ギニューは、ヤムチャの怒りの一撃で地面と平行に吹っ飛ばされた。

ヤムチャの戦闘力
230000
界王拳…現在、2倍を使用中



「オメェは…ヤムチャ、じゃねぇよな?」
ナメック星の、広大な空に対峙する、山吹色の道着の二人。
「ヤムチャ?そうか…本来、この体入っているはずのヤツの名前は、ヤムチャと言うのか。」
「こっちの質問に答えろ。」
じりじりと、気を解放しながら睨みつける悟空。
「戦闘力、2万、5万、9万…おー、スゴい、スゴい。恐い、なぁ。」
恐い、という割にはおどけた表情で、余裕の声色で喋るヤムチャ?。よく見ると、その右目には見覚えのある、緑のレンズと補聴器のようなものからなる機械がついている。
「…こっちの質問に答えろっていってるだろ。」
「ああ、悪い、悪い。」
両手を小さく前に挙げ、おどけた表情でヤムチャ?は言った。
「俺の名前はギニュー。フリーザ様の忠実な部下だ。」


第二十話
〜同時〜

「ク、クソ…」
ふらふらと、ナメック星の空を飛ぶ、ギニュー。怪我をしているのか、壊れた戦闘スーツの上から胸に手を当てがいながらとんでいる。
「ク、クリリンや悟飯が殺されてしまう…お、俺のカラダで…」
いや、ギニューか、これ?というくらい情けない声で一人言を言っているが、その風貌はギニューである。
「あっちか…いや、こっち?あれ?うまく気を探れない…」
だが、よく見ると、いつも右目に付けている機械、スカウターが見当たらない。
「あっ、あっちか…悟空と一緒か…」
キョロキョロと辺りを見回した結果、ある一方向から感じるエネルギーに狙いを定めたようだ。


「あっ…!ご、悟空が気を解放しはじめた…!マズい!俺のカラダが…」
分かり易すぎるくらいの焦りの見える、半泣きの表情でスピードアップするギニュー?。
「く、くそっ、うまく飛べない…」
スピードは結構でているのだが、端から見ていて、危なっかしいくらいフラフラしている。そして。
不意に、ギニュー?は地面に激突した。
仰向けになり、空を見ながら涙を拭う。
「なんでこんな事に…」

それは、同時だった。
地面と水平に吹っ飛ばされた、ギニュー。
何個もの山を貫き、また山にぶつかり、ようやくそれは止まったのだった。辺りを包む、砂埃。
『…勝てない。』
たった、一撃で感じとってしまった、敗北。
彼の右目に付いている機械もまた、敗北を告げていた。
彼等にとって、スカウターの数値は絶対だ。
しかし、彼には彼『等』とはくくれない、ある一つの能力があった。
この、山にぶつかった事による砂埃。そして、圧倒的な強さの体を持つ敵。
彼にとってはまたとないチャンスだった。
スカウターから、敵の追撃を知らせる警報がけたたましく鳴り響く。
何故、敵がこの砂埃の中で、自分に向かって真っ直ぐ飛んでこれるのか?そんな事は知った事ではない。むしろ、真っ直ぐ飛んできてくれるならありがたかった。
ギニューは、地面にスカウターを置き、いわゆる大の字のポーズをとった。
そして、一呼吸置いて、力の限りに叫んだ。
「チェーンジ!!」
と。
それは同時だった。
ヤムチャが、止めを刺そうと突き出した拳が、ギニューの戦闘スーツを突き破り、その胸に突き刺さった瞬間と。

ヤムチャの戦闘力
不明
界王拳…使用不可



「…ヤムチャに何をした?」
ヤムチャ、もといギニューを睨みつける悟空。
「カラダを取り替えてもらったのさ。こっちの方がそうとうに強かったもんでね。」
中身はギニューだが、悟空の目に映るのはヤムチャの余裕の表情。
(…何か、ヤムチャが天津飯と戦う寸前の、あの軽口叩きまくってた時みたいな顔してんな…)
その表情は、無意味に悟空の不安を掻き立てる。
「そうさ!!この俺はギニュー特戦隊・隊長、ギニュー様だ!」
そして、お決まりのキメポーズ。その姿は…
(何か、妙に似合ってるな…)

狼牙風風拳のあの姿に慣らされた悟空の目には、普通に見えた。

第二十一話
〜不意〜

「名前はさっき聞いたぞ。」
再びギニューを睨む悟空。ヤムチャの体のせいか、ギニューは少しビビって逃げ腰になる。
「そ、そうだったな。早速試させてもらうかな…戦闘力30万以上のとんでもな…ベハァッ!?」
突如、悟空の拳がの顎に入り、ギニューは竹トンボの様にクルクル回りながら吹っ飛ばされた。
「わりぃな、スキだらけだったもんだから、つい…」
わりぃな、という割に、悟空にあまり悪気はなさそうだ。
「お、おのれ…卑怯な…!」
ギニューは話の途中で殴られて口を切ったのか、口の周りに付いた血を拭いながら立ち上がる。ダメージは大した事がなさそうだが、憎らしげに悟空を睨んでいる。
「だ、だから、わりぃって言ってるだろ!?ほ、ほら、この通り…」
両の掌を合わせて前に突き出し、片目を瞑って悪い、と腰を折る。、本当に『すみません。』という思いを感じさせる挙動。
「お、おのれっ!この、ギニュー隊長を馬鹿にするかっ!!」

当然、ブチキレるギニュー。不意打ちをかけといて謝るなんてのは、あまり空気を読めない悟空ならではの行為である。当然、このまま戦闘に入るのかと思いきや。
「だから、この通り、な?」
「ならば、最初から不意打ちなどするなっ!!」
「だ、だからさぁ、こうして謝って…」「そんな事を言っても…!」「な、何!?いくらなんでも、そりゃ…!」「ならば、それは…!」「…!」「…!」
何故か言い争いをはじめる二人。根が穏やかな悟空と、少し幼稚なところのあるギニューの相性が良かったのだろうか?
そんなこんなでウダウダやっているうちに。
「う、うわぁー!?ど、どけ、どいてくれーっ!?」
「ん…?何だ!?ゲブファッ!!」
紫の物体が、場に突っ込んできた。その物体の頭突きを喰らい、ギニュー体操選手のキリもみ回転の様に回りながら飛び、そのまま顔面から地面に叩きつけられた。
「あイタタタタ…!!」
頭を抑えながら地面にうずくまる紫人間。もちろん、ギニューボディのヤムチャ。突然の出来事に、悟空はポカンとしている。
「あっ、悟空!やっぱりお前だっ…ホブファッ!?」
悟空は、突然話しかけてきた知らない宇宙人に恐怖を覚えたのか、ヤムチャを殴りつけたのだった…

