YAMUTYA〜二つの頬の傷〜
〜プロローグ〜
ピッコロ大魔王の恐怖支配から、1年が経った。
ある、一人の少年の手によりピッコロ大魔王が倒され、ピッコロ大魔王の手に
かけられ、死んでしまった、人々も、ドラゴンボールという不思議な石により
生き返りまた、いつも通りの生活を送っていた…。
ピッコロ大魔王の悪夢が、人々の頭から忘れ去られようとしていた…。
少年には、仲間がいた。
幼い頃からの親友で、天下無敵といわれる無天老師の2番弟子のクリリン。
4年に一度、開かれる天下一武道会の前大会の優勝者の天津飯。
超能力と舞空術の使い手で、天津飯の最高の友のチャオズ。
そして、少年と最も付き合いが長く、武道の達人でナイスガイのヤムチャ。
彼らは、ピッコロ大魔王の死後、次の天下一武道会に備え、それぞれの思いを
胸に秘め、武者修行の旅に出たのであった。
そして、次の天下一武道会に現れた彼らはさらなる飛躍を遂げ
大きく成長していた。しかし、会場に現れた男の内の一人、ヤムチャは
顔に二つ、大きな傷跡を付けてやって来たのだった。
ここでは、天下一武道会が開かれるまでの、ヤムチャの修行風景と
顔に付いた、一生消える事の無い、二つの顔の傷の事について語ろうと思う。
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 其の2
ヤムチャは死にそうだった。もう、一週間は物を口にしていない。
歩いても歩いても、見えてくるのは不気味においしげる木ばかりだ。
「どうしてこんな事になってしまったんだろう…?」
ヤムチャは同じ事を何度も何度も考えた。
今からちょうど一年ほど前、悟空が天界で神様に修行をつけてもらっている事を知り
いてもたってもいられなくなったヤムチャは、西の都に帰るとリュックに
食料と地図をだけを詰め込み、ブルマやプーアルをおいて家を飛び出してしまったのだ。
修行を続けながら各地を渡り歩き、適当な山にこもり修行をしていたヤムチャだったが
半年ほどたッた頃、ついに食料が底をついた。
けものは獲りつくしてしまい、イノシシはおろか野ウサギ一匹見当たらない。
さんざん歩いたが出口は見えてこず、ついに力尽きその場に倒れこむヤムチャ。
「空腹で死んでもシェンロンなら、生き返らしてくれるかなあ…。」
そんな事を思いながら静かに眼を閉じる。木々のざわめきや虫の鳴き声を聴きながら、意識は次第に薄れていく。
しかし、そんな中、いくつかの足音がヤムチャに近づいてきている事など
ヤムチャには知るよしも無かった…。
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 其の3
気がつくとヤムチャは、ベッドの上によこたわっていた。
辺りを見回すと、小さなテーブル、数々の木彫り細工、パチパチと燃える
暖かそうな暖炉があった。誰かがここまで運んできてくれたようだ。
「おお、気がつきましたか!」
声の方を振り返ると、人のよさそうな老人が食事を持って立っていた。
おそらく、この老人が助けてくれたのだろう。
「いや〜、朝の山菜採りに出かけたら、森の中で倒れているんでびっくりしましたよ。」
そういうと、老人は持っていたトレイをベッドの近くのテーブルに置いた。
焼きたてのパンとおいしそうなスープのにおいで、今にもよだれがたれそうだ。
「さ、暖かいうちにお召し上がりください。」
その言葉を聞いたヤムチャは眼を輝かせ、礼も言わずパンに手をのばした。
まともな食事にありつけたのは何日ぶりだろう。そんな事を思いながら
ヤムチャはひたすらパンをむさぼるようにして食べた。
あっという間に食事をたいらげたヤムチャに老人は、少し驚いたようだ。
お茶をすすり、一服したヤムチャはやっと礼を言ってないのに気がついた。