ヤムチャの戦闘力
不明
界王拳…使用不可




ぐるぐる、ぐるぐる回る地平。ぐらぐら、ぐらぐら歪む大地。今のヤムチャの視界はそんな感じである。
ヤムチャの拳が肋骨を破壊し、悟空の拳が鼻骨を粉砕。結構ピンチのギニューのボディ。
「ま、待て、悟空!俺だ、ヤムチャだ!」
鼻血がしたたる鼻を右手で、ズキズキ痛む胸を左手で抑えながら、必死に自分がヤムチャであることを伝えようとする、ギニューの体のヤムチャ。
「ヤムチャ?嘘つけ!オラの知ってるヤムチャはそんな失敗ヅラじゃねぇ!」
そして再び悟空の拳がヤムチャを襲った。しかし。
“オラの知ってるヤムチャはそんな失敗ヅラじゃねぇ!”
“ヤムチャは失敗ヅラじゃねぇ!”
“失敗ヅラじゃねぇ!”
『あの、悟空が…俺の事を…そんな風に…』
微妙に嬉しいヤムチャであった。

第二十ニ話
〜友情〜

「クックック…そいつの言っている事は嘘ではない。そいつのカラダは、このギニュー様がいただいたのだ!」
いつの間にやら立ち直っていたギニューが、ヤムチャの台詞を肯定する。どうやら、さっきの追突のダメージはなさそうだ。
「い!?そ、そうなの!?」
そう言って、悟空は倒れいるヤムチャに視線を向ける。
「そ、そうなんだ…あいつに止めを刺そうとしたら、急にカラダが入れ替わって…」
小刻に震えながら、何とか立ち直る事のできたヤムチャが、ギニューの台詞を肯定する。どうやら、さっきの悟空の拳のダメージは深刻そうだ。
「す、すまねぇ…大丈夫か?ヤムチャ…」


そう言って、悟空はどうみてもあまり大丈夫ではなさそうなヤムチャに手を差し出す。
「ああ、大丈夫だぜ、悟空…!」
本当は、さっぱり大丈夫ではないのだが、さっきの“ヤムチャは失敗ヅラじゃねぇ!”発言で一方的に悟空への好感度が上がったヤムチャは、虚勢を張ってその手を取る。
「ボロボロじゃねぇか…ヤムチャ、オメェはそこで休んでいろ。」
おいおい、ボロボロになったのは半分お前のせいだそ、悟空。そうヤムチャの喉からでかけたが、悟空との友情の為に飲み込むヤムチャ。一方、悟空はギニューを睨みつけている。
「おい、ギニュー!ヤムチャのカラダを元に戻せ!」
戦闘体勢になる悟空。さっきまでのギニューとの和やかな空気はどこへやら、一転して緊迫した空気が流れはじめた。
「フン!返せと言われて、返すヤツがあるものか!フッフッフ…試させてもらうぞ!戦闘力30万以上という、とんでもないパワーをな!!」
そして、ギニューも戦闘体勢へと移行する。
「悟空、よく聞け。使い慣れたカラダならともかく、他人のカラダじゃ気を操るどころか、うまく練る事すらできないはずだ。お前なら楽勝だ。」
後ろからアドバイスをするヤムチャ。悟空も、と親指を立てて、分かった、とサインを出す。
「わりぃが、すぐに決めさせてもらうぞ!たぁっ!!」
猛スピードでギニューに向かって突撃する悟空。だが。
「がぁっ!」
次の瞬間、悟空は後方に吹っ飛ばされていた…

ヤムチャの戦闘力
不明
界王拳…使用不可



「なっ!?」
ギニューから、思わぬ反撃を受け、信じられない、という表情の悟空。舞空術を使い慣性を制御し、何とか再び戦闘できる姿勢まで持ち直す。しかし、そこに追撃の特大エネルギー弾。
「ヤベェッ!」
舞空術で上昇し、何とかそれをかわす悟空。エネルギー弾は虚空へと消えいった。が。
「ぐわっ!!」
そのエネルギー弾に注意を引き付け、下に回りこんでいたギニューのアッパーが悟空の顎を捉えたのだった。

第二十三話
〜体〜

『…あれ?普通に俺のカラダを使いこなせてないか?』
悟空がギニューにやられている姿を見て、唖然とするヤムチャ。
『いやいや、そんな訳ないよな。現に、俺はこのカラダをうまく使いこなせないで、何度も地面に墜落している訳だし。』
ヤムチャは首を振り、さっきの考えを否定し、もう一度悟空の方に目を向ける。
「そらそらそらっ!」
そこには、ギニューの猛攻に防戦一方の悟空の姿が。
「ふはははははっ!どんどんパワーを強くしていくぞ!覚悟は出来たか!?」
『え!?いや待て!俺のカラダって全力でも悟空より弱い筈だぞ!?』
「く、くそ、なんてスピードだ!こんなん、避けられねぇ!!」
『あっれぇー?おっかしいなぁー!?アレ、元の俺より強くなーい?』
ヤムチャは、目の前の不可思議な出来事に首をかしげている。
「くっ!仕方ねぇ!はあぁぁ!!」
何とか、距離をとり、悟空は気を練りはじめる。
「ハァッ!!」
掛け声とともに、悟空から吹き出す赤いオーラ。同時に、けたたたましくなり響きだす、スカウターの警戒音。
「な!?ス、スカウターが!最新型だそ!?」
そして、小さな爆発とともにスカウターは壊れてしまった。
「たぁっ!!」

それとほぼ同時に、界王拳の使用により、超高速で繰り出された悟空の飛び蹴り。
「グッ!?」
轟音とともに、ギニューは遥か後方へ吹き飛ばされる。
「か、界王拳か!悟空の奴、ハラハラさせやがって…」
額の汗を拭う、ヤムチャ。その額の感触は、慣れないゴツゴツした、奇妙なものだ。そしてヤムチャは気が付いた。
「って、あーっ!?俺のカラダー!!」
自分のカラダが界王拳使用中の悟空の蹴りを受けた事に対して、ヤムチャは焦りを感じた。2倍だろうか、3倍だろうか。とにかく、ギニューが死んでしまっては元のカラダに戻れないのだ。
「慌てんな、ヤムチャ。気を探ってみろ。アイツはまだやられちゃいねぇ。」
「な、何!?」
悟空の言葉を聞き、ヤムチャはギニューの気を探る。やはり、カラダをうまく使いこなせないせいか、なかなかうまくはいかないが。
「そ、そんな馬鹿な!(認めたくないけど、)いくら、アイツが俺のカラダを使いこなせていたとはいえ、アイツは界王拳を使えないんだぞ!?」
何とか、ギニューの気を捉えるヤムチャ。
一方、遠くに飛ばされたギニュー。
「…ぐぐ、ハァッ、ハァッ!くそっ、何てパワーだ!あの、赤いエネルギーのせいか!?」
蹴られて

ダメージを負ったのか、腹部を抑えている。
「そういえば、前のこのカラダの持ち主…ヤムチャ、だったか?アイツも、アレによく似た赤いエネルギーが吹き出した途端に戦闘力が増大したな…」
「…赤い、エネルギー、か。」

ヤムチャの戦闘力
不明
界王拳…使用不可



「「私は、彼のカラダだった。」」

第二十四話
〜主〜

「前の私の主も、本来の私の主ではなかった。私の本来の主は、生来、天才と呼ばれていた。」
「だが、それは主自身の力ではない。『カラダ』である、私の力だった。」
「私は、周囲から天才ともてはやされる度に性根が腐っていく、本来の主が大嫌いだった。」

「前の私の主は、私にとって良い主ではあった筈だった。私の本来の主は、自ら、狼と名乗っていた。」
「それは主自身、過酷な砂漠で生き残る為の努力の結果だった。『カラダ』である私は、その努力に最大限、答えようとした。」
「私は、砂漠に負けない為にいつも努力している、昔の主が大好きだった。」

「「しかし、ある時その状況は一変した。」」
「「ある時、私は彼と出会った。」」

「彼は、『カラダ』として私に勝る力は持っていなかった。」
「実際、私の主は簡単に彼を追い込んでしまった。」
「そのおかげで、私の主は彼になった。」

「彼は、『カラダ』として私に勝る力を持っていた。」
「そして、私の主は彼の光に惹かれたいった。」
「そのせいで、私の主は弱くなった。」

「「そして、私も変わっていった。」」

「私は、私を操る『彼』に惹かれていった。」
「今度の主は、とんでもない悪党だった。」
「しかし、主は純粋な強さを求めていた。」
「主は、何か、私を惹き付ける黒いカリスマを持っていた。」

「私は、私を操る主から離れていった。」
「主は、『昔は』とんでもない悪党だった。」
「主は『昔は』純粋な強さを求めていた。」
「しかし主は、私を惹き付ける黒いカリスマを失っていった。」

「「だが、突然『主』が変わった。」」

「今度の主は悪党ではなかった。」
「本来の私の主の事を考えると、かなりマシである事は明白だ。」
「しかし、一度高い水準を味わってしまうと、中々元には戻れないものだ。」
「今の主には、光も闇も足りなかった。」

「今度の主は悪党だった。」
「本来の私の主の事を考えると、反発して、容易に体を渡す事をしない事も考えた。」
「しかし、彼は昔の主を、暗くても、輝く高い水準の精神を持っていた頃の主を私に思い出させた。」
「今の主の闇が、心地良かった。」



「「だから私は。」」

「悔しかった。前の主に棄てられた事が。世界がどうでもよくなった。だから、全てを放棄した。」

「嬉しかった。昔の、砂漠での輝いてた頃に還ったみたいで。前の主など、どうでもよくなった。だから、全て尽して今の主に力を与えた。」

ヤムチャの戦闘力
不明
界王拳…使用不可




ドォンッ、と、発破をかけた様な轟音がナメック星の大地に鳴り響いた。
「「なっ、何ぃ!!」」
その轟音の元は、遠くに感じたギニューの気。
「ご、悟空、これは…この感じはまさか…」
「あぁ…間違いねぇ…界王拳だ!」
ギニューの気がゴゴゴ、とビルが崩れる様な音をたて大地を揺すりながら、膨れ上がっていく。
「はぁぁぁぁぁ…!!」
ギニューの界王拳に対抗するように、悟空は界王拳で気を高めだす。
「ヤムチャ、オメェはここに居ろ!今のオメェじゃ一緒に行っても死んじまうだけだ!」
そう言って、ギニューに向かって飛び発つ悟空。
「クソッ、そういうわけにもいかないんだよ、こっちは!俺がカラダを取り戻すチャンスは今の戦闘しかありえないんだからな!!」
ヤムチャも、悟空を追うように飛び発つ。そして…
「あれ?おっと、とと…!?おい、ちゃんと飛べ、おれのカラダぁっ…っべふ!!」
ギニューの体をうまく扱えないヤムチャは、頭からまっ逆さまに地面に突っ込んだ。


第二十五話
〜開始〜

「ぬおおおお…!!」気合いとともに、ギニューが操るヤムチャの体に血管が浮かび上がる。
「おおおお…!!」
ギニューの周りのオーラがどんどん赤みを帯ていく。
「ぐはははは…!理解できるぞ!力の使い方が!まるで、この体が俺に、全てを伝えようとしているようだ!!」
そして、周囲の地鳴りが急に止まる。
「解る!解るぞ!!今、俺はフリーザ様に匹敵する力を手に入れた!!」
声高らかに叫ぶギニュー。
「馴染む!実に馴染むぞ!素晴らしいカラダだ!ぐははは…!!」


「くっ、何て気だ…!ヤムチャのカラダにこんなに力が有ったなんて…」
一方、悟空はギニューを目指して飛んでいる。
「クッソー、ヤムチャの奴、何が『他人のカラダじゃ気を操るどころか、うまく練る事すらできないはずだ。』だ!メチャメチャ使いこなせてんじゃねぇか…」
ギニューの異常なまでの気を感じ、一人ごちる悟空。しかし、さっきのヤムチャの墜落する姿や、悟空の軽い一発で顔面が陥没していた哀れな姿を考えると…
「…。ま、まぁ、ヤムチャだしな!」
嘘を言っているにしては、あまりにアレだ、そう思う悟空だった。
「ぐはははは…最高にハイってヤツだ!」
そうこう考えているうちに、悟空はアホみたいに高笑いしているギニューの元に辿り着いた。
「さぁ、まずはコイツを何とかしないとな!」
悟空対ギニュー、第2ラウンド開始。

その頃のヤムチャ。
「うおおおっ!!」
飛ぶのは危険と判断したねか、ナメック星の大海原をクロールで縦断している。
「はぁっ、はぁっ…まさか、ゴボッ、こんなところで、ガボッ、『対サイヤ人足元お留守解消水泳特訓』が役にたつとはな!ゴボゴボ…」
親切に、ずっと砂漠育ちの筈なのにの何故泳げるかを説明するヤムチャ。泳ぎながら喋るもんだから大量に水を飲んでいる。
「サイヤ人と戦いに駆けつけた時、ゴボッ、ビショビショだったのは、ガボッ、この特訓のため、ゴボ、ガファッ!」器官肢に水が入ったのか、物凄いむせるヤムチャ。
『ヤ、ヤバイ!溺れた!!』
大量に水を飲んで、肺にも水が溜ったのだろう、溺れてしまうヤムチャ。
『フッ…溺れるのは、力と女だけにしたかった、ぜ…』
何故か、格好つけながら沈んでいく。しかし、その時。
「やれやれ…そんな姿で何をやっとるんじゃ、ヤムチャ。」
あのお方が、ヤムチャを助けたのだった。