「助かりました。食事までごちそうになってしまって…。」
老人は、にっこり笑ってこう言った。
「いいんですよ、困った人を助けるのは当たり前の事ですから。それに
うちには、若い者がいないのでうれしいくらいです。」
そんな会話が続いた後、ヤムチャはテーブルの上に写真立てが飾ってあるのに気がついた。
少し若い老人と女の子が二人で笑いながらこちらを見ている。
「あの写真の娘は誰なんですか?」
その言葉を聞いた老人は、今までの陽気な雰囲気とは一転してひどく悲しそうな顔をした。
しばらく重苦しい空気が続いた後、老人は口を開いた。
〜続く〜
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 其の4 前編
ヤムチャは今、先ほどの山を登っている。また、たいした
準備も無く飛び出してきてしまった自分に嫌気がさしながらなおも
険しい山道をひたすら歩き続けた。ヤムチャは今までの経緯を
整理する事にした。
「その娘は私の孫娘です。私の娘の子でしてね、とってもいい子なんですよ…。」
そういうと、老人は置いてある写真立てに手を伸ばした。
「昔っから、元気で愛想のあるかわいい子でして、言いつけもよく守る
本当にいい子でしたよ。」
ヤムチャは、老人の話を聞きながら部屋をくるりと見回した。
「あの、その子のご両親は…?買い物にでも出られているんですか?」
その言葉を聞くと老人はまた、ひどく悲しい顔をした。
「二人は、3年前に殺されたんです…。」
「殺された…!?」
その言葉に驚きを隠せないヤムチャ。老人は湯気の上がるコーヒーを
すすりながら、話を続けた。
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 其の4 中編
「この山の近くにですね、山賊の集落があるんです。一ヶ月ほど前、
私が朝の山菜取りから帰ると、思いもよらない出来事が起こったんです。
テーブルは倒れ、家具は割れ、家の壁は血で真っ赤に染まっていました。
奥の部屋に進むと信じられないものが飛び込んできました。
そこには、私の娘とその夫が血を流して倒れていたんです。
私が急いで手当てをしようとしましたが、すでに手遅れでした。
壁には、血で書いた文字でこう書かれていました。
「親が死んでしまっては誰も育てる者がいなくなる。
かわいそうな孫娘は私たちが代わりに育てる事にしよう。
私たちの親切が気にくわなかったらいつでも、山頂の集落に来てくれ」…と
血にまみれた娘を抱きかかえながら私は大声を上げ泣いた。
一体、私たちが何をしたと言うのだ!けものも必要な分しか
獲らなかった!自然を汚すようなことはしていない!それなのに
こんな仕打ちとは、神様は一体何を考えてらっしゃるのだ!」
老人はテーブルを両手で強くたたいた。その眼から大粒の涙が
ぽろぽろこぼれ落ちているのにヤムチャは気がついた。
「山賊はさらってきた娘を奴隷として、競売にかけるといいます。
毎月の13日、つまり明日なんです。私の力じゃ娘を山賊から
助ける事はおろか、買い取ることもできないのです!
もう終わりです!私はもう孫娘に会うことはできないのか!
神様はなんて、はくじょう者なんだ!」
老人は、声を上げて泣いた。ヤムチャはただ、老人を見守ることしか
出来なかった。
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 其の4 後編
その日は、老人の厚意で泊まらせていただくことになり
ヤムチャは部屋の中のベッドで眠りについた…。
草木も眠る丑三つ時。老人が眠った事を確認し、ヤムチャは
小屋を出た。老人に何か、恩返しをしたい。
そして、老人の困った顔をもう、二度と見たくない、そんな気持ちにかられた
ヤムチャは山賊の集落の方に全速力で走って行った…。