ヤムチャの戦闘力
不明
界王拳…使用不可




ナメック星の、広大な空。ギニューはその空に、一人たたずんでいた。
「ククク…そこに居るのは分かっているぞ?」
フッ、と海に浮かぶ島の1つを見つめ、そこに向けて左手をかざす。
「はっ!」
放たれる、特大のエネルギー弾。
「波ーッ!!」
しかし、それは島の岩影から放たれたエネルギー波により弾かれる。
「ちぇっ。あと少しだったってのによう。」岩影から山吹色の道着の男、悟空が現れた。

第二十六話
〜読心〜

「ククク…今の俺は解るのだよ。相手の位置が!強さが!スカウターなど無くてもな!ぐはははは!!」
ゆっくりと浮かび上がり、悟空はギニューの正面に対峙する。
「うひょー、オメェ、スゲェなぁ!カラダを取り替えるってのは、そいつのカラダの技術も使える様になるもんなのか?」
驚いたように言う悟空。
「さぁな。だが、このカラダは…ヤムチャとやらのカラダは!このギニュー様に全てを教えてくれる!まるで、母親が我が子に言葉を教えるように易しくな!!」
「へへっ、そうか…」
「何がおかしい!」
「いや、オメェがあんまりスゲェもんだからさ、オラ、ワクワクしちまって…」
「クク…ワクワクか!ならばそのワクワク、絶望に変えてくれる!」
「いくぞ!!」
「来い!!」
交差する、ギニューと悟空の拳。ナメック星の空に、轟音が鳴り響いた…


ナメック星、海。そこに居るのは主人公、ヤムチャ。
「ゲホッ、ゲホッ、ウェホッ!あー、こんな姿なのに、俺の事が分かるんですか?」
溺れていたヤムチャは、先程飛んで来た人間に引き上げてもらい、何とか助かることができたようだ。
「当たり前じゃ!ワシを誰じゃと思っとるんじゃ。」
ナメック星の3つの太陽に照らされて光る、サングラスとハゲ頭。
「いやー、さすがです、武天老師様!悟空は分かりませんでしたからね。」
そう、ヤムチャを助けたのは亀仙人だった。「しかし、お前、一体なんでそんな格好をしとるんじゃ?」
「あー、それはですね…」
「待て、話さんでいい。お前の話は長そうじゃ。」
そういって、亀仙人は手を前につきだしてヤムチャの言葉を遮る。
「え?話さなくていいって…」
「どれ」
ピッと鋭い目つきでヤムチャを見つめる亀仙人。
「な、何ですか!?俺は何も悪い事はしてませんよ?」
普段、ひょうひょうとしている亀仙人にじっと見つめられ、焦るヤムチャ。
「ふむ、成程のう…ワシが寝ている間にいろいろ有った様じゃの…まぁとりあえずはギニューとやらにお前のカラダを返してもらわんとの。」
読心術。過去に、亀仙人がナム等に使用してきた技である。
「へ?武天老師様、何でその事を…?」
その事を知らないヤムチャは、目を丸くして驚いている。
「ワシは何でも知っとるんじゃ。さあ、グダグダ言ってないで、とっとと行くぞい!」
そう言って亀仙人は、ヤムチャをグイと持ち上げ、悟空の気に向かいスピードアップしたのだった。

ヤムチャの戦闘力
不明
界王拳…使用不可




「ヤムチャよ。」
ナメック星の空を飛ぶ禿2人。ヤムチャも元はふさふさだったが、今はギニューの体なのでつるつるだ。
「な、何ですか、武天老師様。」
亀仙人にぶら下がっている、ヤムチャ。その表情は半泣きである。結構なスピードで亀仙人が飛んでいるので、逆風と重力の付加で傷が非常に痛むらしい。
「お前にこれをやろう。宇宙船の重力で壊れてなければいいんじゃが…」
そう言って、亀仙人は服からベルトの様なものを取り出した。
「何ですか?これ。」
どうやら、ヤムチャの知っているアイテムではないらしい。手にとって、まじまじと見つめている。
「それはな…」

第二十七話
〜本気〜

ナメック星の空に、爆風の様なものが吹き荒れる。鳴り続ける、削岩機の様な騒音。高速で動く、山吹色の人影が2つ。不意に、そのうちの1つが轟音とともに地面に叩き付けられた。
「ぐははははは!!どうした!貴様の実力はその程度か!」
空に浮かんでいるのは、長髪の、顔に傷のある男。ヤムチャの体を奪い、使用しているギニュー。話しながらも追撃のエネルギー弾を撃ち込む。
「く…!!」
叩き付けられた、ツンツン頭の男、悟空は両手を前に突き出してそれを受けとめる。
「ぐ…ぐぎぎ…!だっ!!」
地面に足が埋まりながらも、エネルギー弾を弾きとばす。
「い…いちちち…!!おー、イテェ!」
「ククク…!やるな。楽しめそうだ。」


不適な笑みを浮かべ、ゆっくりと降りてくるギニュー。悟空もそれに不適な笑みを返す。
「オラもワクワクすんぞ。そろそろ本気でいかせてもらうかな!」
刹那、悟空を包み込むオーラが、更に赤みと勢いを増す。
「面白い!ぬおおお…!」
それに呼応するように、ギニューのオーラも赤みと勢いが増していく。
「「でりゃあああ!!」」
2人拳が、激突した…

悟空達の元へと向かう、亀仙人とヤムチャ。ただ飛んでいるのではなく、体を取り返す為に作戦会議中だ。
「成程…。けど、その作戦だと武天老師様がギニューに勝つ事が前提ですよね?今のギニューは普通に悟空の奴と互角の戦いをしていましたからね…いくら武天老師様でもちょっと…」
弱気なヤムチャ。相手が強いと分かっていると、いつもこうである。
「なぁに、ギニューとやらはお前のカラダを使っとるんじゃろう。ならばワシには勝てんよ、絶対に、じゃ。お前に渡したそれも問題無く使用できるようじゃしの。」
反対に自信満々の亀仙人。どうやら勝算は有るようだ。
「それより、見えてきたぞ。悟空じゃ。」
亀仙人の目線の先に有る島。どうやら悟空はそこで戦っているようだ。轟音が空にいるヤムチャ達の耳まで届いている。
「…武天老師様、本気であそこに飛び込むんですか?」
そこから感じられる強大すぎる気のぶつかりに、少し引き気味のヤムチャ。
「何言っとるんじゃ。本気も本気じゃ。あれも、元はお前のカラダなんじゃろう?腹をくくれ。ハァッ!」
亀仙人は、しっかりと悟空達の姿と位置を捉えると、がっちりとヤムチャを抱え、急降下する。そのあまりのスピードに…
「ぎえぇぇぇ・・・!!」
ヤムチャの悲鳴がナメック星の空に、いつまでも、いつまでも轟いていた…