「見つけた…!」
散々走った後、ヤムチャは山賊のアジトらしき洞窟を発見した。
洞窟はぽっかりと口を空け、ヤムチャを待っているようだった。
門番らしき、屈強そうな男が二人立っている…。
ここ以外に、入り口は無さそうだ。
ヤムチャのたった一人の救出劇が今、始まろうとしていた…。
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 其の5
ヤムチャには自信があった。
最近は三つ目でハゲの怪人や、悟空をも倒した謎のじいさんと戦い
無様な負け方をしてはいるものの、仮にもあの天下無敵の武天老師に修行を
つけてもらい、その奥義も会得したこのヤムチャ様が山賊ふぜいに
負けるわけはないと、踏んでの事だった。
何度も痛い思いをしてきたヤムチャは負ける事を恐れ、いつのまにかヤムチャは
自分が必ず勝てる相手としか闘わなくなっていたのだ。
門番の山賊もやはり勝てるわけもなく、ヤムチャの手刀一撃で簡単に
オネンネしてしまった。一度つけた自信は簡単には取れず、調子に乗った
ヤムチャはアジトの洞窟に果敢にも一人で突っ込んで行った。
こうなれば、こわいもの知らずである。
襲いかかる山賊の斧をひらりとかわし、体勢の崩れた腹にひざ蹴りを叩きこむ。
複数の山賊に囲まれても、必死に特訓したエネルギー波で軽く蹴散らす。
そんな吹っ飛ぶ山賊を見てヤムチャはまさに有頂天になっていた。
世界で一番強くなった気がした、気分はまさにスーパーマンだ、
今ならどんなヤツにも負けないだろう。そう錯覚した。
一人の山賊のむなぐらをつかみ、さらってきた娘の居場所を吐かせると
ヤムチャは真っ暗な階段をゆっくりと降りていった…。
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜其の6 前編
>>501の続き
暗闇の中の階段をヤムチャはゆっくりと下りてゆく。
周りの壁には、電灯はおろかロウソクも付いておらず、明かりは手に持った
たいまつだけ。階段を下りるごとに自分の足音にビビるヤムチャだったが
最後の階段を下りきると、目の前には小さな扉があった。
その扉を開けると、そこには多くの少女たちが鈍い光を放つ鉄格子の中で
すすり泣いていたのだった。
黒色の瞳の子や青色の瞳をした子。黒髪の子や金髪の子。
犬や猫など、けもののような姿をした子もいた。
少女たちの年齢もまちまちで、14から20歳くらいの子が多く
中には10歳前後の子もいるようだった。
おそらく、山賊たちにさらわれてきた子たちだろう。
老人の言っていた通り、どうやら、競売にかけられるのは本当のようで
全ての少女たちの首には番号と名前が書かれたネームプレートがつけてあった。
すぐに鉄格子の鍵を探しだし、扉を開けて回るヤムチャ。
「一人くらいもらってってもいいかなあ…?」
なんて、思うヤムチャだったがさすがに武道家の一歩手前やめておいた。
全ての鍵を開け、少女たちが出口の扉に一斉に駆け込む。
其の6 後編
いい事をした後は気持ちがいい。ヤムチャは近くにあったイスにこしかけた。
「あの…」
小さくてよく、澄んだ声。ヤムチャが顔を上げるとそこには、小さな少女が
立っていた。顔はよく、ヤムチャで無くても惚れるのは簡単だったであろう。
「助けてくれてありがとう…。お礼がしたいので少し眼をつむってくれませんか?」
ヤムチャは今までの苦労が報われた瞬間を感じ眼をつむった。
胸の鼓動はどんどん速くなり、唇をツンととがらせた。
少女がヤムチャに近づいてゆく…。
しかし、次の瞬間待っていたのは甘いくちづけなどでは無かった。
「シュッ!」
眼の上を冷たい金属のような物が通り過ぎたかと思うと
ヤムチャのまぶたから、血がふき出し同時に耐え難い激痛が襲った…!
〜続く〜
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 其の7 前編
>>630-631の続き
「グアァッ!キ…キミ…な…何をするんだ!?」
眼をやられ、もがき苦しむヤムチャをよそに、血で染まったナイフを持った少女は
薄気味悪くニタリと笑った。
「アハハハハハハハハハハッ!!」
大きな笑い声が洞窟内にこだまする。少女は持っていたナイフを投げ捨て
近くにあった真っ黒なマントをはおり、くるりと一回転すると次の瞬間そこに現れたのは
かわいい少女では無く、黒いローブに身を包み、ギョロギョロとした眼をぎらつかせ
まがまがしく曲がりくねった杖を持った典型的な魔法使いの山賊であった。
「ひっひっひ…。わしはこの山賊団のかしらをやってる者だ。
よくも、大事な娘たちを逃がしてくれたな…。明日はせっかくの競売日だったのに
余計な事をしてくれたものだ。」
ヤムチャは胴着の一部を裂き、出血しているまぶたに押し当てた。致命傷までには至って
いないが、眼に血が入ってしまったようでしばらく、眼が開きそうにない。
「わしは、妖術や魔術の研究をしていてな。ちょうど、武道の達人だけが使えるという
「気」という物に興味があったんじゃ。悪いがその研究の実験台になってはくれまいか?」
ヤムチャは背筋が凍りつくような感覚に襲われた。ここで
「わかりました、はいどうぞ。」
なんて、言ってしまったら、二度と日の目を見る事ができない気がした。
ヤムチャは有無を言わさず、山賊に、向かってエネルギー波を放った。
激しい爆発とともに砂ぼこりが巻き上がる。
「は…ははッ、ざまあみろ…!!」
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 其の7 後編
おもわず、笑みがこぼれるヤムチャ。
しかし、なんとそこには何事も無かったかのように山賊が立っていたのだった。
「なかなかの腕前のようだが所詮こんなものか。」
山賊の前には電気の壁のようなもの、いわゆるバリアーが張られていた。
「見せてやろうか。妖術の力を応用すればこんな事もできるのだよ」
そう言うと、山賊の指に手の平大の炎の球が現れ、ごうごうと燃え盛りだした。
山賊がさらに念じると、炎の球がヤムチャめがけて飛んでゆき
ヤムチャの髪をかすめ、壁に激突し轟音とともに弾けとんだ。
その衝撃で洞窟全体が大きな音をたて始めパラパラと天井が崩れだした。
「おっと、いかん。少しやりすぎたようだ。ヤムチャといったか?
一旦、外に出てから決着をつけようでは無いか。逃げられると思わないほうがいいぞ。」
ヤムチャは土下座をしようとしたが、その言葉を聞いてしゃがむのをやめた。
そういってる間にも洞窟はどんどん崩れてゆく。ヤムチャは泣きながら
降りてきた階段を大急ぎで駆け上がった…。
「ふはははは!せいぜい生き埋めにならないよう頑張って走るのじゃな!」
そういうと、山賊は聞いた事も無い呪文を唱えると、まばゆい光が
山賊を包み山賊は音も無く一瞬で消え去ってしまった。
〜続く〜
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 其の8 前編
>>743の続き
洞窟は大きな悲鳴を上げ、今にも崩れだしそうだ。
ヤムチャはなんとか階段を駆け上がり一階に出た。
山賊たちは、もう逃げ出したのか一人として見当たらない。
ヤムチャも急いで脱出しないと、落盤に巻き込まれてしまう。
ところが、ヤムチャの目の前に飛び込んできたのは山賊が奪ってきたと思われる
金銀財宝、宝の数々だった。もともと砂漠の盗賊だったヤムチャは宝に目がない。
しかし、宝を持ち出そうとしている間に洞窟が崩れてしまうかもしれない。
かと、いってこのまま宝をみすみすあきらめるわけにもいかない。
ヤムチャは人生の岐路というものに立たされていた。
安全をとって貧しい生活を送るか、危険な道を行き一生遊んで暮らすか…。
ヤムチャの頭脳はものすごい速さで回転を始めた。この力をうまく引き出せれば
ブルマはおろかブリーフ博士にも匹敵したかも知れない。
天井から崩れた一つの小石が地面にぶつかるまでにヤムチャは数百の案を
考え出しては消してを繰り返していた。洞窟の崩れる音が大きくなってきた。
其の8 後編
いよいよ本格的な落盤が起こる。はっと、われに返るヤムチャは
こうなったら一世一代の大勝負、ヤムチャは宝の方へ思いっきり飛び込んだ。
ヤムチャは財宝の詰まった宝箱を持ち上げようとしたが片手ではとても持ち上げられない。
しょうがなく、近くに置いてあった一つの大きなダイヤモンドをふところにしまい
大急ぎで出口へ向かった。光が見えてきた、出口だ!ヤムチャは安堵の表情を浮かべ
洞窟の出口に滑り込んだ。大きく息を吐く。呼吸が荒い。疲れてその場に
ねっころがるヤムチャ。周りには先ほど助けた少女たちがこちらを見ている。
起き上がり少女の方に向かい歩き出すヤムチャ。
「ほう、どうやら生きていたようじゃな。」
声を聞くなりその方向に大きく振り向く。なんとそこには先ほどの山賊が立っていたのだ。
「さっきの質問の答え…考え直してくれたかね…?」
もちろんそんなの答えはNOだ。山賊に向かって大きく跳び蹴りを放つ。
それを山賊はひらりとかわす。受身を取り損ねたヤムチャは地面に叩きつけられた。
「それが答えか。それなら、力ずくで実験に参加してもらおうか…!」
山賊はギラリと目を光らせ、ヤムチャをにらみつけた…!