ヤムチャの戦闘力
不明
界王拳…使用不可




1発、2発、3発。
悟空に、ギニューの拳がめり込んでいく。
悟空の界王拳は既に、大きな負担がない状態で使える限界点の16倍。
『く…くそ!』
1発、また1発とギニューの拳が悟空の体に突き刺さる。
『界王拳を20倍まで上げるしかねぇ!!』
限界を超えた界王拳。それは、焚き火にガソリンを注ぐ様なもの。燃焼が激しすぎて、燃え尽きる事はおろか、全てを吹き飛ばしてしまう。もちろん、自らも。
「界王拳、20倍だぁっ!!」
しかし。相手の火力が勝るなら、吹き飛ばされてしまう。その、強き炎さえも。

第二十八話
〜交代〜

ヤムチャの目に映る、ヤムチャの「体」に悟空がやられている姿。
『な、何か…!』
戦っているのはギニューであるが、見た目は全く、ヤムチャその人である。
『何か、嬉しい!!』
あのピッコロを、あのベジータを敗り、地球を何度も危機から救い、皆の信頼を一身に受けてきた男・悟空を、まるで自分が圧倒しているかのような錯覚を受け、どことなく嬉しいヤムチャ。
目を輝かせて観戦していると、不意に、ポカリ、と頭を小突かれる。
「こりゃ!何を不謹慎な事を考えておるんじゃ!それより、準備はできておるのじゃな?」
亀仙人である。さっき、急降下した2人は、そのまま悟空に加勢するのか、と思いきや、ギニューと悟空が戦闘に気をとられている間に気を消して、近くの岩場に隠れていた。
ヒソヒソ声で話す2人。
「準備って言ったって、このベルトを手首に着けるだけでしょう?もうとっくに終わってますよ。」
そう言って、ヤムチャは左手を上げ下げする。前回渡されたベルトの様なもの。ベルトはベルトでも、腕時計の金属ベルトの様なものである。
「うむ、準備は良いようじゃな。それではそれを使って、『ここ』に隠れておれ。」
ちょうど、悟空が20倍界王拳の時間切れを迎えた時の事だった。


「はぁっ、はぁっ…」
限界を超えた界王拳の代償。ガクリ、と膝を折る悟空。目の前に倒れているギニュー。
「へ、へへ…」
薄く笑う悟空。声にも、その肉体的なダメージ、疲労が表れている。
「やっぱ…駄目、だったか…」
糸が切れた様に倒れこむ悟空。それとは逆に、ギニューは起き上がる
「ぐは、ぐははははは…ハァッ、ハァッ…!な、なかなか効いたぞ、今の攻撃は!だが、それでもこのギニュー様を倒すには到らなかった様だな!」
『いくらなんでも、そりゃねぇよな…こんなに効かないなんてよ…』
悟空は、20倍界王拳を発動させてからギニューを叩きまくった。叩いて、叩いて、叩き尽くした。
それこそ、ギニューの周りの大地がえぐれとんで、悟空の踏みしめた地面がクレーターになる程に。
しかし、悟空は気が付いてなかたった。悟空が、界王拳の倍率を上げたとともに、ヤムチャの体もまた、界王拳の倍率を上げて、ダメージを軽減していた事に。
「よくぞ、この、今やフリーザ様に並ぶ力を得たギニュー様相手にここまでやれたものだ!しかし、ここまでだ。」
ギニューが、右腕を天高く振りかぶる。
「さらばだっ!!」
ギニューの、悟空の首をめがけた高速の手刀。
しかし。
「やれやれじゃわい。」
その手刀は空を切る。
「誰だ!」
ギニューの視線の先には、悟空を抱えた老人。
「じ…じっちゃん…逃げろ、早く…」
「心配無用じゃ。お前は少し休んでおけ。選手、交代じゃな。」

武術の神
  武天老師
    見 参 ! !

亀仙人の戦闘力
220000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能。




「ふっふっふ…」
不適に笑う、亀仙人。その怪しさに呼応してなのか、サングラスもキラリと光っている。
「く、じっちゃん…無理だ…!」
実際にギニューと戦い、力の差を文字通り痛感している悟空は亀仙人を止めようと、地面に這いつくばりながらも何とか起き上がろうとしている。
「せ、せめて…元気玉で…。」
元気玉。悟空の使える技の中で、条件にもよるが、最高の威力を誇る技。せめて、亀仙人が戦っている間にこの技の準備さえできれば…。悟空は、そう考えているのであろう。
「だから、心配無用と言っておろう。」
しかし、亀仙人は起き上がろうとする悟空を制止する。
「お前は休んでおれ。なぁに。どうせ、あ奴はワシに指一本触れる事はない。絶対に、じゃ。」


第二十九話
〜挑発〜

「ほう。この、ギニュー様が、貴様の様な棺桶に片足を突っ込んでる様なジジィに、指一本、触れられない、と。」
余裕の表情で笑うギニュー。
「ああ、そうじゃ。お前は、この、棺桶に片足を突っ込んでる様なジジィに、指一本、触れられん。」
それを、同じく余裕の表情で返す亀仙人。
「クックック…ぐは、ぐはははははは!!」
それを受け、ギニューは何故か大声で笑いだす。
「ははっ!ぐははははは!!ヒィー、ヒィー、ヒヒヒヒヒ…!!!ヒヒヒ…ふ、ふふ…」
そんな、奇妙な笑いの中で突然、ギニューの声に重みが増していく。そして、プチッ、という何が切れたような音。
「ふざけるなぁーッ!!」
突如、鬼の様な形相で怒りだすギニュー。同時に周りに帯るオーラの赤みと激しさが増す。
「ヤ、ヤベェ!じっちゃん界王拳だ!!」
力が近しい者2人が、一方は界王拳を使わず、もう一方が界王拳を使って攻撃する。それは、小学生と戦車が正面衝突するようなものだ。

「慌てるでない。同じ倍率の界王拳をぶつけたとて、力関係はそのままじゃ。」
界王拳を使用していない状態でもギニューは悟空を圧倒している。悟空との戦闘で、いくらかの消耗があるとはいえ、それでも亀仙人を上回る力が感じられた。
何も使わずともそれならば、自らの力を比例で上昇させる界王拳では、当然勝ち目は薄い。
「でも、じっちゃん…」
「ふうぅぅー…!お別れの挨拶は済んだか?」
ギニューの、ヤムチャの体に血管が浮き出る。その表情とあいまって、まるで化け物の様な様相を呈している。
ドンッ、という音が鳴り響き、ギニューが消える。別に本当に消えた訳ではない。ただ、速すぎるだけだ。圧倒的に。
「はぁっ!!」
ギニューの、弾丸の様なショルダータックル。しかし、亀仙人はそれが見えているのかいないのか、全く反応しない。
「じっちゃん!!」
刹那にギニューと亀仙人がぶつかった。
「甘いわ!」
様に見えた。ギニューのタックルは外れていた。そのまま、亀仙人に横っ面を殴られる。
「ぐッ!」
バランスが崩れたところを殴られ、少し大袈裟に吹っ飛ぶギニュー。力に差が有っても、どちらの攻撃も尋常じゃないエネルギーを含んでいる。ダメージは与えられなくとも、隙を突けば吹き飛ばす事くらいはできる。
「………!?!?」
ギニューは、吹き飛ばされながらも、何故、自分の攻撃が避けられたのか分からないでいた。
その秘密は、ヤムチャの体に有った…

一方、ヤムチャは。
「狭い、暗い、出番無い…何で、俺以外の戦闘シーンは長いんだ…」
よく分からない空間で、久々にヘタレていた。

亀仙人の戦闘力
220000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能



ギニューの高速の突き、蹴り、エネルギー弾。全てが亀仙人を捉えている、様に見える。
「おお、こりゃ、こりゃ…爽やかな風を有難うさん。ほれ、御返しじゃ。」
しかし、それは一切、それこそ指一本、亀仙人に触れる事はない。ただ、空振りが風を巻き起こすだけである。ギニューのラッシュの合間を縫って、亀仙人の切り落とす様な蹴りがギニューを叩き込む。
「げぎゃん!!」
奇妙な声を発しながら、地面に叩き落とされるギニュー。何とか地面に衝突する前に持ち直し、再び亀仙人に突進した。


第三十話
〜不当〜
いくら亀仙人が攻撃しようとも、戦闘力にはかなりの差がある。はっきり言って、ギニューに肉体的なダメージは無いに等しい。それでも、亀仙人はギニューを精神的に追い詰めていた。
「くそおぉぉぉっ!」
ギニューの拳が、肘が、膝が、脛が。亀仙人の命を奪おうと、次々と飛んでいく。そして、亀仙人に当たる、筈なのに、外れてしまう。
何故か、一切の攻撃が当たらない。しかも、界王拳すら使っていない人間に。それは、焦りという形で、少しずつギニューの精神を削りとっていく。
「ほっほーい、無駄じゃ、無駄!」
三度、ギニューは吹き飛ばされた。

「な、何やってんだ!?ギニューのヤツ…?」
悟空は、岩にもたれかかり、戦いの疲労とダメージの回復に努めながら亀仙人とギニューの戦いを見つめていた。
「何で外すんだ?じっちゃんは動いていねぇってのに。」
戦っているギニューは気が付いていないのだろう。自分の攻撃が、亀仙人に『かわされている』のではく、自ら『外している』事に。
「ギニューは…いや、じっちゃんは一体、何をしてるんだ…!?」


「ハァッ、ハァッ…!」
何度亀仙人の攻撃を喰らったのだろう。もう、両手で数えきれない程になっていた。
「ほう。流石のお前もあれだけハイペースな攻撃を繰り返せば疲れる様じゃな。」
肉体的なダメージが無くとも、疲労は溜る。界王拳を使っているのなら尚更。焦りが生じているのなら、なお、尚更。
「ハァッ、ハァッ…ふぅー…」
疲労の回復の為か。ギニューは一つ、大きく息をする。
「クックック…クハ、ハハハハハ。」
そして、何故か笑いだす。
「ふぅー…。」
消える、笑い。その表情には、笑いと共に消えたものがもう一つ。
『…いささか、焦り過ぎたみたいだな…あくまで、あのジジィを『狙った』攻撃が一切当たらなかっただけだ…俺にはダメージが無い。あのジジィは俺にダメージは与えられない。』
『表情に…焦りが消えおったわい…。どうやら、落ち着くための一呼吸だったようじゃの。…厄介じゃな。なれば…』
ギニューから、焦りの表情が消えていた。
「ジジィ!いくら俺の攻撃をかわそうとも、貴様の攻撃は…」
「お前にダメージを与えられない、そう言いたいんじゃろう?本当にそうかのう。」
ギニューの言葉を遮る亀仙人。その表情は、未だ余裕の表情が消えていない。
「界王拳…!十五倍じゃ…!!」
地鳴りと共に、亀仙人の体から赤いオーラが吹き出し始めた…

一方のヤムチャ。
「いけっ、繰気弾(壱)!そこだ、そこ!!」
男の子がロボットの人形を勝手に戦わせて遊ぶ要領で、両手に繰気弾を出して遊んでいた…

亀仙人の戦闘力
220000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能



変身型、と呼ばれる生物がいる。広大な宇宙には変身する事により、強大な力を発したり、普段には不必要な力の消費を押さえたりする生物がいる。無意味に形だけを変える生物もいるらしい。
本来、この世界の地球人は変身する生物ではない。もっとも、一部の動物型地球人や、怪物型地球人には変身する能力を備えた者もいたりするが。


第三十一話
〜変身〜

亀仙人の全身から溢れだす、赤いオーラ。しかし、やはり戦闘力はギニューには及ばない。
「ふん。ハッタリジジィが…その程度の戦闘力ならばこのギニュー様の驚異にはならん!全く、な!!」
ギニューは、亀仙人との戦闘力の差を感じとり、高らかと言い放つ。
「まあ待て。全く、最近の若いもんはせっかちでいかんわい。」
そう言いながら、上着を脱ぎ捨てる亀仙人。天下一武道会の天津飯との一戦以来のこの行動は、亀仙人が本気になった証とも言える。
「上着を脱ぐのが貴様の本気か!!ぐははははは!!」
「だから、待てと言っておろう。ぬおおお…!!」
唸るような声と共に、力を込める亀仙人。痩せほそった老人の筋肉が、みるみる隆起していく。
ものの数秒。それだけの時間の事だった。
本来、小柄であるはずの亀仙人が、ギニューを見下ろそうかという程、巨大に膨れ上がっていく。亀仙人の腕周りが、胸板が、首周りが、まるで一本の巨木の様に変化していく。先程まで枯れ木の様な体だった老人が、みるみる内に異形の筋肉に身を包まれていった。
「な、何…!こ、これは…変身!?」
フリーザの側近に、ザーボンという男がいる。正確には、いた。どうやら、ベジータに殺されてしまったらしい。彼は、変身型の宇宙人だった。変身後の状態は、ちょうど今の亀仙人のそれに似ていた。もっとも、彼の場合は顔面までその異形に似合う形に変化するが。