〜続く〜
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 其の9 前編
ヤムチャと山賊のにらみ合いが始まった。場に緊張した空気が流れる。
お互いの闘気が肌にピリピリとぶつかる。
先に動けばやられる…まさに一触即発の状態だ。
二人が恐れているのは攻撃に移る際、一瞬だがわずかに隙が生まれる事だ。
並みの相手なら問題ないがこれが、相手が達人だとそうはいかない。
その一瞬の隙を狙い、的確に致命傷を与えてくるのだ。
二人がにらみ合ってる間にも時間は過ぎてゆく…。
10分、20分、30分…。
先に攻撃に出たのは意外にも山賊のほうだった。
シビレを切らした山賊はヤムチャに向かって猛スピードで突進してくる。
絶好のチャンスだったが、ヤムチャはずっと立っていたせいか
気を抜いてしまっていた。ハッとなり構えを取り直したが
山賊の放った攻撃が届くのには十分な時間だった。
「グぁッ…!!」
山賊の杖が、腹にめり込む。激痛がヤムチャの身体を支配する。
致命傷にまでは至らなかったが、十分痛い。
反射的に後ろに飛んでいなければ腹を貫かれていたかもしれない。
其の9 後編
必死に間合いを離そうとして後ろに大きく跳ぶ。
山賊はにやりと笑うと、手に溜めていた気弾をヤムチャに向かって勢いよく放つ。
気弾はヤムチャの足に命中し、大きな爆発を起こした。爆発音が辺りに響く。
背中から地面に叩きつけられるヤムチャ。
なんとか気弾が身体に当たる事は避けたが、足をやられては素早い動きはできない。
頼みの綱の狼牙風風拳が使えないのは痛い。
しかも眼をやられているので直線的に飛ぶ、かめはめ波などの
光線技は当てにくいし、なによりあのバリアーで弾かれてしまうだろう。
バリヤーは前にしか張れないようだが、この足では後ろに回りこめない。
接近戦なんて問題外だ。
ベストは片目でもできて、相手の油断を突く事ができ、しかも必ず命中し
相手に致命傷を負わせることが出来るという夢のような技。
ヤムチャは、必死で考え、ある一つの技を思いついた。
この技は操作を誤るとかなり危険な上、少しの間気を練らなければいけない。
まだ練習中なので成功率は五分五分。しかし、ヤツに勝つにはコレしかない!
ヤムチャは片手に全身の全ての気を溜め始めた。
ヤムチャの命がけの賭けが今、始まる…!
〜最終回に続く〜
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 最終話 前編
>>115の続き
ヤムチャは満身の気を腕に溜めはじめた。
身体から放たれる気で周りの木がざわめく。
それは気の達人から見なくとも、すさまじいと分かるほどだった。
山賊はヤムチャの気迫に押されて動く事ができない。
全身の気が腕に集結していく…。
そして、ヤムチャは全身の気を圧縮した手のひら大の大きさの
エネルギー弾を、一つだけ作り上げた。全ての気を詰め込んだエネルギー弾からは
まさに太陽のように熱い気が、ほとばしっている。
「どんな物を作るかと思えば、そんなものがキサマの最終奥義か…。くだらんな…。」
山賊は、冷や汗をぬぐいながら言った。所詮はただの強化エネルギー弾。
どんなに強力な技でも、当たらなければ意味が無い。眼を凝らせば難なくかわせる。
ヤムチャは必死だった。まさに一か八かだ。まだ数回しかやった事の無い未完成の技。
しかもこれをはずすと、もう闘うだけの体力が残ってない。
当てなければ、待っているのは死…。そう考えると、ヤムチャの額から汗が
しずくとなって地面に落ちる。眼をつぶり一度、大きな深呼吸をする。
最終話 中編
突然、ヤムチャはカッと眼を見開き、エネルギー弾を飛ばす構えを取った。
「見せてやる!これがおれの最終兵器、操気弾だッ!」