ギニューは、彼の変身を知っていた。そして、その戦闘力の変化も。
「く、くそ…!だがしかし!!」
『変身』の恐ろしさを知っているギニューに、再び焦りが攻めよって来る。
『落ち着け…今なら、まだ…!』
ギニューは分かっていた。変身中は隙だらけだという事を。つまり、倒すなら今、という事を。亀仙人を『狙った』攻撃は、決して亀仙人に届く事が無いことを。ならばどうするか。
「ぬあぁぁぁ…!!」
力を込める時の、踏ん張る様なポーズをとり、小刻に震えだすギニュー。恐怖に、ではない。己の体(本当はヤムチャのだが)の力を絞りだすため。また、絞りだした後の攻撃のため、である。
「ハッハァ!コイツは避けられんぞ!!前後上下左右、360°!!全方位のエネルギー波だ!!」
ギニューの体中に、まがまがしいまでの血管が浮き出る。発せられる気も、心なしかさっきより凶悪な印象である。
『狙った』攻撃が届か無い。ならば狙わなければ良いだけの事。
「ハァーッ!!」
瞬間、周囲が閃光に包まる。
『勝った…!』
光が、薄らいでいく。避けられる筈は無い。射程内なら、確実に命中する技だ。しかし、視界がはっきりしたギニューの眼前にあったねは、岩の様な拳。
「限界出力(マックスパワー)…!!やれやれ、危なかったわい。お前が、悟空との戦いで消耗していなければ、ワシを倒せたろうにの。」
メシリ、と嫌な音と共に、亀仙人の拳がギニューの顔面に突き刺さった。

その頃ヤムチャ。
「ぐ、ぐはっ!?な、何なんだ一体…!?」ギニューの爆発波の衝撃で勝手にダメージを受け、死にかけていた…


亀仙人の戦闘力
220000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能



「ほれほれ、どうした?いい若いもんがこれくらいで音をあげてどうする。」
亀仙人に胸ぐらを掴まれ、持ち上げられるギニュー。
「もう…一発、じゃ、っとぉっ!!」
亀仙人の、絞られた雑巾をような十分な腰の捻転。そこから繰り出される、それ自体にも回転が加えられた右拳がギニューの頬を捉える。ギニューは、気味の悪い音と共に、まるで軟体動物の様に奇妙に四肢をくねらせながら、遥か遠くに飛んで行った。
その様を見つめながら、悟空は一人呟いた。
「いいんかなぁ…あれ、ヤムチャのカラダなのに…」

第三十三話
〜決着〜

『まさか、この宇宙にこれ程の力を持っている奴等が居るとは…』ギニューが叩き付けられ、崩れた岩肌。邪魔な岩をどかしながら、ギニューはゆっくりと起き上がった。
「が、は…!」
臓器か何かが損傷したのか、大量に吐血する、ギニュー、というかヤムチャの体。
『ちぃ…ジジィのカラダなど嫌だが、状況が状況だ。仕方あるまい。』
遠くに見える人影。確実にそれは、ギニューに向かい飛んでいる。それを確認し、ギニューは最後の力を振り絞り立ち上がる。ヤムチャの体の力ではない、ギニュー自身の精神の持つ、最後の力で。
「ぐ、ぐははははっ!捉えたぞ!」
亀仙人という点と、ギニューという点との間の直線。ギニューはその直線と垂直になるように体を傾け、大の字の姿勢になる。
「チェーンジッッ!!」
ヤムチャの体から、閃光が放たれた。

「がはっ!?」
…血?青い、血?何故、血が!?
「どうした、何を驚いておる?」
なっ!?ジジィだと!?どういう事だ!?
「声もでないか。仕方あるまい。」
何故だ、何故だ、何故だ、何故だ!?どういう事だ!?
「本来、殺生などしたくないんじゃが…お前の体を取り換える力は放っておけん。」
まさか…!?元の体にー
「さよなら、じゃな。」
亀仙人の掌が、ギニューの首を包みこむ。
「う、うわあぁぁーっ!?」
ギニューの首が、あらぬ方向に捻れ曲がった。

「そうじゃそうじゃ、これは返してもらわんとな。」
亀仙人は、ギニューから腕時計の金属ベルトの様な物を剥ぎ取る。亀仙人が手を離すと、支えを失ったギニューは、ずるり、と地面に倒れこんだ。
「本当はこれ、プリチーなギャルがいる時に使うもんなんじゃがのう…」
亀仙人は、ぼそっと呟きながらギニューから剥ぎ取ったソレ、昔、悟空の2度目のドラゴンボール探しの時に、ブルマから潜水艇と引き換えに貰った『ミクロバンド』をズボンのポケットにしまいこんだ。

「はは、やった…元に戻った…。」
一方、なんとか元の体に戻る事のできたヤムチャ。
「いてて…武天老師様も、随分と俺のカラダを痛めつけたもんだなぁ…」
余程ダメージがあるのか、地面にそのまま倒れこむ。
「はぁ…外の空気がおいしいぜ…ずっと、武天老師様のズボンのポケットに隠れていたからなぁ…」
何故、ヤムチャは元の体に戻れたのか?亀仙人の作戦で、ヤムチャはずっと、体を小さくできるアイテム、ミクロバンドで亀仙人のポケットに隠れていたのである。
ギニューを追い詰めて、怪しい行動をしたら、亀仙人がヤムチャに合図を出す。合図に合わせてヤムチャは亀仙人の前に飛び出す。
後は亀仙人の手前に出現したギニューを、亀仙人の読心術でヤムチャで無い事を確認して倒すだけ。
もしギニューが降参したらしたで、元の体を返させるつもりだったが、不意打ちで亀仙人の体を奪われると厄介なので、戦闘中に元に戻した方が安全だっただろう。
「ふぅ…やれやれだ…」
こうして、ギニューとの戦いは幕を閉じたのだった。

ヤムチャの戦闘力
230000(ただし、現在戦闘不能)
界王拳…現在使用不可
悟空の戦闘力
250000(ただし、現在戦闘不能)
界王拳…現在使用不可
亀仙人の戦闘力
220000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能