ヤムチャは勢い良く、操気弾というエネルギー弾を山賊に放った。
かなりのスピードだ。山賊がバリヤーを張るヒマも無いほどで
山賊は、身動き一つせず、操気弾を見ていた。恐怖で動けないんだと、ヤムチャは思った。
操気弾が山賊に命中する…。ヤムチャは勝利を確信した。
ところがだ。
山賊の顔の横を、猛スピードで風が突き抜けた。爆発音は聞こえない。風を切る音だけが
周りに響いた。一瞬、何が起こったか分からなくただ呆然とするヤムチャ。
なんと、山賊めがけて飛んでいった操気弾は山賊に当たらず、山賊の髪をわずかにかすめ
はるか彼方上空に飛んで行ってしまった。はずしたのではない。かわされたのだ。
「そんな、あの至近距離から…。」
思わず、そんな言葉がこぼれるヤムチャ。山賊は小さな笑みを浮かべて言った。
「無理も無い。最終奥義がかわされたのだ。もしも当たっていれば、このわしも無事では
済まなかっただろうな…。」
山賊の頬から汗がひとすじ流れる。愕然と、その場にへたりこむヤムチャ。
山賊は、ゆっくりと近づいてくるが、ヤムチャはうつむき、逃げようとしない。
山賊が、ヤムチャの目の前に立った。やはり、ヤムチャは動こうとしない。
最終話 後編
「誇りに思うがいい。おまえが死んだ後、おまえは私の優秀な実験材料になり
永遠に私の研究の中で生き続けるのだ…。」
山賊が大きく杖を振りかぶる。全てが終わる…。
そんな時だった。
「ぐあぁ!?」
山賊の叫び声と鈍い音が辺りに響く。山賊の背中に何かがめり込む。
一体何が起こったんだ…。状況がつかみきれない。山賊は激痛が走る背中を
おそるおそる見てみる。
なんと、そこには空高く消えて行ったはずの、あの操気弾が山賊の背中に
深くめり込んでいたのだ。
ヤムチャは、顔を上げにっかりと子供のような笑顔を見せる。
「甘かったな、「操気弾」はその名の通り、自由にエネルギー弾を操る事ができる
俺の新・必殺技だ。まったく、操気弾が戻ってくるのが遅くてヒヤヒヤしたぜ。」
そう、先ほど操気弾を空高く飛ばしたのは、山賊にヤムチャにもう勝ち目はないと
思いこませ油断を引き、必ず操気弾を命中させるための罠だったのだ。
「ククク…この私が心理戦で負けるとはな…。その「気」の力…。
私の手で解明して見たかったぞ…。」
ヤムチャは起きあがり、大きく手を開く。
「どうぞ、御勝手に研究してくれよ。……あの世でな。」
ヤムチャが開いていた手をぎゅっと握りしめると、操気弾は
一筋の光を放ちその後、大きな爆発をあげた……。
エピローグ
「本当に行ってしまうのかね?ぜひ、ここに残って私達と一緒に暮らさないか?」
「そうですよ。お願いです。ここに残って下さい。」
老人と孫娘は弱々しく聞いたが、ヤムチャから返事は返ってこなかった。
孫娘は、山賊のアジトを破壊した時に他の娘と一緒に逃げてきたらしい。
身支度を済ませ、食料といくつかのホイポイカプセルをリュックに詰める。
「俺は、一匹オオカミだ。群れるのはあまり好きじゃないんでね。それに…」
「それに?」
老人がヤムチャに聞き返す。
「俺は、前に負けた奴に勝たなければならない。今度の天下一武道会に
出る、ピッコロ大魔王を倒した少年…。今度こそ俺は負けるわけにはいかないんだ…!」
拳を握り締めるヤムチャ。外に出て、大きく深呼吸をする。
朝の日差しがまぶしい。小鳥のさえずりも聞こえてくる。
老人と孫娘も後から外に出てヤムチャを残念そうに見ている。
ヤムチャは一歩、足を踏み出した。前へ、前へ歩き出す。
後ろを振り返らずにどんどん前へ進む。
振りかえると、未練が残ってしまう。それをヤムチャはよく分かっていたのだ。
老人の笑顔を思い出すたび、眼からこぼれ落ちそうになる涙を必死で押さえながら
ヤムチャは森の中に消えていったのだった…。
YAMUTYA〜二つの頬の傷〜 完