「ど、どうなってんだよ、さっきから…」
ナメック星を舞台にした、異常な大きさの気の衝突。クリリン達がフリーザの宇宙船の近くに埋められたドラゴンボールを掘り出した時、唐突にそれは起こった。
「でっかい気がいきなり現れたり、消えたり…」
悟空、亀仙人とヤムチャの体を奪ったギニューとの戦い。それは、気の感知が出来る者にとっては嫌でも感じてしまう程の強大な気のぶつかり合いだった。
「あ、あの感じはお父さんでしたよね…あと二人は分かりませんけど…」
「ひ、一人は武天老師様だ…もう一人はきっと、フリーザの部下だろ…」
「ぶ、部下!?フリーザはあの人より強いんでしょうか?」
「ど、どのみち俺達の出番は無さそうだな…」
クリリン達は、ただ呆然と空を見上げるだけだった。

第三十四話
〜気〜

「はは…派手にやられたもんだな、ヤムチャ…」
ナメック星の空をフリーザの宇宙船に向かい、真っ直ぐ飛んでいく3人。
「はは…悟空、お前の方こそボロボロじゃないか…」
一人で飛べる程の力がもう無いのか、亀仙人を軸として、ヤムチャ、悟空が左右にもたれかかるようにして飛んでいる。
「…2人共、ほぼ、仲間内で傷付けあったようなもんじゃろ。」
「はは、ちげえねえ…」
「そうですね…」
ヘラヘラと笑う、ちょっと頭の回転がよろしくない2人。亀仙人も愛想で笑うが、2人と比べると随分沈んだ表情である。
『この状況は非常にマズいのう。』
亀仙人は、そう感じていた。

『仙豆はもう無い。悟空、ヤムチャは戦えない。気の大きさから考えるに、クリリン達はとてもじゃないが戦力とはいえない。ワシ1人でフリーザとかいうのをなんとかしなければならないか…』
亀仙人は、ふい、とフリーザらしき大きな気を感じる方に、首を傾ける。
『あれが、全力ならいいんじゃが…』
今、感じられるフリーザらしき気はたしかに大きな気ではあるが、界王拳さえ使えばまだまだ余裕がある程度のものだ。今は、だが。
「ん?」
ふ、とあるものに気が付く亀仙人。
「どうしました?武天老師様。」
「いや…フリーザの巨大な気に隠れていて気が付かなかったが…」
「何がだ?じっちゃん。」
「フリーザの居る方からクリリン達に向かって、小さな気が移動しとる。」
あまり大きいとはいえない、申し訳程度の気がクリリン達の方に向かっている。
「あ、確かにそうですね…フリーザの部下でしょうか?まあ、あれならクリリン達でもどうにでもなるでしょう…」
「飛ぶのが遅すぎるぞ…オラ達の方が早く着くから心配いらねえよ…」
口々に、問題無いと結論付けるヤムチャと悟空。実際、敵としてなら全く問題無い程度の気である。敵として、なら。しかし、亀仙人はゆっくりと首を横に振る。
「いや、よく気を探ってみろ。誰かに気の質が似とらんか?」
「ん…?」
言われて、再び気を探る2人。今度は、さっきより慎重に、ゆっくりと。
「こ、この感じは…」
「ピ、ピッコロか…!?」




緑色の肌。ツルっと丸い頭。ぴょこっと突き出た触角。腫れぼったい瞼。さらには全くの無毛。分かりやすくピッコロの顔を説明すると、こんなところである。そして、ヤムチャ達の目の前に居る人間。
「ちっこいピッコロだ。」
「ああ、チビのピッコロだな。」
前述のピッコロを、そのまま縮めたような子供がそこには居た。
「なんでピッコロの奴、こんなにちっこくなっちまったんだ?」
「なんでかな?ねぇ、武天老師様。」
ヤムチャと悟空が、頭にハテナマークを浮かべながら亀仙人の方へ振り向く。
「アホ。ナメック星人の子供に決まっとるじゃろ。」

第三十五話
〜子守〜

フリーザの宇宙船。その横に並ぶ、7つのオレンジ色の玉。
「俺を不老不死にしろーっ!!」
その玉に向かって、力の限り叫ぶベジータ。クリリン達は岩に腰掛け、背後から、やれやれ、といった表情でそれを見つめている。
「いいんですか?クリリンさん。」
「ほっとけよ、悟飯。」
クリリン達は、さっきからナメック星のドラゴンボールをベジータの好きなようにさせていた。
「どうせベジータは神龍の事を知らないんだし、なにより、ドラゴンボールを好きにさせとけば安全だろうし。ゆっくり悟空達が来るのを待つさ。」
「それはそうですけど…もし、願いが叶わないーっ!て暴れだしたら…」
心配そうな表情で、交互にクリリンとベジータに視線を移動させる悟飯。
「そんときはシラをきるだけさ。元々、あのドラゴンボールは地球の物じゃないんだから、誤魔化すくらい簡単さ。」
「はあ…」
「まあ、誤魔化す必要も無さそうだけどな。」
クリリン達の視線の先。そこには、高笑いするベジータの姿があった。

「えーと…」
ヤムチャ達を見るなり逃げ出そうとしたナメック星人の子供の首根っ子を、むんずと捕まえる、亀仙人。ナメック星人の子供は、見知らぬ人に捕まえられた事からくる不安からかジタバタと抵抗するが、当然、亀仙人には何の意味も無い。
「ほらほら、止めろ。俺達はお前に危害を加えたりするつもりは無いから、な?」
ヤムチャが、自慢のスマイルを浮かべながら優しくあやす。しかし。
「う、うわあぁーん!!」
泣き出してしまう、ナメック星人の子供。先程の戦闘で、すっかり顔面はボロボロ。その顔では笑顔の意味などまるで無い。むしろ、ただ単に恐怖感を増長させただけのようだ。
「ひ、ひどい…」
一人、落ち込むヤムチャ。
「気にすんなよ、ヤムチャ。確かに今の顔はヒデェけど、帰って仙豆食えば元に戻るって。」
ポンポン、とヤムチャの肩を叩きながら慰める悟空。
「悟空…」
また少し、ヤムチャの悟空に対する好感度が上がったのだった。
「よし、もう一度俺、頑張ってみるよ!」
ヤムチャは、気分も新たにナメック星人の子供とコミュニケーションを取ろうと振り向いた。しかし。
「ふむふむ、君はデンデ君というのじゃな?」
「は、はい…最長老様がクリリンさん達の所へ行って、願いを叶えてあげなさい、って…」
既に和解している亀仙人とナメック星人の子供。
「亀の甲より年の功、か…あれ?武天老師様の場合はどっちなんだろ…フ、フフ…」
一人、自嘲気味に笑うヤムチャであった。